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IRUCAA@TDC : 実験的下顎偏位が静止立位姿勢に及ぼす影響

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Academic year: 2021

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Posted at the Institutional Resources for Unique Collection and Academic Archives at Tokyo Dental College, Available from http://ir.tdc.ac.jp/

Title

実験的下顎偏位が静止立位姿勢に及ぼす影響

Author(s)

山崎, 豪

Journal

歯科学報, 117(1): 31-37

URL

http://doi.org/10.15041/tdcgakuho.117.31

Right

Description

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はじめに 近年,様々な格闘技,コンタクトスポーツ,バス ケットボールやハンドボールなど外傷が少なくない 競技では外傷予防を目的としてマウスガードの装着 が義務化されているものがある。2015年ラグビー ワールドカップでは日本代表がカラフルなマウス ガードを,2016年リオデジャネイロオリンピックで は女子レスリングの日本代表選手が白いマウスガー ドを使用して活躍している姿をご覧になった方もい らっしゃると思う。また,転倒などによる外傷が多 いスキー・スノーボード等の競技にだけでなく,テ ニスなど外傷が少ない競技においても試合中にマウ スピースを使用しているプレーヤーもおり,テレビ でマウスピースを口から出し入れする仕草が放映さ れた事に気づいた方もいらっしゃるかもしれない。 このように装着が義務化されているスポーツ以外で もプレー中にマウスガードを装着しているアスリー トを見かけることが多くなってきている。このよう な現象は,後述するようにマウスガード使用時を含 め下顎位などの顎口腔系の状態は,運動の遂行に重 要な平衡機能に影響を及ぼす1−6)ことをプレーヤー が感じ取っているからであると思われる。 一方,わが国では急速な勢いで超高齢化に向かっ ており,健康寿命を延伸するためには適切な運動を 行い身体機能および脳機能を活性化することが重要 といわれているが,平成25年の厚生労働省「国民生 活基礎調査」によると65歳以上の要介護者等につい て,介護が必要になった主な原因についてみると, 「脳血管疾患」が17.2%と最も多く,「骨折・転倒」 が12.2%となっている(表1)。転倒の原因の中で身 体機能に関する要因としては筋力・視力・平衡機能 の低下があるいわれている。 平衡機能を評価するときに基本となるのが,静止 立位姿勢である。静止立位姿勢は運動動作の基本姿 勢でもあることから,日常生活のみならずスポーツ を行う時においても重要な姿勢であり,トップアス リートから日常生活を送っているすべての方の平衡 機能を評価する上で重要な姿勢である。 近年,顎口腔系機能と全身運動,平衡機能,姿勢 などとの関係が注目され,片側下顎孔伝達麻酔で三 叉神経刺激を遮断すると重心動揺が大きくなるとの

解説(学位論文 解説)

実験的下顎偏位が静止立位姿勢に及ぼす影響

Influence of the experimentally deviated mandibular position on static standing posture 山崎 東京歯科大学口腔健康科学講座スポーツ歯学研究室 非常勤講師 略歴 2007年日本大学歯学部歯学科卒業,2012年東京歯科大学大学院歯学研究科 (スポーツ歯学研究室)修了。博士(歯学),日本スポーツ歯科医学会認定医,日本 スポーツ歯科医学会マウスガードテクニカルインストラクター,2014年日本ス ポーツ歯科医学会学術論文賞受賞。趣味:テニス・旅行 Go Yamazaki キーワード:咬合,下顎位,静止立位姿勢,モーションキャプチャー,床反力 Key words:occlusion, mandibular position, static standing posture, motion capture,

ground reaction force

(2016年10月6日受付,2016年12月13日受理,歯科学報 117:31−37,2017.)

http : //doi.org/10.15041/tdcgakuho.117.31

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報告2) ,顎口腔系の変化がヒラメ筋や前脛骨筋へ作 用し,静止立位姿勢に直接影響を及ぼしているので はないかとの報告7) など多くの報告がみられる。し かしながらこれらの報告は重心動揺計などを用いて 姿勢の変化を間接的に評価したものであり,姿勢を 直接的に評価したものはではない。 様々な身体の状態,動作を直接的に観察する方法 の一つにモーションキャプチャーを用いる方法があ る。モーションキャプチャーとは体の各部位に反射 マーカーと呼ばれる球体を貼り,このマーカーの3 次元的な座標(位置)を測定することにより,体の動 きを測定する方法である。さらに,これらの測定し たデータを筋骨格モデルにあてはめ動作を解析する 筋骨格モデル解析といわれる手法用いることで,よ り詳細な動作解析を行うことが可能とされている。 そこで今回,顎口腔系の状態変化が静止立位姿勢に 及ぼす影響について,モーションキャプチャーおよ び床反力計を用いて測定し,筋骨格モデル解析によ る3次元的動作解析を行い,静止立位姿勢を直接的 に評価し運動力学的検討を行った。 研究方法 被験者は,全身的に健康で顎口腔系および耳鼻科 的な疾患に関する既往及び現病歴のない成人で,本 研究の主旨を文章にて説明し,同意の得られた男性 10名(平均年齢:30.7±5.3歳)を選択した。なお, 本実験の測定実施にあたっては,ヘルシンキ宣言を 順守し,東京歯科大学倫理審査委員会(承認番号№ 212)の承認を得て行った。下顎の偏位に用いた実験 的下顎偏位装置は当研究室の一連の実験で用いてい るもので,下顎を一時的,可逆的に上下顎左側犬歯 尖頭が一致する位置に偏位し,上顎にのみ適合させ た状態で下顎安静位を保つことができるよう調整さ れたものである(図1a,b)。計測は独立行政法人 産業技術総合研究所・臨海副都心センター研究室内 にて行った。モーションキャプチャーでは Helen Hays Marker set8)

に準ずる85点に,オトガイ部およ び左右下顎角の3点を加えた合計88点に直径14mm の反射マーカーを張付した(図2a)。モーション キャプチャー用カメラ(Vicon Nexus,Vicon 社)12 台 お よ び 床 反 力 計(BP400600-1000PT,AMTI 社 0.6m*0.4m)2台を用い,共にサンプリングレー ト200Hz にて測定した(図2b)。モーションキャプ チャーおよび床反力の計測は同期がおこなわれてい る。床反力計では2枚の床反力板を左右の足で踏み わけ,左右足それぞれの3次元の床反力および床反 力の中心座標(Center of Pressure;COP)を計測し た。測定は可及的に平衡機能検査法基準化9) に準じ て行った。被験者に偏位装置を上顎のみ適合させ, 下顎安静位を保持した状態で測定位置に閉眼にて起 立させ,初期閉眼効果を考慮し,閉眼後20秒後に計 測を開始し計40秒間計測した。計測開始20秒後に下 顎を偏位するよう指示し,前半および後半の20秒間 をそれぞれ下顎安静位,下顎偏位とし,計測は各 被験者において3回測定した。モーションキャプ チャー及び床反力計にて測定したデータを3次元 動作解析ソフト(Visual3D,c-Motion 社)にて筋骨 格モデル解析を行うにあたり,今回は ISB(Interna-表1 65 歳以上の要介護者等の性別にみた介護が必要と なった主な原因 (単位:%) 女性 男性 総数 脳血管疾患(脳卒中) 12.6 26.3 17.2 心疾患(心臓病) 4.5 5.1 4.7 関節疾患 14.1 4.7 11 認知症 17.6 14.1 16.4 骨折・転倒 15.4 6 12.2 高齢による衰弱 15.3 11.1 13.9 その他・不明・不詳 20.6 32.6 24.6 資料:厚生労働省「国民生活基礎調査」(平成25年) 図1 a(上):偏位装置装着時,b(下):偏位装置 両方とも原著論文より転載 32 山崎:実験的下顎偏位が静止立位姿勢に及ぼす影響 ― 32 ―

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tional Society of Biomechanics)で公開されている筋 骨格モデル(Musculoskeletal Models)に顎のモデル を追加したものを用いた(図2c)。解析をする際, 下顎,頭,体幹,骨盤,左右脛の6セグメント,左 右足の床反力ベクトル,体重心,および左右の足関 節と股関節に着目した。セグメントとは,各反射 マーカーの座標データから体の各部位を特定し作成 された身体の各パーツを表している。上記6セグメ ントについては,各セグメント内で新たな座標系を 設定した。 3次元的な変化を検討するにあたり,今回の実験 計測では絶対空間座標系を基準座標系とした。これ は左右方向をX座標(右方向が正),前後方向をY座 標(前方向が正),鉛直方向をZ座標(床面から天井 に向かう方向が正)と設定した座標系である(図3)。 検証するにあたり,各セグメントについての重心 座標およびカルダン角を,床反力については3次元 成分量を体重で割ったものを,体重心については座 標を,足関節と股関節については左右の関節モーメ ントを算出した(表2)。 (カルダン角について) カルダン角とは3次元空間において,基準座標系 と対象座標系を一致させるために,基準座標系の XYZ の3軸をそれぞれ回転中心とし3回の回転を 行う場合に使用される3つの回転角のことである (飛行機を飛ばず際のローイング・ヨーイング・ ピッチングと同じことで,オイラー角ともいう)。 図2 a(左):Helen Hays Marker set に準じた88個のマーカーを付けた状態

b(中央):Vicon にてマーカー座標を測定した Stic Picture c(右):Visual 3D にて筋骨格モデルに

図3 絶対空間座標系

歯科学報 Vol.117,No.1(2017) 33

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本実験では基準座標系は絶対空間座標,対象座標系 は各セグメントを構成している座標系とし,各セグ メントが空間絶対座標系を基準にどれくらいの角度 回転しているのかを観察した(図4a−c)。 カルダン角の正の向きは右手系をなしており「座 標軸の正の方向に親指を向けて,右手で軸を握った ときに,指が巻かれる方向」となっている(図5)。 つまり,X座標軸を回転中心とした場合,カルダン 角の正の方向は体の後屈を意味し,負の方向が前屈 を意味する。同様にY座標軸を回転中心とした場合 では,正の方向が右側屈,負の方向が左側屈,Z座 標軸を回転中心とした場合,正の方向が左回旋,負 の方向が右回旋となる。 今回の実験ではセグメントの重心座標の変化およ び絶対空間座標−セグメントを構成している座標間 のカルダン角を算出することにより,6自由度の変 化(3次元方向の平行移動+3次元方向のねじれ)を 測定することが可能となっている。 分析を行うにあたり,下顎を偏位させる指示によ る体動の影響を除くため下顎安静位,下顎偏位のそ れぞれ最初の5秒間を除いた15秒間について検討す ることにした。統計分析には,統計ソフトエクセル 統計を用い Sminov-Grubbs 検定を行いはずれ値の 検討を行った後,下顎安静位及び下顎偏位について 対応のあるt検定を行い,有意水準を5%とした。 結 果 静止立位姿勢下において下顎安静位時に比べて下 顎偏位時では下顎,頭,体幹,骨盤,右脛の5セグ メント及び体重心の座標が,それぞれ3.8,3.6, 2.0,1.6,0.6,1.8mm 左方向に有意に移動し,上 部の測定部位ほど移動量は大きい値を示した。左脛 は右脛よりも移動量は大きかったが有意な移動は認 められなかった(表3)。また,下顎セグメントにつ いては2.1度後屈方向および0.6度左回旋方向に,右 脛のセグメントにおいては0.1度左側屈方向に有意 に回転した(表4)。床反力は鉛直方向床成分におい て,0.8%N/N 左方向に有意に移動した(表5)。 表2 着目部位および検討項目 座標 カルダン角 力 モーメント セグメント 下顎 ○ ○ 頭 ○ ○ 体幹 ○ ○ 骨盤 ○ ○ 左脛 ○ ○ 右脛 ○ ○ 床反力 左足 ○ 右足 ○ 体重心 ○ 足関節 左足 ○ 右足 ○ 股関節 左側 ○ 右側 ○ 図4 a(左上),b(右上),c(左下):カルダン角 図 5 右下:カルダン角の正方向の決 定方法 34 山崎:実験的下顎偏位が静止立位姿勢に及ぼす影響 ― 34 ―

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表3 座標 X Y Z 安静位 変化量 偏 位 安静位 変化量 偏 位 安静位 変化量 偏 位 セグメント 下顎 403.3±15.8 −3.8* 399.5±15.7 −985.9±71.1 0.4 −985.5±75.3 1505.1±36.3 0.2 1505.3±35.9 頭 406.6±16.7 −3.6* 403.0±16.9 −1042.2±75.8 0.6 −1041.6±80.1 1596.5±34.0 0.1 1596.6±33.6 体幹 405.9±9.9 −2.0* 403.9±11.0 −1019.2±71.3 −0.5 −1019.7±73.0 1195.0±28.0 0.3 1195.3±27.5 骨盤 408.0±8.8 −1.6* 406.4±9.7 −945.5±74.6 −1.5 −947.0±75.9 843.3±21.1 0.1 843.4±20.3 左脛 311.5±22.3 −0.7 310.8±22.5 −1049.5±65.6 0.4 −1049.1±65.6 288.7±13.3 0 288.7±13.1 右脛 498.1±21.5 −0.6* 497.5±21.2 −1045.9±69.1 −0.4 −1046.3±69.4 287.7±11.7 0 287.7±11.6 床反力 左足 296.0±3.2 −0.1 295.9±3.2 −1024.6±71.1 −0.3 −1024.9±73.6 右足 508.0±28.0 −0.2 507.8±28.1 −1016.9±73.2 0.1 −1016.8±73.7 体重心 406.2±9.4 −1.8* 404.4±10.2 −1009.0±71.2 −0.5 −1009.5±72.7 944.5±22.3 0.2 944.7±21.8 セグメント:各セグメントを構成している座標系の重心座標 床反力:COP の座標 体重心:体重心の座標 P<0.05:有意水準5%(* X:水平方向(右方向が正) Y:前後方向(前方向が正) Z:鉛直方向(上方向が正) (単位:mm) 表4 カルダン角 X Y Z 安静位 変化量 偏 位 安静位 変化量 偏 位 安静位 変化量 偏 位 セグメント 下顎 3.4±6.7 2.1* 5.5±8. 1.1±2. −0. 0.8±2. 1.0±3. 0.1.6±3. 頭 4.1±7.3 0 4.1±7.9 1.2±2.5 −0.5 0.7±2.2 0.1±1.6 0.2 0.3±1.7 体幹 3.9±3.5 −0.2 3.7±3.6 −0.6±1.2 −0.1 −0.7±1.2 −0.3±3.7 −0.2 −0.5±3.8 骨盤 −12.0±6.2 −0.1 −12.1±6.3 −0.6±1.3 −0.1 −0.5±1.4 −0.8±3.2 −0.2 −1.0±3.3 左脛 −4.6±2.8 −0.2 −4.8±2.8 −0.4±2.7 −0.1 −0.5±2.6 6.9±7.1 −0.1 6.8±7.2 右脛 −5.5±2.7 −0.2 −5.3±2.7 1.0±2.9 −0.1* 0.9±3.0 −6.5±8.8 −0.1 −6.6±9.0 P<0.05:有意水準5%(* X:右方向が正,左方向が負 Y:右側屈方向が正,左側屈方向が負 Z:左回旋方向が正,右回旋方向が負 (単位:度) 表5 3次元床反力成分を体重で割ったもの X Y Z 安静位 変化量 偏 位 安静位 変化量 偏 位 安静位 変化量 偏 位 左側床反力 3.3±1.9 −0.1 3.2±1.9 0.2±0.3 0.1 0.3±0.3 49.8±3.4 0.8* 49.7±4.2 右側床反力 −3.1±1.9 0 −3.1±1.9 −0.2±0.3 0 −0.2±0.3 48.9±3.2 −0.8* 49.1±4. P<0.05:有意水準5%(* ) X:水平方向(右方向が正) Y:前後方向(前方向が正) Z:鉛直方向(上方向が正) (単位:N/N%) 表6 モーメント X Y Z 安静位 変化量 偏 位 安静位 変化量 偏 位 安静位 変化量 偏 位 足関節 左側 ­16.8 ± 4.9 0.0 ­16.8 ± 7.1 ­2.9 ± 2.7 ­0.3 * ­3.2 ± 2.7 2.2 ± 1.5 ­0.1 2.1 ± 1.5 右側 ­19.9 ± 5.6 0.3 ­19.6 ± 5.0 2.1 ± 3.8 ­0.2 1.9 ± 3.8 ­4.1 ± 2.0 0.2 ­3.9 ± 2.0 股関節 左側 5.5 ± 5.1 ­0.3 5.2 ± 5.3 19.4 ± 18.9 0.2 19.6 ± 17.9 3.6 ± 3.0 0.1 3.7 ± 2.9 右側 5.6 ± 3.3 ­0.4 5.2 ± 3.0 ­21.2 ± 18.7 0.9 * ­20.3 ± 18.7 ­5.9 ± 2.8 0.2 ­5.7 ± 2.7 P<0.05:有意水準5%(* ) X:右方向が正,左方向が負 Y:右側屈方向が正,左側屈方向が負 Z:左回旋方向が正,右回旋方向が負 (単位:Nm) 歯科学報 Vol.117,No.1(2017) 35 ― 35 ―

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関節モーメントについては左の足関節は0.3Nm 左側屈方向に,右の股関節は0.9Nm 右側屈方向に 有意にモーメントが増加した(表6)。 考 察 姿勢を保つために種々の姿勢反射において胸鎖乳 突筋を含む頚部筋は頭位の安定に関与しているとの 報告10) があり,姿勢の変化において頭部の動きが重 要であることはうかがえる。また,咬筋が抗重力筋 として大きな役割を果たしていること11) ,顎口腔系 の変化がヒラメ筋や前脛骨筋のといった抗重力筋の 活動に影響をおよぼすとの報告12) ,Grieder が示し ているように顎関節と内耳が解剖学的に近接してい る13) ため,下顎が偏位することにより内耳が圧迫さ れて平衡機能に影響を及ぼしているのではないかと の報告14) などからも顎口腔系の変化が全身の諸器官 に影響を及ぼしていることが考えられる。 今回,頭セグメントに有意な回転方向の変化は認 められなかったが,重心座標が4.2mm の左方向へ 移動した。また,この変化量は体幹より下部のセグ メントのものと比べて大きかった。これは Runge が報告している足関節を中心とした倒立振り子の構 造と一致している15) 。つまり下顎を実験的に偏位さ せたことが,頭部の重心位置に最も大きな影響を与 え,それより下部の測定部位においても影響を及ぼ したものと考えられる。すなわち,下顎を偏位させ ることで頭部等の位置が変わることになり,胸鎖乳 突筋を中心とした頚部の筋のみならず下肢の抗重力 筋にも影響を及ぼし,その結果緊張性頸反射等の姿 勢反射,その他体幹の姿勢にも変化が生じ,体が左 へ移動したものと考えられる。 本来,平衡機能検査においては,開眼と閉眼の2 つの条件が用いられるが,視覚入力は前庭入力や視 覚入力との関係が強く,前庭が障害されていても開 眼時は視性代償効果により補正されてしまうことが ある。そのため,閉眼条件下において視覚入力を遮 断することにより他の異常が分かりやすいと言われ ているため,今回は閉眼条件下のみで測定した。開 眼状態で生活をしている健常者においては,顎口腔 系の異常の姿勢への影響については,開眼状態で再 度検討をする必要性があるものと考えられる。しか しながら,視覚能力が低下した高齢者や視覚障害者 に顎口腔系の異常がみられた場合や口腔内に不良補 綴物が入っていた場合には,静止立位姿勢に影響を 及ぼす可能性が考えられる。またアーチェリー3,6) や 射撃などの静的スポーツのプレーヤーにとってみて も顎口腔系の変化によるわずかな姿勢の違いが競技 成績に大きくかわかってくる可能性もある。今後は 開眼時における姿勢の変化についても検討し,視覚 によってどの程度の補正が行われているのかを検討 する必要があると考えられる。 そして,一見変わらないように見える直立姿勢は 咬合の変化によって変わることが分かった。足関節 や股関節の関節モーメントに影響を及ぼしていると いうことは,これらが長期的に作用すれば口腔内だ けでなく全身の筋肉にも影響を及ぼす可能性も示唆 される。 日常手軽に行われ,様々な身体へ効果がある運動 の中に歩行がある。歩行のような単純な動作でも, 運動中は筋力,平衡機能,持久力,全身協調性など の機能が複雑に関連している。これらの身体機能が 低下している高齢者等による歩行中の転倒は社会問 題であり,その予防が重要である。転倒予防には上 記した身体機能の維持向上が重要と言われている。 Yoshida らは転倒の危険因子の1つに咬合の喪失の 可能性があることを報告16) ,また,咬合を喪失した 高齢者に義歯治療の介入を行い,咬合を回復させる ことにより,転倒回数の減少がしたと報告してい る17) 。また,Okubo らは総義歯の装着の有無によっ て歩行速度が変化すると報告18) している。これらの ことより高齢者の顎口腔系の機能と全身運動や平衡 機能との関係が注目されている。また,Sumioka ら は三叉神経核複合体の機能は顔面の感覚の中継や咀 嚼機能だけではなく,姿勢制御を含む運動や自律神 経機能を調整している可能性があり三叉神経系が正 常に機能するためには,歯科的要因,時に咬合の重 要性が示唆している19) 。 今回は静止立位という動作に着目したが今後は偏 位量や偏位方向,視覚の条件なども検討項目に加 え,歩行を中心とした動作姿勢についても考察して いきたいと考えている。 36 山崎:実験的下顎偏位が静止立位姿勢に及ぼす影響 ― 36 ―

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謝 辞 今回の実験を行うにあたり,産業技術総合研究所臨海副都 心センター,デジタルヒューマン工学研究センター セン ター長の持丸正明氏および,テクニカルスタッフの青木 慶 氏に多大なるご協力を頂きました。この場をお借りしまし て,厚く御礼申し上げます。 文 献

1)Gangloff P, Louis JP, Perrin PP : Dental occlusion modi-fies gaze and posture stabilization in human subjects. Neurosci Lett, 293:203−206,2000.

2)Gangloff P, Perrin PP : Unilateral trigeminal anaesthe-sia modifies postural control in human subjects. Neurosci Lett, 330:179−182,2002. 3)雨宮悟志,片山幸太郎,高田英記:咬合の調和によって アーチェリー競技能力の向上が認められた1例.スポーツ 歯学,7:79−84,2004. 4)坂東陽月:バドミントンのオーバーヘッドショットの 正確性と咬合状態の関係.スポーツ歯学,13:29−36, 2009. 5)中村嘉男:顎・口腔運動が脊髄筋伸張反射におよぼす促 通作用 ヒトの噛みしめと咀嚼による姿勢安定化.長岡看 護福祉専門学校紀要,4:1−14,2008. 6)石上惠一,星野浩之,武田友孝:顎口腔系の状態と全身 状態との関連に関する研究 スプリントによる咬合挙上が アーチェリーにおける姿勢維持に及ぼす影響.日本補綴歯 科学会雑誌,36:481−487,1992.

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本論文は,下記学位論文の内容を解説した。

Influence of the experimentally deviated mandibular po-sition on static standing posture, Yamazaki G, Takeda T, Nakajima K, Konno M, Ozawa T, Ishigami K,

Interna-tional Journal of Sports Dentistry, 7;85−93:2014.

連絡先:〒101‐0061 東京都千代田区三崎町2−9−18 東京歯科大学口腔健康科学講座スポーツ歯学研究室

山崎 豪 歯科学報 Vol.117,No.1(2017) 37

参照

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