一 一 色 彩 教 育 に お け る 配 色 第
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報一一
朝 倉 直 巳 *
Color for Environment in European Cities 一一一ColorComposition in Art and Design Education,
N o. 3.一 一 -Naomi ASAKURA はじめに これまでに本学の紀要に発表してきた2つ の論文 (1991年1), 1994年2))では,色を効 果的に組み合わせる「配色Jについて,方 法・種類・感情効果等について述べてきた. さて,そこで,現実の問題として,それらが 社会や人間の生活の場で実際にどのように使 われているかという応用面について調べてみ たいと思う.その対象を,ここでは,都市の 環境デザインに設定して,考えてみることに した. このことの調査をするために,本学在外研 究 員 と し て3か 月 間 ( 1996年1月25日 ""'-'1996年4月24日),ヨーロッパへ出張し て,いろいろなまちの状況を視察してきた. 本論で用いる写真は,すべてそのときに筆者 が撮影したものである. 色は,生活のいろいろな場面で使われる. 実用性を考えないファイン・アート,例えば 絵画では,自分の好きな色を自由に使えばよ い.しかし,環境のデザインでは,目的をよ く考え,周囲の物との調和をはかりながら使 わなければならない.現代の日本で,I
美し い都市の街並み」という観点から見るとき, それとは程遠く,もう少しなんとかならない キあさくら な お み 文 教 大 学 教 育 学 部 ものだろうかという情景に出会うことが多い 現状を省りみて,これからの街の環境を考え る上でどのようなことに留意したらよいかを 知るために,この方面での先進国であるヨー ロッパの諸都市を訪ねる旅に出たのである. 筆者が訪ねた国は,オランダ,ベルギー, ド イツ,オーストリヤ,イギリス,プランス, スイス,イタリアの 9か国で,それらの国内 でも移動したから2
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以上のまちを廻ったこ とになる3) (1 ) 街並み (Street) 街並みの美の原理は「調和j にある.その ための 1つの有力な方法として,造形要素の くり返し (repetition)がある.例えば,図 1aと図1bを比べてみればわかるように,建 物が1つ建っている場合はそれだけのことで あるが,同じ建物が3つ並ぶとより美しさを 感じるようになる.この際,重要なことは3
という数にあるのではなく,同じ形や色が複 数並んでくり返すというところにある.それ は,要素のくり返しによって「リズム」が発 生するからである.音楽や踊りの場合でも同 様であるが,リズムは躍動感や生命力を感覚 として醸し出す.このリズムの持つ力が建物 の集合,即ち街並みに美をもたらすのである. この場合,造形の要素(色や形)は全く等 しくなくてもよい.要するに豊かなりズムを 85-『教育学部紀要
J
文 教 大 学 教 育 学 部 第30集 1996年 朝 倉 直 巳 発生させるようになっていればよいのだから, 色や形は少しづっ異なっていてもよい(図 2). バランスよくそれらが配置されているな らば,却って全く同じ要素を反復したときよ りより豊かなリズムを得ることができょう. 図 4の建造物では同じ要素が長く続く. ドア ーにつける家屋番号の数字を豪華な金属で作 ったり,その周りに装飾を施したり,他家と 異なる色のドアーにしたりして各家が判別に 努めているが,もしそのような視覚上の変化 要因がなかったならば,見る眼が退屈するだ けでなく実用上でも判別の困難な家がどこま でも続くことになるわげだから,子供が自分 の家をまちがえたり,訪問客にとっても困る ことになる. そこで,街並みのデザインには,なにより も調和が必要があるが,その調和は「統一」 だけでなく「変化」の要素を含んだものであ ることが望ましい.このことのために,ヨー ロッパの市民はいろいろな工夫をしている. 図5
は,ロンドンのチェルシ-:1;也区にある 繁華街の大通りを横に曲った路地で,住宅街 になっている.ここに並ぶ家々はすべて2
階 建てで高さが揃っており窓の形も似ている. 違うのは家の外壁の色で,ブルー系の色やブ ラウン系の色やグレイ系……の色で一軒毎に 異なるのだが,どの色も白に近い,明度の高 い淡い色をしている.それ故,交通量の多い この地区のメイン・ストリートからこの路地 に入ったとたんに,静かで上品で,ほのかな 感じのする雰囲気に包まれる.住民に訊いて みると,特に誰から要請されてこのような色 を選んだわけではなく, 1人1人が自分の家 の色を決めるときに,周囲の家と調和するよ うに同じトーンの色を選ぶ、のだ,と.この辺 一帯は色彩的に揃っていて,じつに気持ちが いい.住民の自由意志によって「変化」と 「統一」を持つ調和のある街並みが自然につ くられたのである. イタリヤのベネチアから船で約1時間行っ た所にブラノ島がある.この島は,家々が彩 度の高い強い色を使うことで知られている (図6a).図的のように,日本人だ、ったらと ても住めないような色の民家もあるが,島の 人々は陽気で,賑やかな感じのする街並みの 色彩に誇りを持っている.強烈な色の家でも, 図7のように,周囲が緑に包まれた自然の中 に一軒ぽつんと建っているような場合には, 環境をひき立てて快感を感ずるが,家々が密 集した場合には,強烈な色の多用から優れた 街並みのデザインを得ることは容易ではない. 記念的な建築でない限り,一般市民が住ん だり使ったりする建物は,落ちついた感じを 好むが故に,色彩は地味になりやすい.その ような場合に,高彩度のヴィヴイツトな色を 少量用いると,それがアクセントになって建 物全体がひきしまって良い感じになることが ままある(図8,9). 図1
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では,形はバラバラで統一感がない が,建物の配色が揃っている為に好感の持て る街並みになっている.図11も形は揃って いないが,配色の美しい一風景である. 主要な通りが別の大通りとぶつかるような 場合,ヨーロッパではロータリーなどを設け てモニュメントを建てたりすることがよくあ る.これは,街並みに変化を与え,交通上の よき目印になる.これは「形」による工夫で あるが,図1
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では「色J
を使った工夫とし て面白い.この街並みは,白壁にダークな色 の窓(こげ茶と黒)で配色が統一しているが, この通りがぶつかる丁字路の正面に,黄とグ レイの斜めのカットの入った壁を持つ大きな 集合住宅がある.非常に大胆な発想、のデザイ ンで,この周辺のこよなき目印となっている. (2) インテリヤ・デザイン 色彩に関しては保守的な人が多い建築家の 中にあって,ル・コルビジョは明るく強い色 を大胆に使う先達として知られている.新し い建築デザインを次々に発表したこの優れた 86-建築家の生前の業績を記念して,生まれ故郷 であるスイスにコルビジェ・センターが建て られた.館内の配色は,外壁のヴィヴイツト な色を眺めてから内部へ入ったときに快い感 じがする配色に仕上げられている(図13). 図14も,建物正面から内部へ入るときの関 係が色と形の工夫によって巧みに作られてい る. ウィーンでは,赤・黄・緑というよなヴィ ヴィット・トーンの色が,公共的建築や列車 内の室内環境を構成する色としてよく用いら れる.例えば,工業大学新館の壁面やエレベ ーターの色は,緑が数学,黄は物理,赤は応 用物理というような色で区別し,全体として もそれなりの美しさをそなえている.市内最 大の総合病院
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では,内科,外科等の区別の為 に純色が用いられている(図15). 図16は,芸術家のアトリエの一室で, 1 階と 2階が総合的にうまくデザインされてい る. (3) サイン,広告,ストリート・ファニチャー ストリートを活性化させるものに,道路の 標識や庄の看板,広告(ポスター,ショーウ インドウ,等)その他がある.公衆電話ボッ クスも,ロンドンでは赤,オランダでは緑と, それぞれ鮮明な高彩度色を用い使用目的を明 示すると共に街の、活'性化に役立つている. 図 17は, ドゴール空港へ行く道順を示し ており,黄色の看板を見ながら車を進めれば 自然にパリ国際空港へ着くようになっている. (4) 人と交通機関 路上を使うもの一一人間や交通機関一一の 中には,建物と調和し,街並みを美しく見せ るものがある.欧米の女性は自分の髪の毛の 色に合わせて服の色を考えると言われている が(図19),環境の色との関係も重視し,住 む人が立派に見えるように室内の色を選ぶと いう4)• パスや路面電車も,建築の地味な色とは対 照的に,色を意識させるアクティプな配色を とることが多い.ロンドンでは真っ赤なパス が走り,パーゼルでは緑色のトラムが通る. 以上は「動くものj として共通項目を持つ. 動かない固定した街なかをおしゃれな動くも のが通るのは,気持ちのよい環境をつくるこ とにつながる. (5) 路面のデザイン 道路はストリートの重要な構成要素である. 面積の上でもばかにならない広さを持ってい るのに,今迄は路面の色彩を強く意識するこ とがなかった.多くは,そこで用いる素材の 色ですまされてきた.将来は,路面の色やデ ザインがもっと重要視されるようになるだろ う.特殊な場所においては,このことは大切 だ.ヨーロッパでは,自転車の使用を奨励し ている国が多い.図21は,交通量の多い交 叉点、に設けられた自転車用の道路を示してい る. ま と め 都市の環境デザインにとって大切なのは 「調和」である.この調和を造形的につくる ために色彩の果す役割は大きい.それは,景 観の美を配色の巧みな計画によって,形態と 共に総合的に達成することである. 都市の環境デザインにおける色彩調和には, 「統一」と「変化」が必要である.このうち の統一については,前々回の論文1)中の項目:
2-1-4'"'"'2-1-65),
2-2-1'"'"'2-2-2 6),
2-3 -1 7), 2-3-38), 2-49)と,前回の論文2)中の トーン間2種グループの近距離配色及びオブ 色配色が対応する10).一方,変化について は,前々回の論文中の2-1-1'"'"'2-1-3 11), 2 2-3 12), 2-3-213)及び前回論文中のトーン間 2種グループの遠距離配色が参考になる. 色の使い方には,大事な目標として,視覚 -87-『教育学部紀要』文教大学教育学部第30集 1996年 朝 倉 直 巳 的に魅力のある美的表出をつくることである が,もう
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つ大切なこととして色の機能的用 法がある.例えば,交通信号の色(赤,オレ ンジ,緑)や防火関係の標識の色(赤)など ウィーンの空港で廃棄物を入れる器が 材料によって色別されていて,緑はガラス, 青は金属,赤は紙類となっていた.このよう に,色彩は,ものの識別のためにも使用され る.図1
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なども,このような方面での役割 を持っている. 注と文献 1)朝倉直巳・陳小清:色彩教育における配 色 , 文 教 大 学 教 育 学 部 紀 要 第2
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2)朝倉直巳・嘉剣峯・熊文韻:トーン間配 色とオフ配色(色彩教育における配色・ 第2
報),文教大学教育学部紀要第2
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3) Amsterdam, Rotterdam, Utrecht,
Zaans Schans, V olendam, Brussel, Koln, Dusseldorf, Bremen, Berlin, Des -sau, Potsdam, Wien, Salzburg, Budapest, London, Paris, Versa
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es, Alsace, Basel, Zurich,乱1i
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ano,Venetia, etc. 4)平不二夫:生活と色彩,r
芸術・デザイ ンの色彩構成j,六耀社,1
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5)朝倉直巳・陳小清:色彩教育における配 色 , 文 教 大 学 教 育 学 部 紀 要 第2
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88-図 1a,b 1つだけより (a)、3つ並んだ方が(b)より美的に見えるO ロッテルダムのビル
図 2 各家の色や形に共通性があり、調和のとれた街並み。アムステルダム北方の町。
図3 色や形が調和しているだけでなく、ビルの高さまで揃っている。アムステルダムO
89-『教育学部紀要』 文 教 大 学 教 育 学 部 第30集 1996年 朝倉直巳
図4 強い統一性を持つロンドンの大通り。長く続くので変化や区別性が要るようになる。
図5 ベールトーンに統ーされた街並み。住民の自発的意志に基づく点が貴重。ロンドン。
-図6a 強い色調の民家が多〈集まったブラノ島の街並み。イタリヤ北部。
図 6b 紫色の壁を持つ家。ブラノ島。
図7 豊かな自然に固まれたアルザス地方の田舎の レストランO イエロー・ハウス。フランス。
-『教育学部紀要
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文 教 大 学 教 育 学 部 第30集 1996年 朝倉直巳図8 地味な色の建築にアクセント色が効果的に入った例。ウィーン工科大学。
図9 巧みなアクセント色の使い方によってモダンに見える建築。ロッテルダム。
図 10 運河に面した古い街並み。アムステルダム。
92-図 11 チューリヒからバーゼルへ向かう列車の車窓から見たスイスの小さな町の風景。
図 12a 清潔好きのいかにもスイスにふさわしい色を使った街並み。パーゼル。
図 12b 上図の通りがぶつかる大通りに建つ大胆な色面構成のアパート。パーゼル。
-『教育学部紀要』文教大学教育学部 第30集 1996年 朝 倉 直 巳
図13a 現代建築に新機軸を次々に打ち出したル・コルビュジェは色彩の上でも大胆た‘った。
図13b コルビュジェ・センター内部。チューリヒD
図14 モダンな建築が多いロッテルダムの商庖街にてO リズミックな届舗デザインO
-図15 内科・外科等の種別を明快な色の使用で行っている。アーカーハー・ウィーン。
図 16 スイス生れの芸術家カール・ゲルス卜ナーのアトリエの室内デザイン。
図17 シャルル・ドゴール国際空港の色は黄色ときめられている。パリ。
-『教育学部紀要』文 教 大 学 教 育 学 部 第30集 1996年 朝 倉 直巳
図 18 服飾屈のウインドー展示。ミラノ。 図 19 ミラノの服飾庖街を歩く人々。
図20 おしゃれな市電。デ‘ユッセルドルフ。 図 21 自転車用の通路と歩道の表示。パリ。