論 文
都市ごみ焼却飛灰の毒性
金子栄廣 池田太
Toxicity of Municipal Solid Waste Combustion Fly Ash
HidehiroKANEKO FutoshiIKEDA Abstract Toxicity of leachate of municipal solid waste combustion fly ash was examined by quantitative analysis of heavy metals and Daphnia toxicity test. Comparing the concentration of heavy meltals with the criteria for landfill restriction, it was expected that cadmium would be one of the dominating causes for the toxicity of leachate. Daphnia test, however, showed that the toxicity of leachate was 20 to 30 times higher than expected from cadmium concentration. It was also confirmed that the toxicity of leachate was independent of cadmium concentration. These facts show that, in addition to chemical analysis, it is useful to conduct biological toxicity test to evaluate the toxicity of wastes. 1.はじめに 最終処分された廃棄物が雨水や地下水などと接触す るとそこに含まれている様々な成分が水中に放出され る.この過程は溶出と呼ぼれるが,溶出した成分は地 下水の流れに乗って移動し,ときには最終処分地の外 部へ流出する.特に有害な成分が溶出し環境中に拡散 することは,廃棄物がもたらす環境被害の最大の経路 の一つと考えられる.このような機構によって廃棄物 が人体や生態系に対し健康等の障害をもたらす危険性 は溶出毒性と呼ばれ,国内外の有害廃棄物に関する 様々な規制の動きの中で廃棄物の有害性を表す概念の 一つとなっている1・2). この溶出毒性を評価するには,対象とする廃棄物に 所定の溶出操作を施して得られる溶出液中の毒性を調 べる,いわゆる溶出試験が従来より広く行われている. ※土木環境工学科,Department of Civil&Environmen− tal Engineering 現在提唱,運用されている溶出試験には溶出操作の面 で様々なバリエーションがみられる3)が,溶出液中の 成分を分析し,その結果を基準値と照合するという点 では共通している.しかし,これは分析の対象とした 成分がどれだけ溶出する危険性があるかを示すだけで あり,この結果のみから溶出毒性を評価するのは不十 分と言わざるを得ない. 実際,現在の溶出毒性判定のための基準項目として 挙げられているものは,わが国ならびに米国の例1・4)を みれぽ明らかなように水道水質基準がもとになってい る場合が多く,生態系への影響まで考慮に入れたもの ではない.しかし,国際的に有害廃棄物を規制するた めに採択されたバーゼル条約5)やECにおける有害廃 棄物の定義6)さらにはわが国における特別管理廃棄物 指定における有害特性の考え方7)などをみれぽ明らか なように,生態毒性は,現在,有害特性の概念のひと つに挙げられており,今後,溶出毒性を評価する際に これをいかに盛り込むかということは重要な課題であ る.平成6年12月 また,複数の化学成分が共存した場合に個々の物質 の毒性から考えられるよりも毒性が強くなる作用,す なわち相乗効果が認められる場合もあり,廃棄物の有 害性を考える上で個々の成分について分析的に評価す るだけでなく総合的に毒性を評価することの必要性も 叫ばれている8)ところである. 以上の問題を解決する端緒として,本研究では,従 来から重金属などの有害成分を多く含むことから問題 視されている都市ごみ焼却飛灰を試料として溶出試験 を行い,得られた溶出液について重金属成分の分析を 行うと同時にミジンコを用いた・ミイオアッセイによる 毒性評価を試みた.また,焼却飛灰の有害成分のひと つとして指摘されているカドミウムが飛灰溶出液の総 合的な毒性に対してどの程度寄与しているかについて も考察した. 表1 飼育水の組成 成 分 濃度 (mg/L) 2.実験方法
NaHCO3
CaSO4・2H20MgSO4
KCl 48 30 30 2.0 2.1 試料と溶出液の作成 本研究では,ストーカー型の都市ごみ焼却炉に付帯 する電気集塵器により捕捉された飛灰(消石灰噴霧な し)を試料とした. 溶出液の作成には種々の方法があるが,本研究では 飛灰自体に由来する毒性を評価するのが目的であるた め,溶媒として純水を用い外部から化学物質の添加を 一一リ行わない方法であり,わが国の公定法として広く 用いられている環境庁告示13号法9)に準じて飛灰溶出 液を作成した. 2.2 成分の分析 得られた飛灰溶出液について,pHの測定ならびに 重金属の分析を行った. 分析の対象とした重金属は,カドミウム,クロム, 銅,鉄,鉛,亜鉛および水銀である.水銀以外の金属 については,溶出液を王水分解した後フレーム原子吸 光法により定量した.また,水銀は過マンガン酸カリ ウムおよびペルオキソニ硫酸カリウムによる処理を 行った後,フレームレス原子吸光法により定量した. 2.3 ミジンコの採取と飼育 バイオアッセイによる毒性評価の供試生物として用 いたミジンコ(1)mPhnia Pulex)は,山梨大学工学部正 門南側の池より採取したものである.採取後直ちに1 個体を駒込ピペットで取り分けてクローン化し,飼育 を開始した. ミジンコの飼育には,容量約13Lのプラスチック製 の水槽を用い,これに人工軟水1°)の組成に調整した飼 育水10Lを満たしミジンコを放した.飼育水の組成は 表1に示すとおりである. 飼育時の水温は20±1℃とし,ミジンコの日周性を 考慮して白色蛍光灯により約20001Xの照度で13時間 明11時間暗の照明を行った.餌は別途培養した緑藻 (Selenastrum caPricornzatzam)を週に2回与えた. 2.4 バイオアッセイ 所定濃度に希釈しpHを7.0に調整した試験検液の 希釈列を作成し,各試験濃度についてそれぞれ30mL をシャーレに移した.これに体長約1mmで外観上健 康なミジンコを1枚につき10個体を放した.所定の時 間毎にミジンコの生死を判定し,生存数を調べた. 同一濃度の希釈検液について5群の同一試験を行 い,各群の生存数から生存率,その標準偏差ならびに その95%信頼区間を求めた.生存率が16%から84%の 間にあるデータを取り出し,プロビット法1°・11)によっ て半数致死濃度LC5。とその95%信頼区間を算出した. 3.結果と考察 3.1 希釈水の選択 バイオアッセイにおいては試験検液の希釈列を作成 する必要があるが,そのためにはまず,適当な希釈水 100 室 ) 80 島§60
§4。 § ti 20 房 0 0 distilled water 1/8 soft water 1/4 soft water ムけ 1/2 soft water soft water㌔s
20 40 60
Exposure time (hrs) 図1 希釈水の硬度と生存率の時間変化 80表2 重金属の分析結果および基準値 金属名 Cd Cr*) Cu Fe Hg Mn Pb Zn (mg/L) (mg/L) (mg/L) (mg/L) (μg/L) (mg/L) (mg/L) (mg/L) 溶出液中濃度 45.1 ND 陸上埋立基準 O.3 1.5 環境基準 0.01 0.05 0.587 0.194 1.06 5 0.5 5.87 2.61 3.0 0.01 513 *)分析値はT−Cr,基準値はCr6+である。 を決めなくてはならない.検液の毒性を評価するとい う目的からは化学物質を一切含まない純水が適当であ るが,ブランクで十分高い生存率が保証されるという こともバイオアッセイを行う上で重要な条件となる. OECDの化学品テストガイドライン12)によるとプラ ンクにおいてミジソコの10%以上が死んではならない とされており,この点も考慮して希釈水を選択しなけ ればならない. そこで,飼育水として使用している人工軟水のほか に,これを1/2∼1/8に希釈したものおよび蒸留水を候 補とし,それぞれについてミジンコの生存率の時間変 化を調べた.その結果を図1に示す.蒸留水は他に比 べて生存率の低下が早く,12時間を過ぎるとOECDの 基準を満たせなくなった.人工軟水の希釈列ではいず れも48時間までは生存率100%が確保されたが,72時間 後には生存率が低下した.このとき,成分濃度の高い ものほど生存率も高いという結果となった. 以上の結果ならびに,希釈水に飼育水と同じ組成の ものを用いることによって試験に先立つ馴致の必要性 をなくすことができるという理由から,以下のバイオ アッセイにおいては希釈水として人工軟水を使用する こととした.
室100
)§80
§60
§40
G
ヱ 20 trl房 0
一4 一3.5 −3 −2.5 Log of dilution ratio (一) 一2 3.2 飛灰溶出液の分析結果 焼却飛灰から作成した溶出液の重金属の分析結果な らびにそれらに関する陸上埋立基準値ならびに環境基 準値を表2に示す.この表から,この飛灰溶出液には 埋立基準よりかなり高いカドミウムが含まれているこ と,鉛も埋立基準とほぼ同程度存在していることがわ かる.また,規制の対象とはなっていないが,亜鉛も 高濃度に含まれている.なお,この溶出液のpHは8.6 であった. この分析結果から,カドミウムが飛灰溶出液の毒性 に大きく寄与しているものと予測された.そこで,バ イオアッセイによる毒性評価においては,単にこの飛 灰溶出液の毒性を調べるだけでなく,それに対するカ ドミウムの寄与についても検討することとした. Contact time 3 hrs 6 hrs l2 hrs 24 hrs 48 hrs 十 ・■・ …▲・・ −e・ 一臼… 図2 飛灰溶出液の用量一反応曲線 3.3 飛灰溶出液の毒性 ミジンコを用いたバイオアッセイによって飛灰溶出 液の毒性を調べたときの各接触時間における溶出液の 希釈率と生存率の関係を図2に示す.このようなグラ フは一般に用量一反応曲線と呼ばれ,横軸に投与量ま たは濃度の対数をとるのが慣例である.しかし,飛灰 溶出液の場合には未知物質を含めて複数の物質が混在 する上にその濃度もわからないため,通常の濃度単位 (例えぽmg/Lなど)で表示することができない.そ こで,ここでは,濃度と比例関係にある量である希釈 率を濃度の代わりに用いた. 当然のことではあるが,接触時間を長くとるほど低 濃度で生存率への影響が出ることがこの図からわか る.このことは,接触時間を長くとった方がより低濃 度での影響を観測できる鋭敏な試験となることを意味 している.この結果から各接触時間におけるLC5。とそ の95%信頼区間を求めると表3のようになった.OECDのガイドラインが推奨している24時間での
LC5。をみてみると,この溶出液をおよそ1000倍希釈し てもミジンコの半数が死ぬという結果となった.また, 48時間の場合,約4000倍まで希釈しないとミジンコが 半数以上死んでしまうことになる.表3 飛灰溶出液のLC5。値とその信頼区間 試験時間 LC5。 (時間) (希釈率) 95%信頼区間 (希釈率) 1 3 6 12 24 48 _*) _*) 1/253 1/270 ∼1/233 1/413 1/435 ∼1/385 1/694 1/769 ∼1/666 1/935 1/1000∼ 1/900 1/4170 1/5000∼1/3330 *)1/100以下の希釈率では生存率100%であっ た。 表4 カドミウムのLC5。値とその信頼区間 試験時間 LC5。 (時間) (mgCd/L) 95%信頼区間 (mgCd/L) 0.4
G
≧ 品 50.3 き 口 巴0.2 芒8
9
o 目0・1 .自 葛8
1 3 6 12 24 48 _*) _*) 2.23 1.55 1.05 0.302 _*) _*) 2.06 ∼2.38 1.44 ∼1.71 0.980∼1.13 0.279∼0.333 0 0 0.0001 0.0002 0.0003 *)4.0 mgCd/L以下の検液で生存率100%で あった。 表5 飛灰溶出液とカドミウムの毒性の比較 Dilution ratio of fly ash leachate (一) ト●−148−h LC50 and 95% Confldence lnterva1 図3 飛灰溶出液におけるカドミウムと他の成分との相互作用
飛灰溶出液の Cd単独投与 試験時間 LC、。相当の の場合の Cd濃度(A)LC5。値(B) (時間) (mgCd/L) (mgCd/L) (B)/(A) (一) 1 3 6 12 24 48 0.179 0.109 0.0650 0.0482 0.0108 2.23 1.55LO5
0.302 20.5 23.8 21.7 27.9 溶出試験によって廃棄物の有害性を評価するときの 基準値の設定の仕方をみると,例えぽわが国の場合に は水道水質基準値の10∼30倍,米国の場合には水道水 質基準の100倍という希釈流達倍率が適用されている. すなわち,10∼100倍程度希釈されたときに安全な水質 にならない場合にその廃棄物は有害と判定されること になる.表3の結果はミジンコというわずか一種類の 生物に対する影響を評価したに過ぎないので厳密な議 論はできないが,これらの希釈流達倍率と飛灰溶出液 のLC5。とを比較すると,この溶出液の毒性が大きいこ とがわかる. 3.4 カドミウムの毒性とその溶出液への寄与 3.2で述べたとおり,既存の研究13)あるいはこの研 究で用いた飛灰溶出液の分析結果からカドミウムが溶 出液の毒性に大きく寄与していると予測されたので, カドミウム源として塩化カドミウムを用い,これを単 独で投与したときの接触時間とミジンコの生存率との 関係を調べた.表4にその結果から求めたLC5。と95% 信頼区間を示した. この結果を踏まえ,飛灰溶出液の毒性に対してカド ミウムの毒性がどの程度寄与しているかを調べるた め,表3のLC,。(希釈率)と3.2の分析値から飛灰 溶出液をLC5。になるように希釈したときのカドミウ ム濃度を求め,これをカドミウムを単独で投与した場 合のLC5。の値と比較した(表5).カドミウム濃度とし て比較すると,いずれの試験時間においても,単独投 与の方が溶出液の場合より20∼30倍も高い値を示すこ とが分かる.すなわち,飛灰溶出液の毒性は,カドミ ウムを単独で投与した場合から推定されるよりもおよ そ20∼30倍も強いということになる. 次に,この飛灰溶出液の毒性に対してカドミウムの 毒性がどのように作用しているのかを調べるため,毒 性学で行われる相互作用検出試験を行った. まず,溶出液と塩化カドミウムの等効力混合液を作 成した.等効力混合液とは,この混合液中のカドミウ ム以外の成分濃度が飛灰溶出液のLC5。に等しくなる ように希釈したときカドミウム濃度が単独投与の場合 のLC50と等しくなるような割合で両者を混合したも のである.この等効力混合液について48時間LC5。とその95%信頼区間を求めた. 図3は,飛灰溶出液,カドミウム単独ならびにその 等効力混合液の48時間LC50とその95%信頼区間を,横 軸に溶出液の希釈率,縦軸にカドミウム濃度をとって 示したものである.この図の横軸は飛灰溶出液中のカ ドミウム以外の成分濃度を表している.したがって, カドミウムを含んでいる飛灰溶出液や等効力混合液の 希釈列はそれぞれ図中の点線のように原点を通る正の 傾きを持つ直線として表され,その傾きはそこに含ま れるカドミウムとそれ以外の成分の比率に相当するこ とになる. この図から,飛灰溶出液のLC5。とそれにカドミウム を添加した等効力混合液のLC5。が横軸で比較した場 合にほぼ等しくなっていることが分かる.このことは, 飛灰溶出液中のカドミウム濃度が増減してもその LC5。は全く影響を受けないということを示している. 別な言い方をすれぽ,この飛灰溶出液からカドミウム だけを完全に取り除いたとしても,溶出液の毒性は全 く変わらないということである. 4.まとめ 都市ごみ焼却飛灰を試料として溶出試験を行い,そ の溶出液について重金属を定量すると同時にミジンコ を用いたバイオアッセイによりその毒性評価を行っ た. 分析の結果,これまでに指摘されてきたようにカド ミウムの濃度が基準値と比較してかなり高く,毒性へ の寄与が大きいものと考えられた.しかし,バイオアッ セイの結果,カドミウムを単独で投与した場合の毒性 に比べて飛灰溶出液は20∼30倍もの毒性を有すること が示された. また,溶出液中のカドミウムとそれ以外の成分との 間での毒性の相互作用について検討したところ,この 溶出液の毒性に対してカドミウムは寄与しておらず, 仮にもとの飛灰中のカドミウムを何らかの処理を行っ てすべて除去できたとしても,その毒性は全く減少し ないことが明らかとなった. 平成3年の廃棄物の処理および清掃に関する法律の 改正により,現在では一定の規模,能力を有する焼却 施設から排出される飛灰は特別管理一般廃棄物に指定 され,重金属等の不溶化または無害化処理を行って埋 立基準に適合するようにしなけれぽ最終処分できない ことになった.しかし,本研究の結果が示すように, カドミウムに関して埋立基準をクリアーできるように 処理したとしても,毒性面で安全が十分に保証される とは言い難く,その処理によって飛灰の毒性自体がど こまで削減できたかを評価する必要がある. 今後は,飛灰の毒性を支配している物質を突き止め, 有効な処理方法を検討する必要がある.また,廃棄物 の有害性を評価する上で,生態系への影響まで含め, 毒性を総合的に調べる手法を確立することが急務であ る.そのためには,従来の分析的手法に加えて,本研 究で行ったような・ミイオアッセイの手法を応用してい くことが有効と考える. 参考文献 1)金属等を含む産業廃棄物に係る判定基準を定める 総理府令,総理府令第5号(1973) 2)U.S. EPA:Identification and Listing of Haz− ardous Waste,40 CFR, Part 261(1991) 3)金子栄廣:溶出試験の現状と展望,廃棄物学会誌, Vol.3, No.3, pp,182−191(1992) 4)U.S. EPA:Hazardous Waste Management System;Identification and Listing of Hazardous Waste;Toxicity Characteristics Revisions;Final Rule, Federal Register, Vo1.55, No.61(1990) 5)1989Basal Convevtion on the Control of Trans− boundary movements of Hazardous Wastes and their Disposal, Environmental Law, Vol.1, No.2, pp.255−277(1989) 6)The Council of the European Community: Council Directive of 12 December 19910n Hazard− ous Waste,91/689/EEC, Official Journal of the European Communities, No, L377, pp.20−27(1991) 7)廃棄物研究財団編:特別管理廃棄物シリーズ1 特別管理廃棄物,化学工業日報社(1993) 8)中杉修身1有害廃棄物問題の展望,廃棄物学会誌, Vo.2,No.1, pp.21−28(1991) 9)産業廃棄物に含まれる金属等の検定方法,環境庁 告示第13号(1973)