<論文>近年のメディアと政治・犯罪報道の問題点
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(2) 人権問題研 究所 紀要. 部 政 治 リー ダ ー の 手 法 に 重 な る 部 分 が 多 く あ る。 そ の 結 果 、 貧 困 層 が 増 加 し社 会 的 危 機 と も い わ れ る格 差 拡 大 社 会 が 現 出 した 。 ま さに 「 政 治 と メデ ィ ア が 連 携 す れ ば 、 どん な 福 祉 の 国 も た ち ま ち 貧 困 と格 差 の 国 」 に な る こ とを 証 明 した と い え る。. ・大 衆 迎 合 と 短 期 的 視 点 の 誤 り しか し 、 そ の 逆 も ま た 「真 な り」 で あ る 。. 「 政 治 と メデ ィ ア が 連 携 す れ ば 、. どん な 差 別 の 国 もた ち ま ち 人 権 の 国 」に な り、 「政 治 とメ デ ィ ア が 連 携 す れ ば 、 どん な 戦 争 の 国 も た ち ま ち 平 和 の 国 」 に す る こ とが で き る 。 そ れ が 本 来 の 政 治 の役 割 で あ り、 メデ ィ ア の使 命 で あ る。 に も か か わ らず 、歴 史 は政 治 と メ デ ィ ア の 役 割 を見 失 わせ 、 正 反 対 の 役 割 を 担 わせ た こ とが 何 度 とな くあ っ た 。 そ れ らの 時 代 に 共 通 した 点 は 、 ポ ピ ュ リズ ム と もい うべ き大 衆 迎 合 と短 期 的 な 視 点 で の 政 策 判 断 ・評 価 基 準 に あ り、 そ の 傾 向 を 一 層 助 長 した 大 衆 迎 合 的 ・ 集 団 過 熱 的 メ デ ィ ア の 存 在 で あ っ た 。 そ の 時 々 の 誤 っ た 政 策 判 断 も、 当 時 は 短 期 的 な 視 点 で 合 理 的 な 説 明 が な され て い た が 、 長 期 的 な 視 点 で 見 る と お か しな も の が 多 数 含 ま れ て い た 。 そ れ で も 多 くの 人 々 は 、 疑 う こ とな くそ れ らの 政 策 を 信 じ、 ウ ソ の 発 表 や 説 明 を 受 け 入 れ 、 メ デ ィ ア の ミ ス リー ドと も 重 な っ て 時 代 の 世 論 を 形 成 した。 不 安 な 時 代 、 安 心 と安 定 を 求 め て 人 々 は 容 易 に デ マ を 受 け 入 れ て し ま う。 今 日の よ うに 危 機 的 な 経 済 状 況 とそ れ に と も な う社 会 不 安 が 蔓 延 して い る 時 代 、 デ マ が 受 け 入 れ られ や す い 土 壌 が 形 成 され る。 不 安 な 時 代 は 多 くの 人 々 が 感 情 的 に な りや す い 時 代 で あ り、 これ が 集 団 的 に発 生 す る 時 代 な の で あ る 。 また. 「 イ デ オ ロ ギ ー は 過 剰 に な る」 と い わ れ る よ うに 、 イ デ オ ロ ギ ー を 含 む. 世 論 も し ば し ば 過 剰 に な る。 過 剰 に な っ た 世 論 を背 に 受 け て 、 ポ ピ ュ リズ ム 的 政 治 家 が 、 容 易 に 過 激 な 政 策 を 打 ち 出 す こ と を 可 能 に す る。. 一18一.
(3) 近 年 の メデ ィ ア と政 治 ・犯 罪 報 道 の 問題 点. ・1929年. 世 界 恐 慌 の ドイ ツ で は. そ れ ら の 点 を80年. 前 の ドイ ツ に 焦 点 を あ て れ ば 顕 著 に 問 題 点 が 浮 か び 上 が. る。 今 日 の経 済 危 機 が 百 年 に 一 度 とい わ れ る よ うに な っ た 背 景 の 一 つ は 、19 29年. の 世 界 大 恐 慌 か ら80年. の 歳 月 が 流 れ て い た か らで あ る。 そ の 頃 の ドイ. ツ の 政 治 経 済 情 勢 を振 り返 り な が ら、 今 、 私 た ち が ど の よ うな視 点 を持 つ 必 要 が あ る の か を 考 え る こ とは 、 歴 史 を 教 訓 に す る 上 で 最 も 重 要 な こ との 一 っ で あ る。 そ れ が 「 文 化 の 国 を 野 蛮 の 国 」 に しな い こ との 早 道 で あ る。 当 時 の ドイ ツ は1914年 19年. に始 ま っ た 第 一 次 世 界 大 戦 で 敗 戦 国 と な り、19. の 連 合 国 と ドイ ツ と の 聞 に 調 印 され た ベ ル サ イ ユ 条 約 に よ っ て 、 苛 酷 な. 賠 償 を 課 せ られ 、 経 済 的 に も厳 しい 状 況 に 置 か れ て い た 。 そ う した 経 済 情 勢 の 下 、 政 治 情 勢 も1920年. 代 の10年. 間 で 政 権 交 代 が10回. に及 び 、政情 不安. が続 い た 。 経 済 は 驚 く ほ ど の 賠 償 額 と戦 争 に よ る生 産 能 力 の 低 下 な ど で 壊 滅 的 な 状 況 に あ っ た。 そ の た め に ハ イ パ ー イ ン フ レ(超 イ ン フ レ)が 起 こ り、 ドイ ツ 通 貨 で あ っ た マ ル ク の価 値 は 一 兆 分 の 一 ま で 下 が り、 紙 切 れ 同 然 に な っ た 。 そ こ に 重 な る よ う に米 国 発 世 界 恐 慌 が1929年. に起 こ っ た の で あ る。. ドイ ツ は 第 一 時 世 界 大 戦 で の敗 戦 後 、 米 国 資 本 を 導 入 して 復 興 を 図 っ て い た が 、 そ の 米 国 か ら世 界 恐 慌 が 起 こ り、 米 国 資 本 総 引 き上 げ の 中 で 、 ドイ ツ経 済 は 壊 滅 的 な 打 撃 を 受 け た 。 この よ うな 時 代 的 背 景 の 中 で 、 ナ チ ス(国 義 ドイ ツ 労 働 者 党)が. 家 社会 主. 台 頭 した の で あ る。. 先 に 示 し た ヒ トラ ー 「わ が 闘 争 」 の 宣 伝 方 針 に 基 づ い て 行 わ れ た ナ チ ス の 現 状 否 定 と大 衆 宣 伝 は 、 現 状 に 不 満 を抱 い て い た 青 年 や 失 業 者 の 心 を 引 き つ け 、 飛 躍 的 な 党 勢 拡 大 を 成 し遂 げ た 。1926年 2年 に は20倍. の100万. の5万. 人 党 員 か ら6年 後 の193. 人 を 突 破 し、 これ ら に 比 例 す る 形 で 国 会 で の 議 席 も. 飛 躍的 に伸 び てい った。. 19.
(4) 人権問題研究所紀要. ・圧 倒 的 影 響 を 与 え た メ デ ィ ア 戦 略 世 界 恐 慌 前 年 の1928年5月 30年. に は12し. か な か っ た 議 席 は 、 恐 慌 後 の19. に は ナ チ ス の 現 状 否 定 が 多 くの ドイ ツ 国 民 か ら受 け 入 れ られ 、107議. 席 に伸 びた。 さ らに1932年7月. に は230議. 席 と第 一 党 に な り、 翌 年 の1933年1. 月 に は ヒ トラー が 首 相 に な っ た 。 そ の 後 、1933年3月 第 一 党 に な り、 同 月 全 権 付 与 法(全. 権 委 任 法)が. の選 挙 では圧 倒 的 な. 可 決 され 、4年. 間 の予 算 を含. む 法 律 制 定 権 限 が 国 会 か ら政 府 に 移 行 した の で あ る 。 条 約 批 准 も国 会 の 承 認 を 必 要 と しな くな っ た 。 そ の 頃 の ナ チ ス 党 及 び ヒ トラ ー に 対 す る 大 衆 的 人 気 、 今 で い う支 持 率 も圧 倒 的 な も の で あ っ た 。 現 代 の 私 た ち か ら見 れ ば 、 ナ チ 式 の 挨 拶 や ヒ トラー の 熱 狂 的 な 演 説 は 奇 異 に 写 る が 、 当時 は 紛 れ もな く若 者 の 憧 れ の 的 だ っ た 。 ヒ トラ ー は 大 衆 的 な 人 気 と全 権 付 与 法 に よ る独 裁 的 な 権 力 に よ っ て 、 当 時 の ドイ ツ の 置 か れ た 状 況 を 克 服 ・改 善 す る た め に 、 不 満 を 抱 い て い た 人 々 の 支 持 す る 政 策 も含 め て 強 力 に 推 進 し、 さ ら な る支 持 を 集 め た。 こ の 間 に も大 き な 問 題 の あ る 法 律 や 政 策 を 数 多 く出 して い る に も か か わ らず 、 こ の 時 点 で ナ チ ス 党 及 び ヒ トラ ー の 本 質 に気 づ い て い る 人 は 、 ドイ ツ 国 民 に 多 く は い な か っ た 。 こ う した 状 況 を 創 り だ し た 要 因 の 一 っ が 、 ナ チ ス の メ デ ィ ア 戦 略 で あ る 。 戦 前. コELI.中 の 政 治 家 で 最 も メ デ ィ ア を利 用 した 政 治 家 は ヒ トラー と い え る だ ろ う。. 当時 、 ナ チ ス 党 幹 部 の 中 で も 数 少 な い イ ンテ リで あ っ た ゲ ッペ ル ス を 宣 伝 大 臣 に 置 き 、1934年. に は 映 画 法 を 発 布 し、 検 閲 済 み の 映 画 を 通 じた 大 衆 煽 動 と. ラ ジ オ 、 新 聞 を 駆 使 した 宣 伝 は 、 ドイ ツ 国 民 に 圧 倒 的 な 影 響 を 与 え た 。. ・熱 狂 的 な 支 持 を 集 め た ヒ トラ ー 1933年. に500万. 人 前 後 い た とい わ れ る失 業 者 は 、 ヒ トラ ー の 経 済 政 策. 等 に よ っ て 年 々 減 少 し、4年. 後 の1937年 一20一. に は完全 雇用 に近づ い た といわれ.
(5) '㌧ Σ. 近 年 の メデ ィ ア と政 治 ・犯 罪 報 道 の 問題 点. て い る。 ま さ に 公 約 を 実 行 す る 政 治 リー ダ ー 、 ドイ ツ を 救 う政 治 リー ダ ー と し て 熱 狂 的 な 支 持 を集 め た 時 期 で あ る。 も し こ の 時 期 に ヒ トラ ー が 亡 く な っ て い れ ば 、 お そ ら く今 日の よ うな ヒ トラ ー 評 価 に は な らず 、 ドイ ツ 経 済 を救 済 した 政 治 リー ダ ー と し て 、 高 い 評 価 が 歴 史 的 に 下 され て い た か も しれ な い 。 1929年. の 世 界 恐 慌 か ら米 国 と と も に 、 最 も早 く経 済 回 復 した 国 の 一 っ が. ドイ ツ で あ る 。 米 国 の ニ ュ ー デ ィー ル 政 策 と 同 様 に ア ウ トバ ー ン等 の公 共 事 業 を展 開 し、 一 方 で 軍 需 産 業 の 振 興 で 経 済 の 建 て 直 し を進 め た の で あ る。 そ の 行 き着 く と こ ろ は 、 言 うま で も な く戦 争 で あ る 。 一 つ 一 つ の 政 策 や 方 針 は 誤 っ て い て も 合 理 的 に 見 え る 説 明 が 施 され 、 誰 弁 と もい え る説 明 に よ っ て 多 く の ドイ ツ 国 民 は 、 「昨 日に か わ らぬ よ う に み え る 今 日 で あ り、 今 日に か わ らぬ よ うに み え る 明 日」 と時 代 を 捉 え て し ま い 、 日々 の 変 化 に 気 づ か ず 、 地 獄 へ の 道 に荷 担 して し ま っ た の で あ る。 数 年 単 位 で観 察 す る と大 き な 分 岐 点 が あ っ た に も か か わ らず 、 長 期 的 な 視 点 で観 る こ と が で き な か った。 1939年9月. の ドイ ツ に よ る 「ポ ー ラ ン ド侵 攻 」(侵. 略)に. よっ て始 まっ. た 第 二 次 世 界 大 戦 も 、 ポ ー ラ ン ド回 廊 と い わ れ た 地 域 の ドイ ツ人 住 民 が 民 族 対 立 の 犠 牲 に な っ て お り、 そ れ を 解 決 ・救 済 す る た め に 「 侵 攻 」 す る と の説 明 で あ っ た 。 こ の 時 に も多 く の ドイ ツ 国 民 は 、 熱 狂 的 な 支 持 を 集 め て い た ヒ トラ ー の 行 動 ・判 断 を容 易 に 支 持 して しま っ た 。. ・ナ チ 時 代 の メ デ ィ ア は 過 去 の 問 題 で は な い ユ ダ ヤ 人 へ の 迫 害 も 同 様 で あ る。 一 っ 一 つ の 政 策 や 行 動 が コ ン パ ク トに 説 明 され 、 時 に は 科 学 的 装 い を 凝 ら して 説 明 され る こ と さ え あ っ た 。 当 時 、 ユ ダ ヤ 人 は ドイ ツ 国 籍 を持 っ た ドイ ツ 国 民 で あ る 。 そ れ ら の 自 国 民 を 迫 害 した 一 点 か らで も 現 在 の 視 点 で 照 射 す れ ば ナ チ ス 党 の 問 題 を指 摘 す る こ とが で き る が 、 結 一21一. 写」.
(6) 人権問題研 究所 紀要. 果 と し て12年. 間 、 ナ チ ス 党 と ヒ トラー に ドイ ツ の 運 命 を 預 け て し ま っ た 。. そ の 間 に 「政 治 とメ デ ィ ア が 連 携 」 し、 「平 和 の 国 も戦 争 の 国 」 に 「文 化 の 国 も 野 蛮 の 国 」 に な っ て しま っ た の で あ る。 以 上 の よ うな 視 点 に 立 っ て 、 今 日の 政 治 と メデ ィ ア の 関 係 を観 察 す れ ば 、 今 後 の 私 た ち の 社 会 に悪 影 響 を 与 え な い か と 大 き な 危 惧 を 抱 く。 今 日の メ デ ィ ア は 、 ナ チ 時 代 以 上 に私 た ち に 大 き な影 響 を 与 え て い る。 ま さ に ナ チ 時 代 の 「政 治 と メデ ィ ア 」 は 過 去 の 問 題 で は な く 、 現 代 の 問 題 だ とい う こ と を 十 分 に 自覚 す る必 要 が あ る 。 最 近 、 国 会 議 員 の 世 襲 制 問題 が メ デ ィ ア を 賑 わ して い る が 、 議 員 に な る早 道 を 考 え れ ば 、 そ れ は 二 世 三 世 だ け で は な い 。 も う一 つ の コー ス が あ る。 そ れ は タ レ ン トに な っ て 知 名 度 を 上 げ て 立 候 補 す る こ とで あ る。 そ の こ と が 議 論 の姐 上 に 上 らな い の は な ぜ か 理 解 に 苦 しむ 。 ま た 同 じ知 事 で も タ レ ン ト出 身 とそ れ 以 外 で は メ デ ィ ア へ の 登 場 頻 度 が 圧 倒 的 に 異 な る 。 これ が 既 成 事 実 に な っ て い る メデ ィ ア 報 道 の あ り方 に も 問 題 が 存 在 す る。 公 平 に選 挙 を 実 施 す る こ と を考 え る な ら 、 タ レ ン ト と し て メ デ ィ ア に 登 場 し な くな っ て 一 定 の 期 間 が 必 要 と い う こ とに す るべ き だ とい う意 見 も あ る。 ま た タ レン ト出 身 の 政 治 家 な ら視 聴 率 が 取 れ る とい う こ とだ け で 、 登 場 回 数 が 飛 躍 的 に多 く な る の は 政 治 的 バ ラ ン ス を 取 る こ と に 逆 行 す る。 同 じ過 ち を繰 り返 さな い た め に は 、 メデ ィ ア を批 判 的 に 読 み 解 き 、 大 衆 迎 合 で は な く冷 静 な 視 点 で 、 長 期 的 な観 点 か ら今 日 に お け る政 策 判 断 を行 う必 要 が あ る。 以 下 、最 近 の 具 体 的 事 例 を 通 して メ デ ィ ア報 道 の 問 題 点 を 指 摘 して い き た い 。. 一22一.
(7) 近年 の メ デ ィア と政 治 ・犯 罪 報 道 の 問 題 点. 2.メ. デ ィア と足 利 事 件 報 道. まず 足 利 事 件 報 道 に っ い て 取 り上 げ た い 。2009年6月4日. 、 足利事 件 の. 真 犯 人 と され て 服 役 して い た 菅 家 利 和 さ ん が 、 無 罪 の 可 能 性 が 濃 厚 に な っ た と して 釈 放 され 、 同 月23日 と と も にDNA鑑. 東 京 高 裁 は 再 審 開 始 を 決 定 した 。 当 時 、 本 人 の 自供. 定 が 重 要 な 証 拠 と して 採 用 され 、 最 高 裁 で 無 期 懲 役 が 確 定 し. た 。無 罪 の 可 能 性 が 濃 厚 に な っ た の も制 度 の 向 上 したDNA鑑 す で に 逮 捕 され た1991年12月2日. か ら17年. 定 の 結 果 で あ る。. 半 が 経 過 して い た 。 本 人. の 立 場 に 立 つ と言 葉 で は言 い 表 せ な い 憤 り を含 む 複 雑 な 気 持 ち が あ っ た と推 察 され る 。 17年. 半 の 歳 月 が 失 わ れ た だ け で は な く、 犯 人 の レ ッテ ル を 貼 られ た 菅 家 さ. ん や 家 族 か ら多 くの も の を 奪 っ た 。 菅 家 さん は 記 者 会 見 で 検 察 や 警 察 を 「絶 対 に 許 せ な い 」 と語 り、 そ の 後 、 検 察 庁 や 栃 木 県 警 が 異 例 の 謝 罪 を 行 っ た こ と も 報 道 され た 。 栃 木 県 警 は 本 部 長 が 本 人 に 直 接 謝 罪 し 、 検 察 庁 も地 検 検 事 正 が 本 人 へ の 直 接 謝 罪 を 行 っ た。 こ う した 謝 罪 と と も に 、 冤 罪 の 再 発 防 止 の た め の 徹 底 し た 取 り組 み も必 要 で あ る。 足 利 事 件 の冤 罪 を生 み 出 した 背 景 ・原 因 を 明 確 に し な い 限 り、 同 様 の こ とは 再 発 す る。 そ れ らの 冤 罪 発 生 メ カ ニ ズ ム を 究 明 す る 取 り組 み を 強 力 に 推 し 進 め なけれ ば な らない。. ・犯 罪 報 道 の 犯 罪 性 そ して 菅 家 さん に 謝 罪 す る必 要 が あ る の は 、 検 察 や 警 察 だ け で は な い 。 当 時 の メ デ ィ ア報 道 に も 多 くの 問題 点 が あ っ た。 今 目、 メ デ ィ ア は 検 察 や 警 察 の 謝 罪 と冤 罪 の 真 相 究 明 の 必 要 性 を 声 高 に 述 べ て い る が 、 そ れ は メ デ ィ ア 報 道 に つ い て も い え る。 逮 捕 直 後 の 報 道 は 、 彼 を完 全 に 犯 人 と し て 扱 っ て い る だ け で な く、 犯 行 と結 び っ け る よ うな 「 私 生活 」 を 興 味 本 位 の 見 出 し と と も に 紹 介 して い る 。 -23一.
(8) 人権問題研究所紀要. こ こ で は 菅 家 さ ん 逮 捕 時 の メ デ ィ ア 報 道 の 極 一 部 を紹 介 し 、 「 犯 罪報 道 の犯 罪性 」 につ いて 考察 してお き たい。 メデ ィア企 業 に よって 、犯 罪報 道 に一 定 の 違 い が あ り、 当 時 に お い て も逮 捕 報 道 の あ り方 に 悩 む メ デ ィ ア も存 在 して い た が 、 問 題 報 道 も た く さ ん あ っ た 。 こ の 稿 で は 読 売 新 聞 報 道 を 素 材 に 検 証 して い く が 、 問 題 な の は読 売 新 聞 だ け で は な い 。 当 時 の 報 道 を理 解 し て い た だ くた め に 、 長 くな る が 逮 捕 当 日 と翌 日の 記 事 を 紹 介 して お き た い 。 起 訴 す ら され て い な い 段 階 の 記 事 で あ る。 ま ず 逮 捕 当 日の1991年12月2日. 読 売 新 聞 ・31面. の 見 出 しは 、 「LLミ. ク ロ"の 捜 査 一 年 半 」 「 幼 女 殺 害 、 容 疑 者 逮 捕 」 「一 筋 の 毛 髪 決 め 手 」 容 疑 者 ロ リ コ ン趣 味 の45歳. 「 菅家. 」 と の 見 出 しで 以 下 の よ うに 記 述 して い る 。. まず リー ド部 分 で 「容 疑 者 に 導 い た の は 一 筋 の 毛L/L栃. 木 県 足利 市の幼 女殺. 害 事 件 で 二 日未 明 、 同 市 内 の 元 運 転 手 、 菅 家 利 和 容 疑 者(45)が. 殺 人 、死 体. 遺 棄 の 疑 い で 足 利 署 に 逮 捕 さ れ た が 、 延 べ 四 万 人 の 捜 査 員 を 動 員 した ロ ー ラ ー 作 戦 と と も に``DNA捜. 査"が,四. 千 人 に 及 ぶ 変 質 者 リス トか ら容 疑 者 割 り出. しに つ な が っ た 。 週 末 の 「隠 れ 家 」 で ロ リ コ ン趣 味 に ひ た る 地 味 な 男 。 そ の 反 面 、 保 育 園 の ス ク ー ル バ ス 運 転 手 を 今 春 ま で 務 め る な ど 、"幼. 女 の 敵"は. 大胆. に もす ぐそ ば に潜 ん で い た 」 と紹 介 して い る。 「 『隠 れ 家 』 で ロ リ コ ン趣 味 に ひ た る地 味 な 男 」 と表 現 し、 彼 の 借 りて い る 自宅 が. 「 隠 れ 家 」 とな り、 後 に 紹 介 す る 翌3日. の新 聞 で 「雑 誌 類 を 含 め 、 ロ リ. コ ン趣 味 を 思 わ せ る 内 容 の も の は な か っ た 」 と否 定 され る 「ロ リ コ ン趣 味 」 と い う見 出 しを 、 逮 捕 当 目 に は 堂 々 と使 用 して い る。 「隠 れ 家 」 「ロ リコ ン 趣 味 」 と い う表 現 を使 う こ と を通 じて 、 読 者 を 誘 導 して い る と しか 考 え られ な い。. ・発 表 を 鵜 呑 み に し た 報 道 そ れ だ けで はない。 "幼 女 の 敵"は. 「 保 育 園 の ス ク ー ル バ ス 運 転 手 を 今 春 ま で 務 め る な ど、. 大 胆 に も す ぐそ ば に 潜 ん で い た 」 とい う 内容 に な り. 、 逮 捕 され. 一24一.
(9) ・.工i,ic.. 近 年 の メ デ ィ ア と政 治 ・犯 罪 報 道 の 問 題 点. た 段 階 で 「幼 女 の 敵 」 と して 、 犯 人 と断 定 され て い る 。 これ が 正 当 な 事 件 報 道 な の だ ろ うか 。 決 して そ うで は な い 。 す で に有 罪 が 確 定 した 真 犯 人 に 仕 立 て 上 げ られ て い る。. 「 推 定 無 罪 の 原 則 」 は な い に等 し く 、 「菅 家 容 疑 者 」 へ の 憎 悪. と不 審 を 掻 き 立 て て い る と しか 考 え られ な い 。 こ の 記 事 を 読 ん だ 読 者 は 、 間 違 い な く 当時 の 「菅 家 容 疑 者 」 へ の 憎 しみ を 増 幅 さ せ 、 真 犯 人 と断 定 す る は ず で あ る。 さ らに 本 文 で は 、 「事 件 発 生 か ら 四 か 月 が 過 ぎ た 昨 年 秋 、 つ い に 菅 家 容 疑 者 が 浮 か ん だ 。 ピー ク時 に は 四 千 人 に 達 し た 変 質 者 リス トを 基 に 、 一 人 一 人 の ア リバ イ を つ ぶ す とい う途 方 も な い 作 業 だ っ た 。 捜 査 本 部 は 、 こ の 後 一 年 を越 え る 内 定 で 、 菅 家 容 疑 者 の 毛 髪 を 入 手 。 真 美 ち ゃ ん の 遺 体 な ど に残 さ れ た 体 液 とDNA鑑. 定 を 依 頼 、 先 月 下 旬 、 つ い に 『他 人. で あ る確 立 は 千 人 に 一 人 で 、 ほ ぼ 同 一 人 物 と 断 定 で き る』 との 鑑 定 報 告 を 手 に 入 れた。 真 美 ち ゃ ん が 失 踪 した の は 昨 年5月12日. 午 後6時. 半 。 こ の 約16時. 間後 に. 遺 体 を発 見 、 比 較 的 新 しい 状 態 で 真 美 ち ゃ ん の 遺 体 か ら犯 人 の 体 液 を 採 取 し た こ とが 、 結 果 的 にDNA鑑 事 件 発 生 か ら約 ユ年7か. 定 の成 功 に結び っ いた。 月 。 動 員 され た 捜 査 員 は 一 日平 均 百 人 、 延 べ 四 万 人. を超 え て い た 。 『私 が や りま した …. 』 菅 家 容 疑 者 は 、 絞 り 出 す よ うな 声 で. 真 美 ち ゃ ん殺 し を 自供 し た。 午 前 中 、 取 調 官 が 事 件 に触 れ る と 、 ポ ロ リ と涙 を 流 した 。 『容 疑 者 に 聞 違 い な い 』 と取 調 官 は 感 じた。 だ が 、 菅 家 容 疑 者 が 事 件 につ い て 語 り始 め た の は 夜 十 時 近 く に な っ て か ら。 取 り調 べ は 一 目朝 か ら14時. 間 に も及 び 、 事 件 発 生 か ら一 年 半 に わ た る捜 査 が. よ うや く実 を 結 ん だ 瞬 聞 だ っ た 」 とい う記 事 に な っ て い る。. ・作 られ た 「迫 真 に 迫 る 自 供 」 記 事 完全 に捜 査 当局 の非公 式発 表 を鵜 呑 み に した報道 にな ってお り、 この記 事 を 一25一.
(10) 人権問題研 究所紀要. 信 じた 読 者 は 、彼 を 有 罪 と 断 定 す る の に何 の躊 躇 も な い とい え る。 「 絞 り出 す よ うな 声 で 真 美 ち ゃ ん 殺 しを 自供 した 」 、. 「 午 前 中、 取調官 が事. 件 に 触 れ る と 、 ポ ロ リ と涙 を流 した 」 、 「 『容 疑 者 に 間 違 い な い 』 と取 調 官 は 感 じた 」 とい っ た 表 現 は 、 彼 の 自供 が あ た か も真 実 で あ る か の よ うに 、 読 者 に 思 わ せ る の に 十 分 す ぎ る ほ ど の 脚 色 で あ る 。 も し私 が 裁 判 員 に な っ て 、 こ れ ら の記 事 を 疑 い な く信 じれ ば 、 彼 に 有 罪 を 言 い 渡 して しま うだ ろ う。 ま た 中 見 出 しに は 「sc週末 の 隠 れ 家"借. りる 」 と した 上 で 「二 十 代 半 ば に 結. 婚 した が す ぐ に離 婚 。 同 市 家 富 町 の 実 家 で 両 親 や 妹 と暮 ら し て い る が 、 十 数 年 前 『週 末 を ゆ っ く り過 ごす た め 』 と、 真 美 ち ゃ ん の 遺 体 発 見 現 場 か ら南 へ 約 二 ㌔ 離 れ た 同 市 福 居 町 に 、 六 畳 と四 畳 半 二 間 の 木 造 平 屋 一 戸 建 て を 借 りた 。 こ の 『週 末 の 隠 れ 家 』に は 少 女 を扱 っ た ア ダ ル トビデ オ や ポル ノ雑 誌 が あ る とい い 、 菅 家 容 疑 者 の 少 女 趣 味 を 満 た す ア ジ トとな っ た ら しい 。(後. 略)」. こ の 記 事 も 菅 家 さ ん を犯 人 扱 い し、 読 者 の 予 断 や 偏 見 を増 幅 す る役 割 を 担 っ て い る 。 「少 女 趣 味 を 満 た す ア ジ ト」 と りわ け 「ア ジ ト」 とい っ た 表 現 は 、 読 者 の 偏 見 を増 幅 し煽 る表 現 以 外 の 何 も の で も な い 。 翌 日12月3日. の 読 売 新 聞 社 説 は 「難 事 件 を 解 決 したDNA鑑. トル で 「(前 略)容. 定 」 との タ イ. 疑 者 は性 的 異 常 者 と 見 られ る が 、 自分 の欲 望 の た め に 、 罪. も な い 無 抵 抗 な 幼 女 を殺 害 す る 犯 行 は 、 憎 ん で も 余 り あ る 。(中. 略)今. 回の事. 件 で は 、 幼 女 の 衣 類 に残 され て い た 微 量 の 体 液 と 元 運 転 手 の 毛 髪 の 遺 伝 子DN A(デ. オ キ シ リボ 核 酸)が. 一 致 した こ と が 、 逮 捕 の 有 力 な キ メ 手 に な っ た 。. 人 の 細 胞 の 中 に あ るDNAは. 、 そ の配列 や構 造 が、 人 に よって違 い 、生涯 変. わ らな い 。 そ れ を 分 析 す る こ とで 、 個 人 を識 別 す る の がDNA鑑. 定だ。 従 来 の. 血 液 鑑 定 と併 用 す れ ば 、 百 万 人 の 中 の 一 人 を 特 定 で き る ほ ど精 度 が 高 い と 言 わ れ る(後. 略)」. と述 べ られ て い る。. タ イ トル か ら して 「難 事 件 を解 決 したDNA鑑 捕 まって. 定 」 とな っ て お り、 真 犯 人 が. 「 難 事 件 を 解 決 した 」 とな っ て い る 。 社 説 は そ の 社 を代 表 す る 主 張 で 一26一.
(11) 近 年 の メデ ィ ア と政 治 ・犯 罪 報 道 の 問題 点. あ る 。 そ の 社 説 にお い て す で に 犯 人 を 断 定 し て い る の で あ る。 さ ら に 「 容 疑者 は性 的 異 常 者 と見 られ る が 、 自分 の 欲 望 の た め に 、 罪 も な い 無 抵 抗 な幼 女 を 殺 害 す る犯 行 は 、 憎 ん で も余 りあ る」 と な っ て お り、 菅 家 さん は 「 性 的 異常者 」 に され て お り、 「 罪 も な い 無 抵 抗 な 幼 女 を殺 害 す る 犯 行 」 の 実 行 犯 に され て い る。 ま た 、DNA鑑. 定 につ い て も 「 従 来 の 血 液 鑑 定 と併 用 す れ ば 、 百 万 人 の 中 の. 一 人 を特 定 で き る ほ ど精 度 が 高 い 」 と記 述 され て お り. 、 菅 家 さん が 百 万 人 の 中. の 一 人 で あ る と述 べ て い る に 等 しい 。 しか し現 在 の 報 道 で は そ の よ うに な っ て い ない。. ・足 利 事 件 報 道 の 徹 底 し た 検 証 を こ う した 報 道 や 記 事 、 社 説 は 許 され る は ず も な い が 、 検 察 や 警 察 の 謝 罪 の 必 要 性 、 捜 査 の 問 題 点 は 声 高 に 述 べ て も、 読 売 新 聞 は 菅 家 さ ん に 謝 罪 も して い な い 。 メ デ ィア の 信 頼 を 大 き く損 な う行 為 とい っ て も言 い 過 ぎ で は な い だ ろ う。 こ こで 誤 解 が な い よ うに 付 け 加 え て お き た い が 、 筆 者 は 読 売 新 聞 の 多 く の真 摯 な 記 者 を 信 頼 して い る。 そ れ で も過 去 の メ デ ィ ア 報 道 に 目を つ む る こ と は許 され な い 。 メ デ ィ ア 自身 の 手 に よ る真 摯 な 検 証 が 求 め られ い る 。 一 定 の 検 証 が な され 、 検 証 記 事 が 紙 上 に 掲 載 さ れ た が 、 後 に 指 摘 す る よ うに 極 め て 不 十 分 な も の で あ る。 同 日の31面. には 「 犯 行 動 機 を供 述. で 「(前 略)調. 自宅 か ら ビデ オ な ど押 収 」 との 見 出 し. べ に よ る と、 犯 行 の 動 機 に っ い て 同 容 疑 者 は これ ま で 言 葉 を 濁. して い た が 、 この 日の 取 り調 べ で 『い た ず ら を し よ う と した 時 に 、 騒 が れ た ら 困 る と 思 い 殺 した 」 と供 述 した 。 一 方 、2日. 午 後 、同 市福居 町 の借 家 と同家富 町 の実 家 の二 か所 で家 宅捜 索が. 行 わ れ た 。 同 本 部 で は 借 家 か ら市 販 の ビデ オ テ ー プ と レー ザ ー デ ィス ク 計22 1本 、 ポ ル ノ雑 誌 十 数 冊 と犯 行 の 際 、 菅 家 容 疑 者 が 乗 っ て い た 自転 車 な ど を 押 一27一.
(12) 人権問題研 究所紀 要. 収 した 。 ビデ オ 類 の 七 割 は 成 人 向 け だ っ た が 、 雑 誌 類 を 含 め 、 ロ リ コ ン 趣 味 を 思 わせ る 内 容 の も の は な か っ た 」 とな っ て い る。 以 上 の 報 道 が 読 者 だ け で な く、捜 査 当 局 の 捜 査 に も大 き な影 響 を 与 え て い る。 捜 査 機 関 の 発 表 に ほ と ん ど を 依 拠 した 「発 表 報 道 」 が メ デ ィ ア を 席 巻 し、 「犯 人 」 と さ れ た 人 へ の 憎 悪 を か き 立 て る過 剰 報 道 が 展 開 され 、 過 激 な 世 論 が 醸 成 され た 。 そ れ ら の メデ ィ ア 報 道 が 捜 査 機 関 の 強 引 な捜 査 を可 能 に し、 捜 査 担 当 者 の確 信 を 深 め させ 、 冷 静 な 捜 査 や 証 拠 の 検 証 を 遠 ざ け る こ と に な る場 合 が 多 い 。 そ う し た 事 態 は 冤 罪 の 可 能 性 を 追 求 させ る こ と を 忘 れ させ 、 「 犯 人 」が 強 引 に作 られ て い く こ と に な る 。 こ う した こ と を 防 ぐた め に も 、 冤 罪 発 生 の 原 因 究 明 と と も に 足 利 事 件 報 道 の 検 証 を 徹 底 して 行 う必 要 が あ る。. 「忘 れ や す い 大 衆 」 を 前 に 「 忘 れや す い メデ. ィア 」 に な っ て は い け な い の で あ る。. 3.不. 十分 な 足 利事 件 報 道 の 検 証. ・未 だ 菅 家 さん に対 す る 謝 罪 は な い 足利 事件 の再 審 が始 ま った が 、 メデ ィア各社 の 当時の報 道 に対 す る検証 は、 未 だ不 十分 だ と指 摘せ ざ るを得 ない。 6月27目. 付 け読 売新 聞 に 『足 利事 件本 紙報 道 を検 証』 との見 出 しで 、検証. した記 事 が掲載 され て い たが 、極 め てあ まい検 証 で あ る。 少 な くとも逮捕 翌 目 の1991年12月3日. に掲載 され た社説 の検 証 が全 くな され て い ない。 先 に. 指 摘 した よ うに、社 説 は 『難事 件 を解 決 したDNA鑑. 定』 との タイ トル で 『事. 件解 決』 にな って い る と ともに、 『容 疑者 は性 的異 常者 と見 られ る』 な どの記 述 も存在 す る。 これ は明確 な新 聞社 に よ る人 権侵 害 で あ り、メデ ィア企 業 の報道 には 「 推定 無罪 の原則 」 が ない に等 しい とい うこ とを顕 著 に示 した事 例 で あ る。 読 売新 聞東 京本 社 は 、今 も上 記 に指摘 した社 説 が正 しい と考 えてい るの だ ろ 一28一.
(13) 近 年 の メデ ィ ア と政 治 ・犯 罪 報 道 の 問 題 点. うか 。 も し誤 りが あ っ た と認 識 して い る な ら 、 な ぜ 謝 罪 しな い の だ ろ うか。1 8年 近 く経 っ て い る 記 事 だ か ら読 者 は す で に 忘 れ て い る と考 え て い る の だ ろ う か。 新 聞 社 が 読 者 に 提 供 して い る サ ー ビ ス は 「情 報 」 で あ り、 そ れ で 民 間 商 業 メ デ ィ ア と して の 利 益 を得 て い る。 近 年 の 企 業 不 祥 事 で 最 も注 目 を 集 め て い る 一 つ は 、 「製 品 ・サ ー ビ ス の 安 全 性 」 で あ る 。 新 聞 社 を は じ め とす る メ デ ィ ア 企 業 に と っ て 、. 「 情 報 サー ビスの. 安 全 性 」 の 重 要 な 一 っ は 「情 報 の 正 確 性 」 で あ る 。 そ の 正 確 性 に お い て 、 決 定 的 な 過 ち を犯 して い る に もか か わ らず 、 訂 正 も しな けれ ば 謝 罪 も しな い 。 例 え て い うな ら 「食 の 安 全 」 を犯 した 食 品 企 業 が 、 欠 陥 商 品 や 食 品 偽 装 も認 めず 、 記 者 会 見 も せ ず 、 謝 罪 も しな い の と同 じで あ る。 も し これ が メデ ィ ア 企 業 で は な く、 製 品 ・サ ー ビス を 提 供 して い る 一 般 企 業 で あ る な ら メ デ ィ ア に よ る集 団 過 熱 報 道 の 嵐 に な っ て い た だ ろ うこ と は 容 易 に 想 像 が つ く。 これ で は メ デ ィ ア の 特 権 の 中 で 、 自 らに あ ま い 体 質 を 露 呈 す る こ と に な り、 メデ ィ ア 企 業 の 信 頼 性 は益 々 低 下 す る。. ・な ぜ. 「難 事 件 を 解 決 した 」 と な っ た の か. これ ら に 関 して どの メ デ ィ ア 企 業 も他 の メデ ィ ア 企 業 を 批 判 しな い 。 「談 合 体 質 」 、 「メ デ ィ ア ・カ ル テ ル 」 と言 っ て も過 言 で は な い 。 新 聞社 に とって 「 社 説 」 と は 、 日々 生 起 す る 政 治 、 経 済 、 社 会 な どの 問 題 に 対 して 、 新 聞 社 の 責 任 に お い て 、 そ の 問 題 の 正 否 を 論 じた り、解 説 した りす る た め に 紙 上 に 掲 げ る意 見 ・主 張 で あ る。 ま さ に新 聞 社 に と っ て 最 重 要 紙 面 で あ る 。 そ の紙 面 の 誤 りも 訂 正 で き な い の は な ぜ な の だ ろ うか 。 一 つ だ け考 え られ る の は 、 新 聞 社 は 今 も 社 説 の誤 り を認 識 し て い な い と推 測 され る こ と だ け で あ る。 しか し どの よ うに 考 え て も 、 社 説 に は 否 定 で き な い 過 ち が 含 ま れ て い る 。 す 一29一.
(14) 9胤L壌. 人権問題研 究所 紀要. で に 先 に 引 用 した 内容 に も あ る よ うに 「難 事 件 を 解 決 したDNA鑑. 定 」 との タ. イ トル で あ る 。 「難 事 件 の 解 決 」 とは 真 犯 人 が 見 っ か っ て 、 事 件 は 解 決 した と 決 め 付 け て い る表 現 以 外 の 何 も の で も な い 。 逮 捕 二 日 目 の こ の 時 点 で 、 す で に 犯 人 は菅 家 さん に 断 定 され て い る 。 少 な く と も 読 者 は 間 違 い な くそ の よ うに 読 み 取 り理 解 す る。 読 売 新 聞 社 は そ の よ う に 考 え て い な い の だ ろ うか 。 も し誤 り で あ っ た と認 識 して い る な ら、 な ぜ 菅 家 さ ん を犯 人 と決 め付 け る よ うな 過 ち を 犯 した の か 、 そ の背 景 原 因 を 明 らか にす べ き で あ ろ う。 さらに 「 容 疑 者 は性 的 異 常 者 と見 られ る 」 との 内 容 が 今 も正 し い と認 識 して い る の だ ろ うか 。未 だ 訂 正 も謝 罪 も な され て い な い 。 何 を 根 拠 に 「 性 的異 常者 」 と い う表 現 に な っ た の だ ろ うか 、 そ の 背 景 原 因 も 明 ら か にす べ き で は な か ろ う か。 2009年6月27日 『ロ リ コ ン 趣 味 の45歳. の 検 証 記 事 で は 、「 逮 捕 を 伝 え る2日 朝 刊 社 会 面 で は 、 』 の 見 出 しで 、菅 家 さん が 週 末 を 過 ご して い た 借 家 に つ. い て 『少 女 を扱 っ た ア ダ ル トビデ オ や ポ ル ノ 雑 誌 が あ る と い い 、 少 女 趣 味 を満 た す ア ジ トに な っ た ら しい 』 と の 記 事 を 掲 載 し た。 記 事 は 、 県 警 担 当 の 記 者 が 菅 家 さ ん 逮 捕 の 約1週. 間 前 、 県 警 幹 部 か らの 取 材. を した 情 報 が も とに な っ て い た 。 別 の 複 数 の 捜 査 幹 部 か ら も 『逮 捕 で き る だ け の 直 接 証 拠 で は な い が 、 状 況 証 拠 の 一 っ だ 』 と の 感 触 を得 て い た こ とか ら、 菅 家 さ ん の 逮 捕 直 後 に 記 事 に した 。 しか し、 捜 査 で 少 女 を 扱 っ た ア ダ ル トビデ オ な ど は 発 見 され な か っ た 。 こ の た め 、 翌3日. の朝 刊 社 会 面 の記 事 で 『ロ リ コ ン 趣 味 を 思 わ せ る 内 容 の も の は な. か っ た 』 と修 正 した が 、 菅 家 さん に っ い て の 予 断 や 偏 見 を 読 者 に 与 え た 可 能 性 はあ る」 とな ってい る。 捜 査 関 係 者 の 誰 が 、非 公 式 に 菅 家 さ ん が 「 性 的 異 常 者 」と流 した の だ ろ うか 。 ニ ュー ス ソー ス の 秘 匿 原 則 が あ っ て も 、 新 聞 社 と し て は 独 自 に 情 報 を も た ら し た 捜 査 関係 者 に検 証 す べ き で は な い だ ろ うか 。 一30一.
(15) 近 年 の メ デ ィア と政 治 ・犯 罪 報 道 の 問 題 点. ・ リー ク 情 報 が 紙 面 を 踊 っ て い な い か こ の 検 証 記 事 も極 め て あ ま い 。 同 じ新 聞 で 同 じ 日に 、 一 方 で は 「ロ リ コ ン趣 味 を 思 わ せ る 内 容 の も の は な か っ た 」 と記 事 に し、 も う一 方 で は社 説 で 「 性的 異 常 者 と見 られ る 」 と書 い て い る。なぜ な の だ ろ うか 、明 確 に す べ き で あ ろ う。 少 な く と も社 説 は 新 聞 社 を代 表 す る 記 事 で あ る。 読 者 は ど ち ら を信 じる と考 え て い る の だ ろ うか 。 社 説 を 担 当す る論 説 委 員 は 、 高 度 な 識 見 と知 識 を 持 っ て い る と考 え て い る 私 た ち の 方 に 、 勝 手 な 思 い 込 み が あ る の だ ろ うか 。 検 証 記 事 は 「県 警 幹 部 か ら取 材 を した 情 報 が も と」. 「 別 の複 数 の捜 査幹 部 か. ら も」 情 報 を 得 て い た と記 して い る が 、 あ た か も 「県 警 幹 部 」 や 「捜 査 幹 部 」 に 責 任 が あ っ て 、 報 道 した 新 聞社 の 責 任 は 半 減 され る よ うな 表 現 で あ る。 これ らの 情 報 は全 て 公 式 発 表 で は な い 。 い わ ゆ る秘 密 の 情 報 が 漏 れ た 「リー ク 」 と 呼 ばれ る 「 非 公 式 情 報 」 で あ る。 こ の よ うな 体 質 で あれ ば 、 捜 査 機 関 の 情 報 操 作 を 容 易 に受 け る とい う こ と を新 聞 社 自 らが 認 め て い る こ と に な ら な い の だ ろ うか。 な ぜ リー ク情 報 を そ の ま ま 報 道 した の か 明 らか に す べ き で あ る。 捜 査 機 関が. 「 公 式発 表 」 と 「 非 公 式 発 表 」 を 巧 み に 使 い 分 け て 情 報 操 作 し、 そ れ を 新. 聞 社 が 無 批 判 に 受 け 入 れ て い る と しか 考 え られ な い 。 先に 「 政 治 とメ デ ィ ア が 連 携 す れ ば 、 ど ん な 文 化 の 国 も た ち ま ち野 蛮 の 国 だ 」 とい うエ ル ン ス ト ・プ ロ ッ ホ の 言 葉 を 紹 介 した が 、 足 利 事 件 の 報 道 は 「司 法 と メ デ ィ ア が 連 携 す れ ば 、 ど ん な 無 実 の 人 も た ち ま ち 凶 悪 犯 だ 」 、 「捜 査 機 関 と メ デ ィ ア が 連 携 す れ ば 、 ど ん な 無 実 の 人 も た ち ま ち 凶 悪 犯 だ 」 とい うこ と に な っ て しま う。 こ の よ うな 報 道 は 先 に も紹 介 した よ うに 他 に も あ る。 逮 捕 当 日 の記 事 に は 「『私 が や りま した …. 』 菅 家 容 疑 者 は 、 絞 り出 す よ. うな 声 で 真 美 ち ゃ ん 殺 しを 自供 した 。 午 前 中 、 取 調 官 が 事 件 に 触 れ る と、 ポ ロ リ と涙 を 流 した。 『容 疑 者 に 間 違 い な い 』 と取 調 官 は感 じた 。 一31一.
(16) 人権 問題研 究所紀 要. だ が 、 菅 家 容 疑 者 が 事 件 に つ い て 語 り始 め た の は 夜 十 時 近 く に な っ て か ら。 取 り調 べ は1日. 朝 か ら14時. 間 に も及 び 、 事 件 発 生 か ら一 年 半 に わ た る捜 査 が. よ うや く実 を 結 ん だ 瞬 間 だ っ た 」 とい う記 事 に な っ て い る。 完 全 に捜 査 当 局 の リー ク を鵜 呑 み に した 報 道 に な っ て お り、 この 記 事 を 信 じ た 読 者 は 、彼 を 有 罪 と断 定 す る の に何 の躊 躇 も な い だ ろ う。. ・第 三 者 機 関 に よ る 真 摯 な 検 証 を 「 絞 り出 す よ うな 声 で 真 美 ち ゃ ん 殺 しを 自供 した 」 、 「午 前 中 、 取 調 官 が 事 件 に 触 れ る と 、 ポ ロ リ と涙 を流 した 」 、 「 『容 疑 者 に 間 違 い な い 』 と取 調 官 は 感 じ た 」 とい っ た 表 現 は 、 彼 の 自 供 が あ た か も真 実 で あ る か の よ うに 描 い て い る。 十 分 す ぎ る ほ ど の 脚 色 で あ る。 これ ら の 表 現 は 検 証 記 事 で は 全 く取 り上 げ られ て い な い 。 この 程 度 の 検 証 記 事 で は 日本 を 代 表 す る新 聞 メ デ ィ ア の 検 証 と は い え な い 。 そ れ と も市 民 の 側 に 新 聞 メデ ィ ア に 対 す る 過 剰 な 幻 想 が あ る の だ ろ うか。 ま た 、 こ の 検 証 記 事 で は 「『ロ リコ ン趣 味 を 思 わ せ る 内容 の もの は な か っ た 』 と修 正 した 」 とな っ て い る が 、 前 日は 「ロ リ コ ン趣 味 の45歳. 」と 「 大 きな見 出. し」 で 記 載 し、 修 正 は 付 け 足 しの よ うに 記 事 の 中 に 潜 り込 ま せ る の は 正 当 な 修 正 な の だ ろ うか 。 決 して そ うで は な い 。 検 証 記 事 で も 「菅 家 さ ん に つ い て の 予 断 や 偏 見 を 読 者 に 与 え た 可 能 性 は あ る 」 と な っ て い る が 、 多 くの 読 者 は 見 出 し しか 見 て い な い 場 合 の 方 が 多 い 。 検 証 と い う限 り、 読 者 の 立 場 に 立 っ た 検 証 が 求 め られ て い る とい え る。. 「見 出 し」 と. 「小 さな 文 字 」 の 記 事 で は 全 く違 う こ と を検 証 で も 明 確 に す べ き で あ る 。 そ れ だ け で は な い 。 こ の 検 証 記 事 に は 、 先 に も指 摘 した よ うに 「社 説 」 の 検 証 が な され て い な い 。 新 聞 社 も行 政 機 関 の 悪 弊 の よ うに 縦 割 りだ とい う こ と に な っ て し ま う。 さ ら に検 証 記 事 で は 「 菅 家 さ ん が 週 末 を過 ご して い た借 家 」 とい う表 現 に な 一32一.
(17) 近 年 の メ デ ィ ア と政 治 ・犯 罪 報 道 の 問 題 点. っ て い る が 、逮 捕 当 日の 記 事 で は 、 そ の 借 家 が 大 き な 見 出 しで 「 週 末 の隠れ 家」 とな り、 「菅 家 容 疑 者 の 少 女 趣 味 を 満 た す ア ジ トと な っ た ら しい 」 と記 され 、 「借 家 」 が 「隠 れ 家 」. 「ア ジ ト」 と い う表 現 に な っ て い る 。 これ ら も検 証 され. てい ない。 ま た 社 説 は 「従 来 の 血 液 鑑 定 と併 用 す れ ば 、 百 万 人 の 中 の 一 人 を特 定 で き る ほ ど精 度 が 高 い 」 と述 べ て い る 。社 説 の 中 で 述 べ られ れ ば 、多 く の 読 者 は 、 「 菅 家 さ ん が 百 万 人 の 中 の 一 人 で あ る 」 と誤 解 す る の も 当 然 で あ る 。 社 説 で 「今 回 の よ うに 超 微 量 で 完 全 な 検 査 が 困難 な 場 合 に は 、識 別 確 率 が 落 ち る こ と も あ る 」 と付 け 加 え て も問 題 は 残 る と い わ ざ る を得 な い 。 少 な く と も メ デ ィ ア 企 業 が 、 多 く の 不 祥 事 企 業 に 求 め る よ う に 第 三 者 機 関 に よ る真 摯 な 検 証 をす る 必 要 が あ る と い え る。. 4.メ. デ ィ ア と政 治. ・ 「バ ン キ シ ャ1」. ・人 権 報 道. の虚 偽証 言報 道. 次 ぎ に 日本 テ レ ビの 看 板 番 組. 「 真 相 報 道 バ ン キ シ ャ!」. の虚 偽証 言報 道 にっ. い て 考 察 して い き た い 。 問 題 が 大 き く報 道 され た こ と も あ っ て 、 テ レ ビ メデ ィ ア の 報 道 に つ い て 、 強 い 関 心 が 市 民 の 問 に 広 が っ て い る。 こ の 問 題 に 関 して も 先 に 指 摘 した こ とが 多 く の 点 で あ て は ま る。 「バ ン キ シ ャ 」 問題 を 承 知 して い な い 方 もい る の で 、 ま ず は じめ に そ の 内 容 を要 約 的 に 紹 介 して お き た い 。 問 題 の 発 端 は 、2008年11月23日. の 「バ ン キ シ ャ 」 報 道 で あ る 。 顔 に. モ ザ イ ク を か け た 匿 名 の 証 言 者 が 「岐 阜 県 の 土 木 事 務 所 で は 今 も裏 金 づ く り を して い る 」 「架 空 の 工 事 を受 注 し た よ う に 見 せ か け て 、 県 庁 の職 員 に200万 円 の 裏 金 を振 り込 ん だ 」 と虚 偽 の 証 言 を 報 道 した こ と で あ る 。 同 月25日. には. 系 列 局 の 中京 テ レ ビが こ の 内 容 を も と に 、 県 議 会 が 県 に 質 問 す る との ニ ュー ス も放 送 され た 。 -33一.
(18) 人権問題研 究所紀 要. 岐 阜 県 で は2006年. に 総 額17億. 円 に 上 る裏 金 の 存 在 が 発 覚 して い た こ と. も あ っ て 、 重 大 な 問 題 と受 け 止 め 、 大 規 模 な 調 査 が 行 わ れ た。 放 送 直 後 か ら約 二 ヵ 月 か け て 県 内11の 2008年. 土 木 事 務 所 の 職 員 ら約380人. 度 分 を 中 心 に計955件. か ら事 情 聴 取 した ほ か 、. の 工 事 契 約 内 容 を 再 点 検 し 「裏 金 の事 実 は. 確 認 で き な い 」 との 結 論 に 達 した 。 そ れ らの 調 査 を ふ ま え て 、2009年2月18日. に 岐 阜 県 は 、 日テ レ側 に 「 調. 査 した が 裏 金 の 存 在 が 確 認 で き な い 」 と して 、 文 書 で 「 バ ンキ シャ」 報道 の検 証 を 要 請 し、 翌 日、 虚 偽 の 証 言 で 業 務 を妨 げ られ た と し て 、 偽 計 業 務 妨 害 容 疑 で 証 言 者 を岐 阜 県 警 に 告 訴 した の で あ る。 そ の 後 、 日本 テ レ ビ が 証 言 者 に 再 取 材 を した と こ ろ 「裏 金 を 送 金 した 事 実 は な い 」 と証 言 を翻 した た め報 道 内 容 が 虚 偽 で あ っ た こ とが 判 明 し た 。 日テ レ は 同年2月27日. 、 岐 阜 県 庁 に 対 して 報 道 に 誤 りが あ っ た と釈 明 、3月1日. には. 番 組 内 で 経 緯 を説 明 し 、 取 材 の根 拠 と して い た 証 言 が 虚 偽 だ っ た と陳 謝 した 上 で 、3月5目. に 足 立 久 男 報 道 局 長 らが 、 古 田 肇 知 事 に 「取 材 の 詰 め が あ ま か っ. た 」 と陳 謝 した の で あ る。. r放 送 倫 理 検 証 委 員 会 が 審 理 を 決 定 証 言 者 は 別 の 詐 欺 容 疑 で そ れ ま で に 逮 捕 さ れ て い た が 、 こ の 問題 に よ っ て3 月9日. に偽 計 業 務 妨 害 容 疑 で も逮 捕 され た 。 テ レ ビ で の 偽 証 言 が も とで 偽 計 業. 務 妨 害 容 疑 で 逮 捕 され た と い うの も異 例 の こ とで あ る。 こ うした一連 の事 態 を受 け、 「 放 送 倫 理 ・番 組 向 上 機 構(BPO)」 倫 理 検 証 委 員 会 が 同 番 組 の 審 理 を決 定 し、16日. の放送. に は 日テ レ の 久 保 伸 太 郎 社 長. が 辞 任 した 。 以 上 が 「バ ン キ シ ャ」 問 題 の 経 過 で あ る。 他 社 の 報 道 で も 「な ぜ 裏 付 け 取 材 を しな か っ た の か 」 等 々 の 内 容 が 報 道 され て い た 。 産 経 新 聞 報 道 で は 、 「日本 テ レ ビ総 合 広 報 部 は 『取 材 の 詳 細 に つ い て は 申 し 一34一.
(19) 近 年 の メデ ィ ア と政 治 ・犯 罪 報 道 の 問題 点. 上 げ られ な い 』 と しな が ら も 、 『金 の 流 れ に つ い て さ ま ざ ま な 人 間 が 検 討 し、 提 示 され た 証 拠 に も整 合 性 が あ る と判 断 した 』と放 送 に 至 っ た 経 緯 を 説 明 す る 」 と し た 上 で 、 「実 際 、 証 言 と事 実 関係 に は"矛 盾"が て 証 言 の 信 愚(し. あ り、 裏 付 け 取 材 に よ っ. ん ぴ ょ う)性 を 疑 う こ と は 可 能 とい え た 」 、. 空 工 事 で つ く っ た 裏 金 に つ い て 、 『(昨 年)11月5日 00万. か ら1000万. した 工 事 は18年. 「 蒲 容疑 者 は架. に送 金 した 』 『年 間5. 』 な ど と証 言 し て い た が 、 蒲 容 疑 者 の 会 社 が 県 か ら受 注 度 と19年. 度 に 一 件 ず っ で 、20年. 度 は一件 もな かった のだ」. と報 道 して い る。. ・偽 証 言 者 が 出 演 し た 他 局 報 道 に 問 題 は な い か こ の 産 経 新 聞 報 道 を は じ め とす る他 社 の 報 道 を 見 る 限 り、 日テ レは 「 金 の流 れ につ い て どの よ うに 検 証 した の か 」 のか」. 「 提 示 され た 証 拠 を どの よ うに 検 証 した. 「な ぜ 証 拠 に 整 合 性 が あ る と認 識 した の か 」 、 質 問 した い こ とが 多 数 に. 上 る。 本 稿 で は 誌 面 の 関 係 で メ デ ィ ア 報 道 で あ ま り取 り上 げ られ て い な い 観 点 や 疑 問 点 等 の 一 部 だ け を述 べ る に止 め た い 。 ま ず 蒲 容 疑 者 は 過 去 に も他 局 の 報 道 番 組 に 数 回 出 演 し、 出 演 料 な ど の 名 目で 数 千 円 か ら2万. 円 の 現 金 を 得 て い た と報 道 され て い た 。. 金 銭授 受 の問題 は さてお き、他 局 の報 道番 組 で の蒲容 疑者 の 証言 が事 実 であ っ た の か ど うか と い う点 で あ る。 そ れ らの 検 証 の 必 要 性 は 、 私 の 知 る 限 りメ デ ィ ア 報 道 で 指 摘 され て い な い が 、 重 要 な 問 題 だ と考 え る。 も し他 局 の 報 道 番 組 で も蒲 容 疑 者 が 偽 証 言 を して い た とす れ ば 、. 「 バ ンキシ. ャ」 問 題 と同 様 に極 め て 重 大 な 問 題 で あ る。 す で に そ れ ら の 局 は 蒲 容 疑 者 を 出 演 させ た こ と を把 握 し て い た こ とは 間 違 い な く 、 自局 で 十 分 な 調 査 ・検 証 を 行 う必 要 が あ っ た 。他 局 で も蒲 容 疑 者 が 匿 名 ・ モ ザ イ ク で 出 て い た 場 合 、 ニ ュ ー ス ソー ス の 秘 匿 と の 関 係 が 出 て く る が 、 証 言 一35一.
(20) 人権闘題研 究所 紀要. の真 偽 に 関 して 明 確 な 対 応 が 必 要 で あ っ た 。 ニ ュ ー ス ソー ス 秘 匿 の原 則 が 、 偽 証 言 を擁 護 す る こ とに つ な が る よ うな 印 象 を 与 え れ ば メ デ ィ ア 報 道 全 般 に 計 り 知 れ な い 悪 影 響 を 与 え る。 少 な く と も蒲 容 疑 者 を 出 演 させ た テ レ ビ局 は 、 ニ ュ ー ス ソー ス 秘 匿 の原 則 を 遵 守 しつ つ 証 言 内 容 の 真 偽 を 明 ら か にす る責 任 が あ っ た。 も し偽 証 言 で あ っ た な ら、 「バ ン キ シ ャ 」 問題 が 明 ら か に な っ て い な けれ ば 、 そ れ が 問 題 に な る こ と もな く、 歴 史 の 中 に 埋 もれ て し ま っ て い た こ と に な り、 重 大 な 禍 根 を残 す こ と に な る。 ま た 、 放 送 倫 理 検 証 委 員 会 に お い て も 、 偽 証 言 報 道 問題 の 重 要 性 を 認 識 して 「バ ン キ シ ャ 」 問 題 の 審 理 を 決 定 した こ と を ふ ま え 、 他 局 の 蒲 容 疑 者 出演 の 審 理 も付 随 的 で あ っ て も行 う必 要 が あ っ た と考 え る が 、 実 際 に は 十 分 に な され な か った。. ・取 材 者 側 に 予 断 や 偏 見 は な か っ た か も し岐 阜 県 に2006年. の 裏 金 問 題 が な け れ ば 、 「バ ン キ シ ャ 」 報 道 を 受 け. て 大 規 模 な 調 査 を 行 っ て い な い 可 能 性 も あ り、 疑 惑 だ け が 残 っ た こ と に な っ て い た 可 能 性 も あ る 。 多 く の 組 織 ・機 関 は 日 々 垂 れ 流 され る報 道 に 逐 一 対 応 す る こ とは で き な い。 も し岐 阜 県 が 十 分 な 対 応 を 取 る こ と が で き て い な け れ ば 、 岐 阜 県 庁 へ の マ イ ナ ス イ メ ー ジ は 大 き く助 長 され た とい え る。 日本 を 代 表 す る メ デ ィ ア 企 業 で 、 こ の よ うな お 粗 末 な 裏 付 け 取 材 しか 行 わ れ て い な か っ た こ と を 明 確 に した 事 件 で も あ っ た 。 も う一 つ 指 摘 し て お き た い の は 、報 道 で は ほ とん ど取 り上 げ られ て い な い が 、 取 材 ・制 作 者 側 の 予 断 や 偏 見 、 不 当 な 一 般 化 とい っ た観 念 が 存 在 し て い な か っ た か とい う こ と と、 テ レ ビ局 を 取 り巻 く経 済 ・経 営 状 況 の 問 題 で あ る 。 公 務 員 へ の 予 断 や 偏 見 が 取 材 す る側 に な か っ た か とい う こ とで あ る 。200 一36一.
(21) 近 年 の メ デ ィ ア と政 治 ・犯 罪 報 道 の 問 題 点. 6年 の 裏 金 問題 を 不 当 に 一 般 化 し、 今 で も同 様 の こ とが 行 わ れ て い る の で は な い か とい っ た 観 念 が 、 制 作 者 側 の 思 い 込 み を形 成 し 、 思 い 込 み が 予 断 を持 っ て 取 材 す る こ と に つ な が り、 そ の 結 果 と し て 裏 付 け 取 材 が 不 十 分 に な っ た の で は な い か と考 え られ る。 ま た そ れ ら の 思 い 込 み や 予 断 ・偏 見 が 経 済 的 圧 力 と重 な る と き 、 お 金 を か け て 十 分 な 取 材 を す る こ と を敬 遠 させ た と も い え る。 時 間 とお 金 を か け れ ば 十 分 な 取 材 が で き た に も か か わ らず 、 こ れ ら 「時 」 と 「財 」 の 二 つ の 壁 と思 い 込 み が 、 拙 速 な裏 付 け取 材 や 提 示 され た 証 拠 検 討 の あ ま さ に つ な が っ て い っ た の で は な い だ ろ うか 。 さ ら に 経 済 的 圧 力 は 、 これ ま で の メ デ ィ ア 報 道 に よ っ て 、 関 心 が 高 ま っ て い る公 務 員 不 祥 事 な ど の 視 聴 率 の 取 りや す い 「特 ダ ネ 」 報 道 を 追 い 求 め る こ と に つ な が り、 「格 好 」の 情 報 提 供 者 に 容 易 に乗 せ られ た と考 え られ る。そ の 結 果 、 多 くの 視 聴 者 は 岐 阜 県 庁 へ の 偏 見 を 強 め 、 公 務 員 一 般 へ の 思 い 込 み や 予 断 を 強 めて しまった。. ・テ レ ビ報 道 の 信 頼 性 を 著 し く 損 ね た しか し今 回 の 偽 証 言 問 題 の発 覚 に よ っ て 、 逆 に メデ ィ ア へ の 思 い 込 み や 予 断 が 強 ま り、 メ デ ィ ア 報 道 の 信 頼 性 を 著 し く損 ね た と い え る 。 これ ら の 信 頼 の 低 下 は メ デ ィ ア へ の 各 種 圧 力 を 一 層 大 き くす る。 今 日の メ デ ィ ア に は政 治 ・経 済 ・社 会 の 三 つ の圧 力 が 存 在 し て い る。 今 回 の 偽 証 言 問 題 は 社 会 的(視. 聴 者)圧. 力 を さ ら に 強 め 、 そ れ らの 圧 力 が 政 治 的圧 力. に つ な が り、 信 頼 度 が 低 下 す る こ と に よ っ て テ レ ビ離 れ が 進 行 し、 経 済 的 圧 力 が 一 層 強 ま る こ と に な る。これ らの 三 っ の圧 力 が 複 合 的 に 強 ま る こ と に よ っ て 、 メデ ィ ア 企 業 が 目指 す べ き方 向性 を 間 違 え ば 、 歴 史 が 証 明 して い る よ うに 日本 社 会 を 誤 っ た 方 向 に ミス リー ドす る こ と に つ な が る。 今 ひ とつ 偽 証 言 問題 で 付 け 加 え て お き た い の は 「客 観 報 道 主 義 」 の 問 題 で あ 一37一.
(22) 人権問題研究所紀要. る。 「客 観 報 道 主 義 」 とい う名 の も と に 、官 公 庁 等 の発 表 情 報 を 流 し て お れ ば 、 そ の 報 道 に 間 違 い が あ っ て も 、 責 任 は発 表 し た 官 公 庁 等 に あ る と考 え て い る メ デ ィ ア 関 係 者 が 多 い とい う点 で あ る 。 偽 証 言 問 題 へ の 日テ レへ の 初 期 の 対 応 を 見 て い て 、 こ の 「客 観 報 道 主 義 」 に も似 た 対 応 を感 じた 。 問 題 な の は 偽 証 言 者 で 自分 た ち も騙 され た 被 害 者 と言 い た げ な 対 応 で あ る 。 言 うま で も な く こ れ は 根 本 的 な 誤 りで あ る 。 これ を機 会 に 「客 観 報 道 主 義 」 の 内 容 を 検 証 し、 経 済 的 問題 が あ っ て も調 査 報 道 の 充 実 を 考 え る べ き で あ る。 そ う しな け れ ば メデ ィ ア 企 業 が 権 力 機 関 に よ る 情 報 操 作 の 手 先 に な っ て しま う。 以 下 に分 析 す る2009年. 、2010年. の 民 主 党 小 沢 代 表(当. 時)公. 設第一. 秘 書 等 の 逮 捕 以 後 の 報 道 を 検 証 して い て 、 以 上 の よ うな 危 惧 を 抱 か ざ る を 得 な い。. 5.捜. 査 機 関 とメ デ ィア の 集 団過 熱 報 道. ・逮 捕 が 過 熱 報 道 の 分 岐 点 2009年3月3日. 、 民 主 党 小 沢 一 郎 代 表 の 公 設 第1秘. 書 が 、政 治資金 規 正. 法 違 反 容 疑 で 逮 捕 され た 。 そ の 逮 捕 を 契 機 に メ デ ィ ア に よ る洪 水 の よ うな 集 団 過 熱 報 道 が 始 ま っ た 。 ま さ に 逮 捕 され る か 否 か が 、 過 熱 報 道 の 堰 を切 る こ とに な る の か ど うか の 分 岐 点 と な っ て お り、 政 治 的 に は最 も 大 き な 意 味 を 持 つ 。 こ の 稿 で は逮 捕 以 降 の メ デ ィ ア 報 道 の あ り方 を 中 心 に 検 証 す る こ と に した い 。 2010年. 年 明 け か ら新 た な 捜 査 が 着 手 され て い る が 、2009年. 事件 の内. 容 を あ ら た め て 簡 潔 に 紹 介 して お き た い 。 小 沢 代 表 の 資 金 管 理 団 体 「陸 山 会 」 が 、 準 大 手 ゼ ネ コ ン西 松 建 設 のOBを. 代. 表 とす る 二 つ の 政 治 団 体 「新 政 治 問 題 研 究 会 」 「未 来 産 業 研 究 会 」 か ら献 金 を 受 け て い た 問題 に 関 わ る 事 件 で あ る。 こ の 二 つ の 団 体 が 西 松 建 設. 「ダ ミー 」 の. 政 治 団 体 で あ る と して 虚 偽 記 載 の 容 疑 で公 設 第 一 秘 書 が 逮 捕 され た 。 こ れ ま で の 政 治 資 金 規 正 法 の 虚 偽 記 載 違 反 容 疑 に 関 す る捜 査 手 法 か ら大 き く 一38一.
(23) 近 年 の メデ ィ ア と政 治 ・犯 罪 報 道 の 問題 点. 異 な る 逮 捕 に 、 メ デ ィ ア を含 む 多 く の 関 係 者 は 、 後 に 大 き な 事 件 に 発 展 す る の で は な い か と予 想 し、 報 道 内 容 も そ う し た 視 点 で 過 熱 し た 。 政 権 交 代 も あ り得 る総 選 挙 を 間 近 に控 え た 時 期 に 東 京 地 検 特 捜 部 が 政 治 的 影 響 の 大 き い 野 党 第 一 党 の 代 表 秘 書 を 逮 捕 をす る と い う こ と は 、 逮 捕 しな け れ ば な ら な い 事 件 の深 み が あ る は ず だ と考 え られ て き た の で あ る 。 しか し 当 時 の 秘 書 に 対 す る起 訴 は 、 逮 捕 容 疑 の 虚 偽 記 載 だ け で あ っ た 。20 10年. に なっ て、新 た な進展 があ った が、 当時の東 京 地検 特捜 部 の公設 第 一秘. 書 の 逮 捕 は 極 め て ア ン バ ラ ン ス な もの に 写 っ た 。. ・捜 査 に 厳 密 な 公 正 さ が 求 め ら れ る 検 察庁 が政 治 の腐敗 を浄化 す るた めに法令 に従 って厳 格 な捜 査 を遂行 す る こ と は 、 最 も重 要 な 役 割 で あ る 。 だ か ら こ そ 政 治 的 影 響 も大 き い 事 件 捜 査 に 関 し て は 、 捜 査 手 法 も含 め て 厳 密 な公 正 さ が 求 め られ る。 仮 に 公 設 第 一 秘 書 が 二 つ の 政 治 団 体 へ の 資 金 出 資 者 が 、 西 松 建 設 で あ る と認 識 して い た と して も 、 そ れ だ け で は政 治 資 金 規 正 法 違 反 に は な ら な い 。 そ れ ら の 政 治 団 体 が 「ダ ミー 」 で あ り、 そ の こ と を 小 沢 代 表 や 秘 書 が 認 識 して い な け れ ば な らな い 。 小 沢 代 表 も秘 書 も明 確 に 否 定 して い た 。 も し こ の 二 つ の 政 治 団 体 が 「ダ ミー 」 で あ る な ら、 お そ ら く何 万 と あ る 多 く の 政 治 団 体 の か な りの 部 分 が 「ダ ミー 」 に な っ て しま う可 能 性 が あ る。 さ ら に 二 つ の 団 体 か ら 献 金 や パ.__.ティ ー 券 と して 、 資 金 提 供 され て い た 国 会 議 員や. 「 派 閥 」 は 、 当 時 の 与 党 で あ っ た 自民 党 を 中 心 に 多 数 に 上 る。 そ れ らの. 議 員 等 も 「ダ ミー 」 か ら 資 金 を 受 け て い た こ と に な り、虚 偽 記 載 で 起 訴 され な け れ ば な らな い こ とに な る。そ れ らの 資 金 管 理 団 体 の 会 計 責 任 者 は 逮 捕 され ず 、 額 が 大 き い と い うだ け で 小 沢 代 表 の 資 金 管 理 団 体 の 会 計 責 任 者 だ け を 逮 捕 す る とい うの も大 き な矛 盾 で あ る。 ダ ブ ル ス タ ン ダ ー ド(二 重 基 準)と も仕 方 が な い 。 一39一. 非 難 され て.
(24) 人権問題研 究所紀要. ・過 激 な 見 出 し と レ ッ テ ル 貼 り ま た 問題 に な っ て い た 献 金 は額 が 多 い とい っ て も 、 全 て 政 治 資 金 規 正 法 に 則 っ て使 い 道 も含 め て 公 に な っ て い る 資 金 で あ る。 東 京 地 検 も捜 査 ・逮 捕 ・起 訴 に 関 して 多 くの 点 で 説 明 し な けれ ば な らな い こ と が あ る だ ろ う と考 え る が 、 こ こ で は 先 に も述 べ た よ うに 逮 捕 後 の メ デ ィ ア 報 道 の あ り方 に つ い て だ け 取 り上 げ た い。 第 一 秘 書 の 逮 捕 が 発 火 点 に な っ て メ デ ィ ア の 集 団 過 熱 報 道 が 始 ま っ た こ とは 先 に述 べ た。ま さ に 捜 査 機 関 の 逮 捕 が 集 団 過 熱 報 道 の ス タ ー タ ー の 役 割 を担 い 、 メ デ ィ ア が集 団 過 熱 報 道 に よ っ て 、 強 引 な 捜 査 を進 め や す い 環 境 を醸 成 す る役 割 を担 った。 逮 捕 後 の 読 売 新 聞 の 見 出 しに は 「小 沢 氏 側 が 献 金 要 請 」 「西 松 に 請 求 書 」 「小 沢 氏 謝 罪 な く40分 る狙 い?」. 」(3.月4日. 「献 金2ル. ー ト 『年2500万. 沢代 表 に疑念 広 が る民 主党 内」 う」. 夕 刊)、. 「 小 沢 秘 書 が 分 散 指 示 」 「小 口化 図 円』 」 「小 沢 氏 側 と西 松 約 束 」. 「 小 沢 氏 団体ず さん報 告」. 「 小. 「 東 北 で 円滑受 注狙. 「 小 沢 氏 強 い 影 響 力 」 「元 幹 部 『要 請 断 れ な い 』 」(3月5日)と. いった. 文 言 が 踊 っ て い る 。 そ して 「小 沢 王 国 」 とい っ た 表 現 が 多 用 され 、 こ れ ま で の 小 沢 代 表 の マ イ ナ ス イ メ ー ジ を利 用 す る 形 で 報 道 が 展 開 され て い る 。 これ は 政 治 宣 伝7つ. の原 則 の ネ ー ム コ ー リ ン グ(レ. の 同 調 性 向 に 訴 え る)以. ・逮 捕=有. 罪=悪. ッテ ル 貼 り)や バ ン ドワ ゴ ン(大. 衆. 外 の何 もので もな い。. 人 にな って いな いか. これ ら の 報 道 と と も に テ レ ビ ・ラ ジ オ 報 道 、 週 刊 誌 報 道 等 が よ り過 激 に 重 な る 。 例 え ば 週 刊 文 春3月12日. 号 で は 「『代 表 辞 任 』 は 必 至!新. 聞 、TVが. 報. じな い 小 沢 一 郎 『金 庫 番 』 逮 捕 の 全 内 幕 」 「検 察 は な ぜ 異 例 の 捜 査 に 踏 み 切 っ た の か 」 と過 激 な 見 出 しが 新 聞 広 告 に 掲 載 さ れ て い た 。 ま さに 贈 収 賄 事 件 報 道 一40一.
(25) 近 年 の メデ ィア と政 治 ・犯 罪 報 道 の 問題 点. の よ うで あ る。 これ で 世 論 が 変 化 しな い は ず が な い 。 も し第 一 秘 書 の 逮 捕 が な く、 虚 偽 記 載 容 疑 だ け で あ れ ば こ の よ うな 集 団 過 熱 報 道 に は な っ て い な い 。 ま さ に 逮 捕=有. 罪=悪. 人 な の で あ り、 先 に も指 摘 した. よ うに 「 推 定 無 罪 の 原 則 」 は メ デ ィ ア 報 道 で は な い に 等 しい 。 江 戸 時 代 で い う な ら裁 判 前 に 「市 中 引 き 回 し」 の 執 行 官 の 役 割 を メデ ィ ア が 担 っ て い る 。 こ う した 事 態 を ふ ま えれ ば 、 最 低 限 、 裁 判 員 に な っ た 人 々 に メ デ ィ ア ・リテ ラ シー に 関 す る 充 実 し た 教 育 が 必 要 だ と い え る。 こ う した 報 道 に よ っ て 、 小 沢=悪. の 世 論 が 高 揚 し、 高 揚 した 世 論 が そ の 種 の. 報 道 を 求 め る よ うに な る。 そ し て そ の 種 の 報 道 を す れ ば 視 聴 率 が 取 れ 、視 聴 者 や 読 者 か ら評 価 され れ ば 益 々 報 道 は 特 化 し て い く。 そ のd{に 世 論 調 査 を 実 施 す れ ば 、調 査 結 果 は 自ず と捜 査 機 関 や メ デ ィ ア 報 道 に 沿 っ た も の に な る。. ・情 報 操 作 を 受 け や す い 思 考 が 形 成 そ う し た 世 論 が 、 先 に も 指 摘 した よ うに 捜 査 機 関 の 強 引 な 捜 査 を 可 能 に す る と と も に 、 思 い 込 み 捜 査 や 思 い 込 み 取 材 が 平 気 で な され る よ うな 空 気 を創 る。 こ れ が 強 引 な 思 い 込 み 報 道 を 可 能 に す る。 そ れ らの メ デ ィ ア 情 報 に 突 き動 か さ れ る よ うに 多 くの 大 衆 は 大 き な 影 響 を 受 け 、 時 代 の 空 気 に 飲 み 込 ま れ 、 情 報 操 作 を 受 け や す い 思 考 が 強 化 され る。 さ らに 市 民 の 予 断 や 偏 見 が 強 化 され 、 そ れ ら の 予 断 や 偏 見 に 合 致 した 誤 っ た 情 報 が さ らに 伝 搬 しや す くな る と い っ た 情 報 を 巡 る悪 循 環 、 ス パ イ ラ ル が 起 こ る。 そ う し た 事 態 に 至 ら な くて も 、 一 連 の 集 団 過 熱 報 道 が 終 焉 を 迎 え る 頃 、 多 く の 予 断 や 偏 見 だ け が 残 っ て 、 具 体 的 事 実 は 多 く の 大 衆 の 中 で は 抽 象 化 され て い く。 差 別 問題 に 関 わ る こ とで 起 これ ば 、 偏 見 や 差 別 意 識 が 再 生 産 され 強 化 され るこ とにな る。 一 方 、 政 治 の 世 界 で 起 これ ば 政 治 不 信 と政 治 家 へ の 信 頼 が 損 な わ れ て い く。 一41一.
(26) 人権問題研 究所紀要. 信 頼 に 値 しな い 政 治 家 で あれ ば そ れ も 当 然 だ とい え る が 、 過 剰 な 報 道 や 誤 っ た 思 い 込 み 報 道 が そ う し た 事 態 を 作 り出 す こ と は 、 政 治 や 報 道 対 象 に な っ た 政 治 家 に大 きなマイ ナ スの影 響 を与 える。 例 え ば小沢 代表 公設 第 一秘 書 の逮捕 に重 ね合 わせ るな ら、集 団過 熱報 道 に よ っ て 過 熱 した 世 論 に 敏 感 な 政 治 家 が 、 世 論 に 突 き 動 か され 民 主 党 内 部 で も水 面 下 で 小 沢 批 判 が 燃 り、 そ れ を メデ ィ ア は 一 層 か き 立 て る。 そ の 結 果 、 民 主 党 の パ ワー は 徐 々 に低 下 す る。 こ う し た 過 剰 報 道 を招 い た 出 発 点 は 、 秘 書 の 虚 偽 記 載 容 疑 で の 逮 捕 で あ る 。 しか しそ の 逮 捕 が バ ラ ン ス や 公 正 さ を 欠 い た も の で あ れ ば 、 政 治 に 多 大 な マ イ ナ ス の影 響 を 与 え る 。 も し虚 偽 記 載 が 無 罪 と な っ た り、 これ 以 上 の 事 件 の 進 展 が な けれ ば 、 一 連 の 報 道 は 何 で あ っ た の か と な る だ ろ う。. ・誤 報 が 世 論 に 決 定 的 な 影 響 を 与 え る これ は 民 主 党 だ け の 問題 で は な く、 自民 党 や 他 の 政 党 で も起 こ り得 る。 検 察 の 捜 査 に よ っ て 時 代 の 流 れ を 変 え る こ と も で き る こ と に な っ て しま う。 そ れ が 政 党 や そ の 代 表 者 に絡 む 贈 収 賄 事 件 等 の 重 大 な 事 件 な ら 当然 だ と い え る が 、 今 回 の よ うな 虚 偽 記 載 容 疑 だ け な ら検 察 の 捜 査 手 法 に 問 題 が あ る と指 摘 され て も 仕 方 が な い だ ろ う。 ま た 今 回 の 一 連 の 報 道 は 、公 式 情 報 と非 公 式 の 事 実 上 の リー ク 情 報 を タ イ ム リー に 流 す こ と に よ っ て 、 情 報 を 巧 み に操 作 し て い る 。 公 式 情 報 と リー ク情 報 が 重 な る こ と に よ っ て 、捜 査 機 関 に都 合 の 良 い 世 論 を 効 果 的 に 創 り上 げ て い る。 検 察 側 の 意 図 が あ ろ うが な か ろ うが 、 事 実 上 の リー ク情 報 は 限 定 され た メ デ ィ ア 企 業 に だ け 流 され る こ と に よ っ て 、 と き に 特 ダ ネ 情 報 と な り高 い 情 報 価 値 が あ る と見 な され 、 報 道 の 扱 い も 大 き く な る。 そ れ が 後 追 い 報 道 を 誘 発 す る。 捜 査 機 関 側 に と っ て は 、 た と え そ れ が 誤 っ た 情 報 、 強 調 され た 情 報 で あ っ て も 責 任 の 所 在 が 不 明 確 で 責 任 を 取 る 必 要 が な く、 情 報 操 作 の 道 具 と して は極 め 一42一.
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