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高性能光触媒コート膜の開発

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Academic year: 2021

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同時発表: 筑波研究学園都市記者会(資料配布) 文部科学記者会(資料配付) 科学記者会(資料配付)

高性能光触媒コート膜の開発

―腐食性ガス分解速度、従来比 30 倍を実現.(株)明電舎との共同研究で開発― 平成18年12月12日 独立行政法人 物質・材料研究機構 概要 1.独立行政法人物質・材料研究機構(理事長:岸輝雄)、光触媒材料センター(セ ンター長:葉金花)は、(株)明電舎との共同研究によって空気清浄機等に用いら れる光触媒1)フィルターの高効率化研究を推進し、従来品(明電舎)比で硫化水 素の分解速度が 30 倍以上にも達する光触媒コート膜作製のノウハウを確立し、空 気浄化装置の新製品開発に結実させた。 2.従来の酸化チタン光触媒フィルターは、例えばナノ粒子酸化チタンのスラリー とバインダ成分2)とを混合したコート液3)を作製し、フィルター基材である多孔 質セラミックに塗布し、熱処理によって固定化したものである。しかしながら、 このようなプロセスで作製されたコート膜4)では、十分な反応面積が確保されな いばかりか、内部に到達する光も少なく、含まれる酸化チタンの量と比べて光触 媒活性が極めて低いという問題があり、新たな光触媒コート膜を作製するプロセ スの開発が待ち望まれていた。 3.共同研究においては、多孔質セラミックに接着させた酸化チタンを含む塗布膜 に細孔を無数に形成し、酸化チタンの表面積の増加を図ると同時に、塗布膜内部 への光浸透性を高めることを目標とした。具体的にはチタン系バインダ成分にミ クロンサイズのアクリルビーズを含有させる。熱処理過程において、そのアクリ ルビーズを気化させることによってミクロな細孔構造をコート膜に形成させる。 その結果、実効上の酸化チタン表面積も大幅に増加し、また細孔深部まで光が浸 透するなど、総合的に光反応性の増大が実現した。また、副次的には熱処理過程 でバインダ成分に含まれるチタニア化合物の結晶化によって、酸化チタン結晶質 成分も増加し、結果として、より高活性な光触媒コート膜の開発に成功した。 4.開発されたこの光触媒コート膜の性能は、基材の多孔質セラミック、アクリル ビーズと酸化チタンの成分比、酸化チタン粒子やアクリルビーズ5)のサイズ、塗 布膜の厚さ、熱処理プロセスなどに強く依存している。それらが最適化された条 件のもと作製された光触媒フィルター6)では、硫化水素の分解速度で従来品比、 30 倍以上が達成された。 5.本技術は硫化水素等の腐食性ガスの除去を当面の目標に開発され、腐食性ガス 除去装置の製品に応用されているが、作製されたフィルター特性は大気中に含ま れる種々の有害ガス物質(ホルムアルデヒド、二酸化硫黄、アンモニア、一酸化 窒素など)の除去性能の高効率化にも適用可能であり、今後各種空気浄化装置へ の応用が期待される。 6.この研究成果は公開済み特許(光触媒及び光触媒の製造方法、公開番号: 2006-231113、公開日:平成 18 年9月7日)に基づく成果であるが、その後の発 展を含めて、2006 光機能材料研究会第 13 回シンポジウム(平成 18 年 12 月 13 日、 東京大学)で高性能光触媒コート膜の作製条件などについて詳細な発表を行う予 定である。

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研究の背景 酸化チタン光触媒(TiO2光触媒)は、空気中や水中の有害物質を分解する浄化作用や、 抗菌作用、防汚作用を有することが知られ、環境材料として様々な製品に応用され、 ている。実際、空気中の有害物質を分解する浄化装置では、セラミックスやガラス、 金属などの基材の表面にTiO2光触媒を塗布したコート体が利用されている。 従来の空気清浄機に多く用いられているコート体である酸化チタン光触媒フィルタ ーは、例えばナノ粒子酸化チタンを分散させたゾルやスラリーとバインダ成分とを混 合したコート液をフィルター基材である多孔質セラミックに塗布し、熱処理によって 基材表面に固定化したものである。このようなプロセスで作製されたコート膜にはナ ノスケールの細孔構造がコート液の熱処理や焼成過程で形成され、見かけ上、光触媒 の比表面積は増大する。ナノオーダーの有害化学物質は、コート膜表面の酸化チタン のみならず、こうした細孔構造の内部表面にも吸着するが、概して活性は高くならず、 浄化装置の普及の壁となっている。その原因は、ナノスケールの細孔構造が付与され たとはいえ、コート膜下層部まで到達する光が少なく、光触媒反応は最表面に限定さ れ、細孔組織内部に吸着した有害化学分子の分解までには至らないことによる。言い 換えると、光触媒反応に十分な表面積が確保されないということであり、含まれる酸 化チタンの総量と比べて光触媒に有効な酸化チタンの量が少なく光触媒活性が極めて 低いという結果になる。そのため、有害分子除去の高効率化には、コート膜全体に光 が行き渡り、光触媒反応に最適な表面構造で実効表面積も大きい新たな光触媒コート 膜を作製するプロセスの開発が必要となる。 当機構の光触媒材料センターと(株)明電舎とは、こうした課題を解決すべく、新 しい光触媒コート膜の開発をテーマに共同研究を実施した。 今回の研究成果 共同研究では、明電舎側がコート膜の作製と実用に近い環境での光反応特性の評価、 当機構側がその X 線構造解析や組成解析、電子線表面構造解析、モデル有機物分解活 性評価等を分担し、共同してコート液や熱処理条件、表面構造の最適化を究明した。 その結果、硫化水素の分解速度で従来品(明電舎製)と比較して、30 倍以上に達するコ ート膜の開発に成功し、高性能空気清浄機を開発する基盤技術になった。 本研究開発における従来技術との相違は、これまで見出されていたコート膜のナノ スケールの細孔組織ではコート膜全体への光の浸透性が不足し、光触媒反応の高効率 化には至らないという解析結果から、1桁以上大きなミクロンオーダーの細孔構造を 積極的にコート膜に付与したことである。すなわち、多孔質セラミックに接着させた 酸化チタンを含むコート膜に、紫外線の上限波長 0.4 ミクロンよりも十分長い1~数

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なお、開発されたこの光触媒コート膜の性能は、アクリルビーズと酸化チタンの成 分比、酸化チタン粒子やアクリルビーズのサイズ、塗布膜の厚さ、熱処理過程での加 熱速度や焼成温度などのプロセスなどに強く依存している。さらに基材である多孔質 セラミックの選択も重要なパラメータとなる。それらの積み上げの結果、最適化され た条件のもとで作製された高性能な光触媒フィルターでは、硫化水素の分解速度で従 来品比、30 倍以上が達成された。 そのフィルターを用いた硫化水素の光触媒分解試験の結果が、試験装置の概要と共 に図1に示されている。従来品(明電舎製)と比較して、硫化水素の分解速度が飛躍的 に増加したことが明瞭である。また分解速度には、光触媒表面での分子の吸着・脱離 も重要なパラメータになる。すなわち、細孔のサイズが大きくなったことによって、 有害分子が吸着し、光触媒反応によって分解した生成物が除去されるという分子の移 動のサイクルも促進され、総合的に高活性が実現した。 波及効果と今後の展開 光触媒材料は、光によって励起されたホールと電子が非常に強い酸化・還元力を持 つことを利用し、有害化学物質の分解浄化や殺菌、防汚さらには水を分解して水素と 酸素を発生することもできる。光触媒材料のこれらの機能が、電気やガスなどの他の エネルギーを使用することなく、光照射下のみで起こるために環境&エネルギー問題 の解決に貢献できる未来材料として期待されている所以である。こうした優れた総合 性能から、光触媒の市場規模は将来3兆円にも達すると言われている。 しかしながら、光触媒反応のメカニズムが完全に解明されていない現在、その量子 収率8)はまだそれほど高くなく、また特に実用的な用途に加工された部材においては 効率が極めて低いものが多いため市場拡大の妨げになっている。今回、30倍もの効率 改善が実現した背景には、上述したように実用部材では活性が物質特性に届かないと 言う問題が潜んでいる。こうした反省に則り、これまでの知見に基づき材料形状に有 効と思われる対策を施した結果が、物質特性に大幅に近づく成果に結実した。メカニ ズムが完全に解明されていないとは言え、高効率化の処方箋が提案されたことによっ て、光触媒が高性能な空気清浄機などへ応用される可能性の飛躍的な増大が見込まれ る状況になったと理解している。 実際、今回開発された光触媒コート膜の技術は、硫化水素ガスの分解除去のみに止 まらず、ホルムアルデヒド、二酸化硫黄、アンモニア、一酸化窒素などの分解除去に も適用され優れた特性が得られ、各種有害物質の除去に今後応用が進むものと期待さ れる。

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問い合わせ先: 〒305-0047 茨城県つくば市千現1-2-1 独立行政法人物質・材料研究機構 国際・広報室 TEL:029-859-2026 〒103-8515 東京都中央区日本橋箱崎町36-2 (リバーサイドビル) (株)明電舎 広報室 TEL:03-5641-7140 (岡田) 研究内容に関すること: 独立行政法人物質・材料研究機構 光触媒材料センター 葉 金花(よう きんか) TEL:029-859-2646 FAX:029-859-2301 〒141-8565 東京都品川区大崎2-1-17 (株)明電舎 総合研究所 環境研究部 野口 寛(のぐち ひろし) Tel:03-5487-1542 FAX:03-5487-1596

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用語解説 1)光触媒: バンドギャップが3エレクトロンボルト前後の半導体。酸化物が一般的。300~ 600nm位の光照射によって、半導体の価電子帯から伝導体に励起した電子と価電子帯 に現れる正孔が持つ非常に強い酸化・還元力を利用した材料。有害物質の分解除去、 殺菌、防汚などの他、水分解によって水素ガスの製造も可能。近紫外線領域から可 視光領域の光をエネルギー源として反応を起こす。そのため、環境に優しい環境材 料&エネルギー材料として期待されている。 2)チタン系バインダ成分: バインダ成分はコート液と混合して酸化チタン粒子を接着して膜強度を高めるた めに用いる。バインダ成分としては、テトラメトキシシラン若しくはテトラエトキ シシランのシリカ化合物、四塩化チタン、過酸化チタン、燐酸チタン、シュウ酸チ タニルアンモニウム、アモルファスチタン、及び含水酸化チタンの少なくとも一種 以上を含むチタニア化合物、並びにこれらのチタニア化合物と結晶性酸化チタンの 混合物等がある。チタン系バインダ成分とは、熱処理過程で有機成分が気化し、チ タンの酸化物のみが膜中に残留するバインダ成分のことを指す。 3)コート液: ここでは、光触媒となる酸化チタンの微粒子を分散させたゾルやスラリーなどの 溶液のことを指す。 4)コート体(膜): コート液をセラミックやガラスなどの表面に塗布し、熱処理などで固着化したも の。 5)アクリルビーズ: 発泡樹脂のこと。コート液に含有させ、熱処理を行う際に気化させ、コート膜表 面に細孔構造を付与するために使用する。 6)光触媒フィルター: 多孔質セラミックの表面に光触媒の強固なコート膜を形成したもの。空気浄化装 置の内部に組み込まれ、効率的に有害化学物質などを光触媒反応で除去するために 利用されている。 7)量子収率: 光触媒反応系では、反応過程で光をどれだけの効率で利用できたかを表すパラメ ータ。反応した分子数と吸収した光子の数の比で表す。実際には、個々のプロセス に対応して評価される。比表面積が大きいほど、大きくなると考えられている。

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(7)

Fan

ブラックライト

サンプリング

試験室 (1m

P 3 P

)

ファン

光触媒をコートした

セラミックフィルタ

ファン

有害ガ

容器

光触媒式空気浄化装置

ガス流入口

(b)

(a)

硫化水素

除去速度

従来品との

速度比

従来品

0.035 min

-1

1

新規開発品

1.17 min

-1

33.3

図 1 (a)硫化水素の分解実験の結果。(b) 評価試験装置の概略.新規に開発したコート膜技術で作製したフィルターを用いた場合と 従来技術のフィルターで行った比較実験の結果.新規開発品の分解速度が飛躍的に増大した.評価試験では、(b)の閉鎖系

参照

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