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学級の社会的目標構造とクラスメイトへの自律的な向社会的行動との関連 ―小中学生の差異に着目して―

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Academic year: 2021

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(1)52. 教育心理学研究,2021,69,52-63. 教 育 心 理 学 研 究 第 69 巻 第 1 号. 学級の社会的目標構造とクラスメイトへの 自律的な向社会的行動との関連 ――小中学生の差異に着目して――. 山 本 琢 俟* 河 村 茂 雄** 上 淵 寿** 本研究では,学級の社会的目標構造と子どもの自律的な向社会的行動や自律的ではない向社会的行動 との関連について,小学生と中学生の学校段階差を検討した。なお,向社会的行動の対象をクラスメイ トに限定し,検討を行った。多母集団同時分析の結果,小中学生共に,学級での思いやりや互恵性の強 調された目標を認知することと,自律的な向社会的行動との関連が確認された。一方で,学級での規律 や秩序の強調された目標を認知することは自律的ではない向社会的行動と関連していることが確認され た。このことから,向社会的行動の生起には学級での思いやりを強調することと規律を強調することが 共に有効であろうが,特に学級での思いやりを強調する指導によって子どもの自律的な向社会的行動を 予測し得ることが示唆された。また,横断的検討ではあるものの,学級の向社会的目標構造と子どもの 自律的な向社会的行動との関連に学校段階差が確認されたことから,学級での向社会的目標を強調する 教師の指導が自律性支援としての性質を持つ可能性を指摘した。最後に,本研究の限界と今後の課題に ついてまとめた。 キーワード:社会的目標構造,向社会的行動,自律性,有機的統合理論,小中学生. 問 題. 行動を行えばそれでよいというわけでない。生徒指導 提要(文部科学省, 2010)では,学校教育における指導観. 人が行う望ましい行動として向社会的行動がある。. として,児童生徒が主体的に行動に取り組めるような. 向社会的行動とは,他者の利益を意図した行動とされ. 場や機会を提供することが必要であり,児童生徒が自. ている (Batson,1998; Penner et al., 2005)。向社会的行動は. ら考え主体的に望ましい行動を行えるよう促すことを. 広範な概念であり (Batson, 1998),近接概念との区別に. 通じた指導や援助の重要性が述べられている。つまり,. ついて,向社会的行動が愛他的行動や援助行動等を包. 学校教育においては,子どもが向社会的行動のような. 含したものであるとする分類(岩立, 1995; 中村, 1987)や,. 望ましい行動を行えるだけでなく,その主体性が重視. 反社会的集団内での援助行動は向社会的行動たり得な. されているのである。. いといった指摘(相川, 1988)がみられる。このような背. 渡辺(2002)は,主体性を自律性,自主性,勤勉性の. 景から,近年では,向社会的行動の性質をより正確に. 概念によって整理しており,道徳性の発達過程におい. 表すため,村上他(2016)が向社会的行動を「社会的価. ては,特に自律性が重要な視点を提供し得ると述べて. 値を有する,他者の利益を意図した行動」と定義して. いる。一般に向社会的行動は道徳的行動とみなされる. いる。向社会的行動は,それを実行することで他者か. ことが多いため(中尾, 2015),向社会的行動と道徳性と. らポジティブな評価を受けると考えられており (二村,. の密接な関連が推察される。そこで,本研究では行動. 2017) ,学校教育場面で教師から子どもに指導すべき内. の自律性に注目し,子どもの自律的な向社会的行動と. 容として取り上げられている(Bergin, 2014; 渡辺, 2014)。. 関連する教師の指導について検討することを目的とす. 学校教育での向社会的行動に関する指導を考える際,. る。向社会的行動の生起だけではなくその自律性に焦. 教師から言われるままに子どもがこのような望ましい. 点化した研究を行うことは,小・中学校における教育. *. 早稲田大学・日本学術振興会 〒 169-8050 新宿区西早稲田 1-6-1 [email protected]. ** 早稲田大学. や子どもの評価を考慮するにおいて有意義であろう。 教師は顕在的・潜在的に子ども個人と学級における 教育目標の設定や達成に大きな影響力を持っている(三 島・淵上, 2010)。そのため子どもの自律的な行動や自律.

(2) 山本・河村・上淵:学級の社会的目標構造とクラスメイトへの自律的な向社会的行動との関連. 53. 的ではない行動に対しても教師による影響は大きいと. ンスを考えるうえで重要なものであり (大谷他, 2016),. いえよう。例えば,相手の要望を聞いたり課題に取り. 向社会的行動との関連が強く見込まれる。実際に,2. 組む理由を説明したりするといった行動は相手の自律. つの目標の認知は,共に児童の学級における向社会的. 性を促進するため(Reeve & Jang, 2006),教師がこれらの. 行動を予測することが確認されている(Ohtani & Okada,. 行動を行うことと子どもが自律的な行動を行うことと. 2018)。. の関連が予想される。一方,子どもとのコミュニケー. 次に,学級の社会的目標構造と自律的な向社会的行. ションや子どもに対して用いる報酬等,学級において. 動や自律的ではない向社会的行動との関連について述. 教師が行う行動は,子どもがどう振る舞えばよいかと. べる。向社会的目標構造は,仲間との相互学習を媒介. いう指標やその統制要因となり得るため (Deci & Ryan,. して学習への内発的な動機づけや学業自己効力感を高. 1985; Reeve, 2009),教師の学級での行動は,子どもの自. める過程が確認されている(大谷他, 2016)。この研究(大. 律的ではない行動とも関連していることが予想される。. 谷他, 2016) で取り上げられている相互学習とは「他者. しかしながら,何か特定の行動を教師が行っている. との相互作用」の指標として取り上げられているもの. かどうかということが,必ずしも子どもの自律的な行. である1。同様の指標を用いた岡田・大谷(2017)は,学. 動や自律的ではない行動と一様に関連しているとは考. 級の向社会的目標を高く認知する子どもほど自律的な. えづらい。それぞれの教師は個々の方法で子どもの自. 動機づけによる学級での相互学習を多く行うことを明. 律性に配慮しようとしている(Reeve, 2016)。また,たと. らかにしている。つまり,向社会的目標を高く認知す. え同じ場面で同じ指導行動を行ったとしても,教師の. る子どもほど自律的な他者との相互作用を多く行って. 有している勢力資源等によってその指導内容が子ども. いると考えることができる。このことから,学級の向. に及ぼす影響は異なる(三島・淵上, 2010)。つまり,教師. 社会的目標構造と子どもの自律的な向社会的行動との. の行う何か特定の指導行動が子どもの自律性と関連し. 関連が予想される。また,学級の向社会的目標構造に. ているというよりも,子どもの自律性は,指導行動を. よって子どもの被統制感が喚起される可能性も考えら. 含めた教師の指導全般と関連していると考える方が自. れる。小学生を対象とした研究において,規範遵守目. 然であろう。そこで,子どもの自律性に影響を与える. 標の認知よりも向社会的目標の認知の方が,学級の規. 要因として,具体的な教師の指導行動ではなく学級風. 律正しさへの予測力は大きい (大谷他, 2016)。つまり,. 土に注目する。教師は学級風土を形成するキーパーソ. 規則や秩序を守ることに関する目標以上に,思いやり. ンであり,学級経営における教師の全般的な指導を通. や互恵性に関する目標によって学級の規律が強く形成. して学級風土が形成されている(伊藤・宇佐美, 2017)。そ. されている可能性を指摘できる。. の中でも,本論文では学級の社会的目標構造を取り上. 一方で,規範遵守目標を提示することによって子ど. げる。. もの心理的リアクタンスを喚起させやすいことが見出. そもそも学級の目標構造は,教師が強調する学級へ. されている(大谷・山村, 2017)。心理的リアクタンスは,. のメッセージであり(Ames & Archer, 1988),それに対す. 自身の自己統制感が脅かされたりこれを喪失したりす. る子どもの認知によって構成されている。学級の社会. ることによって喚起されるものであるため (Brehm &. 的目標構造とは,特に社会的な側面に焦点を当てたも. Brehm, 1981),心理的リアクタンスの背景には外的な統. ので, 「学級において強調され,共有されている社会的. 制要因による被統制感の存在が推察される。そのため,. 「教師が強調する学級集団に向 目標」(大谷他, 2016)や,. 子どもが学級における規範遵守目標を高く認知するこ. けたメッセージの中で,特に社会性に関するメッセー. とで,義務からの逸脱による罰を強く予測し,規範や. ジの知覚」(大谷・山村, 2017)と捉えられている。このこ. 罰といった外的な統制要因による被統制感を経験して. とから,学級の社会的目標構造は,学級で強調されて. いると考えられる。したがって,学級の規範遵守目標. いる目標のうち,特に社会的目標に対する子どもの認. 構造と子どもの自律的ではない向社会的行動との関連. 知であることが分かる。大谷他(2016)は,学級の社会. が予想される。. 的目標構造として,思いやりや互恵性に関する目標(向. 本 研 究 と 類 似 し た も の と し て,Ohtani & Okada. 社会的目標)の認知である「向社会的目標構造」と規則. (2018)が小学生を対象に学級の社会的目標構造と向社. や秩序を守ることに関する目標 (規範遵守目標) の認知. 会的行動との関連を検討している。対して本研究の独. である「規範遵守目標構造」の 2 側面を取り上げてい. 1. る。これらの目標は子どもの道徳性や社会的コンピテ. 用いられた項目は「テスト前に問題を出し合う」や「おたが いの得意な勉強内容を教え合う」等の 5 項目である。.

(3) 54. 教 育 心 理 学 研 究 第 69 巻 第 1 号. 自性は,学級の社会的目標構造と自律的な向社会的行. 過程が確認された場合,その社会的目標構造は自律的. 動や自律的ではない向社会的行動との関連を検討する. な向社会的行動と関連しており,ある社会的目標構造. 点,対象を小・中学生とし学校段階差に焦点を当てた. から他律的動機づけのみを媒介して向社会的行動に至. 検討を行う点にある。児童期よりも青年期において,. る過程が確認された場合,その社会的目標構造は自律. 自律性への要求は大きく(Feldman & Quatman, 1988),教. 的ではない向社会的行動と関連しているといえる。. 師は自律性の要求における発達段階差に配慮した指導. また,小・中学生は,学校生活のほとんどを学級単. を行う必要があるとされている(三木・山内, 2003)。つま. 位で過ごすため,学級担任の指導場面は学級集団全体. り,小学生と中学生にとっての望ましい教師の指導は. を対象にしたものが多いとされている (三島・淵上,. 異なることが推察されるため,学級の社会的目標構造. 2010)。そこで,本研究では,向社会的行動の対象をク. と自律的な向社会的行動や自律的ではない向社会的行. ラスメイトに限定し,その動機づけとしてクラスメイ. 動との関連には,学校段階による差異が存在している. トとの関係への動機づけを取り上げる。大学生を対象. と考えられる。小・中学生双方に関する検討を行うこ. とした研究ではあるものの,岡田(2005)は,友人関係. とで,発達に応じた指導や小中連携にも寄与できると. を形成・維持しようとする自律的動機づけと他律的動. 考える。. 機づけが友人に対する向社会的行動を予測するもので. ところで,向社会的行動は,個人の価値観や自律性. あることを明らかにしている。このことから,対象を. によって,あるいは外的な圧力や報酬によって生起す. 限定した向社会的行動の動機づけを検討するにあたり,. るものであるため,有機的統合理論による動機づけと. その対象との関係への動機づけを取り上げることは妥. の密接な関連が提起されている(Weinstein & Ryan, 2010)。. 当であると考える。. そのため,自律的な向社会的行動や自律的ではない向. 以上より,本研究では,学級の社会的目標の認知が. 社会的行動を捉えるために,有機的統合理論の適用が. クラスメイトとの関係への動機づけを媒介してクラス. 可能であると考える。有機的統合理論とは,外発的動. メイトへの向社会的行動に至る過程について,小・中. 機づけを自律性の度合いによって段階分けしたもので,. 学生の学校段階差と共に検討する。. 最も他律的な状態から順に,外的調整,取り入れ的調. 方 法. 整,同一化的調整,統合的調整とされている (Deci & Ryan, 1985)。外的調整は報酬や罰といった外部からの統. 調査対象. 制に従う段階,取り入れ的調整はその行動の価値は認. 同一地域の小学校 2 校に在籍する 4 年生から 6 年生. め自己の価値観として取り入れつつあるものの外部か. の 20 学級 657 名(男子 329 名,女子 328 名)と,中学校 1. らの統制に従う段階,同一化的調整はその行動の価値. 校に在籍する 1 年生から 3 年生の 15 学級 497 名(男子. を認め積極的に行動を喚起しようとする段階,統合的. 260 名,女子 237 名)を対象とした。なお,対象とした学. 調整は自身の価値観と行動の価値観が一致している段. 級は調査年度初めのクラス替えによって編成された学. 階である(長沼, 2004; 山口, 2012)。これらの外発的動機づ. 級であり,学級担任が年度の途中で変更されていない. けは,より自律性の高い内発的動機づけ(内的調整)と. ことを確認した。. 共に,1 次元上に位置付けられており (Ryan & Deci,. 調査内容. 2000),外的調整と取り入れ的調整は他律的動機づけ,. 学級の社会的目標構造 大谷他(2016)の学級の社会. 同一化的調整と統合的調整と内的調整は自律的動機づ. 的目標構造尺度を用いた。本尺度は,小学校 5, 6 年生. けとされている(櫻井, 2017; 山口, 2012)。有機的統合理論. を対象としており, 「向社会的目標構造」の 8 項目(項. による動機づけの段階分けを踏まえ,外的な要因によ. 目例:このクラスでは,他の人を思いやることが大事にされてい. る被統制感を抱いているかどうかを基準として,自律. ます), 「規範遵守目標構造」の. 的動機づけによって生起された向社会的行動は自律的. スではルールや決まりを守ることができないのは恥ずかしいこと. であり,他律的動機づけのみから生起された向社会的. だとされています)の. 行動は自律的ではないと捉えることができる。. 教示文は「それぞれの質問が,あなたのクラスにどれ. そこで,本研究の分析モデルとして,学級の社会的. だけあてはまりますか」とした。. 6 項目(項目例:このクラ. 2 因子 14 項目から構成されている。. 目標構造から自律的・他律的な動機づけを媒介して向. クラスメイトとの関係への動機づけ 岡田(2005)の. 社会的行動へ至る過程を想定する。ある社会的目標構. 友人関係への動機づけ尺度の教示文を変更し,クラス. 造から自律的動機づけを媒介して向社会的行動に至る. メイトとの関係への動機づけを尋ねた。 「クラスメイト.

(4) 山本・河村・上淵:学級の社会的目標構造とクラスメイトへの自律的な向社会的行動との関連. 55. との関係への動機づけ」を測定するにあたり「友人関. の社会的目標構造について, 「よくあてはまる(4 点)」. 係への動機づけ」を参考とする理由は以下のとおりで. から「全くあてはまらない (1 点)」の 4 件法で回答を. ある。小・中学生は学校で多くの時間を過ごすため,. 求めた。クラスメイトとの関係への動機づけについて,. 友人関係のほとんどは同じクラスであることを基盤と. 「とてもあてはまる(5 点)」から「全くあてはまらない. して形成されている (藤田他, 1996)。現代においても,. (1 点) 」の. 5 件法で回答を求めた。クラスメイトに対す. 普段一緒によく遊ぶ友達として小学校高学年児童の. る向社会的行動について, 「いつもした (4 点)」から. 85.0%,中学生の 71.6%が「同じクラスの子」と回答. 「やったことがない(1 点)」の 4 件法で回答を求めた。. しており(厚生労働省, 2014),小・中学生は「友人」とし. 回答の後,学級毎に質問紙を封筒に入れてその場で密. て「クラスメイト」を想起しやすいと考えられる。ま. 封し回収した。. た,岡田(2005)の尺度は大学生を対象に作成されたも. 倫理的配慮. のであるが,中学生を対象とした際にも同様の因子構. 各学校の学校長に調査内容と調査手続きについて説. 造や高い信頼性が確認されている(岡田, 2006)。以上よ. 明し,調査への協力要請を行った。同意の得られた学. り,小・中学生におけるクラスメイトとの関係への動. 校の学級担任に対しても調査内容の説明と協力要請を. 機づけを測定するために,岡田(2005)の尺度が援用で. 行った。対象が未成年であることを踏まえ,学校にお. きると判断した。. いて子どもを保護する立場にある学校長と学級担任の. 原尺度は,友人関係の形成や維持に関する動機づけ. 双方に対して,調査手続きについて倫理的に問題がな. を有機的統合理論の観点から,「内発」の 4 項目(項目. いことを確認してもらい同意を求めた。学校長と学級. 例:友人といっしょにいるのは楽しいから) ,「同一化」の. 4. 担任双方から同意を得られた学級の子どもを対象に質. 項目 (項目例:友人は自分にとって意味のあるものだから),. 問紙調査を実施した4。質問紙や各項目への回答は任意. 「取り入れ」の 4 項目(項目例:友人がいないと不安だから),. であり途中で回答を取り止めてもよいこと,無記名で. 「外的」の 4 項目(項目例:友人を作っておくように周りから. あり個人の特定は行わないこと,回答への協力の有無. 言われるから)の. 4 因子 16 項目で構成されている。本研. と回答内容が学校の成績に関係しないことを質問紙の. 究における教示文は, 「なぜ同じクラスの友人と親しく. 表紙に明記し,調査の実施に際して当該内容を口頭で. したり,一緒に時間を過ごしたりしますか」 とした。. も説明するよう学級担任に依頼した。調査実施前に子. クラスメイトに対する向社会的行動 村上他(2016). どもからの同意についても意思確認を行った。. が小学校 4 年生から中学校 3 年生を対象として作成し. 分析手法. た対象別向社会的行動尺度の下位尺度の 1 つ, 「友だち. 分析手法について,子どもの認知する学級環境のよ. に対する向社会的行動」の 6 項目(項目例:仲のよい友だ. うな階層的なデータに焦点を当てる場合,マルチレベ. 2. ちがケガや病気のとき保健室まで連れて行った)について教示. ルモデルによる分析を行うことが推奨されている. 文を変更し,クラスメイトに対する向社会的行動の頻. (Anderman et al., 2002; Marsh et al., 2012)。しかし,マルチ. 度を尋ねた。教示文は, 「あなたは,今のクラスの友だ. レベルモデルを用いる際,集団数が 50 以下の場合に. 3 ちに,次のことをどのくらいしたことがありますか」. は,集団レベルの標準誤差推定にバイアスが生じるこ. とした。. とや(Maas & Hox, 2005),マルチレベルモデルを用いた. 調査時期と調査手続き. 間接効果の検定を行う際,集団数が 80 よりも小さい場. 調査は 2018 年 1 月から 2 月に実施し,全ての調査対. 合には,推定値の収束に問題が生じること(Li & Beretvas,. 象者に対して同様の手続きで調査を進めた。調査手続. 2013)が指摘されている。本研究の対象が小学校. きは,調査対象者が所属する学級毎に,ホームルーム. 級,中学校 15 学級であることから,本研究では学級の. や授業時間を使って集団で実施された。各学級担任が. 社会的目標構造における子どもの認知面のみを扱うこ. 著者の代理として調査の説明と実施を担当した。学級 2. 3. 「友だち」や「友人」という表記について,村上他(2016)が 「友だち」という表記により,調査対象者がクラスメイトや仲 間を想起する可能性を指摘している。そこで本研究では,クラ スメイトとの関係やクラスメイトの想起を促すため,元尺度の 教示文を最大限活かしつつ「今のクラスの友だち」「同じクラ スの友人」とした。 脚注 2 参照。. 20 学. ととし,マルチレベルモデルは用いず,調査対象者を 4. 子どもの保護者からの同意の不在について,調査対象者本人 からの同意に加え,学校で子どもを保護する立場にある学校長 と学級担任からの同意を確認する手続きを経ることで,日本教 育心理学会倫理綱領に背反しない調査手続きであると判断した ものである。しかしながら,調査対象者が未成年である以上, その保護者からも子どもの調査参加の同意を確認することが倫 理的により望ましいという点に疑いの余地はない。.

(5) 56. 教 育 心 理 学 研 究 第 69 巻 第 1 号. 小学生と中学生の集団に分けた多母集団同時分析を. おいて CFI=.909,RMSEA=.075,SRMR=.061,中. 行った。. 学 生 に お い て CFI=.905,RMSEA=.074,SRMR=. 本研究の分析に際して,基礎統計量と相関係数の算. .065 であった。小・中学生共に許容できる値であると. 出 に は IBM SPSS statistics 25,モ デ ル の 推 定 に は. 判断し,項目の加算平均を尺度得点として算出した。. Mplus version 8.2 を使用した。. 各下位尺度の基礎統計量と信頼性係数を Table 1 に示 す。. 結 果. クラスメイトとの関係への動機づけ 岡田(2005)の. 尺度の構成. 因子構造を参考に,小・中学生それぞれにおいて確認. 学級の社会的目標構造 大谷他(2016)と調査対象が. 的因子分析(ロバスト最尤法)を行った。確認的因子分析. 異なるため,元の因子構造を参考に,小・中学生それ. モデルの適合度指標は,小学生において CFI=.905,. ぞれにおいて確認的因子分析 (ロバスト最尤法) を行っ. RMSEA=.073,SRMR=.062,中学生において CFI=. た。確認的因子分析モデルの適合度指標は,小学生に. .920,RMSEA=.075,SRMR=.064 であった。小・ 中学生共に許容できる値であると判断し,項目の加算. Table 1. 平均を尺度得点として算出した。各下位尺度の基礎統. 各変数の基礎統計量. 計量と信頼性係数を Table 1 に示す。. 得点範囲 向社会的目標構造. 1―4. 規範遵守目標構造. 1―4. 内発. 1―5. 同一化. 1―5. 取り入れ. 1―5. 外的. 1―5. 向社会的行動. 1―4. 平均値. 標準偏差. α 係数. クラスメイトに対する向社会的行動 項目の加算平. 3.47 3.16 3.38 3.06 4.59 4.50 3.90 4.05 2.88 2.98 2.21 2.38 3.02 2.99. 0.52 0.62 0.47 0.55 0.66 0.69 0.84 0.84 0.90 0.88 0.68 0.67 0.61 0.63. .88 .90 .74 .73 .86 .91 .76 .83 .75 .73 .71 .79 .82 .74. 均を尺度得点として算出した。小・中学生それぞれに おける基礎統計量と信頼性係数を Table 1 に示す。 各変数の学校段階差と性差 得られたデータの学校段階差と性差について検討し た。各尺度得点を従属変数とした学校段階(小学生,中 学生)×性別 (男子,女子) の. 2 要因多変量分散分析を. 行った(Table 2)。分析の結果,学級の社会的目標構造 のうち,向社会的目標構造と規範遵守目標構造につい て学校段階の主効果が有意であった (順に F(1, 1150)= 85.09,p<.001; F(1, 1150) =117.60,p<.001) 。向社会的目. 標構造と規範遵守目標構造は共に,小学生の方が中学. 注) 各セルの上段が小学生,下段が中学生。. Table 2 学校段階と性別毎の平均値や標準偏差と分散分析の結果 小学生 男子. 女子. M M (SD) (SD) 3.46 3.47 (0.53)(0.52) 3.40 3.37 規範遵守目標構造 (0.49)(0.46) 4.53 4.64 内発 (0.71)(0.60) 3.85 3.94 同一化 (0.88)(0.80) 2.92 2.84 取り入れ (0.89)(0.90) 2.24 2.19 外的 (0.71)(0.65) 2.84 3.21 向社会的行動 (0.63)(0.53). 向社会的目標構造. *p<.05 **p<.01 ***p<.001. 中学生 男子. 女子. 主効果 学校段階. 性別. 交互 作用. M M (SD) (SD). F値 (偏 η2). F値 F値 (偏 η2) (偏 η2). 3.20 3.11 (0.60)(0.63) 3.09 3.03 (0.54)(0.57) 4.46 4.54 (0.68)(0.70) 4.03 4.06 (0.84)(0.84) 2.98 2.98 (0.90)(0.87) 2.33 2.43 (0.65)(0.69) 2.78 3.22 (0.61)(0.58). 85.09*** (.07) 117.60*** (.09) 4.24* (.00) 8.73** (.01) 3.71 (.00) 17.15*** (.02) 0.51 (.00). 1.14 (.00) 2.14 (.00) 5.19* (.00) 1.59 (.00) 0.50 (.00) 0.45 (.00) 132.53*** (.10). 2.00 (.00) 0.26 (.00) 0.11 (.00) 0.26 (.00) 0.59 (.00) 3.27 (.00) 0.96 (.00).

(6) 山本・河村・上淵:学級の社会的目標構造とクラスメイトへの自律的な向社会的行動との関連. 57. Table 3 変数間の相関係数 A. B. A:向社会的目標構造 B:規範遵守目標構造 C:内発 D:同一化 E:取り入れ F:外的 G:向社会的行動. .60*** .64*** .36*** .36*** .34*** .37*** .21*** .11* .18*** .06 .23*** .22***. .24*** .26*** .24*** .28*** .21*** .17*** .18*** .11* .14*** .17***. C. D. E. F. G. .28*** .26*** .03 .04 . .26*** .26*** .04 .06 . .11** .00 .10** .13** .  .09* -.01  .09*  .09* . .18*** .14** .01 .05 . .46*** .43*** .24*** .16*** .39*** .41***. .50*** .50*** .17*** .25***.  .19***  .24***. .64*** .77*** .28*** .28***. .03 .02 .34*** .38***. 注 1) 各セルの上段が小学生,下段が中学生。 注 2) 対角線より左下はピアソンの積率相関係数,右上は学級の社会的目標構造の下位尺 度を互いに統制した偏相関係数。 *p<.05 **p<.01 ***p<.001. 生よりも得点が高かった。クラスメイトとの関係への. いに統制し,他変数との偏相関係数を算出した (Table. 動機づけのうち,内発,同一化,外的について学校段. 3)。規範遵守目標構造を統制した向社会的目標構造は,. 階の主効果が有意であった (順に F(1, 1150)=4.24,p<. 小学生ではクラスメイトとの関係への動機づけの内. .05; F (1, 1150) =8.73,p<.01; F (1, 1150)=17.15,p<.001)。. 発・同一化・取り入れ・外的,クラスメイトに対する. 内発は小学生の方が中学生よりも得点が高く,同一化と. 向社会的行動と有意な正の偏相関関係にあり,中学生. 外的は中学生の方が小学生よりも得点が高かった。また,. ではクラスメイトとの関係への動機づけの内発・同一. 内発について性別の主効果が有意であり(F(1, 1150)=. 化,クラスメイトに対する向社会的行動と有意な正の. 5.19,p<.05),女子の方が男子よりも得点が高かった。. 偏相関関係にあった。向社会的目標構造を統制した規. クラスメイトに対する向社会的行動について性別の主. 範遵守目標構造は,小・中学生共にクラスメイトとの. 効果が有意であり(F(1, 1150)=132.53,p<.001),女子の. 関係への動機づけの取り入れ・外的と有意な正の偏相. 方が男子よりも得点が高かった。. 関関係にあった。. 変数間の相関. 学級の社会的目標構造が動機づけを媒介して向社会的. 学校段階毎における変数間のピアソンの積率相関係. 行動に至る過程. 数を Table 3 に示す。小学生において,学級の社会的. 学級の社会的目標構造と自律的な向社会的行動や自. 目標構造はクラスメイトとの関係への動機づけの内. 律的ではない向社会的行動の関連を検討するため,学. 発・同一化・取り入れ・外的,クラスメイトに対する. 級の社会的目標構造がクラスメイトとの関係への動機. 向社会的行動と有意な正の相関関係にあった。中学生. づけを媒介してクラスメイトに対する向社会的行動に. において,向社会的目標構造はクラスメイトとの関係. 至る過程を想定した(Figure 1)。また,学級の社会的目. への動機づけの内発・同一化・取り入れ,クラスメイ. 標構造の下位尺度間,動機づけにおける有意な相関関. トに対する向社会的行動と有意な正の相関関係にあり,. 係にある下位尺度間に共分散を設定し,向社会的行動. 規範遵守目標構造はクラスメイトとの関係への動機づ. に対する性別の影響を統制した。なお,本研究では学. けの内発・同一化・取り入れ・外的,クラスメイトに. 級の社会的目標構造における子どもの認知面のみを扱. 対する向社会的行動と有意な正の相関関係にあった。. うため,学級の社会的目標構造について個人の下位尺. また,小・中学生共にクラスメイトとの関係への動機. 度得点から所属学級の平均得点を減ずるセンタリング. づけはクラスメイトに対する向社会的行動と有意な正. の処理を施し,以下の分析を行った。. の相関関係にあった。. 初めに,予備的な分析として調査対象者の学年に. 次に,学級の社会的目標構造における下位尺度を互. よって集団を分け,小・中学生それぞれにおいて各学.

(7) 58. 教 育 心 理 学 研 究 第 69 巻 第 1 号. Figure 1. Table 4. 本研究において想定した分析モデル. 各モデルの適合度指標 モデルⅠ モデルⅡ モデルⅢ. CFI. RMSEA. SRMR. AIC. BIC. .993 .994 .989. .038 .024 .033. .026 .033 .041. 13714.969 13695.470 13704.110. 13977.620 13877.306 13870.793. Figure 2 想定したモデルを用いた多母集団同時分析の結果 R²=.11. 注) e1 と e2,e1 と e3,e2 と e3,e2 と e4,e3 と e4 の間にも共 分散を設定している。. .32 .30. 年を母集団とした多母集団同時分析(最尤法)を行った。. .17 R²=.12 R²=.27. .10. 比較するモデルとして,集団間で同じモデル構造を仮 定するものの全ての推定値が異なると仮定したモデル. .15. (モデル 1)と集団間で同じモデルを仮定し全ての推定値. が等値であると仮定したモデル(モデル 2)を設定した。. .12. .10. R²=.05 R²=.04. .25. .17. 分 析 の 結 果,小 学 生 に お け る モ デ ル 1 の 適 合 度 は CFI=.989,RMSEA=.044,SRMR=.037,AIC=. R²=.11. 7758.498,BIC=8108.537 であり,モデル 2 の適合度. .33. は CFI=.981,RMSEA=.035,SRMR=.069,AIC= 7718.765,BIC=7853.396 あった。中学生におけるモ. .33. デル 1 の適合度は CFI=.981,RMSEA=.065,SRMR= ル 2 の適合度は CFI=.961,RMSEA=.056,SRMR=. 方が RMSEA や AIC,BIC の値が低いことから小・中 学生共にモデル 2 を採択し,調査対象者は学校段階毎. .25. .16. .090,AIC=5939.157,BIC=6065.415 であった。小・ 度が確認された。モデルを比較した結果,モデル 2 の. R²=.28 R²=.03. .048,AIC=5967.378,BIC=6295.648 であり,モデ. 中学生共に,設定した全てのモデルに対する高い適合. .18 R²=.13. .11. R²=.02. .16. 注 1) 性別,誤差項,共分散は省略し 5%水準で有意なパスのみ 表示。 注 2) 上図が小学生,下図が中学生。 注 3) 値はすべて標準化推定値。. に同一集団とみなすことができると判断した。 次に,小・中学生の学校段階差について検討するた. と仮定した。算出された各モデルの適合度指標を Table. め,調査対象者を小学生集団と中学生集団に分け,各. 4 に示す。全てのモデルで十分な値の適合度指標が得. 学校段階を母集団とした多母集団同時分析(最尤法)を. られ,AIC はモデルⅡが最も低く,BIC はモデルⅢが. 行った。比較するモデルとして,集団間で同じモデル. 最も低かった。3 つのモデルを比較した結果,モデル. 構造を仮定するものの全ての推定値が異なると仮定し. Ⅱにおいて,CFI の値が最も高く RMSEA や AIC の値. たモデル (モデルⅠ),集団間で同じモデルを仮定しパ. が最も低いことから,最終的にモデルⅡを採択した。. ス係数の差の検定において有意な差のみられなかった. モデルⅡによる多母集団同時分析の結果を Figure 2. パスや共分散が等値であると仮定したモデル (モデル. に示す5。小学生において,向社会的目標構造から内. Ⅱ),集団間で同じモデルを仮定し全ての推定値が等値. 発・同一化・取り入れ・外的に対する正のパス,規範. であると仮定したモデル(モデルⅢ)の 3 つのモデルを. 遵守目標構造から取り入れ・外的に対する正のパス,. 設定した。具体的には,モデルⅠにおいて,向社会的. 内発・同一化・外的から向社会的行動に対する正のパ. 目標構造から取り入れ・外的に対するパス,内発と同. スが有意であった。中学生において,向社会的目標構. 一化との共分散に有意な学校段階差がみられたため,. 5. モデルⅡではこれらを除くパスや共分散が等値である. Figure 2 で省略しているパスや共分散の推定値については忌 憚なく第一著者に問い合わせられたい。.

(8) 山本・河村・上淵:学級の社会的目標構造とクラスメイトへの自律的な向社会的行動との関連. 59. 造から内発・同一化に対する正のパス,規範遵守目標. 在を実証的に示した点は本研究の特色である。この結. 構造から取り入れ・外的に対する正のパス,内発・同. 果から,児童は思いやりや互恵性についての目標を完. 一化・外的から向社会的行動に対する正のパスが有意. 全に内在化した上で向社会的行動を行っているのでは. であった。また,推定値の差の検定の結果,向社会的. なく,自律的ではあるものの被統制感を残した状態で. 目標構造から外的へのパス,内発と同一化との共分散. 向社会的行動を生起させていることが示唆されたとい. について,有意な学校段階差が確認された (順に z=. えよう。櫻井(2011)は,小学 5 年生から大学生の道徳. 2.09,p<.05; z=2.63,p<.001)。次に,社会的目標構造か. 判断の発達を検討し,学年が上がるほど「対人的同. ら動機づけを媒介して向社会的行動に至る過程の間接. 調・よい子への志向」を特徴とする道徳判断が減少し. 効果の検定を行った。ソベル検定の結果,小学生にお. ていくことを見出している。一般に向社会的行動は道. いて,向社会的目標構造から内発・同一化・外的を媒. 徳的行動とみなされることが多いことから(中尾, 2015),. 介 す る 効 果 (順 に B=.06,z=4.23,p<.001; B=.09,z=. 小学生は中学生よりも同調傾向の強い道徳判断を行う. 5.28,p<.001; B=.02,z=2.37,p<.05) ,規範遵守目標構. ために他律的動機づけを含む向社会的行動を生起させ. 造から外的を媒介する効果 (B=.02,z=2.56,p<.01),. ている可能性を指摘できる。パス係数の差の検定の結. 中学生において,向社会的目標構造から内発・同一化. 果,学級の向社会的目標構造から外的へのパスに小・. を媒介する効果 (順に B=.06,z=4.23,p<.001; B=.09,. 中学生間での有意な差が確認されたことも,小・中学. z=5.28,p<.001),規範遵守目標構造から外的を媒介す. 生の道徳判断の傾向を反映したものと考えられる。. る効果(B=.02,z=2.56,p<.01)が有意であった。. さらに,小学生では学級の向社会的目標構造から自. 考 察. 律的動機づけと他律的動機づけを媒介してクラスメイ トへの向社会的行動へ至る過程が確認された一方で,. 本研究では,学級の社会的目標構造からクラスメイ. 中学生では自律的動機づけのみを媒介してクラスメイ. トとの関係への動機づけを媒介してクラスメイトに対. トへの向社会的行動へ至る過程が確認された。学級の. する向社会的行動へ至る過程について,小・中学生の. 社会的目標構造は,教師によって強調されたメッセー. 学校段階差を検討した。予備的な分析として小・中学. ジに対する子どもの知覚である(大谷・山村, 2017)。ゆえ. 生がそれぞれ同質な集団であることを確認した上で,. に,学級での思いやりや互恵性に関する目標を強調す. 学校段階差を検討し小・中学生で同じモデルの想定が. る教師の指導が,小学校から中学校にかけ長期的に子. 可能であることを確認した。その後,多母集団同時分. どもの向社会的行動における他律的動機づけを減少さ. 析によるパスや共分散の推定と媒介分析による間接効. せている可能性を指摘できる。つまり,学級での思い. 果の検討を行った。. やりや互恵性に関する目標を強調する指導が, 「自律性. 媒介分析の結果,小学生において,学級の向社会的. 支援」としての性質を持ち得ると考えられる。自律性. 目標構造から内発・同一化・外的を媒介してクラスメ. 支援とは,子どもの自律性を尊重,あるいは促進する. イトへの向社会的行動に至る過程が確認された。また,. ような教師の関わりのことである(Deci & Ryan, 1985)。. 中学生において向社会的目標構造から内発・同一化を. 本研究はあくまで横断的な検討に留まっているものの,. 媒介してクラスメイトへの向社会的行動に至る過程が. 学級の向社会的目標構造からクラスメイトへの向社会. 確認された。つまり,小・中学生双方において,学級. 的行動に至る過程を媒介している動機づけのうち,他. での思いやりや互恵性に関する目標を認知することは. 律的動機づけを媒介する過程に学校段階差がみられた。. 自律的な向社会的行動と正の関連を持っているものの,. このことから,クラスメイトへの向社会的行動につい. 向社会的目標構造と自律的な向社会的行動との関連に. ては,学級での思いやりや互恵性に関する目標を強調. は学校段階差が存在していることが明らかとなった。. する教師の指導が子どもの他律性を長期的に抑制し,. Ohtani & Okada(2018)は,学級経営において学級の向. 相対的に向社会的行動の自律性を促進している可能性. 社会的目標を強調することで,子どもの行動面と精神. が示唆されたといえる。. 面での利益が見込めることを主張しており,本研究の. 次に,小・中学生共に,学級の規範遵守目標構造か. 結果とも整合している。. ら外的のみを媒介してクラスメイトへの向社会的行動. 小学生において,学級の向社会的目標構造からクラ. に至る過程が確認された。つまり,小・中学生におい. スメイトへの向社会的行動に至る過程として,自律的. て,学級での規則や秩序を守ることに関する目標の認. 動機づけと他律的動機づけの両方を媒介する過程の存. 知とクラスメイトに対する自律的ではない向社会的行.

(9) 60. 教 育 心 理 学 研 究 第 69 巻 第 1 号. 動との関連が示された。既述の通り,規範遵守目標を. いるが(Reeve & Jang, 2006),特定の行動ではなく,学級. 提示することによって,小学生の心理的リアクタンス. で強調されている向社会的目標が自律性支援としての. を生じさせやすいことが確認されている (大谷・山村,. 機能を持っている可能性を示した点は,教師の指導の. 2017)。本研究において学級の規範遵守目標構造から他. 方向性を示すものであり,本研究の意義といえる。. 律的動機づけのみを媒介し向社会的行動へ至る過程が. ところで,本研究での多母集団同時分析の結果から,. 確認されたことは,心理的リアクタンスの背景に外的. 動機づけのうち,取り入れのみ向社会的行動へのパス. な要因による被統制感の存在が想定されることとも整. 係数が小・中学生共に有意ではなかった。取り入れ的. 合する。また,これまで検討されていなかった中学生. 調整とは,行動の価値を認め自己の価値観として取り. においても,小学生と同様の結果が得られ,小・中学. 入れつつあるものの外部からの統制に従う段階であり. 校における学級の規則や秩序を重視した教師の指導は,. (山口, 2012),その行動をするべきかしないべきかといっ. 子どもの自律的な向社会的行動と関連していないこと. た相反する衝動の衝突が含まれている (Deci & Ryan,. が明らかとなった。. 1985) 。その他の調整と向社会的行動との関連が確認さ. 加藤・太田(2016)によれば,中学校において荒れて. れたことと併せて考えると,その性質上社会的な期待. いる学級に所属する生徒は,荒れていない学級に所属. を意識せざるを得ない向社会的行動は,外的な統制要. する生徒よりも学級内の他者の規範意識を低く見積. 因か自己の価値観かどちらかの影響が強いことで表出. もっており,このことから,個人の規範意識の低さで. する行動であると考えることができる。本研究の結果. はなく他者の規範意識を低く見積もってしまうことが. から,少なくともクラスメイトに対する向社会的行動. 学級の荒れ状態を悪化あるいは維持させているとして. について,社会的な期待等と自己の価値観とが葛藤し. いる。本研究で取り上げた学級の規範遵守目標の認知. ている状態にある取り入れ的調整段階では,向社会的. は,他者の規範意識についての認知ではないものの,. 行動の表出につながりづらいことが推察される。. 学級での規則や秩序を守ることに関する目標の認知で. 最後に,本研究の限界と今後の課題として以下に 3. あるため,学級の規範意識についての認知であるとい. 点を挙げる。1 つ目は,学級の向社会的目標構造と規. える。したがって,加藤・太田(2016)の知見から,学. 範遵守目標構造との間に,かなり強い相関が存在する. 級の規範遵守目標の認知が低くなることと学級の荒れ. ことである。学級の社会的目標構造を取り上げた本研. との関連が予想される。ゆえに,一概に学級での規則. 究や先行研究 (Ohtani & Okada, 2018; 大谷他, 2016; 岡田・大. や秩序を守ることに関する目標を強調するような指導. 谷, 2017) において,向社会的目標構造と規範遵守目標. を行うべきではないと結論付けることはできない。本. 構造の相関係数は.51 から.68 の値を示している。その. 研究の結果は,大谷・山村(2017)と同様に,あくまで. ため,実際に子どもが認知する教師の指導について,. も学級における過度な規範遵守目標の強調の危険性を. 学級の向社会的目標と規範遵守目標に関連する指導が. 示唆するものである。. 明確な区別の下に認知されているとは考えづらい。複. 行動の生起のみに着目すると,小・中学生において. 雑に関係し合ったそれぞれの指導の要素が持つ特徴を. 学級の向社会的目標や規範遵守目標の認知とクラスメ. 検討したという意味で,本研究や先行研究の取り組み. イトに対する向社会的行動との正の関連が確認された。. は意義あるものと考えられる。しかし,学習指導や生. この結果は Ohtani & Okada(2018)の結果と同様であ. 徒指導場面の観察等を行い,さらなる検討を進めてい. る。加えて,本研究では,自律的な向社会的行動と学. く必要がある。2 つ目は,学級内での対立やスクール. 級の向社会的目標構造との関連が確認され,学級の規. カーストの存在を考慮する必要性である。小・中学生. 範遵守目標構造は自律的ではない向社会的行動との関. は向社会的行動が個人の所属する集団内に対するもの. 連が確認された。本研究ではマルチレベルモデルを使. か集団外に対するものかによって寄り好みを行う傾向. 用せず検討を行ったため,学級レベルでの知見を獲得. が確認されている(Weller & Lagattuta, 2013)。このことか. するには至らなかった。しかし,学級の向社会的目標. ら,学級におけるグループの対立や明確なスクール. に対する子どもの認知を高めるためには,教師が向社. カーストが存在している場合,同一集団に所属する者. 会的目標を強調した指導や学級経営を行うことが効果. かそうでないかによって,教師の指導と向社会的行動. 的であろう。また,自律性支援に該当する指導行動と. やその動機づけとの関連も異なることが予想される。3. して,子どもの要望を聞いたり,課題に取り組む理由. つ目は,縦断的研究や実践的研究の必要性である。本. を説明したりするといった具体的な行動が挙げられて. 研究の結果から,学級の思いやりや互恵性に関する目.

(10) 山本・河村・上淵:学級の社会的目標構造とクラスメイトへの自律的な向社会的行動との関連. 標を強調する指導が自律性支援としての性質を持って いることが示唆された。縦断的な調査により個人の変. 61. Early Adolescence, 8 (4), 325-343. https://doi.org/10. 1177/0272431688084002. 化を追うことで,本研究によって得られた示唆につい. 藤田英典・伊藤茂樹・坂口里佳(1996). 小・中学生の. ての詳細な検討を行う必要がある。また,学校教育は. 友人関係とアイデンティティに関する研究―全国 9. 学年や学校段階毎の単発的な指導ではなく,長期的な. 都県での質問紙調査の結果より 東京大学大学院教. 視点に基づいた指導が行われている。つまり,子ども. 育 学 研 究 科 紀 要, 36, 105-127. https://doi.org/10.. はそれまで受けた全ての指導によって影響を受けてい るはずである。例えば,中学生が行う自律的な向社会. 15083/00031660 . 向社会的行動の実行および不実行が 二村郁美(2017). 的行動や自律的ではない向社会的行動は,中学校での. 道徳性と温かさの評価に及ぼす影響 心理学研究,. 指導に加え小学校での指導の影響も同様に受けていると. 87(6), 590-599. https://doi.org/10.4992/jjpsy.87.15045. いえる。学校教育とその効果についての検討を縦断的に. . 新版中学生用学級風 伊藤亜矢子・宇佐美 慧(2017). 進めることで,より実践に即した示唆を得ることができ. 土尺度(Classroom Climate Inventory; CCI)の作成 . ると考える。また,実践的な研究を行うことで,本研究. , 91-105. https://doi.org/10. 教育心理学研究, 65(1). で得られた示唆の具体的な教育効果にも言及できよう。 引用文献 相川 充(1988). 援助に対する被援助者の認知的反応. 5926/jjep.65.91 . 幼児・児童における向社会的行動の 岩立京子(1995) 動機づけ―帰属要因と感情要因の検討 風間書房 . 学級の荒れと規範意識お 加藤弘通・太田正義(2016). に関する研究―心理的負債の決定因に関する分析 . よび他者の規範意識の認知の関係―規範意識の醸成. 宮崎大学教育学部紀要 社会科学, 63, 37-48.. から規範意識をめぐるコミュニケーションへ 教育心. Ames, C., & Archer, J.(1988) . Achievement goals in the classroom: Students' learning strategies and motivation processes. Journal of Educational Psychology, 80 (3), 260-267. https://doi.org/10.1037/0022-0663. 80.3.260. , 147-155. https://doi.org/10.5926/ 理学研究, 64(2) jjep.64.147 . 平成 26 年度全国家庭児童調査結 厚生労働省(2014) 果の概要 Li, X., & Beretvas, S. N.(2013) . Sample size limits for. Anderman, L. H., Patrick, H., Hruda, L. Z., &. estimating upper level mediation models using multi-. Linnenbrink, E. A.(2002). Observing classroom goal. level SEM. Structural Equation Modeling, 20(2) ,. structures to clarify. In C. Midgley(Ed.), Goals,. 241-264. https://doi.org/10.1080/10705511.2013.7693. goal structures, and patterns of adaptive learning(pp. 243-278). Lawrence Erlbaum Associates. Batson, C. D.(1998). Altruism and prosocial behavior. In D. T. Gilbert, S. T. Fiske, & G. Lindzey(Eds.),. 91 Maas, C. J. M., & Hox, J. J.(2005) . Sufficient sample sizes for multilevel modeling. Methodology, 1 (3), 86-92. https://doi.org/10.1027/1614-2241.1.3.86. Handbook of social psychology: Vol. 2(pp. 282-316). Marsh, H. W., Lüdtke, O., Nagengast, B., Trautwein, U., McGraw-Hill.. Morin, A. J. S., Abduljabbar, A. S., & Köller, O.. Bergin, C.(2014) . Educating students to be prosocial at. . Classroom climate and contextual effects: (2012). school. In L. M. Padilla-Walker & G. Carlo(Eds.) ,. Conceptual and methodological issues in the evalua-. Prosocial development: A multidimensional approach. tion of group-level effects. Educational Psychologist,. (pp. 279-301). Oxford University Press. Brehm, S. S., & Brehm, J. W(1981). Psychological reactance: A theory of freedom and control. Academic Press. Deci, E. L., & Ryan, R. M.(1985). Intrinsic motivation and self-determination in human behavior. Plenum.. 47 (2), 106-124. https://doi.org/10.1080/00461520.20 12.670488 三木かおり・山内弘継(2003). 学習環境と児童・生徒 の動機づけ 心理学評論, 46 (1), 58-75. https://doi. org/10.24602/sjpr.46.1_58 . 学級集団, 児童・生徒個 三島美砂・淵上克義(2010). Feldman, S. S., & Quatman, T.(1988). Factors influenc-. 人に及ぼす教師の影響力や影響過程に関する研究動. ing age expectations for adolescent autonomy: A. 向と今後の課題 岡山大学大学院教育学研究科研究. study of early adolescents and parents. Journal of. 集録, 144, 39-55..

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(12) 山本・河村・上淵:学級の社会的目標構造とクラスメイトへの自律的な向社会的行動との関連. 付 記. 63. 関してご助言をいただきました早稲田大学の椎名乾平 先生,本研究につながるご示唆をいただきました北海. 本論文に関して,開示すべき利益相反関連事項はな. 道大学の大谷和大先生,本研究をより良いものにする. い。. べくご指導いただきました匿名の査読者の先生方に記. 本研究の実施にご協力いただきました学校関係者の. して感謝申し上げます。. 皆様に厚く御礼申し上げます。また,本研究の分析に. (2019.7.20 受稿,2020.10.31 受理). Classroom Social Goal Structure and Children’s Autonomous Prosocial Behavior Toward Their Classmates: Elementary and Lower Secondary School Students TAKUMA YAMAMOTO (WASEDA UNIVERSITY; JAPAN SOCIETY FOR THE PROMOTION OF SCIENCE), SHIGEO KAWAMURA (WASEDA UNIVERSITY) AND HISASHI UEBUCHI (WASEDA UNIVERSITY) JAPANESE JOURNAL OF EDUCATIONAL PSYCHOLOGY, 2021, 69, 52−63. Classroom climate impacts various aspects of school education. Even though many previously published studies have considered how classroom environment may promote children's prosocial behavior, the present authors were unable to find studies that focused on children's autonomous and compulsor y prosocial behavior. The present research draws on organismic integration theory, examining the relations between classroom social goal structure and children's autonomous prosocial behavior towards their classmates. The participants, fourth- through sixthgraders in 2 elementar y schools (329 boys, 328 girls) and seventh- through ninth-graders in 1 lower secondar y school (260 boys, 237 girls), completed questionnaires. Multiple-group structural equation modeling demonstrated that a prosocial goal structure was correlated positively with autonomous prosocial behavior, whereas a compliance goal structure was connected to compulsory prosocial behavior. These findings support the validity of having a classroom prosocial goal in order to promote children's autonomous prosocial behavior. Limitations of the study are discussed. Key Words: classroom social goal structure, prosocial behavior, autonomy, organismic integration theor y, elementary and lower secondary school students.

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参照

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