著者
峯岸 由治
雑誌名
教育学論究
号
3
ページ
81-90
発行年
2011-12-25
URL
http://hdl.handle.net/10236/8605
川を主題とした総合的学習の改善
―
授業実践の解明と開発の関連研究を踏まえて ―
Improvement of the Period for Integrated Studies using a river as the subject
― based on related research into the clarification and development of class practice ―
峯
岸
由
治
*Abstract
The purpose of this research is to seek to improve the period for integrated studies through the use of a river as the main theme. It is considered part of a series of investigations aimed at clarification, development and verification, bringing together goal-oriented and process-oriented teaching research methods. With regard to goal-oriented teaching research, three examples of class practice were analyzed: at Higashiura Municipal Ogawa Elementary School, Aichi; at Joetsu University of Education Attached Elementary School, and at Kobe University Faculty of Human Development Attached Akashi Elementary School. These analyzed examples involved the use of a river as the main subject.
Based on the results of this analysis, a period for integrated studies for4th graders of elementary school entitled “Denugawa” was developed. This lesson was taught and its validity was examined using as a measure the change in the children’s attitude and their evaluation of the class. The results confirmed the effectiveness of the development policy.
キーワード:総合的学習、授業研究、解明研究と開発研究の連携
1 .はじめに
2008年1月、中央教育審議会答申は、「大きな成 果を上げている学校がある一方、当初の趣旨・理念 が必ずしも十分に達成されていない状況も見られ る」と、現行の総合的学習の時間の課題を指摘し た1)。そして、「教科等の枠を超えた横断的・総合 的な学習、探究的な活動となるよう充実を図る」等 の改善の基本方針、並びに改善の具体的事項を示し たのである2)。総合的学習の時間については、すで に2003年12月の学習指導要領の一部改正において、 「各教科や道徳、特別活動で身に付けた知識や技能 等を関連付け、学習や生活に生かして総合的働くよ うにすること」等を、学習指導要領に「明確に位置 付け」ている3)。しかし、「学校間・学校段階間の 取組の実態に差がある状況」は改善されなかったと 言える4)。 こうした問題の背景には、第一に、「めざされる 学力の不明瞭さ、ひいてはカリキュラム上の位置づ けの不明確さ」という総合的学習の独自性やカリ キュラムのあり方に関する学習指導要領そのものの 問題があると指摘されている5)。第二には、「学力 論に見合った指導過程論が共有されにくい点にあっ た」と指摘されている6)。しかし、そうした中でも、 「弱点を乗り越える知見を含んだ実践や、それらに 基づく理論も存在していた」のである7)。したがっ て、総合的学習の置かれている問題状況を改善する ためには、「弱点を乗り越える知見を含んだ実践や、 * Yoshiharu MINEGISHI 教育学部准教授 1)文部科学省『小学校指導要領解説総合的な学習の時間編』東洋館出版社、平成20年、p.4. 2)同上書、pp.4―5. 3)前掲2)、p.4. 4)前掲2)、p.5. 5)西岡加名恵「総合的学習の研究と実践の動向」日本教育方法学会編『現代カリキュラム研究と教育方法学 新学習指 導要領・PISA 型学力を問う』図書文化社、2008年、pp.140―141. 6)同上書、p.142. 7)前掲4)、p.140. 81それらに基づく理論」を検討し、総合的な学習実践 に内在する規則性―学習内容の選択と構成、展開方 法、教育技術等―を解明する目的的な授業研究の方 法と、抽出した規則性に基づき授業を開発し、実施 した授業の事実を通して仮説−学習内容の選択と構 成、展開方法、教育技術等−を検証する手段的な授 業研究の方法とを組み合わせ、授業の改善や改革を 図ることが有効であると考える8)。 そこで、本小論では解明と開発の研究を連携さ せ、総合的学習の改善の方途を明らかにしたい9)。 研究対象、並びに研究方法は、以下のとおりである。 第一に、4年生における総合的学習の開発を視野に 入れ、中学年での実践事例の多い川を主題とした総 合的学習の学習内容や展開方法等を検討し、授業の 規則性を解明する。規則性の解明は、次の手順で行 う。(1)実践記録に基づき目標、並びに指導計画 等を抽出する。また、授業でどんな内容が扱われ、 どんな方法で授業が展開されているのかを抽出し、 授業の事実を確定する。扱われている内容、及びそ の順番を内容構成とする。また、授業で展開されて いる教授活動、並びに学習活動(以下、「教授・学 習活動」とする。)を展開方法とする。(2)授業内 容がなぜそのように構成され、教授・学習活動がな ぜそのように展開されるのかを明らかにし、実践の 背後にある授業理論を引き出す。第二に、解明した 規則性に基づき、地域を流れる伝右川を主題とした 総合的学習を開発する10)。第三に、開発した総合的 学習「伝右川」を実施し、児童の変容や授業への評 価を手がかりに、開発授業を検証する。すなわち、 解明、開発、検証という一連の研究を通して、総合 的学習の改善を図りたいと考える。
2 .川を主題とした総合的学習授業実践
の解明
川を主題とした総合的学習の実践事例は、多くの 小学校で実践されている11)。ここでは、紙幅の関係 から、多面的な学習活動により水と人間との関わり を探究する総合的学習として愛知県東浦町立緒川小 学校(以下、「緒川小」と略す。)、実験的調査的な 活動により現代社会における水資源問題を考えさせ る総合的学習として神戸大学発達科学部附属明石小 学校(以下、「明石小」と略す。)の2校に絞って実 践を検討したい。これらの実践校を選んだのは、い ずれの学校も1970年代から総合学習に取り組み、実 践の蓄積が豊富にあるからである。 ( 1 )水と人間との関係を歴史、文学、芸術等多面 的に考える総合的学習 ①「水と人間」の概要 緒川小学校では、第4学年において、「水と人間」 という総合的学習が展開されている12)。「水と人間」 では、次のような総合目標が設定されている。 「水(川)について体験的・多面的に探ることに より、自然の偉大さを感じとったり自然のしくみを とらえようとしたりする。同時に、古代から現代に いたるまでの水と人間生活とのかかわりを考えるこ とにより、その面での人間の生き方について考えて いこうとする」 この目標を達成するために、1年間にわたり74時 間の授業が展開されている。各学期の主な学習活動 と時間数は、次のとおりである。(資料を基に筆者 が作成) 8)アメリカの研究者は、日本の授業研究の特徴を、次のように指摘している。「長期的・持続的改善モデルに基づくこ と」「児童・生徒の学習に不断に焦点化されること」「学習指導をその場面の中で直接改善することに焦点化されるこ と」「協同的な取り組みであること」ジェームズ・W・スティグラー ジェームズ・ヒーバート著 湊三郎訳『日本 の算数・数学教育に学べ』教育出版、2002年、pp.114―118.なお、授業研究の方法については、次の文献を参考に した。中村哲『社会科授業実践の規則性に関する研究―授業実践からの教育改革―』清水書院、1991年、p.32. 9)授業研究に関する方法的課題としては、例えば、社会系教科教育研究では、「解明研究と開発研究の連携の推進」が 指摘されている。社会系教科教育学会編『社会系教科教育研究のアプローチ∼授業実践のフロムとフォー∼』学事出 版、2010年、pp.13―14. 10)伝右川は、赤山(川口市)城主伊奈忠治の命により家臣井出伝右衛門が総力をあげて寛永8(1631)年ごろ、野田(浦 和・現さいたま市)から花畑(東京都)の綾瀬川に至る約18.5km を開削した川である。その後、家臣の功績をたた えて伝右衛門川(伝右川)と称されている。 11)例えば、平成14年に出版された『総合的な学習の時間実践事例集(小学校編)』では、紹介されている24事例中、川 (水)を主題とした総合的学習実践が15例紹介されている。そのうちの13事例は、中学年の実践である。国立教育政 策研究所教育課程研究センター『総合的な学習の時間実践事例集(小学校編)』東洋館出版、平成14年. なお、総合的学習の名称については各校で様々な名称があるが、本小論では全体的には「総合的学習」で統一した。 また、分析事例として取り上げた愛知県東浦町立緒川小学校、神戸大学発達科学部附属明石小学校については、それ ぞれの名称を各節の中で使用した。 12)愛知県東浦町立緒川小学校『中・高学年の総合的学習の進め方』明治図書、1990年、pp.39―48.なお、「水と人間」 の実践記録は、「昔の人たちの水との関わり」「明徳寺川の水争い」「水を表現する」「私たちの使っている水」「ダム 建設・反対か賛成か」「水の汚れを調べよう」が紹介されている。本小論ではこれらの記録に基づいた。 教 育 学 論 究 第 3 号 2011 82②「水と人間」の構成 1学期、「昔話や民話を読み、水と人間のこれま での関わりを考える」では、まず、「ドジョウ長者」 「水どろぼうと黒い牛」等の民話や昔話の読み聞か せと紙芝居作りが行われている。次に、「知多地方 や東浦では、水の問題がなかったどうか」という課 題に基づいて、採話という聞き取り活動が行われて いる。児童は、家族や地域の方から伊勢湾台風の時 の話、水道が引かれる前に飲み水に苦労した話、日 照りが続き田の水が無くなり困った話等を聞き、発 表している。そして、知多地方でも人々が水の問題 で苦労していたことが確認される。その後、緒川地 域にかつてあった「明徳寺川の水争い」の話を、郷 土史家の方から聞いている。すなわち、この学習で は、人間の生活、生産における水の大切さ、水を確 保するための人々の努力や苦労、地域にあった洪水 や水不足等の苦労、地域にあった水争いといった内 容が扱われ、読み聞かせ、紙芝居作り、聞き取りと いった教授・学習活動が展開されている。つまり、 水の大切さ、水を確保するための人々の努力や苦労 を民話や昔話、家族や地域の人々から聞くことに よって、本学習への動機づけが図られるとともに、 先人の努力や苦労に対する共感的理解が図られてい ると言える。そして、地域にかつてあった水争いの 話を聞くことによって、先人の努力や苦労、及び努 力や苦労に対する共感的理解が強化されているので ある。 「水争いの話をもとに、愛知用水建設の歴史を調 べる計画を立て、調べ、発表する」では、まず、地 域にある愛知用水建設の歴史に関する調査計画が立 案される。調査では、「愛知用水建設の訳」「先人の 努力について」「用水を作るまでの苦労」等が一人 ひとりの児童によって調査され、レポートにまとめ られている。また、実際に愛知用水に見学に出かけ ている。その後、「愛知用水と東浦町の暮らしの変 化」について再調査され、愛知用水の役割について 話し合いが行われる。すなわち、この学習では、愛 知用水の建設(背景、工法、苦労等)と役割が内容 として扱われ、聞き取り、文献調査、見学といった 教授・学習活動が展開されている。つまり、水を確 保するための苦労や争いを解決する用水建設という 歴史的社会問題解決を図った先人の行為が理解され ていると言える。そして、愛知用水建設の歴史的意 義が強調されていると言える。 「水が家庭に届くまでの経路とそこにある施設を 調べ、見学する」では、まず、地図を使って取水か ら給水までの経路が調べられた後、実際にそれらの 施設が調べられ、役割が再確認されている。その後、 浄水場の見学が行われ、浄水場のしくみと働きが学 習されている。すなわち、この学習では、上水道管 路の様子、浄水場の仕組みと働きという内容が扱わ れ、読図、見学、インタビューといった教授・学習 活動が展開されている。つまり、地域の人々の生活 や生産を支える現在の上水道システムが認知され、 より利便性の高い水の確保に向けた地域の人々の努 力が、改めて再確認されている。 「ダム建設を巡る問題を調べ、水と人間の関わり を考える」では、まず、愛知用水建設の折に水没し た地域の経緯、人々の気持ち等が学習される。次に、 徳山ダムを手がかりに、水を利用する側、建設に よって水没する村人たちの側の両面から学習が進め られている。本単元では、建設の目的と徳山村に関 する学習を終えた後、ダム建設に対する賛成・反対 の立場にわかれて討論会が行われている。すなわ ち、この学習ではダム建設と建設を巡る問題(建設 の背景、水没する地域の人たちへの補償、水没する 地域の人たちの心情等)が内容として扱われ、文献 (本や地元紙等)調査、討論といった教授・学習活 学期 主な学習内容と学習活動 時間 Ⅰ 1.昔話や民話を読み、水と人間のこれま での関わりを考える。 2.愛知用水建設の歴史を調べる計画を立 て、調べ、発表する。 3.愛知用水建設による暮らしの変化につ いて調べ、愛知用水の果たしている役 割を話し合う。 4.水が家庭に届くまでの経路とそこにあ る施設を調べ、見学する。 10 10 1 3 Ⅱ 1.合唱組曲「水のいのち」を聴く等水の 循環に目を向け、課題をつかみ多角的 に調べる。 2.川の流れと営力、上流、中流、下流の 様子を調べ、循環についてのまとめの 学習をする。 3.水と人間のくらしについて調べ、自然 に立ち向かった先人の努力や苦労につ いて考える。 4.2学期の学習のまとめをする。 18 4 2 2 Ⅲ 1.「川の一生」を読んだり、VTR「ふる さとの川は流れる」を見たりして、3 学期の学習の方向をつかむ。 2.ダム建設を巡る問題を調べ、水と人間 の関わりを考える。 3.水(川・海)と公害について学習する。 4.1年間の学習をまとめる。 4 8 4 8 川を主題とした総合的学習の改善 83
動が展開されている。つまり、ダム建設問題を通し て、建設の必要性、自然環境保護、水没する地域の 人々の心情に対する共感的理解等、児童の視点の転 換が図られていると言える。 「水(川・海)と公害について学習する」では、 まず、「緒川の川や池のよごれ」が調べられている。 この調査は、金魚を使った生物学的水質検査、カオ リン等を使った透明度調査、PH 試験紙を用いた調 査、ネスラー試薬や過マンガン酸カリウム溶液を 使った化学調査等が行われている。その後、資料 「公害」をもとにして、日本の川や海の汚染につい て調査が行われ、水と公害についてクラス討論が行 われている。最後に、公害をなくすために、どのよ うな努力が行われているかを調べている。すなわ ち、この学習では、地域の川や池の汚れ、日本の川 や海の汚れ、公害をなくための努力といった内容が 扱われ、資料調査、実験、討論という教授・学習活 動が展開されている。つまり、地域の川や池の汚れ から日本の川や海の汚れへと児童の社会的視野が拡 大されるとともに、環境問題に対する主体的な態度 の形成が図られていると言える。 ③「水と人間」の構造 本学習は、地域の川の景観、川の営力、川や周辺 の生き物、川の土砂、自然界における水の循環、上 水としての利用と水の浄化方法、水争い等の水の利 用に関わる歴史、灌漑工事等の水の利用に関する問 題解決行為、洪水等の治水に関する歴史、河川改修 やダム等の建築といった治水に関する問題解決行 為、下水の浄化方法や川の汚れ・ゴミなどの水質の 保全といったことが学習内容として扱われている。 そ し て、こ れ ら の 内 容 が 遊 び、読 図、観 察、VTR の視聴、音楽鑑賞、読書、聞き取り、資料調査、実 験などの学習活動を通して獲得され、表現活動及び 発表や交流といった学習活動を通して知識の再構成 や強化が図られるように構成されているのである。 本学習の内容が、上記のように選択され構成され るのは、「水が苦労もなく、自由に使えるようになっ たのは、さまざまな人々のおかげ」であり、「先人 への感謝の気持ちを持ち、水と人間のかかわりをふ まえて、人間が自然の恩恵の中で生きていることに 気づき、自然の恵みに感謝でき、これからどのよう に水とかかわって生きていくべきかを考えることが できるようになってほしい」という、授業者の考え があるからである13)。したがって、人間の生活、生 産における水の大切さ、水を確保するための先人の 努力や苦労といった一般的な水と人間の関係から、 地域における具体的な水と人間の関係、自然界にお ける水の循環や力と先人の努力や苦労、水に関わる 現代社会の問題というように、水に拘泥して児童の 社会的視野の転換と拡張を図っているところに内容 構成の原理があると言える。 本学習が前述のように展開されるのは、「体験的 多面的に探らせたい」という授業者の考え方がある からである14)。したがって、観察や実験、見学や聞 き取りといった主体的で活動的な情報収集によって 認知的な理解が図られるとともに、読み聞かせや表 現活動、視聴や鑑賞といった感性的な理解も合わせ て、現代社会における水資源と生活の問題に対する 見方や考え方を形成しようとするところ本実践の展 開方法の原理があると言える。また、これらの展開 方法の原理を児童相互、並びに地域の方々や専門家 との交流形態におき、本単元の内容知を社会的に獲 得させようとするところに本実践のもう一つの原理 があると言える。 ( 2 )上下水道から現代社会における水資源問題を 考る総合的学習 ①「明石川探検に出かけよう」の概要 明石小学校では、第4学年において、「明石川探 検に出かけよう」というテーマで総合学習が展開さ れている。例えば、「学ぶ意欲・態度」の目標は、 次のとおりである15)。「○身近な明石川の自然やそ の利用の様子について関心を持ち、川と自分たちの 生活との関係を探ろうとする。○友達と協力して、 川の探検に出かけたり調査活動を通したりして、自 然や川や水に携わる人々とかかわろうとする」 上記の目標を達成するために、45時間の指導計画 が立てられている。各小単元の単元名、時間数は、 次のとおりである。(資料を基に筆者が作成) 13)同上書、p.39. 14)前掲書10)、p39. 15)神戸大学発達科学部附属明石小学校研究会『21世紀の教育課程をめざして 生きる力を育む総合学習の展開』東洋館 出版社、1997年、pp.84―85、pp168―171.なお、「明石川探検に出かけよう」には、「学ぶ能力」「学びの知恵」といっ た目標も設定されているが、紙幅の関係で割愛した。また、実践記録は、「附属浄水場をつくろう」「明石川イメージ マップをつくろう」「水道調べをしよう」が紹介されている。本小論ではこれらの記録に基づいた。 教 育 学 論 究 第 3 号 2011 84
②「明石川探検に出かけよう」の構成 「明石川イメージマップをつくろう」では、「明石 川にいかだを浮かべて探検をしたい」「魚を捕まえ、 子どもを育てて増やしたい」「どこの水がきれいな のか調べて、飲み水をつくりたい」等、明石川に関 して「知りたい」「調べたい」「つくりたい」「育て たい」「味わいたい」が発表され、教師がそれらの 発表を手がかりに活動の流れを作成している。すな わち、この学習では、児童の明石川に対する興味関 心をもとに話し合うという教授・学習活動が展開さ れている。つまり、明石川に対する児童の興味や関 心を喚起することで本学習への動機づけが図られて いると言える。 「水道調べをしよう」では、まず、学校や家の水 道の蛇口調べが行われている。次に、水道の使い方 を観察したり、水道料金の集金表をもとに水道の値 段を調べたりしている。その後、浄水場を見学し、 水道水ができるまでを観察している。 また、この単元では、下水道に関する調査も行わ れている。まず、マンホールの位置や種類を観察し、 汚水のマンホールを手がかりに下水の通り道を調べ ている。最後に、下水処理場の見学が行われている。 すなわち、この学習では、学校や家庭の蛇口の数、 水道の使い方、水道料金、浄水場の仕組みと働き、 マンホールの位置と種類、下水の通り道、下水処理 場の仕組みと働きといった内容が扱われ、蛇口調 べ、水道料金調べ、浄水場の見学、マンホールの観 察、マンホールを手がかりにした下水の地図作り、 下水処理場の見学といった教授・学習活動が展開さ れている。つまり、水道の出口、下水道のふた(マ ンホール)という目に見えるものから、上下水道の システムが探求され、上下水道のシステムの中心施 設の仕組みと働きが認知されていると言える。 「附属浄水場・下水処理場をつくろう」では、見 学してきたことをもとに、自分たちの学校の排水や 河川の水を浄化する計画を立て、浄化方法の検討が 行われている。給食室からの排水を処理する下水処 理グループと明石川の水をきれいにする浄水場グ ループに分かれ、身近にあるものを使って水の浄化 や汚水の処理の実験が行われている。「水の汚れを 減らす工夫を紹介しよう」では、これまでの学習を 基に水の大切さを伝えたり、生活の工夫を紹介した りする活動が行われている。すなわち、この学習で は、身近な材料を使った水の浄化や下水処理のやり 方、水の汚れを減らす工夫といった内容が扱われ、 身近な材料を使った水の浄化や下水処理の実験、発 表・交流という教授・学習活動が展開されている。 つまり、浄化方法や下水の処理方法を体験、体感す ることにより、システムを維持している人々への共 感、システムに見られる先人の知恵や自然の仕組み の利用、薬品等の処理に関する現代社会の新たな問 題への気づき等が促されていると言える。そして、 これらの知見が発表、交流されることにより、個々 の児童の知識の獲得が促され、問題意識が触発され ていると言える。 ③「明石川探検に出かけよう」の構造 本学習では、明石川の景観や様子、川や周辺の生 き物、川の土砂、自然界における水の循環、水の浄 化方法と上水としての利用の様子、下水の浄化方法 や川の汚れ・ゴミなどの水質の保全といったことが 学習内容として扱われている。そして、これらの内 容が踏査、読図、観察、調査、実験などの学習活動 小単元名 主な学習内容と学習活動 時間 明石川イメー ジマップをつ くろう 1.これからの活動計画を立 て る。 2 明石川のルー ツを探ろう 1.地図を使って、明石川の源流 や支流の様子を調べる。 2.等高線や地図記号をもとに、 地図の面白さを味わう。 6 明石川探検に 出かけよう 1.明石川の下流・中流・上流の 順に探検に出かける。 2.川原のゴミ、石・砂等を集め、 違いや種類を調べる。 3.動植物を観察したり、水の汚 れを観察したりする。 4.ゴミ等で造形遊びをしたり、 いかだを作ったりする。 12 水道調べをし よう 1.学校や家の水道の蛇口を調べ る。 2.水道の使い方を観察したり、 値段を調べたりする。 3.水場を見学し、水道水ができ るまでを観察する。 4.下水の通り道を学校や地域の 道路をもとに調べる。 5.マンホールの位置や種類を観 察する。 6.下水処理場を見学する。 14 附属浄水場・ 下水処理場を つくろう 1.学校の排水や河川の水を浄化 する計画や準備をする。 2.身近にあるものを使って、水 の浄化や処理を行う。 8 水の汚れを減 らす工夫を紹 介しよう 1.調べてきたことや、体験して きたことをもとに水の大切さ を伝えたり、生活の工夫を紹 介したりする。 3 川を主題とした総合的学習の改善 85
を通して獲得され、表現活動及び発表や交流といっ た学習活動を通して知識の再構成や強化が図られる ように構成されているのである。 本学習の内容が上記のように構成されるのは、 「何気なく扱ってきた水道水が明石川からどのよう に導き出されてくるのか、川の上流・中流・下流に よって、どのような地形、変化があり、生き物が生 息し、人々が生活を営んでいるのか多面的にとらえ られる機会としていきたい」という考えが授業者に あるからである16)。そして、本学習を通して「何気 なく使っている水がどのように作られているのかを 追究するきっかけ」を作ったり、「自分たちの豊か な生活には、自分たちで見つめ直していかなければ ならない危険性が潜んでいること」、川が「絶えず 人間の影響に支配されていること」に気づかせたり したいという考え方があるからである17)。したがっ て、明石川に拘泥し、上下水道に児童の関心を集中 させながら、現代社会における人間の生活と水資源 との関係に関する問題意識を触発しようとするとこ ろに、内容構成の原理があると言える。その際、イ メージマップによる学習課題の設定というように、 児童の多様な問いに基づき内容の選択と構成が図ら れているところに、本単元のもう一つの内容構成原 理があると言える。 本学習が前述のように展開されるのは、「学び方 重視」という同校の総合学習における教授・学習活 動に対する考え方に立って、児童の問いに基づく学 習活動を、「自らが積極的に環境に働きかける」「納 得のいく考え方で環境に取り組むことができる」 「望ましい共生のあり方が分かる」子どもを育成す るために授業者がデザインするからである18)。した がって、児童の多様な問いを観察、見学、聞き取り、 実験等体験的な活動を通して問題解決を図っていく ところに展開方法の原理があると言える。そして、 これらの展開方法の原理を児童相互、並びに地域の 方々との交流形態におき、内容知を社会的に獲得さ せようとするところに、本学習の展開方法のもう一 つの原理があると言える。 以上見てきたように、川を主題とした総合的学習 実践事例の規則性には、共通点や相違点が見られ た。内容構成については、川と人間との関係に拘泥 して内容構成を図っている明石小と、水と人間との 関係に拘泥して内容構成を図っている緒川小との間 に、内容構成の規則性に対する考え方の違いが見ら れた。緒川小は、以前は、「川と人間」という主題 で実践していたが、「子どもたちの住む地域の川と 子どもたちの生活上での結びつきは、決して深くな い」ため、主題を変更している。したがって、地域 を流れる川に拘泥して総合的学習を展開するには、 川と児童との心理的距離を埋める必要があると言え る。また、いずれの事例も水資源や環境の保護と 人々の生活という現代的な問題を視野に入れ、児童 の主体的な関与を図ろうとしていた。したがって、 こうした内容構成を参考にして、水資源や環境の保 護という現代社会の問題を取り上げる必要があると 言える。展開方法については、いずれの実践校も、 体験的な活動、活動的な情報収集、川への親近性を 高める活動等児童を主体とした展開方法の規則性が 見られた。また、児童相互、並びに地域の方々や専 門家との交流形態を通して、学習内容の獲得を図ろ うとする共通した規則性が見られた。したがって、 これらの規則性を活用して開発授業を構成したいと 考える。
3 .川を主題とした総合的学習の開発
( 1 )伝右川を主題とした総合的学習の構想 前述した検討に基づき、開発授業を次のように構 想した。学習内容は、草加市を流れる伝右川の開削、 利用、保全を中心に内容構成を図った。具体的には、 開削の背景、開削工法、用水としての利用、昔の伝 右川の様子、草刈りや川ざらい、下水道の整備と水 質の保全等を取り上げる。そして、獲得した知識が 児童の社会的視野を広げ、川や水の汚れという地域 社会の現代的課題を解決しようとする意欲や態度に 結びつくことを意図して、学習内容に関連する地域 の人々の学習への関与を図り、児童が主体となる学 習活動を設定した。このような考え方に立って、以 下のような3つの単元からなる開発授業を構想し た。 第1単元は、児童の興味関心を触発し、総合的学 習「伝右川」への導入を図る単元として位置づけた。 そのため、伝右川の一部を歩くこと、地域の方にお 16)同上書、pp.168. 17)前掲書16)、pp.168―169. 18)前掲書16)、p.21. 教 育 学 論 究 第 3 号 2011 86話を聞くこと等を通して、伝右川が人工河川である ことを取り上げる。伝右川は人の作った川であると いう児童が知らない事実に気付かせることによっ て、児童の学習動機を強化したいと考えたからであ る。また、社会科で扱う「見沼代用水の開発」を伝 右川の開削に関連づけるとともに、利根大堰や見沼 代用水の見学を実施し、当時の道具等も見学させた い。 第2単元では、伝右川のゴミや汚れの問題を通し て、川の保全や利用に児童の視野を広げる単元と位 置づけた。そのため、社会科で扱う「住みよいくら し」と関連付け、家庭や地域社会に見られるゴミの 処理システム、多様な水利用の形態等を見学、観察 させたいと考えた。また、こうした地域社会のシス テムに関与している人々、あるいは地域や家庭で主 体的にゴミや水質保全の問題に取り組んでいる人々 に授業に参加していただき、お話を聞くことによっ て、自然環境の保護、保全に関する意識を育てたい と考えた。 第3単元は、児童が獲得した知識を活用し、学習 成果を発信する単元として位置づけた。また、発信 に伴い、獲得した知識を深く掘り下げたり、違った 観点から検討したりする単元と位置づけた。そのた め、自分たちのアイディアを提案する文書を作った り、ポスター作ったりして、本学習で培った伝右川 への思いを他者に伝えさせたいと考えた。なお、本 開発授業の目標は次のとおりである。 ○水と人間のかかわりについて伝右川を通して学 び、自分たちの生活のあり方を見つめ直す。 ○水を守り、水を利用するために様々な努力がなさ れてきたこと、また現在も行われていることが分 かる。 ( 2 )伝右川を主題とした総合的学習の展開 「伝右川」の授業は、以下の4つのまとまりで授 業が展開した19)。さらに、理科「流れる水の働き」 「空気中の水」「水のゆくえ」(13時間)、図工「伝右 川を描く」「メッセージを伝えよう」(12時間)を、 本学習に関連させて実施した。 「伝右川へ行こう」では、4月、桜のきれいな伝 右川に全員で出かけた。川岸には桜が植えられ、と てもきれいであった。しかし、川の中にはたくさん のゴミが捨ててあり、異臭もしていた。児童の一人 から、「伝右川はいつごろからきたなくなったのか」 と質問が出された。そこで、この児童の質問をみん なで調べることにした。その結果、次のようなこと が分かった。「伝右川が汚くなったのは、昭和40年 代くらいからだそうです。そのころ、松原団地がで きて、田んぼが少なくなりました。そのため、田ん ぼからの水が伝右川に入らなくなったので、汚れて いったそうです。汚くなった大きな原因は、家庭か らの排水だそうです。それから、ゴミなどが捨てら れてことも原因の一つだそうです。」 この調査の後、さらに児童から次のような疑問が 出された。「伝右川はどうやって作ったのか」「川を 掘る道具は何を使ったのか」「何人ぐらい の 人 で 掘ったのか」「川ができるまで何年くらいかかった のか」「今の伝右川にはどんな生き物がいるのか」 「家の排水が伝右川に入らないようにするにはどう したらいいのか」「伝右川のゴミをなくすにはどう 19)総合的学習「伝右川」は、草加市立小山小学校において、1998年4月から9月まで授業を行った。その後、「子ども 環境サミット」や越谷土木事務所からのポスター作成の依頼もあり、結果的に1999年3月まで続いた。 小単元名 主な学習内容と学習活動 時間 伝右川へ 行こう ①伝右川に散歩に行く。 ②伝右川が汚くなった時期を調べる。 ③伝右川の昔の様子を調べる。 ④伝右川が作られたわけを調べる。 ⑤伝右川がどのように作られたのかを 調べる。 ⑥利根大堰・見沼代様子を見学する。 17 ゴミをな くすには ①草加市のゴミの回収について調べ る。 ②清掃工場に見学に行く。 ③伝右川の様子を観察する。 8 きたない 水は? ①汚い水の行方を調べる。 ②下水道の仕組み、下水の処理方法に ついて知る。 ③学校や自宅の下水処理の様子等を調 べる。 ④草加市の上水道について知る。 6 きれいき れい大作 戦 ①伝右川をきれいにする方法を考え る。 ②浄化施設「ジャリッコ」について知 る。 ③自然の浄化力について実験する。 ④河川の管理について知る。 ⑤県や市に提案する。 ⑥サミットに参加して意見を述べる。 ⑦ポスターをかいて呼びかける 15 川を主題とした総合的学習の改善 87
したらいいのか」 これらの疑問の中で、児童の興味が集中していた 伝右川の開削工事については記録が少なく、市史編 纂室や民俗資料館でも分からなかった。そこで、副 読本『わたしたちの草加』に出ている見沼代用水の 工事を手がかりに考えた。また、この調べ活動の中 で、「なぜ伝右川を作ったのか」という新たな疑問 が出され、W さんにお話を聞きに行った。W さん は、「田んぼに水を入れたり、田んぼで使った水を 集めて流したりするために作った」と教えてくだ さった。また、伝右川の生物の様子は、観察に出か けた。 「ゴミをなくすには」と「きたない水は?」では、 「家の排水が伝右川に入らないようにするにはどう したらいいのか」「伝右川のゴミをなくすにはどう したらいいのか」という2つの問題を解決する形 で、並行的に学習が展開した。家から出たゴミは、 ゴミ処理工場に持って行かれて燃やされることは、 5月の社会科見学時に見学してきた。そこで、児童 の家からいつ、どうやって集められるのか調べるこ とにした。児童は、お手伝いの経験や「ゴミ出し 方・分け方」というパンフレットなどから、草加市 はゴミを5種類に分別して集めていること、燃える ゴミについては地域ごとに収集日が違うこと、ゴミ によって搬入先が違うことなどが分かった。「家か らできる汚い水」は、「汚い水を処理するところに 集められて川に捨てるようになっている」と、家庭 で聞いてきた児童が発表してくれた。しかし、汚水 の処理については見学していないので、次のような 質問を市役所に送ってさらに調べることになった。 「伝右川が汚いのはゴミが捨てられたり、家の汚れ た水が川に入ってきたりするからだと近所の人に教 わりました。汚れた水はどこへ行くか教えてくださ い」 市役所の環境課は、伝右川は「始まるところに湧 き水はなく、田んぼの水や家庭からの排水が流れて いること」、流れてくる途中の地域に下水道がない こと等を、児童に教えてくれた。また、小山小学校 の周りは下水道が完成しており、学校から出る汚水 は下水道を通って三郷の汚水処理場に送られている ことを教えてくれた。一方、児童は、雨水の利用や 下水管の掃除等、自宅や地域の汚水処理の方法を調 べ、発表した。また、こうした発表に触発されて、 「昔の人は、伝右川をきれいにするために何かして いたのか」という疑問が出され、W さんにお話を 聞きに行った。W さんは、「春には『川ざらい』と いう川のゴミ取りをして、夏には『草刈り』をして いた」こと、「やっていた人の数は100人ぐらい」で あったこと、「伝右川ができてからおよそ300年続け てきた」こと、「川の水を使う人が少なくなったり、 農家の人が少なくなったりしたため、昭和40年くら いにやめてしまったこと」などを児童に話してくだ さった。 「きれいきれい大作戦」では、W さんの話を聞い て、伝右川をきれいにする方法を考えた。図書館で 調べていた児童が、市内を流れる綾瀬川をきれいに するため「ジャリッコ」という浄化施設が使われて いるという記事を見つけた。また、他の児童は水草 があると川の水がきれいになるという記事を見つけ てきた。そこで、「ジャリッコ」については市役所 に話を聞くことにし、水草の浄化作用については実 験してみることにした。「ジャリッコ」については、 現在も綾瀬川の浄化のために使っていること、伝右 川は県が管理しているので草加市が施設を作った り、川をきれいにしたりすることができないことな どを教えてもらった。また、水草の浄化作用に関す る実験は、水草を入れなかった水槽の金魚が死んで しまったので途中でやめた。これまでの実験や調べ たことをまとめて、伝右川をきれいにする方法を、 市役所に提案した。提案した内容(紙幅の関係でタ イトルのみとした)は、次のとおりである。「1昔 の人がしたように『川ざらい』をしてください。2 ポスターや手紙で、市民に『伝右川にゴミを捨てな いように』呼びかけてください。3家と下水をつな げるお金を安くしてください。4昔の人がしたよう に『草刈り』や『草むしり』をしてください。5伝 右川の岸にゴミ箱を置いてください。6伝右川のコ ンクリートの岸をやめて、土の岸にもどしてくださ い。7ジャリッコを使って水をきれいにしてくださ い」 9月、この児童の提案に、埼玉県越谷土木事務所 から返事が来た。児童の提案に対応して、土木事務 所が取り組んでいること、考えていることなどが具 体的に説明されていた。提案のポスターについて は、半年後に越谷土木事務所から作成の依頼があ り、全員で3枚のポスターを作り、貼っていただく ことになった。ポスター作成に関しては、越谷土木 事務所から感謝状もいただいた。3月には「川ざら 教 育 学 論 究 第 3 号 2011 88
い」実施の連絡があり、「川ざらい」直後の伝右川 を全員で見学に行った。また、上記の児童の提案に 対して、11月、草加市役所から「こども環境サミッ ト」の招待状が送られてきた。そこで、2人の児童 が、サミットで意見を述べた。 ( 3 )伝右川を主題とした総合的学習の検討 授業終了後、本開発授業の構想を検討するため質 問紙による調査を実施した20)。すなわち、解明した 規則性に基づく本開発授業の妥当性を検証するため に、開発授業による児童の変容と、児童の変容を促 した授業構成上の要因とを、主観的側面から把握し ようと考えたのである。 「この勉強で役に立ったことはありますか」とい う質問に対して、児童は次のように答えている。第 一に、「いつまで人が泳いでいたのか、どうして汚 くなったのかとかがわかったし、どうやって作って いたのかもわかったから」「『ジャリッコ』で水をき れいにする方法が分かったから。水草があると水が 汚れにくいということも分かったから」というよう に、児童は新しい知識が獲得できたことを、「役に 立った」こととして挙げている。第二に、「いろい ろのところの仕事の人が手紙を書いてくれたりした ので、いろいろな考えがまとまって、いろいろな意 見が言えて、すごくに役に立ちました」「水がどれ だけ大切か分かったから。できるだけ水を汚さな い、むだにしないようになった」というように、児 童は新しい知識の獲得によって社会的視野が広がっ たこと、社会的な見方や考え方が「変化した」こと を「役に立った」こととして挙げている。第三に、 「私は伝右川の勉強をして、『環境サミット』という 行事で発表したかったことが言えたから」「『環境サ ミット』で調べたことなど、自分たちが思ったこと を言ったから。調べたことが役に立ったと思う」と いうように、児童は獲得した知識を活用して地域社 会に自分たちの考えを発信できたことを「役に立っ た」こととして挙げている。 こうした児童の変容を促した要因として、「伝右 川の勉強はおもしろかったですか」という設問に対 する児童の記述から、次のことが指摘できる。第一 に、「いろいろ伝右川のことが分かっていくと、信 じられない事実が明らかになっていって、とてもお もしろかった」「昔の伝右川のことは知らなかった けど、調べてみたらいろんなことが分かったから楽 しかった」というように、本開発授業の学習内容は 児童の知的好奇心を触発するものであったと言え る。また、「伝右川を調べて、伝右川は人が作った 川だと知ったりすると、『ああ、調べて分からなかっ たことを知るっておもしろいなあ』『社会ってわか るとおもしろいなあ』と思いました」「伝右川で分 からないことを勉強して、『伝右川に、こうしてい るんだ』と思うとウキウキしてくる」というように、 本開発授業の内容は、児童の効力感を高めていると 言える。第二に、「私は、伝右川を調べていろいろ 見たり、調べたりするからおもしろかったです」「伝 右川の勉強をして、いろいろな意見を聞くことがで きるなど、そういう勉強が楽しいです」というよう に、本開発授業の展開は、児童の知的好奇心の広が りに対応していたと言える。また、「社会はもとも と好きではなかったけれど、川を守ればもう少し町 がきれいに見えるかなと思えたからです」「伝右川 を見にいったり、誰かに聞いたり、自分で伝右川の ことを考えるのがおもしろかった」というように、 本開発授業における学習成果の発信は、地域社会の 現代的課題に主体的に関与しようとする態度を育て るきっかけになっていたと言える。 以上のことから、前述した本開発授業の構想を、 児童の変容並びに授業評価を手がかりに検討する と、次のように言える。第一に、川の利用と保全、 伝右川の開削の歴史といった内容構成の規則性は、 児童の質的変容を促したと言える。例えば、「いろ いろ伝右川のことが分かっていくと、信じられない 事実が明らかになっていって、とてもおもしろかっ た」「伝右川を調べて、伝右川は人が作った川だと 知ったりすると、『ああ、調べて分からなかったこ とを知るっておもしろいなあ』『社会ってわかると おもしろいなあ』と思いました」というように、川 20)授業評価は、1998年12月21日に行った。調査人数は37人である。また、質問紙において、2つの質問を設定したのは、 以下の理由による。第一に、児童の効力感の変容を尋ねたのは、総合的学習の時間のねらいである「自ら課題を見付 け、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、よりよく問題を解決する資質や能力」の中核となっている自己学習能力 が、知的好奇心と効力感を要素として構成されているからである。第二に、授業を評価する理由として児童が記述す る学習内容や展開方法を効力感との関連で検討し、授業構成を検討したいと考えたからである。こうした考え方は、 以下の文献によった。 ①波多野誼余夫編『自己学習能力を育てる』東京大学出版会、1980年、p.66―95. ②「67授業分析」永井滋郎・平田嘉三編『社会科重要用語の基礎知識』明治図書、1981年、p.77. 川を主題とした総合的学習の改善 89
に拘泥し、水資源や環境の保護という現代社会の課 題を視野に入れた内容構成は、児童の社会的視野を 広げ、見方や考え方の変容、効力感の向上を促して いると言える。第二に、活動的な情報収集、児童や 地域の人々との交流形態といった展開方法の規則性 は、学習への児童の主体的な関与を促したと言え る。例えば、「いろいろのところの仕事の人が手紙 を書いてくれたりしたので、いろいろな考えがまと まって、いろいろな意見が言えて、すごく役に立ち ました」「伝右川を見にいったり、 誰かに聞いたり、 自分で伝右川のことを考えるのがおもしろかった」 というように、地域の人々の学習への関与、児童が 主体となる学習活動は児童の社会的視野を広げ、伝 右川や伝右川に関わる人々に共感を促し、川や水の 汚れという地域社会の現代的課題を解決しようとす る意欲や態度に結びついていると言える。