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三次元座標モデルと四象限座標モデル
~TPP を考える基礎視座を求めて~ 富士大学 土田 和長 Tsuchida Kazunaga 小稿の構成 1.経済行為の実行条件――採算ラインのクリア―― 価格、異質な財・サービスの量的比較を可能にするもの、 2.最適化――効用最大化・費用最小化―― 3.平面図――2D、二次元座標モデル、無差別曲線(等量線)・価格比・予算線(等費用線)―― 問題点、2 変数関数を 2D 図で表すことの限界、高さがない、嗜好・効用・価格・ 予算、技術・生産量・価格・費用、採算性(消費満足率=効用 価格、利潤率= 価格 単位生産費用 -1)≧1+次善の利率、という経済行為の実行条件がうまく表示できない、売上 収入、利潤を表示、計測できない構図ゆえ、 4.空間図――3D、立体図、cubism、三次元座標モデル、tanθ=高さ座標 底面座標 ―― 立体図で、採算性(=高さ座標 底面座標)を表示、計測できるように補整する、 5.四象限座標――4D、高さ軸を再度平面図に、四象限設け、物理・心理・経済価値の dimension 連関―― 効用比、生産性比、単位生産費用比(=投入要素価格 生産性 の比)、価格比、代替率の関係 を単純明快模型(複雑多岐多層の現実から本質的な関係のみ抽出し、簡単/純粋/ 模写して型=テンプレート)=モデルに、効用、費用、価格、代替率の関係を容易 に理解できるように、3Ⅾ図より優れた描画・表示力をもつ、 6.スミス『国富論』寸時回顧 7.四象限座標と三次元グラフ 8.分配――私情評価でなく市場評価、評価の多元化と客観化―― 自給自足→分業と交換→財・サービスの市場展開→貨幣・労働も市場取引→市場評 価を介した分配(投入要素の市場相場価格形成)→中央集権機関の画一評価でなく 地域分権主体の多元評価のアンサンブルにより→償却・賃金・利子・利潤(市場変 動リスク含)、1.経済行為の実行条件
経済学は、基礎・応用・展開、または、理論・歴史・政策(経済理論・経済史・経済政策) から成り、うち、基礎=理論はミクロ経済学・マクロ経済学・経済統計学・経済理論史とか ら成る。私見である。2 経済活動の基本は適法性と損得判断にある。二宮金次郎は「尊徳」だが、兄貴分がいれ ば、きっと、一宮金太郎で、通称「損得」だろう。渋沢栄一が、「論語と算盤」はともに 大切、「倫理なき経済は罪悪だが、経済なき倫理は寝言」と言ったことと、これは同じ だ。損得判断は、 財・サービスの消費から得られる有難味>財・サービス獲得のために 贖あがなう代償 ∴ 効用>費用、 によって行われる。 この点は、洋の東西、歴の先後を問わない。ロビンソン・クルーソーは、航海途上で船が 難破し、無人島に漂着、そこで、助けが来るまで、もしかしたら、来ないかもしれないが、 来ると強く信じて、それまで生き抜くため、必要な消費財と生産財を生産し調達する計画を 立て実行した。難破船に残っていた使える資財を運び入れ、それを自分の労働と組合せ、生 活必要物資を効率的に生産した。彼の経済活動の実行基準は、 採算性=効用 費用=1+最善の利率>1+次善の利率(=機会費用) だった。 しかし、待て。上の採算性式の前提には、その前にある不等式、効用>費用、がある。損 得勘定するには、異なる財・サービス間の量的比較ができなければならない。質的に異なる 財・サービス間での量的比較、秤量をどのようにして行うのか? 有限の、希少な財・サー ビスがそれぞれに与える有難味、効用に基づいてそれは行われている。何と交換なら幾つで 応じてくれるのか? 何と交換なら幾つでそのサービスをやってくれるのか? という形 で共通の量的単位に通約されてそれは秤量されている。 しかし、効用は主観的で移ろいやすく、主体間で異なるもの、よって、基数的把握は不可 能、序数的把握がせいぜい、よって、主体内でも、主体間でも財・サービスの価値測定手段 として、交換基準として、効用を使用することは不可能、不適切、という議論がある。確か に、効用の量を直接知ること、測ることは不可能だ。しかし、それを当人が金額で表明する 場合は、他者にもわかる。マーシャルが言った、支払意思額 WTP、willing to pay、受取意 思額 WTA、Willing to accept、言い換えると、効用の金銭換算、価格表示である。 クルマの交通事故から訴訟ごとになることはよくある。クルマの交通事故に言葉の交通 事故(コミュニケション不全)まで重なって、双方歩み寄りの障害になっているということ もよくある。そういうとき、よく出る言葉が「誠意を示して」だ。誠意は何によって示され るのか? 謝罪の言葉の質と量だけではないはず。ふつう、係争する事柄に関わる心理量の 金額表示が求められる。よって、有難味(効用)と痛み(犠牲、失ったもの、費用)という 心理量の金銭表示は、可能か否か、問う前に、すでに実際に行われている、この事実を想起 すべきだ。 効用の金額表示は、当人さえ間違うことがある。しかし、取引と秤量の繰り返しの中で、 人は気づき、学び、その都度、訂正する。相場価格の無知を突かれ、騙されたと知れば、相
3 当の手段でお返しをする。そのことが予想できれば、相手も騙し行為を自重、自戒する。 投入した異なる財・サービスを費用として合算するときにも通約の手続きは必要だ。価格 とは、まさに、その必要を満たすもの、その役目を果たすもの、異質な財・サービス間の量 的比較、秤量を可能にする機能である。 そういう次第で、1 財調達の場合、実行基準は上の通りになる。では、2 財調達の場合、 その優先順、選択の判断基準はどうなるか? A財優先であれば、 A財採算性≧B財採算性 ∴ A財効用 A財生産費用≧ B財効用 B財生産費用 ∴AB財効用比≧AB財生産費用比 となる。 上の不等式が成立する場合、A財を優先生産、調達する。
2.最適化
――効用最大化・費用最小化―― 採算性条件がクリアされる限り、A財生産・調達は追加され続ける。このとき、限界効用 逓減と限界単位費用逓増を前提すれば、A財を追加調達するに伴い、その限界採算性は逓減 していく。逓減過程で、B財採算性と等しくなる、均衡する所まで行く。限界採算性均等と なる生産量・調達量において、ロビンソンの経済行動は最適(効用最大・費用最小)に調整 されている。 ロビンソンの生活と労働は自給自足だからこうなる。では、分業と交換が行われている経 済ではどうなるか? 分業と交換が自発的に行われるのは、そうすることが参加当事者に とって互いに有利有益だからだ。南国フルーツを北国が需要する場合(バナナをかつての東 独が欲したように)、東の労働集約国が西の資本集約国の技術を需要する場合、分業と交換 は双方にとって利益がある。一般にそれぞれが得意の分野に特化して、その産物を交易すれ ば、メリットが出る。問題は、生産性とコスト競争力において、どこと比べても劣る生産者・ 地域・国の場合も、分業と交換をするメリットがあるか? である。この場合でもメリット がある、と答えたのがリカードで、彼の比較生産費説の精華と言われている。問題は、この とき比較される対象だ。何と何が比較されて、分業と交易のメリットが確認されているの か? この点で曖昧な解説が未だ散見されるのは残念だ。 分業と特化は交易を前提とし、生産と消費が分離され、市場を介して再結合される経済制 度を前提する。そこでは、生産者と消費者が別主体になっている。採算性は、 生産の採算性= 売上 生産費用= 産出量×産出財価格 投入要素量×要素価格=要素生産性×取引条件>1+次善の 利率>1+借入利率 消費の採算性=
消費効用 購入費用= 満足 代償>1+次善の利率>1+預金利率4 となる。 さらに、そこで、雇用された労働によって生産が行われている場合、 雇用の採算性=産出量×産出財価格 投入労働量×賃金率= 労働生産性 実物賃金率>1+次善の利率>1+借入利率 となる。 完全競争下、価格受容型企業が自己最適(=利潤最大化)生産量を達成しているとき、限 界生産力逓減と限界単位費用逓増を前提すると、生産の採算性式より、主体的均衡条件式が 次のように導かれる。 限界要素生産性=1+次善の利率 取引条件 今、生産の 3 要素(資本、労働、土地)を利用し、一番儲かる財を、一番儲かる所で、 一番儲かる時に、一番うまく作る人たちを雇って、生産しているとしよう。すると、 1 生産の採算性= 総費用 売上 = 賃金率×利用労働+資本レンタル料×利用資本+地代×利用土地 産出量×価格 ∴ 価格 生産の採算性= 賃金率 労働生産性+ 資本レンタル料 資本生産性 + 地代 土地生産性 が得られる。 上式において、採算性が満たされる限り、労働、資本、土地が、それぞれ、加配され、 そのたび、利用各要素の限界生産力が逓減し、労働、資本、土地それぞれの限界採算性が 逓減しながら均等化され、要素コーディネートが最適化され、最適投入量、最適生産量、 最適単位費用が定まっていく。裁定行動→限界採算性均等化→See saw game theory、こ の天秤ばかり理論によって、3 要素が最適にコーディネートされたとき、労働の限界採算 性=資本の限界採算性=土地の限界採算性、が成立している。このとき、 賃金率 労働の限界生産性= 資本レンタル料 資本の限界生産性= 地代 土地の限界生産性
∴
資本の限界生産性 労働の限界生産性= 資本レンタル料 賃金率∴
土地の限界生産性 労働の限界生産性= 地代 賃金率となる。 その昔、チューネンは、資本の生産性を労働の生産性に還元、換算して、あたかも、労 働単独の力で財が産出されたかのように扱う仮想モデルを創った。それは、資本や土地の 生産性を、労働の生産性の何倍に当たるかによって数値化する試みだった。私たちには、 何人力 man power、何人前と言い換えた方がよりわかりやすい。エンジン(内燃機関、発 動機)の仕事能力を測るとき、標準的な荷役馬 1 頭の仕事量に換算して、それが何頭分の 仕事量に当たるかを基準としたのは、ジェームス・ワットだ。その彼が、ニューコメンが
5 発明した蒸気機関を実用に耐えるように改良し、蒸気機関の仕事能力の測定単位として、 何馬力 horse power、つまり、荷役馬の仕事なら何頭分に当たるかを採用したことは、科 学技術史に残る有名な実話である。 これを、もう一つの労働価値説、reasonable で受容可能な労働価値説と言い換えること もできる。
3.平面図
――2D、二次元座標モデル、無差別曲線(等量線)・価格比・予算線(等費用線) ―― 完全競争下、価格受容型消費者は自己最適消費量(効用最大化)をどのように達成してい るか、価格受容型企業は自己最適生産量(利潤最大化)をどのように達成しているか、この 問題を、2 財消費組合せの最適調整、2 投入要素の最適コーディネート、いわゆる最適化ル ールの問題として平面座標に図解し、説明するものが、二次元座標モデル、無差別曲線(等 量線)・価格比・予算線(等費用線)利用モデルである。 無数にあるAB2 財の消費組合せのうち、ある一定水準の効用を保つ(等効用・無差別の) 組合せを、横軸:A財、縦軸:B財とする座標上にプロットし、各点を繋いで線にすると、 右下がり、原点に向かって凸の曲線になる。無差別曲線(等効用曲線)である。 ここに、2 財の価格(比)が与えられれば、 価格比=限界効用比=限界代替率の逆数=無差別曲線の傾き(=微係数) となる点が最適点を示す。無差別曲線上の点移動でこの最適点へと 誘いざない、収斂させるモテ ィブは自利心(効用最大化追求心、利潤最大化追求心)である。 予算が与えられれば、予算内で可能な最適消費点は、予算線(傾きが価格比の逆数となる 右下がり直線)と無差別曲線の接点によって示される。 B財 無差別曲線 予算線 A財 最適点では、この 2 線の傾きが一致している。 採算性=A財限界効用 A財価格 = B財限界効用 B財価格 、 ∴AB限界効用比=AB価格比=AB限界代替率の逆数 与えられた予算内での効用最大化(等費用での利潤最大化)は、この接点で達成されてい6 る。それ以上の改善余地はない、さらなる適切化行動はもう出て来ない、現状変更の動きは 止まる、諸力均斉、パワーバランス、だからこそ静態、均衡点なのだ。 この勢力均衡、欧州史好みの表現を用いれば、ボナパルティズム均衡の状態(主体均衡よ り市場均衡により適合的な比喩表現である)になっているとき、採算条件はどうなっている か? クリアできているか? まだ、不明だ。経済行為実行の判断基準、可否条件の一番肝心の所、採算ライン超えがこ の図では明らかになっていない。採算ライン超えができているか、これを明らかにするには、 消費の限界採算性=限界効用 価格 =1+最善の利率≧1+次善の利率≧1+預金利率 機会費用 の関係が明確でなければならない。 限界効用>価格、 両辺の差≧1+次善の利率≧1+預金利率、 という、購入消費条件の充足が必要である。 同じことを、生産の実行条件に引き直して言うと、 生産の限界採算性= 価格 限界費用=1+最善の利率≧1+次善の利率≧1+借入利率 機会費用 限界費用<価格、 両辺の差≧1+借入利率、 が必要条件になる。総じて、 限界効用>価格>限界費用 という関係が明らかでない状態で、採算ライン超えについて、判断すること、考察すること はできない。 平面図に描かれた無差別曲線(等量線)は、大変便利なものであるが、こういう弱点を内 包している。 効用の基数把握を避け、序数把握に替え、空間座標で描画すべき 2 変数関数を平面座標に 投影・変換する「荒技」を強行した結果である、と言ったら、先人の工夫・苦労に対して感 謝不足、非礼になるだろうか?
4.空間図
――3D、立体図、cubism、三次元座標モデル、tanθ=高さ座標 底面座標 ―― 横軸に労働、奥行き軸に資本、高さ軸に効用(産出量)を目盛った三次元(立体)座標 をつくる。前節に描いた平面座標が、この立体座標の底面をなす。底面に描かれた予算線 (等費用線)上の任意の点に対応して、効用水準(産出量水準)を表す点を高さ軸に従い プロットし、それらの点を線で結ぶと効用(産出量)の山型空間曲線が現れる。立体座標 中に、この山型空間曲線を描くと、下図のようになる(2input1output モデルにした)。こ の図において、原点と等費用線上の任意の点を結ぶ線分(どの点と結んでも等費用)と、7 等費用線上のその点に対応する産出量の空間曲線上の垂直座標とを結ぶ線分を、高さ、産 出量とすれば、このときの採算性=産出額 総費用= 産出額 償却率×総投入額= 高さ 底辺=tanθ(分子におけ る価格との積を捨象しているが、当面の論旨展開に支障ない)となる。θを最大にする等 費用線上の点が資源配分、要素組成、資本-労働投入(比率)の最適点(利潤最大化かつ 利潤率最大化)を示す。 産出量 山型空間曲線 資本 θ 労働 この立体図と、よくある説明モデルとの関連を示せば、次図のようになる。 産出量 産出量 等量曲線 資本一定-労働可変 資本 資本 労働一定-資本可変 θ 労働 労働 等費用線が丑寅方向にシフトするにつれ、産出量の山型空間曲線も同方向に膨張しつつ シフトし、その軌跡は産出量の曲面(山、丘)を描くことになる。その曲面を、ある高さ で水平に切れば、断面の縁辺に等量曲線が現れ、労働軸、資本軸に平行に垂直に切れば、 資本一定-労働可変の産出量線、労働一定-資本可変の産出量線が現れ、等費用線に沿って 垂直に切れば、産出量の山型曲線が現れる。 これらの各線を利用すれば、最適化(効用または利潤最大化・費用最小化)ルールは、 教科書で紹介され各種資格試験・公務員試験等によく出題されるような標準的解法 5 つの 他に、別解法が少なくとも 9 つあることを知ることができる。この点については、進化経 済学会 19 回大会(於小樽商大 2015)で報告した。
8 産出量の山の稜線(尾根)を辿れば、最適産出量の空間曲線(産出量の山なら、投資-産出線、効用の山なら、所得-消費線)が得られる。要諦は、 箱根(ボックスルート?)の山は天下の嶮、函谷関もものならず、万丈の山千尋の谷、 前に聳え 後方し り えに支う、雲は山を巡り、霧は谷を閉ざす ♪ である。 話を戻し、等費用線上の各点を、対応する産出量の空間曲線上の各点で除すと、単位当た り平均生産費用曲線 AUCC:Average Unit Cost Curve が得られる。高さ軸を産出量から平 均単位費用に替えて新たにつくった 3D 座標中において、AUCC は、等費用線に沿って垂直に 立つ谷型空間曲線として描かれる。産出量の山型空間曲線と対の形で「山高ければ、谷深 し」、Cap 型に対し Cup 型(U 字型)の関係になる。3D 座標中に、この谷型空間曲線を描く と、次の図のようになる。 単位費用 平均単位費用曲線:AUCC 資本 労働 AUCC は、事業所、工場、企業のコスト競争力を総合的に反映している。個人のレベル、 課、部のレベル、全体のレベルでの一所懸命、一生懸命、一笑懸命(Last laugh, Best laugh) の努力・創意・工夫を反映している。AUCC の凹型曲線の底点は所与の条件下で可能な平均 単位費用の最小値=最適値=最も効率的な生産量を反映している。 AUCC は事業所の数だけある。それらの AUCC 群の各底点を生産量でウエィト付けし「ひと つなぎ one-piece(peace?)」にすれば、市場の供給曲線になる。先走りとなる非に目を閉 じて、予め言っておけば、マーシャルの長・短期費用の包絡線の改善見通しをここから得る ことができる(cf.村上泰亮「第 7 章費用逓減の経済学」『反古典の政治経済学(下)21 世 紀への序説(除説?)』中央公論社 1992 所収)。しかし、その点については、ここでは、産 出量の山の稜線、平均単位費用の谷の渓流として比喩するに止め、次回、機会が与えられた ときに述べたい。 事業所の数だけある AUCC のうち、市場が許容する範囲で一番上に位置する底点が標準単 位費用となり、それが市場取引価格を規制する。AUCC の底点がこの市場標準位置より下に なる企業には超過利潤が発生し、上になる企業には損失が発生する。採算割れ(赤字)企業 の場合、革新(旧結合の払拭→新結合の形成)によって捲土重来を期すか、操業停止(可変 費用を償い、かつ窮境が短期で終わる見通しなら)、撤退(可変費用さえ償わず、かつ窮境
9 が長期に及ぶ見通しなら)、転向(当該業界で希望を失うなら)、のいずれかを選択すること を迫られる。企業数の調整(淘汰)を通して需給調整が進められる。
市場を規制する標準単位費用 SUP: Standard Unit Price ともいうべきハードルをクリ アできないと、企業も従業員も存続困難となる。危機意識に促迫され、市場社会の参加者は 緊張感を維持し、切磋琢磨を続ける。産業振興、生活改善、地域発展、文化向上、科学技術 の発展、総じて進化がもたらされる。
5.四象限座標
――4D、高さ軸を再度平面図に戻し、四象限設け、物理・心理・経済価値 の dimension 連関を描画―― クルーグマン『ミクロ経済学』東洋経済新報社、2007、邦訳、394 ページに、2 国の効用 可能性フロンティア・モデルが載っている。水平軸:西国に配分される財、垂直軸:東国に 配分される財、の平面座標において、原点を中心に四分の一カット円を描き、効用可能性フ ロンティアを表す曲線とし、四分の一カット円の孤上のどの点も効率点だから、最適点を一 点に絞ることはできないとしている。 注:クルーグマンの座標では、水平軸:西側の人の総効用、垂直軸:東側の人の総効用、となっている。総効用は 縦横座標の合計で測られ、四分の一カット円ゆえ、弧上のどの点も等値、無差別と把握する。小稿では、軸目 盛をそれと替えている。 東国に配分される財 効用可能性フロンティア 西国に配分される財 この図の背後に、消費可能性フロンティアと生産可能フロンティアがあることを考慮し、 東国民、西国民それぞれの生産性(平均単位生産費=投入財価格 生産性 )と嗜好(効用感知力)を 斉一とするなら、それはその通りだろう。東西二国の財配分が異なっても、東西合計効用に 違いは出ない、その意味で無差別である。 しかし、生産性と平均単位生産費が二国間で異なる場合は別になる。その場合は、効用可 能性フロンティアを四分の一円で描くことができる場合でも、弧上の点をすべて最適点と することはできなくなる。最適点はギュギュッと絞られる。四象限モデルを使うことにより、 最適点を探索することが有意味になることを確かめよう。 そのために、まず、東西二国間への 1 財配分モデルから、東西二国間における 2 財選択モ10 デルに設定を替え、第 1 象限に 2 財生産可能フロンティア、第 2、第 4 象限に 2 財それぞれ の効用曲線(限界効用逓減を想定)、第 3 象限に 2 財効用の合計曲線(効用可能性フロンテ ィア)を描き入れる。または、第 2、第 4 象限に 2 財それぞれの生産費用曲線(限界費用逓 増を想定)、第 3 象限に 2 財の生産費用の合計曲線を描き入れる。 東西二国のフロンティアの位置は二国それぞれの生産性を、フロンティアの傾きは二国 それぞれの単位当たり生産費用比、価格比、代替率を反映しており、傾きの違いは二国間の 「比較生産費」を反映している。実線:西国、点線:東国、投入資源量(労働力)同量、生 産性=産出量 投入量、単位生産費= 投入資源価格 生産性 、限界生産力一定、と仮定する。 次の四象限グラフにおいて、第 1 象限:A財、B財の生産可能性曲線、第 2 象限:B財 効用線、第 4 象限:A財効用線、第 3 象限:A財効用+B財効用の合計線、とする。合計 効用最大化点と、それに対応するA財産出量とB財産出量の最適コーディネート点は、ど のようにして求められるか? 最適点は、第 3 象限の合計効用曲線上にあって、原点より 最も遠くに位置する点であるから、三平方の定理によって、ピタゴラス一致点として求め ることができる。 B財数量 生産可能フロンティア 西国 B財効用線 東国 最適点 B財効用 A財数量 A財効用線 AB財合計効用線 A財効用 上図において、第 1 象限の東西二国の最適点は、第 3 象限の二国それぞれの合計効用最 大化点に対応して決定される。生産可能性フロンティア上の最適点を起点に、交易相手国の 代替率で比較優位の財・サービスを貿易すると、消費可能フロンティアが生産可能フロンテ ィアから転轍し、図中の矢印が示すように、原点から遠ざかる方向に軌道替えされることに なる。軌道転轍角度は相手国の価格比をそのまま適用すれば、相手国には損得なし、自国は 大幅有有利となる。しかし、自分よし、相手よし、世間よし、の近江商人(均衡承認?)の
11 三方(算法)よし精神で、裁定がなされ、採算性均等化法則が働くため、相手国の価格比よ り小幅なものに止まるだろう。 ここで、用語の定義をしっかりしておこう。絶対優位とは、他より絶対的に高い生産性で、 つまり、同量の資源を使って他より多くの財・サービスを生産する能力において、絶対的に 優位であることを意味し、単位生産費の低さ(コスト競争力)において絶対優位であること を意味する。 生産性= 産出量 投入資源量、A生産性= A産出量 投入資源量、B生産性= B産出量 投入資源量 単位費用=投入価格 生産性 均衡では、 限界効用比=価格比= 1 限界代替率 単位費用比= 価格比 生産性比 限界効用比=価格比=限界単位費用比= 1 限界生産性比 貿易が行われる場合、3 つのケースが想定される。①貿易二国のどちらかしか作れない財 の場合、②どちらも作れるが、二国間で得意が分かれる財の場合、③どちらも作れるが、ど ちらの生産も一方が他方より不得手の場合、の 3 ケースであり、①②のケースにおいて貿 易メリットがあることは自明ゆえ、問題とされるのは③のケースである。 貿易は、絶対優位でなく比較優位に基づいて行われる。絶対優位とは生産性のこと、その 逆数が単位費用だ。相対優位とは自国内産業間での生産性と単位費用の相対優位(時系列で 測る)のこと、比較優位とは貿易二国それぞれにおける国内産業の相対優位の違いから生じ る機会費用(犠牲費用)の少なさを基準に優劣を表すものだ。比較優位とは、他より低い機 会を武器に交易メリットを見出せる点での有利さ、強みを表すものだ。ある財・サービスの 生産に資源投入することは、他の財の生産に同じ資源を投入することを諦めるということ だ。あるものを得るために諦めるもの、犠牲にするものの大きさを表すものだ。よって、一 般に、 得るものの価値>諦めるものの価値、 ∴ 得るものの価値 諦めるものの価値= 得 諦の価値比= 得 諦の費用比>1+次善の利率 であるが、東西二国の絶対費用と機会費用を、2 財の生産可能性フロンティアの例で示すと、 絶対的生産性と絶対生産費用は、二国それぞれの生産可能性フロンティアと原点間の距離 に反映され、相対的生産性と機会費用は、二国それぞれの生産可能性フロンティア上の任意 の点の傾き(=微係数)に反映される。
12 いわゆる比較生産費説は、貿易二国間の生産可能性フロンティアの傾きの違い、角度差に 着目したもので、角度差があれば、その差(代替率差)を利用して貿易することから差益を 得ることができる。東西二国間の文化的嗜好(=効用に反映)、価格、費用の差異→交換差 益追求→貿易メリット、ここ着目して、より有利な生産と交換を行うのは、貿易二国間に止 まらない。より一般的に、地域間、産業間、本業と副業間で行われる分業と交易の再編、選 択と集中、それらと本質的、原理的に、変わるところはない。 この点は、経済学の父とも称される、A.スミスが『国富論』4 編 2 章でとうに指摘した所 で、今さら新しく戸惑うことはないはず、当節、散見される議論の混迷、ダッチロールぶり は、一体、何に幻惑されたものか?
6.スミス『国富論』寸時回顧
――4 編 2 章「国内で生産できる商品の輸入規制」―― 以下は、山岡洋一訳、日本経済新聞出版社、2007、の pp.28~34 からの要約摘記、行論 に関わる限りでのそれである。 国内で生産できる商品を規制(高関税、輸入禁止)すれば、国内市場を独占し、国内産業 を保護できる。家畜、塩漬け肉、穀物、毛織物は規制中、絹織物、亜麻布は規制努力中だ。 輸入規制産業の社会の中での労働と資本シェアは高くなるが、それによって社会全体の産 業活動が活発になるかどうかは不明だ。問題は、社会の資本の振り向け先の方向付けで、自 然に任せたときと、人為的に規制したときと、どちらが有利になるか? 市場経済の自然作 用と、計画経済の人為的誘導、どちらに委ねると、より有利となるか? 人は皆、自分が使える資本を、もっとも有利な使途に振り向けようとする。自利に従って 振り向ければ、見えざる手の導きで、結果として社会にとっても有利となる。 ① 誰でも、自分の資本を、できるだけ近い場所で使おうとする。長期にわたり、自分の目 の届かない所に、信用供与した取引先の性格や状況を知り難い遠方に使おうとしない。 騙されても、熟知した法律で救済を求めることができる所に、使おうとする。<投資判 断、リスク回避>、よって、国内取引>国内消費用貿易>中継貿易、が投資の自然な優 先順序。 ② 利益率がたいして変わらないのであれば、誰でも自然に、国内の労働を支える力がとく に強く、収入と仕事を得る国内居住者の数が多くなる方法で、自分の資本を使おうとす る。<国内雇用優先> ③ 国内での雇用に自分の資本を使う人は誰でも、できるだけ、価値の高い生産物の生産に 労働を振り向けようとする、政治家や立法者の判断より、分権主体がそれぞれに置かれ た場所、直面している状況に応じて判断したほうがはるかに的確、「置かれた場所で咲 きなさい」、<投資判断、採算性、収益性>。 ④ 賢い家長なら、買う方が安くつくものは自分では作らない、外注する。仕立屋は靴を買 うときは靴屋で、靴屋は服を買うときは仕立屋で、農民は靴または服を買うときはそれ ぞれの職人に注文する。支払は、各自が得意とし特化した産品を売って稼いだ収入によ13 って行う、<分業と交換>。 ⑤ 自国で生産するより外国から買った方が安くつくとき、自国労働は自国優位産業に投じ、 自国優位産物の一部と交換に安い外国産商品を買う方が有利、<国際分業と貿易> ⑥ 外貨がないと輸入は不可能、安くとも、欲しくとも、それを購う手段がないと、外貨稼 得産業がないと不可能→供給が需要を創り出す、の本源的意味、<国際分業参加条件>、 「無償援助」や「一方的貢納要求」は経済取引と別次元。 ⑦ どの時期でも、社会全体の資本と労働は、その時点でもっとも有利な方法で使用可能な 資本によって獲得可能な上限まで収入を増やすことができる。資本と収入をともに最速 で増やすことができる、<資本と労働の最大成長>。 競争優位とは、 高生産性 高価格 採算性=収益性=生産性×取引条件、 where 取引条件=産出財価格 投入財価格= 産出財価格 賃金 低賃金 である。利源の洗い出しは、絶対優位、相対優位、比較優位の観点から行われる。 ここで、スミス→チューネン→クラーク、の線を振り返っておこう。クラークは、経済学 の説き初めに独立生産者、自給自足をメインとする自立生産者を置いた。彼は、必要なもの の有難味と、その獲得にかかる手間暇、トラブルを熟知していて、 ユーザーとして感じる有難味>メーカーとして負担する知心技体の大変さ を比較し、採算性がとれるか、熟慮する。自分で作れるものと作れないものに分け、後者は 外注または他所から購入して調達する。自分でも作れるが、他者より不得意でコスト高とな るものは、分業と交換の原則に従う。基準は、採算性=生産性×取引条件、であり、取引条 件は競争市場で所与ゆえ、生産性向上、単位コストの低廉化に、彼は、努力を集中すること になる。生産性と単位コスト競争力は、生産可能性フロンティアの原点からの距離に反映さ れ、2 財の限界代替率、技術的限界代替率は生産可能性フロンティアの傾きに反映される。 この傾きの生産者間における違いを利用して、取引相手の傾きを、自製生産物との交換に有 利となるよう適用すれば、生産可能性フロンティアを突破して丑寅方向へ消費可能性フロ ンティアを拡張し、より豊かな消費生活を実現することが、彼には可能だ。 彼の判断基準は、採算性= 総効用 総調達費用であり、 消費者と生産者が市場を介して繋がれる場合、採算性= 総効用 総購入価格× 総販売価格 総生産費用=需要者採 算性×供給者採算性、となり、 消 費者 と生 産者 の間 に流 通者 が介 在す る場 合は 、採 算性 = 総効用 総購入価格× 総小売価格 総仕入価格×
14 総出荷価格 総生産費用=需要者採算性×流通者採算性×生産者採算性、となる。 各式とも、≧1+次善の利率、という採算条件がつく。採算性が均等化されていれば、均等 採算性=√需要者採算性×供給者採算性、または、採算性=3√消費者採算性×流通者採算 性×生産者採算性、となる。
7.四象限座標と
3 次元グラフ(続き)
水平軸:A財、奥行き軸:B財、垂直軸:2 財合計効用、の 3 次元グラフによって表すと、 AB合計効用 B数量 A数量 B財数量 生産可能性フロンティア 西国 B財効用線 東国 B財効用 A財数量 西国 東国 A財効用線 AB財合計効用 A財効用 フロンティア~この線上で原点から最も離れた点が最大効用点15 上の四象限座標の第 3 象限において、合計効用の最大点を、ピタゴラスの定理を用いて 探索することもできる。限界生産力逓減に仮定変更すれば、第 1 象限は右下がり曲線にな る(東国のA財生産性を西国のそれより優位に仮定変更している)。 上図の第1 象限を底面とし、垂直軸にAB合計効用を目盛った 3Ⅾ図(三次元図)をつく り、その図中に、効用フロンティア(実は生産数量組合せを示す生産可能性フロンティア、 それは同時に、消費可能性フロンティア)に沿って、垂直に立つ効用の空間曲線(曲面)を 描くと、それは、野球帽の鍔brim of the cap、bill of the cap を垂直に立てた形になる。 効用 B財数量 A財数量 B財費用線 B財数量 生産可能性フロンティア 費用最適点 B財効用線 裁定・調整、市場競争・主体最適 効用最適点 B財費用 A財数量 B財効用 AB財 合計費用線 A財費用線 AB財合計効用線 A財効用線 A財効用・A財費用 生産可能性フロンティアを直線にし、それに限界費用曲線も描き加えた 4 象限座標をつ
16 くる。第 1 象限は、価格(比)と選択可能性フロンティアを、第 2、第 4 象限は、第 1 象限 に対応した効用と費用を、第 3 象限は、第 2、第 4 象限に対応した、合計効用と合計費用を 表している。 上図の第 3 象限において、最大合計効用は、原点から最も遠く離れた合計効用曲線上の点 によって示され、最小合計費用は、原点から最も近い合計費用曲線上の点によって示される。 2 点ともピタゴラスの定理、三平方の定理を用いて求めることができる。 上の 2 つの最適点に対応する第 1 象限の生産可能性フロンティア(配分可能性フロンテ ィア、交換可能性フロンティア)上の点を求めれば、対応 2 点が生産(配分、交換)の最適 点を示すものとなる。このことを指摘することは、今、特に重要である。 流布している説明法では、完全特化を前提して貿易メリットを説く。その方が説明として わかりやすいからだ。しかし、完全特化を前提すれば、貿易デメリットを被る者、被る額を 過大に見積もることとなり、反対する人々を勢いづけることになる。 しかし、現実上も、理論上も、完全特化は起こらない。少なくとも、ただちに起こるもの でない。一般的に、①すべての財・サービスが貿易の対象になるわけでない、②ほとんどの 財の生産には機会費用の増大が伴う、③財の嗜好は国々により異なる、等の理由からだ。四 象限座標に即して言うと、生産可能性フロンティアから消費可能性フロンティアへの転轍 が行われ、消費可能領域が丑寅方向に拡張する貿易取引経路は第 1 象限の最適点からスタ ートするのであり、縦座標、横座標の切片からスタートするのではない、ということだ。 一国が他国に対し、ある財の生産において比較優位を築いても、時間の経過とともに、あ るいは状況の変化により、その優位を失うことはありうる。比較優位を、ある財において失 っても、他のより有利な財で比較優位を獲得することもありうる。必ずそうなるという保証 はない。その国の選択と集中、意思決定、能力構築努力、貯蓄と投資、外資誘引能力に依存 する。 貿易メリットを取り込む以前の最適点は、第 3 象限における、合計効用最大化点-合計費 用最小化点=利潤最大化点、によって求められる。 生産者余剰=(価格-単位費用)×生産量 消費者余剰=(効用-価格)×消費量 総余剰=生産者余剰+消費者余剰=(効用-単位費用)×生産量 ~全量販売前提 最適点では、限界採算性均等ゆえ、 消費と生産の、A財限界採算性=B財限界採算性 ∴A限界効用 A価格 = B限界効用 B価格 、∴限界効用比=価格比 ∴ A価格 A限界単位費用= B価格 B限界単位費用、価格比=限界単位費用比 ∴限界効用比=価格比=限界単位費用比 となっている。
17 グレン・ハバード『ハバード経済学Ⅲ基礎マクロ編』日本経済新聞出版社、2014、11 ペー ジ に 、 生 産 効 率 productivity efficiency = コ ス ト 最 小 化 と 、 配 分 効 率 allocative efficiency=消費需要への just fit と、2 つの効率性への言及がある。その最適化メカニ ズムについてここで明らかにした。 慌てて付け加えるが、図の第 1 象限では 2 つの最適点間にズレが生じている。これは、筆 者の描画力の不足のせいで、後で直したい。この分の調整 fine tuning、要素ごとの採算性 の均等化(消費構成最適化による効用最大化と、生産構成最適化による費用最小化と)は裁 定行動によって行われる。 消費構成最適化による消費効用最大化(その延長上に交易メリットも)、生産構成最適化 による生産費用最小化、この 2 つのメリットを 2 つながら図上にクリアに示し、消費者余 剰最大化と生産者余剰最大化を対応的に描き出せる点で、3D グラフより、4 象限グラフの方 が使い勝手がよいと言えそうだ、 効用最大化する生産量組合せ(一国、一地域の住民の嗜好で決まる)と、費用最小化する 生産量組合せ(生産技術により客観的、ユニバーサルに決まる)と、合理的な経済人なら、 与えられた情報を最大限に駆使し、財とサービスが最適に供給されるように自己の行動を 選択・集中する。 人の行動は、合理的と言っても、所詮、人の行動ゆえ、限定合理性に留まる。人は予測不 可能な時、ヒューリスティックに意思決定、行動選択する。何を頼りに? わかっているこ と、経験知識、第六感、勘を頼りに、最善と思われる行動を選択する。それでも、やっぱり、 採算性の判断、わかっている範囲での、経験で形成された自己の価値観に基づくそれ。限界 採算性が財・サービス間で異なるなら、調整・裁定、限界採算性均等化、シーソー・ゲーム、 天秤ばかり行動が出て来る、 生産効率→自然科学(物理・化学の対象)→生産者余剰、 配分効率→社会科学(社会・組織・個人・心理)の対象分野→消費者余剰、 経済学はカタラクティクス=交換の科学、とも言われる。型楽テクス、現実を模して単純 な型をつくる、諸関係を見えやすくして楽に本質を見抜く。<模型>、モデルの役割は、現実 を模した型をつくり、楽に交換の本質を見抜くテクニックだ、と言う意味を込めて、経済学 は型楽テクス。
8.分配関係
――私情評価でなく市場評価、償却と賃金・利子・利潤―― 労働・資本・土地の「三位一体」に経営を入れ、「四天王」視角から分配の経済効率的な 最適化問題(地域・国ごとに異なる文化的要因から影響を受ける公正基準の最適化問題とは 別)に接近する。採算性最大化、要素ごとの採算性・利率の均等化、その自然形成メカニズ ムは、各人の幸福追求、利得追求、自利最大化行動を起動因として作動する。 総資本の採算性= 資本による産出量×産出財価格 資本財投入量×資本レンタル価格× 資本投入額 総費用額 +18 労働による産出量×産出財価格 投入労働量×賃金 × 雇用額 総費用額+ 土地による産出量×産出財価格 土地投入額×地代 × 土地費用 総費用額 =資本生産性×資本取引条件×資本費シェア+労働生産性×労働取引条件×労働費 シェア+土地生産性×土地取引条件×土地費シェア
限界生産力逓減と競争均衡状態において、要素裁定、See saw theory、天秤ばかり理論、 限界要素利率均等化法則、いろいろ呼び方はあるが、ともかく、この運動の作用、仕組みに より、一定の資本-労働比率で労働採算性=資本採算性が成立する。このとき、労働者にと っての労働の採算性=雇主にとっての雇用の採算性=融資者にとっての資本の採算性、が 成立する。 他方、労働者が労働供給する(雇用されて働く)気になる採算条件は、労働の負効用<賃 金、であり、雇用主が労働を需要する(雇用して事業経営する)気になる採算条件は、賃金 <労働の限界生産額、だから、 労働供給の採算性= 賃金 労働の負効用>1+次善の利率> 賃金 労働力維持費 労働需要の採算性=労働の限界生産額 賃金 >1+次善の利率>1+借入利率 と表すことができる。 労使間のパワーバランス、競争均衡が成立している所では、労働供給の限界採算性=労働 需要(雇用)の限界採算性、が成立しているから、 賃金2=労働の限界負効用×労働の限界生産額 ∴均衡賃金=√労働の限界負効用×労働の限界生産額 が導ける。 ケインズがいう古典派の第 1 公準、第 2 公準に比定して言い直すと、 資本の生産力≧労働の生産力≧実質賃金≧労働の負効用 より、最左辺≧第二辺、は資本の採用条件、第二辺≧第三辺、は雇用の採算条件、第三辺≧ 最右辺、は労働供給(雇用されて働くこと)の採算条件を示す。 「百姓は生かすべからず、殺すべからず」といわれた時代があった。維持費以上に余分に 与えると、贅沢を覚え、働かなくなる、維持費未満では、痩せ衰え、働けなくなる、元も子 もなくなっては大変だ、という意味で、封建時代の思想である。一般に、総生産額-償却費 -原材料費=付加価値、であるが、このような封建思想では、付加価値のうち、労働維持費 を超える額はすべて雇用主側が取ることが適当だ、とする封建的分配論になる。 反対に、付加価値はすべて労働者が産み出したものだから、すべて労働者に戻すべきで ある、雇用主が付加価値から僅かでもとったら、それは「搾取」、「横領」、「ピンハネ」 だ、と糾弾する思想もある。「労働全収権」的分配論になる。封建的分配論は労働利潤ゼ ロ論と、労働全収権的分配論は資本利子ゼロかつ経営利潤ゼロ論と、言い換えることもで きる。
19 これら、両極端の分配論(思想の亡者=カネの亡者)と、市場メカニズムで決まる分配 論(経済科学)との違いを示す境界線、分水嶺、団塊世代が、懐かしい昔、大学受験生時 代にラジオでよく聞いた「ルビコン河(原歌詞はイムジン河、それを「来た、見た、勝っ た」のルビコン渡河に変換して)水清く、滔々と流る♪」と唄われたあの境界線はどこに あるか? 投入要素量×要素限界生産額=要素報酬、において、競争均衡では、要素投入額×均等 限界採算性=要素報酬、となり、労働、資本それぞれに、限界採算性に対応する均等な率 に基づき要素維持費を上回る報酬が受けられる。労働報酬には、生活費維持分に加え、利 潤(利で 潤うるおう分、生活向上分、能力開発元本)相当分がある。労働力の維持費<賃金、と |労働の負効用|<賃金、(左辺を金銭換算するか、右辺を効用換算して term を揃えること が前提だ)が成立する。 ところで、耐久消費財、固定資本財の場合、償却率の問題が入る。総投入額のうち償却分 しか費用に入らない。費用=総投入額×(償却率+利子率)、であり、資本レンタル料=利 子込みの返済額、と規定し、融資を受ける経営者は、単位経営期間ごとの資本費用負担額を、 投入総額×(償却率+利子率)≒返済額、と算定して、この部分にのみ負担責任に伴う代償、 経営報酬を求める、と仮定する。未償却のレンタル資本については、一回で使い切られる財・ サービスと同じように増減調整できるかのように擬制する。こう仮定することによって、資 本-労働の 2input1output モデルの操作性は担保される。資本購入額と資本レンタル額を区 別して規定したとき、この含意は織り込み済みであったのだが、意外に盲点となっているよ うにも思われるので付言しておく。 経営者にとって、利子はレンタル料のうちに費用化され確定されているが、利潤は、売上 収入-(償却額+利子)=付加価値、そして、付加価値-賃金=経営利潤、として、不確定 性含みの残余差益となり、変動リスクをかなりの幅で持つことになる。この点、額が事前に 確定している利子とは決定的に異なる。よって、経営報酬にリスク・プレミアムが積み増さ れなければ、同学力・同能力で選択可能な官僚職の安定的地位・収入が可能な場合、経営職 は、官僚職に比べて割に合わない職業となってしまう。そうなっては、企業家、起業家の道 に進む有能な人材が確保困難となり、国力をミクロ次元から衰運に向かわせる元となる。 経済効率原則からは、生産要素ごとに、allocation→contribution→distribution→ extenuation→fine tuning、となる。 お仕舞いにチューネンについて付言する。彼の『孤立国』第二部の分配論は、労使関係と 労資関係が一体に展開されていた。労賃と資本利子の分配を論じながら経営利潤をも取り 込んでいた。利子を超過する経営利潤部分を、彼は、「混合所得」として労働者の所得に組 み入れていた。彼が問題にした労働者は、労働と経営を兼務する自立プレマネ型生産者だっ たからだ。この兼務労働者の労賃は、本来の労賃と経営利潤の「混合所得」として計算され ていた。こういう特異な算定方法にリフレが足りなかったことも、彼の労賃規定をめぐる議 論を長く迷宮 labyrinth に 誘いざなった一原因だ。
20 主体均衡の状態下では、固定資本の償却額=補填額、であるから、償却率×資本装備率= 1、チューネンの仮定条件では、資本償却=労賃、となる。一人当たり産出額=労賃+資本 償却+利子+経営利潤、一人当たり付加価値=労賃+資本利子+経営利潤、これらの点への awareness がここでの味噌、ズイズイズッコロバシの護摩味噌髄である。 利子は総資本に対して、労賃は一人の労働に対して、利潤は一人の経営能力に対して、労 働賃料は一人当たり融資額に対してのものだ。これらの点をリフレして√ap式を理解す るなら、それが意外に reasonable で robust なものだったと知ることができる。 固定資本の存在、その存在による資本構成比の違いから、限界効用比=価格比≠限界単位 費用比、となることを指摘し、労働価値に基づく等価交換=交換の正義、の維持に悪戦苦闘 したのはリカードだった、彼は、結局、等式放棄に至るが、しかし、理論上、放棄するのは 早計だった。資本購入費と資本レンタル料を使い分ければ、整合性は確保できた。 資本と利潤・利子の関係を、利を産む親子の関係、利親・利子の関係として概念化し直す 必要がある。利産みに関して全世代AL型学修を採る必要がある。
ALPS:All Labor Produce Surplus. 人も牛馬も、犬猫もロボットも、現在労働も過去労 働のストックも、それらの労働力能の発動・発揮が人々に効用をもたらす財・サービスを産 み出す限り、価値および余剰価値(利潤・利子)を産み出す。いずれの経済資源も使い方次 第で人々を利で潤す。 古典派=費用説、反古典派=限界効用説、両者を統合してマーシャルの新古典派、ケインズ は有効需要理論と流動性選好説をもって自説以前の、古典派+反古典派=新古典派を、一か らげに「古典派」と規定、サムエルソンは新古典派とケインズ派を統合して「新古典派総合」 と規定、その後、マネタリスト、合理的期待形成派、期待と実際との間の乖離派、乖離の調 整速度とタイムラグ期間中に経過的に残存する乖離が引き起こす「短期」現象を考慮したニ ューケインジアン、リアル・ビジネス・サイクル派、行動経済学派、実験経済学派、心理経 済学派、神経経済学派、と続き、今や、各学派が、各様の表現形態を多様に保持しながら大 同団結し、進化新古典派、古今現諧和派として、経済学のコモンズをまとめる季節に入ろう としている。 そういう季節まで現役で生き延びることができた幸運な昭和世代の一人として抱く感慨 を、どう表現したら、うまく伝わるか? たかが我らの時代、されど我らが日々、ロマンの 残党、いてもいいだろ、こんな奴、まだ…。 各学派が大筋において合意できる価値論『古今集』、価格論『今昔物語』を綴りたい。藤 原公きん任とうをもじっていえば、均等きんとう利率を基軸に価値論『和漢(洋――筆者挿入――)朗詠集』 を綴る。古今・大和・和諧 Great Harmony の精神に基づいてまとめたい。これを「進新古典 派総合」と表現しても差し支えあるまい。 2016.1.31(日)脱稿