民事裁判の印象に関する当事者経験者と未経験者の比較
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(2) 北海道教育人学紀要(人文科学・社会科学編)第56巻 第2号 JournalofHokkaidoUniversityofEducation(HumanitiesandSocialSciences)Vol.56,No.2. 平成18年2月 February,2006. 民事裁判の印象に関する当事者経験者と未経験者の比較. 今在慶一朗・菅原 郁夫*・今在 景子*. 北海道教育人学函館校社会文化情報コース 串名占屋人学法学研究科. Comparisonofimpressionaboutciviltrialbetween experiencedpersonoflitigantandnoexperiencedperson IMAZAIKei−ichiro,SUGAWARAIkuo*andIMAZAIKeiko* HokkaidoUniversityofEducation *NagoyaUniversity. 要 旨 民事裁判に求める事柄,裁判官や弁護士に対する印象,裁判手続きや裁判制度に対する評価について,裁 判の当事者を経験した者と経験したことがない者の違いについて検討を行った.当事者経験者と一般市民を 対象とした過去の二つの調査で得たデータを使って二次分析を行った.未経験者は,民事裁判の多くの側面 についてわからないと回答する割合が高かったが,同時に,経験者よりも民事裁判に大きな期待を持ちやす く,裁判に必要なコストが高いと考えやすいことが示された.また,経験者は,未経験者よりも裁判官を親 しみやすいと感じやすく,弁護士を好意的に感じやすく,裁判手続きを高く評価しやすいことが示された.. 司法制度改革審議会は,平成12年に民事訴訟利. ねることは,現行制度や手続きの長所・短所を明. 用者調査を実施した(司法制度改革審議会2000).. らかにするかもしれないが,同時にそのような対. これは,国民が利用しやすい民事訴訟制度のあり. 象者に限定された調査では,利用しやすい制度を. 方を検討するための基本資料を収集する目的で行. 考えることに限界もある.裁判を利用したくても. われた.この調査では,実際に民事訴訟を経験し. できない人や,裁判を利用することにためらいを. た人々を対象として,裁判官や弁護士,裁判の結. 感じる人々は,そうした対象者には含まれていな. 果,裁判制度一般といった事柄に対する印象につ. いと考えられるからである.そこで,菅原(2005). いて調べられた.この調査は,全国16箇所の地方. は,実際に裁判を経験しなければ回答できない項. 裁判所で取り扱われた事件を抽出し,1,600名を. 目を除いた上で,司法制度改革審議会が実施した. 調査対象とする大規模なものであったが,その対. 調査とほぼ同様の質問項目をつかった調査を,一. 象者は民事訴訟を経験した者に限定されていた.. 般市民を対象者として実施した.. 確かに,実際の当事者経験者に彼らの印象をたず. 本研究では,これら二つの調査を通して得られ. 69.
(3) 今在慶▲朗・菅原 郁夫・今在 景/一. たデータを使って,民事裁判を利用するにあたっ. る’‘社会的名誉や自尊心をまもる’‘公正な解. ての期待や不安・不満について,民事裁判の未経. 決を図る’‘強制力に期待する’‘相手を懲らし. 験者と経験者を比較する.. める’‘白黒をはっきりさせる’‘公の場で議論 する’‘裁判官に話を聞いてもらう’)の得点に. 調査方法. 本研究では,二つの調査で集められたデータを. ついて,分散分析による裁判未経験者と経験者の. 比較を行った2.強制力に関しては,統計的に有. 統合して,二次分析を行った.第一のデータは,. 意な差があるとは認められなかったが,Tablel. 司法制度改革審議会が行った‘民事訴訟利用者調. に示したように,全体的に未経験者の方が経験者. 査,である1.札幌,秋田,福島,前橋,東京,. よりも有意に高いことが示された.未経験者ほど,. 富山,甲府,静岡,大津,大阪,松江,岡山,松. 裁判に対する要求水準が高いことが示唆された.. 山,福岡,宮崎,那覇の16カ所の地方裁判所で第 一審民事通常訴訟,人事訴訟を経験した1612名を. Tablel裁判の利用目的. 対象として選出し,591名から回答を得た.第二. 民事裁判の経験 平均値 権利の実現**. ものであり,第一のデータに対応した質問項目が. 経験者 未経験者. 設けられた.札幌,千歳,秋田市,昭和町,前橋 市,高崎市,東京23区,′ト金井市,静岡市,藤枝. 4.57 4.25 4.43 4.23 4.46 2.49. 未経験者. のデータは,菅原(2005)による調査で集められた. 経済的利益**. 自由,プライバシー,. 市,人阪市,豊中市,岡山市,総社市,松山市,. 健康**. 北条市,福岡市,久留米市,那覇市,西原町を対. 社会的名誉**. 経験者 未経験者 経験者. 4.07 2.95 4.81 4.52 3.94 3.85 2.98 2.56 4.34 4.16 3.43 3.14 3.57 3.09. 未経験者 経験者. 象として,選挙人名簿を使用して各地域から200. 未経験者. 名,全体で4000名を無作為抽出し,1273名からの. 公正な解決**. 回答を得た.この中には,裁判経験のある者も含 強制力. まれていたが,その時期や,民事・刑事の別が不. 明であり,また裁判に類似した調停などが含まれ. 経験者 未経験者 経験者 未経験者. 懲らしめ**. ている可能性もあると考え,そのようなケースは. 経験者 未経験者. 分析から除いた.また,本分析で使用する項目に. ∩黒をはっきり**. ついてまったく回答していなかったケースを除い. 経験者 未経験者. た.最終的に,民事裁判経験者は576名,裁判未. 公の場で議論**. 経験者は1024名であった. 裁判官に聞いてもらう**. 経験者 未経験者 経験者. 裁判利用の目的. **♪<.01. 人々が,裁判に対してどのようなことを求める か(求めたか)調べるために,‘全く思わない(1)’ から‘強く思う(5)’までの5点尺度で評定された 項目群(‘権利を実現する’‘経済的利益をまも. る’‘個人的自由やプライバシー,健康をまも. 裁判の手続きに対する印象 裁判の手続きに対する印象を調べるために, ‘十分に自己主張の機会がある’‘十分に証拠提 示の機会がある’‘わかりやすい’‘公正・公平’. 注1 東京大学社会科学研究所附属日本社会研究情報センターSSJデータ・アーカイブより提供を受けた(巾請番弓1161,調 査番号0198,調査名「民事訴訟利用者調査,2000」). 注2 以下,未経験者と経験者の比較の結果は,全て分散分析によるものである.. 70.
(4) 民事裁判の印象に関する当事者経験者と未経験者の比較 ‘合理的’‘効率的’‘審理の充実’の項目が設. 軽減を促進すると考えられる.. けられていたが,回答者はこれらについて‘全く 費用について. そう思わない(1)’から‘強くそう思う(5)’までの. 5点尺度で回答した.なお,回答の際には‘わか. 裁判に必要な費用の予測のしやすさと,費用の 高さの印象について未経験者と経験者の比較を. らない’を選択することもできた. わからないと回答したのは,自己主張:147/988. 行った.予測のしやすさについては,‘全く予想. (未経験者)・59/569(経験者),証拠提示:. がつかない(1)’‘ある程度予想がつく・場合によ. 160/983・57/567,わかりやすさ:266/978・. る(2)’‘はっきりと予想がつく(3)’の3点尺度で. 96/568,公正・公平:151/988・73/568,合理性. 回答するようになっていたが,Table 3に示し. :201/977・78/568,効率性:133/979,66/569,. たように,いずれの回答者も平均値が1点台であ. 充実度:193/982・89/569であった.わからない. り,大半の回答者が予測しにくいと感じていたこ. と答えた者の割合は,全ての質問について,未経. とが示された.また,未経験者と経験者を比較す. 験者の方が経験者よりも高かった.. ると,未経験者の方がより一層予測しにくいと感. わからないと回答した者を除き,未経験者と経. じていることが示された.経験者の中にはすでに. 験者の比較を行った.Table 2に示したように,. 以前にも裁判を経験していた者が多く含まれてい. まず,両群ともに各項目の平均値が中点である3. たために,予測しにくいと感じる者が少なかった. 前後か,それ以下であることから,全体的に見て. 可能性もあるが,同時に,裁判を経験した者は,. 手続きに対してはやや否定的な回答をする者が多. かかった費用を知った後で,裁判開始時の記憶を. かったといえる.そして,自己主張,充実度に関. 変容させてしまい,予測しにくいという印象を弱. しては,統計的に有意な差は見られなかったが,. めた可能性もあると考えられる.. 他の項目に関しては全体的に経験者の評定得点が 未経験者よりも有意に高いことが示された(公正・. Table3 費用の予測のしやすさ. 公平については有意な傾向).実際に裁判を経験. 民事裁判の経験. することが,裁判手続きに対する否定的な印象の. Table2 裁判手続きに対する印象. 平均値. 未経験者. 1.06. 経験者. 1.69. 未経験者と経験者の差は1%水準で有意. 民事裁判の経験 平均値 自己主張. 証拠提示**. わかりやすさ** 公正・公平†. 未経験者. 3.41. 経験者. 3.35. 未経験者. 3.42. 経験者. 3.70. 未経験者. 2.09. 経験者. 3.28. の調査では‘わからない’という回答もできるよ. 未経験者. 3.10. うになっていた.回答方法に違いがあるため,直. 経験者. 3.24. 接比較することは必ずしも適切とはいえないが,. 未経験者. 2.69. 全ての回答者が裁判を経験していた第一の調査で. 経験者. 3.15. 未経験者. 1.89. 経験者. 2.96. とは考えにくかったことから,未経験者による. 未経験者. 2.81. ‘わからない’という回答を除外した上で,未経. 経験者. 2.86. 合理性**. 効率性**. 充実度. 費用の高さに対する印象については,‘非常に. †♪<.10,**♪<.01. 高い(1)’から‘どちらともいえない(3)’をはさん. だ‘非常に安い(5)’までの5点尺度を使って回答 が行われた.ただし,一般市民を対象とした第二. ‘わからない’という回答者が多く含まれていた. 験者と経験者の得点の差について分析を行うこと. にした.Table 4に示したように,未経験者の. 71.
(5) 今在慶▲朗・菅原 郁夫・今在 景/一. 方が経験者よりも裁判には高い費用がかかると感. る(1)’‘合理的範囲(2)’‘どちらともいえない. じていることが示された.回答の内訳では,この. (3)’‘やや長い(4)’‘長すぎる(5)’の5点尺度を. 間に回答した経験者548名のうち,約6割の326名. 使って回答が行われた.なお,本質間においても,. が‘どちらともいえない’と回答し,. 一般市民を対象とした第二の調査にのみ‘わから. ‘非常に高. い(85名)’,‘やや高い(96名)’とした回答が. ない’という選択肢が用意されていた.Table. それぞれ2割未満であったのに対して,この間に. 6に示したように,未経験者の方が経験者よりも. ついて回答した未経験者930名のうち,4割近い. 裁判には長い期間がかかると感じていることが示. 350名が‘非常に高い’と回答し,. された.経験者群では,この間に回答した558名. ‘やや安い’,. もしくは‘非常に安い’と回答した者はいなかっ. のうち長すぎるという回答が124名,やや長いと. た.ただし,約4割にあたる369名が‘わからな. いう回答が73名,どちらともいえないという回答. い’と回答していた.このことから,経験者につ. が156名,合理的範囲という回答が160名というよ. いては,費用が安かったと考える者は少ないもの. うに回答にばらつきが見られた.これに対して,. の,非常に高いと感じる者が多数を占めているわ. 未経験者群では,983名のうち406名が長すぎる,. けではなかったのに対し,未経験者については,. 201名がやや長い,そして311名がわからないと回. 費用を非常に高いと感じる群とわからないと感じ. 答したことから,大半の回答者が裁判には長い時. る群の2群に別れていたといえる.. 間が必要である,もしくはよくわからないという 印象を持っていたことが示された.. Table4 費用に対する印象 民事裁判の経験. 平均値. 未経験者. 1.49. 経験者. 2.61. 未経験者と経験者の差は1%水準で有意. Table6 期間に対する印象 民事裁判の経験. 平均値. 未経験者. 4.50. 経験者. 3.13. 未経験者と経験者の差は1%水準で有意. 期間について. 費用に関する質問と同様に,裁判に必要な期間 の予測のしやすさと,期間の長さの印象について. 裁判官に対する印象. 裁判官に対する印象については,‘裁判官が中. 経験者と未経験者の比較を行った.費用の予測の. 立’‘裁判官による言い分の聴取が十分’‘裁判. しやすさと同様,Table 5に示したように,両. 官が信頼できる’‘裁判官が権威的・威圧的’. 群とも予測しにくいと感じていたが,未経験者の. ‘裁判が常識を理解’‘裁判官が丁寧に接する’. 方がより一層予測しにくいと感じていることが示. ‘裁判官の法律以外の知識が豊富’‘裁判のため. の準備が十分’といった項目手質問を行い,回答. された.. 者は‘全くそう思わない(1)’∼‘強くそう思う(5)’. Table5 期間の予測のしやすさ 民事裁判の経験 未経験者 経験者. 平均値. の5点尺度に加え,‘わからない’という回答が 選択できるようになっていた.各設問に対する回. 1.10. 答者の中でわからないと答えた未経験者と経験者. 1.49. の数はそれぞれの項目について以下の通りであっ. 未経験者と経験者の差は1%水準で有意. た.中立性:92/972(未経験者)・128/566(経 験者),言い分の聴取:151/969・128/564,信頼. 期間の長さに対する印象については,‘短すぎ. 72. 性:111/974・148/565,権威的・威圧的:.
(6) 民事裁判の印象に関する当事者経験者と未経験者の比較. 124/967・129/559,常識の理解:119/968・. た.これは人々が,実際に裁判官に接触したこと. 152/559,丁寧さ:213/969・128/558,法律以外. がない段階では,裁判官の専門性に対してよいイ. の知識:146/969,174/559,事前の準備:. メージを抱きやすいが,実際に裁判官と接触する. 169/970・164/559であった.いずれの項目につい. ことによって,情緒的な親しみやすさを感じやす. ても10∼20%程度の未経験者がわからないと回. いことを示唆している.. 答していたが,同時に20%程度かそれ以上の経. また,裁判官に対する全体的な評価として裁判. 験者が‘わからない’と回答しており,丁寧さを. 官に対する満足感を比較した.経験者は,経験し. 除く評価において,全体的に経験者の方が‘わか. た裁判を担当した裁判官について,未経験者は市. らない’と回答する者の割合が高かった.未経験. 民の視点から見た裁判官一般についての満足感を. 者よりも相対的に多くの経験者が‘わからない’. 回答した.この質問については,わからないと回. と回答した理由としては,民事裁判の当事者で. 答した者の割合が,未経験者(243/989,24.6%). あっても裁判を代理人に任せたままで出廷したこ. が経験者(86/563,15.3%)を上回ったが,. とがないため,裁判官を評価することが難しかっ. Table 8に示したように,未経験者の方が経験. た場合があることに加え,未経験者が実際に接触. 者よりも好意的な評価を下していることが示され. したことのない裁判官を漠然としたイメージで捉. た.特定の裁判官についての経験者の評価と,一. えている可能性もあると考えられる.. 般的な裁判官に対する未経験者の評価は,同じ対 象に対する評価とは言い難いが,それまで裁判官. ‘わからない’と回答しなかった回答者の評価. を比較してみると,Table 7に示したように,. に対して漠然と好意的な評価をしていた人々が,. 未経験者は経験者よりも,中立性,聴取,信頼性,. 実際に裁判官に接触したことによって,裁判官に. 準備について好意的な評価をし,経験者は未経験. 対する肯定的印象を弱めやすいことが示唆された. 者よりも,権威的・威圧的(逆転項目),丁寧さ. ともいえる.. について好意的な評価をしていることが示され Table8 裁判官に対する満足感 Table7 裁判官に対する印象. 民事裁判の経験. 民事裁判の経験 平均値. 未経験者. 平均値. 3.29. 裁判官が権威的・. 未経験者. 3.82 3.52 3.54 3.37 3.73 3.54 3.49. 威圧的**. 経験者. 2.74. るものとほぼ同じ質問を行ったが,中立性に関す. 裁判官の常識. 未経験者. 3.18 3.14. る質問はなく,‘十分な説明を行った’という項. 裁判官の巾立性**. 裁判官による聴取**. 裁判官の信頼性*. 未経験者 経験者 未経験者 経験者 未経験者 経験者. 経験者 裁判官の丁寧さ**. 未経験者 経験者. 裁判官の法律以外の知識. 裁判官の準備**. 未経験者 経験者 未経験者 経験者. 3.28 3.48 3.18 3.07 3.55 3.16. せ<.05,*や<.01. 経験者. 2.97. 未経験者と経験者の差は1%水準で有意. 弁護士に対する印象. 弁護士に対する印象についても,裁判官に関す. 目が付加された.5点尺度に加え,‘わからな い’という回答ができるようになっていた.各設 問に対する回答者の中でわからないと答えた経験 者と未経験者の数はそれぞれの項目について以下 の通りであった.言い分の聴取:84/993(未経験 者)・5/411(経験者),信頼性:76/998・6/441,. 権威的・威圧的:106/987・7/411,常識の理解. 73.
(7) 今在慶▲朗・菅原 郁夫・今在 景/一. :67/990・10/411,丁寧さ:114/995・6/411, 法律以外の知識:114/997,23/411,事前の準備 :112/995・9/411,説明:117/993・10/410で あった.未経験者の場合,わからないという回答. と,統計的に有意な差は見られなかった.弁護士 の資質の諸側面に対して経験者は好意的な評価を. 下したにもかかわらず,そうした評価が満足感を 強めることにはつながらなかったようである.. が各項目について10%程度あったが,経験者で わからないと回答した者は数%であった.裁判の. Table10 弁護士に対する満足感. 当事者は,出廷せずに裁判官に接触しないことは. 民事裁判の経験. あっても,多くの場合,弁護士を代理人としてた. 未経験者. てるため,弁護士の印象について,わからないと. 経験者. 回答する経験者は少なかったと考えられる.. 平均値. 3.65 3.64. 未経験者と経験者の問に有意な差はない. Table 9は弁護士に対する印象を未経験者と 経験者で比較した結果である.裁判官に対する印 裁判結果に対する印象. 象とは異なり,全ての項目について,経験者の方. 裁判結果に関する質問項目は,‘裁判結果の公. が弁護士に対して好意的な評価を下していること が示された.また,同様の項目について経験者の. 平性’. ‘裁判結果と常識の一致’‘裁判結果と法. 平均点が3点台であった裁判官とは異なり,弁護. 律の一致’‘裁判結果の受容’‘裁判結果に対す. 士の場合には4点台ないし3点台後半の項目が多. る納得’‘裁判結果に対する満足感’である.裁. く,経験者が弁護士を高く評価しやすいことが示. 判官や弁護士に対する印象と同様,経験者には経. されたといえる.. 験した裁判の結果に対する印象を,未経験者には 一般的な民事裁判の結果に対する印象をたずね た.回答者は,いずれの質問に対しても5点尺度. Table9 弁護士に対する印象 民事裁判の経験 平均値 弁護上による聴取**. 未経験者. 3.96. ていると思うかという質問のついてのみ’わから. ない’という選択肢が設けられていた.これにつ. 経験者. 4.43. 未経験者. 3.65. 経験者. 4.45. 弁護士が権威的・. 未経験者. 3.40. 威圧的**. 経験者. 1.90. 未経験者. 3.55. 経験者. 4.33. 未経験者. 3.59. 経験者. 4.42. 未経験者. 3.53. 経験者. 4.11. 未経験者. 3.72. 経験者. 4.05. 未経験者. 3.77. 経験者. 4.17. 弁護士の信頼性**. 弁護士の常識**. 弁護士の1▲寧さ** 弁護士の法律以外の 知識**. 弁護士の準備**. で回答した.ただし,結果が法律の規定と一致し. いては,未経験者の14.1%(141/1002),経験者 の9.6%(54/562)がわからないと回答した.. Tablell裁判結果に対する印象 民事裁判の経験 平均値 裁判の公平性 裁判結果の常識との一致. 裁判結果の法律との. *せ<.01. しかしながら,弁護士に対する個別の評価では なく,TablelOの全体的な満足感についてみる. 74. 3.23. 経験者. 3.13. 未経験者. 3.15. 経験者. 3.14. 未経験者. 3.68. 経験者. 3.49. 未経験者. 3.40. 経験者. 3.58. 未経験者. 3.33. 経験者. 3.28. 裁判結果に対する. 未経験者. 3.15. 満足感*. 経験者. 3.02. 一敦**. 弁護士による説明**. 未経験者. 裁判結果の受容**. 裁判結果の納得. せ<.05,*や<.01.
(8) 民事裁判の印象に関する当事者経験者と未経験者の比較. Tablellに示したように,公平性,常識,納得. Table12 裁判制度に対する印象. に関しては統計的に有意な差は確認されず,法律 との一致,満足感については,未経験者の方が経. 験者よりも平均得点が有意に高かったが,結果の 受容に関しては経験者の方が未経験者よりも平均 得点が有意が高かった.実際の裁判の経験が,当. 事者に対して結果の受容を促進したと考えられ る.. 民事裁判の経験 平均値 紛争解決の役目を. 未経験者. 果たしている**. 経験者. 民事裁判制度は 利用しやすい†. 裁判制度に対する評価では,未経験者も経験者 も日本の裁判制度全体を評価する観点から,以下 の項目について回答した.‘民事裁判制度は紛争 解決の役目を果たしている’‘民事裁判制度は利 用しやすい’‘民事裁判制度は公正である’‘日 本の法律は公正である’‘民事裁判制度は生活の 現状に合っている’‘民事裁判制度は満足でき. 経験者. 民事裁判制度は. 未経験者. 公正である**. 経験者. 法律は公正である. 裁判制度に対する印象. 未経験者. 未経験者 経験者. 法律と実生活に. 未経験者. 合っている**. 経験者. 民事裁判制度に. 未経験者. 満足できる**. 経験者. 民事裁判を利用したい と思う 他者へ民事裁判を すすめる. 3.24 2.98 2.57 2.47 3.28 3.08 3.17 3.21 2.75 2.57 2.92 2.57. 未経験者. 3.48 3.54 3.31. 経験者. 3.23. 未経験者 経験者. b<.10,*や<.01. る’‘問題が生じれば裁判で解決しようと思う’ ‘因っている人がいたら裁判で問題を解決するよ. これは,未経験者の方が,評価のための手がかり. うすすめる’.回答者は5点尺度で回答を行った. が豊富であると考えられる経験者よりも,司法制. が,民事裁判経験者を対象とした第一の調査のみ. 度や法的権威者に対する信頼が高くなりやすいこ. で,’わからない’という選択肢が設けられてい. とを示唆している.EastonやHess(Easton,. た.わからないとする回答について調べたところ,. 1965;Hess&Easton,1960;Easton&Hess,. いずれの項臼についても全体の5%∼7%であっ. 1962)は,人々は社会化の過程で,止当性と服従. たが,これらを除外して未経験者と経験者の比較. との感情,公共利益の受容,共同体意識を身につ. を行った.Table12に示したとおり,法律の公. け,個別の利害によらず権威,体制,共同体を支. 正さ,裁判の利用意欲,他者へのすすめに関して. 持するようになる一方で,個別の利害に関しては. 統計的な差は見られなかったが,その他の項目に. 別個に支持・不支持を表明すると主張している.. ついては未経験者の方が経験者よりも裁判制度に. この主張に従えば,裁判を経験したことがない. 対して好意的な回答を示した(利用しやすさにっ. 人々は,制度や権威者に対して比較的好意的な態. いては有意な傾向).漠然としたイメージによっ. 度を形成しやすいが,裁判を経験した人々は思い. て裁判制度を評価したと考えられる未経験者より. どおりに個別の利益を獲得できないことによって. も,具体的経験に基づいて評価したと考えられる. 態度を変化させやすいといえるかもしれない.ま. 経験者の方が,現行の裁判制度に対して否定的な. た,Lerner(1980)は,人々は何も不正なことさ. イメージを抱きやすいことがうかがえる.. えしなければ自分は社会の中で適切に処遇される. と信じようとする傾向があると主張し,このよう 全体的考察. 未経験者は経験者と比較して,裁判に対して大. な信念を公正世界信念と名付けた.この主張に従 えば,裁判を経験したことがない人々は,裁判を. きな期待を寄せやすく,裁判官の専門的資質や,. 使って解決しなければならない問題が生じたとし. 裁判制度を好意的に捉えやすいことが示された.. ても,自分が不当な扱いを受けることはないと考. 75.
(9) 今在慶▲朗・菅原 郁夫・今在 景/一. えやすいであろう. しかしながら,未経験者は,制度や権威に対し. うした評価にも関わらず,制度に対する評価得点 は全体的に未経験者よりも低く,また,裁判に対. て全体的に好意的な印象を回答することが多かっ. する利用意欲の得点が有意に高いということも示. たものの,経験者と比較して,彼らが裁判を利用. されなかった.ただし,裁判を経験したことによっ. したいと感じやすいことは確認されず,また,裁. て生じる利用意欲の変化については,原告・被告. 判を利用しやすいという印象が強いことについて. の追いや,裁判の結果の有利さにも大きく影響さ. も統計的に明確な結果が示されることはなかっ. れると考えられる.利用意欲に関する司法制度改. た.これは,未経験者が裁判にかかる費用は高く,. 革審議会(2000)の分析結果を見ると,自然人・. 解決には長い期間がかかるといったイメージを抱. 法人に関わらず,原告は被告よりも裁判で問題を. いていたことが一つの原因であると考えられる. 解決したいと思う割合が高かったことから,積極. が,同時に裁判に対するよくわからないという印. 的に裁判を利用した人については,裁判の経験が. 象が影響を与えたとも考えられる.未経験者につ. 利用意欲を強めるとも考えられる.. いて,費用の予測,期間の予測と裁判に対する利. さらに,経験者は,結果の受容に関する質問に. 用意欲の相関関係について追加の分析を行ったと. ついては,未経験者よりも高い得点を与えていた.. ころ,期間の予測と利用意欲の問(γ=.08,♪<. これは手続きに対する好意的な評価が影響してい. .01),及び,費用の予測と利用意欲の問には弱い. る可能性がある.手続き的公正に関する研究(eg.. 相関(γ=.09,♪<.01)が確認された.これは,. Lind&Tyler,1988;Thibaut&Walker,1975). 期間の予測や費用の予測がつきやすいほど人々は. によれば,公正な手続きを経験した紛争当事者は,. 裁判を利用したいと思う,あるいは予測がつきに. 結果が好ましくない場合であっても、結果を受容. くいほど裁判を利用したいとは思わないことを示. しやすくなることを明らかにしている.本研究の. 唆している.Bandura(1977)によれば,人間が. 当事者経験者についてみると、彼らは裁判の手続. 具体的な行動を選択するためには,行動を選択す. きを未経験者よりも好意的に評価していたことか. ることによって生じる事柄への期待,すなわち. ら、手続きに対する印象によって裁判の結果を受. ’結果期待’や,自分がその行動をうまく実行す. け人れやすくなったと考えられる.. ることができるという’効力期待’が必要である といわれる.裁判に即して考えると,人々が裁判. を受けるために訴えをおこす場合には,訴えるこ とによって得られる利益やそれによって生じる損 失に関する知識,一定のコストや手続きに関する 制限の下で当事者として自己の利益を十分に守る ことができるという見込みが必要になると考えら れる.このため,全体的に‘わからない’と回答. することが多かった未経験者は,たとえ制度や権 威に対して好意的な印象を抱いていたとしても,. 引用文献 バンデューラ A▲1979社会的学習理論 金子書房 (Bandura,A.1977Sociallearningtheo7T.Englewood Cliffs,NJ:PrenticeHall). イーストンD.2002 政治生活の体系分析(上・下)十 稲田大学山版部(Easton,D.1965A$ystems q′Politicall乙斥,Chicago:UniversityofChicagoPress). Easton,D.&Hess,R.D.1962Thechild’spoliticalworld. ル知和斥∫Jノ0〝〃7〟Jq′PoJ才J才c〟J5c才βプ7Cβ,6,229246.. Hess,R.D.&Eastoll,D.1960Thechild’schallgillgim−. 裁判に関する期待を十分に持つことができないた. ageofthepresident.Public Opinion Quarterb,,24,. め,利用意欲が高められることはなかったのかも. 632644.. しれない.. 河田潤一2003政治的社会化河田潤一・荒木義修(編著) ハンドブック政治心理学 北樹山版. 一方,経験者は未経験者よりも,手続きや裁判. 官に対する親しみやすさ,弁護士の諸側面につい て好意的な評価を下していた.しかしながら,こ. 76. Lerner,M.1980The beliefinajustworld:Ajbn− damenialdelusion,NY:PlenumPress. リンドE.A.・タイラーT.R.1995フェアネスと手続き.
(10) 民事裁判の印象に関する当事者経験者と未経験者の比較 の社会心理学一裁判,政治,親織への応用一ブレーン. 出版(Lind,E.A.&Tyler,T.R.1988Thesocial 如Cholo幻′q/Procedu7711justice,NY:PlenumPress) 司法制度改革審議会2000民事訴訟利用者調査. 菅原郁夫2005民事訴訟制度の意識調査平成15年度・平 成16年度科学研究費補助金(基盤研究(C)(2))研究成 果報告書(研究課題番号90162859). Thibaut,].&Walker,L1975Proceduraljustice:A 如ChologicalanaわJSis,NJ:Erlbaum.. (函館校助教授). 77.
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