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密教研究 Vol. 1935 No. 54 006渡邊 英明「悉曇梵語初学者の為めに (三) P105-119」

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(1)

(三

)

第 十 六 章 訖 里 章 、 梵 に 此 章 は 等 の 體 文 の 字 體 へ 別 摩 多 を 付 し て 建 立 し た も の で あ る 。 別 摩 多 を 合 成 す る に 就 て 、 別 摩 多 の の 四 字 の 中 、 何 れ の 字 を 以 て 此 章 に 用 ひ た も の で あ る か 、 悉 曇 字 記 に は 、 悉 曇 別 摩 多 中 里 字 な り と 云 ひ 、 一 行 阿 闍 梨 の 字 母 表 に は 訖 里 字 と 云 ひ 、 寛 智 の 要 集 記 に は 利 字 と 云 ひ 、 或 る 説 に は 、 神 通 の 詑 里 字 と も 云 つ て ゐ る の で あ る 。 而 し 元 來 此 章 は 、 別 摩 多 の 四 字 を 以 つ て 各 々 一 章 つ つ を 建 て 四 章 を 建 立 す べ き も の 、 即 ち の 各 字 各 一 章 を 建 立 し 、 四 章 と な る 可 き も の で あ つ て 、 特 に 今 は 此 等 四 章 の 建 立 あ る 中 章 を 擧 げ て 、 他 の 三 章 を 例 し た も の で あ る 。 章 を 特 に 用 ひ た の は の 二 字 は 共 に 其 の 音 複 聲 、 而 も 不 音 便 で あ る が 爲 め に 、 之 れ を 用 ひ す 、 の 爾 字 は 共 に 單 聲 で あ り 、 而 も 昔 便 で あ り 、 此 の 中 字 は 、 其 の 形 相 も 、 尤 も 簡 單 で あ る が 爲 め に 、 多 分 依 用 せ ら れ た も の で 、 横 に 字 を と 書 し 字 に 付 し て 字 と な つ た も の で あ る 。 慈 恩 傳 な ど に 依 れ ば 、 此 の 別 摩 多 の 諸 字 は 文 章 肚 麗 な る 處 に 用 ふ る と あ れ ば 、 字 を 字 と 作 り 、 或 は 字 記 に 印 文 と せ ら れ て ゐ る 字 を 字 と 書 變 し て あ る の も 、 恐 ら く 、 字 の 意 昧 合 か ら 察 し て 、 文 章 壯 麗 の 處 に 於 て 用 ひ ら れ た も の と 惟 は れ る 。 此 章 の 生 字 に 就 て は 、 先 哲 其 の 意 見 を 異 に し 、 悉 曇 梵 語 初 學 者 の 爲 め に ( 三 ) 一 〇 五

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悉 曇 梵 語 初 學 者 の 爲 め に ( 三 ) 一 〇 六 各 々 の 其 の 相 承 を 以 つ て 讓 ら ざ る 観 が あ る の で あ つ て 、 第 一 は 字 記 の 三 十 四 字 と な す 説 、 第 二 は 字 母 表 の 六 十 八 字 と な す 説 、 第 三 は 百 三 十 六 字 と な す 説 、 第 四 は 三 百 四 十 字 と な す 説 で あ る 。 第 一 説 は 字 に 十 二 字 の 通 摩 多 を 加 へ て 後 、 其 れ に 字 の 別 摩 多 を 加 へ る 時 は 則 ち ス 、 此 れ を 合 し て 反 音 す る 時 は キ リ と な る の で 、 十 二 字 が 悉 く キ リ 音 に な る の で 、 此 れ を 詳 述 す れ ば 、 即 ち 、 は 、 此 れ を 反 音 せ ば キ リ 、 は 、 此 れ を 反 音 せ ば キ リ 、 は 、 此 れ を 反 音 せ ば キ リ 、 は 、 此 れ を 反 音 せ ば キ リ 、 は 、 此 れ を 反 音 せ ば キ リ 、 は 、 反 音 せ ば キ リ 、 は 、 反 音 せ ば キ リ 、 は 、 反 音 せ ば キ リ 、 は 、 反 音 せ ば キ リ 、 は 、 反 音 せ ば キ リ , は 、 反 音 せ ば キ リ 、 は 、 反 音 せ ば キ リ 、 に し て 、 第 一 の を 字 の み 存 し て 他 の 第 二 以 下 の 十 一 字 も 同 音 に て 別 に 存 し な い の で あ つ て 、 等 三 十 三 の 字 母 も 皆 字 に 准 す る の で 、 字 記 に ﹁ 訖 里 成 字 三 十 有 四 ﹂ と あ る の は 、 此 の 意 を 云 へ る も の で あ る 、 尚 字 記 に 此 の 第 十 六 章 の 諸 字 に 通 摩 多 の 十 二 を 加 へ て 各 々 十 二 字 を 生 じ 、 三 十 四 字 母 、 悉 く で 四 百 八 字 の 字 體 を 成 ず る こ と が あ つ て も 、 轉 音 は な り が た き 爲 め に 、 只 音 を 用 ふ る も の は 本 字 即 ち 字 を 除 け る 三 十 四 の 髄 文 の 三 十 四 音 に 限 れ る こ と を 註 釋 し て ゐ る の で あ る 。 此 の 字 の 反 音 に 於 て を 反 音 せ ば キ と な り て り の 音 を 生 せ な い の で あ る が 、 字 を 省 せ る 字 を 祇 耶 と 第 二 章 に 註 せ る に 准 じ て 、 特 に 字 を キ リ と 呼 ば し め た も の で キ キ リ と な り 、 キ キ 一 音 に 密 合 し て

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キ リ と な つ た も の で 、 他 字 音 も 皆 此 れ に 准 す べ き も の で あ る 。

畫 是 故 字 數 六 十 入 と 云 へ る も の に て 悉 字 は 、 合 し て 音 と な り 、 此 れ に を 加 へ て と な り 、 此 れ を 反 切 し て 第 二 轉 の 字 を 成 じ 而 も 此 の 他 の 等 の 十 轉 は 成 ぜ ざ る も の と な す の で あ る 。 浮 嚴 和 尚 の 悉 曇 字 記 講 述 に は 、 第 一 説 の 如 く 、 第 二 轉 も 共 に キ リ 音 と な る 可 き も の で 長 聲 の 故 を 以 つ て 特 に キ リ イ と 呼 ば し め た も の で 、 縦 ひ 此 れ を キ リ イ と 成 音 し て も 歸 入 せ ざ る 所 の 音 に 長 聲 を 呼 ぶ 事 は 不 可 能 で あ る と な し 、 此 の 説 の 意 趣 を 宗 の 實 義 か ら 理 趣 釋 等 の 文 に 依 つ て 解 釋 を な し て ゐ る 。 帥 ち 凡 夫 始 め て 教 に 遇 う て 萬 法 常 住 の 眞 理 を 聞 く の は を の 位 で あ り 、 此 の 教 を 聞 き し 如 く 、 説 の 如 く 修 行 し 悉 く 圓 極 に 至 つ て 、 亦 増 す 可 き 事 も な く 、 本 有 の 妙 理 を 自 然 に 顯 現 す る 位 を と な し 、 第 二 鮎 の 摩 多 の 凝 字 の 妙 理 か ら 此 章 の 第 二 點 字 の 縁 由 を 推 察 し て 、 決 し て 昔 聲 か ら キ リ イ 音 の 成 せ ざ る 所 以 を 解 釋 し て ゐ る の で あ る 。

便

ゐ る 。 此 れ は 音 の イ 音 上 下 あ る 中 、 上 の イ 音 を 攝 し て 下 の リ イ の イ に 歸 入 し て 特 に 音 を 成 す 可 き 事 を 説 い た も の で あ る が 、 此 の 兩 者 の 中 に て 一 行 阿 闍 梨 は 、 宗 の 深 玄 な る 實 義 か ら も 此 の 章 に 留 意 し た 事 で あ ら う が 、 十 八 章 建 章 の 趣 意 か ら す れ ば 他 に 音 韻 的 な 解 釋 が な い で は な か ら う か と 惟 は れ る の で あ る 。 第 三 説 は 初 二 後 二 聲 と 呼 ば れ る も の で の 四 字 を 生 字 と し 、 隨 つ て 字 母 三 十 四 字 、 生 字 の 總 數 百 三 十 六 字 と な す も の で あ つ て 、 此 の 説 に 又 二 説 が あ る の で 、 其 の 前 説 は 、 初 二 は 第 二 説 の 悉 曇 梵 語 初 學 者 の 爲 め に ( 三 ) 一 〇 七

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悉 曇 梵 語 初 昂 者 の 爲 め に ( 三 ) 一 〇 八 如 く と な し 、後 二 は と な す の で あ る が 、 此 の 一 説 は 、 通 の 摩 多 の 上 に 別 摩 多 を 加 へ て 、 初 二 後 二 の 四 字 音 を 成 ず る も の で あ る と な し て ゐ る か ら 、 第 一 説 と 全 く 同 じ く 、 隨 つ て キ リ ン も を 反 ば キ リ で あ り 、 キ リ ク も を 反 ば キ リ と な っ て 共 に 、 キ ソ ン 、 キ リ ク の 音 を 成 せ な い の で あ る 。 悉 曇 字 記 講 述 に は 此 の 説 は の 二 宇 が 、 諸 字 の 終 讀 な る が 爲 め に 、 此 の 意 味 に 依 つ て を 成 音 し た も の で あ る と 解 釋 し て ゐ る の で あ る が こ れ も 恐 ら く 音 韻 的 に で は な く の 意 義 か ら 此 れ を と つ た も の の 様 で あ る 。 後 説 は 、 東 記 に ﹁ 別 摩 多 上 加 通 摩 多 但 成 初 二 後 二 轉 聲 ﹂ と 云 へ る も の で 、 此 れ は 歪 字 に 通 摩 多 を 重 成 し て 成 音 な す も の で あ る 、 即 ち は の 反 、 カ と キ 初 二 相 通 し て キ リ は の 反 、 カ と キ 初 二 相 通 し て キ リ イ ほ の 反 、 は の 反 、 此 の 四 種 は 共 に 四 種 な れ ど も キ リ 、 キ リ ィ の 二 種 の 反 音 に 出 で な い の で 此 れ を 初 二 の 聲 と な す の で あ る 。 は の 反 、 は の 反 、 此 の 二 つ は 此 の 如 く 點 を 呼 ん で 轉 聲 す れ ど も 鮎 を 呼 ば ん と す れ ば の 韻 を 成 せ な い 事 に な り 韻 を 呼 ば ん と す れ ば 點 を 成 せ な い 事 に な り 、 南 重 の 摩 多 を 加 ふ れ ば 爾 昔 を 呼 ぶ 可 き に な り 、 何 れ を 取 り 、 何 れ を 捨 つ と 云 ふ 事 の 出 來 ざ る 而 も 兩 亡 の 状 態 に あ る の で 、 か ヽ る 點 か ら し て 、 其 の 音 韻 を 成 ぜ ず と な す も の で あ つ て 、 隨 つ て の 四 點 も 摩 多 、 字 も 別 摩 多 に て 共 に 重 成 合 字 を 成 ぜ ど も 其 の 轉 聲 悉 く 亡 し て 存 ぜ ず と な す も の で あ る 。 そ し て 第 十 一 點 の は の 反 、 第 十 二 點 の は 礎 の 反 に て 共 に 終 讀 を 成 ず る と こ ろ

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か ら 後 二 聲 を 成 ず る も の と な す も の で あ る 。 第 四 説 は 第 三 説 の 後 説 の 初 二 聲 と 後 二 聲 と 中 間 の 六 聲 を 合 せ て 十 聲 の 轉 聲 を 成 ず る と な す 説 に て 其 の 生 字 三 百 四 十 字 で あ る 。 以 上 四 説 の 大 體 を 看 る に 、 通 摩 多 を 加 へ 、 後 に 別 摩 加 を 加 ふ れ ば 、 第 一 の 轉 聲 の み 成 じ て 、 第 二 以 下 の 轉 聲 を 成 ぜ ず 。 若 し 別 摩 多 を 加 へ 、 後 に 通 摩 多 を 加 へ れ ば 初 二 後 二 の 轉 聲 を 成 ず る と な す も の で あ つ て 、 隨 つ て 別 摩 多 、 通 摩 多 を 相 互 に 前 後 し て 重 成 す る 事 に 依 つ て 生 字 の 數 を 異 に す る も の

(字

)

爲 主 ﹂ と 述 べ て ゐ る 如 く 、 字 記 を 中 心 と し て 字 母 表 の 説 、 又 參 酌 す べ き も の で あ ち う 。

之 ﹂ と 云 へ る 如 く 、 諸 章 の 法 と 全 く 異 り 、 最 初 は 五 句 の 議 字 の 行 の 字 字 の 上 に 字 を 加 へ 、 字 字 の 上 に 字 を 加 へ て 四 字 を 成 立 し 、 字 の 下 に の 三 字 を 合 せ て 第 五 字 と し 、 此 れ に 各 の 通 の 摩 多 十 二 を 加 へ て 十 二 字 を 生 ぜ し め る の で あ る 。 次 に は 、 四 字 の 上 に 可 字 を 加 へ 、 字 の 上 に 字 を 加 へ て 第 五 字 と な し 、 此 れ に 各 十 二 通 摩 多 を 加 へ て 、 各 十 二 字 を 生 ず る の で あ る 。 次 は 二 字 の 上 に 字 を 加 へ 二 字 の 上 に 字 を 加 へ 、 ﹁ 字 の 上 に 又 叫 字 を 加 へ て 五 字 各 十 二 字 を 生 ず る の で あ る 。 次 は 二 字 の 上 に 字 を 加 へ 二 字 の 上 に ,字 を 加 へ 字 の 上 に の 三 字 を 合 成 し て 、 以 上 の 五 字 亦 各 十 二 字 を 生 ず る の で あ る 。 次 に は 二 字 の 上 に 字 を 加 へ 、 二 字 の 上 に 字 を 加 へ 、 字 の 上 に の 二 字 を 合 し 加 へ て な す も の で あ つ て 、 此 の 五 字 亦 各 十 悉 曇 梵 語 初 學 者 の 爲 め に ( 三 ) 一 〇 九

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悉 曇 梵 語 初 墨 者 の 爲 め に ( 三 ) 一 一 〇 二 字 を 生 ず る の で あ る 。 次 は の 合 成 一 字 る 字 が 來 り て 合 す る 當 體 字 即 ち 章 の 本 體 と な る 宇 な る 字 。 次 は の 合 成 一 字 な る 。 の 事 で あ つ て . 此 の 章 に 於 て は 、 此 の 所 合 と な る 次 は 合 成 一 字 な る 字 。 次 は 合 成 一 可 き 字 は 體 文 の 次 第 を 守 り 、 能 合 た る 可 き 字 は 體 字 な る 字 。 次 は 合 成 一 字 な る 字 。 次 は 文 の 次 第 を 守 ら ず 不 次 第 で あ る の で あ る 。 か ヽ る 合 成 一 字 な る 一字 。 次 は 合 成 一 字 な る 方 法 に 依 り 字 を 重 成 す る 事 に 依 つ て 種 々 の 梵 字 を 字 、 次 は 合 成 一 字 な る 字 に て 、 以 上 の 合 成 作 る 方 法 を 示 し た も の で あ る 。 字 を 重 成 す る 方 法 字 亦 各 十 二 通 摩 多 を 加 へ て 十 二 字 を 生 ず る の で あ に 就 て は 前 述 の 如 く 、 合 上 、 合 下 、 合 中 、 隣 次 の る 。 此 の 章 が 難 覺 章 と 云 は れ て ゐ る の は 、 此 章 が 四 方 法 を 擧 げ て ゐ る が 、 此 の 中 第 一 の 合 上 法 と は 他 の 章 に 比 較 し て 煩 雑 で 覺 え 難 く 、 而 も 其 の 作 り 字 の 如 く 、 體 文 の 品 字 の 上 に 凋 字 を 重 ね た も の 、

に 依 つ て 二 合 字 、 三 合 字 、 四 合 字 、 五 合 字 、 六 合 の 如 く 、 體 の 字 の 下 に の 三 字 を 重 成 し た 字 等 の 合 字 を 生 じ 、 此 等 の 合 字 を 作 る 方 法 た る 、 も の で 、 換 言 す れ ば 當 體 所 合 字 た る 字 に 合 上 、 合 下 、 合 中 、 隣 次 等 の 例 を 顯 し 、 數 百 千 等 の 三 字 を 順 次 能 合 し た も の で あ る 。 第 三 の 合 中 の 無 窮 の 章 を 成 立 し 建 立 せ し む る 義 を 顯 示 せ ん が 爲 法 は 字 の 如 く 體 文 の 字 を 中 に し て 其 の 上 に で あ る 。 能 合 字 と は 、 他 よ り 來 り て 合 す る 字 、 即 三 字 を 重 ね 、 下 に 字 を 重 ね た る も の で あ ち 外 よ り 助 加 の 字 で あ り 、 所 合 字 と は 、 他 よ り 來 つ て 第 一 の 合 上 、 第 二 の 合 下 に 比 し て 名 稱 す れ ば

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勿 ろ 字 を 當 體 所 合 と 看 て 合 上 合 下 法 と 呼 稱 す る が 穏 當 の 様 に 惟 は れ る の で あ る が 、 合 中 法 と あ れ 三 字 と 字 を 當 體 所 合 と し 字 を 能 合 字 と 解 鐸 す る も の で あ る 。 第 四 の 隣 次 法 と は 、 體 文 の 中 其 の 隣 り の 字 を 合 成 す る も の で 字 の 如 く 體 文 の 字 に 其 の 隣 字 た る 字 を 合 成 す る も の で あ る 。 隨 つ て 此 の 隣 次 法 は 嚴 密 な る 點 に て 何 れ が 能 合 で あ り 、 何 れ が 所 合 で あ る の か 不 明 な の で あ る 。 強 ひ て 此 れ に 能 合 所 合 を 云 へ ば 體 文 の 次 第 に 依 つ て 、 こ れ を 一 往 分 け る の が 穏 當 の 様 に 惟 は れ る の で あ る 。 第 一 章 よ り 第 十 穴 章 ま で は 能 合 所 合 共 に 次 第 を 守 り 、 雑 亂 な く 整 然 と し て 來 た の で あ る が 、 當 第 十 七 章 は 能 合 の 諸 字 に 雑 亂 を き た し 、 反 つ て 此 れ に 依 つ て 一 章 の 中 に 数 百 千 章 を 含 有 す る 事 を 教 示 し た も の で あ つ て 、 大 體 其 の 章 の 歎 を 擧 ぐ れ ば 、 二 合 の 章 が 五 十 九 章 、 此 れ に 前 の 第 二 章 よ り 第 入 章 ま で を 入 る れ ば 六 十 六 章 あ り 、 三 合 の 章 は 三 千 九 百 五 十 四 章 あ り 、 此 れ に 前 の 第 九 章 よ り 、 第 十 四 章 を 入 る れ ば 三 千 九 百 六 十 章 を 数 へ 得 る と 云 は れ て ゐ る 。 元 來 此 の 章 が 前 の 十 六 章 と 其 の 軌 轍 を 異 に す る 點 に 就 い て 大 體 五 つ が 先 哲 に 依 つ て 擧 げ ら れ て ゐ る の で あ る 。 其 の 一 は 、 前 の 十 六 章 は 能 合 所 合 共 に 其 の 順 次 を 守 つ て 観 れ ざ れ 共 、 當 章 は 前 述 の 如 く 所 合 の 字 は 其 の 順 次 を 守 り 能 合 の 字 は 體 文 三 十 四 字 が 各 の 其 の 用 に 隨 つ て 之 れ を 加 へ 用 ひ る の で あ つ て 、 即 ち 或 は 上 膠 聲 を 以 つ て 喉 聲 に 加 へ 、 或 は 齒 聲 を 喉 聲 に 加 へ 、 或 は 遍 口 聲 の 字 を 以 つ て 五 五 句 の 體 文 諸 字 に 加 へ る 等 前 後 交 參 し て 其 の 順 次 を 守 ら な い の で あ る 。 其 の 二 は 、 前 の 十 六 章 は 或 は 、 皆 二 合 、 或 は 擧 つ て 三 合 章 等 、 其 の 章 は 分 齊 を 定 め 、 又 必 す 定 量 で あ つ た の で あ る が 、 當 十 七 章 は 、 二 合 三 合 四 合 五 合 六 合 等 、 定 限 も な く 、 其 の 数 量 に 約 し て も 、 全 く 定 悉 曇 梵 語 初 學 者 の 爲 め に ( 三 ) 一 一 一

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悉 曇 梵 語 初 學 者 の 爲 め に ( 三 ) 一 一 二 量 は な い の で あ る 。 其 の 三 は 、 前 十 六 章 は 能 合 所 合 に 於 て 上 中 下 其 の 位 を 亂 さ ず 合 成 せ ら れ た の で あ る が 、 當 第 十 七 章 は 能 合 所 合 其 の 位 全 く 雑 亂 し て 總 て 一 準 に ゆ か な い の で あ る 。 其 四 は 、 前 十 六 章 は 三 十 四 の 體 文 が 各 々 に 一 字 體 を 生 じ た の で あ る が 、 當 章 は 體 文 の 各 一 字 體 を 成 す 可 き 字 が 合 成 し て 字 と な れ る 如 く 、 二 體 文 が 一 字 を 爲 し て ゐ る の で あ る 。 其 の 五 は 、 前 十 六 章 は 、 大 方 其 の 字 の 形 に 隨 つ て 其 の 聲 を 顯 成 し て ゐ る の で あ る が 、 當 章 は 、 其 の 字 の 形 は 無 く と も 其 の 聲 を 呼 ぶ の で 、 各 字 の 首 に 次 の 聲 を 呼 ん で ゐ る の で あ る 。 如 斯 當 章 は 、 前 十 六 章 と 其 の 軌 轍 を 別 に し て ゐ る も の で あ る が 故 に 、 一 見 孤 合 章 の 第 十 八 章 に 屬 す 可 き も の で あ る か の 様 に 思 は れ る の で あ る 。 而 し 未 だ 此 の 章 は 、 迦 等 體 文 三 十 四 字 を 列 ね 、 或 は 更 に 體 文 三 十 四 字 を 以 つ て 其 の 用 に 隨 つ て 之 れ を 加 へ 、 或 は 尚 十 二 韻 を 以 つ て 各 字 十 二 字 を 生 す る 等 よ り す れ ば 、 自 ら 第 十 入 章 の 孤 合 章 に 屑 す 可 き も の で は な い の で あ る 。 其 の 章 に 屬 す 可 き 字 、 或 は 章 の 數 に 於 て も 、 當 章 は 前 述 の 如 く 大 體 其 の 章 歎 等 を 察 知 し 得 る の で あ る が 、 第 十 八 章 に 於 て は 全 々 無 窮 で あ る の で あ る 。 此 の 章 の 別 名 を 阿 索 迦 章 と 云 ふ は 最 初 の 字 の 讀 音 其 の ま ヽ を 章 名 に な し た の で あ る 。 此 の 章 に 特 に の 聲 を 付 し て 呼 ぶ の は 、 此 の 章 の 軌 則 で あ る が 、 元 來 悉 曇 の 諸 字 は 其 の 頭 上 の 最 初 の 一 點 は 皆 形 で あ り 、 の 聲 を 帯 し て ゐ る の で あ つ て 、 一 字 と 雖 も の 聲 が 其 の 字 の 中 に 無 け れ ば 諸 聲 も 無 く 、 隨 つ て 諸 字 も 成 せ な い も の と さ れ て ゐ る の で あ る 。 而 る に 此 の 章 の 諸 字 に の み 特 に 顯 に 聲 を 呼 び 、 餘 章 の 諸 字 に 此 れ を 呼 ば ぬ の は 如 何 な る 爲 め で あ る の か 、 此 れ に 就 て は 聲 に 内 聲 外 聲 の 二 聲 が 存 し て ゐ る も の と さ れ て ゐ る 。 即 ち 其 の 内 聲 の と は 喉 中 の 聲 、 換 言 す れ ば 、 口 を 開 け れ ば 自 ら 嚢 聲 す る 聲 で あ

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り 、 外 聲 の 型 と は 聲 を 顯 に 出 し て 直 ち に 呼 ぶ も の で あ つ て 、 當 章 は 正 し く 此 の 聲 の 外 聲 に 約 し た も の で あ り 、 他 章 は 其 の 奥 聲 の 内 聲 に 約 し た 相 蓮 に 依 れ る も の で あ る 様 に 惟 れ る 。 而 し 十 八 中 の 當 章 と し て の 一 字 讀 み の 用 音 は 夷 聲 の 外 聲 を 呼 ぶ の で あ る が 、 梵 文 を 讀 む 時 に 於 て は 連 字 讀 み と な り て 、 悉 曇 の 一 字 讀 み の 外 聲 讀 み と は 相 違 し て ゐ る 事 を 注 意 す べ き で あ る 。 此 の 章 の 字 數 に 於 て は 上 述 の 如 く す れ ば 、 其 の 算 數 は 無 限 に 近 き も 、今 は 此 章 の 三 十 三 字 を 字 母 と す る に 約 し て 生 字 三 百 九 十 六 字 を 以 つ て 其 の 大 途 を 示 し て 置 く の で あ る 。 除 字 は 通 除 の 字 な れ ば 字 母 三 十 四 字 な る も 、 今 は 合 成 一 字 な れ ば 兩 字 を 一 字 と し て 字 母 三 十 三 字 と な す も の で あ る 。 第 十 八 章 、 孤 合 章 、梵 に 此 章 は 前 十 七 章 に 漏 れ た 諸 字 、 並 に 摩 多 體 文 の 次 第 に 依 ら ず 、 能 合 所 合 等 の 別 な く 合 成 す る 諸 字 を 合 集 し 、隨 つ て 千 變 萬 化 種 々 な る 諸 字 を も 含 み 、 變 章 と し て 實 に 天 下 の 諸 字 、 字 音 、 悉 く 遺 す こ と な く 、 此 の 章 中 に 含 有 す る の で あ る 。 此 の 章 は 時 に 臨 み 、 或 は 事 に 隨 つ て 自 由 自 在 に 一 切 の 文 字 を 作 り 得 、 或 は 字 を 自 在 に 取 扱 ふ 大 略 を 示 し た も の で あ っ て 、 前 十 七 章 が 體 文 の 次 第 に 依 つ て 、字 の 生 す る 様 を 教 へ た も の と は 異 つ て ゐ る の で あ る 。 前 十 七 章 は 此 の 章 に 云 ふ 字 を 自 由 自 在 に 取 扱 ふ 様 に な る 淺 か ら 深 へ の 階 段 過 程 を 示 し た も の で 、 云 は ば 此 の 章 の 方 便 で あ る と 云 は る 可 き も の で あ る 。 隨 つ て 此 の 章 は 、 生 字 の 章 な ら ざ る 爲 め に 字 數 に 於 て も 無 盡 で あ る 可 き も の で あ る 。 而 し 信 範 師 は 一 千 一 百 四 十 三 字 、 安 然 師 は 一 千 二 百 入 十 字 、 君 拾 に は 一 千 三 百 二 十 二 字 の 字 數 を 擧 げ て 居 れ ど も 、 此 れ 亦 何 れ も 綱 を 擧 げ て 目 の み 示 し 自 餘 は 盡 さ ざ る 事 を 付 言 し て ゐ る を 看 れ ば 、 當 章 に 屬 す る 字 、 悉 曇 梵 語 初 學 者 の 爲 め に ( 三 ) 一 一 三

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悉 曇 梵 語 初 學 者 の 爲 め に ( 三 ) 一 一 四 思 半 に 過 ぐ る も の が あ る の で あ る 。 此 章 を 孤 合 章 と な す 孤 合 に 就 て は 、 即 ち 孤 と は 次 第 め 無 き 事 、 次 第 な し に 字 を 合 す る 故 に 孤 合 と 云 ふ と 云 は れ 。 或 は 孤 合 の 訓 點 に 就 い て 、 ﹁ 孤 ナ ル 合 ﹂ と 訓 じ 、 或 は ﹁ 孤 ヲ 合 ス ﹂ と 訓 じ 、 或 は ﹁ 孤 ナ ソ 合 ナ リ ﹂ と 、 或 は ﹁ 孤 ニ シ テ 合 ス ﹂ 等 と 讀 ま れ て ゐ る 。 此 等 の 訓 點 は 、 智 廣 の 悉 曇 字 記 中 に あ る 第 十 八 章 に 屬 す 可 き 諸 字 を 繹 す る 中 に 於 て ﹁ 或 騨 ﹂ と し て 十 五 箇 擧 げ ら れ て ゐ る が 、 此 の 十 五 の 或 鐸 を 解 鐸 す る 事 に 依 つ て 、 自 ら 解 了 出 來 得 る の で あ る 。 悉 曇 字 記 に 依 つ て 大 體 此 の 章 に 屬 さ れ て ゐ る 諸 字 を 擧 ぐ れ ば 次 の 様 で あ る 。 一 、 の 如 く 、 二 合 或 は 三 合 、 四 合 等 の 字 を 出 し て 、 第 十 七 章 の 正 章 に 屬 す 可 き 字 を も 、 此 の 章 に 屬 せ し め . 此 れ に 依 り て 此 章 生 字 の 無 盡 を 示 し て ゐ る 。 一 、 の 如 く 當 體 重 は 一 字 の 音 の 如 く 呼 び 、 而 も 此 れ を 大 呼 す べ き も の で 、 此 れ も 、當 章 に 屬 す る 諸 字 で あ る 事 を 示 し て ゐ る 。 阿 覺 安 然 大 師 は 此 の 外 に 字 母 に 於 て 其 の 句 、 例 ば 行 の 中 に 屬 す る 字 を 互 に 重 成 す る 時 は 、 此 れ も 一 字 の 音 の 如 く 、 大 呼 す べ し と し て 當 句 重 大 呼 を 別 に 此 の 中 に 立 て ヽ ゐ る の で あ る が 、 當 句 中 に は 清 濁 即 ち 強 音 弱 音 が あ る の で 強 音 は 強 音 と 重 成 し 、 溺 音 は 弱 音 と 重 成 す る 時 、 例 ば 字 は 大 呼 一 音 し て 可 な る も 、 強 弱 即 ち 清 濁 互 に 異 な れ る 籍 貿 字 な ど は 一 音 に 大 呼 せ ず 、 別 々 に 字 の 如 く 呼 ぶ の が 良 い 様 に 惟 は れ る の で あ る 。 經 軌 中 に は 時 々 當 體 重 大 呼 に 屬 す 可 き も の が と 大 呼 せ ず に 別 呼 さ れ て ゐ る 例 外 の 登 音 も 見 受 け ら れ る の で あ る が 、 此 處 に は 專 ら 當 體 重 大 呼 の 亦 本 章 に 屬 す 可 き も の な る 事 を 示 し た の で あ る 。

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一 、 此 れ は 連 聲 合 呼 を 示 せ る も の に て 、 字 の 如 く 呼 べ ば ナ タ ラ 、 此 れ を シ ッ タ ラ と 呼 び 、 此 れ も 字 の 如 く 呼 べ ば シ ヤ タ ラ 、 此 れ を 急 呼 し て シ ユ ッ タ ラ と 呼 ぶ の で あ る 。 此 れ は 何 づ れ も 二 體 相 續 の 連 聲 合 呼 で 、 ッ の 響 を 連 績 の 際 發 音 す る の で 、 對 譯 の 漢 字 は 必 ず 入 聲 の 字 を 用 ふ る の で あ つ て 、 二 體 相 續 の 連 聲 の 例 を 示 し た も の で あ る 。 一 、 此 は マ ヲ ウ キ ヤ と 呼 ぶ 可 き を 二 字 合 し て 一 體 に マ ウ キ ヤ と 呼 ぶ も の で 、 多 字 相 續 の 處 に 連 聯 し て 一 體 の 如 く 一 聯 に 呼 ぶ の で 一 體 不 絶 の 聯 聲 法 の 例 を 示 し た も の で あ る 。 連 聲 に 就 い て は 後 述 す る も 、 元 來 此 の 連 聲 等 の 音 は 印 度 の 當 時 の 人 の 口 調 に て 、 文 字 其 の も の に は 無 ,い 爲 め に 、 我 が 國 に 於 て は 我 が 國 の 假 字 連 聲 音 便 等 に な ぞ ら へ ら れ て 、 可 成 不 知 の 間 に 梵 音 が 修 正 せ ら れ 、 假 字 的 連 聲 音 便 に 支 配 さ れ て 其 れ に 變 化 し て ゐ る こ と は 注 意 を 要 す 可 き 事 で あ る 。 一 、 此 れ は 兩 重 の 摩 多 の 例 を 示 せ る も の で あ つ て 、 等 は と 鉱 の 兩 摩 多 を 加 へ た も の で あ る 。 此 の 兩 重 の 摩 多 に 於 て は の 二 點 を 加 へ た る 字 に の 九 點 の 一 を 加 へ て 兩 重 摩 多 字 を 合 成 す れ ど も の 九 點 の み が 互 に 二 重 し 加 ふ る と 云 ふ 事 は な い の で あ る 一 、 字 等 の 中 の 半 月 點 即 ち 仰 月 點 た る は 、 圓 點 た る ・ と 共 に 異 論 の 存 す る 處 に て 、 東 寺 は 大 日 經 疏 、 或 は 理 趣 鐸 經 を 引 證 し て の 五 字 は 空 點 の 用 を な し 、圓 點 も 半 月 點 も 共 に 別 に 之 れ を 分 け な い の で あ つ て 、 ・ 點 も 半 月 點 も 同 じ 事 と な す の で あ る 。 山 門 は 守 護 經 或 は 大 日 經 義 釋 等 を 引 謹 し て ・ は 但 圓 點 を 成 し の 五 字 は 獨 り 悉 曇 梵 語 初 學 者 の 爲 め に ( 三 ) 一 一 五

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悉 曇 梵 語 初 學 者 の 爲 め に ( 三 ) 一 一 六 仰 月 點 を な す も の で 仰 月 を 別 に 等 の 五 字 の 圓 點 の 韻 と な し 、 圓 點 と 半 月 點 と 同 じ か ら ず と 説 い て ゐ る の で あ る 。 字 記 に は 仰 月 は 摩 多 に 非 す 、 字 に 畫 を 加 へ て 其 の 字 を 荘 嚴 す る 點 書 で あ つ て 字 の 恰 好 を 看 て 施 す も の で 、 此 の 荘 嚴 の 點 を 有 す る 字 は 、 此 の 十 入 章 に 屬 す 可 き 事 を 示 し て ゐ る の で あ る 。 而 し 此 の 事 は 今 日 の 梵 語 の 文 法 よ り す れ ば 圓 點 は 必 す 仰 月 點 を 伴 は す 、 仰 月 點 が 勿 ろ 帝 に 圓 點 を 伴 ふ 事 に な る の で 、 此 の 點 よ り 看 れ ば 圓 點 仰 月 點 共 に 同 じ か ら す 、 勿 ろ 山 門 の 義 は 今 日 の 梵 語 文 法 に 其 の 用 法 上 に 於 て 相 近 く 思 半 に 過 ぐ る も の が あ る の で あ る 。 此 れ は 旭 達 點 と 云 ひ 、 活 點 を 示 し た も の で あ る 。 活 點 は 生 還 の 畫 と も 云 ひ 、 字 畫 の 全 か ざ る 字 に 、 此 の 點 を か け 加 へ て 、 其 の 字 を 活 か し 、 而 も 其 の 字 を 半 聲 に 呼 ぶ の で あ る 。 即 ち 字 に 於 て は 上 頭 の 横 の 一 點 を 缺 く 時 は 命 點 た る 點 無 き 爲 め に 死 字 と さ れ る の で あ る 。 例 ば 等 の 字 の 如 く で あ つ て 、 此 の の 死 字 に 怛 達 點 の 生 點 を 加 へ て 半 死 半 生 の 字 、 即 ち 等 と な し 、 活 か し て 此 れ を 半 音 に 呼 ぶ の で 字 が 半 死 半 生 な る 爲 め に 、 音 も 半 音 を 用 ひ 、 大 方 音 を 掣 ん で 入 聲 に 呼 ぶ も の と さ れ て ゐ る の で あ る 。 此 の ヽ 點 は の 省 、 或 は 生 の 義 た る の の 省 、 或 は 長 養 の 義 ね る の 字 の 省 、 或 は 字 の 省 と も 云 は れ て ゐ る の で あ る 。 一 、 此 は 體 文 の 字 を 省 き て 、 半 體 た る 字 體 を 示 し た も の で あ る 。 半 體 に は 上 半 を 存 し て 下 半 を 省 き た る 等 の 上 半 體 、 或 は 下 半 を 存 し て 上 半 を 省 き た る 等 の 如 き 下 半 體 が あ る の で あ る 。 字 記 に は は 本 よ り 獨 り 立 て の 半 體 字 と し て を 省 き た る 半 體 字

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と は せ な い の で あ る が 、 又 の 省 な る 半 體 と 相 承 す る 傳 も あ る の で あ る 。 一 、 此 れ は 字 を 崩 し て 種 々 な る 形 を 造 る 事 を 示 す も の で 、 も 其 の 字 源 は 三 十 五 體 文 の 字 の 所 合 字 な る も 種 々 に 造 り 變 へ ら れ 、 本 字 と は 別 の も の ヽ 様 に 惟 は れ る の で 、 此 の 字 は 多 く 印 刻 に 用 ひ ら れ 、 日 常 吾 々 が 印 形 を 象 書 に 或 は 籀 書 に 刻 す る と 同 様 に て 、 一 種 の 印 文 字 で あ る の で あ つ て 、 禪 林 寺 宗 叡 の 悉 曇 字 記 林 記 に は 字 に 字 を 加 へ た も の で あ る と 云 ひ 、 石 山 淳 茄 内 供 記 に は に 更 に 點 を 加 へ た 三 合 字 と な し て ゐ る 。 の 對 譯 音 は 奢 羅 、 安 然 の 悉 曇 藏 に は 此 れ を 鎖 子 と 翻 じ て ゐ る が 、 此 の 鎖 子 は 鑰 の 類 に て 字 に 其 の 象 が 相 似 し て ゐ る と 云 ふ と こ ろ か ら 、 世 間 所 用 の 印 文 と な し た も の ヽ 様 で あ る 。 又 此 の 字 は 佛 眼 尊 の 種 子 で あ り 、 經 の 一 部 の 終 り に 、 此 の 字 を 按 じ て 經 の 功 徳 吉 祥 増 長 を 顯 示 す る も の と も さ れ て ゐ る の で あ る 。 一 、 此 の 字 は 界 畔 字 を 示 し た も の で 經 の 一 章 一 章 の 界 絆 に 用 ひ ら れ 、 其 の 章 の 終 り に あ る も の で 施 與 の 義 た る 弓 字 の 半 體 そ さ れ て ゐ る 。 此 の 字 は 有 字 無 音 の 字 を 代 表 す る も の と し て 他 面 此 處 に 擧 げ ら れ て ゐ る も の で も あ る 。 有 字 無 音 の 字 に は 經 典 の 最 初 句 頭 に あ る 字 、句 尾 に あ る く 字 、 文 字 を 重 字 し て 續 く る 時 に 用 ふ る 字 、 ゆ 字 、 象 字 。 滅 消 す る 時 用 ふ る 點 、 經 典 一 部 の 終 り に 用 ふ る 字 、 字 等 が あ る の で あ る 。 も 字 は 即 ち 根 の 意 義 を 有 す 字 の 半 體 と さ れ 、 く 字 は 即 ち 我 の 意 義 を 有 す る 字 の 半 體 と さ れ て ゐ る 。 字 は 我 見 な り 自 他 を 差 別 す る と こ ろ よ り 句 の 終 り に 之 れ を 用 ひ 、 字 、 字 、 a 字 は 字 即 ち 字 は 影 像 の 義 、 影 像 は 其 の 本 質 の 悉 曇 梵 語 初 墨 者 の 爲 め に ( 三 ) 一 一 七

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悉 曇 梵 語 初 學 者 の 爲 め に ( 三 ) 一 一 八 如 く な れ ば 重 句 の 時 、 疊 字 の 時 此 れ を 用 ひ 。 點 は 字 即 ち 字 は 、 諍 論 の 義 、 諍 論 は 必 ず 勝 敗 あ り 、 他 を 滅 す 義 を 有 す る 故 に 滅 字 に 此 れ を 用 ひ た も の で 、 滅 消 す べ き 字 に は 此 の 滅 點 を か け て 消 す も の で あ る 。 字 は 不 生 不 滅 の の 最 勝 義 に 依 つ て 此 れ を 用 ひ た も の と さ れ て ゐ る の で あ る 。 此 等 の 半 體 の 諸 字 を 體 文 に 配 當 し 義 釋 づ け る 事 は 相 傳 の 如 何 に 依 つ て は 用 ひ ず 、 單 に 如 斯 半 體 字 が 古 來 依 用 さ れ て ゐ る も の と し て 取 扱 つ て ゐ る 義 も あ る の で あ る 。 以 上 の 如 く 意 義 を 有 す る 此 等 の 半 體 の 諸 字 が 異 形 と な つ て 世 間 通 途 の 各 種 の 方 面 に 顯 れ 、 精 神 的 に 物 質 的 に 其 の 根 本 を 此 處 に 發 し て ゐ る も の が 多 く 一 般 に 氣 付 か れ ず 存 す る の で あ る 。 其 の 二 三 の 例 を 擧 ぐ れ ば 、 如 意 賓 珠 の 圖 た る の 如 き は 長 巻 の と の 重 成 字 と 、 根 の 字 よ り 成 れ る も の に て 、 根 本 不 可 得 、 己 れ 無 き 故 に 鍋 な く 而 も 長 養 長 養 す る の で 如 意 大 吉 祥 で あ る の で 此 の 相 を 圖 化 し た も の で あ る 。 僧 侶 の 持 つ 如 意 の 如 き も b 形 字 よ り 出 た も の で あ る 。 太 鼓 に 書 け る 圖 の 如 き も 一 見 太 鼓 の 音 を 圖 化 し た も の ヽ 如 く 惟 は れ る の で あ る が 、 此 れ も 恐 く 字 の 變 形 に て 、 此 の 根 本 不 可 得 如 意 吉 祥 の 字 に 依 つ て 打 つ 、 一 聲 一 音 除 災 吉 祥 を 意 味 し て ゐ る の で あ る 。 經 の 終 り に と 書 け る は 經 の 功 徳 を 普 く 法 界 に 施 與 す る と 云 ふ 意 味 で あ る 。 塔 婆 の 頭 に 圖 の 如 き 點 を 書 く の も 經 文 の 初 め に 宇 を 置 く 義 と 等 し く 字 の 異 形 に て 禍 も な く 塔 婆 の 功 徳 廣 大 な る 様 に 經 文 の 功 徳 禍 無 く 甚 深 微 妙 な る 様 と 云 ふ 意 味 で あ る 。 木 札 等 の 頭 に 書 す 圖 の 如 き も 、 水 點 と 云 ひ 、 或 は 八 點 と 言 は れ

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て ゐ る が 、 恐 く 其 の 根 本 は 、 此 の 字 の 意 義 よ り 出 で 。 字 の 異 形 で あ ら う と 惟 は れ る の で あ る 。 以 上 の 如 く 多 趣 味 な 此 等 の 體 文 の 半 體 、 或 は 異 形 は 皆 此 の 十 入 章 の 孤 合 章 に 屬 す 可 き も の で あ る の で あ る 。 上 來 粗 述 し た 十 八 章 は 智 廣 の 字 記 に 依 る 相 傳 の 十 入 章 建 立 の 建 立 相 で あ る が 、 悉 曇 請 來 者 の 異 な る に 隨 ひ . 例 へ ば 全 雅 、 圓 行 、 慧 輪 、 佛 哲 、 常 曉 等 の 各 悉 曇 章 、 或 は 大 師 の 大 悉 曇 章 等 各 々 の 其 の 建 立 の 式 相 を 異 に し て ゐ る の で あ る 。 此 等 の 諸 異 本 は 今 日 此 れ を 版 本 、 冩 本 、 相 傳 等 に 依 り 其 の 建 立 式 相 を 知 り 得 る も の と 已 に 此 等 散 失 し て 知 り 得 難 い も の と あ れ ど も 、 大 方 其 の 式 相 の 大 體 は 先 徳 の 著 述 に 引 證 し て ゐ る 事 に 依 り 窺 ひ 得 る 事 が 出 來 る の で あ る が 、 此 等 諸 本 の 異 同 は 繁 を 避 け て 今 は 單 に 智 廣 字 記 に 依 つ て 他 を 略 し て 諸 士 の 努 力 に 譲 づ る 事 に す る 。 而 し 此 等 の 多 種 多 様 な 異 本 と 雖 も 悉 曇 章 の 意 圖 に は 變 り の な い 事 は 云 ふ ま で も な い 事 で あ る 。 (未 完 ) 悉 曇 梵 語 初 學 者 の 爲 め に ( 三 ) 一 一 九

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