原 著
Original article腎移植を受けた小中学生の抑うつと QOL
井上 敦子
*1大下 隆司
*1-3小林 清香
*1, 4岡部 祥
*5近本 裕子
*6清水 悟
*7西村 勝治
*1服部 元史
*6石郷岡 純
*1Depression and quality of life in elementary and junior high school students
after renal transplantation
Atsuko Inoue*1, Takashi Oshimo*1-3, Sayaka Kobayashi*1, 4, Sachi Okabe*5, Hiroko Chikamoto*6, Satoru Shimizu*7, Katsuji Nishimura*1, Motoshi Hattori*6, Jun Ishigooka*1
*1 Department of Psychiatry, Tokyo Women’s Medical University, 8-1 Kawada-cho, Shinjuku-ku, 162-8666 Tokyo, Japan *2 Yoyogi-no-Mori Mental Clinic
*3 Department of Health-care, Kobe International University
*4 National Institute of Mental Health, National Center of Neurology and Psychiatry *5 Department of Nursing, Tokyo Women’s Medical University Hospital
*6 Department of Pediatric Nephrology, Tokyo Women’s Medical University *7 Medical Research Institute, Tokyo Women’s Medical University
Abstract:We measured depression in Japanese child and adolescent recipients of kidney transplants and
examined the relation between depression and quality of life (QOL). The survey comprised 35 recipients (7–15 years old, 22 elementary-school children, 13 junior-high-school children, 4.2 ± 2.9 years after transplant,living donor 74.3%) who completed a mail-back questionnaire survey. We administered the Birleson Depression Self-Rating Scale for Children (DSRSC) to assess depression and the KINDL Ⓡ questionnaires (KINDL) for QOL. Of
the 35 patients, 14.3% met the criteria for depression (16 ≦ DSRSC), representing 13.6% of elementary-school and 15.4% of junior-high-school children. In elementary-school children, score of the QOL domain in schools was lower than the standard value of healthy subjects. In junior-high-school children, score of the QOL do-main of self-esteem was higher than the standard value. The total score of QOL was lower in high-depression group than low-depression group. Our results indicated that it is important to take into account depression and the QOL domains correlated with depression in both child and adolescent transplant recipients.
Key words: Child and adolescence, Kidney transplant, Depression, Recipient
問題と目的
小児慢性腎不全患者にとって,健常児と同等の 日常生活を可能とする移植は有効かつ理想的な治 療の第一選択とされ,移植者数も増え続けてい る。しかし,移植後にも生涯にわたる免疫抑制剤 *1 東京女子医科大学神経精神科・心身医療科(〒 162-8666 新宿区河田町 8-1) *2 代々木の森診療所 *3 神戸国際大学保健センター *4 国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 *5 東京女子医科大学病院看護部 *6 東京女子医科大学腎臓小児科 *7 東京女子医科大学総合研究所研究部の服用が必要とされ,移植腎の長期生着のための 努力が不可欠となる。また,患者は幼少期から入 退院を繰り返している場合も多く,新たな生活へ の適応のためには種々の困難がある1)。 他の身体疾患患者と同様に,成人の腎移植患者 (以下レシピエント)もうつ病などの精神疾患を 経験しやすい2)ことが知られており,抑うつ(う つ病や閾値以下の高い抑うつ)や不安は患者の予 後や QOL に影響を与えることがわかっている。 たとえば,移植後のうつは QOL を低下させるだ けでなく,レシピエントの予後や生存率に対して も明確な影響を及ぼす3, 4)。また,抑うつは免疫 抑制剤のノンアドヒアランス(以下 NA)のリス クファクターである5, 6)。 上述のように,小児・思春期のレシピエント(以 下患児)は移植後も多くのストレスや困難を経験 することが示唆され,移植後の良好な予後を維持 するためにも患児の抑うつの問題は軽視できな い。しかし,移植後のメンタルヘルスに関する研 究は成人を対象としたものが主である。欧米にお いては,構造化面接を用いた調査7, 8)で 7 〜 22 歳 の患児 71 名中 2.8%,12 〜 18 歳 40 名中 25%に 大うつ病性障害がみられたとする研究があり,ま た 10 〜 18 歳の 20 〜 60 名を対象とした BDI な どの自記式質問紙調査で有症率が 17.5 〜 36.4% との報告9-12)があるなど,抑うつは稀ではないこ とが示されている。しかしわが国では,佐藤ら (1992)が中等度以上のうつ状態が 40 例の青年期 例のうち 10%にみられたことを報告13)している のみであり,患児の抑うつを量的に把握した研究 はない。 また,一般にうつ病や多くの精神疾患の好発年 齢は思春期早期であり,うつ病は児童期と比較し て思春期において有病率が高い14)ことが指摘さ れ,児童期と思春期とでは抑うつの特徴や QOL への影響に違いがあると考えられる。 そこで本研究では,小児・思春期に腎移植を受 けた子どもの移植後の抑うつ,および抑うつに関 連した心理社会的状況を反映する指標として QOL を量的に把握し,患児のメンタルヘルスの 実態を明らかにすることを目的とした。
方 法
1.調査対象者 A 病院にて 1999 年以降 20 歳未満で腎移植を 受けた患児のうち,調査時に小中学生であった 57 名を対象に,郵送の自記式質問紙調査を行っ た。 調 査 は 2011 年 3 〜 11 月,2013 年 3 月 に 行 われた。質問紙への記入は患児本人が行った。 2.調査材料 1)Birleson 自己記入式抑うつ評価尺度(DSRSC)15)Birleson による Depression Self-Rating Scale for Children の日本語版である。18 項目,3 件法で 0 〜 2 点が付与される。得点が高いほど抑うつ傾向 が高いとされ,日本語版では抑うつ群を判別する cutoff score が 16 点に設定されている15)。本研究 でも 16 点以上の者を高うつ群とした。 2)小学生版 QOL 尺度(Kid-KINDL Ⓡ日本語版)16) および中学生版 QOL 尺度(Kiddo-KINDL Ⓡ 日本語版)17)
Ravens & Bullinger が 作 成 し た 子 ど も 用 の QOL 尺 度 で あ る。 小 学 生 に は Kid-KINDL Ⓡ (Questionnaire for Measuring Health-Related
Quality of Life in Children, Revised Version for 8 to 12-year-olds),中学生には Kiddo-KINDLR(13 to 16-years-olds)の日本語版を実施した。各 4 項 目からなる「身体的健康」,「精神的健康」,「自尊 感情」,「家族」,「友だち」,「学校生活」と,6 項 目からなる「病気」の計 7 つの下位領域について, 5 件法で評定される。合計得点が高いほど QOL が高いと判定される。以下 KINDL と略記する。 3.分析方法 DSRSC 得点について,年代(小学生,中学生), 性別を要因とする二元配置の分散分析を行った。 また,DSRSC 得点に対して移植に関連する他の 要因が影響を与えているかどうかを検討するた め,DSRSC がカットオフを超える高うつ群かど うかを目的変数,年代,性別,移植時年齢,移植 後経過年数,移植手術前に透析を経ない移植(先 行的腎移植)かどうか,献腎移植かどうか,二度
目の移植(二次移植)かどうか,を説明変数とし, 文部科学省統計数理研究所が開発した CATDAP (Categorical Data Analysis Program)18)を用いて 多次元クロス表分析を行った。統計モデルは赤池 情報量基準(AIC:Akaike’s Information Criteri-on)によって評価した。なお,AIC はどのよう な説明変数の組み合わせが目的変数との関連をよ く説明するかを表す情報量基準であり,AIC が 最少となる説明変数の組み合わせが最も良いモデ ルとなる。 KINDL 得点について,健常児データと本研究 の患児データを比較するため 1 サンプルの t 検定 を行った。対照群として,柴田らによって行われ た日本全国の 19 校の小学校に通う 4,607 名,9 校 の中学校に通う 2,926 名を対象とした調査19)から 算出された,小中学生健康群の KINDL 得点の標 準値を用いた。 また,DSRSC 得点の高低によって KINDL 得 点 に 違 い が あ る か ど う か を 検 討 す る た め, DSRSC 得点を中央値によって高群と低群に分け てこの群を要因とし,年代別に分散分析を行っ た。 4.倫理的配慮 郵送調査実施前に,対象者の通う外来にて本調 査の趣旨を説明する用紙を配布し,調査の告知を 行った。調査にあたっては,書面で研究の目的と 内容,倫理的配慮について説明を行った。本研究 は東京女子医科大学の倫理委員会による承認を得 て実施された。
結 果
1.対象者の概要 57 名中 40 名から返送があり(回収率 70.2%), 抑うつの尺度に欠損がない 35 名を分析対象とし た(有効回答率 61.4%)。 分析対象者の属性を Table 1 に示した。内訳 は小学生 22 名,中学生 13 名,調査時年齢は 7 〜 15 歳であり,年代の別によって移植時年齢に有 意差はなかった(F(1,33)=2.64,p=.114)が,中 学生のほうが小学生よりも移植後の経過年数が長 かった(F(1,33)=6.50,p=.034)。 35 名中,先行的腎移植は小学生 2 名,中学生 5 名であった。全体において生体移植の割合は 74.3%,二次移植の割合は 14.3%で,χ2検定の結 果,これらの割合に年代による有意な差を認めな かった。移植に至った原疾患は低形成腎(42.9%) が多く,次いで巣状分節性糸球体硬化症(14.3%) が多かった。 2.抑うつ DSRSC の得点を Table 2 に示した。平均得点 は,全体,小学生,中学生のいずれも健常範囲で あった。性別と年代を説明変数とする二元配置分 散分析を行ったところ,性別(F(1,31)=.99,n.s.), 年代(F(1,31)=.06,n.s.)のいずれの主効果も有 意ではなかった。 カットオフ(16 点)以上の高うつ群は全体の 14.3%(35 名中 5 名)であり,男子の 13.6%,女 子 の 15.4 % で あ っ た。 年 代 別 に は, 小 学 生 の 13.6%,中学生の 15.4%が高うつ群と分類され た。 高うつ群か否かを目的変数とする多次元クロス 表分析の結果,「移植時年齢」と「献腎移植であ る」の組み合わせが最適な説明モデル(AIC = −8.28)となった。この説明変数モデルの 3 次元 クロス表を Table 3 に示した。「献腎移植で移植 時年齢が 7.8 〜 8.5 歳である」ことが,高うつ群 であることと強い関連性を示した。 3.QOL KINDL の得点を Table 4 に,また,柴田ら19) による健康群標準値との比較を Fig. 1,2 に示し た。小学生の「学校生活」の下位領域は健康群標 準値よりも得点が有意に低く(t(18)=−8.11,p = .000),中学生の「自尊感情」の下位領域は有 意に高かった(t(12)=2.79,p=.016)。また統計 的に有意ではなかったが,小学生の総得点(t(20) =−1.98,p=.061)と「身体的健康」の下位領域 (t(20)=−1.97,p=.062)で標準値よりも得点が 低い傾向があり,「自尊感情」の QOL 下位領域は 得点が高い傾向がみられた(t(20)=1.75,p= .095)。4.抑うつ得点の高低による QOL の違い DSRSC 得点の高低によって KINDL 得点に差 があるかどうかを分散分析によって検討した (Table 4)。小学生群では,QOL 総得点(F(1,19) =11.83,p=.003),および「精神的健康」(F(1,19) =9.64,p=.006),「自尊感情」(F(1,19)=14.44, p=.001),「友だち」(F(1,19)=10.10,p=.005)の 下位領域において主効果が有意であり,いずれも DSRSC 高群のほうが低群よりも有意に得点が低 かった。また,統計的に有意ではなかったが,「学 Table 1.回答者の属性 全体 小学生 中学生 年代差 人数 n 35 22 13 性別 男 n(%) 22(62.9) 14(63.6) 8(61.5) n.s. 女 n(%) 13(37.1) 8(33.3) 5(38.5) 調査時年齢(mean ± SD) 11.7 ± 2.5 10.2 ± 1.6 14.2 ± 1.2 p = .000 調査時年齢(range) 7 〜 15 7 〜 12 12 〜 15 移植時年齢(mean ± SD) 7.4 ± 3.0 6.8 ± 2.6 8.5 ± 3.5 n.s. 移植時年齢(range) 2 〜 13 2 〜 11 3 〜 13 移植後経過年数(mean ± SD) 4.2 ± 2.9 3.4 ± 2.2 5.8 ± 3.5 p = .034 生体移植 / 献腎移植 26/9 17/5 9/4 生体移植割合(%) 74.3 77.3 69.2 n.s. ドナー 父 n(%) 8(22.9) 5(22.7) 3(23.1) n.s. 母 n(%) 17(48.6) 12(54.5) 5(38.5) n.s. その他生体 n(%) 1(2.9) 0 1(7.7) n.s. 献腎 n(%) 9(25.7) 5(22.7) 4(30.8) n.s. 先行的腎移植 n(%) 7(20.0) 2(9.1) 5(38.6) n.s. 2 次移植 n(%) 5(14.3) 3(13.6) 2(15.4) n.s. 原疾患 n(%) 低形成腎* 15(42.9) 8(36.4) 7(53.8) 巣状分節性糸球体硬化症(FSGS) 5(14.3) 3(13.6) 2(15.4) ネフローゼ症候群 2(5.7) 2(15.4) 0 閉塞性尿路疾患(後部尿道弁) 1(2.9) 1(4.5) 0 逆流性腎症(膀胱尿管逆流症(VUR)) 1(2.9) 0 1(7.7) 多発性嚢胞腎 1(2.9) 1(4.5) 0 水腎症 1(2.9) 1(4.5) 0 ANCA 関連腎炎 1(2.9) 1(4.5) 0 両側腎静脈血栓 1(2.9) 1(4.5) 0 その他の遺伝疾患 7(19.6) 4(18.2) 3(23.1) *多嚢胞性異形成腎を含む Table 2.DSRSC の得点 全体 小学生 中学生 F 値 全体 (n=35) 男子 (n=22) 女子 (n=13) 全体 (n=22) 男子 (n=14) 女子 (n=8) 全体 (n=13) 男子 (n=8) 女子 (n=5) 性別 年代 交互 作用 DSRSC 9.1± 5.5 9.4± 5.4 8.8± 5.7 8.5± 5.5 8.9± 5.1 7.8± 6.6 10.3± 5.3 10.3± 6.3 10.4± 4.0 .992 n.s. .056 n.s. .096 n.s. 高うつ群 (%) 5(14.3) 3(13.6) 2(15.4) 3(13.6) 1(7.1) 2(25.0) 2(15.4) 2(25.0) 0(0.0)
校生活」の下位領域において高群のほうが低群よ りも得点が低い傾向がみられた(F(1,17)=3.96, p=.062)。この結果を Fig. 3 に示した。 中 学 生 群 で は,QOL 総 得 点(F(1,11)=5.81, p=.035),および「身体的健康」(F(1,11)=6.02, p=.032),「精神的健康」(F(1,11)=7.50,p=.019) の下位領域において主効果が有意であり,いずれ も DSRSC 高群のほうが低群よりも有意に得点が 低かった。また,統計的に有意ではなかったが, 「友だち」の下位領域において高群のほうが低群 よりも得点が低い傾向があった(F(1,11)=3.24, p=.099)。この結果を Fig. 4 に示した。
考 察
1.腎移植後の小中学生の抑うつの特徴 本研究で得られた患児の DSRSC 得点の平均得 点 は, 全 体 9.1±5.5, 小 学 生 8.5±5.5, 中 学 生 10.3±5.3 であった。国内の一般児童生徒を対象 とした先行研究15, 20-22)を Table 5 に示した。これ らの結果をまとめると小学生は 7.38 〜 8.5 点とな り,本研究から得られた小学生の DSRSC の平均 点(8.5±5.5)は,先行研究の一般児童と概ね同 程度であると考えられる。先行研究の中学生の平 Table 3. 高うつ群を目的変数とした最適モデルの 3 次元クロス表 (AIC =− 8.28) 移植時年齢 高うつ群 非高うつ群 計 献腎移植 2 〜 7.8 歳 0(0%) 4(100%) 4 7.8 〜 8.5 歳 3(100%) 0(0%) 3 8.5 〜 13 歳 0(0%) 2(100%) 2 生体腎移植 2 〜 7.8 歳 0(0%) 13(100%) 13 7.8 〜 8.5 歳 0(0%) 2(100%) 2 8.5 〜 13 歳 2(18.2%) 9(81.8%) 11 Table 4.年代別の KINDL 得点と DSRSC 高低群による得点差 小学生 p 値 中学生 p 値 Total (n = 22) 高群 (n = 10) 低群 (n = 11) Total (n = 13) 高群 (n = 8) 低群 (n = 5) QOL 総得点 62.7 ± 11.9 55.22 ± 3.02 69.58 ± 2.88 p = .003 66.4 ± 13.7 60.29 ± 4.11 76.25 ± 5.19 p = .035 身体的健康 67.9 ± 21.8 68.75 ± 7.06 67.05 ± 6.73 65.9 ± 21.3 56.25 ± 6.32 81.25 ± 8.00 p = .032 精神的健康 80.1 ± 13.8 71.88 ± 3.64 87.50 ± 3.47 p = .006 73.1 ± 18.6 64.06 ± 5.31 87.50 ± 6.72 p = .019 自尊感情 63.4 ± 25.5 46.25 ± 6.23 78.98 ± 5.94 p = .001 57.7 ± 28.8 50.78 ± 10.08 68.75 ± 12.75 家族 67.0 ± 14.7 64.38 ± 4.69 69.32 ± 4.47 72.6 ± 21.6 77.66 ± 7.97 72.50 ± 10.08 友だち 71.5 ± 15.7 62.08 ± 4.11 80.11 ± 3.92 p = .005 69.2 ± 22.9 60.94 ± 7.43 82.50 ± 9.40 学校生活 21.4 ± 19.9 12.50 ± 6.15 29.38 ± 5.83 60.1 ± 21.7 57.03 ± 7.89 65.00 ± 9.97 病気 79.2 ± 14.6 78.57 ± 5.67 79.54 ± 4.52 67.9 ± 24.7 59.90 ± 8.23 80.03 ± 10.41 小学生の『学校生活』:n = 19(高群 9,低群 10) 小学生の『病気』:n = 18(高群 7,低群 11)均点は研究によって 9.92 〜 25.68 と開きがある が,本研究の中学生の平均点(10.3±5.3)は,こ れらと同程度であると考えられる。 抑うつ得点は女子が男子よりも高得点であると の報告が多い20)が,本研究では性別による得点 の有意差は認められなかった。また,一般にうつ 病は児童期よりも思春期に有病率が高く14),国 内の先行研究でも DSRSC 得点は年齢が上がると 有意に上昇するとの報告20, 22)があるが,本研究 では年代による得点差は認められなかった。 本研究における高うつ群の割合は,全体の 14.3%,小学生 13.6%,中学生 15.4%であった。同 尺度を用いた,海外の移植後の 10 歳代患者を対 象とした諸研究9-12)では,高うつ群の割合は 17.5 67.9 身体的健康 総得点 精神的健康 自尊感情 家族 友だち 柴田ら(2012) 本研究 <.001 <.10 学校生活 62.7 77.2 67.9 79.3 80.1 63.4 68.9 67.0 69.8 71.5 58.4 21.4 53.7 Fig. 1.先行研究との QOL 得点比較(小学生):各項目の t 検定結果 61.3 柴田ら(2012) 本研究 66.4 65.9 65.9 76.373.1 57.7 <.05 66.7 72.6 71.0 69.2 52.6 60.1 35.4 身体的健康 総得点 精神的健康 自尊感情 家族 友だち 学校生活 Fig. 2.先行研究との QOL 得点比較(中学生):各項目の t 検定結果
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 DSRSC 高群 (n=10) DSRSC 低群 (n=11) <.01 <.10 身体的健康 総得点 精神的健康 自尊感情 家族 友だち 学校生活 病気 Fig. 3.分散分析による DSRSC 高低群別の QOL 得点差(小学生) 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 DSRSC 高群 (n=8) DSRSC 低群 (n=5) <.01 <.10 身体的健康 総得点 精神的健康 自尊感情 家族 友だち 学校生活 病気 Fig. 4.分散分析による DSRSC 高低群別の QOL 得点差(中学生) Table 5.本邦の健常児を対象とした先行研究における DSRSC 得点 対象者 小学生 中学生 村田ら(1996) 小学 2 〜 6 年生 395 名 9.02 ± 5.81 -傳田ら(2004) 小学生 2,175 名,中学生 1,156 名 7.98 ± 5.03 10.97 ± 6.62 丸山(2009) 中学生 4,066 名 - 男子 21.25 ± 14.89 女子 25.68 ± 17.41 Kamibeppu & Kobayashi(2008) 小学 3 〜 6 年生 474 名,中学生 581 名 7.38 ± 5.15 9.92 ± 6.51
〜 35%であると報告されている。一方,わが国 の一般児童生徒を対象とした主要な研究における DSRSC 高うつ群は,小学生 7.8 〜 9.6%,中学生 17.4 〜 25.8%であると報告20, 22, 23)されている。こ のことから,本研究で小学生患児にみられた高う つ群の割合(13.6%)は,海外の移植後患児の結 果よりも低く,国内の一般児童を対象とした先行 研究よりも高い値であると考えられる。また中学 生患児にみられた高うつ群の割合(15.4%)は, 海外の移植後患児,国内の一般生徒を対象とした 先行研究よりも低い値であると考えられる。 国内の一般児童生徒との比較をまとめると,移 植後の小学生では平均点は同等であるが高うつ群 の割合は高く,中学生では平均点は同等であり高 うつ群の割合は低いといえる。一般児童生徒と異 なった結果が生じた理由については,生活状況や 身体状況を比較できないため結論は出せないが, 移植後の患児も 7 人に 1 人程度がカットオフを超 える抑うつを有していることを念頭に移植後の生 活を見守っていく必要がある。 探索的な多次元クロス表分析の結果からは,先 行的腎移植であるかどうかや二次移植であるかど うか,移植後の経過年数は高い情報量を有してい なかった一方で,「献腎移植である」と「移植時 年齢が 7.8 〜 8.5 歳である」という要因の組み合 わせが高うつ群を最もよく説明するという結果が 得られた。このことから,小学校低学年時に献腎 移植を受けたことが高い抑うつと関連をもってい るという仮説が考えられる。献腎移植は生体腎移 植と比較して,事前の心の準備がしづらく手術や 生活変化が急激に体験される,提供される臓器の 状態によっては身体的リスクが相対的に高いと いった違いや,経験される家族力動の違いがある 可能性が考えられるが,生体腎移植との違いがレ シピエントの精神面に及ぼす影響は明らかになっ ていない。本研究では対象者の人数が少なく,こ うした結果が他の移植患児にも適応できる可能性 は限定的であるため,今後対象者を増やしたうえ でさらなる検討が必要である。なお,一般的に小 児・思春期の抑うつのリスクファクターとして, 環境的要因やネガティブライフイベントのほかに も,遺伝要因,子どもの気質が知られている24)こ とから,移植後患児の抑うつに関しても今後こう した要因を含めた検討が必要である。 2. 移植後の小中学生の QOL の特徴および 抑うつとの関係 本研究で得られた QOL について,先行研究で 示された健常群標準値19)と比較した結果,小学 生,中学生ともに QOL 総得点において有意な得 点差はみられなかった。伊藤25)は KINDL を用い た研究において,8 〜 15 歳の移植患児 29 名と透 析児 21 名を合わせた患児群と健常対照群の QOL 総得点を比較して,小学生では患児群は健常対照 群とほぼ同じであり,中学生では患児群のほうが 健常対照群よりも有意に高かったことを報告して いる。本研究においても,健常群標準値と比較し て有意な低下は認められないという点で,同様な 結果が得られたといえる。 一方で,本研究の小学生では「学校生活」の下 位領域において,健常対照群よりも顕著に低い得 点が示された。「学校生活」の質問には,「学校で の勉強は簡単だった(よくわかった)」,「私は学 校で悪い成績をとらないか心配だった」という勉 強に関する質問が含まれている。移植後の小学生 患児はこの得点が顕著に低かったことから,一般 児童よりも勉強が苦手と感じられている可能性が ある。なお中学生では,すべての下位領域におい て QOL の低下は認められず,患児は健常児と遜 色ない生活の質が保たれていると考えられる。ま た,「自尊感情」の下位領域において,中学生は 標準値よりも有意に QOL 得点が高かったことか ら,移植や闘病生活といった困難な経験をしてい ても移植児の自己評価は損なわれておらず,むし ろ一般的な健常児よりも高い可能性が示唆され る。重大なライフイベントやトラウマ体験を経験 した後に肯定的な心理学的変化が生じることを示 す概念として心的外傷後成長(post-traumatic growth:PTG)26)があるが,移植後の子どもたち にも,このような変化が生じている可能性も考え られ,今後の検討が必要である。 抑うつの高い子どもの QOL 総得点は小中学生 ともに有意に低く,移植後の高い QOL と低い抑 うつが相関するとの先行研究27)と矛盾しない結
果であった。また下位領域の分析結果からは,抑 うつの高群において低下が認められる QOL 領域 には小学生と中学生で違いが認められた。小学生 年代で高い抑うつを示す患児は,QOL 総得点や 「精神的健康」以外にも「自尊感情」,「友だち」 の下位領域においても有意に QOL 得点が低かっ た。一方で,中学生で抑うつ得点の高い患児は, 「自尊感情」や「学校生活」の下位領域において は抑うつ得点の低い患児と比較して QOL 得点に 差がなかったが,QOL 総得点や「精神的健康」 に加えて「身体的健康」の下位領域においても有 意に得点が低かった。このことから,小学生年代 の患児においては,高い抑うつは自尊心や友人関 係に関する課題を,また中学生年代においては, 体調や体力面における課題を有することに関連す ることが示唆される。 なお小学生年代の QOL については,統計的に 有意ではなかったが,「自尊感情」の下位領域で 健常群標準値より得点が高く,QOL 総得点や「身 体的健康」の下位領域においては得点が低い傾向 がみられた。また抑うつの高い群は低い群よりも 「学校生活」の下位領域において得点が低いとい う有意傾向がみられた。本研究の対象者は合計で 35 名と少なく,統計的検定の特性を考慮すると, 今後対象者数が増えることにより,こうした項目 に有意差が確認される可能性は十分にあり得るた め,注目に値する領域であると考えられる。 児童思春期の抑うつは,将来の大うつ病性障害 発症のリスク要因であり,年齢が上がっても持続 するという報告28, 29)がある。また,移植後の患児 の予後に大きな影響を与える要因として思春期の NA が あ る30)が, 抑 う つ は NA に 影 響 を 与 え る5)。患児の抑うつや,抑うつと関連する QOL 領域に着目することは,精神医学的予後,身体的 予後の双方の観点から有意義であると考えられ る。 本研究の限界と今後の課題は以下のとおりであ る。まず,本研究は単施設で行われた質問紙調査 である。小児の腎移植者は成人と比較して少な く,調査対象者に限りがあるなか,この調査で回 答が得られなかった 30%の調査対象者において, 抑うつや QOL がより不良である可能性も否定で きない。また,知的・身体的発達,家族状況など の,抑うつや QOL の低下に影響すると考えられ る要因を検討していない。今後は施設や対象者数 を増やして結果を検証していくこと,抑うつや QOL 低下のリスク要因を明らかにすることが課 題である。なお,本調査は移植後平均 3 年程度が 経過した時点における調査であり,今後移植前の 状態把握や移植後の長期的な経過観察が必要であ る。 謝辞:本研究は JSPS 科研費 22730555 の助成を受 けたものです。本研究にご協力いただきました腎臓 小児科,神経精神科スタッフの皆様,レシピエント とそのご家族の皆様に厚く御礼申し上げます。 文 献 1) 長 佳代:生体腎移植を受けた子どもの母親の 体験.日小児看護会誌 10(2):1-8, 2001 2) Chilcot J, Spencer BWJ, Maple H, et
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【要約】 腎移植後の小児・思春期レシピエントの抑うつ症状を測定し,QOL との関係を検討した。 郵送の自記式アンケート調査を行い,35 人を分析対象とした(7 〜 15 歳,小学生 22 名,中学生 13 名,移植後経過年数 4.2±2.9 年,生体移植 74.3%)。抑うつを Birleson 自己記入式抑うつ評価尺度 (DSRSC),QOL を日本語版 KINDL Ⓡによって測定した。全体の 14.3%,小学生の 13.6%,中学生の 15.4%が高うつ群と判定された。小学生で学校生活の QOL 下位領域が健常群標準値よりも低く,中 学生で自尊感情の QOL 下位領域が標準値より高かった。抑うつ得点が高い群は低い群よりも有意に QOL 総得点が低かった。高い抑うつは将来的な大うつ病のリスク要因であり,移植後の予後やアド ヒアランスに悪影響を及ぼす。小児・思春期患児の抑うつや関連する QOL 領域に注目することが重 要と考えられた。 キーワード:小児・思春期,腎移植,抑うつ,レシピエント