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博 士 ( 農 学 ) 安 井 行 雄 学 位 論 文 題 名 中気門ダ 二類

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Academic year: 2021

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博 士 ( 農 学 ) 安 井 行 雄

学 位 論 文 題 名

中気門ダ 二類2 種 における配 偶行動と精子競争に関する研究

学 位 論 文 内 容 の 要 旨

  堆肥中に生息する2種の捕食性中気門目ダニ類 ,ハエダニMacrocheles muscaedomesticae (Scopoli)とヤドリダ二Et.tgamasus fimetort.tm (Berlese)にっいて,生活史と配偶行動,

雄間の精子競争に関する研究を行った。

  ゛1.ハエダニは発育速度がきわめて早く,ふ化後60時間程度で成虫に達した。卵期間には18時     間程度のものと,産卵直後にふ化するものの二型があり,後者の場合胚発生は母体内で終え     られていた。これは高い捕食圧などで卵期の死亡率が高い状況下において母親による子の保     護の役割を果たしていると思われる。本種は単数・倍数性で,雄は未受精卵から発生した。

    良好な餌条件下では母親は成虫化後1週間ほどの間に約70卵を産卵し,死亡した。子世代の     性比はほぼ1:1であった。本種はきわめて高い内的自然増加率(O.74/日)をもち,堆肥     という機会的な環境に適応していると考えられた。またハエダニの雌成虫は餌条件が悪いと     きには繁殖を抑制して長期生存ステージに入り,寿命を約3倍(絶食下で約23日)にも伸ば     すことができた。これはこの状態でハ工類成虫に便乗して新たな生息環境に移動するための     適応であると考えられた。雄にはこのような絶食耐性は見られず,成虫化後12日ほどで死亡     した。

  2.ハエダニの雄成虫には脱皮前の雌第2若虫を他の雄から防衛する交尾前ガード行動がみら     れ,雌の脱皮直後にその雄が交尾を行った。

  3.脱皮後3日経過して既に未受精卵(雄仔)の産卵を開始していた雌でも,雄の存在下にお     くと半数以上が交尾し,受精卵を産出した。このことから雌の物理的交尾可能期間は决して     脱皮直後に限定されてはいないと結論された。

  4.交尾前ガード行動の適応的意義(究極要因)を調べるために,ハエダニの精子競争を調べ     た。遺伝子マ一カーとして酵素工ステラーゼの変異を持ったニっの系統(京都系と那須系)

    を選抜固定した。この遺伝子マーカーの遺伝様式を交配実験によって確認した後,二重交尾     実験を行い精子 優先度(P2値;一雌が2雄と連続して交尾したとき2番目の雄によって受

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精される比率)を測定した。P2値は0.0001と測定され,圧倒的に最初の交尾雄が有利であ ることが分かった。このように雄は父性確保のためには処女雌と交尾することが必要で,脱 皮前から雌を確保する交尾前ガード行動がきわめて有効な戦略であることが示唆された。こ のような結果から,雄は複数の雌と交尾して仔を作ることができるのに対して,雌は実質的 に1回交尾であることから,本種の配偶システムは基本的に一夫多妻であると考えられた。

5.ハエダニにおいて処女雌と交尾した雄が受精を独占できるメカニズムを調べた。まず交尾 中の精子の経時的移送パターンを知るために交尾を様々な時間で中断させ,生まれてくる子 世代の雌性比(受精卵)を調べることによって,精子の移送は交尾時間の経過とともに徐々   に起こっていることが分かった。また,1回目の交尾を様々な時間で中断させ,2回目を行 わせる実験によって,この徐々に注入される精子によって雌の精子受容器官がみたされ,以 後の雄の精子が入らないことが原因となって本種の第一番目雄による受精独占が実現されて   いることが示唆された。

6.交尾前ガード行動の生理的解発因(至近要因)を調べるために,ハエダ二雌第2若虫の雄 誘引 性の有無をolfactometerを用いた生物検定で調べたところ揮発性物質による誘因性は 検出されなかった。雌の死体をエーテルで洗浄して与えると雄はこれをガードせず,工ーテ   ル抽出物をこの死体に塗布すると再びガードが見られることから,雌第2若虫の体表に分泌   される工一テル可溶性の性フェ口モンが雄成虫のガード行動を解発することが示唆された。

  また,雄の感覚器官を外科的に切除して雌に対する反応を調べることによって,雄のフェロ   モン受容器は主に触肢先端に存在することが分かった。

7.ヤドリダニもハエダニと同様に発育が早く,ふ化後約60時間で第2若虫にまで達した。卵   期間にハエダニのような二型は観察されなかった。しかし雌雄ともに第2若虫期に変態を抑   制して飢餓耐性ステージに入り,一箇月近く生存した。本種は雌雄とも二倍体で,雌は未交   尾では産卵しなかった。雌成虫は産卵を継続するために多回交尾を必要とし,成虫化当日の   1回交尾だけでは約20卵しか産下せず, 毎日1回交尾を行わせることで産卵数を約90卵まで   増 加させることができた。子世代の性比はほば1:1であった。雌成虫は約6日間,雄成虫   は約9日間生存した。本種もまた高い内的自然増加率(毎日交尾区でO. 50/日)をもち,堆   肥という機会的な環境に適応していると考えられた。第2若虫は白カまたは甲虫類に便乗し   て新たな環境に分散する。

8.ヤドリダニの雄には交尾前ガード行動が見られず,交尾は雌雄のランダムな出会いにおい   て起こった。雌が交尾した直後に新たな雄を導入して再交尾させると,2番目の雄は交尾終

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了 後に精 包摂食 行動を 行っ た。

9.ヤ ドリダ ニにお いて交 尾前ガ ード 行動が 見られ ない理由を精子競争との関連から追求した。

  遺 伝子マ ーカ ーとし て酵素 エステ ラーゼ の変 異を持 った2っの 系統を 選抜固 定し た。そ れを   使 っ て1回 目 の 交 尾直 後に2回目 を行わ せる 二重交 尾実験 を行っ た結果 ,ほ とんど の仔は 最   初 の 雄の 精 子 に 由 来し て い た (P2値=0. 027)。した がっ てこの 時に2番目 の雄に みられ る   精 包摂食 行動 は,精 子置換 ではなく,最初の雄の精包によって満杯にナょった雌の精子受容器   官 に入ら なか った自 己の精 包を摂 食した もの と考え られた 。毎日1回 の交尾 で産 卵数が 増え   る という 現象 に着目 して, この増 加分が2番 目以降 の雄 によっ て受精 されて いる 可能性 をテ   ス トした とこ ろ,初 日に交 尾した 雄と2日目 に交尾 した 雄の間 に受精 卵数に 有意 差がな く,

  本 種 には ハ エ ダ ニ のよ う な 第1番目 雄 に よ る受精 独占 は存在 しない ことが 分か った。 した

゛ がって 雄には 処女雌 と交 尾する 必要が なく, この 理由か ら本種 の交尾 前ガードの欠如を説明   で きると 思わ れた。 このよ うな結 果から ,雌 雄とも に複数 の異性 個体との間で仔をっくるの   で ,本種 の配 偶シス テムは 基本的 に乱婚 性で あると いえる 。

10.ヤド リダニ の雌に とっ て多回 交尾が どのよ うナょ適応的意義をもっかを,精子の補給,雄か   ら 受ける 物質 的利益 ,遺伝 的利益 などの 観点 から検 討した 。なか でも多回交尾による子世代   の 遺伝的 多様 性の増 加が重 要な意 味を持 っこ とが示 唆され た。

11.生殖 器系の 構造の 進化 的変化 に関す る系統 学的情 報に 基づぃ て,中 気門目 ダ二 類にお ける   精 子競争 と配 偶シス テムの 進化の 道すじ を推 定した 。

学位論文審査の要旨 主 査    教 授    阿 部    永 副 査    教 授    高 木 貞 夫 副 査    教 授    飯 塚 敏 彦

  本 論文は 本文95頁 のほ か,図26,写真17,表13,引用 文献84からな る総頁 数146頁の 和文論文 で, 別に参 考論 文4編 が添 えられ ている 。

  多 くの体 内受精 を行う 動物においては自己の遺伝子を最大限子孫に残すための様々ナょ競争があ り, 特に雄 にと っては 自己の 精子に よる 受精を 確実に するこ と(父 性確保)が最大の関心事であ

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る。 このよ うな 父性確 保のた めの様 々な形 態的 ,生理 的,行 動的適 応を 生じさせるようなはたら きを 精子競 争と よんで いる。 本研究 は家畜 堆肥 中に生息し繁殖生態の異なる2種の捕食性ダ二類,

ハ エ ダ ニMacrocheles muscaedomesticae (Scopoli)と ヤ ド リ ダ 二Eugamasus fimetorum (Berlese)に っ い て ,生 活 史 と 配 偶行 動 , 雄 間の 精子競 争に関 する研 究を行 った もので ある。

  1.ハエ ダニで は卵 期間が18時間程 度の ものと ,産卵 直後に ふ化 するも のの二 型があ り,ふ 化     後 は60時間 程度 で成虫 に達し た。本 種は単 数・ 倍数性 で,雄 は未受 精卵から発生した。良好     な 餌条件 下では 雌成虫 の寿 命は約1週 間で, その間 に70卵 ほどを 産卵し きわめ て高 い内的 自     然 増加率 をもつ 。しか し, 餌条件 が悪い とき, 雌成 虫は寿 命を3倍程 度伸ば し,こ の状態 で     ハ 工類成 体に便 乗して 新た な環境 に移動 するこ とが 示唆さ れた。

  2. ハ エ ダ ニ の雄 成 虫に は脱 皮前の 雌第2若虫 を他の 雄から 防衛 する交 尾前ガ ード行 動がみ ら     れ ,雌の 脱皮直 後にそ の雄 が交尾 を行っ た。

  3. 脱 皮 後3日経 過 し て,す でに未 受精 卵(雄 仔)の 産卵を 開始 してい た雌で も雄の 存在下 で     は 半数以 上が交 尾し, 受精 卵を産 出した 。この こと から, 雌の交 尾可能期間は决して脱皮直     後 に限定 されて いなか った 。

  4.交尾 前ガー ド行 動の適 応的意 義(究 極要 因)を 調べるためにハエダニの精子競争を調べた。

    遺 伝子マ ーカー として 酵素 工ステ ラーゼ の変異 から ニっの 系統を 選抜固定し,これらを使つ     て 二 重 交 尾実 験 を 行 い ,そ の マ ー カ ーを も と に 精 子 優先 度(P2値 チ1雌 が2雄 と 連 続 して     交 尾 し た とき2番 目雄 に受精 される 比率) を測 定した 。P2値はO.0001で圧 倒的に 最初 に交     尾 した雄 が有利 であっ た。 このよ うに雄 は父性 確保 のため には処 女雌と交尾しなければなら     ず ,交尾 前ガー ドは有 効な 戦略で あった 。

  5,交尾 を様々な時間で強制的に中断させ,生まれる仔の雌性比(受精卵)を調べることによ゜っ     て 精子の 移送は 交尾時 間の 経過と 共に起 こるこ と, また,1回 目の交 尾を様 々な時 間で中 断     さ せ,2回目 を行わ せるこ とによ って ,第一 番目雄 の受精 独占 が実現 されて いるこ とが示 唆     さ れた。

  6. 交 尾 前 ガ ード 行 動の 生理 的解発 因(至 近要因 )と してハ エダニ 第2若虫の 揮発性 物質に よ     る 雄誘引 性の有 無を生 物検 定で調 べたと ころ, 誘引 性は検 出され なかった。雌の死体をエー     テ ルで洗 浄する と雄は これ をガードせず,.エーテル抽出物を死体に塗布すると再びガードす     る ことか ら,工 ーテル 可溶 性の性 ホルモ ンが雄 のガ ード行 動を解 発すること,また感覚器官     の 切 除 実 験 か ら , 性 フ ェ 口 モ ン 受 容 器 は 触 肢 先 端 に あ る こ と が 分 か っ た 。   7.ヤド リダニ では 卵期間 に二型 はない が, ハエダ 二同様 発育は 早く, ふ化 後60時間 程度で 第

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    2若虫にまで達した。本種は雌雄とも二倍体で,雌は未交尾では産卵しない。雌成虫は産卵     を継続するために多回交尾を必要とし,1回交尾だけでは約20卵のみ,毎日1回の交尾によ     り約6日の生存期間に約90卵をうむ。

  8.ヤドルダニの雄には交尾前ガード行動はみられず,交尾は雌雄の成虫のランダムな出会い     において起こった。

  9.ヤドリダニにおいて交尾前ガード行動が見られな理由を精子競争との関連から追求した。

    酵素工ステラ―ゼの変異を持つニっの系統を選抜固定したのち,それらの遺伝子マーカーを     使って1回目の交尾直後に2回目の交尾を行わせる二重交尾実験を行った結果,ほとんどの     仔は最初の雄の精子に由来していた(P2二二0.027)。また,毎日1回の交尾で産卵数が増え     るという現象に着目し,この増加分が2番目以降の雄によって受精されている可能性をテス   ゛トしたところ,初日に交尾した雄と2日目の雄との間に受精卵数に有意差がなく,ハエダニ     のような第一番目雄による受精独占は見られなかった。したがって,雄には処女雌と交尾す     る 必 要 が な く , 本 種 の 交 尾 前 ガ ード の 欠如 はこ の理 由に よ るも のと 思わ れた 。   以上のように,本研究は堆肥中に生息し,線虫類の捕食者として知られている2種のダ二類に っいて,その繁殖生態,特に配偶行動の違いを精子競争の観点から考究し,配偶行動の違いの至 近要因と究極要因を明らかにしたものである。本研究は基礎的研究であると同時に,有害ダ二類 の不妊化雄使用による防除等に多くの示唆をあたえるものであるところから応用的にも極めて重 要なものである。

  よって審査員一同は,最終試験の結果と合わせて,本論文の提出者安井行雄は博士(農学)の 学位を受けるのに十分な資格があるものと認定した。

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