P2M マガジン No.5, pp.29-30 (2018) 29
寄稿
プログラムマネジメントとシステム工学の統合に関わる私見
梅田富雄 P2M マガジン4号 2017 で亀山先生が 紹 介 し て い た 論 説 に 関 連 し て 、1960 年 年代からシステム工学に関係を持ち、特 に プ ロ セ ス シ ス テ ム 工 学 を 専 門 と し て 活動してきた者として、今までのシステ ム 工 学 の 捉 え 方 に つ い て 見 直 し 私 見 を 述べることにした。 1960 年初頭にオペレーションズ・リ サーチとシステム工学の相互関係の議 論があり、数理的な手法として前者が後 者に含まれて運用されることを認識し 始めたと思うが、当時、システムについ て、アメリカのアポロ計画の成功が多大 な影響を与え、その重要性に注目されつ つあったが、関連する内容は、システム アナリシス、システムプランニング、シ ステムズマネジメント、プロジェクトマ ネジメントなど種々の表現を使って説 明されていた。Devid I. Cleland & William R. King “ Systems Analysis andProject Management” 1968 年で は、 シ
ステム工学とプロジェクトマネジメン トの関係は、組織に関わる戦略の策定と 実施(Strategic Planning と Implementation) について、前者をプロジェクトマネジメ ント、後者をシステム工学 と位置付け て、複雑化する課題解決に対処すること が確認できる。
さらに A.D.Hall “Three Dimensional Morphology of Systems Engineering”, IEEE Trans. Syst. Sci. Cybern. 1969 によ ってプロジェクトフェーズ(発想から廃 棄までのライフサイクル、課題解決手順、 知識体系(事実、モデル、手順など)の 3 つの次元で一体化したフレームワーク が提示されている。また、科学技術庁編 昭和 51 年版”システム工学の現状と展 望“-総合レビューでは、システム管理 についてプロジェクトの計画、遂行に関 わる事項を詳細に記述している。 1960 年 代 に は 化 学 、 石 油 、 鉄 鋼 な ど の プ ロ セ ス 産 業 は 大 型 プ ラ ン ト の 構 築 が盛んで、関連する業務を手掛けていた エンジニアリング企業はすでに 1960 年 代 に プ ロ ジ ェ ク ト で の 業 務 遂 行 を 日 常 化していたが、他の産業には普及してい な い ま ま 推 移 し た 。 1973 年 化 学 工学 協 会は“ プ ロ ジ ェ ク トエ ン ジ ニ ア -理 想 像 とその育成“と称する報告書を発行した。 昭和 30 年代から各企業が共通して悩ん で き た プ ロ ジ ェ ク ト エ ン ジ ニ ア の 不 足 への対処のため、産業部門委員会にプロ ジ ェ ク ト エ ン ジ ニ ア 育 成 専 門 委 員 会 を 設置され、幅広く意見を集め、詳細な検 討のもと、育成指針が纏められた。すで に コ ン ピ ュ ー タ 利 用 も 多 少 考 慮 し な が ら プ ロ ジ ェ ク ト 業 務 に 関 わ る 手 順 そ の 他基本的な事項について記述され、プロ ジ ェ ク ト エ ン ジ ニ ア の 具 備 す べ き 条 件 などが提示されている。今ではプロジェ ク ト エ ン ジ ニ ア と い う 言 葉 が 聞 か れ な くなったが、報告書では、プロジェクト マ ネ ジ ャ ー は プ ロ ジ ェ ク ト 遂 行 の 最 高 責任者として、広範な技術的知識と経験 な ら び に 次 元 の 高 い 管 理 能 力 を 備 え た プ ロ ジ ェ ク ト エ ン ジ ニ ア と 定 義 し て い る。ちなみにシステム工学についてはア ン ケ ー ト 結 果 と し て 管 理 上 重 要 な 項 目
P2M マガジン No.5, pp.29-30 (2018) 30 に挙げている。1981 年には PMI からプ ロ ジ ェ ク ト マ ネ ジ メ ン ト の 実 施 に 関 す る プロ 向 け のハ ン ド ブ ック が 出 版さ れ 、 直 後 に エ ン ジ ニ ア リ ン グ 振 興 協 会 プ ロ ジェクト委員会によって翻訳され”プロ ジェクトマネジメントの手引き“として 出版された。ここではプログラムとプロ ジ ェク ト は 同義 語 と し て扱 わ れ てい る 。 こ の 手 引 書 の 内 容 は 現 在 多 く の 関 係 者 が 共有 し て いる も の と ほぼ 同 じ であ り 、 プ ロ ジ ェ ク ト 全 般 に わ た る 標 準 的 な も のであると考える。エンジニアリング企 業 で は す で に 定 着 し た 業 務 遂 行 方 法 は 当 時主 と し て海 外 展 開 に適 用 さ れた が 、 1995 年 頃 か らコ ン ピ ュ ー タ の 処 理 能力 が 著 し く 増 大 し て き た こ と に よ る 応 用 関連業務が増大し、ファンクション組織 に よ る 開 発 業 務 が 機 能 し て い な い 状 況 で情報システムの構築、運用が盛んにな り、プロジェクトマネジメントに多くの 関心が寄せられた。 千 葉 工 業 大 学 工 学 部 に プ ロ ジ ェ ク ト マ ネ ジ メ ン ト 学 科 を 設 置 す る こ と に 関 与 し て い た こ ろ に は プ ロ ジ ェ ク ト 関 係 の書籍はほとんどなかったが、その後情 報 シ ス テ ム に 関 わ る プ ロ ジ ェ ク ト マ ネ ジ メ ン ト の 書 籍 が 急 増 し た こ と を 記 憶 している。その頃システムと言えば情報 システムを指し、担当者は SE と呼称さ れるような状況も発生した。今でも多く の 情 報 シ ス テ ム に 関 わ る プ ロ ジ ェ ク ト は 他 に 比 べ て 数 多 く 存 在 し て い る 状 況 である。情報システムやプロジェクトに 関する資格制度も発足し、情報処理技術 者 試 験 に プ ロ ジ ェ ク ト マ ネ ジ ャ ー 試 験 や I T コ ー デ イ ネ ー タ 試 験 が あ る こ と にも注目する必要がある。このような動 きの中から 10 年ほど前に日本プロジェ ク ト マ ネ ジ メ ン ト 協 会 や 国際 P2M 学 会 が発足し、現在に至っている。 以上、今までの関連する動きを概観し てきたが、今回 PMI と INCOSE が業務提 携をし、両者の統合化を図ることが紹介 されたことに関連して、かってプロジェ ク ト マ ネ ジ メ ン ト と シ ス テ ム 工 学 は プ ロ グ ラ ム と も 区 別 せ ず に 業 務 の 効 率 化 に役立てていたが、このような未成熟な 状況からそれぞれ専門領域での分化、進 化を経て独自の領域、応用範囲を決めて きたものと思われる。業務内容の複雑化 により、専門分化したまま、プロジェク ト マ ネ ジ ャ ー は 専 門 化 集 団 を コ ー デ イ ネートする役割を中心に機能し、システ ム 工 学 関 連 業 務 は 縦 型 専 門 領 域 に 共 通 の横型基盤領域として包含され、それぞ れ役割を果たす状況が続いている。 今 回 紹 介 さ れ た プ ロ グ ラ ム マ ネ ジ メ ン ト と シ ス テ ム 工 学 の 相 互 乗 り 入 れ に 関 わ る 提 携 は そ れ ぞ れ の 業 務 遂 行 文 化 の も と で 異 な る マ イ ン ド を 持 っ て 業 務 が な さ れ て い る 現 状 の 問 題 点 を 踏 ま え て、非生産的なテンションを減らし、無 駄 の な い 効 率 的 な プ ロ グ ラ ム 運 営 を は かるために、一体化、統合化を試みたと いうことができる。アメリカでは PM BOK などを知識体系として位置付け、プログ ラム運営に当たって久しいが、加えて長 年 に わ た っ て 標 準 と し て の 機 能 を 果 た してきた MIL-STD-499 ,ANSI/EIA 632 な どを 1990 年に発足した INCOSE がこれら に 準 拠 し て 整 備 し て き た こ と を 考 え る と、すでに関係者には受け入れやすい環 境にあると思われる。我々もプロジェク ト マ ネ ジ メ ン ト に シ ス テ ム 工 学 が 包 含 されていた経緯を理解し、今後の展開に 注目しながら P2M 概念や P2M ガイドの 改 定 な ど に 反 映 さ せ る こ と が 必 要 で あ ると思う。 2018 年1月 15 日(受領)