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教育相談および生徒指導におけるスケーリング・クエスチョン活用の可能性

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教育相談および生徒指導における

スケーリング・クエスチョン活用の可能性

佐 瀬 竜 一

Possibility of applying Scaling Question of Solution

Focused-Approach to Student Guidance and Educational Counseling

Ryuichi SASE

2018 年 11 月6日受理 抄   録  本研究では、スケーリング・クエスチョンを個人および集団で用いた実践について 報告し、スケーリング・クエスチョンの教育相談や生徒指導への寄与や活用可能性、 および今後の課題について考察した。実践 1 では、スケーリング・クエスチョンを中 核に据えた5分面談について取り上げ、実践 2 では教育相談や生徒指導に関係する教 員集団を対象としたスケーリング・クエスチョンを用いたワークについて報告した。  個人でも集団でも使用可能で、具体的な質問内容が明確であるスケーリング・クエ スチョンは教育相談活動を充実させる、さらには生徒指導と教育相談の架け橋にもな り得るツールとして教育相談の場で活用できる可能性があると論じた。 キーワード:教育相談、ソリューション・フォーカスト・ブリーフセラピー、 スケーリング・クエスチョン、視覚的アナログ尺度、生徒指導 はじめに  スケーリングを取り入れた、スケール(物差し)を用いた質問の一例として、スケー リング・クエスチョンを挙げることができる。  スケーリング ・クエスチョンとは、「クライエントの整理されていない経験を数値化 させることで 、現状を客観的に捉え、今後の見通しを立てたり、解決すべ き問題の優 先順位を知る手が かかりとするもの」と定義される、ソリューション・フォーカスト・ ブリーフセラピーで用いられている質問法である(DeJong & Berg, 2013)。具体的 にはまず1)「一番望んでいる最高の状態を 10 とし、想定できる最悪の状態を1とし たときに、今いくつで すか」のように質問することから始める。次に、この質問に対

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して得られた回答(数字)の内容について、2)「どうやってその数になったのですか」 と質問する。その後3)「今より1(もしくは 0.5 上がっているとき、どのような状 態で何ができていますか」と質問を進めていく。  1)を行うことで、現在の状態を具体的な数値として客観的に把握できることに加 えて、評定した本人と質問者の間で言語化しにくい状態像を同一の数字で共有するこ とが可能になる。また、2)を行うことで、本人のリソースや例外および成長可能性 を評定者自身から引き出し気づいてもらうことが可能になる。加えて、3)を行うこ とで、具体的かつ現実的な目指す姿や達成目標を明確にすることができる。このよう に、スケーリング・クエスチョンを行うことは多くの成果を生むことが指摘されてお り、伊藤(2009)はスケーリング・クエスチョンの効果を「考え方の具体化、段階化」、 「自分の状態の把握の明確化」、「成功体験の認識」、「段階的に解決へ進めるという理 解」、「目標の明確化」、「解決への行動」の6種に整理している。  このスケーリング・クエスチョンは、ソリューション・フォーカスト・ブリーフセ ラピーの数ある質問法の中で最も使いやすく汎用性が高いため(黒沢 , 2018)、教育 相談および生徒指導においても活用しやすいと考えられる。実際に、教育相談場面で のスケーリング・クエスチョン活用の実践(若山 , 2004)、高校受験に関するストレ スマネジメント教育におけるスケーリング・クエスチョン活用の実践(下田 , 2008) などが報告されている。  このように、スケーリング・クエスチョンについて研究や実践が蓄積されるように なってきてはいるが、今後のさらなる普及発展のために実践や研究の蓄積が求められ る。加えて、スケーリング・クエスチョンを取り入れることが教育相談や生徒指導に 具体的にどのように寄与するのかについては十分には考察されていない。  本研究では、スケーリング・クエスチョンを個人および集団で用いた実践について 報告し、スケーリング・クエスチョンの教育相談や生徒指導への寄与や活用可能性、 および今後の課題について考察する。 実践1:個人面談におけるスケーリング・クエスチョンの活用  筆者がスクールカウンセラーとして従事している中学校では、1年生全員について 教育相談員と分担して、教育相談関係者の顔と名前を覚えてもらうこと、1年生の様 子について把握することの2点を目的に毎年新入生全員面談を行っている。筆者は 30 人程度の面談を担当するが、昼休みや放課後の時間など生徒の学習や部活動の合 間を縫って行う必要があるため、一人あたりにかけることができる時間は3分程度、 長くて5分と短時間である。もちろん、もっと話したい、相談したいことがあるとい う場合には別日に再度設定して面談を行う場合もあるが、基本的にはその時間内に一 定のやりとりとアセスメントを行う必要がある。  上記のような制限のある環境下で行う面談において有効な質問法の一つとしてス

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ケーリング・クエスチョンを挙げることができる。以下ではスケーリング・クエスチョ ンを中心とした5分面談の大まかな流れについて記載する。  ①名前、クラス、部活などについて簡単に確認する  ②「いきなり変なこと聞いて悪いけど」などと前置きをした上で、「勉強、部活、 家のことなど、全てのことがうまくいっている最高の状態を 10、全部がうまくいっ ていない駄目な最悪な状態を 1 として、今の自分はいくつぐらいか教えてもらっても いい」とスケーリング・クエスチョンを取り入れた質問を行う。  ③難しい質問に答えてくれたことをコンプリメントしながら、「今答えてくれた数 字○より、1(もしくは 0.5)上がった状態ってどうなっていると思う」と尋ねる。 あまり答えがでてこない場合は、「勉強面はどう」「部活は」「学校での生活は」「家の ことについては」など、面談している生徒の様子を見ながら可能な範囲で具体化して いく質問を行う。  ④教育相談関係者は生徒一人一人が1(もしくは 0.5)もしくはそれ以上、上がっ た状態になるための手伝いをする者であること、中学校は小学校と勝手が違うので戸 惑うことや悩むことは誰でもあり得るから遠慮せず声をかけてほしいことの2点を伝 えて面談を終了する。  上記②のようにスケーリング・クエスチョンを取り入れた質問を行うことによって 面談した生徒の状態を自己評価ではあるが1個の数値で把握しアセスメントを行うこ とができる。また、③のように数値が上がった状態に焦点化して話を聴くことで、本 人がどうなりたいのか、どうよりよくなりたいのか、何を改善したいと思っているの かという本人のニーズや希望が明らかになる。  事前に目的や趣旨は伝えているものの、生徒の中では呼び出されての面談で何を聞 かれるのかについて不安を覚える者も多い。特に、問題行動を起こしている、起こし やすい傾向を持つ生徒ほど面談および面談者に対する警戒心は強いことが多い。とこ ろが、面談に来てみたら普段馴染みのないスケーリング・クエスチョンという変わっ た質問をされて、1(もしくは 0.5)上がった状態について聞かれるのみで終了となる。 スケーリング・クエスチョンにおいては、答えた数字の内容について「どうやってそ の数になったのか」などと質問していくことが多いが、今回は面談への不安や警戒心 を考慮してその質問は行わないようにした。未来の幸福感を高く見積もるという青年 の特徴が指摘されており(Robinson & Ryff,1999)、未来の話から入り、未来により 焦点化する方向性で会話を始めた方が不安や警戒心が低下して話しやすくなると考え られる。  このように面談の中では現在や過去について詳細に尋ねられることはなく、未来の ことにより焦点を当てることになる。黒沢(2008)は、未来を想起する質問によって 生じる自身の未来の映像体感(既にその未来の状況をありありと経験し達成したかの 感覚)が、重要な変化をもたらすことを指摘しており、未来の内容に焦点を当てるこ

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とは変化や成長のきっかけにつながると考えられる。教育相談関係者の顔と名前を覚 えてもらうこと、1年生の様子について把握することの2点を目的に行っている1年 面談であっても、教育相談の一環として行っている活動であるため、生徒の成長や変 化につながる活動もしくはそれを目指す活動である必要がある。未来に焦点を当てる ことを中心とした上記の面談は生徒の成長や変化のきっかけとなる機会になると考え られる。実際に、「やってみようと思えた」「少し元気が出て前向きになれた」との報 告も聞かれた。したがって、教育相談の中で初対面やはじめての面接など、生徒の不 安や警戒心が強い状況では本実践のような未来により焦点化した流れでのスケーリン グ・クエスチョンを用いた面接方法が安全であり有効であると思われる。  また、スケーリング・クエスチョンを取り入れた面談を行うことによって、他の教 職員と共有しやすい情報を得ることが可能になる。上記のように現在の状態を1個の 数字で表現する質問を行うため、現状の生徒自身の自己評価について数字で把握する ことができる。近年では、チーム学校として学校の教職員内での情報共有や連携を行 うことがこれまで以上に求められているが、実情では教師を中心に多忙を極めている ために物理的時間も十分に取れず情報共有や連携が難しい状況にある。スケーリング・ クエスチョンによって得た数字であれば分かりやすい情報であるため、共有もしやす い。極端に数字が低い生徒については教職員が注視しておくことで問題の予防や解決 につなげることができる。このようにスケーリング・クエスチョンは、学校内での情 報共有や連携をより行いやすくするためのアセスメントツールとして、チーム学校に おける教育相談体制の充実に寄与する方法であると考えられる。  加えて、教師が捉えている生徒の状態と生徒自身が捉えている自身の状態のズレを 発見することにもつながると考えられる。教師から見て、活発に学校生活に取り組ん でいるように見える生徒でも内面では悩みや問題を抱えていることも少なくない。そ のような状態を早期に発見することは簡単なことではない。しかし、スケーリング・ クエスチョンによって生徒自身の現在の状態を数字で可視化することにとって、教師 はその生徒の状態について楽観視していても、実は生徒自身は苦しんでいる状態だっ たというような状況を発見することが可能になる。スケーリング・クエスチョンは問 題の早期発見や対処にも貢献することができる方法であるといえる。  一方、勉強に苦戦していて学業成績が芳しくない生徒の場合、数字を尋ねると勉強 や試験を連想してしまい、ネガティブな感情を抱くこともある。このことに配慮して、 上記の面談の中でスケーリング・クエスチョンを使う際には「○点」と点という表現 はつけないようにしている。そのような配慮をしていても、面談を行っていて自分で 「○点」と点数と位置づけて回答する生徒や、回答に困難を示す生徒も存在する。こ のような問題に対処する方法の一つとして、視覚的アナログ尺度(Visual Analogue Scale:VAS)を援用する方法を挙げることができる。視覚的アナログ尺度(図1) は主観的な痛みの程度を測定するために開発された方法で、具体的には長さ 10 ㎝の 水平な直線の横線を被験者に見せ、その横線上の左端を疼痛なし、右端をこれまでに 感じた最悪の痛みとして、現在感じている痛みの程度を線上に示してもらい、その長

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さをもって数値化する方法である(Aitken, 1969: Huskisson, 1974)。 痛みがない   0 10 ㎝のスケールを使用 想像できる最大の痛み    100(10) 図 1 視覚的アナログ尺度の一例  数字で回答しにくいと思われる場合に、この VAS を以下のように取り入れて面談 を行った。具体的には図 2 のような VAS を提示しながら、「勉強、部活、家のこと など、全てのことがうまくいっている最高の状態を 10、全部がうまくいっていない 駄目な最悪な状態を 1 として、今の自分はどのくらいのところにいると思うか。この 線の上に書いてもらってもいい」と記入を求める。その後、記入してもらった位置よ りわずかに 10 に近い位置に線を書いて見せて、「今答えてくれた位置より、少し 10 に近づいた状態ってどうなっていると思う」と尋ねる。  このように VAS を取り入れる方法は、数字で回答しにくい生徒への対処法の一つ として活用することができると考えられる。実際に、数字のみで質問した場合には回 答できなかった生徒が、この方法を使うことで質問に回答することができたという事 例も複数存在した。                   

       

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図 2  面談で用いている視覚的アナログ尺度  これらのことから、スケーリング・クエスチョンは、短時間でのアセスメントおよ び情報共有が要求される学校教育現場において有効なアセスメントおよび援助ツール として教育相談の質向上に寄与する方法であるといえる。 実践 2:集団におけるスケーリング・クエスチョンの活用  スケーリング・クエスチョンは上記のように個人で用いることもできるが、集団で 用いることも可能である。Young(2009)は、望んでいる未来についてスケーリング・ クエスチョンを用いて生徒や教職員が集団で話す方法を考案し、いじめ防止に役立つ ことを指摘している。黒沢・渡辺(2017)も、スケーリング・クエスチョンを用いた 「最高のクラス」を考えるワークをクラスづくりに取り入れることの有効性を示して いる。生徒を対象に望んでいる未来についてスケーリング・クエスチョンを用いて集 団で話す方法については、WOWW(Working on What Works)アプローチ(Berg & Shilts, 2004)や解決志向のクラスづくり(黒沢・渡辺 , 2017)でも取り上げられ

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ているが、教職員を対象にした実践報告は少ない。加えて、ただスケーリング・クエ スチョンを導入しただけで集団でのワークが可能になる訳ではなく、実際に行う場合 には多くの配慮や準備が必要となる。この点についても十分な議論や検討が行われて いるとは言い難い。  そこで、以下では筆者が小学校もしくは幼稚園教諭を対象に教育相談をテーマに担 当している教員免許更新講習の中で行っている、集団の中でスケーリング・クエスチョ ンを活用したワークについて取り上げる。講習を受講している教員は教育相談や生徒 指導に従事している、もしくは興味関心を持つ教員である。  まず、図2のようなスケールを用意して、Young(2009)を参考に、「可能な限り 最高の 10 の状態の学校を訪れたと想像してください。どんなことが起こって、何に 気がつくか、何が見えて聞こえるかを可能な限り一人で考えて書き出してください」 と指示する。このようにまず個人で考える個人思考の時間を確保する。杉江(2011) も指摘しているように、いきなり集団で考える、話し合うよりも個人思考の時間を先 行して確保することで、グループでの話し合いの際に個々の発言量のばらつきが小さ くなり、より有意義なグループでの話し合いが可能になると考えられる。  次に、5人程度のグループを作る。そしてグループ内で個人で考えたことを基に話 し合う。この時、筆者は話し合いがやりやすくなるように「えんたくん」(川嶋・中野 , 2018)を使用している。「えんたくん」とは、直径1メートルの円形ダンボールの上 に同じ大きさのクラフト紙を重ねて、それをグループメンバーが膝の上で支え合って テーブルのように使う対話のツールである(図 3)。このツールを用いることで、物 理的に話し合いが行いやすい距離感を作ることが可能になる、また手元に書きながら 話し合いに参加することができる、書いた内容を基に話をすることができるために、 対話自体が促進されることが指摘されている(川嶋・中野 ,2018)。スケーリング・ク エスチョンは普段の会話ではあまり使わないので、スケーリング・クエスチョンで問 われる内容について考えて話し合うことは簡単なことではない。1対1の対話なら、 回答のきっかけやヒントを質問者が提供しながら丁寧にスケーリング・クエスチョン について考え、話合うことができるが、集団の場合は個別の対応が難しい。したがっ て、話し合いがやりやすくなるような工夫やしかけが必要となる。「えんたくん」は、 スケーリング・クエスチョンの難しさへの工夫の一つとして活用できる可能性がある と考え、活用することにした。 図3 「えんたくん」を使用している様子

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 グループ内の話し合いが一段落して、一定数の記述が「えんたくん」に記載された ところで(図 4)、ワールド・カフェの方法を援用して、グループ間での内容の共有 を行う。ワールド ・カフェ(World Cafe)は、知識や知恵は人々が オープ ンに会話を 行い、自由にネットワークを築くことが で きるカフェのような空間で 創られる、とい う考えに基づいて 1995 年に開発・提唱された話し合いの手法で ある(Brown & Isaacs, 2005)。ワールド・カフェは、短時間で 大勢との対話が 可能で あり、活溌な意 見交換、議論を導くとして教育実践にも利用されている(井上 , 2012)。具体的には、 グループ内で一人がホスト役として残り、グループの他のメンバーが他のグループの 場所に移動する。そして、ホスト役はグループ内での話し合いの内容を集まった他の グループのメンバーに伝える。その後、移動していたメンバーは元のグループに戻っ て聞いてきた内容を同じグループのメンバーに伝える、そして必要に応じて書き加え て記述の量と質を充実させるという流れで進める。流れが構造化され、一人一人の役 割が明確であることによって、特定のメンバーのみに負担が偏ることなく全員が情報 共有の作業に携わることができる。一人当たりの負担も少ないので、集団でアイデア や意見を考える、特に多くのアイデアや意見を特定の方向に偏ることなく出したい場 合に適した方法といえる。この実践では、10 の状態の学校について多くの記述が出 た方が、より具体的に理想の学校について明確にすることができるので、ワールド・ カフェは今回のワークの目的に沿った方法であると考えられる。 図4 本実践における記述例  しかし、数を多く挙げただけでは意味がない。参加者各自の今後の教育実践につな げて考えていく必要がある。そこで、挙げた内容の中で「すでに行っていること」が

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ないかを探してもらう。ただ理想の状態を眺めているだけでは現実のギャップを感じ て意欲が低下するのみである。すでに行っている、できていることがないかという視 点で記述一覧を眺め直してみることで参加者である教師自身のリソースを再発見する ことにつながる。そして、「すぐに始められそうなこと」を探してもらう。これは実 践1における、③「今答えてくれた数字○より、1(もしくは 0.5)上がった状態っ てどうなっていると思う」に該当する部分であるといえる。理想にまず一歩近づくた めに具体的にできる行動は何かを考えていく。  このワークを行うことで、教師自身が意識的、無意識的にどんな学校を目指してい るのかを可視化することが可能になる。何に重きを置くかで教師自身の行動は変わる ため、教師は何を日々の教育実践で重視しているのかに自覚的である必要がある。こ のワークを行うことによって自分や他者の理想が可視化されて、自分の理想を自覚す ると共にその偏りや不足についても見直すことが可能になり、教師の日々の教育活動 の幅が広がる効果が期待できる。  また、このワークによって理想とする学校像を可視化することで学校の理想像や学 校に関する価値観をより共有しやすくなることが期待できる。チーム学校として学校 が機能するためには、教職員間で学校の理想や価値観などについてのお互いの共通点 や差異を共有しておくことが望ましい。しかし、理想や価値観を共有することは元来 難しいことに加えて、役職や日常の人間関係などもあり困難を極めることが予想され る。上記で取り上げたワークを行うことで、共有しやすくなると考えられる。加えて、 このワークでは「可能な限り最高の 10 の状態の学校を訪れたと想像してください」 と教示している。自分たちが普段勤務している学校だと現実的な制約が働き、理想像 を可視化することが難しいが、架空の理想の学校を訪問するという設定により、第三 者の視点で理想の学校について考えて語ることができる。このことによって、より多 くの普段なら意識しないような理想像についても視覚化し、共有することが可能にな る。この理想像の共有は、違う校種間でも可能であり、また必要であると思われる。 今回のワークの中では幼稚園教員と小学校教員が同じグループに混在する場合もあっ た。お互いに「幼稚園の先生がこう考えているなんて知らなかった」、「小学校と幼稚 園で共通している部分もあることに驚いた」というような反応が多くみられた。校種 間での理想像の共有は、近年推奨されている小中一貫教育のような校種間の連携をよ りスムーズに進めることにつながると考えられる。上記のワークも連携をスムーズに 進めるための一助になることが期待される。  さらに、理想像を視覚化することに加えて「すぐに始められそうなこと」について 考えることによって、まず何をすればよいのかという方向づけが行われて動機づけが 高まるという効果も期待できる。実際にこのワークについて「今後の教育活動への意 欲が湧いた」「自分が何をしたいのかが見えてきた」「子どもたちにも行って教師と子 供が理想を共有してクラスづくりを行いたい」などの感想がみられた。したがって、 上記で紹介したワークは参加者の教育に関する動機づけを現実的に段階的に高める方 法として活用できる可能性があると考えられる。

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まとめと今後の課題  本研究では、スケーリング・クエスチョンを個人および集団で用いた実践について 報告し、その活用可能性について論じた。スケーリング・クエスチョンはソリューショ ン・フォーカスト・ブリーフセラピーの数ある質問法の中で最も使いやすく汎用性が 高いため(黒沢 , 2018)、教育相談および生徒指導においても活用しやすいと考えら れるが、スケーリング・クエスチョンの特徴を踏まえた、スケーリング・クエスチョ ンに特化した実践報告や検証は十分には行われていない。本研究がスケーリング・ク エスチョンに関する実践や研究のさらなる発展の一助となることが期待できる。  教育相談は様々な心身の悩みや問題を抱えた児童生徒が増加している現在,より重 要視されるようになってきている(中川・森 , 2015)。 しかし、教育相談に関する明 確な実践のノウハウが日本は諸外国と比較して十分ではないという指摘もあり、重要 視されて高まっている社会的ニーズに十分に教育相談が対応できているとは言い難 い。加えて、生徒指導の中での教育相談の位置づけの曖昧さも教育相談が十分に機能 していない一因として挙げることができる。中川・森(2015)は、教育相談を「個人 性」、「独自性」、「個別性」、「実態性」の特徴をもつ生徒指導と位置づけ、生徒指導は 集団に対する意識や集団教育の要素が強く、教育相談は個に対する意識や個別援助の 要素が強いものであるとしている。個人でも集団でも使用できて、具体的な質問内容 が明確であるスケーリング・クエスチョンは教育相談活動を充実させる、さらには生 徒指導と教育相談の架け橋にもなり得るツールとして教育相談の場で活用できる可能 性があると考えられる。  一方で、今後教育相談活動の中でスケーリング・クエスチョンを用いる場合に配慮 すべき事項も存在する。それは、数字の高低に左右されすぎない、絶対視しないとい うことである。伊藤(2017)も指摘しているように、低い数値が回答された場合には, すぐにリソースの把握に進まず、数値の背景にあるクライエントの困難、大変さ、辛 さを理解することが重要となる。加えて、回答された数値がそれ程低くない場合でも、 数値に潜在するリソースの把握のみに面接者が終始すれば、クライエントの問題を面 接者が軽視していると思われかねない。スケーリング・クエスチョンによって得た数 字は回答したクライエントの入口であり、一部であることを念頭に置いて使用する必 要がある。スケーリング・クエスチョンによって得た数字を絶対視しないためにも、 可能であれば定期的に同様の質問を行い、その変化に注目することが望ましいと考え られる。  本研究で報告した実践はあくまで試験的な試みであり、今後さらなる検討の余地が 残されている。実践や研究を積み重ねることで、より望ましいスケーリング・クエス チョンの活用について多角的に検討していきたい。

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引用文献

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