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失業をめぐる研究の視点(PDF:130KB)

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Academic year: 2021

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リーマンショック後, 現在に至るまで極めて厳 しい雇用環境が続いている。 昨年 1 年間を見ても, 7 月には失業率が 5.6% (季節調整後) に至り, 過 去最悪の数字を更新している。 多くのエコノミス トが予測した失業率を上回る悪化である。 しかも この背景にはこれまでとは比較にならない規模で 実施された雇用調整助成金が隠れている。 7 月の雇用調整助成金等に係る支給決定状況を 見ると, その対象者は約 255 万人となっているが, もしも助成金がなかったとしたら失業率はどうなっ ていたのだろうか? 独立行政法人労働政策研究・ 研修機構が行った調査 「雇用調整助成金受給事業 所の経営と雇用」 (JILPT 調査シリーズ No. 10, 2005 年) によれば, 助成金がなければ 53.5%の 事業所が解雇や希望退職の募集を行っていたとし ている。 単純にこの比率を人数に掛けて失業者に なっていたと計算すると, 失業率は 5.6%から一 気に 7.8%へと跳ね上がる。 政策によって失業が 生まれるのを抑制したことで最悪の事態には至ら なかったものの, 7%を超える失業率になるなど, 誰も予想できなかったことだ。 これは失業発生の構造が変化してきたことを意 味するのではないだろうか。 過去の数字から作っ た予測モデルがもはや通用しなくなった可能性を 感じる。 非正規雇用を中心とした雇用構造の問題, 超過勤務時間の調整の限界, 若年層の求職あきら め行動, 主婦層の不況時における求職活動の活発 化, など新たな変化を吸収して, 現状にあった失 業率予測のモデルを作りなおさなければならない のではないだろうか。 また大規模な雇用調整助成金の運用によって, 失業を抑制したことが, どのような副作用をもた らすのかを丁寧に検証する必要があるだろう。 た とえば, 失業を抑制したことで, 雇用の回復が遅 れるという, いわゆるジョブレス・リカバリーを 誘発して, かえって傷口を広げることになってし まったのではないか等, 気がかりな点は多々ある。 その他にも今回の不況は, 失業をめぐるいくつ もの問題意識を浮かび上がらせることになったと 思う。 まず, 雇用指標は失業率ばかりを見ていていい のかという疑問である。 政府は新成長戦略で失業 率を 3%台に低下させることを目標に掲げている が, 雇用指標として失業率を重視することにはい ささかの限界を感じる。 あきらめ層の増加や長期 的な人口減少を踏まえれば, 就業率こそ長期的な 成長戦略にはふさわしいのではないか, とも思う し, 量的な指標のみで語れるのかという懸念もあ る。 つまり雇用の質や働く人の満足度, 労働生産 性, 教育投資の効率などは, 失業率という大きな 指標の陰に隠れてしまっていることの懸念である。 さらに, 失業状態が長く続くことが, 長期的な 社会保障にどのような影響を与えるかということ も大きな問題である。 失業の影響はその瞬間だけ ではない。 いずれ年金額にも影響するし, 若年期 に長く失業していれば, 職業能力形成を阻害しか ねないため, その影響は生涯にわたって残る可能 性があるからだ。 このような長期的な影響にも視 線を向けておきたい。 また求職者支援法の議論が始まっているが, 非 正規労働者のような失業にさらされやすい人々の セーフティネットの強化の在り方について, 労働 政策の議論をさらに活性化させなければならない とも思う。 失業のコストを誰が負担するのかとい うことや, サービス経済化した社会における, 早 く就業に復帰できるための訓練の内容やサービス 体制などである。 今回の長く深い景気の谷は, このような失業に 関する広範囲にわたる研究を改めて求める契機に なったのではないかと思う。 (おおくぼ・ゆきお リクルートワークス研究所所長) 日本労働研究雑誌 1

失業をめぐる研究の視点

大久保幸夫

参照

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