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博 士 ( 文 学 ) 槙 洋 一

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Academic year: 2021

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博 士 ( 文 学 ) 槙    洋 一

学 位 論 文 題 名

自 伝 的 記 憶 の 分 布 , 想 起 内 容 と そ の 特 徴 学 位 論 文 内 容 の 要 旨

  自 己に 関わ る思 い出,人生の記憶を自伝的記憶と いう。本研究は,自伝的記憶の内容と量 を手 がか り語 法, 分類課題により検討したものであ る。手がかり語法とは,単語を提示し,

その 単語 から 連想 される自伝的記憶を想起させ,そ れが起きた時期やその記憶の特徴を尋ね ると いう 方法 であ る。また,ここでの分類課題とは ,想起された記憶を内容によって分類す る/ させ る方 法で ある 。研 究1,2では ,こ れら の方 法を 個別 の参 加者 に対して用い,日本 人高 齢者 にお いて レミ ニセ ン ス・ バン プ( 高齢 者が 自伝 的記 憶を 想起 した場合,10ー20代 の記 憶が より 多く 想起されるという現象)が生じる ことを確認し,その内容を,実験者が分 類す るこ とに より 分析 した 。 また 研究3で は,結果 の一般化をはかるため,大学生を対象に 実験 を行 った 。こ こでは手がかり語法により想起さ れた自伝的記憶を,参加者自身に様々な 次元 で分 類さ せた 。これらの結果から,レミニセン スを含む,人生を通じて想起される自伝 的記 憶の およ そ5割 は自 己を 中心 とす るも ので ある こと ,3割 が自 己と 他者を中心とするも ので ある こと ,手 がかり語によって想起される自伝 的記憶は個人的で感情価をおびたもので ある こと など を明 らか にし た 。

  本 論文 は5章 から 成る 。以 下, 各章 の概 要を 述べ る。

  第1章 では ,先 行研 究を 概観 し ,レ ミニ セン ス・パンプの特徴や,その生起に関わる要因

( 参加者の年齢,手がかりの違い,参加者の性別,文化) ,およびレミニセンス・バンプの原 因 に関する諸説を整理した。レミニセンス・パンプの原因 については(1)新奇説・示差 性によ る 説明,(2)生物学的説明,(3)ライフ・スクリプトによる説明,(4)アイデンテイテイの確立に よ る 説明 など があ るが,これらは概念的 に分離しにくい。これらを切り離して検討する必要 性 を指摘した。

  第2章 (研 究1) では ,レ ミニ セン ス・ バン プの 生起 に関 わ る要 因の うち,参加者の年齢 の 要 因を 取り 上げ ,各年齢群を比較し, レミニセンス・パンプが時間軸上のどこで生じるか を 検 討し た。 また ,想起される出来事の 心理的特徴についても検討した。すなわち,20代か ら60代の 参加 者を 対象とし,手がかり語 に関連する出来事を想起してもらい,出来事を経験 し た 年齢 また は日 付の回答を求めた。ま た,想起された出来事の心理的特徴(鮮明度,重要 性 等 )に つい ても 回答を求めた。その結 果,有意には至らなかったものの,60歳群において パ ン プの 兆候 がみ られた。20,30,40歳 群ではレミニセンス・パンプの兆候はみられなかっ た 。 また ,レ ミニ センス・パンプが生じ るとされる記憶(10代,20代の記憶)とその他の時     ー105―

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期の 記憶 に おい て,心理的特徴が異なるという結果は見られなかった 。高齢者においてパン プが 有意 に 至ら なか った 原因 とし ては ,参 加者数の不足や,1人あた りの想起個数が少なか った こと が 可能 性と して 挙げ られ る。 そこ で第3章( 研究2) では 高 齢者に対象をしぼり,

手 が か り 語 の 数 を 増 や す こ と で ,1人 あ た り か ら 得 る 想 起 数 の 増 加 を 図 っ た 。   第3章( 研究2)で は,60歳 以上 の高 齢者 を対 象に ,ラ イフ スパ ン における自伝的記憶の 分布 と想 起 内容 を検 討し た。 各対 象者 から 最高100個の記憶を取得す ることを目的とし,手 がかり語法による想起を求めたと ころ,得られた記憶に,10代をピークとするレミニセンス・

バンプが確認された。加えて,想 起内容を尋ね,行為の主体という観点から分類したところ,

自己を中心とする「自己主体」,自己と他者が登場する「自己他者」,他者の活動に関する「他 者主体」,自己や他者が明示的に は含まれない「シーン」の4種類に分類することができた。

各種類の記憶の割合は,バンプを 含むどの時期においても,「自己主体」約5割「自己他者」

約3割 であ り, これ らが 想起 され た記 憶 の大半を占めていた。っまり ,10代の記憶は想起量 は多いが(レミニセンス・パンプ ),質的には異なるものではないことが示された。レミニセ ンス ・バ ン プは ,自己のアイデンティティの確立による(アイデンテ ィティ確立説)という よりも,10‑20代は生物学的に認知的バフオーマンスが高まる ために生じる(生物学的説明)

と考える方が妥当であると考察し た。

  し かし , この ような想起の特徴は,高齢者のみに見られることかも しれない。また,新奇 性や ライ フ ・ス クリプトの影響に関する検討も必要である。さらに, 上記の分類は実験者の 視点 によ る もの であり,参加者自身にしか分からない背景やそのとき の心理状態を捉えるも の で は な い 。 そ こ で , 第4章 ( 研 究3) で は , 参 加 者 自 身 に 想 起 内 容 の 分 類 を 求 め る 。   第4章( 研究3)で は, 研究2の結 果を 拡張 し, 自伝 的記 憶の 内容 につ い てさ らな る検 討 を行った。ここでの実験は二段階 からなる。まず研究2と同様 に,手がかり語法を使用して,

参加 者に 出 来事 と日 付を 想起 させ ,内 容の 想起を求めた。次に,およそ1週間後,参加者自 身による分類課題を行った。分類枠組みは,(1)発達段階(小学生,中学生等),(2)公的イベ ント(卒業,入学等),(3)私的イベント(成功,失敗等),(4)参加者自身が作成した分類枠組 みであった。また,研究2と同様,実験者による分類も行った 。

  そ の結 果 ,量 につ いて は研 究1と同 様 バンプはみられず,バンプは 高齢者においてのみ見 られることが確認された。想起内 容については,(1)発達段階 による分類は的確に行われるこ と,(2)公 的イ ベントとして分類される記 憶は全体の約2.5割であるこ と(っまり大半は私的 イベン卜であること),(3)私的イベントや(4)参加者自身による分類結果からは,感情(楽し い, 悲し い 等) が出来事を分類する上での大きな手がかりとなってい ることが示された。実 験者 によ る 分類 結果(自己主体,自己他者,他者主体,シーン)は, 高齢者の想起内容と同 様の傾向であった。

  以 上よ り ,青 年においても自己主体,自己他者,他者主体,シーン の割合は同様であるも のの ,主 観 的に は,感情が想起された記憶の分類の大きな手がかりと なっていることが明ら かに なっ た 。ま た,実験者による分類と参加者による分類との対応は 必ずしも一致せず,感 情 を 伴 う 出 来 事 は 「 自 己 主 体 」 「 自己 他者 」等 によ らず 分布 して いる こ とが 示さ れた 。   第5章で は, 一連 の実 験か ら得 られ た 知見に基づき,ライフスバン における自伝的記憶の

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分布と想起内容について,総括的な議論を行った。

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学位論文審査の要旨 主査   教授   伸   真紀子 副査    教授    和田博美 副査    教授    亀田達也

学 位 論 文 題 名

自伝的記憶の分布,想起内容とその特徴

  まず, 当該研究 領域にお ける本 論文の研 究成果 について ,本審 査委員会 の評価を述べ,

その上で 審査結 果を述べ る。

1.本 論文の 研究成果

  本研究 の成果と して,以 下の三 点を挙げ ること ができる 。

  第一に ,本研究は,レミニセンス・バンプが日本の高齢者の記憶においても見られることを 明らかに した。 バンプは 欧米で は広く検 討され ているが ,日本で は高齢者を対象とした研究 が困難で あるこ ともあり ,これ まで検討 が行わ れてこな かった。

  第二に ,バンプ という自 伝的記 憶の量的 側面の みならず ,内容についても検討し,パンプ の記憶が 他の記 憶と質的 に異な るもので はない ことを示 した。

  第三に ,参加者 自身によ る分類 課題によ り,想 起された 自伝的記憶には感情が大きく関わ っている ことを 明らかに した。

  第四に ,方法論 上の工夫 がある 。本研究 では, 手がかり 語法を発展させて記憶の内容を調 べ,さら に実験 者による 分類と 参加者自 身によ る分類を 併用する ことで,自伝的記憶の内容 に 関 す る よ り 詳 細 な 情 報 を 得 た 。 こ の 方 法 は 今 後 の 研 究 に も 寄 与 す る も の で あ る 。

2.審査の 要旨

  自伝的 記憶は, 自己意識 や自尊 感情など とも関 わる,記 憶の重要な構成要素である。本研 究は,手 がかり語法と分類課題を用いて,自伝的記憶のレミニセンス・バンプおよび内容の検 討を行っ た。日本人高齢者におけるレミニセンス・パンプの存在を示し,その内容に迫ったこ と,そし て青年 が想起す る自伝 的記憶と の共通 性,異質 性を検討 し,結果の拡張を行ったこ とは,新 しく, 記憶の研 究とし ても,ま た自己 の研究と しても意 義深い。参加者自身による 自己の記 憶の分 類課題も ,方法 論上の新 しい展 開をもた らした。 ただし,不十分な点がない わけ で は ない 。 例 えば , 主 に高齢者 を対象と した研 究1,2の成 果と, 青年を対 象とし た研 究3の 成果と の関係性 は,今 後より詰 めていく べき課 題である 。また ,コーホ ート( 同時代 に生まれ た集団 )と参加 者の年 代(年齢 )との 交絡や, 記憶の正 確性の問題についてもさら     ー108―

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なる検討が必要である。しかし,これらの問題は,本研究を土台とし,研究を続けていくこ とにより解決可能であると考えられる。3つの研究を通じて,自伝的記憶の分布と想起内容 に関する新しくかつ重要な知見を得た点で,本論文の意義は大きいといえるだろう。研究の 一部はすでに学会誌に掲載され,一定の評価も得ている。

以上のことを総合的に評価し,本委員会は,本論文の著者槙洋一氏に博士(文学)の学位 を授与することが妥当であるとの結論に達した。

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