神奈川工科大学 流体工学研究室の紹介
神奈川工科大学大学院工学研究科機械工学専攻 山崎 雅文 1. はじめに 神奈川工科大学流体工学研究室では,流体の分野の 中でも着雪・着氷に関連したやや特殊な題材の研究 テーマに取り組んできた.本報では当研究室保有の 実験施設のうち最も特徴的である着氷風洞と,風力 利用に関係するこれまでの成果について報告する. 2. 着氷風洞 着氷・着氷現象は国内では北海道や東北地方などの 寒冷地域,標高の高い山岳地帯といった気温の低い 環境で生じることは想像しやすい.着雪現象は物体 表面に雪が付着することを指し,加熱装置を搭載し ていない場合に限っては水分を多く含む濡れ雪が要 因となって発生する.着氷現象は,氷点下でも液相 の状態を保っている過冷却水滴が,物体表面に衝突 した際に過冷却状態を解消し凍結することで発生す る. 当研究室が保有する着氷風洞は,低温環境を再現で きる恒温槽内に風洞を設置し,流路内に取り付けた スプレーヤから水を噴霧することで着氷環境を実現 している.着氷による問題は建設から航空業界まで 様々な分野が対象となり,環境条件も多岐にわたる. 当研究の着氷風洞では特に航空分野での条件をも再 現できるよう,テストセクションでは 95 m/s の風 速を達成できる仕様となっている.図では高速用の 小型テストセクションを示しているが、大型のテス トセクションに変更することで気流速は低くなるが 大きい供試体の試験が可能となる.着氷風洞の様子 と諸元を Fig.1 及び Tab.1 に示し,これまでの研究 成果の紹介に進みたい. 3. これまでの研究成果 昨今の Renewable Energy の需要増加に伴い,寒冷 地における風力利用も大幅な増加が見込まれている 1).その中で着氷・着雪現象は様々な面から風力利用 へ影響する.当研究室で取り組んできた研究につい ての概要を Fig.2 で表現した. 3.1 風車ブレード プレードへの着氷が生じると,その空力特性の低下 に伴い得られる発電量も低下してしまう.現状主流 となっている着氷対策は,ブレード前縁に電気ヒー タを具備する、あるいはブレード内部に高温の空気 を送風するといった熱方式を採用することで着氷を Fig.1 神奈川工科大学 着氷風洞概要図 Tab.1 着氷風洞諸元 Fig.2 寒冷地での風力利用における問題防止する方法が一般的である.前者は一定数の採用 事例もあり、効果があることも実証されていると聞 くが、落雷を誘発する、 既存風車に適用できないも のがある多い他,ブレードの主材である GFRP の低い 熱伝達率による多大な消費エネルギーなどが問題と なっている.一方,機能性塗料をブレードに塗布す ることで着氷の影響を軽減する物理化学的手法は, 既設風車にも容易に適用でき,ブレードの機械的な 加工や配線作業が不要なことから研究開発が各地で 行なわれている.しかし,耐候性や耐用年数等に十 分に対応できる程度には塗料開発が進んでおらない こともあり、実機の風車に適用した事例は極めて少 なく,研究室段階での開発に留まっているのが現状 であると考える. 3.1.1 超撥水性塗料の実証試験 そのような状況の中,当研究室では超撥水性塗料を 稼働している風車に適用し,実環境における塗料の 着氷対策としての効果の検証を行なった.ギリシャ にある対象の風力発電施設では,卓越風向が西の方 角であったが,この方角には大きな湖が存在してい た.発電所の標高は 2000 m を超える高い位置にあ ったため,この湖から大気中に供給される水分が雲 中着氷の原因となって,発電量の低下を引き起こし ていたものと考えられる.超撥水塗料が塗布された 1 基の風車に関して,塗布前の冬季と塗布後の冬季 の SCADA データを比較し,塗料の着氷軽減効果を調 査した.
塗装前後での比較にあたり,IEA Wind Task19 が提 供する T19 Ice Loss Method を使用した.このソフ トウェアは,SCADA データから着氷によって低下し た発電量とその期間を計算する.現在は GitHub 上で version2.2 が公開されているが,Tab. 2 に示す結 果は前の version2.0.2 を用いたものである. 塗装の前後で着氷による発電量の低下が大きく改善 されていることが確認された.超撥水性塗料は一般 的に着氷付着力が低いことで知られており,今回の 風車においてもブレードに付着した氷が,塗装のな い場合よりも大きく成長する前に離脱したことが要 因であると考えられる.着氷の影響を軽減できるこ とが判明したが,完全に防ぐことは未だ実現できて いないため,風車の着氷対策を導入する際には,加 熱方式とコスト面をはじめ,様々な観点から検討す る必要はある. 3.1.2 航空機の防除氷装置の省エネルギー化 研究室が関わった航空機の防氷に関する共同研究 に、2012 年から 2016 年に実施された航空機用先進 システム基盤技術開発(革新的防氷技術)
(Japanese-European De-Icing Aircraft Collaborative Exploration: JEDI-ACE project)と 2016~2018 年 の Hybrid Icephobic Coating and Electrothermal Heating Wing Ice Protection System Project が ある. JEDI-ACE と ICE-WIPS は共に航空機の翼に対する防 除氷装置の消費エネルギー削減を目的としたプロジ ェクトである.前縁部分の翼内部に電気ヒータを搭 載して可能な限り低温で加熱を行う.この場合,前 縁部で凍結せずに存在している水が,後縁に流れて 行く途中の加熱されていない部分で再び凍結する 2 次着氷が発生してしまう.両プロジェクトは超撥水 性塗料を塗布することで水滴の早期離脱を促し,ヒ ータの省エネルギー化と 2 次着氷の防止を同時に達 成する仕組みとなっている. Fig.3 風力発電施設と卓越風向2)
Tab.2 Ice Loss Method による発電量の比較 神奈川工科大学 流体工学研究室の紹介
ICE_WIPS では,この装置の省エネ効果の実証試験を NASA Glenn Research Center の着氷風洞にて行なっ た.その結果,実施した試験条件の全てのケースで ヒータの消費電力を低減することに成功した. 3.2 風況観測機器 風況観測機器への着氷も,風車を運用する上で無視 できない影響を及ぼす.以下では,風車の運転制御 に重要な風速計に関する研究を紹介する. 寒冷地の風車に搭載される風速計は,着氷のことを 考慮して加熱装置を備えたものを選定することは言 うまでもない.しかしながら,加熱装置を備えた風 速計であっても,着氷により測定値に誤差が生じる ことが判明している 5).以下に当研究室で行なった 超音波型風向風速計の例を紹介する. スタック型の超音波送受信部を持つ代表的な風速 計である Vaisala 社製 WMT-703(以下 WMT と記載) は,ヒータ容量と配置が十分でなく,野外観測にお いて着雪氷環境下でまれに異常な出力を記録するこ とがあった6) .Fig.6 に示すように,当時の WMT は, 送受信部と,本体と送受信部を繋ぐアーム部のみヒ ータを装備していた.送受信部に衝突した過冷却水 によってこのような凍結が繰り返され,最終的に着 氷が上方に大きく成長して超音波送受信部を覆うこ とが基礎試験によって判明した 7).これが原因とな り,超音波の送受信が阻害され,異常な出力が記録 されていた. そこで,融解水を非加熱部においても早期に離脱さ せることで着雪氷を防止する狙いのもと,風速計本 体を超撥水性塗料で被覆し降雪試験を行なった.そ の結果,Fig.7 に示すように加熱部から流れ落ちる 融解水が非加熱部に停留することなく流れ落ち,風 速計本体上の着氷をほぼ完璧に防止することができ た8). Fig.6 WMT の着氷の様子 Fig.4 ハイブリッド防除表システムの概要3) Fig.5 消費電力の低減率4) Fig.7 超撥水塗料で皮膜した WMT
3.3 保守点検用ドローンへの着氷9) 近年風車の外観点検にマルチコプター,いわゆるド ローンを活用する事例が多くなってきた.着氷環境 では,マルチコプターへさえも影響を及ぼす.Fig.8 および Fig.10 では,防災科学技術研究所 新庄雪氷 防災センターの風洞で行なった着雪・着氷試験の結 果を示した.機能性塗料の効果も調査するために, リファレンスのアクリルペイントの他,撥水性,親 水性,低着氷性塗料をプロペラ 及びボディに塗布し たものを使用し,それぞれ同様の試験を行なった. Fig.10 URAV の着氷試験 (a) Acrylic and Hydrophobic
(b) Hydrophilic and Icephobic Fig.8 URAV の着雪試験
Fig.11 プロペラ の着氷した様子 Fig.9 着雪試験の様子(超撥水性塗料)
は無視できることが判明した.一方着氷環境におい ては,推力 10 N に定めて試験を開始したところ,直 後から推力が急激に低下していき,300 秒後には初 期推力の 50%まで低下した.これはどの塗料を適用 した場合にも同様であり,新たな着氷対策の検討が 必要であることがわかった. 4. 終わりに 神奈川工科大学流体工学研究室の紹介について寄稿 した.当研究室の主テーマとする着雪・着氷は,国 内においては決して盛んに行われているものではな く,これまでの風車に関する研究も欧米を中心とし た共同研究が多かった.しかし急峻な山岳地帯や低 温地域を含んでいる日本国内においても着雪・着氷 現象は頻繁に発生するため,1 つ1つの問題解決は 非常に重要である.今回の日本風力エネルギー学会 誌への投稿によって,日本国内の風力発電施設にお ける着雪・着氷問題の解決に多少なりとも貢献でき ることを望んでいる. 参考文献
1) IEA Wind Task19,
https://community.ieawind.org/task19/19workplan, アク セス 2020 年 2 月 8 日
2) 山崎雅文,金山智,岩井憲一,細見雅生,木村茂雄, 寒冷地における風力利用に関する考察,第 41 回風力 エネルギー利用シンポジウム
3) Yamazaki, M., Sumino, Y., Morita, K., “Temperature distribution of a water droplet moving on a heated super-hydrophobic surface under the icing condition”, 70th
Annual Meeting of the American Physics Society Division of Fluid Dynamics, Denver, CO, November 20th, 2017.
4) Sakaue, H., Morita, K., Kimura, S., “International Project Summary of ICE-WIPS – a hybrid aircraft ice-protection system using an icephobic coating and an electric heater,”
Energy in Cold Climates, 2nd Edition, October 2018, pp.20-24
6) 森川浩司,木村茂雄,齋藤寿幸:寒地技術論文・報告 集 Vol.24,pp.48-52, 2008
7) Kimura S., Y. Yamagishi, H. Morikawa, T. Kojima, T. Sato, T. Aaltio, H. Valo, and J. Hietanen: “DE-ICING TESTING AND DEVELOPMENT OF ULTRASONIC WIND SENSOR FOR COLD CLIMATE”, WinterWind2013 International Wind Energy Conference, 2013.
8) 小谷田愛美,木村茂雄,森川浩司,小島徹也,佐藤研 吾,齋藤智郁・遠藤悠,守田克彰,望月重人:寒地技 術論文報告集(査読論文),Vol.30. pp. 92-97,北海 道開発技術センター, 2014
9) Yamazaki, M., Sakata, K., Abe, H., Sato, K., Morita, K., Kimura, S., Icing test of propellers for multi-rotary URAV,