〔論 文〕
全国203圏域の産業構造を基にした地域分類と
それを踏まえた各地域の経済的特性についての分析
*An Analysis on Regional Economies Based on a Classification of 203 Areas in
Japan in Terms of Industrial Structure
近藤 智
**Abstract
In recent decades, regional disparities have been even worse in Japan. Therefore, multifaceted research on how these kinds of issues have arisen is urgently needed.
Based on the above considerations, this paper conducts a cluster analysis on regional economies in Japan. And 203 local areas in Japan are classified into eight larger areas in terms of industrial structures. Thereby, we have come to better understand characteristics of regional economies and issues in Japan.
key word: Regional Economy(地域経済)、Cluster analysis(クラスター分析) 1.はじめに 本稿では、総務省統計局「就業構造基本調査(主要地域編)」の県内経済圏別集計における産業 別有業者数(割合)を用いた階層的クラスター分析をおこない、全国203 経済圏を有業者の産業構 成比の点で類似の産業構造を持つ8 地域群に分類したうえで、それらの地理的分布を日本地図上に 表した。そして、首都圏集中や「地方消滅」に代表される地域経済課題が生じている背景につい て1、これら8 地域分類における産業構造と地理的特性に着目した分析をおこなった。 近年我が国では、首都圏への人口・経済集中が再加速している。その一方で、経済が疲弊し学校 や医療機関が閉鎖されるなど生活・経済全般が成り立たなくなり、推計を上回る速さで人口減少の 進む地方が出てきている。これに対して政府は、地方圏から東京圏への人口流出による地域経済へ の悪影響と東京一極集中に伴う災害時の国家的脆弱性などの外部不経済を中長期的な地域の課題と して掲げ、これに対応するため2014 年に地方創生関連法を施行した。 この政策の推進を担うまち・ひと・しごと創生本部は「地域の特性に即した地域課題の解決」を 基本的視点のひとつに掲げ2、地域経済に関する分析とそれに基づく地方活性化の推進に取り組み 始めた。一方、同本部では最近になって「東京一極集中などは、その要因分析をしたうえで、有効 * 本稿の改善に際して有益なコメントを賜った匿名査読者の先生方に謝辞を申し述べます。
** 愛知学院大学経済学部准教授。Satoshi KONDO, Associate Professor, Faculty of Economics, Aichi Gakuin University, Aichi, Japan., E-mail: [email protected]
1 「地方消滅」は元岩手県知事の増田寛也氏による 2014 年の著書名でもあり、増田氏が座長を務める日本創成会議は同年に「消 滅する可能性が高い896 市町村」を発表し、「消滅可能性都市」は流行語にもなった。
な施策を見出す必要がある」との意見が出されるなど、これらの分析は始まったばかりと言える3。 現状では、地域特性に即した地域課題や東京一極集中の要因に関する多角的な分析が切実に求めら れている。これが、本稿のテーマに取り組む問題意識につながっている。 首都圏集中や「地方消滅」に関連する近年の実証的な学術研究には、太田他(2017)、林・林 (2017)や張他(2016)がある。太田他(2017)は、東京圏への人口流入は 10 代後半から 20 代が 多いことに着目し、主に就業の観点から厚生労働省「人口移動調査」を用いた個票データ分析をお こなっている。林・林(2017)は、住環境も含めた総合的な地域力の観点から、1980 ~ 2015 年度 に各世代の地域間人口移動がどのような要因で起きたかについて、主成分分析を用いた分析をして いる。張他(2016)は、移住に関する離散選択モデルを構築し、総務省統計局「国勢調査」を用い て1985 ~ 1990 年、1995 ~ 2000 年、2005 ~ 2010 年の 3 期について分析している。使用するデー タと分析手法が異なるこれらの研究では、就業機会や賃金・所得の地域間格差が労働力・人口移動 の重要な要因になっていることが、共通して示唆されている。 そこで次に、近年の就業機会や賃金・所得の地域間格差がなぜ生じ、またそれが新古典派の基本 モデルによる示唆に反して人口移動によって縮小しないのはなぜかについての研究が必要になる。 これに関して藤田他(2018)では、ある地域への集中は規模の経済や集積の経済を高めるため、そ れが新たな賃金格差を生み出してフィードバックし更なる集中を促すモデルが示される。そして首 都圏への集中に関しては、第3 次産業化が第3次産業における規模の経済が働く大都市への人口集 中を促すことに加えて、運輸・通信の発達に伴う輸送費の大幅な低減と第3 次産業のなかでも特に 「情報・知識創造活動」の重要性の高まりによって、東京一極集中型の国土システムが形成されて いったと分析されている。一方、経済産業省「地域間産業連関表」を基にした近藤(2020a)では、 我が国では1990 年代から脱工業化・第 3 次産業化が本格的に進行するなかで、特に関東地域にお いて情報サービス・その他情報や広告・物品貸借・その他対事業所をはじめとする第3 次産業の生 産が急増する一方で、関東地域から他地域への波及力は低下したことが、日本経済の関東集中を一 段と促進したことが示される。また、「就業構造基本調査」や札幌市「平成28 年度札幌市人口移動 実態調査」を用いて分析された近藤(2020b)では、北海道内の札幌市以外の地域では第 1、2 次産 業の衰退とそれに起因するとみられる対個人サービス業の停滞によって札幌市や首都圏への労働力 移動がみられる一方で、札幌市では市内の対個人サービス業や卸売業・小売業から首都圏の情報通 信業や学術研究,専門・技術サービス業への転職を伴う移動の多いことが示唆されている4。 以上によると、我が国では経済発展につれて第3 次産業化が進んできたが、とりわけ 1990 年代 から脱工業化が本格的に進むと同時に、情報通信業や学術研究,専門・技術サービス業の比重の増 してきたことが、地方圏の大都市以外の地域、札幌市のような地方大都市、首都圏という3地域間 の就業機会や賃金・所得の格差を拡大させ、ひいてはこれら地域間での労働力・人口移動を生じさ せ続けてきたことが示唆される。この検証を進めるためには、更なる実証分析が必要である。 以上を踏まえて本稿では、近年の地域経済課題を生じさせている重要な一要素として、各地域の 産業構造を取り上げる。そして、最初に「就業構造基本調査(主要地域編)」における県内経済圏 3 同本部の「第2 期「まち・ひと・しごと創生総合戦略」策定に関する有識者会議」(2019 年 3 月開催)では、 東京一極集中の要因分析などに取り組む方針が示された。(https://www.kantei.go.jp/jp/singi/sousei/meeting/) 4 日本標準産業分類では、情報通信業と学術研究,専門・技術サービス業は大分類である。情報通信業には、 情報サービス業(ソフトウェア業、情報処理・提供サービスなど)やインターネット附随サービス業が含まれ る。学術研究, 専門・技術サービス業には、専門サービス業(経営コンサルタント業、純粋持株会社、広告業、 公認会計士事務所、税理士事務所など)や技術サービス業(土木建築サービス業など)が含まれる。
別集計の産業別有業者数(割合)を用いて階層的クラスター分析をおこなうことにより、全国203 経済圏を有業者の産業構成比の点で類似した産業構造を持つ地域群に先入観なく分類する。次に、 それらの地理的分布を日本地図上に表したうえで、地域分類毎の産業構造と地理的特性について整 理する。さらに、各地域分類における人口増減率、純転入割合、産業別有業者数増減率を整理し、 これらも含めた各地域の経済的特性について総括する。 本稿の構成は、次のとおりである。第2 節では、先行研究について概観した後、本稿で用いる分 析方法と統計データについて説明する。第3 節では、階層的クラスター分析で分類された 8 地域の 産業構造と地理的特性について説明した後、各地域の人口増減率、純転入割合、産業別有業者数増 減率について説明する。そして各地域の経済的特性について総括する。第4 節では、全体をまとめ る。 2.先行研究と分析方法 2.1 先行研究 首都圏集中や「地方消滅」に関連する先行研究は前節で述べた。ここでは、全国を地域分類する ために用いる分析手法に関する最近の研究として、山本他(2018)と入江(2017)を取り上げる。 山本他(2018)は、地域間格差など地域問題に関する議論が近年活発であることを背景に、全国 の市町村を統計指標に基づく地域特性に応じて分類し、それらを地域類型として提示することを目 的とする。山本他(2018)は最初に、そうした地域類型を抽出するための方法論について検討し た。そして、従来の研究に見られる、採用した各統計指標に何らかの重み付けをしたうえで合計し た総合指標をまず作成し、それを基に地域分類するといった方法では、重み付けの際に客観性を欠 くことに加えて、地域毎の地域特性を把握するというよりは地域の優劣を評価することが目的にな ると指摘する。そこで、多変量解析手法のひとつである階層的クラスター分析が着目された。 以上の考え方は、産業構造を基に地域を分類しようとする本稿の分析方法を検討するうえで示唆 に富む。すなわち、「A 産業の割合が a1 ~ a2%でかつ B 産業の割合が b1 ~ b2%の地域を第 1 地 域とする」といった地域分類方法では恣意性が高いことは否めず、かつ極力多くの産業に関してこ れを適用することは明らかに困難である。それに対して、各地域間の類似性をユークリッド距離な どの距離として求め、それに基づいて分類していく階層的クラスター分析は、客観性の確保の点で 望ましくかつより多くの産業を扱える利点がある5。 一方、入江(2017)の後半では、産業構造を基に階層的クラスター分析をおこなうことによって 全国を地域分類している点で、本稿の目的に近い。入江(2017)は、分析時点で入手不可能であっ た秋田県分を除く46 都道府県の「産業連関表」を比較可能なようにそれぞれ 37 産業部門に統一し たうえで、各産業の生産額構成比を用いた階層的クラスター分析をおこなっている。 この分析の結果、46 都道府県は「農林水産業型」(北海道、青森県など 14 道県)、「加工組立製 造業型」(茨城県、栃木県、群馬県、静岡県、愛知県、三重県、滋賀県、広島県の8 県)、「基礎素 材製造業型」(富山県、福井県など9 県)、東京都、「平均型」(山形県、福島県など 14 府県)の 5 5 ただし、山本他 (2018) では、階層的クラスター分析に用いるデータ数を減らすために、もとの 50 を超える統 計指標の情報を集約する目的で、最初に主成分分析がおこなわれている。そして、この第一段階で得られた主 成分のうち上位8 個を「人材の集積」「人口の流動性」「特定の仕事の場」「商業集積」等と解釈し、第二段階で それらを用いた階層的クラスター分析がおこなうことによって、最終的に20 の地域類型が求められている。こ のため、各主成分についての主観的な解釈の入る余地が生まれ、ひいては各地域類型の意味付けにも不明瞭さ が生じていることが課題として挙げられている。
地域に分類されている。入江(2017)では地域分類毎の生産額構成比などの詳細なデータは示され ておらず、この地域分類を基にした分析も特にはなされていないものの、この地域分類を一見する ところでは妥当であるように思われる。 以上の先行研究から、本稿においてまずは全国を的確に地域分類する必要性に照らすと、階層的 クラスター分析の採用が有効であると判断される。ただし、用いる統計データについては、用いる 地域区分のあり方とあわせてさらに検討する必要がある。なお、階層的クラスター分析をする際の 距離計算には、入江(2017)ではユークリッド距離と Ward 法の組み合わせが採用されており、山 本他(2018)でも Ward 法が採用されている6。 2.2 分析方法および統計データ 本稿で全国を地域分類する方法には、前項で検討した結果、階層的クラスター分析を採用する。 階層的クラスター分析とは、データで表される個々の対象の間の距離を計算し、距離が最も小さい 対象のペアをクラスターとしてまとめ、さらにそのクラスターも含めた対象の間の距離が最も小さ いペアを新たなクラスターとしてまとめ、ということを繰り返すことで、対象を順々に統合し分類 していく多変量解析手法である。最終的には全体がひとつのクラスターとなるが、その途中段階で 得られるいくつかのクラスターを所望の分類とする7。本稿に当てはめると、各地域の産業構成比 (ベクトル)が示す各点の間の距離を計算し、距離が最も小さい地域のペアをひとつのクラスター 地域とし、さらにそのクラスター地域も含めた各地域の間の距離が最も小さいペアを新たなクラス ター地域し、ということを繰り返して目的とする地域分類を得る。 本稿では、そのためのデータとして各地域の産業構成比が必要になる。そこで次に、どのような 地域区分を採用するかを検討したうえで、利用する地域別・産業別統計について検討する。 我が国で入手可能な公的地域統計の大半は、都道府県単位または市区町村単位である。そのた め、候補となる地域区分は、市区町村、市区町村を統合した経済圏(以下、圏域)、都道府県、都 道府県を統合した「北海道、東北、…」など広域経済圏の計4 種類である。このうち、地域特性を 共有する地域区分は、圏域と広域経済圏である。周囲を海に囲まれ山がちな国土を持つ我が国で は、ひとつの県内に沿岸部、平野部、山間部などの地理的多様性があり、このことも影響して各県 内には異質な複数の生活・経済的まとまりが含まれる。それが圏域であり、各都道府県では市区町 村をまたぐ圏域が設定されている8。一方、個々の市区町村は圏域を分断する場合が大半で、また県 庁所在地は県内の全圏域の中心として機能しているとは必ずしも言えない。そのため、地域特性を 共有する各地域を分析対象とする目的には、都道府県や市区町村の行政区分単位での地域区分は帯 に短し襷に長しの感がある。以上を踏まえると、首都圏集中だけでなく「地方消滅」に関しても分 析テーマとし、産業構造や地理的特性を共有する各地域を対象とする本稿では、より同質な生活・ 経済的まとまりを持つ地域としての圏域を対象にすることが適当であると考えられる。 6 山本他 (2018) では、ユークリッド距離あるいはそれと代替的な距離として何を採用したかについては記され ていない。 7 階層的クラスター分析について詳しくは、例えばIzenman (2008) が参考になる。 8 例えば三重県では、もともとの主な歴史的地域区分である伊勢地方、東紀州地方、伊賀地方を基にしつつ、 現代の生活・経済的つながりを考慮して伊勢地方をさらに愛知県に隣接し製造業の盛んな北勢圏域、県庁所在 地の津市を含む中勢圏域、海洋に面した伊勢志摩圏域に区分した計5 圏域が設けられている。他の都道府県も 同様である。また、経済産業省の「地域経済分析」では、県境を越えた全国233 圏域が設定されている(www. meti.go.jp/policy/local_economy/bunnseki/index.html)。
圏域別・産業別のデータとしては、生産額や付加価値額の統計と雇用関連の統計が考えられる。 ここで前者は入手可能ではなく9、また本稿では各圏域における常住者の人口増減や転出入の状況を 念頭に置くことに鑑みて、常住者の有業者数を圏域別・産業別に入手可能である「就業構造基本調 査(主要地域編)」を利用することにする。一方、「国勢調査」からは市区町村別の常住者の人口や 転出・転入のデータが入手できる10。そこで、これらを圏域別に集計することにより、各圏域の人 口増減数や純転入数を求める。なお、「就業構造基本調査」と「国勢調査」はそれぞれ5 年に 1 度 実施され、直近の調査は前者が平成29(2017)年、後者は平成 27(2015)年である。 以上を踏まえて、本稿ではまず、2012 年の「就業構造基本調査」の圏域別・産業別有業者数を 用いて各圏域の産業構成比(ベクトル)を作成し、これを用いた階層的クラスター分析をおこな い、有業者の産業構成比の点で産業構造が類似した地域分類を求める。そして、それらの地理的分 布を日本地図上に表したうえで、各地域分類の産業構造と地理的特性について説明する。さらに、 「国勢調査」に基づく各圏域の2015 年/ 2010 年の人口増減率、2015 年の純転入割合(純転入数/ 人口)と「就業構造基本調査」に基づく各圏域の2017 年/ 2012 年の産業別有業者数増減率を計算 して地域分類毎に整理し、これらも含めた各地域の経済的特性について総括することとする。 なお、階層的クラスター分析には、オープンソースの統計解析ソフトウェアであるR を用いて いる。圏域間およびクラスター地域間の距離を求める方法にはそれぞれ、標準的な方法であるユー クリッド距離とWard 法を用いている。また、本稿における全国の圏域数は 203 であり、産業部門 数は21 である11。 3.分析結果 3.1 階層的クラスター分析によって得られた地域分類と各地域の産業構造および地理的特性 前節で説明した分析方法を用いて階層的クラスター分析をおこなった結果、図1 の表に示される 地域1 ~ 8 の地域分類が得られた。2.2 節の冒頭で触れたように、地域分類数は、階層的クラス ター分析の過程で検討し選定される。本分析で、地域分類数を7 とした場合、地域 4 と 5 が統合さ れる。6 とした場合はさらに地域 7 と 8 が統合される。後述するように地域 4 と 5 は地理的に近接 し製造業割合がやや高いなどの共通点があるものの、地域4 は県庁所在地が多いのに対して地域 5 は皆無という顕著な相違点があり特徴的な産業にも差異があるため、両地域は区別したい。また、 首都圏と大阪圏の各中心部からなる地域8 は地域 7 と区別したい。一方、地域分類数を 9 とした場 合には地域6 が分割され 10 とした場合はさらに地域 3 が分割されるが、図 2 が示すように地域 6 と地域3 は十分にまとまっており、これらを分割すると残る地域と比べて細分化され過ぎるきらい もある。以上によって、本稿では地域分類数は8 が妥当であるとした。 9 「市民経済計算」を作成しそのなかで産業別(経済活動別)市内総生産を公表している市や、産業別(同)の 圏域内総生産または市町村内総生産を公表している県もあるが、全国の市町村、圏域ぶんは現状では入手でき ない。 10 市区町村別の人口や転出・転入のデータは総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」およ び「住民基本台帳人口移動報告」からも入手できる。ただし、これらは住民基本台帳の記録に基づいており、 実際の居住者の状態に即した国勢調査人口との間で±5%以上の差のある市区町村は 209 にのぼることが知ら れている(総務省、平成27 年国勢調査有識者会議(第 3 回)資料「国勢調査と住民基本台帳等について」)。こ のことに鑑みて、市区町村データを基にした圏域別データを扱う本稿では「国勢調査」を用いる。 11 2012 年と 2017 年の「就業構造基本調査(主要地域編)」は、埼玉、千葉、三重の各県で圏域数が異なる。そ のため、本稿では各県で圏域数の少ないほうに圏域を統合している。産業部門については、基本的に大部門を 用いるが、卸売・小売業のみ卸売業と小売業の2 部門に分割している。また、本稿の階層的クラスター分析で は分類不能の産業も用いるが、図2 や図 4 では割愛している。
一方、2.2 節末で触れたように本稿の階層的クラスター分析では、標準的方法であるユークリッ ド距離とWard 法を用いている。この分析方法による地域分類結果の妥当性と頑健性の確認として、 最初にユークリッド距離と代替的なマンハッタン距離を試した。その結果、マンハッタン距離によ る地域分類もユークリッド距離による地域分類と同じになり、全203 圏域の地域 1 ~ 8 への分類に 関して両者は88.2%の高率で一致した12。そこで次に、ユークリッド距離を採用したうえでWard 法 と代替的なaverage 法と McQuitty 法を試した結果、地域分類数を 6 ~ 12 にとっても、average 法で はWard 法による概ね地域 3 と 5 で 1 地域、地域 4、7、8 で 1 地域のほぼ 5 地域分類となり、 McQuitty 法でも同様に地域 3 と 5 で 1 地域、地域 4、6、7 で 1 地域のほぼ 5 地域分類になった13。 このようにaverage 法や McQuitty 法による意味ある地域分類数は Ward 法と比べて少なくなり、首 都圏・大阪圏の各中心部からなる地域8 や製造業に特色のある地域 6 を適切に分離した点では Ward 法のほうが妥当と言えるが、その一方で地域分類数を5としたときの Ward 法と average 法の 分類の一致率は75.4%と十分高い。以上によって、ユークリッド距離と Ward 法による地域分類結 果の妥当性と頑健性について確認した。 さて、地域1 ~ 8 における各産業の構成比は、図 2 で産業別に整理されている。以下では、図 1 と図2 を参照しつつ、各々の地域特性について、産業構造と地理的特性の観点から説明する。 説明に入る前に、図1 と図 2 の見方について概説する。図 1 の表には、地域 1 ~ 8 に属する圏域 名が列挙されている。地図では、地域1 ~ 8 に属する圏域が色分け(濃淡)で示されている。凡例 部分には、地域1 ~ 8 の特徴的産業として、「地域分類内各圏域の(有業者の)産業構成比の平均 値の標準化点」の大きいものから上位3 産業が挙げられている14。図2 では、各産業における地域 1 ~8 の有業者でみた産業構成比(当該産業の有業者数/全産業の有業者数)が箱ひげ図で示されて いる。箱ひげ図の箱(四角)の中の横太線は、「地域分類内各圏域の(有業者の)産業構成比」の 中央値(メディアン)を示す。箱の上辺と下辺はそれぞれ、第3 四分位数と第 1 四分位数を示す。 また、上部と下部のひげ(横線)は、「第1 四分位数± 1.5 ×(第 3 四分位数-第 1 四分位数)」を 示す。ひげの上方または下方にある点は、外れ値を示す。 さて、8 つの地域分類のうち、まず地域 8 を取り上げる。地域 8 は、首都圏の中心部(東京都の 全圏域と埼玉県、千葉県、神奈川県の都市部)と大阪圏の中心部(大阪市、北大阪、泉州、神戸 市)からなる日本の中枢である15。特徴的な産業は情報通信、不動産, 物品賃貸、学術研究 , 専門・ 技術サービスであり、図2 を見るとこれらの産業の構成比は地域 8 が突出して高い。金融 , 保険、 卸売、サービス(他に分類されないもの)、運輸, 郵便の構成比も、他地域と比べて非常に高くなっ ている16。ただし、情報通信は圏域によってばらつきが大きい。詳細に確認すると、首都圏では東 京都区部と川崎・横浜で8 ~ 9%、その他の圏域でも5%前後であるのに対し、大阪圏の 4 圏域で 12 異同の大半は地域4 の県庁所在地でない圏域と地域 5 の圏域の相互移動および地域 4 の圏域と地域 7 の圏域 の相互移動で、地理的にも近接する各地域間での産業構成比の特に近い圏域による相互移動とみなされる。 13 残りの地域は、2 圏域でひとつになるなど少数の圏域でのクラスターになっている。 14 ここで言う「地域分類内各圏域の(有業者の)産業構成比の平均値の標準化点」とは、「(当該産業における 地域分類内全圏域の産業構成比の平均値-同産業における全国全圏域の産業構成比の平均値)÷同産業における 全国全圏域の産業構成比の標準偏差」として求めている。 15 例えば多摩・島嶼は地理的範囲は広いものの、東京区部や川崎・横浜と隣接または1 市をまたぐ 12 市で全 体の就業者のうち約7 割を占めており、実質的には首都圏中心部に準じている。三浦半島も川崎・横浜と隣接 する3 市で約 9 割を占めており、同様のことが言える。 16 サービス業(他に分類されないもの)には、職業紹介・労働者派遣業やその他の事業サービス業(建物サー ビス、警備など)などが含まれる。
1 2 3 4 5 6 7 8 北海道) 道南 青森) 弘前 青森) むつ 青森) 八戸 岩手) 県南 宮城) 仙南 福島) 浜通り 埼玉) 県中央 道央 五所川原 ・十和田 岩手) 沿岸 宮城) 大崎・栗原 山形) 置賜 茨城) 県南 千葉) 湾岸・圏央道西 道北 岩手) 県北 ・三沢 宮城) 石巻・気仙沼 ・登米 茨城) 県北 埼玉) 県西部 ・圏央道東・南房総 オホーツク 山梨) 峡東 群馬) 吾妻 山形) 村山 秋田) 県北 県南 栃木) 県北 県央 県南 県東部 東葛飾 十勝 和歌山) 御坊 ・利根沼田 福島) 中通り 山形) 最上 庄内 群馬) 西部 神奈川) 県央 東京) 区部センターコア 釧路・根室 ・有田 石川) 奥能登 茨城) 県央 鹿行 福島) 会津 埼玉) 県北部 湘南 区部東部・北部 青森) 青森 田辺 岐阜) 飛騨 群馬) 中部 奈良) 南和 富山) 高岡・射水 県西 区部西部・南部 岩手) 県央 鳥取) 中部 静岡) 伊豆 千葉) 北総 和歌山) 橋本 新川 砺波 富山) 富山 多摩・島嶼 宮城) 仙台 広島) 備北 島根) 隠岐 新潟) 下越・佐渡 長岡 上越 島根) 石見 石川) 南加賀 中能登 石川) 石川中央 神奈川) 川崎・横浜 秋田) 県央 愛媛) 八幡浜 山口) 長門・萩 福井) 奥越 嶺南 岡山) 美作 福井) 福井・坂井 三浦半島 三重) 伊勢志摩 ・大洲 愛媛) 宇和島 山梨) 中北 峡南 徳島) 南部 西部 山梨) 富士・東部 岐阜) 岐阜 大阪) 大阪市 ・東紀州 ・西予 高知) 幡多 長野) 長野・北信 香川) 東讃 長野) 佐久・上小 静岡) 中部 北大阪 和歌山) 新宮 高知) 安芸 佐賀) 東松 木曽・松本・大北 福岡) 筑後 諏訪・上伊那・飯伊 愛知) 尾張 泉州 香川) 高松 物部川 長崎) 離島 京都) 丹後 中丹 佐賀) 西杵藤 岐阜) 西濃 東濃 三重) 中南勢 兵庫) 神戸市 愛媛) 松山 仁淀川 熊本) 天草 大阪) 南河内 長崎) 県央・島原 静岡) 東部 志太・榛原 西部 滋賀) 大津・高島 高知) 高知・嶺北 高幡 宮崎) 日南串間 兵庫) 淡路 熊本) 県北 京都) 南丹 福岡) 福岡 熊本) 県南 鹿児島) 奄美 和歌山) 和歌山 大分) 南部・豊肥 愛知) 東三河 京都市 長崎) 長崎 宮崎) 西諸 ・熊毛 鳥取) 東部 西部 西部 三重) 北勢 山城 熊本) 熊本中央 西都児湯 沖縄) 北部 島根) 出雲 宮崎) 都城北諸県 滋賀) 南部 湖北 大阪) 東大阪 大分) 中部 鹿児島) 大隅 宮古 岡山) 備前 鹿児島) 北薩 兵庫) 阪神南 宮崎) 宮崎東諸県 ・八重山 山口) 岩国・柳井 山口・防府 姶良・伊佐 兵庫) 東播磨 北播磨 阪神北 鹿児島) 鹿児島 宇部・美祢 下関 中播磨 奈良) 北和 中和 ・南薩 徳島) 東部 西播磨 但馬・丹波 広島) 広島 沖縄) 南部 香川) 中讃 岡山) 備中 山口) 周南 中部 愛媛) 今治 広島) 備後 福岡) 北九州 筑豊 香川) 西讃 佐賀) 佐城 三神 愛媛) 新居浜・西条 長崎) 県北 ・四国中央 大分) 東部 大分) 北部 宮崎) 宮崎県北部 図1 各圏域の有業者の産業構成比を基にした階層的クラスター分析による地域分類 各地域分類に特徴的な産業※ ※各地域分類に特徴的な産業として、「地域分類内各圏域の(有業者の)産業構成比の 平均値の標準化点」の大きいものから上位3産業を挙げている。(脚注 14 参照) 〔データ出所〕総務省統計局「就業構造基本調査(主要地域編)」より筆者作成。 〔備考〕下線を付した圏域は県庁所在地を含んでいる。 図1 各圏域の有業者の産業構成比を基にした階層的クラスター分析による地域分類
図2 地域分類毎の有業者の産業構成比(各産業÷全産業)(2012年) 農,林業~小売業 〔データ出所〕総務省統計局「就業構造基本調査(主要地域編)」より筆者作成。 〔備考〕縦軸は割合を示す。横軸は各地域分類の番号を示す(図1 の表を参照のこと)。 1 2 3 4 5 6 7 8 0. 0 0. 2 0. 4
農
農 林
,
林業
業
1 2 3 4 5 6 7 8 0. 00 0. 05 0. 10漁
漁業
業
1 2 3 4 5 6 7 8 0. 00 0. 01 0. 02鉱
鉱,,採
採石
石,,砂
砂利
利採
採取
取業
業
1 2 3 4 5 6 7 8 0.0 0.1 0.2建
建設
設業
業
1 2 3 4 5 6 7 8 0. 0 0. 2 0. 4製
製造
造業
業
1 2 3 4 5 6 7 8 0. 00 0. 02 0. 04電
電気
気・・ガ
ガス
ス・・熱
熱供
供給
給・・水
水道
道業
業
1 2 3 4 5 6 7 8 0. 00 0. 05 0. 10情
情報
報通
通信
信業
業
1 2 3 4 5 6 7 8 0. 00 0. 05 0. 10運
運輸
輸,,郵
郵便
便業
業
1 2 3 4 5 6 7 8 0. 00 0. 05 0. 10卸
卸売
売業
業
1 2 3 4 5 6 7 8 0. 0 0. 1 0.2小
小売
売業
業
図2 地域分類毎の有業者の産業構成比(各産業÷全産業) (2012年) 金融,保険業~公務 〔データ出所〕総務省統計局「就業構造基本調査(主要地域編)」より筆者作成。 〔備考〕縦軸は割合を示す。横軸は各地域分類の番号を示す(図1 の表を参照のこと)。 1 2 3 4 5 6 7 8 0. 00 0. 03 0. 06
金
金融
融 保
,
保険
険業
業
1 2 3 4 5 6 7 8 0. 00 0. 03 0. 06不
不動
動産
産 物
,
物品
品賃
賃貸
貸業
業
1 2 3 4 5 6 7 8 0. 00 0. 05 0. 10学
学術
術研
研究
究 専
,
専門
門・・技
技術
術サ
サー
ービビス
ス業
業
1 2 3 4 5 6 7 8 0. 0 0. 1 0. 2宿
宿泊
泊 飲
,
飲食
食サ
サー
ービビス
ス業
業
1 2 3 4 5 6 7 8 0. 00 0. 04 0. 08生
生活
活関
関連
連サ
サー
ービビス
ス 娯
,
娯楽
楽業
業
1 2 3 4 5 6 7 8 0. 00 0. 04 0. 08教
教育
育 学
,
学習
習支
支援
援業
業
1 2 3 4 5 6 7 8 0. 0 0. 1 0. 2医
医療
療 福
,
福祉
祉
1 2 3 4 5 6 7 8 0. 00 0. 04 0. 08複
複合
合サ
サー
ービビス
ス事
事業
業
1 2 3 4 5 6 7 8 0. 00 0. 05 0. 10サ
サー
ービビス
ス業
業((他
他に
に分
分類
類さされ
れな
ない
いも
もの
の))
1 2 3 4 5 6 7 8 0. 00 0. 05 0. 10公
公務
務
は2 ~ 3%であり、大きな差がある。 次に地域6 は、北関東から長野、東海、北陸、滋賀を経て兵庫、中四国の瀬戸内海沿岸に至る地 域に位置する。この地帯は伝統的に物づくりが盛んであり、脱工業化が進むなかでもなお製造業に 強みがある。実際、図2 で確認すると、この地域では製造業の構成比が突出して高い。 地域1、4、7 は、県庁所在地を含む圏域が集中している点で共通している。ただし、図 1 と図 2 で地理的分布と産業構成比を確認すると、各地域の特性は大きく異なっている。 地域7 は、①首都圏の中心部や大阪圏の中心部(地域 8)のすぐ外縁と②製造業地帯(地域 6) の中のいくつかの中核にそれぞれ位置する、2 種類の都市地域に大別できる。県庁所在地を含む圏 域は、①には京都・京都市と奈良・北和が含まれる。②には、北陸の3 圏域(富山、石川・中央、 福井)と東海の4 圏域(静岡・中部、愛知・尾張、岐阜、三重・中南勢)に加えて、滋賀・大津と 広島が含まれる。地域7 に特徴的な産業は、不動産 , 物品賃貸、卸売、学術研究 , 専門・技術サー ビスである。その他には、情報通信、金融, 保険、運輸 , 郵便の構成比も比較的高い。この産業構 造は、首都圏と大阪圏の中心部(地域8)に近く、小東京的な都市機能を持つと言える。 一方、地域1 では、全体の約 3 分の 2 を県庁所在地を含む圏域が占めているが、これらは北海 道・道央、東北の4 圏域(青森、岩手・県央、宮城・仙台、秋田・県央)、四国の 3 圏域(香川・ 高松、愛媛・松山、高知)、九州の6 圏域(佐賀を除く)、沖縄・南部であり、日本列島の周辺部に 位置する。特徴的な産業は小売、サービス(他に分類されないもの)、卸売であり、医療, 福祉、 金融, 保険、公務、不動産 , 物品賃貸なども他地域と比べてやや高い。この点で、地域 1 は各地方 圏における消費の中心地であり、金融や行政の中心地としての性格もあわせ持つと言える。しか し、地域7、6 と比べると、情報通信、学術研究 , 専門・技術や製造業のような主導的産業を欠い ている点で異なる。 他方、地域4 は、地域 6、7 の外縁に位置する。県庁所在地を含む圏域は、東北(山形・村山、 福島・中通り)、北関東(茨城・県央、群馬・中部)、甲信越(山梨・中北、長野、新潟・下越)、 和歌山、中国(鳥取・東部、島根・出雲、岡山・備前、山口)、徳島・東部、佐賀・佐城である。 地域4 には際立って特徴的な産業はなく、強いて挙げると建設、公務、小売である。地域 1 と比較 すると、地方における消費の中心地としての性格は鮮明ではない。ただし、残る地域2、3、5 と比 較すれば、運輸, 郵便、金融 , 保険、卸売、学術研究 , 専門・技術、不動産 , 物品賃貸、情報通信が やや高く、ある程度の都市的性格は備えている。 地域2、3、5 は、都市部からの交通の便が特に悪い山間部や沿岸部に位置する。これらの地域の 中に、県庁所在地を含む圏域はない。地域2 と 5 の特徴的な産業は、農 , 林、複合サービス、医療 , 福祉、建設、公務であり、両地域は類似している17。ただし、地域2 では漁業がやや高く、地域 5 では製造がやや高い。地域3 の特徴的な産業は漁、複合サービス、宿泊 , 飲食サービスであり、観 光地の要素が見られる。ただし、漁業と宿泊, 飲食サービスは圏域によってばらつきが大きい。漁 業の構成比は、群馬・吾妻・利根沼田、静岡・伊豆、岐阜・飛騨では0 ~ 0.9%であるのに対し、 長崎・離島、島根・隠岐、熊本・天草、愛媛・宇和島では5%を超えている。一方、宿泊 , 飲食 サービスの構成比は、静岡・伊豆、岐阜・飛騨、沖縄・宮古・八重山、群馬・吾妻・利根沼田、沖 縄・北部で10%を超えており、愛媛・宇和島、青森・むつ・十和田・三沢、長崎・離島、島根・ 隠岐では5%前後となっている。 17 複合サービスには、郵便局や協同組合が含まれる。
3.2 各地域における人口増減率、純転入割合と産業別有業者数の増減率 最初に、図3 の人口増加率(2015 年/ 2010 年)を見ると、地域 8 を除く地域では全体的に人口 減少にある18。なかでも、地域2、3、5 の減少が著しい。次に、純転入(転入数-転出数)割合 (2015 年の純転入数÷人口)のグラフを人口増減率のグラフと比較して見てみると、両グラフの形 は概ね同じように見られる。ただし、地域7 の純転入割合は地域 8 並みである。また、地域 1、4、 6 でも地域内の半数前後の圏域でプラスの純転入になっている点が、人口増加率の場合と異なる。 それに対して、地域2、3、5 では大半の圏域で転出が転入を上回っており、この 3 地域では人口流 出も人口減少を進める要因になっている。 次に、図4 で各地域の産業別有業者数の増減率(2015 年/ 2010 年)を見る。まず地域 8 では、 有業者数の合計はほぼ全圏域で増えている。その増加率は、東京都の区部東部・北部(+8.2%)と 区部西部・南部(+15.5%)、神奈川県の川崎・横浜(+7.1%)、大阪府の大阪市(+5.6%)と北大阪 (+9.6%)、兵庫県の神戸市(+5.7%)で特に高い。産業別に見ると、増加率の全圏域平均値は、医 療, 福祉、情報通信、サービス(他に分類されないもの)、学術研究 , 専門・技術サービス、教育 , 学習支援の順に高い19。特に首都圏で情報通信の増加率の高いことが、顕著な特徴である。 一方、地域8 に次ぐ本州内の都市部である地域 7 では、有業者数の合計は 3 分の 2 の圏域で増え ているものの、増加率の全圏域平均値は0.4%であり、地域8と比べるとかなり低い。増加率の高 い産業は、医療, 福祉、小売、サービス(他に分類されないもの)、学術研究 , 専門・技術サービ ス、公務の順である。 地域7 と並んで県庁所在地の多い地域 1 と 4 でも、地域 7 と同様に有業者数の合計は過半の圏域 で増えており、増加率の全圏域平均値はそれぞれ1.0%と 0.5%であり地域7並みかそれより高い。 産業別の増加率が高い上位5 産業は順に、地域 1 では医療 , 福祉、公務、学術研究 , 専門・技術 サービス、金融, 保険、複合サービス、地域 4 では医療 , 福祉、公務、宿泊 , 飲食サービス、電気・ ガス・熱供給・水道、サービス(他に分類されないもの)である。地域1 では学術研究 , 専門・技 術サービスや金融, 保険がより上位にある点で、地域 4 と比べると地域 8 や 7 に近くなっている。 地域2、3、5 は、前述したとおり、人口が流出し人口減少が進んでいる地域である。ただし、図 18 ただし、地域8 でも、大阪府の 2 圏域(大阪市、泉州)の人口は減少している。 19 以下、地域分類内の産業間で増減率を比較する場合は、同様にして、増減率の地域分類内の全圏域平均値を 使って比較する。 図3 人口増減率(2015年/ 2010年)と純転入割合(2015年の純転入数÷人口) 〔データ出所〕総務省統計局「国勢調査」より筆者作成。
図4 各地域の産業別有業者数の増減率(2017年/ 2012年)
4 によると、有業者数の合計は、地域 3 では半数の圏域で増加しているのに対し、地域 2 では 6 割 の圏域で減少し、地域5 では 7 割以上の圏域で減少しており、就業環境は異なっていると言える。 増加率が高い上位5 産業は、地域 3 が医療 , 福祉、運輸 , 郵便、学術研究 , 専門・技術サービス、 教育, 学習支援、不動産 , 物品賃貸、地域2が医療 , 福祉、複合サービス、公務、不動産 , 物品賃 貸、教育, 学習支援、地域 5 が医療 , 福祉、サービス(他に分類されないもの)、公務、学術研究 , 専門・技術サービス、金融, 保険である。 地域6 は、製造業の有業者数が過半の圏域で増加している唯一の地域である点で異質である。有 業者数の合計も3 分の 2 の圏域で増えている。また、有業者数の増加率の全圏域平均値は 2.0%と、 地域8 以外のなかでは高い。ただし、合計、製造業ともに圏域間でばらつきは大きい。増加率を産 業別で見ると、医療, 福祉の次が製造業であり、サービス(他に分類されないもの)、不動産 , 物品 賃貸、教育, 学習支援となっている。 3.3 総括 本節の内容を次の4 点に総括する。第一に、本稿の地域分類において、首都圏と大阪圏の各中心 部からなる地域8 は、純転入がプラスでありかつ人口増加している唯一の地域である。特に人口増 加が著しいのは首都圏であり、その原動力となる要素として近年の花形産業と言える情報通信と学 術研究, 専門・技術サービスの伸長があることを、本節の分析からも改めて指摘できる。 第二に、人口流出と人口減少が著しい地域2、3、5 は、都市部からの交通の便が特に悪い山間部 や沿岸部に位置し、県庁などの広域的な行政機関も所在しない。地域3 は離島や山間の温泉地があ る圏域を多く含み観光地の要素もあるが、地域2 と 5 の特徴的な産業は農 , 林、複合サービス、医 療, 福祉、建設、公務であり、現代の産業発展とはかけ離れた産業構造になっている。医療 , 福祉 以外に有業者数の大きく増加する産業のないことが、これら地域で他地域への転出が多くなる大き な要因のひとつになっていると言えよう。 第三に、県庁所在地が所在する圏域が多く含まれる地域1、4、7 の産業構造は、地域 8 と地域 2、 5 の間に位置付けられる。その程度は各地域の地理的特性を反映し、それに応じて各地域の純転入 と人口増減に差異の見られることが示される。すなわち、首都圏中心部や大阪圏中心部(地域8) のすぐ外縁または製造業地帯(地域6)の中のいくつかの中核に位置する地域 7、国土の周辺部に 点在する各地方圏の中心地である地域1、地域 6 や 7 の外縁に位置し地域 2 と 5 に近接するものの ある程度の都市機能を持つ地域4 という地理的特性の違いが、各地域の産業構造と人口動態に対し て、より地域8 に近いか地域 2、5 に近いかの差異を与えていると考えられる。 第四に、北関東から長野、東海、北陸、滋賀を経て兵庫、中四国の瀬戸内海沿岸に至る製造業地 帯である地域6 は、脱工業化が進む我が国では異質である。本稿の対象期間(2012 ~ 2017 年)で は、製造業の有業者数は3 分の 2 の圏域で増加しており、有業者数の合計の増加率は地域 8 に次い で高い。ただし、圏域間でばらつきが大きいことも指摘する必要がある。 4.おわりに 1990 年代以前の我が国に生じた経済格差に関わる諸問題は、その大半がプラスの大小をめぐる 問題であったと言える。それ以降、日本経済の停滞が続くなか、経済格差の問題はより重い性格に なっている。地域間経済格差もそのひとつであり、政府は「東京一極集中の是正」や「地域の特性 に即した地域課題の解決」を実現すべく2014 年に地方創生関連法を施行し、まち・ひと・しごと
創生本部が主体となってこの問題に取り組んでいる。本稿はこの問題意識を共有し、各地域の産業 構造と地理的特性という切り口から、各地域の経済的特性についての分析に取り組んだ。 そのための分析方法と統計データについて吟味した結果、本稿ではまず「就業構造基本調査(主 要地域編)」の県内経済圏別集計の産業別有業者数(割合)を用いて、階層的クラスター分析をお こなうこととした。これにより、全国203 経済圏を有業者の産業構成比の点で類似の産業構造を持 つ8 つの地域へと、先入観なく分類することができた。次に、これら 8 地域の地理的分布を日本地 図上に表したうえで、各地域の産業構造と地理的特性について整理した。さらに、各地域における 人口増減率、純転入割合、産業別有業者数増減率を整理し、これらも含めた各地域の経済的特性に ついて総括した。 本稿で得られた主な分析内容から2 つを挙げると、次のとおりである。第一に、藤田他(2018) では第3 次産業化や第 3 次産業のなかでも特に「情報・知識創造活動」の重要性の高まりが東京一 極集中型国土システムの形成につながったと分析されているが、近年の首都圏集中の原動力には、 首都圏に特有な情報通信業と学術研究, 専門・技術サービス業の伸長があることを、本稿でも改め て指摘できる。第二に、純転出が多く人口減少が著しい地域は、都市部からの交通の便が特に悪い 山間部や沿岸部に位置し、県庁などの広域的な行政機関も所在しない地域である。観光地の要素の ある地域もあるが、この地域に特徴的な産業は概ね、農林漁業、複合サービス業(郵便局や共同組 合)、医療, 福祉、建設業、公務であり、現代の産業発展とはかけ離れた産業構造になっている。 医療, 福祉以外に有業者数が大きく増加する産業のないことが、この地域の人口減少の大きな要因 のひとつになっていることは明らかである。 以上によると、首都圏集中や「地方消滅」に代表される地域経済課題の緩和や解決に資するため には、情報通信業や学術研究, 専門・技術サービス業の拠点を地方に設けることや、近年話題に なっている「製造業の国内回帰」を政府が支援する際に地方への戦略的配置・誘導をおこなうこと が考えられる20。これらに関する分析については、今後の研究課題としたい21。 【参考文献】 新井園枝・金 榮愨(2018)「地域を跨ぐ本社サービス投入の推計と影響評価」、徳井丞次(編)『日 本の地域別生産性と格差: R-JIPデータベースによる産業別分析』、東京大学出版会。 入江啓彰(2017)「2011年産業連関表からみた関西経済の産業構造」、『近畿大学短大論集』、第50巻 第1号、pp.1-7。 太田聰一・梅溪健児・北島美雪・鈴木大地(2017)「若年者の東京移動に関する分析」、『経済分析』、 第195号、pp.117-152。 近藤 智(2017)「サービス経済化と経済成長について」、『経済学研究』、第4巻第2号、pp.67-79。 20 経済産業省『2016 年版製造基盤(ものづくり)白書』では、「生産拠点としての事業環境が改善する中、生 産の国内回帰は継続している」と言及されている。また最近でも、日本のサプライチェーンの脆弱性に鑑みた 政府は、国内生産拠点等の整備をおこなう企業に対する支援策として「サプライチェーン対策のための国内投 資促進事業費補助金」を打ち出した。 21 本稿は、まず有業者の産業構成比による産業構造を基に圏域単位で全国を地域分類し、次にその地域分類毎 の産業構造、地理的特性、人口増減、転出入、産業別有業者数増減の状況を整理して地域特性を把握すること を分析目的としており、圏域単位の変数間の関係性、例えば各圏域の人口増減あるいは転出入と産業別有業者 数の増減との関係性についての分析は直接の対象としていない。この厳密な分析のためには、ある産業の有業 者数の増減が他の産業の有業者数の増減に与える影響や近接する圏域間の影響など、想定される様々な内生性 に対する配慮が必要になると考えられるが、こうした空間計量経済学的分析についても今後の課題としたい。
――(2020a)「脱工業化は我が国の地域経済と地域間経済関係にどのような影響を与えたか」、『生 活経済学研究』、第51巻、pp.47-61。 ――(2020b)「サービス経済化・脱工業化による地域経済・産業構造変化と東京圏・地方大都市へ の労働力・人口集中について」、『地域分析』、第58巻第3号、pp.46-65。 張 峻屹・瀬谷 創・兼重 仁・力石 真(2016)「都道府県間人口移動の影響要因の経年的分析:空間 的文脈依存性をもつ選択モデルに基づく分析」『地理科学』、第71巻第3号、pp.118-132。 内閣官房まち・ひと・しごと創生本部(2019)「まち・ひと・しごと創生基本方針 2019」。(https:// www.kantei.go.jp/jp/singi/sousei/info/) 林 宜嗣(2014)「東京一極集中と第二階層都市の再生」、『研究学論究』、第68号第3巻、pp.243-269。 林 勇貴・林 宜嗣(2017)「地域競争力と地域間人口移動」、『研究学論究』、第71号第3巻、pp.59-81。 深尾京司・牧野達治・徳井丞次(2018)「日本の地域間経済格差: 1874-2010年」、徳井丞次(編) 『日本の地域別生産性と格差: R-JIPデータベースによる産業別分析』、東京大学出版会。 藤田昌久・浜口伸明・亀山嘉大(2018)『復興の空間経済学: 人口減少時代の地域再生』、日本経済 新聞出版社。 山本雄三・高橋陽子・高見具広(2018)「統計指標に基づく市町村分類の試み」、JILPT(独立行政 法人 労働政策研究・研修機構)Discussion Paper 18-05。
Izenman, A. J.(2008)Modern Multivariate Statistical Techniques: Regression, Classification, and Manifold
Learning, Springer.
McCann, P.(2016)The UK Regional–National Economic Problem: Geography, Globalisation and