• 検索結果がありません。

著作権制度における権利制限規定の動向と教育研究

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "著作権制度における権利制限規定の動向と教育研究"

Copied!
25
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)著作権制度における権利制度規定の動向と教育研究. 研究ノート. 著作権制度における権利制限規定の動向と教育研究 岸本 織江 1 はじめに 平成 21 年6月、第 171 回通常国会において全会一致により「著作権法の一 部を改正する法律」が可決・成立し(平成 21 年法律第 53 号) 、平成 22 年1月 1日より施行された。我が国の著作権制度は明治時代に始まって以来、昭和 45 年(1970 年)に現行法が制定された後も技術の発展や著作物の新たな利用 方法の出現に応じ、度々改正が行われてきた。その代表的なものとしては貸レ コード問題を契機とした貸与権の創設(昭和 59 年) 、コンピュータ・プログラ ムの保護(昭和 60 年) 、データベースの保護(昭和 61 年) 、私的録音録画補償 金制度の創設(平成4年) 、公衆送信権の創設(平成9年) 、実演家人格権の創 設(平成 14 年)などが挙げられるが、特に近年は加速するデジタル化・ネッ トワーク化に伴う著作物利用の変化への対応に力点が置かれ、改正が重ねられ てきた。今回の改正(以下「平成 21 年改正」という。 )はその一つの集大成と して、最近数年間の検討結果が盛り込まれたものであり、インターネットを通 じた著作物利用の円滑化のために必要な権利制限規定の創設、権利者不明の場 合の文化庁長官の裁定制度の拡充整備、違法配信の私的複製からの除外等がそ の主な内容となっている。 本稿は平成 21 年改正やその後の権利制限規定に係る見直しの動向について 175.

(2) 横浜国際経済法学第 18 巻第3号(2010 年3月). 現時点での概観を行い、あわせて教育研究分野における具体的な課題について 考察しようとするものである。 まず本論に入る前に、権利制限規定の概要について整理しておきたい(法律 の条項の引用に関しては特段の記載がない限り我が国の著作権法の条項を指す ものである) 。. 2 権利制限規定の概要 (1)権利制限規定の意義 権利制限規定とは著作権法の目的1)である「公正な利用への留意」を具現 化したものとされている2)。およそ著作物3)は全くの無から生み出されるので なく、先人の文化遺産という礎の上に成り立つものである。従って著作権制度 は著作者4)に独占的権利を認め、著作物の利用によって得られる利益を還元 させるとともに、一定の要件の下で他者の「公正な利用」を確保し、社会全体 で多様な創作活動が行われることにより文化が発展することを期している。こ れら一定の要件の下に著作物の自由な利用を認める規定は「権利制限規定」と 称され、我が国の著作権法においては、30 条から 49 条までに、各利用態様ご とに個別に列挙する形式で規定されている。 このように権利制限規定は著作者の権利と利用者の利益を調整するものであ り、技術の進展や社会状況の変化に応じ両者のバランスを保つため、適切な見 直しが図られなければならない。その際、権利制限の拡充又は創設を著作者の 権利を切り下げるものとして捉えるのは正しくない。著作権は天賦の権利でな く、文化の発展を図る必要性から情報という無体物に関する独占権として政策 的に認められてきたものであるという観点からみれば、独占による創作者への 利益還元と利用者の自由利用を阻むという弊害との調整を様々な面から図った 上で、はじめて著作者の権利行使が可能な範囲が定まるべきものであって、一 定の確固たる内容を持つ権利が所与のものとして存するのではない。すなわち、 176.

(3) 著作権制度における権利制度規定の動向と教育研究. 情報技術の発展や社会状況の変化などにより著作物の利用動向に変化が生じる のであれば、それに応じた権利規定や権利制限規定の見直しが行われるのはい わば当然のこととして制度に内在的に予定されているのであり、言い換えれば これらの権利制限規定等の見直しを適時適切に行うことによって、はじめてそ の時々の権利のあるべき姿を削り出すことができるのである5)。 著作権の制限がどのような場合に認められるかについては、著作権制度に関 する最古かつ基本的な条約である「文学的及び美術的著作物の保護に関するベ ルヌ条約」 (ベルヌ条約)において次のように規定されている。 『特別の場合について著作物の複製を認める権能は、同盟国の立法に留保さ れる。ただし、そのような複製が当該著作物の通常の利用を妨げず、かつ、そ の著作者の正当な利益を不当に害しないことを条件とする。 』 (ベルヌ条約9条 (2) ) ここには「特別の場合」 「通常の利用を妨げない」 「著作者の正当な利益を不 当に害しない」という3つの要件が規定されている。これら3つの要件は「権 利制限のためのスリー・ステップ・テスト」と称されており、これを満たさな ければ著作権を制限してはならないこととなっている6)。 ここでいう「特別の場合」とは、同盟国の立法で特別な場合の利用行為につ いて規定することであり、 「著作物の通常の利用を妨げない」とは、 その利用が、 権利者が著作物に対する権利から経済的価値を引き出す通常の方法と経済的競 争を生じ、これにより権利者から多量の又は実質的な商業的利用を奪わないこ と、 「著作者の正当な利益を不当に害しない」とは、著作権者の収入に不合理 な損失を生じさせないことであると解されている7)。. (2)権利制限規定に係る改正の経緯 これまでに行われた権利制限規定に係る制度改正は、著作物の利用態様の変 177.

(4) 横浜国際経済法学第 18 巻第3号(2010 年3月). 化や、新たに著作物と位置づけられた種類、分野における固有の必要性等か ら、公正な利用の確保が必要であると認められた場合に行われてきたものであ る(表 1 参照) 。 【表1 権利制限の主な見直しの経緯(現行法制定後)】 (条文は平成22年1月1日現在のもの) 改正年 昭和59年 昭和60年 平成4年 平成11年. 平成12年 平成15年 平成16年 平成18年. 平成21年. 主 な 改 正 事 項 非営利・無料の貸与(38条4項)、映画の著作物の貸与(38条5項)、公衆 使用の自動複製機器による複製の私的複製からの除外(30条1項1号) コンピュータ・プログラムの複製・翻案(47条の3) 私的録音録画補償金制度創設(30条2項) 行政機関情報公開法等による開示のための利用(42条の2) 技術的保護手段の回避による複製の私的複製からの除外(30条1項2号) 譲渡権の制限(47条の9) 点字データの公衆送信、 リアルタイム字幕等障害者の著作物利用の拡充 (37条2項、37条の2) 拡大教科書作成(33条の2)、授業目的の複製等の拡充(35条、36条) IPマルチキャスト放送による放送の同時送信の円滑化(102条3項~5項、 38条2項) 視覚障害者のための録音図書のインターネット配信(37条3項) 特許審査手続における文献複製等(42条2項)、記録媒体内蔵複製機器の保 守・修理のための複製(47条の4) 違法配信からの録音・ 録画の私的複製からの除外(30条1項3号)、 国立 国会図書館における所蔵資料電子化(31条2項)、 視覚障害者の著作物利 用の拡充(37条3項)、聴覚障害者の著作物利用の拡充(37条の2)、美術 の著作物等の譲渡等の申出に伴う複製・ 公衆送信(47条の2)、 送信の障 害防止等のための複製(47条の5)、情報検索サービスのための複製等(47 条の6)、情報解析研究のための複製等(47条の7)、電子計算機における 著作物利用に伴う複製(47条の8). 特に近年は、情報技術の発達とネットワークの急速な普及により著作物の利 用態様が質的・量的に大きく変化しており、従来であれば出版社、レコード会 社、放送局など一定の資金力、組織力を持つメディアのみが本、レコードなど の物を介して著作物を流通させてきたところ、現在では誰もがいつでもどこで 178.

(5) 著作権制度における権利制度規定の動向と教育研究. も簡便に著作物を創作し、あるいは他人の著作物を利用して瞬時に多数の人間 に向けて発信することが可能となっている。このような社会において、情報の 保護と円滑な利用のための基盤的制度である著作権法のもつ意味は益々大きく なっており、権利制限規定の見直しも頻繁に行われてきた。 その中でも特に平成 21 年改正においては、権利規定や執行・罰則規定に比 べて近年見直しが遅れていた権利制限規定について、大幅な改正を行っている。. (3)平成 21 年改正の概要 平成 21 年改正はデジタルコンテンツの流通促進のための改正である。近年、 「我が国の情報伝達技術の発達・普及に比してインターネット上で著作物が十 分に流通していない」 、 「インターネットビジネスにおいて世界に遅れをとって いる」などの問題意識から、 「デジタルコンテンツの流通を促進する法制度の 整備が必要である」8)とされてきたことから、平成 21 年改正は著作権法にお いてこの問題意識に応える内容となっている。 その主な内容は、①インターネット等を活用した著作物利用の円滑化を図る ための権利制限規定の創設及び著作者不明の場合の文化庁長官による裁定制度 の拡充、②違法な著作物の流通抑止のための権利制限規定の縮小及びみなし侵 害規定の拡充、③障害者の情報利用の機会確保のための権利制限規定の拡充、 となっている。 以下、簡単に平成 21 年改正のうち権利制限規定に係るものについて述べて おく。 ①情報検索サービスのための複製等(47 条の6) 平成 21 年改正の一つの目玉とされたものであり、インターネットでの情 報検索サービスを行うために必要な著作物の利用を認める権利制限規定の 創設がその内容となっている。 インターネットでの情報検索サービスを行うためには、予めインターネッ 179.

(6) 横浜国際経済法学第 18 巻第3号(2010 年3月). ト上で網羅的に収集した情報を情報検索サービス事業者が検索しやすいよ う整理・解析し、サービス利用者の検索に応じて検索結果を表示する必要が ある。これらの行為は著作権法上、著作物9)を複製及び翻案した上で利用 者の求めに応じて公衆送信する行為に該当する。インターネット上にアップ ロードされている情報を個々の利用者が個別に複製、翻案する行為は私的複 製(30 条)に該当するが、第三者である情報検索サービス事業者が情報を 一括して収集・整理・提供する行為を認める権利制限規定は従来なかった。 これに対し、そもそもインターネット上に情報をアップロードする著作権者 には検索の対象として複製、翻案されることについて黙示の同意があると捉 える考え方もあるが、 違法アップロードの場合などのように、 情報がインター ネット上にアップロードされたからといって著作者が必ずしも広く周知し たいと考えているとは限らない場合もあるため、全ての場合に黙示の同意が あると推認することは困難であった。 このような事情から、情報検索サービスを行う事業者の中には日本国外に 置いたサーバーにより検索のための作業を行うところもあり、過大なコスト 負担を強いられたり利用者サービス向上の妨げとなることが考えられたこ と、インターネットでの情報検索サービスは著作物の流通を促進し、文化の 発展という著作権制度の目的に資するものであること、検索の対象となるこ とは情報をインターネット上にアップロードする著作権者にとって利益に なる場合もあること、情報検索サービスはある種の社会インフラとして位置 づけることができることなどから、一定の要件の下で行われる情報検索サー ビスに必要な行為(記録媒体への記録、翻案及び自動公衆送信(送信可能化 を含む。 ) )について自由に行えるよう、権利制限規定が設けられた。 なお、一定の要件については、予め組まれたプログラムにより不特定の情 報を収集すること(予め著作者から許諾を得て情報収集を行うことが困難で あること) 、情報の管理者が検索サービスのための収集を拒否する表示をし ている場合にはその情報収集はしない技術方式を採用すること、すでに収集 180.

(7) 著作権制度における権利制度規定の動向と教育研究. した情報について情報収集拒否の表示がされた場合には当該情報の記録を 消去することが政令において規定されている 10)。このほか、著作権侵害行 為を助長することのないよう、収集した情報が著作権侵害によるものである ことを知った場合には、検索結果提供としての情報送信を行ってはならない ことも規定されている(但書) 。 ②送信の障害防止等のための複製(47 条の 5) ①と同様、高度情報化社会におけるインフラとしての役割強化に資するこ とから、 インターネット上での著作物利用が円滑にできるよう、 インターネッ トプロバイダー等にインターネット上での頻繁なアクセスに効率よく対応 するための複製を認めたものである。 これにより、通信のサーバー(自動公衆送信装置)を他人の自動公衆送信 等に供することを業として行う者は、送信情報がアップロードされている サーバーの他に、送信者と受信者の間で同一情報の送信を省略するために、 伝送路の過程のサーバーに当該情報を複製すること(キャッシング) 、送信 システムダウンなどによる送信障害や情報の滅失・毀損に備えバックアッ プサーバーに複製すること(バックアップ) 、特定サーバーへのアクセス集 中時に、同じものを送信できるようにミラーサーバーに情報を分散して複製 すること(ミラーリング)が自由にできるようになった。 あわせてこのような複製を行った者は、情報をアップロードした者が情報 を削除するなどして複製物を保存する必要がなくなったと認められる場合 及び著作物が著作権侵害によりアップロードされているものであることを 知った場合等は、保存してはならないことも定められており(3項) 、仮に 保存を継続した場合には目的外使用として再度複製を行ったとみなされる ことになる。. 181.

(8) 横浜国際経済法学第 18 巻第3号(2010 年3月). ③情報解析研究のための複製等(47 条の7) 膨大な情報の中から必要な情報を抽出するための情報解析技術が高度情 報化社会の基盤技術として重要性を増しているため、これらの技術発展を目 指した研究を自由に行えるようにするためのものである。 「情報解析」とは、 「大量の情報から、言語、音、影像などの要素に係る情 報を抽出し、比較、分類その他の統計的な解析を行うこと」をいい、例えば 膨大なウェブページの中の特定の単語の用いられ方を分析し、各ウェブペー ジ間の異同の調査などの統計的処理を行うことが該当する。この情報解析の 過程で情報をコンピュータに蓄積し、必要な情報の整理、抽出、統計的な処 理に適する形への変更が行われるが、これが著作権法上複製及び翻案に該当 する可能性がある。情報解析研究は膨大な情報の中から利用者が必要とする 技術や知識を抽出するための研究であり社会的意義が大きいこと、情報解析 研究における複製は著作物の表現そのものの利用でなく、情報を収集し、統 計処理するためのものであるから、著作権者の利益を害する程度が低いこと から、情報解析目的の複製及び翻案について権利制限規定を設けたものであ る。 なお、情報解析研究への提供を目的として作成された有料データベース等 については、その著作権者の利益を害することのないよう、本条による複製 は行えないことが規定されている(但書) 。 ④電子計算機における著作物利用に伴う複製(47 条の8) コンピュータ等を用いて著作物を利用する場合、例えばコンピュータ・ソ フトを利用する際にメモリに蓄積されたり、ウェブサイトをブラウザで閲覧 する際にブラウザキャッシュが作成されるなど、情報処理の過程でメモリや ハードディスク上に情報が蓄積される。 従来より、これが瞬間的・過渡的な蓄積であれば「複製」とは概念されて こなかったが 11)、技術の進歩によりそれ以外の蓄積のうち権利を及ぼすべ 182.

(9) 著作権制度における権利制度規定の動向と教育研究. きでない行為が見られるようになり、判断が分かれ混乱が生じることが懸念 されたことから、電子計算機の情報処理の過程で行われる情報の蓄積につい て、情報処理を円滑かつ効率的に行うために必要な限度で行われる場合には 著作権が及ばないことを明確化することとしたものである。 著作権侵害となる著作物利用の場合にまでこのような蓄積を認める必要 性はないため、電子計算機による著作物利用が著作権侵害の場合は情報処理 の過程での複製も権利制限の対象外とすることが規定されている(但書) 。 ⑤障害者の著作物利用の拡充(37 条3項、37 条の2) 障害者のための権利制限規定は、現行法制定時から認められ、情報伝達手 段の発達に伴いこれまでも数回の見直しがされてきた。 視覚障害者のための権利制限としては、点字複製、録音図書の作成(昭 和 45 年)にはじまり、点字データの送信(平成 12 年) 、弱視者のための拡 大教科書の作成(平成 15 年) 、録音図書のインターネットによる送信(平成 18 年)へと、著作物利用の主体や手段が拡充してきた経緯があり、聴覚障 害者のための権利制限としては平成 12 年改正においてはじめてリアルタイ ム字幕(平成 12 年)が認められているが、いずれも利用方法、対象となる 障害の種類、利用主体について個別具体的に範囲を限定して規定する方式が 採られていた。 しかしながら、近年の情報化の進展や障害者福祉に対する社会状況の変化 により、デジタル方式の録音図書や映画の字幕の配信サービス等多様な著 作物提供の方法に対応して障害者の情報アクセスを保障することが必要と なっていること、発達障害等従来のような限定された障害の種類以外にも権 利制限を受けたサービスを必要とする障害が存在すること、利用主体も従来 認められてきた障害者福祉施設のみでは多様なニーズに応えられない状況 となっていること、加えて障害者の権利に関する条約への署名(平成 19 年 9月)により、障害者の情報利用等の重要性が広く認識されるようになって 183.

(10) 横浜国際経済法学第 18 巻第3号(2010 年3月). いることから、さらに幅広い利用主体による多様な利用方法に関し、権利制 限の範囲を拡充しようとするものである(表2参照) 。 ただし、健常者への流用が懸念される著作物形態も含まれることから、障 害者向けの情報提供の必要性と権利者の利益の保護の調整を図るため、利用 主体は、利用者確認体制を備える等政令等において定める基準 12)を満たす 者に限定することとしている。 【表2 平成21年改正による障害者の著作物利用の拡充】(文化庁HPより). 184.

(11) 著作権制度における権利制度規定の動向と教育研究. ⑥その他 その他の権利制限規定関係の改正事項としては、国立国会図書館において 納本後すぐに所蔵資料を電子化(複製)するための規定の創設(31 条 2 項) 、 美術品等の所有者がインターネットオークション等の対面でない取引にお いて商品紹介用の画像を掲載(複製、公衆送信)するための規定の創設(47 条の2)により、インターネット上での利用又はデジタル化に係る利用に ついて著作者以外の者による自由利用の範囲を拡大している。その一方で、 ファイル共有ソフト等を用いてインターネット上で著作権侵害によりアッ プロードや送信が行われる音楽・影像等を、その事実を知りながら録音・録 画すること(複製)については、私的使用目的であったとしても通常の流通 を妨げていること等から、私的複製から除外する(30 条1項3号)として、 権利制限の範囲を縮小する方向での見直しも行っている。 なお、国立国会図書館資料の電子データの外部への提供については、国立 国会図書館と著作権者・出版者等の協議の場で検討が行われる予定であり、 インターネット販売等での美術品等の画像掲載については、政令等において 複製防止措置など一定の措置を施すことが条件として規定されている 13)。. (4)権利制限規定のバランスの変化 平成 21 年改正はデジタルコンテンツの流通促進を柱としており、経済財政 諮問会議におけるコンテンツビジネス促進の観点からの意見等を契機として改 正の検討が行われたことに見られるように、一見して従来よりも産業政策的な 色彩の強い改正内容となっているように思われる。 すなわち、従来は「教育事業」 、 「障害者福祉事業」 、 「図書館事業」等公益性 の高い事業等を円滑に遂行する必要性から権利制限規定が導入されることが多 く 14)、それらに関連した事業など延長的な利用であっても、著作物の利用主 体が営利目的で事業を行っている場合には補償金制度 15)を導入すること等に より、権利制限により損なわれる著作権者の経済的利益との調整が図られて 185.

(12) 横浜国際経済法学第 18 巻第3号(2010 年3月). きた。しかしながら、今回の改正事項により新たに権利制限規定の恩恵を受け る主な利用主体として念頭に置かれているのは、いわゆる「検索エンジンサー ビス事業者」 、 「インターネットプロバイダー」といった営利事業者であり、権 利制限の代償としての補償金制度も措置されていない。確かに、現在情報関連 事業の持つ社会的意義は大きく、インターネットは社会の重要な基盤的インフ ラとしての位置づけを獲得しているし、また、今回の改正によって権利制限さ れたとしても著作者の被る不利益は予め予想される範囲内といえるか、もしく は軽微なものに留まるようなものばかりである 16)から、従来の権利制限の導 入に関する考え方と同様、一定程度の公益性を有する事業の円滑な遂行のため に権利者の利益を不当に害しない範囲で権利を制限したということも可能であ る。しかしながら、結局は営利事業の一環としての著作物利用を認めるもので あり、従来の権利制限規定において著作物の利用主体として考えられてきた者 とやや性格を異にすることは否めない。 今回の改正前後における権利制限規定の種類と条項数 17)をみると、インター ネット関連ビジネス、情報機器及び情報研究に係る条項数並びに障害者福祉に 係る条項数が、従来突出して多かった教育関係の規定に迫る数に上っており、 そのバランスが変化していることがわかる(表 3 参照) 。この変化は、今後ど のような場合に権利が制限され、著作者以外の者による自由利用が認められる のかという著作権制度の根本に関わる政策の方向性を示すものなのだろうか。 この点について、文化審議会著作権分科会報告書 18)においては、ネットワー クを介していても個人的な零細利用にとどまる場合や、私的領域であっても権 利者の利益に影響を及ぼす大規模な著作物利用が見られるようになるなど、許 容されるべきと考えられる事項と許容すべきでないと考えられる事項との境 界、判断基準が変化してきており、従来の権利制限規定の切り口(私的領域か 否か、非営利無料か否かなど)と、実際に権利者の利益を不当に害する行為か どうかという面での実態とが必ずしも重ならなくなっていることを問題とし、 その上で、今後は条約のスリー・ステップ・テストの基準に則して、必要に応 186.

(13) 著作権制度における権利制度規定の動向と教育研究. じ順次このような乖離の解消に努めていくべきことが述べられている。 すなわち、従来の「非営利無料であること」や「私的領域であること」を重 視する観点がやや形式的であり、営利事業であるからといって必ずしも権利者 の利益を不当に害するものではない場合もあるなど、権利者に与える不利益の 実態と乖離していたことから、今回の改正に見られるように、今後は営利事業 であるということを理由として権利制限規定の対象から排除することはせず、 社会における実態に照らしスリー・ステップ・テストの要件を満たしたものに ついて、必要性があれば権利制限の対象とすることが明確に示されたのである。 この判断基準は条約の理念に立ち戻ったものとして評価できるものであるが、 その一方で、 「著作物の通常の利用を妨げず、権利者の正当な利益を不当に害 する場合」とはどのような場合なのかを示す基準が明らかにされておらず、今 後の個別の権利制限規定の導入のための議論が注目されるところである。 また、平成 21 年改正のもう一つの柱とされた障害者福祉のための規定につ 【表3 平成21年改正前後の権利制限の種類と条項数の変化】. 187.

(14) 横浜国際経済法学第 18 巻第3号(2010 年3月). いては、平成 18 年の検討段階において問題視されていた健常者による目的外 利用を防止するための担保措置について、利用者の登録制など利用者確認のた めの体制が整備されていること、著作者等が自らコンテンツを提供する場合に は権利制限規定を適用しないこと、複製物に技術的保護手段を施すことなどを もって権利制限規定導入の条件が整備されたものとして扱われており 19)、こ れらの目的外利用防止措置は、他の権利制限規定導入の際の検討においても参 考にすることができるものと考える。. 3 残された課題 (1)権利制限の一般規定の導入 このほか、権利制限規定に関して残された課題は何であろうか。 我が国の権利制限規定は限定列挙方式となっており、その適用に関しては厳 格に解するべきであるとされてきた 20)。限定列挙方式はどのような場合に著 作物の自由利用が認められるのかが明確であり、法的安定性や予測可能性とい う点で優れている。しかしながら法律に規定されている以外の自由利用が一切 認められないとすると、立法作業に一定の時間がかかってしまう現状において 様々な変化に柔軟に対応することができないという問題が生ずる。特に近年は 技術の進展や著作物利用態様の変化が著しく、現状において権利制限規定を厳 格に解釈するといずれの権利制限規定にも該当せず、形式的に著作権侵害とな る利用例が数多くあり、このために著作物利用を控えたり、激化する国際競争 の中で新規ビジネスを萎縮させてしまうことを懸念する声があった 21)。 このため、従来から権利制限規定を柔軟に解釈し、権利者の利益を不当に害 しないような利用方法については権利制限規定の適用を認めようとする見解 22) がある一方で、我が国著作権法にも「フェアユース」規定を導入すべきである という意見が強く主張されるようになった 23)。 フェアユースとは、米国著作権法 107 条 24)に「著作物のフェアユースには 188.

(15) 著作権制度における権利制度規定の動向と教育研究. 著作権の独占が及ばない」という一般条項が置かれていることから、一般的に 著作権が及ばない包括的な利用の意味で用いられることが多い。フェアユース 規定は米国の判例で積み重ねられてきた、著作権を制限すべき場合の主要な判 断要素を法文化したものであり、公正使用となるかどうかの判断要素は、①使 用の目的及び性格(使用が商業性を有するか、非営利の教育目的であるか等) 、 ②著作物の性質、③著作物全体における使用された部分の量や重要性、④著作 物の潜在的市場や価値に対する使用の及ぼす影響とされている。 我が国では、これまでフェアユースの法理の適用が否定されてきたが 25)、 著作物利用の多様化等社会状況の変化に応じ、権利制限の一般規定の導入につ いて文化審議会著作権分科会において検討が行われている 26)。 フェアユース規定を導入すべきであるという主張には、著作物の自由利用を 包括的に認める一般条項さえ規定すれば相当程度の柔軟な解釈ができ、 「公正 な利用」が大幅に認められるとの考えからなされているものもあると考えられ る。しかしながら、米国著作権法にはフェアユース規定以外に権利が制限され る具体的場合が詳細に規定され 27)、これらはむしろ日本法以上に厳格に解釈 運用されている 28)。すなわち、これらの規定の適用から漏れた利用のうち権 利を及ぼすべきでない場合について、予め要件等について立法機関が判断する のでなく、当事者の判断に委ね、紛争が生じた場合に事後的に司法が一定の基 準に照らして適用の有無を判断するのがフェアユース規定ということになり、 このことからいえるのは、米国の例をみても、例え日本法にフェアユース規定 を導入するとしても、そのことがすなわち権利行使の対象外となる範囲が明ら かにしかも大幅に拡大することになるとは考えにくいということである。 権利制限の一般規定の導入に関して検討をまとめた「文化審議会著作権分科 会法制問題小委員会権利制限の一般規定ワーキングチーム報告書」 (平成 22 年 1月)29)においては、そもそも「形式的権利侵害による萎縮効果や新規ビジ ネスへの萎縮効果等を問題視する意見がある一方、特段問題点はないとの意見 等があり、利用者側と権利者側とで意見の隔たりが大きい」として、 「立法的 189.

(16) 横浜国際経済法学第 18 巻第3号(2010 年3月). 対応が必要であると判断するためには、導入を根拠付ける立法事実があるのか という点につき充分検討すべき」であるとしている。そして裁判実務において 現行の個別の権利制限規定の解釈が弾力的に行われていること、判決確定まで の審理期間に比して個別規定を新たに導入するための審議期間がより長いとは いえず、個別規定改正による解決に限界があるとはいえないことから、必ずし も一般規定導入が必要であるとはいえないとしつつ、導入の必要性を考える際 に検討すべき事項として、規定による予測可能性が低下し、表現の自由に萎縮 効果を及ぼすデメリットがあること等を挙げている。 その上で、仮に一般的を導入するとした場合、利用行為を(a)利用の質又 は量が軽微であり実質的違法性がない「形式的権利侵害行為」 (例:写真や影 像の撮影に伴ういわゆる「写り込み」 ) 、 (b) (a)に含まれるかは不明である が、適法利用に伴う不可避的な利用や著作物の表現を知覚するためではない利 用等その態様から権利者に特段の不利益を及ぼさないと考えられる利用(例: CD への録音許諾を得た場合のマスターテープ等中間過程での複製、技術検証 のための複製等) 、 (c)既存の個別規定の解釈により解決可能な利用 30)、 (d) 特定の利用目的を持つ利用(例:障害者福祉、教育、研究、資料保存といった 目的の公益性に着目した利用、パロディ) 、 (e)その他(例:企業内の利用) 、 に分類し、 (a) (b)については、 「著作物の種類、用途、利用の態様等に照 らし社会通念上著作権者の利益を不当に害しない利用であること」を要件とし て一般規定による権利制限の対象とすることが考えられるとの意見が大勢若し くは多数あったことを述べている。また、 (c)については既存の権利制限規 定の要件を緩和(抽象化)することによる対応、 (d) (e)については、既存 の個別規定との関係や創設の必要性を慎重に検討した上で、必要に応じ個別規 定の改正、創設により対応することが適当であるとの意見が大勢であったこと が示されている。 一般規定導入の議論はまだ途上であるが、仮にワーキングチームの意見がそ のまま立法に反映されるのであれば、これまで検討された事項以上に明確な立 190.

(17) 著作権制度における権利制度規定の動向と教育研究. 法事実がなければ一般規定導入は困難であり、仮に一般規定が創設されるとし てもその適用対象となるのは、現在においても一般的に権利者によって権利行 使の対象として捉えられていない行為に限られ、その他の行為については従来 通り個別規定における対応に委ねられるということになる。 しかしながら、後述する教育研究分野における例のように、高い公益性と社会 のニーズがあり長らく課題とされながら、個別規定導入のための具体的審議に 入ることもできず、また、簡便な利用のためのシステムの不備等から現実に著 作物利用が萎縮している例もある。このような特定目的の利用については個別 規定による対応の迅速化を望むとしても、現時点では予測ができない社会的 ニーズの高い、しかし多数意見となることが難しいために立法的対応によるこ とが困難な利用態様が現れることも考えられ、ますます複雑化する個別規定の 立法作業を待つのみでよいのか、疑問を禁じ得ない。 なお、仮に一般規定が導入される場合の要件については、すでに同様の規 定があるものの 31)、一般規定の適用対象が特定の利用分野に限られないこと、 権利制限規定の適用の可否によって刑事罰の適用可能性があることを考慮する と、罪刑法定主義の観点からより明確な立法上の工夫が必要とされるであろう。 ある程度想定される利用分野があるのであれば、関係者によってガイドライン を作成するなど当事者による利用秩序形成が期待できるが 32)、全く想定して いなかった利用態様について紛争が生じた場合のことを考慮すると、訴訟数が 米国ほど多くなく、契約慣行が未発達である我が国において、ある程度予測可 能性のある規定とするための充分な検討は必要であると考えられる。 また、一般規定の導入によって権利制限規定適用の可否の判断が立法から司 法の場へと移行する場合、団体訴訟制度や法定賠償制度等、訴訟における何ら かの著作権者の負担軽減策や裁判外での簡易迅速な解決手段を併せて導入する 必要性が指摘されているが 33)、仮に一般規定導入と同時の立法化が困難であっ たとしても、中長期的な訴訟動向を見ながら継続的に検討する必要があると思 われる。 191.

(18) 横浜国際経済法学第 18 巻第3号(2010 年3月). (2)教育研究分野における著作物利用への対応 以下においては、筆者も関わりを有する教育研究分野において権利制限につ いての検討が必要と考えられるいくつかの具体的課題について、問題の所在と 考えられる対応を概観することとしたい。 ①研究目的の複製 まず、研究目的の複製については、従来より「複製する者が所属する組織 の業務に関わる場合は、私的な領域における複製に該当しない」との見解が 示されており 34)、研究者が研究業務を遂行する目的で複製を行うことは私 的複製(30 条)に該当しない。現実には大学等の教育機関における複製は 教育業務と研究業務が密接に結びついていることから、教育機関における複 製(35 条)として処理がされている場合もあるであろうが、授業で使用す る目的以外の目的による複製や、35 条但書によって適用除外となる授業目 的での複製、及び教育機関以外における研究者の複製を適法化する規定は存 在しない。 研究目的の複製は公益性も高く、創作活動の活性化に資する利用であるか ら、他の個別規定とのバランスを考慮すれば、個別規定の改正又は創設によ る対応が適当であると考えられる。一方で著作物の通常の利用との衝突や著 作権者の利益への影響が懸念されることから、補償金制度が必要な場合もあ ると思われる。その場合、簡便かつ包括的に研究者に複製の機会を提供しつ つ権利者の利益にも資する指定団体による補償金徴収の制度や文献複写機 等への課金などの方法が考えられるであろう 35)。 ②教育研究目的のデータベースやアーカイブ構築のための複製、公衆送信 1とも関連するが、教育研究活動への提供を目的として、又は教育研究活 動の一環として膨大な資料を保存し、インターネットなどを介して外部へ提 供することが考えられる。その際、収集の対象となる資料は著作物でないも 192.

(19) 著作権制度における権利制度規定の動向と教育研究. のや保護期間が満了したものもあるであろうが、著作者不明等の理由により 契約による利用が困難である資料も多数含まれており、これらの資料を保存 し、または公衆送信することを認める規定はない。平成 21 年改正において 国立国会図書館の保存資料の電子アーカイブ化が可能となったが、外部への 提供については権利制限の対象とはなっていない。 情報通信技術の発達に対応した高度な教育研究活動の円滑な実施という 公益性に鑑みれば、①と同様に個別規定による対応が望まれる。その際、外 部への提供に関しては国立国会図書館の場合と同様の問題が生じるが、政令 による利用主体の限定 36)や指定団体による補償金徴収の制度 37)を組み合わ せた対応が考えられる。 ③試験問題の異時複製、異時公衆送信 現在、入試問題、定期試験等の試験問題としての利用(36 条)は認めら れているが、試験後に受験生や学生に対して試験に関する情報提供の一環と して行われるいわゆる 「過去問」としての提供は認められていない。しかし、 受験生、学生や高等学校等の各教育機関においては、過去にどのような問 題が出題されたかということから出題傾向を分析することが必要不可欠に なっており、受験指導や学習指導の一環として試験問題の複製が行われるこ とも多い。過去問題としての非営利目的の利用は試験問題としての利用とは 異なり、事前に著作権者に許諾を求めることは可能ではあるが、著作物の通 常の利用を妨げ、著作権者の利益を不当に害する利用とは考えられず、現行 規定の要件緩和が望まれる。 ④授業の過程における使用を目的とする資料の異時複製、異時公衆送信 現在、一定程度の授業目的の複製は現行規定(35 条)によって認められ ているが、授業の予習・復習等のために授業時以外の任意の場所、時間にお いて、電子データとして資料を入手、学習できる「e ラーニング」を推進す 193.

(20) 横浜国際経済法学第 18 巻第3号(2010 年3月). ることが学習支援策として重要となっている。既存の著作物を引用(32 条) して作成した資料をサーバーに保存し、アクセスに応じて送信することは現 在でも可能であるが、適法引用の要件を充足するか否かの判断は一般教員 にとって困難であり、例えば独立して高い資料的価値を有する写真、図表な どを資料の一部として利用しており、 「付従的性質を有しているにすぎない」 とは認められない場合や、既存の文献、論文、記事を大幅に引用して注釈を 加えるなどの利用をする場合には「主従関係」を満たさなくなる可能性があ る 38)。このような利用は授業中の資料配布のタイムシフトと考えることも できる態様であり、予め登録した受講者以外に流出しないよう適切に利用者 を管理することなどを条件として認めるべきと考えられる。 なお、このような利用について権利制限を設けることは平成 18 年からの 継続的な検討課題となっており、受講者以外の者への流用防止策や教育機関 の種別・態様に応じたガイドライン策定など、権利者・利用者間での取組み や実態を踏まえた具体的提案が必要とされていることから、まずは関係者に よる意見の集約、協議、ガイドライン策定への取組み等を始める必要がある。 ⑤ 35 条の適用範囲の拡大 現行規定では 35 条但書により大教室における多数の受講者に対する資料 配付が不可能とされているが、これでは結果として大学において 35 条の適 用による複製ができない場合が多く、大学に期待される教育機関としての責 務を充分に果たすことができない。さらに生涯学習社会において、学校教育 以外における学習機会の保障が重要となっているが、大学において開催され る公開講座等での資料配付など現行規定の適用の有無が不明な事例が増え ている。 いずれも目的の公益性は認められる一方で、既存の著作物の流通市場への 影響等が懸念されるため、要件緩和に向けた関係者間の協議ないし新たなガ イドラインの策定が望まれる。 194.

(21) 著作権制度における権利制度規定の動向と教育研究. 4 おわりに 本稿では、権利制限をめぐる最近の動向について概観してきた。しかし、著 作物を著作者の権利を保護しつつ円滑に利用するために検討すべき課題は、こ のほかにも存在する。 例えば著作者人格権の問題である。権利制限規定は財産権の制限についての 規定であり、著作者人格権は制限されない 39)ため、権利制限規定の適用があ る場合でも無断公表や改変、氏名表示の省略をすれば 18 条から 20 条の規定に 沿って別途評価され、著作者人格権侵害となる場合があり得る。権利制限規定 と著作者人格権との関係については、権利制限規定によって許容される範囲に おける改変は同一性保持権についての「やむを得ないと認められる改変」 (20 条2項4号)に該当し、侵害とならないとする見解もあるが 40)、仮に一般規 定が導入された場合、未公表の著作物が写り込んだ場合の公表権との関係やデ ジタル技術によって改変行為が容易に行えるために生じる同一性保持権との関 係などが問題となり得、必要に応じ著作者人格権の制限などについても検討を する必要がある。 また、制度の見直しとともに、より円滑な権利処理の在り方についても検討 を進める必要がある。一般規定の導入や個別規定改正の実現の有無に関わらず 著作物がインターネット等を通じていたるところで流通する流れは変わらず、 現実問題として円滑な権利処理システムを導入する必要性が高まっている。著 作者団体と利用者団体による包括許諾システムや利用ガイドラインの構築、補 償金制度の導入、意思表示システムとそれを利用したデータベースの構築など、 様々な方面からのアプローチが必要である。 デジタル化、ネットワーク化の急速な進展により著作権制度は大きく揺さぶ られ、様々な変化に機動的に対応し、より円滑に著作物を利用する必要性から、 特に近年、デジタルコンテンツに特化した著作権法とは別の立法が検討される など著作権制度の意義に関わる議論も提起され、その中で権利制限の在り方に 195.

(22) 横浜国際経済法学第 18 巻第3号(2010 年3月). ついても継続的な検討が続けられている。現在の我が国のように高度に情報化 され、直接の取引以外のかたちによる著作物利用が急激に増加している社会に おいては、著作物を含めた情報を円滑に利用できるようにすることは社会を構 成する人間の基本的な要求となりつつあり、利用の円滑化が著作者の利益に資 する面があることも事実である。しかしながら、いかにデジタル化によって著 作物の高品質かつ簡便な利用が可能になろうと、ネットワーク化によって著作 物の流通量・範囲が増大しようとも、基本的にそれは著作物利用の手段に係る 変化にすぎず、著作物利用によって何を目指すのかという目的をおいて、単に 著作物の流通を促進させるために著作者に認められた権利を一方的に抑制しよ うとすることは到底正当化されるものではない。著作権は日常生活と密接な関 わりのある権利であり、いまや誰しも著作権と無関係に日常生活を営むことは できない。創作者の保護と社会公共の利益の確保という制度本来の趣旨を踏ま えながら、多様な創作物を享受することのできる豊かな社会を創るためには何 が必要なのかについて、すべての関係者による実りある議論が行われることを 期待したい。. (Endnotes) 1)1条。 2)公正な利用の確保のための制度的措置としては、ほかに著作物の定義、著作権の対象と なる利用行為、侵害とみなさない行為などの規定がある。 3)2条1項1号。 4)2条1項2号。 5)中山信弘「著作権法」 (有斐閣)241 頁 6)ベルヌ条約9条(2)は複製権の制限についての規定であるが、公の上演、演奏、伝達 などについても同様に権利制限規定を設けることは可能であると解されており( 「小留 保」 (作花文雄「詳解著作権法(第3版) 」 (ぎょうせい)522 頁) ) 、ベルヌ条約の特別の 取極として策定された WIPO 著作権条約においては、著作権制限の一般的な規定として 同様の規定(10 条)が置かれている。 7)斉藤博「著作権法(第3版) 」 (有斐閣)226 頁、米国著作権法 110 条(5)に関する 2000 196.

(23) 著作権制度における権利制度規定の動向と教育研究. 年5月5日の WTO パネル報告書。 8)経済財政改革 の 基本方針(平成 19 年6月 19 日閣議決定)第 2 章1.Ⅲ(1)③、 「知的 財産推進計画 2007」 (平成 19 年5月 31 日知的財産戦略本部決定)第4章Ⅰ.1. (1) ① 9)情報が著作物の定義に該当しない場合には著作物ではなく、その収集、解析等も著作権 法上の利用行為に該当しないことになる。 10)著作権法施行令の一部を改正する政令(平成 21 年政令第 299 号)7条の5 11)著作権審議会第2小委員会報告書(昭和 48 年6月) 、著作権審議会第6小委員会中間報 告(昭和 59 年1月)の ほ か、文化審議会著作権分科会報告書(平成 18 年1月)60 頁。 また、RAM への蓄積について、一時的・過渡的な性質故に著作権法にいう「有形的な 再製」というに至らないものと解すべきであるとした裁判例として東京地判平成 12 年 5月 16 日「スターデジオ事件」 (判時 1751 号 128 頁) 。 12)政令・前掲注 10)2条、2条の2及び政令2条の2 1項2号の委任を受けて法 37 条の 2 2号により作成された複製物の貸出を行う者についての基準を定めた著作権法施行規 則の一部を改正する省令(平成 21 年省令第 38 号)2条の2。 13)政令(前掲注 10)7条の2及びその委任を受けて複製物に係る著作物の表示の大きさ・ 精度についての基準を定めた省令(前掲注 12)4条の2。 14)権利制限規定は、他にも私的複製(30 条)のように私的領域における利用であって著作 権を及ぼすことが適当でない場合、 引用(32 条)など社会で広く行われている慣行であっ て表現活動に資する利用の場合、裁判手続等における複製(42 条)など司法・行政・立 法等公益性の高い事業遂行上のため権利を制限することが必要と認められる場合、美術 の著作物の所有者による展示(45 条)など他の権利との調整が必要である場合など、社 会公共の利益との調整が必要である場合に設けられている。 15)教科書補償金(33 条2項) 、教科用拡大図書補償金(33 条 の2 2項) 、学校教育番組 の 補償金(34 条 2 項) 、営利目的の試験の補償金(36 条2項)など 16)文化審議会著作権分科会報告書(平成 21 年1月)60 頁、100 頁 17)権利制限規定の分類は人によって異なるし、要件緩和など条項数の増減のない改正事項 もあり、条項数の多寡のみが権利制限の対象としての重要性と直接リンクするものでは ないが、全体的な傾向を表す一つの指標と捉えることはできると考える。なお、各種類 ごとの内訳は以下のとおり(下線部が引いてある者は改正後に追加されたもの) 。 (私的 領域:30 条) (教育:33 条、33 条の2、34 条、35 条1項及び2項、36 条1項及び2項) (図 書館:31 条1項及び2項) (障害者福祉:37 条1項、2項及び3項、37 条の2 1号及 び2号) (報道・情報公開:40 条2項、41 条、42 条 の2) (立法・司法・行政:42 条1 項及び2項) (非営利・無料の利用:38 条1項~5項) (引用・転載:32 条1項及び2項、 39 条、40 条1項) (美術品・写真・建築:45 条、46 条、47 条、47 条の2) (コンピュー 197.

(24) 横浜国際経済法学第 18 巻第3号(2010 年3月). タ・プログラム:47 条の3) (情報機器:47 条の4、47 条の8) (情報研究:47 条の7) (インターネット関連ビジネス:47 条の5、47 条の6) (放送、有線放送:44 条) 18)文化審議会著作権分科会報告書(平成 21 年1月)17 頁 19)報告書・前掲注 18)43 頁、47 頁 20)作花・前掲注6)311 頁 21)文化審議会著作権分科会法制問題小委員会権利制限の一般規定ワーキングチーム報告書 (平成 22 年1月)参考資料2 22)既存の権利制限規定を拡大解釈し、著作権侵害を否定した裁判例として、東京地判平成 10 年 10 月 30 日「血液型 と 性格 の 社会史事件」 (判時 1674 号 132 頁) 、東京地判平成 13 年7月 25 日「路線バス絵画事件」等がある。 23) 「知的財産推進計画 2009」 (平成 21 年 6 月知的財産戦略本部決定)3 頁。 24)外国著作権法令集(14)アメリカ合衆国編(大山幸房訳(社)著作権情報センター) 「米 国著作権法第 107 条:第 106 条及び第 106 条の A の規定(註・排他的権利に係る規定) にかかわらず、批評、解説、ニュース報道、授業(教室における使用のための多数の複 製を含む。 ) 、研究、調査等を目的とする著作権のある著作物の公正使用(複製物又はレ コードへの複製その他第 106 条に明記する手段による公正使用を含む。 )は、著作権侵 害とならない。特定の場合に著作物の使用が公正使用となるかどうかを判定する場合に は、次に掲げる要素を考慮する。 (1)使用の目的、 (2)著作権のある著作物の性質、 (3) 著作権のある著作物全体との関連における使用された部分の量及び実質性、 (4)著作権 のある著作物の潜在的市場又は価格に対する使用の影響」 25)加戸守行「著作権法逐条講義」 (5訂新版)223 頁、 斉藤・前掲注7)224 頁。フェアユー ス法理の採用を否定した裁判例として東京地判平成 7 年 12 月 18 日「ラストメッセージ・ イン・最終号事件」 (判時 1567 号 126 頁) 。 26)文化審議会著作権分科会法制問題小委員会権利制限の一般規定ワーキングチーム 27)米国著作権法では 108 条~ 122 条において図書館職員による複製、授業のための実演・ 展示、放送のための一時的固定、コンピュータプログラムの所有者による複製・翻案な どの詳細な規定が置かれており、その多くは日本法でも規定されている。 28)高林龍「著作権の制限」 (牧野利秋、 飯村敏明「新裁判実務体系 22 著作権関係訴訟法」 (青 林書院) )422 頁 29)本ワーキングチームは法制問題小委員会において権利制限の一般規定のあり方について 抽出された具体的検討事項について、専門的見地から論点を整理し、同小委員会における 本格的議論のためのたたき台を作成するために設置されたものである。 30)前掲注 22)参照。また、このほか本質的特徴が直接感得できない利用を複製でないとし て著作権侵害を否定した裁判例として東京高判平成 14 年2月 18 日「雪月花事件」 (判 時 1786 号 136 頁) 198.

(25) 著作権制度における権利制度規定の動向と教育研究. 31)35 条、36 条、42 条1項。 32)31 条の運用に関しては、 「図書館における著作物の利用に関する当事者協議会」 (図書館 側5団体、権利者側6団体が参加)による、 「図書館間協力で借り受けた図書の複製に 関するガイドライン」や 「複製物の写り込みに関するガイドライン」 (日本図書館協会ウェ ブサイト(http://www.jla.or.jp/fukusya/index.html) )があり、35 条の運用に関しては、 「著作権法第 35 条ガイドライン協議会」 (権利者側 15 団体が参加)による「学校その他 の教育機関における著作物の複製に関する著作権法第 35 条ガイドライン」 ( (社)日本 書籍出版協会ウェブサイト(www.jbpa.or.jp/35-guideline.pdf) )が存在する。 33)前掲注 21) 34)著作権審議会第4小委員会(複写複製関係)報告書(昭和 51 年)第2章。作花・前掲注6) 319 頁 35)私的録音録画補償金制度をめぐる議論に見られるような、著作物利用と補償金の対応関 係が不明確であるとの指摘があるであろうから、その点についての慎重な検討は必要で ある。 36)平成 21 年改正においては、障害者のための著作物利用を行う主体について、政令(前 掲注 12)において規定。 37)指定団体による補償金等の徴収制度としては、私的録音録画補償金制度(30 条2項)の ほか、放送二次使用料制度(95 条5項) 、貸与報酬制度(95 条の3 5項)がある。 38)引用については一般的に「主従関係」 「明瞭区別性」 「引用の必然性」 「出所明示」等の要 件を満たす必要があると考えられている。主従関係の要件について判断基準を示した裁 判例として東高判昭和 60 年 10 月 17 日「レオナール・フジタ美術全集事件」 (判時 1176 号 33 頁)がある。 39)50 条。 40)前掲注 22) 「血液型と性格の社会史事件」. 199.

(26)

参照

関連したドキュメント

UCC第九編の﹁警告登録制度﹂を理解するためには︑ 本稿の検討からも明らかなように︑

NPO 法人の理事は、法律上は、それぞれ単独で法人を代表する権限を有することが原則とされていますの で、法人が定款において代表権を制限していない場合には、理事全員が組合等登記令第

本マニュアルに対する著作権と知的所有権は RSUPPORT CO., Ltd.が所有し、この権利は国内の著作 権法と国際著作権条約によって保護されています。したがって RSUPPORT

7IEC で定義されていない出力で 575V 、 50Hz

本製品はFCC規則パート15のBクラスデジタルデバイスに対する制限を遵守しているかを

メモ  : 権利の詳細な管理は、 BlackBerry WorkspacesEnterprise ES モード BlackBerry Workspaces およ. び Enterprise ES ( 制限付きフルアクセス )

アナログ規制を横断的に見直すことは、結果として、規制の様々な分野にお

Thoma, Die juristische Bedeutung der Grundrechtliche Sätze der deutschen Reichsverfussungs im Allgemeinem, in: Nipperdey(Hrsg.), Die Grundrechte und Grundpflichten