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螺旋形木造シェル形架構の開発研究 [ PDF

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Academic year: 2021

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37-1 1. はじめに 1.1. 研究背景・目的  持続可能社会の実現に向けて、近年日本の伝統的建 築材料である木材を有効利用するための取り組みが各 地で行われている。その中でも貫などの仕口による日 本の伝統工法は、接着剤や金物を使用しないためリ ユースが可能であり、循環型資源としての木材への期 待からもその重要性は大きい。一方で伝統工法は、職 人技術の低下や現在の建築生産システムとの整合性、 長期的なメンテナンスなどの問題を抱えている。  そこで、木材を利用し、建方に特殊な技術を必要と しない木構造として、螺旋形木造シェル形架構 ( 以下、 螺旋形架構 ) を開発した ( 図 1、2)。螺旋形架構の特 徴としては以下の点が挙げられる。 1)螺旋形状の架構である。 2)ポストテンションにより安定する架構である。 3)製作に特殊な技術を必要としない。 4)折り畳み可能な架構である。 5)杉の一般製材品を材料としている。  本研究では、螺旋形架構の特徴を把握し、今後の発 展可能性を探ることを目的とする。 1.2. 研究方法  まず初めに、螺旋を応用した既存建築を分析するこ とで空間特性と構造特性について考察し、螺旋形状の 特徴を理解する。次に構法、構造システムの概要から 螺旋形架構の特徴を把握し、鉛直加力試験より基本的 力学性状の検証、試行建設により架構の構法の検証と 施工性の確認を行う。以上より得られた知見から螺旋 形架構の発展可能性を探る。 2. 螺旋形状の特徴 2.1. 螺旋の定義  螺旋という言葉は、平面螺旋と立体螺旋の二種類に 大別することができる。後者は立体の表面に巻きつけ た螺旋のことで、円錐螺旋、円筒螺旋などの種類があ る。本研究では、平面螺旋と立体螺旋を合わせて螺旋 として扱う。 2.2. 螺旋形状の建築への利用 2.2.1. 螺旋形状の空間特性  建築に螺旋形状を利用した例を表 1 に示す。  以上から完結した形状と比較して、完結していない 螺旋形状は以下の3点の空間特性を有している。 1)分節しながらも一体的に繋がった空間である。 2)1つの明確な入口を確保できる。 3)拡張可能である。 2.2.2. 螺旋形状の構造特性  螺旋形状を建築の構造体に応用する場合、非完結形 状であることに起因して、構造的歪みが生じる。  螺旋構造を有する建築として旧正宗寺三匝堂 ( 以下、 さざえ堂 ) が挙げられるが、さざえ堂では構造的歪み による「抜け出し」という現象 ( 柱と梁が外れた状態 ) が確認されている。これは構造に生じるねじれ変形を 拘束する要素がないことが原因と考えられている* 1

螺旋形木造シェル形架構の開発研究

森 稔 図1 架構外観 図2 架構内観 名称/写真 螺旋の種類 円筒螺旋 円錐螺旋 円錐螺旋 平面螺旋 螺旋形状の応用 最上階で二重螺旋が交わって おり、上に昇る参拝者と降りる 参拝者の動線が交差しないよ うに設計されている。 螺旋形状により、明確なエント ランスを作っている。 螺旋状の動線に内包される吹 き抜けは水平と垂直を結ぶ求 心的で上昇感のある神秘的な 空間を作っている。 平面螺旋を平面のプランにそ のまま採用しており、中心部か ら外部へ拡張が可能であると いうコンセプトを具現化した美 術館である。 会津さざえ堂 ニューヨーク グッゲンハイム美術館 国立代々木競技場 第二体育館 国立西洋美術館 表1 螺旋形建築物

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37-2  螺旋形架構では、螺旋形状であることに起因し、 架構全体に歪みが生じている可能性があり、また厚 9mm の杉板材を使用しているため変形も大きく、歪 みも大きくなると予想される。そのため、建物全体の 変形を抑え、ねじれ変形を拘束する補強が必要である。 3. 架構概要  螺旋形架構は工場制作されたドーム部材と足元部材 により構成される(図 3)。  ドーム部材は設計値に切断した縦材の一端をボルト 固定し、曲げを加えることでドームを形成する。足元 部材は、板材に曲げを加えて円形に固定し製作した二 つの円形部材をボルト接合することで形成する。工場 製作された後、現場で組み立てることで架構を形成す る折り畳み可能な可搬性のある構造システムである。  螺旋形架構の特徴として以下の 3 点が挙げられる。 ①可搬性のある折り畳み可能な構造システムである。 接着剤を使用せず、ボルトとビスにより接合している ため、施工が容易で繰り返し建設することが可能であ る。②曲げ加工を必要としない曲面構造体である。放 射状に展開したドーム部材を曲げ、箍たがとなる足元部材 により固定することで安定する木の弾性を活かした架 構である。③拡張可能な構造システムである。ドーム 部材、足元部材はそれぞれ縦材と円形部材の数を増や すことで拡張可能であり、大規模建築にも応用可能な 構造システムである。 4. 鉛直加力試験 4.1. 試験概要  架構の強度と構造的歪みを明らかにするため、実物 大の試験体を用いて鉛直加力試験を行った ( 図 4)。使 用した杉板材の含水率は 11.2~18.7% の範囲で、含水 率の平均値は 15.2%である。  螺旋形架構は縦材が線材として働くため、荷重に対 して変形が大きくなることが予想された。そこで補強 を行い、その効果を検証するために複数のタイプの試 験を行ったが、各試験には同一の試験体を用いた。試 験は以下の 5 タイプの試験を行った。 type1:補強を行っていない架構 type2:地上 2,000mm をバンド補強した架構 type3:地上 2,000、1,000mm をバンド補強した架構 type4:type3 の架構に回転補強をした架構 type5:斜材補強をした架構  ウィンチで加力・除荷を行い、強制変位を与えた。 type1~3、5 では内法高さ 2,100mm まで、type4 で 図3 構造システム 図4 鉛直加力試験概要 1.板材を曲げて円形に接合する 2.ドーム部材と接合する 1.スライドさせて展開する 2.板材を一枚ずつ曲げる 3.足元部材と接合する ド ー ム部材 足元部材 CD ボルト アイ ナット M12 ボルト 縦材 足元 部材 ロードセル 1,000mm 巻込型式変位計 1,000mm巻込型式変位計 ウィンチ アンカー (単位:mm) 2345 2670 2805 3433 V10 V15 V20 V5 V25 *内側の縦材から順に V1、V2...V25と称す。

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37-3 は 2,034mm まで変位を与えた。 4.2. 補強方法 4.2.1. バンド補強  螺旋形架構は鉛直力を加えた時、縦材が面外へ湾曲 する。そこで、変形を面内にとどめることを目的に一 般的な梱包用のバンドである幅 15mm のポリプロピレ ン製バンド* 2を使用し、隣り合う縦材ごとを専用のス トッパーを用いて縛り止めて補強を行った ( 図 5)。補 強位置は模型(S=1/20)* 3で検討し決定した。 4.2.2. 回転補強  縦材と円形部材は一本のボルトで接合してあるた め、加力に伴い接合部を中心にのドームの面内方向に 回転が生じる。その回転を防ぐことを目的として縦材 と円形部材をビスで二箇所固定し補強を行った ( 図 5)。 4.2.3. 斜材補強  バンド補強と回転補強は施工性を優先したため、補 強材に圧縮力が作用したときに効果を発揮しない、意 匠面での考察に欠けるといったデメリットがあった。 そこで、架構の強度を向上させ、それと同時に縦材 の回転を抑える方法として、木材を用いた斜材補強 を行った。斜材補強には厚 5.5mm のラワン合板を幅 120mm に製材した板材を使用し、縦材と足元部材を φ 4mm のボルト二本で接合し、繋ぎ止めた ( 図 6、7)。 4.3. 試験結果  各試験の結果から、荷重-鉛直変位曲線図を図 8 に、 頂部の頂点の水平変位曲線図* 4を図 9 に示す。  図 8 より各補強に架構の鉛直方向の強度を向上さ せる効果があったことが分かる。特に type5 は、未補 強の type1 と比較して 3 倍以上の強度があった。一 方で水平変位は、type1 が最も変位が大きく、次いで type5、最も変位が小さいのは type2 であった。また、 type1 と type2-4 と type5 でそれぞれ変位の方向が大 きく異なった。type5 のみは除荷時に加力時と近似し た曲線を描き、ほぼ元の位置に戻った。 4.4. 考察  補強により強度が向上したことが確認できたが、一 方で、縦材間の距離が一定に保たれたことから縦材の 回転が生じやすくなった。  バンド補強では、一方向からのみ拘束されている V1、V25 がそれぞれ隣接する縦材の方向に大きく回 転した。また、除荷後の頂部の平面上の位置が載荷前 の位置よりも V25 の方向に変位した。これは、頂点 接合部の摩擦と、足元部材と縦材の接合部の摩擦によ り、縦材の回転が戻らず、架構全体に歪みが生じたた めと考えられる。  回転補強には、縦材の回転を抑える一定の効果は +2,000 +1,000 type2 type3,4 ビス M12 ボルト PPバンド ストッパー バンド補強 回転補強 単位:mm 図5 バンド補強と回転補強 図 6 斜材補強外観 図 7 斜材補強内観 図 8 鉛直変位曲線図 図 9 水平変位曲線図 2,400 2,300 2,200 2,100 2,000 500 0 1,000 1,500 荷重(N) type1 type2 type3 type4 type5 内法 高さ (mm) 1,761 521 0 50 100 単位:mm type1 type2 type3 type4 type5 最大荷重時のドットを拡大表記

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37-4 あったが、ビス二本ではめり込みが生じ、縦材の回転 を拘束する効果が充分であったとは言えない。  斜材補強では、鉛直方向の強度が大きく向上したが、 type2-4 と比較すると水平変位が増大した。また、加 力時の変形が V1、V25 で特に顕著であった。これは、 斜材補強によりドーム部材が一体化し、各縦材が影響 を及ぼし合うようになったことから、ドーム部材が縦 材の集合から面材に近い状態で機能するようになっ たため、拘束されていない架構の端部にあたる V1、 V25 が相対的に弱くなったのではないかと推測され る。架構の強度をより高めるためには、V1、V25 の 板厚を大きくするなどの対策が必要である。 5. 試行建設 5.1. 試行建設概要  螺旋形架構の構法の検討と施工性の検証をするた め、3,400mm × 3,400mm × 2,670mm の実大スケー ルで試行建設を行った。試行建設は、九州大学実験棟 にて行い、施工は全て学生の手により行うものとした。 現場建方における作業員は 2 ~ 6 名で、作業時間は 60 分であった。試行建設の手順を図 10 に示す。 5.2. 工場製作  工場での作業工程は、製材の加工とドーム部材の製 作である。製材の加工は、断面寸法 150mm × 9mm の杉板をドーム部材と足元部材の設計寸法長に切断 し、接合部のボルト穴を開ける工程のみである。螺旋 形架構は、曲げ処理を施さずにストレスを加えて曲げ るため、板材に一定の強度を必要とする。したがって、 節の少ない板材を選定した。また、材のばらつきによ り縦材が設計通りの曲線を描かず、正確に加工するこ とが不可能であるため、足元の接合部については現場 合わせでボルト穴を開けた。 5.3. 現場建方  現場建方は、特殊な工具や重機を使用することなく 全て人力で行った。建方の状況を図 11-14 に示す。  縦材は全て人力で曲げることが可能であり、箍たがとな る足元部材に接合した後は各縦材が力を及ぼし合い ドーム部材が安定した。簡易な作業工程であり、短時 間で建方を完了することができた。但し、縦材を接合 している一本のボルトを中心に縦材が回転し微調整を 必要としたため、二本のボルトで接合するなど、回転 を抑える工夫が必要である。 5.4. 考察  試行建設はおおむね支障なく完了することができ た。工場での部材製作や現場建方が、非常に簡易な作 業工程で構成されており、また加工の容易な木材を材 料として用いているため、特殊な技術を必要としない 短期間で施工可能な架構であると言える。今回の試行 建設は安全面を考慮し最大 6 名の作業員で作業を行っ たが、4 名程度まで人員を縮小することが可能である と考えられる。 6. まとめ  螺旋形架構は軽量で加工が容易、折り畳み可能で可 搬性があり、素人でも短時間で製作可能な非常に施工 性の高い架構である。補強方法次第では構造的な歪み を軽減させることもできる。また、明確な入口を確保 できるといった螺旋形状の特性も有している。以上の ことからテントの骨組みや屋台などの仮設建築として の利用法が考えられる。板厚を大きくすれば、比較的 大きな規模にも対応可能ではないかと思われる。  今後の展開としては、足元の回転を抑える方法や変 形に追従可能な仕上げ方法、床板の張り方等の課題を 検証していく必要がある。 図 10 施工プロセス 図 11 足元部材製作 図 12 ドーム部材展開 図 14 ドーム部材接合 図 13 ドーム部材組み上げ 【注釈】 * 1 参考文献4より * 2 引張強度 900N 以上、破断伸度 25% 以下 * 3 厚 1mm ボール紙の模型により検討し、部材間隔の変化の大きい位    置 ( 地上 2,000mm,1,000mm の高さ ) を拘束することとした * 4 変位曲線は図 4 の平面図の方向に対応している 【参考文献】 1)高木隆司著 /「かたち」の探求 / ダイヤモンド社 /1978 2)高木隆司編 / かたちの事典 / 丸善 /2003 3)石田潤一郎 • 中川理編 / 近代建築史 / 昭和堂 /1998 4)六角鬼丈、腰原幹雄ら著 / 旧正宗寺三匝堂構造調査報告会資料 /2009 ①材料のカット ②ドーム部材と足元部材の製作 ③足元部材の組立 ④ドーム部材の展開 ⑤ドーム部材の組み上げ ⑥ドーム部材の接合 ⑦完成 工場製作 現場建方

参照

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