首都圏中学生の体力・健康・生活および身体活動量に関する調査
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(2) 釧路論集一北海道教育大学釧路校研究紀要一第38号(平成18年) KushiroRonshu,−JournalofHokkaidoUniversityofEducationat Kushiro−No.38(2006):119−123.. 首都圏中学生の体力・健康・生活および身体活動量に関する調査 小 林 博 隆1・小 棒 治 夫2・岡 崎 勝 博3 1北海道教育大学大学院 2北海道教育大学教育学部釧路校 3大阪体育大学. A study on physicalfitness,health,1ife−Style and. PhysICalactivity of metropolitanjunior high schooIstudents Hirotaka KoBAYASHIl,Haruo OzAWA2and Katsuhiro OKAZAKI3 lHokkaido University of Education 2Department ofHealth and PhysicalEducation,Kushiro Campus,Hokkaido University ofEducation. 30saka University ofHealth and Sport Sciences. 要 旨. 1964年以降、実施されている体力・運動能力調査からは、各測定種目の平均値が1980年頃を境に低下傾向 が続いていることと、標準偏差の拡大にみられる二極化現象の二点を子どもの体力の問題としてあげること ができる。このような状況の中、T中学校は長期的に保健体育科教員を中心とし、学校全体で生活習慣の改善 等に取り組んできた。. 本研究の目的は、数年間に亘って展開されてきたT中学校の一連の取り組みの成果を詳細に分析し、体力向上 の方策を探ることである。調査内容は、体力・生活・健康・身体活動量についてである。 その結果、10年前と比較し生活習慣は改善され、健康状態も良好であるといえる。また、体力においても 改善の兆しがみられ、1500m走では低下傾向に歯止めがかかり、現在は向上傾向を示していることが明らか になった。. 学前の学校説明会や入学後の学年ごと行われる保護者会は、. 1.目 的. 保護者に対して規則正しい生活習慣の必要性を伝達し啓蒙. 1964年以降、毎年実施されている体力・運動能力調査か. する絶好の場と成りうる。その成果としてT中学校の1500m 走の記録は、2001年を境に低下傾向に歯止めがかかり、そ れ以降、著しく向上している。. らは、各測定種目の平均値が1980年頃を境に低下傾向が続 いていることと、標準偏差の拡大にみられる二極化現象の 二点を子どもの体力の問題としてあげることができる。し かし、このような子どもの体力低下問題は、長年に亘り、 その危機が叫ばれているが一向に改善されてこない。 こうした子どもの体力低下の最大の要因は、食事、休養・. そこで、T中学校の体力・生活・健康・身体活動量につい. て調査し、数年間に亘って展開されてきたT中学校の一連 の取り組みの成果を詳細に分析することにより、体力向上 の方策を探ることを本研究の目的とした。. 睡眠を含めた生活習慣など様々な要因が関わり生じている. と示唆される。つまり、生活習慣の乱れが、子どもたちの 身体活動の量と質の低下を引き起こし、関連して体力低下 が引き起こされ、さらには、学力や学習意欲の低下にもつ ながっているものと考えられている。 このような状況の中、T中学校は長期的に保健体育科教 員を中心とし、学校全体で生活習慣の改善等に取り組んで きた。その対象は生徒のみならず、保護者も含まれる。入. 2.方 法 調査対象:首都圏に通うT中学校男子121名(2004年4月 入学、58期)であった。T中学校は、受験偏差値の極めて 高い学校である。一方、受験のため運動不足の著しいこと. による低体力校である。 調査内容:生活と健康に関する実態調査は、食事・睡眠・. −119−.
(3) 小林 博隆・小棒 治夫 他. 運動などの基本的な生活習慣について、48の質問項目によ. 普段心がけていること(図3)は、1993年「朝食」「休養」. るアンケートを行った。. 「睡眠」「運動・スポーツ」「痩せ過ぎない」、2004年は「朝. また、体力については文部科学省新体カテストに準拠す. 食」「休養」「睡眠」「運動・スポーツ」「太り過ぎない」の. る8項目(握力、上体起こし、長座体前屈、反復横とび、. 順であった。全体的に生活習慣に対する意識が高まった結. 20mシャトルラン、50m走、立ち幅跳び、ハンドボール投. 果を示し、中でも「朝食」への意識が約20%も高まってい. げ)の測定を行った。. た。. 身体活動量については、加速度計式歩数計(オムロンヘ. ルスケア社製:HJ−710IT)を使用し、睡眠時と入浴時以外 に2日間装着させ、歩数を調査した。. 持久走については、対象校の20年間の経年変化を中学1 年生について調査した。. 分析:アンケートについては、回答からその%を算出して、 1993年と比較した。体力テストについては、平均値及びT. 睡眠. 間食 朝食. スコアを求め、全国と比較した。. 痩せ過ぎない 休養 太り過ぎない 栄養・ハうンス 特にない 運動・スポーツ その他. 図3 普段心がけていること. 3.結果および考察. 平日の就寝時刻(図4)は、1993年は全体の60%以上が 23時までに就寝しているのに対し、2004年は1993年に比べ およそ30分以上遅延傾向にあることがわかった。. (1)生活アンケート. 生活習慣と健康状態を1993年と10年後の2004年を比較した. ところ、健康状態について(図1)は、1993年、2004年と もに「普通」「よい」「悪い」の順であった。2004年は「よ い」と回答する生徒が20%弱増え、全体の90%以上が「よ い」もしくは「普通」であった。. 50 40 30 20. 80 10. 70 60. 0. 50. ∼22:00∼22:30∼23:00∼23:30∼24:00∼24:3024:30′、′ 無回答. 40. 図4 平日の就寝時刻. 30 20. 起床時刻(図5)は、1993年は全体の70%弱が6時30分. 10. までに起床しているが、2004年は6時30分までに起床して. 0. よい. 普通. 悪い わからない 無回答. いる生徒は60%であり、起床時刻が遅延傾向にあることが. 図1 現在の健康状態について. わかった。 60. 最近の健康状態における症状(図2)は、1993年「眠い」「体. 50. がだるい」「頭が重い・ぼんやりする」「イライラする」「特にな. 40. し」、2004年「眠い」「体がだるい」「目が疲れる」「頭が重い・ぼ. 30. んやりする」「イライラする」「お腹が痛い」の順であった。1993. 20. 年に比べ2004年は、「眠い」の項目を除きすべての項目におい. 10. て、身体への不調を表す生徒が増大していることがわかった。. 0. 0. ∼8:00 ∼6:30 ∼7:00 ∼7:30 ∼8:00 ∼8:30 8:30∼ 無回答. 0 0. 図5 平日の起床時刻. 0 0 7 ′D. 平日の睡眠時間(図6)は、1993年「7.5時間∼8時間」. 5. 「7時間∼7.5時間」「6.5時間∼7時間」、2004年「7.5時間∼. 4 3. 8時間」「7時間∼7.5時間」「6.5時間∼7時間」の順であっ. 頭が重い・ぽんやり 眠い やる気が出ない大声を出したい 特になし 体がだるい 目が疲れる イライラする お腹が痛い. た。1993年に比べ2004年の睡眠時間は短縮傾向であった。 その他. 図2 最近の健康状態における症状. −120−.
(4) 首都圏中学生の体力・健康・生活および身体活動量に関する調査. 1週間の運動日数(図10)は、1993年は3.19日、2004年. 35 30. は3.05日であり、両群に大きな差は見られなかったが、1993. 25. 年に比べ2004年は「4日」「5日」実施している生徒が増加. 20. した。. 15 10 5 0. ∼5時間. ∼6時間. ∼7時間. ∼8時間. ∼9時間. 無回答. ∼5.5時間 ∼6.5時間 ∼7.5時間 ∼8.5時間 9時間∼. 図6 平日の睡眠時間 睡眠量(図7)は、1993年に比べ2004年は「十分である」. 2日 3日 4日 5日 6日 7日. と回答する生徒が増大し、「かなり不十分である」と回答す. 無回答. 図10 運動頻度. る生徒は減少した。 35. 通学意欲「学校に行くことが嫌なことがありますか」(図. 30. 11)は、1993年に比べ2004年は減少した。. 25 20 15. 90. 10. 80. 5. 70. %. 60. 0. ∼5時間. ∼6時間. ∼7時間. ∼8時間. ∼9時間. 50. 無回答. 40. ∼5.5時間 ∼る.5時間 ∼7.5時間 ∼8.5時間 9時間∼. 30. 国7 睡眠量. 20 10 0. 朝食の摂取状況(図8)は、1993年と2004年には大きな. ある. ない. 無回答. 図11学校に行くことが嫌なことがある. 差はなく、90%以上の生徒が朝食を摂取していることがわ かった。 0. 0. このように2004年の生活実態をみてみると、1993年に比. 0. 1. 0. q′. 0. べ生活習慣に対する意識が高まり、実践力も身に付いたこ. 0. 8. 0 0. とにより、健康状態も良いという結果を示している。特に. 0 0. 7. 0. 朝食の摂取状況が90%以上と高い水準を示している背景に. ′0. 0. 5. は、小揮氏が提唱する「朝ごはんを食べる→体温・血糖値. 4. が上がる→自律神経の働きもよくなる→勉強や運動に集中. 3 2. 食べない方が多い. いつも食べる 食べる方が多い. できる→早く眠れる」という生活改善の風車理論が生徒一. 無回答 食べない. 1. 人ひとりに定着したためと思われる。しかし、睡眠に関し. 図8 朝食の摂取状況. ては、睡眠の必要性は自覚しているものの就寝・起床時刻 に遅延がみられている。睡眠に対する意識、実践力が向上. 大便の回数(図9)は、1日に1回以上大便をする(2、. することにより、「眠い」「体がだるい」といった身体症状. 3回含む)生徒の割合は1993年、2004年ともにおよそ80%. は軽減され、健康状態も一層良くなると考える。. であった。 (2)体力について. 体力測定結果を文部科学省体力運動能力調査に準拠した. 方法で5段階(Aが最も体力、Dが最も低いグループ)に 分類し、総合点の分布(図12)を見てみると、1年時は50% 以上が低体力の「DJ「E」群であった。しかし、2年時で は「DJ「E」群の割合が減少し、「BJ「C」群の割合が増 加した。 1回/日 2回/日 3回/日 1回/2日 1回/3回 その他 無回答. 図9 大便の回数. −121−.
(5) 小林 博隆・小澤 治夫 他. 1 0 9 0U 7 6 5 4 3 5 5 4 4 4 4 4 4 4. 50 40 30 20. 口中1(2004) 田中2(2005). 10 0. 握力 A. C. B. D. E. 長座体前屈 シャトルラン 立ち幅跳び 上体起し 反復横とび 50m走 ルドホ○−ル投げ. 図12 体力テスト総合点の分布. 国14 体力テスト結果の推移. 総合点の変動(図13)を詳細に見てみると、30%以上が 480 470 460 450 440 430 420 410 400 390 380. 前年度より1ランク以上増加、約60%が前年同様、1ラン ク減少が10%弱であった。体力テストの総合点を見る限り、 T中学校の生徒の体力は着実に高まっていることがわかっ た。. (秒). 0. ′0 5. 0 0 00 0. 4. 0. 1985. 1995. 1990. 2000. 2005. 32. 図151500m走タイム(中学1年生男子)の変遷. 1. +1. ±0. −1. (3)歩数について. 歩数(図16)ついては、平均14,841.6歩/日であった。さ らに、体力別に歩数(図17)を見てみると、高体力群より も低体力群の方が歩いている傾向を示した。. 図13 総合点の変動. しかしながら、体力測定結果をTスコアで表し、全国平 均を50として比較した(図14)ところ、前年度より全国平 均を上回った、もしくは近づいた種目は「反復横とび」、「20m シャトルラン」のみであった。その他の6種目は、前年度 より低下傾向を示しており、全国平均から遠ざかる結果で あった。つまり、「反復横とび」、「20mシャトルラン」の記 録向上が、総合点に大きく関与している結果となった。特. 20 15 10. 5. にここで注目したいのは「20mシャトルラン」(持久走)で. 0. ∼5,000 ∼10,000 ∼15,000 ∼20,000 25,000∼ ∼7,500 ∼12,500 ∼17,500 ∼25,000. ある。 T中学校では、学校行事として毎年1月下旬にロードレー ス(4km走)を企画し、12月∼1月の体育授業で長距離走 を実施している。その際、4月に実施している体力テスト (20mシャトルラン、1500m走)の記録に対して、どれだ け伸びているかを動機付けにしている。また、体育授業の みならず、クラブ活動の波及効果により、学年が上がるご とに持久力は全国平均に近づき、高校卒業時には全国平均 を上回るのである。58期生は、現段階において向上傾向を 示しており、今後さらに向上していくことが予想できる。 なお、図15は中学1年生の1500m走タイム20年間の経年変 化である。2001年を境に低下傾向に歯止めがかかり、それ 以降著しく向上していることが明らかになった。. 国16 身体活動量の度数分布. 17,500 15,000 12,500 10,000 7,500 5,000 2,500 0. A. B. C. D. E. (n=l)(n=13)(n=50)(n=38)(n=6) 図17 体力別身体活動量 今回の調査は体力の高低と歩数のみの分析であった。今 後は、通学時間やクラブ活動などといった生活習慣を考慮. −122−.
(6) 首都圏中学生の体力・健康・生活および身体活動量に関する調査. に入れ、総合的に分析することで、より詳細に体力の高低 と歩数の関連について検討できると考える。. 4.結 論 子どもの体力低下の要因と向上のための方策を探ること. を目的として、首都圏の低体力校の中学生を対象とした、 生活・体力についての調査を行った。. その結果、1993年に比べ2004年は、生活習慣に対する意 識及び実践力が伴ったことにより、健康状態も良い傾向を 示した。また、体力ついては、全国平均に届かない種目が. 多々ある中、「反復横とび」「20mシャトルラン」は著しく 向上した。その結果、2年時の総合点では、約30%が1年 時の体力レベルより1ランクもしく2ランク高いレベルに. 推移した。持久走においては、低下傾向に歯止めがかかっ たことが確認された。. 5.参考文献 1)小洋治夫:最近の子どもの生活と健康・体力における 問題,教職研修2003.12,pp80∼83 2)小澤治夫:元気が出る学校とその要因,教職研修2004.1, pp127∼131 3)小棒治夫:生徒が変わる中・高校の学校体育をデザイ. ンする,体育科教育2005.3,pp30∼33 4)小洋治夫:子どもの体力向上のためのアクティブライ. フづくり,子どもの体力向上に関する調査研究報告書, 2006.3. 5)岡崎勝博:体育・スポーツ文化の構築を,体育科教育 2004.10,pp34∼37. 6)岡崎勝博:スポーツテストを利用し、長期的な観点か ら授業を構想しよう,体育科教育2005.5,pp62∼65 7)小林寛道:子どもの体力・おとなの体力,子どもと発 育発達Vol.3No.2,pp94∼97 8)佐藤毅:道内中学生の生活・健康・体力に関する実態 調査,釧路論集Vol.37,pp89∼94 9)三島利紀:北海道内および首都圏高校生の生活・健康・ 体力の実態調査,釧路論集Vol.37,pp123∼130. ー123一.
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