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「発表倫理 公正な社会の礎として」山崎茂明 著

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Academic year: 2021

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書評・新刊紹介

著者はこれまでにもいくつか発表倫理や研究不正に関す る著書を上梓しておられるが,本書は,発表倫理を研究不 正に対する解法と位置づける視点から書かれている。各章 は,国際医学情報センターの機関誌『あいみっく』その他 の資料に発表されたものであるが,まとめて読み直すこと により,全体の主旨を改めて明確に掴むことができる。全 体は5 部 13 章からなるが,その構成からやや外れて著者 の論述・主張をまとめてみる。 1.研究不正行為とは 米国の研究公正局(ORI)は研究不正を「研究の申請, 実行,審査,あるいは研究結果の報告などの諸側面におけ る捏造,改竄,盗用」と定義している。すなわち,論文発 表だけでなく,研究プロセスのすべてにおける行為が含ま れるので,著者の要件を満たさない関係者を著者とする行 為(オーサーシップに反する行為),研究結果を資金提供 者に有利な形に偏らせる行為,査読者のアンフェアな行為 など,多岐に及ぶ。ORI は,誠実な誤りや意見の相違は 研究不正に含まれないとしているが(我が国では,「誠実 な誤り(honest error)」が「悪意のない間違い」と訳さ れたため悪意がなければ不正ではないという誤解が生じた ことを指摘)(第2 章),論文が不正であるか誠実な誤り であるかの判別は難しい場合が多いので,不正と取られな いためには,できるだけ論文を明確に記述すべきと説く(第 8 章)。 2.研究不正が発生する背景 科学研究の目的は,個人の知的好奇心を満たし世の人に 知的喜びを与えることから出発したが,次第に,経済発展, 生活の質向上,安全保障等の実益の追求が優先されるよう になり(第1 章),立法や行政施策により研究環境に大き な変化が生じて,研究の成果主義が濃厚となった(第2 章)。 成果主義の顕れとして著者が強調するのが,オーサー シップと査読に関する問題である。ORI が公表する不正 調査事例のほとんどにギフトオーサーシップが絡んでいる という。逆に言えば,全共著者が著者としての役割をきち んと果たすことが不正の防止に効果的である(第6 章)。 また,論文に各共著者の寄与を明記させる雑誌に,著者が 「同等の寄与(equal contribution)」と記す例が増えてお り,業績の水増しに繋がる恐れがあることを指摘している。 同等の寄与をしたとする筆頭著者以外の著者が,業績リス トなどで著者の並び順を入れ替えて自分を筆頭に置く事例 があり,これは一種の論文改竄と言える(第11 章)。 発表倫理 公正な社会の礎として 山崎茂明 出版社:樹村房 2021 年 3 月 3 日発行 206p 四六判 ISBN:978-4-88367-344-5 本体2,600 円(税別) 論文の査読に関して,レフェリーシステムは雑誌論文に 対する信頼性の基盤であるが,この信頼性を揺るがす事態 が生じている。一つは,査読者によるアイディア盗用や審 査の引き延ばし等の不正行為であり,もう一つは,査読者 が不正を見抜けずに論文が受理される事例である(第2 章)。査読がそれほど厳しくないオープンアクセス(OA) 誌への投稿が増え,論文の質の低下を招く懸念も示唆して いる(第15 章)。 競争主義,成果主義を学術世界に導入した科学政策への 反省なくして不正を減らすことはできない(第6 章)。 3.発表倫理教育 発表倫理に焦点を当てることにより,発表だけでなく研 究プロセス全体の公正さをチェックできる。論文の書き方 教育において,発表倫理の視点から,データからファクト の正しい導出,先行文献を引用する際の注意,著者のあり 方と責任,発表バイアスの回避(期待通りの結果が得られ なかった研究も正確になされたものであれば発表する)等 を重視すべきである(第7 章)。 ORI の研究不正事例報告では,研究不正の調査は研究 者を罰するためでなくやり直す機会を与える教育プロセス と位置づけられている(第10 章)。 4.著者が最も伝えたいこと 全編を通して著者が強調していることが,次の文に凝縮 されている。 「研究不正への対応は,誰もが不正に関与する可能性が あり,その存在を認めることから始まる。(中略)不正は あるのが前提であり,感染症として考えることを提案して いる。感染症の多くは薬物療法で治せても,環境への働き かけがなければ感染を繰り返すだろう。研究環境の改善を 図り,公衆衛生学的なアプローチで研究不正という感染症 と向き合うべきであり,更に予防対策としての研究倫理教 育の展開が求められる。」(第2 章,p.32) 以上のように,研究不正の定義と事例,それが起こる背 景,その予防と治療,研究環境の改善まで深く,しかも判 りやすく説き起こしている。その主張は,PubMed や医 中誌Web による様々な文献調査や ORI 等への訪問調査に 裏付けられているため説得力がある。索引(和英あり)と 引用文献も充実している。一つだけ残念なことは,各章が 初出の記事にほぼ対応しているため,類似の主張がいくつ かの章に分散していることである。内容に応じて全体の構 成を再編成していただいたら,論旨がより強力に響いたか もしれない。 ともあれ,研究に従事する人だけでなく,研究を支える 図書館・情報関係者の全てに強くお勧めしたい好著である。 (科学技術・学術政策研究所 小野寺夏生)

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情報の科学と技術 71 巻 6 号,279~281(2021)

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