310 人 工 知 能 29 巻 4 号(2014 年 7 月) 「何かを維持・継続させようとすること」は,別の見方をすれば「動かずじっとしていること」ともいえます.あ る組織やコミュニティを存続させようとすればするほど,その組織の活力は低下し,本来はある別の目的があって生 まれた組織のはずが,その組織を継続させることが目的となりがちです.このような例が,特に日本においてはあち こちに見られると思います.学会や研究会といったコミュニティは,そもそも,専門とする研究分野や目指す研究目 的を共通とする研究者集団による,研究レベルの向上や意見交換,そして研究分野の裾野の拡大などを目的として設 立されるものであり,その観点からは,その研究分野が学問として定着したとか,その分野の研究が十分に熟成され た時点で自発的に解散し,それに変わる新たな研究分野を対象とする学会や研究会が生まれる……,といった展開こ そがコミュニティの本来あるべきダイナミクスなのだと思います.この捉え方に基づきますと,人工知能学会は常に 発展し続け活力あるコミュニティであり,その学会の顔である学会誌も常に変化しております.特に,前任の松尾 豊編集委員長時代における,学会誌の名称の変更(「人工知能学会誌」から「人工知能」への変更)や,世間におい てさまざまな議論を巻き起こしました学会誌表紙の変更を始めとする変化は,単に客観的な変化に留まらず,人工知 能研究と社会との関係に大きな変化をもたらし始めております.つまりは,最近における,社会から人工知能研究へ の急接近です.ちょうど,この 7 月号が出版される直前において,人工知能をテーマとする映画が 2 本公開されますが, それらのテーマの根本には,「人工知能は我々人の知能や知性を越えるのであろうか?」や「果たして人工知能は我々 のように意識をもち,人と人工知能との間に恋愛感情は生まれるのか?」といった根深い問題が横たわっております. 最近ではチェスに続き,将棋においてもコンピュータの強さが人と同等になりつつありますが,その意味ではチェ スや将棋など,“用途を限定すれば”,コンピュータは人ならではの知的作業においても人を確実に凌駕しつつあると いえるでしょう.しかし,人とコンピュータでは,次の一手を考えるプロセスが大きく異なります.コンピュータ は,すでに人を大きく凌駕した記憶力と計算力を駆使することで,ようやく人と同じレベルに到達しつつあるのだと いえます.逆の見方をすると,人は,コンピュータよりもはるかに劣る記憶量と計算力で,これらの能力において人 を大きく凌駕するコンピュータと肩を並べているわけです.そして,この部分こそが人ならではの知能であり,この 仕組みが詳細に解明され,コンピュータで実現されたときが,コンピュータが汎用的な知能・知性を身につけ,人を 凌駕するときといえるのだと思います.では,そのときは本当に来るのか? ということですが,2045 年には完全 にコンピュータが人の知能を超えるという予測(シンギュラリティ(技術的特異点)などと呼ばれます)もあります が,その信憑性においては意見が分かれています.しかし,2045 年よりも遅くなるか早くなるかの議論はありますが, 私はその時は確実に来るのだろうと思います.そして,シンギュラリティの到来を裏付けるように,Deep Learning といった新しい可能性の台頭を始め,脳科学やナノテクノロジー,ロボット技術の急速な発展など,特に米国におい て人工知能を中心とする大きな変化が起きております. 我々もこの展開に遅れをとるわけには参りません.そのためにも,人工知能学会は常に,国内における人工知能研 究者にとってアクティブな存在である必要があり,そのためには,学会の顔である学会誌こそが常に躍動的であるこ とが必要不可欠だと思います.研究者向けの取組みとしての,国内研究の海外に向けた情報発信戦略や,これまでは 紙媒体をメインとする学会誌の Web での本格的な展開,そして,これまでの主に学会会員のための学会誌から,社 会との関係を強く意識した情報発信のための新たな展開など,これの 2 年間での変化が起爆剤となり,さらなるさ まざまな躍進に向けた変化が求められております.単に研究者向けの研究や技術だけに着目するのではなく,社会に 対する人工知能研究に関する公的情報発信媒体としての責任を強く意識しつつ,編集委員会一丸となり,これからの 2年間の学会誌づくりを頑張りたいと思います.
動き続けるということ(新会長就任挨拶)
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