リレ―ションシップ・アプローチの変遷と新展開 (2)
著者 和田 正春
雑誌名 東北学院大学論集. 経済学
号 136
ページ 93‑130
発行年 1997‑12‑20
URL http://id.nii.ac.jp/1204/00024498/
リ レ ー シ ョンシ ッ ブ ・ アプロ ー チ の 変遷と新展開(2) 和 田 正 春
2.
リレ
ーションシ
ップの
質的(相互的)
解明リ
レ
ーシ ョ ン シ ョ ツプは,実際に今日多くの文献で語られているように, 多くの
新たな意味や役割を期待されている。
しかしそれは, 短期的, 単発 的な取引とは明確に対比されうるとしても, 繰り返される取引とどの点で 異なっているといえるのだ ろ う か。
リレ
ーシ ョ ン シップは密度の高い交換 (関係) ではないのか。
それを明らかにすることがリレ
ー シ ョ ン シ ップの
特質を知ることにっ
な が る と 考 え ら れ る。
またそれがリレ
ーシ ョ ン シ ッ プ をマー ケ テ ィ ン グ の パ ラ ダ イ ム・
シフトとする視点についても,既存の理 論・
実践との
差異を明らかにする上で重要な意味を持つと考えられる。
ここでは(l)に続き, リ
レ
ーションシップ固有の特性や意味を考察し, そ れが新たな時代において果たすであろう役割を明らかにしていくことにす るo2 - 1 .
リレ
ーションシップの分析ま ず リ
レ
ーションシップは長期継続される関係(係わり合い) であると さ れ る。
そしてこの場合.
ビジネス活動であることを前提とするから,その 関係の中でl度以上の商品・
サービスの取引が行われることが条件となる。
ま ず リ
レ
ー シ ョ ン シップには, 次 か ら あ げ る よ う な 幾 つ か の バ タ ー ンl )が 考 え ら れ る 。 何れも目標までの距離と企業・
顧客間の目標認識の l ) 以下の図に関しては, 船ロ充輝, 前掲書, l994, p.
2 0 7 か ら ァ イ デ ィ ア を 借用した。
しかし内容は氏が説明した「ソ リ=
ー シ g ン 満 足 」とは直接関速 するものではない。
東北学院大学論集 経済学第l36号 l997年l2月
-
93-
1東北学院大学論集経済学第l36号
ギ ャ ップを図示したものであるが, 基本的に想定しうる異なる状況につい て説明している。
図2
-
1まず図2
-
l だ が , この図では日標までの距離は同じであるが, 取引が繰り返されることで (数字
l ˜ 4 が そ の 回 数 ) 企 業
・
顧客間 の目標認識のギャップが縮小して いることを示している。
すなわち 同主体間で同じ目的の取引が繰り 返 さ れ る こ と で , 取引は相互理解 の下に進められるようになり, 目 標はより効果的効率的に達成されるようになると考えられるというもので あ るoGr,
li
nroosは「約束」
が 履 行 さ れ , ま た 新 し く 結 ば れ る こ と で リレ
ーシ ョンシップが構築されていくと述べているが, 「約束」
が線り返されるだ け なのか, その内容が変化するのかといったことにはふれていない。
こ こ では図2-
l と し て , 同 じ 「約束」
が繰り返されるパターンを考えたわけ だが, 線り返しによる相互作用を通じて相互理解が深まると考えられ, 企 業・
願客共に日指すべき目標やそのブロセス, 個別的事情がより鮮明に捉 え ら れ る よ う に な る。
それは目標のより確実な達成, より短時間での達成 といった成果となって現れると考えられる。
このメカニズムにっ
いては,Normann
2 )が示しているように, 企業 (担当者) と願客間の
相互作用の
プロセスの中で, 担当者も顯客も共に
「
成長」
するためと考えてよいだろ う。
相互に不安が解消され,相手に対する「慣れ」
が 生 じ , フ ラ ン ク に つ きあぇる関係が生まれたことが, 優れた成果を生み出すといえる。
初めて 立 ち 寄 つ た ブ テ ィ ッ ク に , 何度か行つて買い物をするうちに,
顔なじみに な り , 店員との意志疎通がスムース
に な り , 欲しいものが確実に手に入る2 ) N o m a n n , R., op. cit.l99l, ( C h a p t e r 6 & 7 )
2
-
94-
l1 レ ー シ ョ ン シ ッ プ
・
ア プ ロ ー チの変通と新展開(2)ようになるといったプロセスによって生まれるものが,①のリ
レ
ーシ ョ ン シップのイメージ と い う こ と に な ろ う。
こ
の
イ メージの中で, 顔なじみになること, 意志疎通がスムースになる ことというのは, 買い物や来訪の結果としてもたらされたものと 考 え る こ とができる。
しかしそれは ( 特 に リレ
ーションシップ構築を意図しないと いう意味で)通常の取引 (trans action
)3 )で あ っ て も 生 じ う る こ と で あ り , それはリレ
ーションシップに固有のものとはいえない。
顔なじみになるこ とが取引上双方にとってメリットがあることは常識的に理解できるが, と いって意図的に顔なじみになるような仕組み, 例えば理髪店が願客カルテ を作つて願客情報を共有できるようにしたり, 願客が来店ポイントを集め て プ レ ゼ ン ト を も ら え る よ う な キャンペーン を 行 う な どの工夫を凝らすことは,それ自体がリ
レ
ーションシッ プを構集するための活動とは言い難い。
と い うのもこうした取り組みは次の取引を喚起する誘因であり, それに従 え ば リ
レ
ーシ ョ ン シ ップとは継続的に誘因を与えること, と い う こ と に な る。
取引の間隔を短縮するような積極的な理由を提供することがリレ
ーシ ョ ン シッブ構築上の課題と捉えるなら, リレ
ーションシップとは取引の促 進条件に過ぎないことになる。
とすれば,それは現マーケ テ ィ ン グ ' パ ラ ダイムの時間(期間)的拡大ではあっても,新たなパラダイムへ
の転換と は 考 え に く いのである。3)Christopher, M . , Payne,A. F . T . a n d Ballantyne, D.
.
ibid.
l 9 9 l 同所において彼らは
.
relationshipの対概念であり,短期的, 単発的な交換と してtransactionをあげている。
彼らは relationship marketing と従来型 のtransaction marketingを次のように対照させている。
transaction marketing
一
回の売上に注日・
製品の使用・
特徴を重視・
短期的視点 願客サ ービスをあまり重視しない・
願 客 の コ ミ ッ ト ・,'
ントは少ない願客との接触はあまり多くない
・
ク オ リ テ ィ は 主 に生産部門の関心事 relationship marketing願客の維持に注日
・
べネフ.tツ ト ( 使 益 性 ) 重 視・
長期的視点 願客サ ービス重視・
国 客 の コ ミ ッ l ?'
ン ト は 高 い・
願客との密接な接般クオリティは企業全体の関心事
-
95-
3東北学院大学論集経済学第l36号
しかし顔なじみになるというのは, 情報の共有とか手続き
へ
の慣れ, 心 理的不安の除去といった機械的な表現で語り尽くせるものだけではない。
「顔なじみになる
」
という言葉の意味は, 来店頻度が高いという意味に限 定されるものでなく, より広い, 情結的な共感, フ ィ ー リ ン グ が 合 う , 無 言の
信績といった感覚を含むものである。
来店頻度と願客満足, あるいは サ ービスの
個別化の
程度といった点からの分析は可能であろうが, そ う し た分析可能な指標にならない「感覚」
などが意志疎通の円滑化をもたらし ている真の理由であるともいえ, そしてその部分に重点を置き,マ
ー ケ テ ィング活動を再検討するのであれば, 取引の累積がもたらす具体的・
経済 合理的な成果の
みにとらわれないマー ケ テ ィ ン グ と し て , 新たな方向性を 示すものと考えることができると思われる。
この様に現パラダイムの思考に還元できるものは, そこに還元されるで あろうことは想像に難くない
。
リレ
ーションシッブという用語自体が独自 の生命を持ち,一 つの
商品やキャッチフレーズの如く広がり, 時代のイ ン デ ッ クスとしてマーケティング活動の形容調となっているというのもマー ケ テ ィ ン グ の歴史を考えると不思識ではない。
しかしリレーションシップ は,マ
ーケティング活動の対象把握に大きな変化をもたらし, 従来は付随 物として軽視されてきた「
主体相互の心理」 などの都分にも焦点を当て, その意義や役割を解明しようという意識を発現させたという点で重要な存 在であることは確かである。
間題は,そうした部分がマーケティングの理 論及び実践においてどの
様な意味を持ち, どの様な効果を期待できるのか, コ ン ト ロール可能な要素として抽出可能なの
か, といった点にある。
また そうした試みが従来とは異なる成果を本当に実現してくれるのかという点 を明らかにできるかどうかにかかって、
.、
る と い え る。
ま た 図 2
-
lにおいては慣例的に線り返されるのが取引であるとした が,これをGronroosのいう「
約束」
とした場合,その意味は異なって く る と 考 え ら れ る。
この分析の日的は, リレ
ーションシップなり交換なり を経済合理的な活動とのみ限定して提えることではないから, その違いに4
-
96-
り レー シ g ン シップ
・
ア プP ー チの変遷と新展開(2)ついては考察する必要があると思われる
。
別なパターンについて考えてみることにしよう
。
次図2-
2は日標までの距離が違く, その実現のために複数回のリ
レ
ーションシップが結ばれる と い う パ ターンを示したものである。
違大な目標は企業にとっても,顧客にとっても自明でない部分があるが, 具体性の高い中間目標を実現することで,次第に相互の意志国i通が図られ,」
よ り 高 いレぺルの目標が具体的に捉えられやすくなると考えられる
。
この
線り返しに よ り , 企業と願客間の目標認識のギャップも徐々に縮小し, 同 時 に リレ
ーションシ ソプ 毎 に 実 現 さ れ た 価 値 ( 成 果 ) が 蓄 積 さ れ , 相 互 に リレ
ーシ ョ ン シップの更新に対する意欲が增大するというのが, このケースの
イメージである。図2
-
2自動車の購入とその後のサービ スがこのパターンに当てはまると 考 え ら れ る
。
自動車を購入する際 には, 自動車という製品について 比較を行い,諸条件を勘案し,-
つの製品が選択される
。
そのプロ セスで何らかの好意が形成された ことでその自動車が選択されたと も考えられるが,単に製品として の自動車が選択される場合も考えられる(例えば消費者が指名買いをする よ う な 場 合 )。
ここで間題となるのはその後のメインテナンスなどのサ ー ビスの選択である。
販 売 し た デ ィ ー ラー, もしくは同系の整備工場でしか 提供されないサービスの様に, 購入した自動車によって決定されてしまう ものもあるが, ほとんどはそうしたものと無関係に, 町の整備工場などを 通じて, 広く市場で調達可能なものである。
この様に, 自動車とその
後の サービスは別途購入可能なものであると考えられる。
そうした中で,熱心に願客のニー ズ を 聞 き , 的 確 な ア ド バ イ ス を 行つ た
一
97-
、o東北学院大学論集経済学第136号
ことで信頼を得, 自動車を購入してもらった販売担当者 (企業) は, その 際に得た信額や願客情報をペー
ス
に, その後のサービス
やオプションの販 売等で願客とリレ
ーションシッブを構築することができると考えられる。
こ の リ
レ
ーションシップは, 他の選択a
支に対して優先的な意味を持つもの として願客に認知されたものと提えることができる。
しかし願客はサービ
スについて, 必ずしも自動車自体と同じ志向で選択するとは限らない。
ま た願客が自動車という製品に関して, あるいはその利用に関して, どの
様 なアイディアを持つているかということは, 願客にとってさぇも自明では ないことが多い。
販売担当者がその時々の願客のニ
ーズに関心を払い, 対 応していくことで,願客が望むサービスが実現されるだけでなく,相互作 用を通じて, 見えなかった大きな目標までもが具体的になってくる。
その 日標が相互的に創り上げられ, 共に理解されるようになれば, そのリレ
ーシ ョ ン シ ッ プは様々な
ニ
ーズの発生を機に更新されながら強化され, 両者 に固有な関係として成立すると考えることができる。
こ
の
ケ ース
は, 2つの点でリレ
ーションシッブの特性を明らかにする上 で重要な意味を持つていると考えられる。 一
つ日は断片的な取引を結びっ
け る 「相互的な意志」
の
存在,
二つ日は明確でない大きな日的を見つける 方向に双方の主体を向かわせ, その日的を共有させる「
力」の存在である。
ーつ日の点は, 担当者の対人能力に帰結されて考えられることが多 い4
、 。
提案型のコミュニ
ケ ー シ ョ ン と い う 視 点 で こ れ を 捉 え る な ら ば 確 かにそれは担当者の能力に依るところが多いといえる。
しかしここで注日 すべきなのは, 願客側の意志である。
担当者が願客を新たなサービスの
リレ
ーシ ョ ン シ ッ プ に 勧 誘 し よ う と し て も , 願客がそれを受諾するとは限ら ない。
事実メーカ一
系 デ ィ ーラーが購買後のサービスの勧誘に熱心になり 始めたのはここ数年, 顧客満足プームの中でのこ と で あ る。
それ以前は, デ ィ ー ラーで自動車を購入しても, 無料で行われる最初の6
ケ月点検を過 ぎれば, ユ
ー ザ ーはガソリンスタンドや身近な自動車工場, カ一
用品店で4 ) 浅井慶三郎, 「サ ー ビ ス のマ ー ケ テ ィ ン グ 管 理 」 , 同文館, l989
6
-
98-
tリ レ ー シ ョ ン シ ッ プ
・
ア プP ー チの変選と新展開(2)サ ーピスを受けることが多かった
。
特に自動車に関心の高い若者や自動車 の利用経験が長い人にその順向が強いとされる5)。
デ ィーラーが勧誘して もかなりの人はそれを受諾せず, 別の取引, あるいはリレー シ ョ ン シップ を選択してしまうのである。
その点については,願客の特性から解明しようとすることは可能である
。
価格
へ
の反応,利便性の追求,当該サーピスに対する関心等,様々な要素 か ら , 願 客の
サ ービス
に対する姿勢を提え,
説明することができる。
例え ば自動車の
利用経験の長い人は, それまでの経 験 か ら デ ィ ー ラ ーの
サービ
スの内容や価格についての知識を持つており, 同様に自分が利用可能なデ ィ ー ラ一
以外の
サ ービスについても知つ ている。
サ ービスが必要になる頻 度 や デ ィ ー ラ ーでなくては解決できない間題がどれであるかも知つてい る。
こ う し た 知 識 ( 情 報 ) の蓄積が大きければ.
願客はデイーラーの
サービス勧誘に感応しにくくなるといった説明ができる
。
逆に購買経験の少ない人の場合, 自身が有している知識は少ないので サービス勧誘に感応しや す い と い え る
。
しかしパーソナル・ コ
ンビュータの
購 買 で よ く 言 わ れ る よ う に な っ た こ と だ が ,「
知 り 合 いの詳しい人から 教 え て も ら う」
と い う こ と が 初 心 者の場合多い。
同様のことは自動車関連 のサーピスでもいえるから, そ う し た こ と が デ ィ ー ラ ー に よ る サ ービス勧 誘と平行して生じた場合.
デ ィ ーラ ーの勧誘は後回しにされることが少な からずあると推定できる。
この様な形で願客を特性別に類型化し, その対応策を考えるという形で 営業方針を策定するということが
一
般に行われてきた。
それは一
つ一 つの
サーピスを別の取引と考え, 次を確実に獲得するための方策を生み出すこ とに他ならない。
と す る と.
確実に次, その次の取引を獲得していくための 「
道 づ く り 」が リレ
ーションシップ と い う こ と に な る と 考 え ら れ る。
そ こでは先に述ぺたように, 企業が顧客に対してどの様に臨んでいくのかと5 ) これは, 95年8月頃から, 東京八王子
・
多」事の自動車ディーラーの営業担当 者にt:ア リ ン グ を 行つた結果をまとめたものである。
-
99-
7東北学院大学論集経済学第136号
いうことだけが間題にさ・れ る よ う に な る と 考 え ら れ る
。
しかし現実には, 願客
の
目を自社以外の選択肢に向けられることを防ぐ ことは不可能である。 競争の中で, 願客に向けられる勧誘を止めることは できない。
企業がどれほど上手く対応したとしても, それだけで企業が望 む よ う な リレ
ーションシ ップを構築することは不可能に近い。
むしろ最近 では, 特定のサ ービスに特化し, そこで顧客の支持を得ているサービス企 業が数多く成長している。
例えばメインテナンスはオート バ ッ クス
やタイ ヤ館 ( ブ リ ジ ス ト ン ) , 車 を 売 る な ら ガ リ バーといった具合にである。
だ がそれにも拘わらず, 実際には長期安定的なリレーションシップといえる 様な関係が構集されている例も見られる。
その関係を解明するためには, 願客側のリレーションシップに対する考え方, 姿勢といったものを考察す る必要があると考えらえる。
更に2点日の目標
へ
の追求を創発させる「
力」であるが, これは明示的 で は な い ま で も , 始 口 6 )が 「 ソ リ ューション満足」 と呼んだ状態を達成 するためのプロセスに通じるもの
があると考えられる。
買手と 売手が共に未知であった解決策 を相互行為を通じて発見し, そ の実現のために努力することが ソ リ ューション満足実現のため の プ ロ セ ス と い う こ と に な ろ う。
ltSロは未知であった解決策が既知になることで, ソリューション満足が実現されるとしている
。
それ に は , 「非定型の間題に対して,数人の気心の知れた仲間が作業場(ワー ク シ ョ ッ プ ) に 集 ま り , そこでワイワイと自由な発想で議論し,工夫を出 し合い, 新しい発展に向けて一
つのアイデアや解決策を一
結にっ
く り 上 げ て い く や り 方 」 で あ る ワー ク シ ョ ップ型のマーケティングが必要であり,6 )
;
島ロ充輝.
前掲l書, l994, p . 2 0 6-
2088
-
l00-
リ レ ー シ3 ン シ ッ プ
・
ア プ' '
ーチの変通と新展開(2)そのためには 「相互信額に基づく関係 (relation) を 集 く と が 何 よ り も 重 要 で , い か に し て リ
レ
ー シ ョ ン・
ギ ャ ップを理めるかが課題になる」とし ている7i
これはリ
レ
ーションシップの範囲をどの様に捉えるかという間題でもあ る が , ソ リューションが実現されるまでを一
つのリレ
ー シ ョ ン シップと考 えることには間題があると考えらえる。
ソリューションの内容と企業のキ ャパシティ (企業単独のシーズとそのネットワークを活用して提供できる もの) が対応するという保証はない。
相互作用の中から新たな間題が発見 さ れ , そ の解決が模索される中で, そのリレ
ーションシップ が ソ リュ
ーシ ョンをもたらさない可能性もある。
例えば「カーライフの充実」 と い う ソ リューションを設定したとしても, 自動車会社やディーラーだけで対応で きる範囲には限界がある。
しかしそれまでそのリレ
ー シ ョ ン シ ップによっ て実現されたこと, その間題を発見させてくれたということというのは,リ
レ
ーションシップの主体双方にとって無駄ではなく, 書積されるもので あ る と 考 え ら れ る。
自動車の購買の場合, 先にふれたように, 自動車自体 を購入するに際してできあがったリレーションシップは, その後のサービ
スの購入に継続されるかどうかはわからないという一
面がある。
しかし自 動車を購入するという課題に再び直面した場合, そのリレ
ーシ ョ ン シ ッ プ が 復 活 す る と い う こ と は 十 分 考 え ら れ る。
我々は, そ う し た 「休眼状態に あ る リレ
ーションシップ」の
中で生活しているといえよう。
仮 に こ う し た「休眠状態にあるリ
レ
ーシ ョ ン シ ップ」を企業に対する愛 願や信額という形で評価するならば, ソ リ ュ ー シ ョ ン と 直 接 関 係 し な い リレ
ーションシップ も 存 在 し う る こ と に な る。
逆に図2-
l で 示 し た ケ ース
に あ る よ う に , ソリューションが得られても明らかに継続しているといえ る よ う な 関 係 (例えば近所のスーパーと願客の関係) も あ る こ と か ら , ソ リュ
ー シ ョ ン と リレ
ーションシップの関係を明確に示すことが必要になる。
その視 点 か ら , 図 2
-
2を修正するとすれば,次の図 2- 3 ,
4 の よ う7 )
lB
ロ充1印,前掲書.
l994.
p.
2l3-
2l-
l0l-
東北学院大学論集 経済学第136号
図2
-
3になると考えられる
。
図 2-
3は, リ
レ
ーシ ョ ン シ ップの日標 ( ソ リ ューション)が創発され, 中間的な日標(一
つの取引)が 実現される度毎に相互の理解が 深まり,また新たな目標の実現, より高い日標の実現に向かって 目標が高度化され, それに伴つ て リレ
ーションシップも高度化 されていくという流れを示した ものである。では新たな日標を相互に見い だし, それに再び共同して取り 組 も う と す る 「 力 」 と は ど の 様 な も
の
なのだろうか。願客はリレ
ーションシップの更新をどの 様な基準で評価しているのだろう か8
L
図2
-
4 図 2-
4は,
図 2-
3の変形で あ り , 現実的に起こりうるパターンから考察を試みたものである
。
企業 側の行動原理としては,願客獲得コストの
視点から, リレ
ーシ ョ ン シップ を継続することが有益であると基本的に考えられているから, コスト上の8 ) 評価基準については, Campbell の提示した基準等, 参考にすべきものは多 々あるo
Campbell のものは企業間取引を対象にしたものであるが, Sheth の消費者 行動モデルが企業間取引に応用されたことを考えると, そのフ レ ー ム は あ る 程度応用可能であると考えられる
。
しかし経済合理的に要当性が評価しうる ものだけが評価されるものであるという考え方は.
リ レ ー シ●ン シ ッ プ と い う 概念を一
般 化 し よ う と す る 中 で 有 益 な の だ ろ う か。少なくとも経済合理性を 評価した上で, それからこぼれ落ちた部分を丁寧に拾う作業が必要であろう。10
-
l02-
リ レ ー シ g ン シ ッ プ
・
ア プl' 一
チの変通と新展開(2)間題がない限り, リ
レ
ーションシップを継続しようとすると考えられる。
そ し て リ
レ
ーションシップを継続するための企業側の取り組みに間題がな い限り, リレ
ーションシップの継続が実現されないのは願客側の事情によ る と い う こ と に な る。
ここでは願客がそれ以前の
リレ
ーションシップで啓 発され, 目標が高度化し, 企業のキャ パシティとその日標が乖離してしまう と い う ケースを想定した'9
' 、 。
乖離が生じた段階で, それが修正不可能なものであれば, リ
レ
ーシ ョ ン シップの連続はその段階で途絶えてしまう。
しかし図2-
2 で 示 し た よ う に , リレ
ーションシップはその期間内で書積された成果を伴うものである。
従つてその成果が「生きている限り
」,
そのリレ
ーションシップは断絶し たのではなく, 休眠状態に入つた と 考 え る こ と が で き る。
先にふれたよう に, 自動車を購入する頻度に限りがある以上, そのためのリレ
ーションシ ップ (この場合は交換というべきであろう) で実現された成果を生かして リレ
ーションシップを構築するというの
は, それをメンテナンス・
サ ービ
スという別な方向に転換させることに失敗すればlo) そのリレ
ーシ ョ ン シ ップは形式的には断絶されさるを得ないことになる。
しかしその成果が生きていれば
,
自動車を購入する機会が生じたとき, あるいは知人が自動車を購入する際に, そのリレ
ーションシップが復活す る可能性がある。
先にふれたように, 休眠状態にあるリレーシ ョ ン シップ は非常に多い。
それは我々消費者の生活が, 企業と継続的なリレ
ーシ ョ ン シップを構築することに熱心でない環境の上に成り立つているためと考え9 ) リ レ ー シ a ン シ ッ プ の 更 新 に 失 敗 す る ケ ー ス に つ い て は , より詳細に検討し な く て は な ら な い。総続的な取引を望まない企業は少ないだろうし
.
願客としても
.
l リ レ ー シ 3 ン シ ッ プ が 取 引 コ ス トを低減させるという企業の論理が あるならば, 同じ理由で継続的な取引は望まれるものであろう。
その失敗は,, 今 日 行 わ れ て い る リ レ ー シ g ン シ ッ プ , な い し は デ ー タ ベー ス・
マ ー ケ テ ィングのレベルで検討されねばならない課題であるといえる
。
l 0 ) 自 動 車 購 入 時 に 不 満 が な く て も , 別 に 親 し く し て い るサ ー ビ ス
・
シ aツプが あ る の で デ ィ ー ラ ーのサ ー ビ ス は 利 用 し な い と い う ヶ ー ス が 考 え ら れ る。
こ の 様 な リ レ ー シ g ン シ ッ プ 間 の 競 争 の 構 造についても検討する必要がある。-
l03-
11東北学院大学論集経済学第l36号
られる
。
そして企業がリレ
ーションシップを 「起こす」
努力をせず (その 手法も明らかではない), 消費者自身それを求めない風潮の中で, 休限し た リレ
ーションシップは風化していくといえる。
現実には購買頻度や経年変化 (≒忘却), 休眠期間中に生じる環境変化 が成果の評価に及ぼす影響等により, その復活の可能性はある程度経験的 に想定できるl l ) と 考 え ら れ , それによって休眠中
の
リレ
ー シ ョ ン シ ッ プ に対するケアの程度も変化すると考えられる。
従来のリ
レ
ーションシップ, リレ
ーションシップ・
マー ケ テ ィ ン グの議 論は, リレ
ーションシップをっ
なげることばかりに焦点が当てられていた と い え る。
リレ
ーションシップ自体,取引コストという経済合理性によっ て支持された色彩が強く, それが交換関係とリレ
ーションシップの区別を 暖味にしているように思われる。
体眠状態のリレ
ーションシップの復活と い う ケ ースを考えることは, 休眠中双方を結びっ
けているものの存在を明 らかにするものであると考えられる。
そしてそれは必ずしも経済合理性で 評価できるものではない可能性がある。
その点を明らかにすることが, リレ
ーションシップを巡る (実態が分からぬままに影張する) 議論に方向性 を示すことができるのではないかと思う。
リ
レ
ーシ ョ ン シ ッ プは具体的なソリューションを目指すものであるとい う こ と は , ピジネスを取引の日的として構集されている関係である以上, 当然の
前提である。
従つてそのソリュ
ーションを明らかにし, その実現に 協力して取り組むという相互行為をリレ
ーションシップの成立の原点に位 置づけることは正しいといえる。
しかしソリューションには断層があり, 明示的なものから全く未知なものまで, 具体的なものから抽象的なものま で, 短期的に実現可能なものから, 長期的な取り組みが必要なものまで, 実に様々である。
そしてそのリレ
ーションシップの核となる商品・
サーピス
がlつのものから, 複数が複雑に連携するものまで, 様々なタイプが考 ll)例えば非常に願客管理に熱心なホテルであっても,海外からの願客には一
定以上の利用頻度がないとDMすら出さないことが多い
。
l2
-
l04-
'
l レ ー シaンシッ プ・
ア プP ー チの変選と新展開(2)え ら れ る
。
その実態を鑑みると, リレ
ーションシップが特定の目的のための
相互行為を表している場合と, 不連続な取引を結びっ
ける経済・
非経済的な主体間の結び
っ
きを示している場合, 企業・
願客間の ソ リ ューシ ョ ン 発見・
実現のための相互行為とその背景にある信額・ コ
ミ ッ ト メ ン ト と い った促進要因を指している場合とが混然として語られているという感が強 い。
リレ
ーションシップに関する理論整備は,願客の関与・ コ
ミ ッ ト メ ン トをどの様に考えるのかという重要な間題を取り上げるのと平行して, 従 来の交換理論等の理論体系の再点検を含むものに な る と 考 え ら れ る。
2 - 2 .
リレ
ーションシップ藤論へ
の提言2
-
2-
l.
リレ
ーションシップ・ マ
ー ケ テ ィ ン グ の位置づけリ
レ
ーションシップと交換, 交換関係を区別することは, 今日行われて い る リレ
ーションシップ・ マ
ー ケ テ ィ ン グ , データペース ・ マ
ー ケ テ ィ ン グの様な形で, カスタマー・
リ テ ン シ ョ ン を 図 り ,マ
ー ケ テ ィ ン グ の有効 性, 効率性を向上させていくことを日指すというマネジリアル・
マーケテ ィ ン グの視点からは, リレ
ー シ ョ ン シ ップと交換が異なっているかどうか ということはほとんど間題にならない。
リレ
ーシ ョ ン シ ップはマーケ テ ィ ング活動の日標であり, リレ
ーションシップが実現されるようにマー ケ ティ ン グ
・
ミ ッ クスを如何に再編成するかということが間題なのである。 Rosenberg and
Czepielはカスタマー・
リテンションに関する論文l2)に よ っ て , そ
の
後のリレ
ーションシップ・
マーケティングの方向性を決定 したと思われる。
彼らはカスタマー・
リテンションの必要性が高まってい る状況についてふれ,願客ターゲットを再定義し,マー ケ テ ィ ン グ'
ミ ッ クスの諸要素をカスタマー・
リテンション1に重点を置いて再構成する必要 があることを示している。
トータル・
プ ロ ダ ク ト 志 向 ( 製 品 と サ ービスの
融合,製品のモ ジュール化等),既存願客対象のプロモ
ーシ ョ ン , 個 別 的l2)Rosenberg, l.
.
J . a n d Czepiel, J . , A.,-
A marketing approach for customer retention', JoumalofConsumer Marketing,l984-
l05-
l 3東北学院大学論集 経済学第l36号
流通チャネル, 購買後コミュニケーション等, 具体的な手法を紹介し, 更 にそれを実現するためには組織の大幅な変革が必要であることについても ふれている
。
彼らが指摘した点は, 多くの研究者・
実務家の費同を得て, 今日非常に大きな潮流となっている。
情報技術の活用や個別企業の
ケ ース
などが多数紹介されるようになったことで, より具体性に富み, 体系だっ た議論がなされるようになっている。
マー ケ テ ィ ン グ
'
テ クニ
ッ ク と し て リレ
ーシ ョ ン シ ップが注日されてい る限りにおいて, リレ
ーションシップが経済的にどの様なものであり, 非 経済的にどの様な要素が考えられるのか, といった議論にっ
いても, その 全てはその要素がマーケティング効果という点に還元されることになる。
従つて仮に非経済的な要素に関心が向けられるとしても, それは次の取引 に
っ
な が る と い う マー ケ タ ーの
目的の
範囲においてでしかない。
しかし私はここで, マー ケ ターの日的の範囲を超えて, リ レーションシ ッブの意味や特徴を捉えたいと考えている
。
それは一
言でいうならば願客 にとってのリレ
ーションシップの意味である。
断定的にいうならば, マ
ー ケターが捉えているのは, 今も昔も一
貢して交換である。
自社の決まった シーズに基づく商品・
サ ービスをより効果的・
効率的に消費者に購入して も ら う , すなわち交換を実現することがマーケ テ ィ ン グ の目的であった。
Kotler以来, 交換に社会的な要素が含まれるようになったことで, そし てBagozziにより, 交換が関係依存的なものであることが示されたこと で, 交換を自社にとって有益な形で ( こ の言葉の中には, 既に消費者にと っても満足いく形で, という意味が含まれている) 実現するために必要な 要素は, マー ケ テ ィ ン グ 上 , 遍く考慮されることになったのである
。
その意味で今日いわれているリ
レ
ーションシップも, 交換を効果的・
効 率的にするための新たな一
要因に過ぎないといえる。
より個別的 (製品の 仕様といったレぺルだけでなく,
その使用環境や使用者環境にっ
いても考 慮したという意味) な対応が情報技術の整備やフレキシプルな生産システム '
サーピス提供システムが実現されたことで可能になったこと, またそl4
-
l06-
リ レ ー シ ョ ン シ ッ プ
・
ア プ P ー チの変選と新展開(2)う した対応が求められるようになったこ と か ら , その要請に応える形で マーケティング手法が変更されたと考えられたといえる
。
そのシフトされ た方向を,あるいはそのシフトを促進した交換主体間の
相互的な「
力」を,リ
レ
ーションシップと呼んでいると提えるべきであろう。
例えば従来のリ
レ
ーシ ョ ン シ ッ プ・
マーケティング関係の文献では, 願 客価値を実現するための企業間の連携も, 願客データペースの
確立に基づ く個別的マーケティングも, 願客と企業が共同しての価値実現も, 場合に よ っ て は P R ( イ ン ぺ ス ター・
リレ
ーションズやコ ミュニ
テ ィ 活 動 等 ) も , リレ
ー シ ョ ン シップ・ マ
ー ケ テ ィ ン グ のケースとして取り上げられている こ と が あ る。「願客・
企業間のリレ
ーションシップ作り」
という暖味な視 点からすれば, このどれもがその中に含まれるであろう。
む し ろ そ う す る こ と に よ っ て , リレ
ーションシップ・ マ
ーケティングが大きな時代の変革, マーケティング概念の転換一
パ ラ ダ イ ム・
シ フ ト と い っ た イ メージが創り 上げられていったようにさえ思われる。
しかし企業が願客や市場の動向から, この時代のマー ケ テ ィ ン グ の キ ー
・ コ
ンセプトがリレ
ーションシップであるとし, それに適したマー ケ テ ィ ング手法を実現していったことは理解できるとして, 願客はリレ
ーシ ョ ン シップを求めていたといえるだろうか。
願客が求めていたものは個別的な 対応であり, 親切でいつでも安心して「績める」様な企業の存在ではなか ったのだ ろ う か。
企業がそうしたニ
ーズ に 「リレ
ーシ ョ ン シップにシフト したマーケ テ ィ ン グ」
によって対応すること.
そして対応できたことと, 願客がリレーションシップを望んでいるということ, あるいはたとぇ願客 が リレ
ーシ ョ ン シップを望んでいたとしても,「
リレ
ーションシップにシ フ ト し た マーケ テ ィ ン グ」で実現されたものを受け入れたということを以 て, それが願客の望むリレ
ーシ ョ ン シ ッ プ で あ る と い う こ と は で き な い。
せいぜい, 顧客が望んでいた対企業関係に近づいたということを意味する だけである
。
この点を考察する上で特に重要と思われるのが, 「願客との共創
」
と い-
l07-
l 5東北学院大学論集 経済学第l36号
う現象である
。
鳴口の
い う 「 ソ リ ューション満足」 の最もふさわしいケースが共創という形の, ま た そ こ か ら 生 ま れ る リ
レ
ーションシップであろう。
新たな価値を企業と願客が協力して創り上げるというものだが, リ
レ
ーシ ョンシップを構築することの最大の価値ともいわれているものであり, そ の点でも注目される。
この共創に注目して, リレ
ーションシップの意味を 明 ら か に し て い こ う と 考 え る 。 ォメルコのケ ー
ス»
コンビュ
ータ周辺機器メーカーのメルコでは, D 0 S / V パ ソ コ ン の組 立教室を全国で開催している。 D 0 S / V パ ソコ
ンは製品規格が厳密に決 まっており, 部品を交換したり付加したりすることで, 自分が求めるコンビュ
ータ を 創 り 上 げ る こ と が で き る。
高額の電子基盤や電子部品を組み立 てることは, 多 くのュ
ーザーにとっては初めてのことであり, 不安の多い ことであろうが, 実際にはそれほど難しいことではない。
メルコのこの試 みは, そ う し たュ
ー ザ ーの
不安を解消しながら, 「既製品とは異なる自分 だ けのコンビュータを実現したい」
とか,「
自分で組み立てられるように な る こ と で , (必要な部品を購入し,取り替えていくことで, コンビュー タ全体の取り替えサイクルを延長することができるので)コンビュ
ー タ の 寿命を延ばしたい」
,「
目的に応じたコ
ンビュータを作りたい」
といった願 客の
多様なニ
ーズに応えようとしたものであると考えられる。
メルコのこの取り組みは, 次の点で戦略的に優れていると評価できる
。
l
.
部 品 メ ー カ ーの強みを活かしている点P C / A T 規 格 が 成 立 し た こ と に よ り , D 0 S / V パ ソ コ ン は 部 品 を 組 み 立 て る こ と で 製 作 で き る よ う に な っ た
。
こ れ に よ り , 数多ある 部品メーカーは , 高 性 能 , 低 価 格 , 独 自 機 能 等 を 追 求 す る こ と に よ り ,, その独自性を発揮し, 市場で評価される道が開かれた。
メルコはメモ
リ ( R A M ) の サードパーテ ィ と し て , 日本のパソコン市場成立からユ
ー ザーの支持を得てきたが,その技術を応用してC P U ポ ー ド , グ ラ フ ィ ッ ク・
ア ク セ ラレータ一 等 , 独 自のコンセプトで高機能製品をl 6
-
l08-
リ レ ー シ ョ ン シ ップ
・
ア プP ー チの変通と新展開(2)登場させてきた
。
D
0 S / V バ ソ コンの組立は, メルコにとって技術的には何ら問題 のないことであった。
必要な部品も大半は自社製品であったし.
それ以外の部分に
っ
いても大量流通しているものであり, 調達は容易であ った。
それを組み合わせることで,他社に先駆けて,より高付加価値 の製品パッケージを提供できるようにしたことは, メルコの優位性をユ
ーザーに知らしめる点で有効であった。
2
.
部品メーカーの
存在を説得的に知らしめた点部品1
一
カーは一
部の ヘ
ビーユ
ーザーにしか理解されないものであ った。 D 0
S/Vパソコンが登場する以前では,一
般ユ
ー ザ一
向けに部品や機器を提供する企業はサード
・
パーティと呼ばれ,純正品に準 ずる地位におかれた。ヘ
ビーユ
ーザーはサード・
パー テ ィ 製 品 をコス
ト・
パ フ ォ ーマンスで評価したが,一
般ユーザーは純正品に対して強 い選好があった。
D 0
S/Vパソコンの登場は, サ ー ド・
パーティという概念そのも のを崩壕させ, 彼らをパソコンの主要部品を担当するスぺシャ リス トへ
と変えていった。
しかしそれでも一
般ユ
ーザーにとっての彼らに対 する認識は, 特別なヘ
ビーユ
ーザーの
ためのものを作る企業, と い うものであった
。
メルコは, 自主製作教室を開催することで, それぞれ
の
部品が果た す役割を願客に示し, 既製品に使われているもの以外にも優れたもの があることを説得的にユ
ーザーに認識させたと考えられる。
通常の広 告等では喚起し得なかった層にまで,ユ
ーザーを広げる機会を得たこと に な る
。
3 .
願客に能力を与え,不安を解消した点メルコは, バソ
コ
ンの組立という能力を願客に提供した。
それは自 信といってもいいものであろうが, 必要に応じて部品を交換すること で, 自分が求めるパソコンを自分の手で実現できるという能力を願客-
l09-
l 7東北学院大学論集 経済学第l36号
に提供したのである
。
それはパソコ
ン・ ユ
ーザーを大手パソコ
ン メ ー カーの「呪押」 か ら 解 放 し た と も い え よ う。めまぐるしいモ
デル・
チ ェンジ,乱売,サポート体制の不備等に苦しめられてきたユ
ーザーは,, パソ コンをいつ買えばよいのかということすら悩むほどの状況にあっ た。
自分で組み立てられるようになったユ
ーザーは, 自分の必要だけ でコンビュータの機能を選択できるようになる。
無論それを確実に実 行するにはュ
ーザ一
自身の情報収集などに関する努力も必要になるの だが, それだけの可能性をメルコはユ
ーザーに提供したのである。
それによりメルコは, サ ード
・
パーティの時代にはメインのバソコ ン購入の
二次的な存在であったものが, パソコン・
メーカーと同じレ ぺルで選択される存在になったのである。
4
.
願客との間に信額関係を創造した点メルコの最大の成果は, 願客との間に信頼関係を構集できたことで あ る
。
願客の不安を取り除き, 顧客の
新たな能力獲得に協力した企業 として, メルコはュ
ー ザ ーの
中に特別な存在として位置づけられるこ と に な っ た と 考 え ら れ る。
パソコン教室に参加した願客は, その後も メルコ製品の良き利用者となってくれる可能性があり, メルコは継続 的に対応していく価値のある願客を得たということができる。
メルコの取り組みは, 企業としての特性を活かしながら, 願客との相互 作用が実現できる状況を上手く実現し,コンビュ
ー タ を 作 る と い う 課 題 に 取り組むことで,願客との
間に強い信頼関係を生み出し,願客にコンビュー タに対する新たな関わり方 (能力・
知識) を創発したものと総括できる。
そしてこ
の
ケ ースは,願客とのリレ
ーションシップ構築に熱心だった企 業の
リレ
ー シ ョ ン シップ・
マー ケ テ ィ ン グ のケ ース と し て も 見 る こ と が で き よ う。
願客と企業が協力して新たな価値を実現するという視点からすれ ば,
パソコンの組立を通じて願客が手にしたものというのは, 確かに共同 生産の形態をとらなければ実現され得なかったものといえる。
ま さ に そ うl 8
-
1l0-
;
l レ ー シaン シ ップ・
ア プ ロ ー チの変通と新展開(2)して創り出さぇた価値は関係固有のものであり, そ う した価値によってリ
レ
ーションシップが強化されると考えられるから, これは望ましいリレ
ーシ ョ ン シップ
・ マ
ーケティング戦略の実例と提えられるであろう。
しかしこれは本当に願客と企業が共同して価値を作り出したケースとい えるのだ ろ う か
。
願客は.
企業が用意した枠組みに沿つただけではないの だろうか。 また先に述べた メルコ側の
リ レーションシップに対する期待が その通りのものだ っ た と し て , 願客はメルコの意図をどの程度理解してい たのだ ろ う か。
願客にとって, この共同作業に参加することは, 企業との
関わりという点で特別のものだったのだ ろ う か。
こ れ らの疑間は, リ
レ
ーションシップというものが相互のコミ ッ ト メ ン トによって築かれるという視点に立てば確かに重要なものであるといえ る。
しかしこの
ケースではこれらの疑間が間われることはないといえる。
と い うのも, 企業と願客の関係は, このケー
ス
に代表されるような状況下 では, 満足いく価値の実現が第一 の
目標であり, しかもそれはコ
ンビュータの様に具体的な対象が決まっているものである
。
その価値の実現は, 通 常は市場に存在しているということである程度は保証されており, 選択肢 として願客に提供されている。
すなわち市場にあるものから必要に応じて 調達する, という價習が既に願客の
中 に あ り , その枠組みの中で願客に価 値を提供するという個習が企業にもあるのである。
それが市場を通じての 交換関係であるわけだが,その関係が企業と願客の間に.
リレ
ーシ ョ ン シップと呼ばれる関係に先んじて強力な形で存在しているのである
。
その視点から今日いわれているリ
レ
ーシ ョ ン シップを分析するならば, それは 「今日の産業社会の中で活動するものに当然とされている交換関係 を前提に,交換される価値の内容,交換の手法.
交換に関わる相互作用等 の点において, 関係主体 (企業と消費者に代表される) の個別的特性に基 づいて交換関係を個別特定化させようとする指向性」 の こ と で あ る と い え る。
従つて交換関係とここでいうリレ
ーシ ョ ン シ ップは, 本質は同じもの で あ り , リレ
ーションシップにっ
いては独自の指向性があるということに̲
l l l-
lg東北学院大学論集経済学第l36号
な る
。
同様にリレ
ーションシップ・ マ
ー ケ テ ィ ン グ につ
いても, リレ
ーシ ョンシップという指向性のマ
ーケティングであるといえ, 交換関係を前提 に, そこで培われたマー ケ テ ィ ン グ 諸 要 素 を リレ
ーシ ョ ン シ ッ プ と い う 指 向性の下で転換したものと考えるべきであろう。
2
-
2- 2 .
交換関係についての考察では交換関係とは何であろうか
。
これはリレ
ーションシップ以上に遥か に難間である。
私の能力ではとてもその本質を解明しうるものではないが, 今後論を進める上で必要な定義だけは行つておきたいと考える。
Weberは市場の起源について次のように述べている
。 「
市場は, いつ でも個人的な親交関係や,
主として血縁関係を前提とする他のいかなる共 同体関係とも,全く対照的な存在である。つまり,その根底において,い かなる親交関係とも無縁である。
自由な交易は, なんといっても近隣集団 やあらゆる個人的な関係の外部において行われる。
つまり市場は, 地縁, 血縁,種族などの境界間に置かれる,一
つの,形式上平和的な関係,いや 本来それらの間の, 唯一
の, 形式上平和的な県書なのであるl3)」
これをそ のまま解釈すると, 親交関係などを前提としない, 全くの他人同士が形式 的に平和的に結びうる唯一 の
関係が市場, と い う こ と に な ろ う。
そ う し た 他人同士が行う交換が市場交換である。
桂木Io に よ る と , 市場交換は本 質的に相互不信をはらんでいることになるが, メタ関係としての市場のネ ッ ト ワークである市場経済が自己增殖的に発達する過程において, 市場交 換はより信;l
真できるものになっていく, と さ れ る。
そしてその過程について,佐伯l5)はそれ以外の (政治等)社会システ ムと交流することで, 制度的に信額性が高められるとし, 桂木l6)は市場
l3) ゲ ル ト
・
ハ ル ダ ッ ハ, コ-
ル ケ'
ン・
シ リ ン グ 著.
石井和彦訳, 「市場の1
西, マーケ ッ ト の 経 済
・
文化史」,同文館,l988年.
pp.
7-
8より引用l 4 ) 桂 木 隆 夫 , 「市場経済の哲学」,創文社,l995,pp
.
l08 l 5 ) 佐 伯 啓 恩 , 「市場社会の経済学」,新世社, l 99
l.
pp.29-
48l6)桂木隆夫,前掲書,l995,pp
.
l08-
l l 720
-
l l 2-
リ レーシ ョ ン シ ッ プ
・
アプローチの変遷と新展開(2)システムの欠陥を意識的に共有することで,各行為者が積極的に市場シス テムに対する信頼を強めていく という倫理的プロセスを示している。 法的 な整備等は前者に, 教育や企業の広報活動等は後者に該当すると思われる が, 双方が共に市場シス テムの信頼性を高めてきたことは確かであろう
。
しかしそれ以上に市場システム
へ
の信績性 (依存性) を高めたのは, 市 場交換経験の蓄積であり, それを可能にしたのが市場関係, 市場交換が持 つ 「 コ ン テ ク ス ト・
フ リ一
性」 で あ ろ う。コンテクストからの自立が近代 社会の思考の基本様式であることを日置'
7)は指摘している。
政治, 社会制度のあらゆる局面にコンテクス ト
・
フ リーの思考が浸透し, コ ン テ クス
ト か らの自立
・
解放が正しいものであるという思考があらゆる状況に浸透 している。 特に象徴的にその思考が現れたのが市場経済システムであり, 地 縁 , 血 縁 , 主 従 関 係 , 心 理 的 傾 倒 な ど , あ ら ゆ るコ
ン テ クス ト か ら 解 き 放たれ, 等価交換という原則を満たせば誰とでも自由に交換を行うことが できるのである。そのコンテクス ト
・
フ リーの程度の高さ故, 市場交換は急速に普及した と い え る。
数 多 くの市 場 交 換 が な さ れ て い く こ と で , 市場交換は自己增殖 していく。
それが市場交換の信頼性を高める制度の整備を進め, 市場交換 に関する理解を普及させたといえる。 都市化, 核家族化といった現象も, 流通革命も, 女性の社会進出も, コ ン テ ク ス ト か ら の解 放 と い う 視 点 か ら 捉 え る こ と が で き る 。市場経済は,その発達により,コンテクス ト・
フ リーと い う そ の 特 徴 を 確 実 に 浸 透 さ せ て き た と い え よ う 。
しかしここで間題になるのが, メタ関係としての市場交換関係が
コ
ン テ ク ス ト・
フ リーを普及させるものであるのに対し,市場経済の産物であり, その牽引役ともいわれるマーケ テ ィ ン グ が , なぜある時点から (それは必 ず し も 明 確 で は な い が ) , コ ン テ クス ト・
ポ ン ド な 思 考 を 提 示 す る よ う に なったのかという点である。 しかもそこで結びっ
けられる主体は, 本来最も フ リーであると思われる企業と消費者なのである。
l7) 日置弘
一
郎, 「文明の装置としての企業」, 有斐関, 1994,pp.264-
296-
113-
21東北学院大学論集経済学第136号
l樓
, ロは,マ
ーケティング行動モードの認識モデルl8) と し て , 次の よ う な分類を示している。
市場行動モー ドー, enac加ent model fitness model
他者中心 順応 価値保有者
発見可能 価値発見 マーケテ
,
ング・
ミックス館interaction mode1
自他中心
一
体パートナー
発見困建 価値
t a
創関係性管理 行動思想
行動形態 対市場観 市場
m
発見の仮ll ・
前提行動方法 マーケティング手段
自己申心 統制 反応者 発見不要 価値説得 プロモーシ3ン管理
l
島口がenactment model
として分類したモ
ードは, 生産者と消費者の
間には特別なコ
ンテクストは存在せず, 気に入れば買う, そうでなければ 買わない, といった単純な取引しか成立しないと考えられる。
しかしそれがfitness mode
l と な る と , 生産者と消費者の間には徴妙な「歩み寄り」
が 見 ら れ る よ う に な る
。
願客ニ
ーズを捉え, それに対応することで顧客の 支持を得るという行動形態は, 特定の対象の
ための生産者というコ
ン テ ク ストを予見させるものとなっている。 interaction
modelに至つては,コ
ンテクストを創造することがマーケティングであるかのような内容となっ ている。 この状況を鑑みると, 経済学的視点からはともかく,
マ
ー ケ テ ィ ングの視点からは, 交換関係を単にコ
ン テ ク ス ト・
フリーな市場交換とだ け提えることは不適当と考えられる。
コンテクスト再生に向かうかの様な 動きの背景を随気にも捉えておくことが, 交換関係の理解にっ
ながると思 われる。
では, どの様な点からマー ケ テ ィ ン グ が
コ
ン テ クス
ト・
ポンドな方向へ
向かうようになったのかについて考察を進めよう
。
それは, リレ
ーシ ョ ン シップ指向のマ
ーケティングが目指されるようになった背景でもある。
と いっても, 包括的にその原因を考察することは困難であるため, ルーマンl8) 矢作恒雄
・
青井倫一・
l幅lロ充輝・
和田充夫著, 「イ ン タ ラ ク テ イ プ J ネ ジ'
ン ト」, ダイヤモンド社,l996,P.l 7 3 よ り
一
部変更して作成22