令 和 二 年 度 修 士 論 文
超音波気泡キャビテーション観測への
超解像技術の適用
指導教員 江田 廉 助教
群馬大学大学院理工学府 理工学専攻
電子情報・数理教育プログラム
阪村 優介
目次
第
1 章.序論
1-1. ドラッグデリバリシステムについて p. 1 1-2. 超音波支援ドラッグデリバリシステム p. 2 1-3. 超音波によって微小気泡が引き起こす現象 p. 3 1-3-1. ソノポレーション 1-3-2. キャビテーション 1-3-3. 非線形振動 1-4.超音波映像装置を用いた気泡キャビテーションのその場可視化法 p. 4 1-5.逆伝搬像再生法を用いた気泡キャビテーションの観察 p. 5 1-6.超解像技術の種類と特徴 p. 6 1-7.本研究の目的 p. 6第
2 章.超音波音場中での気泡ダイナミクス
2-1. 微小気泡の膜振動(Rayleigh-Plesset 方程式) p. 7 2-2. 気泡に作用する力(Bjerknes Force) p. 10 2-3. 気泡の非線形振動による2次超音波の放射 p. 12 2-4. キャビテーションモード p. 14 2-4-1. Inertial Cavitation 2-4-2. Stable Cavitation 2-4-3. 気泡破壊信号と非線形振動信号を分離した気泡状態モニタリング第
3 章.気泡キャビテーション観測への超解像技術の適用
3-1. 構造化照明法の適用による空間分解能向上 p. 17 3-1-1. 線形周期信号干渉による分解能向上の原理 3-1-2. 非線形周期信号干渉による分解能向上の原理第
4 章.実験方法と装置
4-1. 実験の手順 p. 23 4-2. 研究開発用超音波測定装置 p. 26 4-3. 強力超音波照射用の超音波振動子 p. 27 4-4. 模擬生体ファントム(寒天ファントム) p. 30 4-5. 実験に使用した微小気泡 p. 304-5-2. Ultra Fine Bubble
第
5 章 気泡キャビテーション超解像観測の実験結果
5-1. Point Spread Function への適用結果 p. 33
5-2. 極細散乱体を用いた空間分解能の評価 p. 37 5-3. 異なるキャビテーションモードに対する超解像技術の適用結果 p. 39 5-3-1. 振幅変調波を用いた気泡キャビテーション観測信号への適用 5-3-2. デジタルフィルタを用いた気泡破壊/非線形振動分離観測への適用 5-4. 異なる気泡種類に対する超解像技術の適用結果 p. 43 5-5. 考察 p. 45
第
6 章.結論
6-1. まとめ p. 48 6-2. 今後の課題 p. 48参考文献
謝辞
第
1 章 序論
1-1. ドラッグデリバリシステムについて
現在、医療の分野において様々な新薬が開発されており、それに伴い多くの治療法が実現され ている。一つの例として、抗がん剤がある。抗がん剤はがんに対して大きな効果を発揮するが、そ の反面健康な細胞に対して悪影響を及ぼす可能性があり、非常に投与が難しい薬剤の一つであ る。また、近年盛んに研究されている治療として遺伝子治療がある。これは患部の細胞に直接作用 させるもので、この場合も間違った投与を行えば重大な副作用を引き起こすと考えられる。 このように、薬剤や遺伝子治療の進歩に伴い、その必要性を求められてきた技術が薬の体内動 態に対する制御技術、いわゆるドラッグデリバリシステム(Drug Delivery System:DDS)である。ドラッ グデリバリシステムはFig. 1-1 に示すように主に 3 つの技術から成り立つシステムである。それぞれ についてその目的と具体例を簡単に述べる。まず1つ目のコントロールドリリース技術は、薬剤の作 用部位までの供給を制御するものである。例えば、経口投与したときに薬剤をカプセルに入れ消 化管内で長時間かけて薬剤を溶かすといったことである。次に 2 つ目の吸収改善技術は、薬剤を 対象部位により効率良く吸収させることを目的としている。その例を挙げるならば、新しい投与経路 の開発、吸収促進剤の利用などである。そして、最後に、ターゲティング技術は、薬剤を標的部位 で作用させるように薬物の送達をさせる技術である。例としては、様々な微粒子輸送媒体を用いた 方法や外部から何らかの力を加え薬物を活性化させる技術などがある。 Fig. 1-1. ドラックデリバリに必要な 3 つの要素技術1-2. 超音波支援ドラッグデリバリシステム
ここではドラッグデリバリに対して、超音波場中における微小気泡ダイナミクスがどの様に応用さ れるかについて具体的に説明する。基本的な流れはFig. 1-2 に示すように、患部付近へ薬剤を注 入し超音波を照射するとキャビテーションがおこりソノポレーションが促される。微小気泡ダイナミク スを利用したドラックデリバリの模式図を Fig. 1-3 に示す。血中に投与された気泡は、超音波を照 射されるとクラウド化を伴う複雑なプロセスを経て、キャビテーションによる気泡破壊に至る。このとき 気泡を薬剤や遺伝子のキャリアとして機能させることでデリバリが可能となる。微小気泡と超音波の 組み合わせは造影効果と治療効果を両立し、時間的空間的に制御した担体薬剤・制御が可能で ある点から他のモダリティに比べても臨床的価値が高い。微小気泡からの信号をその場で観察す ることで、ソノポレーション時の気泡動態およびキャビテーション動態の把握が可能となり、患部に 薬剤を導入する際、効率向上の一助になると考えられる。 Fig. 1-2. 超音波支援 DDS患部付近への薬剤の注入
患部付近に超音波の照射
超音波場の形成
患部付近での薬剤のトラッピング
ソノポレーション
患部付近への薬剤の注入
患部付近に超音波の照射
超音波場の形成
患部付近での薬剤のトラッピング
ソノポレーション
Fig. 1-3. 微小気泡ダイナミクスを利用したドラックデリバリ
1-3. 超音波によって微小気泡が引き起こす現象
1-3-1. ソノポレーション ソノポレーション[1]とは、“高周波超音波が生細胞へ与える効果”について指す言葉である。Fig. 1-4 に示すようにキャビテーションにより生じるマイクロジェットにより、細胞壁に可逆的な微小孔を 形成させ、これにより細胞内へのペイロードの取り込みを促進させる方法である。 Fig. 1-4. 細胞表面でのソノポレーションの様子 1-3-2. キャビテーション 超音波支援DDS における微小窪み形成のメカニズムは現在なお完全には解明されていないが、 現在の理論では、微小気泡が導入効率を高める理由は、各々の微小気泡の破壊がキャビテーショ ンの連鎖反応を引き起こす為と考えられている。キャビテーションとは、液体や溶液中に周期的な 高圧と低圧が生じた場合、負の圧力が液体を維持するのに必要な力に打ち勝ったときに空洞示す。キャビテーションには、発生後その大きさを変えることなく振動する(安定型キャビテーション) と、超音波周波数の数サイクルで半径が大きく変化する場合(過渡的キャビテーション)とに分けら れる。後者の場合、キャビテーション気泡は、さらに周期的に変化する音圧中で継続的に膨張と収 縮を繰り返しながら発育し、最終的に圧壊する(崩壊型キャビテーション)。この圧壊時には、局所 的に数千度という高温あるいは数百気圧の高圧を生じる。また、気泡近傍の液体にも影響し、液体 の加速度を増大させ(マイクロストリーミング)、あるいは液体に大きなずり応力が作用するといった、 流体力学的機械的作用を発生させる。微小窪み形成の原理は、キャビテーション気泡の圧壊によ る微小ジェット流による機械作用が細胞膜に一過性の“窪み”を形成するためと推測されている。こ の機械的作用が強すぎる場合は、細胞膜に加わる損傷も大きくなり細胞の壊死を招くが、修復可 能な微小窪みは、薬液の細胞内導入を可能にする。微小窪み形成における照射条件として、周波 数、音圧、及び照射時間を十分に考慮する必要がある。 Fig. 1-5. 超音波照射時の微小気泡のキャビテーションの様子 1-3-3. 非線形振動 水中に存在する微小気泡に超音波を照射すると、微小気泡は膨張と収縮を周期的に繰り返し、 最終的には圧壊する。しかし、気泡破壊閾値以下の音圧条件下では、気泡の体積振動主であり、 発生する振動は照射する超音波の音圧によって、線形振動と非線形振動にわかれる。線形振動 では2次超音波は基本周波数で、非線形振動では2次超音波は高調波および分調波である。
1-4. 超音波映像装置を用いた気泡キャビテーションのその場可視化法
生体内を流れる血流の大きさを非侵襲的に画像上で確認できる検査手法に、超音波のドプラ信 号を利用したものがあり、超音波映像装置に標準的に備わっており、臨床で利用されている。この 超音波ドプラを利用した信号検出技術のうち、ドプラ信号の振幅情報の時間変化を利用したもの をパワードプラ法と呼んでいる。この方法を利用し、映像超音波とは異なる強力超音波で微小気泡 の運動・破壊を観察する気泡キャビテーションのその場可視化法が提案されている[3]。Fig.1-6 に この手法で得られる結果の一例を示す。Fig. 1-6. その場可視化法による実験結果 T 画像は偽りのドプラ信号としてパワードプラ画像上の深さ方向に向かって出力され、画像上で の深さ方向の位置変化は気泡キャビテーション信号の時間推移に相当する。これらをフレームごと に連続して表示することで、気泡キャビテーション信号の変化を高時間分解能で観察することがで きる。
1-5. 波動逆伝搬再生法を用いた気泡キャビテーションの観察
強力超音波照射時に気泡から放射される2 次超音波をアレイ素子で受信し、波動の逆伝搬を用 いて信号源の空間的特定を行うとともにサブマイクロ秒の時間分解能で気泡キャビテーション信号 の時間発展を再生する方法が提案されている[4]。アレイの方位方向は波動の逆伝搬によりサブミ リメータでの分解能が得られるため、この方法により方位方向のサブミリメータの空間分解能とサブ マイクロ秒の時間分解能を併せ持つ気泡キャビテーション信号の観測が可能になる。ここでは空間この手法の時間分解能はサブマイクロ秒で優れている一方、空間分解能は一般のエコー装置と 同等である。そのため血管内部のキャビテーション分布観測のためには空間分解能不足である。
1-6. 超解像技術の種類と特徴
超解像技術の種類として、素子ずらしによる方法[5]、線形構造化照明法[6]、非線形構造化照 明法[7]、蛍光分子のスイッチングを利用した方法[8]などが挙げられる。Fig. 1-7 に超解像技術の 種類を示す。素子ずらしによる方法はイメージセンサを1 素子または 0.5 素子シフトさせて撮影し た画像を合成し、解像度を向上させる方法である。線形構造化照明とは、顕微鏡画像と照明光の 干渉を利用することで、分解能の限界を超えて超解像イメージング出来るという方法である。しかし 超解像可能な空間周波数の範囲は、光の波数に基づく制約より照明光の波数の2 倍までである。 非線形構造化照明とは、光と蛍光分子の非線形相互作用を利用することで、光の波数に基づく制 約から解放され超解像イメージングできるという方法である。蛍光分子のスイッチング応答を利用し た超解像とは、微弱な励起光で一部の蛍光分子に関して蛍光状態をスイッチングさせて記録し、 全分子が検出できるまで記録を行い、各分子が放つ蛍光が重ならないよう画像を再構成すること で解像度を高める方法である。 Fig. 1-7. 超解像技術の種類1-7. 本研究の目的
本研究では、気泡キャビテーション観測法に対し構造化照明法を組み合わせて高解像気泡キャ ビテーション観測を行い高解像な逆伝搬画像を得ることを目的とする。超解像技術のうち、高い時 間分解能を有したまま超解像化への適用が可能であると考えられる上、高価な装置が不要である ことより構造化照明法を選択した。波動逆伝搬再生法と構造化照明法を組み合わせる際、構造化 照明の代わりに仮想的な周期信号を入力することで空間分解能向上を試みる。第
2 章 超音波中での微小気泡の運動
2-1. 微小気泡の膜振動(Rayleigh-Plesset 方程式)
Fig. 2-1. 気泡膜の振動 ここでは、可圧縮の微小気泡が外部から正弦的な力を受け、振動を行う場合について説明 する( Fig.2-1 )。今、非圧縮性の流体中に次のような条件の気泡が運動しているとする。 ① 微小気泡は球形のまま運動 ② 内部ガスの放出はなし ③ 気泡は外部からの超音波で、非線形の振動を行っている ここで、周囲液体の粘性、表面張力の効果を考慮した場合、気泡の半径 R が満たす運動方 程式は次式で与えられる。 ・・・(2-1))
(t
p
B :気泡表面での圧力(外部超音波による)
:密度
:表面張力
:周囲液体のずれ粘性率 この式はRayleigh-Plesset 方程式[9]とよばれている。また、この式より気泡が振動している 時、気泡にはその振動を妨げるように表面張力や周囲の液体からの粘性力が働いているの が分かる。・超音波により正弦的に振動させられている場合 超音波により気泡の膜が角周波数
で、振動させられているとすると、気泡から充分離 れた位置での音圧は次式のようになる。( )
t
p
0p
sin(
t
)
p
=
−
A
・・・(2-2) p
:気泡から充分離れた位置での静圧 ここで、p
Aは微小振動である。 このとき(2-1)式は、 ・・・(2-3) となる。ここでR
0 : 平衡状態での気泡の半径 0 gp
: 気泡の平衡状態での内部圧力( 0 02
R
P
+
) また、k
は平衡条件により値が異なり、等温振動、つまり発生した熱が逃げる程充分ゆっく り振動するならば1、反対に熱が逃げる間もないほど速く振動を行うならば 1.4 となる。 また、(2-3)式において、変形が小さいときには、共振現象を引き起こす。 つまり、静圧p
が、p
( )
t
=
p
0
1
−
sin
( )
t
・・・(2-4) となるとき、
1
とすると(
1)
01
x
R
R
=
+
・・・(2-5) このとき気泡の壁の運動方程式(Rayleigh-Plesset)方程式は、 となり、エネルギーの減衰を含む共振現象があらわされる。 このとき気泡の共振周波数
rは
r2=
02−
・・・(2-7)・・・(2-6)
−
+
=
0 0 0 2 0 2 02
2
3
1
R
R
p
k
R
・・・(2-8) 2 04
R
=
・・・(2-9) となるが(2-7)式より、気泡が小さく、またその密度が小さいほど共振周波数が高くなること が確認できる。共振周波数と気泡半径の関係をFig. 2-2 に示す。 Fig. 2-2. 共振周波数と気泡半径の関係 例として、断熱変化で通常の大気中での共振周波数 [Hz] をあげておく。この条件のとき、 (2-7)式は以下のようになる。 026
.
3
R
f
r
R
0: 気泡の半径
[m]
・・・(2-10)
・・・(2-11)
2-2. 気泡に作用する力(Bjerknes force)
Fig. 2-3. Primary Bjerknes force
微小気泡のような周囲と音響インピーダンスの著しく異なる物体が超音波中に存在すると、 (2-11) 式のように気泡の体積に比例した力を受ける。この様子を Fig. 2-3 に示す。これが超 音波によるPrimary Bjerknes force[10]である。
( )
t
V
:微小気泡の体積
p t
( )
:微小気泡周囲の音圧勾配
:時間平均 Fig. 2-4 に示すように、超音波場中にある距離で 2 つの気泡が存在したとする。いま、こ の2 つの気泡が外部からの力、すなわち超音波により振動しており、その粒径が周期的に変 化しているとすると2 つの粒子間には以下の式で示される力、Secondary Bjerknes force[11] が働く。
Fig. 2-4. Secondary Bjerknes force
( )
B
ここで、
V
1,V
2はそれぞれの気泡の体積、rは気泡間の距離、
0は周囲液体の密度を表 している。また、Secondary Bjerknes force は気泡間の振動の位相によって、力の働く方向が 異なる。また、2 つの気泡の半径を
R
1、R
2、同位相で振動している気泡の周波数を
とすると Secondary Bjerknes force は次式のようにも表すことが出来る。ここで、
P
aは超音波の音圧k
1、k
2はそれぞれの気泡の圧縮率、r
0は2 つの気泡間の距離 を示している。( )
( )
. . 0 1 2 , 34
B Sr
F
V
t V
t
=
r
・・・(2-12)
(
)
2 13 23 , 1 2 2 02
9
o B S aR R
F
P
k k
r
=
・・・(2-13)
2-3. 気泡の非線形振動による 2 次超音波の放射
Table 2-1 に示す解析条件において Bubblesim[12]を用いた解析の結果を Fig. 2-4[a][b] に示 す。これは気泡からの放射超音波音圧の時間変化波形からパワースペクトラムを求めた結果であ る。 Table 2-1 解析条件[13] [14] [a] 入射超音波周波数 2.5 [MHz] 入射波音圧 1.5 [MPa] サイクル数 20 [cycle] 気泡半径 1.5 [µm] Shell thickness 4 [nm] Shell shear modulus 50 [MPa] Shell viscosity 800 [mPa・s]
[b] 入射超音波周波数 1.5 [MHz] 入射波音圧 1.5 [MPa] サイクル数 20 [cycle] 気泡半径 1.5 [µm] Shell thickness 4 [nm] Shell shear modulus 50 [MPa] Shell viscosity 800 [mPa・s]
放射される2 次超音波の周波数は入射超音波の周波数の高調波成分を含んでいる。入射超音 波の周波数が変われば2 次超音波の周波数も変化する。
Fig. 2-4. 微小気泡からの 2 次超音波の周波数成分 Fig. 2-4[a][b] に示した数値解析により得られた二次超音波は、入射した超音波の周波数の高 調波成分を多く含んでいることが確認できる。入射する超音波の周波数を変化させた場合にも同 様に高調波を含んでいることから、得られる周波数成分は入射する超音波の周波数に依存してい ることが確認された。 また、入射した超音波の周波数が2.5 [MHz] の際には、周波数の整数倍の高調波成分だけで なく、その分数倍の高次高調波成分を持っていることが確認された。 Fig. 2-5 で示すように、比較的低音圧の場合、微小気泡は線形振動を繰り返し、破壊する様子 [2] が見られない。だが、比較的高音圧の場合、微小気泡は非線形振動を繰り返すことで、気泡 破壊が発生し消失してしまう。
Fig. 2-5. 音圧変化による微小気泡の振動の様子とシミュレーション結果
2-4. キャビテーションモード
Fig. 2-6 に示すように微小気泡が破壊する際に発する気泡破壊信号は、ブロードバンドな帯域 を持つ信号である。一方、微小気泡が破壊されないとき気泡は非線形振動をする。この非線形信 号は、照射する超音波の周波数のn 倍(n は 2 以上の整数) の周波数をもつ高調波成分や、n 分 の1 倍の周波数をもつ分数調波成分などを含む信号である。 Fig. 2-6. 気泡破壊および気泡の非線形振動時に発する気泡からの信号2-4-1. Inertial Cavitation
Inertial Cavitation とは、気泡の圧壊を伴うキャビテーションのモードを指す言葉である。その際、 周波数帯域が広いブロードバンドな超音波を放射する。気泡破壊閾値よりも大きな音圧で強力超 音波を照射した際に発生することが多い。この Inertial Cavitation によって、DDS のソノポレーショ ンは促されていると考えられている。そのため DDS の導入効率を高めるためには、Inertial Cavitation に着目する必要がある。Fig. 2-7 に波動逆伝搬再生法で観測した Inertial Cavitation の 一例を示す。強い信号がランダムに表れる等の特徴が見られる。
Fig. 2-7. Inertial Cavitation の一例
2-4-2. Stable Cavitation
Stable Cavitation とは、気泡破壊は起こらず気泡の体積振動(線形/非線形)が主となるキャビテ ーションモードのことである。その際、照射した超音波の周波数の整数倍の高調波成分、分数倍の 高次高調波成分を放射する。気泡破壊閾値よりも小さな音圧で強力超音波を照射した際に発生 することが多い。Fig. 2-8 に波動逆伝搬再生法で観測した Stable Cavitation の一例を示す。強い信 号が規則的に表れる等の特徴が見られる。
2-4-3. 気泡破壊信号と非線形振動信号を分離した気泡状態モニタリング
本章2-4-1 節で述べたように、Inertial Cavitation が導入効率を高めると考えられている。Inertial Cavitation 時に発生する気泡破壊信号と、Non-Inertial 時に発生する非線形振動信号は、デジタ ルフィルタを用いて分離することができる。気泡破壊信号と非線形振動信号の周波数特性が異な ることを利用してデジタルフィルタを設計することで分離が可能となる。[15] 波動逆伝搬再生法に デジタルフィルタを適用し分離を行った一例をFig. 2-9 に示す。Fig. 2-9 は気泡破壊が支配的なフ レームを分離観測した例である。破壊信号 / NL 信号分離後の画像は、本章 2-4-1 節、2-4-2 節と 同様の特徴がそれぞれ見られる。 Fig. 2-9. デジタルフィルタを適用し分離を行った一例
第
3 章 気泡キャビテーション観測への超解像技術の適用
3-1. 構造化照明法の適用による空間分解能向上
3-1-1. 線形周期信号干渉による分解能向上の原理 Fig. 3-1. x 軸方向周期信号と観測信号の高空間分解能化の概要 Fig. 3-1 に x 軸方向周期信号と観測信号の高空間分解能化の概要を示す。有限の開口幅を持つ アレイで受信された超音波画像は一般に、点拡がり関数 (PSF)を用いてコンボリューションモデル で表される。 𝑔(𝑥) = 𝑓𝑏(𝑥) ∗ ℎ(𝑥) (3-1) ここで𝑓𝑏(𝑥)は気泡キャビテーションの信号、ℎ(𝑥)は PSF、* は畳み込み(Convolution)演算子であ る。PSF はフーリエ空間上で±kcの範囲で強度分布を持つとする。ここでkcは開口幅と波長から定 まるカットオフ周波数である。 (3-1)式は周波数領域では元画像と PSF のフーリエ変換の乗算で説明される。 𝐺(𝑋) = 𝐹𝑏(𝑋) ∙ 𝐻(𝑋) (3-2)𝐺(𝑋) = 𝓕(𝑔(𝑥)) 𝐹𝑏(𝑋) = 𝓕(𝑓𝑏(𝑥)) 𝐻(𝑋) = 𝓕(ℎ(𝑥)) (3-3) 𝓕はフーリエ変換を表わす。 ここで空間方向に周期的な信号を付与することにより空間的に変調することを考える(光学では構 造化照明と呼ぶ)。このとき、周期信号の空間周波数を k0 とすると、元画像の空間周波数と干渉を 起こし、周期信号が付与された観測画像の強度分布は kcよりも高い空間周波数成分で情報を持 つことになる。 周期信号付与後の強度分布を考えるため 2π/3 ずつ位相を変えた周期信号を以下のように与え る。 プローブラテラル方向の周期信号は、 𝑓𝑖𝑙𝑙𝑖(𝑥) = 1 + cos(𝑘0𝑥 + 𝜑𝑖) (3-4) ただし𝜑𝑖= (2𝜋/3)𝑖。(i=1,2,3) フーリエ空間上では 𝐹𝑖𝑙𝑙𝑖(𝑋) = 𝛿(𝑋) + exp(𝑗𝜑𝑖) 2 𝛿(𝑋 − 𝑘0) + exp(−𝑗𝜑𝑖) 2 𝛿(𝑋 + 𝑘0) (3-5) 𝐹𝑖𝑙𝑙𝑖(𝑋) = 𝓕(𝑓𝑖𝑙𝑙𝑖(𝑥)) (3-6) ここでδはデルタ関数を表す。 この周期信号によって(3-1)式は以下で表される。 𝑔𝑖(𝑥) = {𝑓𝑖𝑙𝑙𝑖(𝑥) ∙ 𝑓𝑏(𝑥)} ∗ ℎ(𝑥) (3-7) フーリエ空間上では 𝐺𝑖(𝑋) = 𝐹𝑏(𝑋)𝐻(𝑋) + exp(𝑗𝜑𝑖) 2 𝐹𝑏(𝑋 − 𝑘0)𝐻(𝑋) + exp(−𝑗𝜑𝑖) 2 𝐹𝑏(𝑋 + 𝑘0)𝐻(𝑋) (3-8) すなわち元画像からフーリエ空間上で±k0シフトされた成分を持つと見なすことができる。
(3-8)式は [ 𝐺1(𝑋) 𝐺2(𝑋) 𝐺3(𝑋) ] = [ 1 exp(𝑗𝜑1) 2 exp(−𝑗𝜑1) 2 1 exp(𝑗𝜑2) 2 exp(−𝑗𝜑2) 2 1 exp(𝑗𝜑3) 2 exp(−𝑗𝜑3) 2 ] [ 𝐹𝑏(𝑋)𝐻(𝑋) 𝐹𝑏(𝑋 − 𝑘0)𝐻(𝑋) 𝐹𝑏(𝑋 + 𝑘0)𝐻(𝑋) ] (3-9) このように分離された𝐹𝑏(𝑋)𝐻(𝑋)、𝐹𝑏(𝑋 − 𝑘0)𝐻(𝑋)、𝐹𝑏(𝑋 + 𝑘0)𝐻(𝑋)のうち、第 2 項と第 3 項につ いて±k0シフトすると、それぞれ𝐹𝑏(𝑋)𝐻(𝑋 + 𝑘0)、𝐹𝑏(𝑋)𝐻(𝑋 − 𝑘0)が得られ、超解像画像はこれら の成分に重みパラメータγ を用いて以下のように表すことができる。 𝐺𝑆𝐼𝑀(𝑋) = 𝐹𝑏(𝑋) ∙ 𝐻(𝑋) + 𝛾𝐹𝑏(𝑋) ∙ 𝐻(𝑋 − 𝑘0) + 𝛾𝐹𝑏(𝑋) ∙ 𝐻(𝑋 + 𝑘0) = 𝐹𝑏(𝑋){𝐻(𝑋) + 𝛾𝐻(𝑋 − 𝑘0) + 𝛾𝐻(𝑋 + 𝑘0)} (3-10) すなわち、超解像後のPSF をフーリエ空間上で𝐻𝑆𝐼𝑀とすると、 𝐻𝑆𝐼𝑀(𝑋) = 𝐻(𝑋) + 𝛾𝐻(𝑋 − 𝑘0) + 𝛾𝐻(𝑋 + 𝑘0) (3-11) (3-11)式の第 2 項と第 3 項は構造化照明の空間周波数との干渉により生じる和と差の成分であり、 (3-11)式は元の PSF から±k0シフトさせた成分の重み付き足し合わせとなる。すなわち、もともとの開 口幅のPSF にはなかった成分が超解像の PSF(PSFSIM)では含まれる。このとき超解像画像のカット オフ周波数は±(kc+k0)と見なすことができ、およそ k0=kcとなるk0を選択することで±2kcの範囲の帯
域を有することになる。フーリエ空間上のPSF および PSFSIMの強度分布の模式図をFig. 3-2(a)(b)
にそれぞれ示す。Fig. 3-2(b)のようにフーリエ空間上でほぼ 2 倍の範囲で強度分布を持つ PSF で 画像取得できることになるため、実空間上で空間分解能(x 軸方向) は最大で 2 倍になることが期 待される。
Fig. 3-2. フーリエ空間上の PSF の強度分布 ((a)元の PSF、(b) 超解像の PSF(PSFSIM)) (3-9)式、(3-10)式より 𝐹𝑏(𝑋) ∙ 𝐻(𝑋) = 1 3∑ 𝐹𝑖(𝑋) 3 𝑖=1 = 𝐺(𝑋) (3-12) および 𝐹𝑏(𝑋 ∓ 𝑘0) ∙ 𝐻(𝑋) = 2 3∑ 𝐹𝑖(𝑋) 3 𝑖=1 exp(−𝑗𝜑𝑖) (3-13) よって(3-8)式は 𝐺𝑆𝐼𝑀(𝑋) = 𝐺(𝑋) + 2 3𝛾 ∑{exp(−𝑗𝜑𝑖) 𝐹𝑖(𝑋 + 𝑘0) + exp(𝑗𝜑𝑖) 𝐹𝑖(𝑋 − 𝑘0)} 3 𝑖=1 (3-15)
実空間上では以下で表わされる。 𝑔𝑆𝐼𝑀(𝑥) = (1 − 4 3𝛾) 𝑔(𝑥) + 4 3𝛾 ∑ 𝑓𝑖𝑙𝑙𝑖(𝑥) ∙ 𝑔𝑖(𝑥) 3 𝑖=1 (3-16) 尚、気泡データへの適用にあたっては、PSF をあらかじめ取得し既知であるとする。すなわち観測 信号のフーリエ変換と既知の PSF のフーリエ変換から𝐹𝑏(𝑋)を推定する(initial deconvolution)こと で、(3-1)式に適用することになる。 𝐹𝑏(𝑋) = 𝐺(𝑋) 1 𝐻(𝑋) (3-17) 3-1-2. 非線形周期信号干渉による分解能向上の原理 周期信号の振幅を飽和させて高調波成分を含む波形と干渉させることを考える。(3-4)式の正弦波 周期信号を拡張し、n 次の高調波までの足し合わせとして表すと、 𝑓𝑖𝑙𝑙_𝑁𝐿𝑖(𝑥) = ∑ 𝑎𝑛 𝑛 (𝑓𝑖𝑙𝑙𝑖(𝑥))𝑛 (3-18) ただし𝑎𝑛はテイラー級数展開の係数を表す。 フーリエ空間上では 𝐹𝑖𝑙𝑙_𝑁𝐿𝑖(𝑋) = ∑ 𝑎𝑛 𝑛 exp(𝑗𝑛𝜑𝑖) 2 𝛿(𝑋 − 𝑛𝑘0) (3-19) この非線形周期信号を用いると、(3-1)式は以下で表される。 𝑔𝑁𝐿𝑖(𝑥) = {𝑓𝑖𝑙𝑙_𝑁𝐿𝑖(𝑥) ∙ 𝑓𝑏(𝑥)} ∗ ℎ(𝑥) (3-20) フーリエ空間上では 𝐺𝑁𝐿𝑖(𝑋) = {𝐹𝑖𝑙𝑙𝑁𝐿𝑖(𝑋) ∗ 𝐹𝑏(𝑋)} ∙ 𝐻(𝑋) = ∑ 𝑎𝑛𝑐𝑛 𝑛 exp(𝑗𝑛𝜑𝑖) 2 𝐹𝑏(𝑋 − 𝑛𝑘0) ∙ 𝐻(𝑋)
ここで 𝑐𝑛= 𝐻𝑆𝐼𝑀_𝑁𝐿(𝑛𝑘0) (3-22) 非線形超解像後の観測信号(𝑔𝑁𝐿(𝑥))のフーリエ変換は、非線形超解像 PSF のフーリエ変換を用 いて、以下で表される。 𝐺𝑁𝐿(𝑋) = 𝐹𝑏(𝑋) ∙ 𝐻𝑆𝐼𝑀_𝑁𝐿(𝑋) (3-23) なお、 𝐻𝑆𝐼𝑀_𝑁𝐿(𝑋) = ∑ 𝑎𝑛𝑐𝑛 𝑛 ∙ 𝐻(𝑋 − 𝑛𝑘0) (3-24) 非線形SIM では線形 SIM の𝐻(𝑋 + 𝑘0)、𝐻(𝑋 − 𝑘0)だけでなく、さらに高次の成分𝐻(𝑋 + 𝑛𝑘0)、 𝐻(𝑋 − 𝑛𝑘0)の情報を含むようになる。原理的には波数の制約を受けずに無限に高い分解能を得 ることが可能となるが、実際には高次の高調波成分ほど振幅が小さく、ノイズと区別できなくなって しまうので、画像のSN 比によってどこまで高次の項を含めるかを決める。2 次の高次項までを用い ると(n=0, ±1, ±2)、従来の約 4 倍の分解能向上が期待される。(3-24)において𝑎2𝑐2= 𝑎−2𝑐−2= 𝛽としたとき、フーリエ空間上の非線形超解像の PSF の強度分布の模式図を Fig. 3-3 に示す。 Fig. 3-3. フーリエ空間上の PSF の強度分布 非線形超解像のPSF(PSFNL_SIM)
第
4 章 実験方法と装置
4-1. 実験の手順
気泡キャビテーション信号観測法の実験系の写真をFig. 4-1 に示す。模擬生体ファントムである 寒天に金属棒を用いて導入孔を作製する。導入孔に対して外部から強力超音波を照射するため に使用するトランスデューサ(中心周波数:2.5, 7.5 [MHz] )を導入孔から 40 [mm](超音波の収束 点)離れた位置に、そのビームの軸が導入孔の中心軸と直交するように設置した。次に気泡から放 射された二次的な超音波信号を受信するために使用するリニアプローブ(中心周波数:7.5 [MHz] )を導入孔から 20 [mm] 離れた位置に配置し、リニアプローブとトランスデューサのビーム 軸が直交するように調整した。 Fig. 4-1. 実験系の写真 次に気泡キャビテーション信号観測法の実験系の概略をFig. 4-2 に示す。作成した導入孔に微 小気泡、または極細散乱体を入れて超音波映像装置を操作する。このとき超音波映像装置より送 信された同期信号より、制御回路 → 発振器(NF 回路設計ブロック社、WF1968) → パワーアンプ (NF 回路設計ブロック社、HSA4101) → 超音波振動子 と順に信号を送り強力超音波を照射する。 照射によりキャビテーションが発生し、気泡から二次超音波が放射され、それをリニアプローブで受得する。 Fig. 4-2. 実験系の概略 各実験における詳しい手順は次に示す。実験Ⅰ : 極細散乱体を用いた信号観測, 実験Ⅱ : 異なる気泡種類に対する信号観測, 実験Ⅲ : デジタルフィルタを用いた気泡破壊 / 非線形振動 分離観測, 実験Ⅳ : 異なる気泡種類の信号観測 <実験Ⅰ : 極細散乱体を用いた信号観測> 極細散乱体としてHB 0.3 [mm] のシャープペンシルの芯を、導入孔と同様の位置に固定し寒 天を作成した。この時中心周波数7.5[MHz]のトランスデューサを用い、Table 4-1 に示す散乱体観 測用強力超音波を照射した。実験Ⅰの照射シーケンスをFig. 4-3 に示す。 Table 4-1. 強力超音波 照射対象 周波数[MHz] 音圧[MPa] 実験Ⅰ シャープペンシルの芯 7.5 1.0 実験Ⅱ Sonazoid 2.5 0.3, 1.0 実験Ⅲ Sonazoid 2.5 1.0 実験Ⅳ UFB 2.5 1.0
Fig. 4-3. 実験Ⅰの照射シーケンス <実験Ⅱ : 異なるキャビテーション観測に対する信号観測> 超音波造影剤として、ソナゾイド懸濁液を用いた。注射溶液として調製したときのソナゾイドの平 均直径は3[µm]、個数濃度は1.2 × 109 [個/ml] である。このとき、直径 2 [mm], 深さ 30 [mm] の導入孔を用いた。 ソナゾイドの個数濃度をパラメータとして用いて、100 倍( 1.2 × 107 [個/ml] )に希釈した濃度で 実験を行い比較した。このとき、Table 4-1 に示す強力超音波を照射した。実験Ⅱの照射シーケン スをFig. 4-4 に示す。 Fig. 4-4. 実験Ⅱの照射シーケンス <実験Ⅲ : デジタルフィルタを用いた気泡破壊 / 非線形振動分離観測> 超音波造影剤として、ソナゾイド懸濁液を用いた。このとき、直径 2 [mm], 深さ 30 [mm]の導入 孔を用いた。 ソナゾイドの個数濃度をパラメータとして用いて、1000 倍(1.2 × 106 [個/ml] )に希釈した濃度 で実験を行い比較した。このとき、Table 4-1 に示す強力超音波を照射した。実験Ⅲの照射シーケ ンスをFig. 4-5 に示す。 Fig. 4-5. 実験Ⅲ,Ⅳの照射シーケンス 受信した観測データを気泡破壊 / 非線形振動に分離するため、それぞれデジタルフィルタを適
0.2 [MHz] を遮断周波数とし、帯域除去フィルタを組み合わせて設計した。非線形振動信号抽出 用フィルタは、3.85-4.90, 5.10-6.15, 6.35-7.40, 7.60-8.65, 8.85-9.90, 10.10-11.15 [MHz] を遮断周 波数とし、気泡破壊信号抽出用フィルタ以外の周波数を通すように帯域除去フィルタを組み合わ せて設計した。設計したフィルタの周波数特性をFig. 4-6 に示す。 Fig. 4-6. 設計したフィルタの周波数特性 (a) 気泡破壊信号抽出用フィルタ, (b)非線形振動信号抽出用フィルタ <実験Ⅳ : 異なる気泡種類の信号観測> 超音波造影剤として、ソナゾイド懸濁液・UFB 水を用いた。このとき、直径 2 [mm], 深さ 30 [mm]の導入孔を用いた。 UFB 水は個数濃度9.4 × 109 [個/ml]、およびソナゾイドは個数濃度1.2 × 107 [個/ml]に希釈し た濃度で実験を行い比較した。このとき、Table 4-1 に示す強力超音波を照射した。実験Ⅳの照射 シーケンスをFig. 4-5 に示す。
4-2. 研究用超音波測定装置
気泡からの放射超音波の取得にはマイクロソニック社製のRSYS0003STA を使用した。 外観を Fig. 4-7 に示す。Fig. 4-7. RSYS0003STA の外観 この装置ではリニアプローブの各素子で受信した超音波のAD 変換器出力をバイナリデータとし て取得することが可能となっていると同時に、同期用トリガを外部に出力することが可能となってい る。Table 4-2 にこの装置の諸元(今回の実験系における設定値)を示す。 Table 4-2. RSYS0003 の諸元 プローブ中心周波数 7.5 [MHz] 映像超音波の音圧 0.1 [MPa] 素子ピッチ 0.6 [mm] チャネル数 16 [ch] PRT 80 [μsec]
4-3. 強力超音波照射用の超音波振動子
実験に用いた凹面型超音波振動子のパラメータを以下に示す。富士セラミック社製凹面型超音 波振動子で設計上の直径、曲率半径及び共振周波数はそれぞれ22 [mm], 42 [mm], 2.5 [MHz]である。この凹面型超音波振動子の背面にアクリル製の振動子ホルダを取り付けて、このホルダを もって保持している( Fig.4-8 )。 Fig. 4-8. 凹面超音波振動子と振動子ホルダ この振動子の入力インピーダンスの周波数特性をFig. 4-9 に示す。 Fig. 4-9. 2.5 [MHz] 振動子のインピーダンス特性 この振動子の電圧-音圧特性をFig. 4-10 に示す。
Fig. 4-10. 使用したトランスデューサの電圧-音圧特性 Fig. 4-10 の電圧-音圧特性の測定は、凹面超音波振動子からのビーム軸上の 40 [mm] 先に ハイドロフォンプローブ (イーステック社、HNR1000) を対向させる形で配置して行った。ここで、こ の凹面振動子のビーム軸方向の出力音圧分布をシミュレーションした結果をFig.4-11 に示す。こ のグラフの青線が凹面超音波振動子の音圧分布であり、このグラフが示すように振動子から40 [mm] の位置において出力音圧が最も強くなることを考慮し、振動子から 40 [mm] の位置での出 力超音波を使用している。 Fig. 4-11. 振動子のビーム軸方向の音圧分布 前述の円形凹面振動子の音圧分布のシミュレーションは(4-1)式により行った。この式は円形凹面 振動子のビーム軸(z軸)方向の音圧分布を与える。ここで「正規化」とは、ρ、c 及び Vmをそれぞれ
の絶対値 |𝑝|を割ることをいう。 正規化音圧
|𝑃
𝐼(𝑧)| =
|𝑝| 𝜌𝑐|𝑉𝑚|= |
2𝐴 𝐴−𝑧sin
𝑘 2(√𝑎
2+ (𝑧 − 𝐴 + √𝐴
2− 𝑎
2)
2− 𝑧)|
ただし焦点(𝑧
= A )において、|𝑃
𝐼(𝐴)| = 𝑘ℎ
… ( 4-1 ) (4-1)式の p、ρ、c 及び Vmはそれぞれ音圧、媒質の密度、音速および振動子面上の体積速度の 最大値である。 (4-1) 式における各パラメ-タの詳細は Table 4-3 に示す。 Table 4-3 式(4-1)のパラメ-タ 曲率半径𝐴[m]
0.042 半径𝑎[m]
0.011 位相定数𝑘[𝑟𝑎𝑑/𝑚]
10471.976 振動子の深さℎ[m]
0.0014664-4. 模擬生体ファントム(寒天ファントム)
生体模擬ファントムとして、寒天ファントムを使用している。寒天ファントムは作成が容易でありな がら、弾性特性が生体に近く、超音波の伝搬速度が水中での伝搬速度とほぼ等しいという特徴が ある。今回実験に使用したファントムは、寒天濃度1.50 [%] とした。 寒天ファントムの作成方法を以下に示す。 <寒天ファントムの作成手順> 1. 水に所定の量の和光純薬工業株式会社の寒天粉末を加えて沸騰するまで加熱する。 2. 沸騰したら、かき混ぜながら、約 40 [℃] になるまでゆっくり冷却する。 3. 約 40 [℃] になったら、型枠に入れて、冷蔵庫で完全に固まるまで冷却する。 4. 寒天が完全に固まったことを確認した後、型枠を取り外す。4-5. 実験に使用した微小気泡
4-5-1. ソナゾイド
実験には肝臓などの超音波造影剤に利用されているソナゾイドを使用した。超音波造影剤に利 用されるマイクロバブルの概要図をFig. 4-12 に示す。ソナゾイドは気泡径が 3 [μm] であり、ホスフ ァチジルセリンナトリウムを材質とするシェルによってペルフルブタンガスを内包する微小気泡であ る。Fig. 4-12. マイクロバブル
4-5-2. Ultra Fine Bubble
ウルトラファインバブルの概要図を Fig. 4-13 に示す。ウルトラファインバブルは近年、国際標準 化機構にて定義され、直径1[μm] 未満のバブルの呼称である。これに伴いかつてのナノバブル やナノマイクロバブルという呼称は用いられなくなった。ウルトラファインバブルは界面活性作用と いった特徴から、近年、殺菌・滅菌の用途で産業応用や医療応用が進められている。 実験には株式会社ナノクスの高密度ウルトラファインバブル発生装置 nanoQuick により生成した UFB 密度9.4 × 109[/𝑚𝐿]の超高密度ウルトラファインバブル水を用いた。
第
5 章 実験結果
5-1. Point Spread Function への適用結果
超解像パラメータの最適化のため、点音源から推定したPSF と、周期信号を干渉させた PSF(線 形SIM・非線形 SIM)の半値幅を比較するシミュレーションを行った。PSF 推定に用いたシミュレー ション条件をTable 5-1 に、推定結果を Fig. 5-1 に示す。 Table 5-1 PSF のシミュレーション条件 中心周波数 7.5 [MHz] 素子間隔 0.6 [mm] ビームフォーミングのチャネル数 16 [ch] 開口幅2b 9.6 [mm] 焦点距離 z0 20 [mm] 波長 λ 0.2 [mm] Fig. 5-1. シミュレーションの推定結果 カットオフ周波数と空間分解能の関係にシミュレーションに用いた条件をあてはめると(5-1)式で計 算される。このとき、2𝑤xは半値幅とする。 𝑘𝑐= 1 2𝑤x = 1 0.61 × 𝑧0× 𝜆 𝑏 ≅ 1967 [cyc/m]
3-1-1 節(3-11)式より、おおよそ𝑘𝑐= 𝑘0を選ぶと帯域が2倍になることが期待されるため、仮想的に 挿入する周期信号の空間周波数𝑘0を(5-1)式のkcを基準に半値幅が小さくなるようにかつS/N が大 きくなるように検討を行った。また重みパラメータ𝛾も同様に検討を行った。まず𝛾 = 0.1 のとき、𝑘0 について1750 ≤ k0≤ 2500の範囲で検討を行った結果を Fig. 5-2 に示す。 Fig. 5-2. 仮想的に挿入する周期信号の空間周波数𝑘0の検討 (γ : 0.1) Fig. 5-2 より、サイドローブとメインローブの比率および半値幅がともに小さくなる𝑘0= 2250[cyc/m] を最適な値とした。次に𝑘0= 2250 [cyc/m] のとき、𝛾について1.0 × 10−7≤ 𝛾 ≤ 1.0の範囲で検 討を行った結果をFig. 5-3 に示す。 Fig. 5-3. 重みパラメタ𝛾の検討 (𝑘0 : 2250[cyc/m])
Fig. 5-3 より、サイドローブとメインローブの比率および半値幅がともに小さくなる𝛾 = 0.1を最適な 値とした。
また𝛾 = 0.1, 𝑘0= 2250 のとき、3-1-2 節(3-24)式における非線形 SIM の時にのみ用いる重み
パラメータ𝛽を0.3 ≤ 𝛽 ≤ 0.7の範囲で検討を行った。仮想的に干渉させた周期信号を Fig. 5-4 に 示す。PSF に非線形 SIM を適用したときの空間周波数スペクトラムを Fig. 5-5 に示す。𝑘𝑐前後
(1860-2060 [cyc/m] )および𝑘0前後(2150-2350 [cyc/m] )の平均強度を Fig. 5-6 に示す。
Fig. 5-4. 仮想的に干渉させた周期信号
Fig. 5-6. 𝑘𝑐前後(1860-2060 [cyc/m] )および𝑘0前後(2150-2350[cyc/m] )の平均強度
Fig. 5-6 に お い て 、 𝑘𝑐前後(1860~2060[cyc/m)の平均強度 ≧ 𝑘0前後(2150~2350[cyc/
m)の平均強度 となる、𝛽 = 0.6 を最適な値とした。
線形SIM、非線形 SIM において最適化した𝑘0, 𝛽, 𝛾を用いて、PSF を比較するシミュレーション
結果をFig. 5-7 に示す。Fig. 5-8 は空間周波数スペクトラムの結果である。超解像前を Original と 表記している。
Fig. 5-8. 最適化を行った PSF の空間周波数スペクトラム
Fig. 5-7 より空間分解能は Original と比較して、線形 SIM が約 1.86 倍、非線形 SIM が約 3. 47 倍 向上した。またFig. 5-8 において、Original と比較して線形 SIM は約 1.87 倍、非線形 SIM は約 3.01 倍帯域が広がっていることを確認した。
5-2. 極細散乱体を用いた空間分解能の評価
極細散乱体としてHB 0.3 [mm] のシャープペンシルの芯を、4-1 節 Fig. 4-1 に示した導入孔と 同様の位置に固定した寒天ファントムを準備した。極細散乱体のB モード観測を Fig. 5-9 に示す。 この極細散乱体に対して、強力超音波 (4-1 節、Table 4-1 ) を照射し Original と線形 SIM 適用後 で比較した結果をFig. 5-10 示す。
Fig. 5-10. 極細散乱体の Original と線形 SIM の比較 Fig. 5-10 より、実際に挿入した極細散乱体は 0.3 [mm]であるのに対し、Original では信号の半値 幅は0.46 [mm]と大きい。一方で線形 SIM は 0.26 [mm]と実際の大きさとほぼ同じであった。これ は本章5-1 節で述べた通り、空間分解能が向上したことで極細散乱体の信号観測が可能になった ためと考えられる。Fig. 5-10 上に示すラインの実空間分布を空間周波数スペクトラム解析して比較 した結果をFig. 5-11 に示す。 Fig. 5-9. 極細散乱体の空間周波数スペクトラム
Original の半値幅 0.46[mm]の 2 倍(全幅)の逆数 1100[cyc/m]前後と、線形 SIM 適用後の半値幅 0.26[mm] の 2 倍(全幅)の逆数 1900[cyc/m]前後の空間周波数を比較した。このとき空間周波数
1100[cyc/m]前後では 2[dB]の差であるが、空間周波数 1900[cyc/m]前後では 12[dB]の差となり強 調されていることが分かった。この空間周波数 1900[cyc/m]前後の成分強調は帯域が拡大した線 形SIM の PSF(Fig. 5-8)の効果と考えられる。
5-3. 異なるキャビテーションモードに対する超解像技術の適用結果
5-3-1. 振幅変調波を用いた気泡キャビテーション観測信号への適用 個数濃度1.2 × 107 [個/ml] のソナゾイド懸濁液に対して 4-1 節 Fig. 4-4 の振幅変調波を用いて観測を行った。このとき照射前後半でStable Cavitation / Inertial Cavitation を比較するため、ソ ナゾイドの気泡破壊の音圧閾値0.67[MPa] [16]を下回る 0.3[MPa]と、閾値を上回る 1.0[MPa]に設 定し連続で照射を行った。Stable Cavitation / Inertial Cavitation を線形 SIM 前後で比較した逆伝 搬画像をFig. 5-10 に示す。縦軸が実空間における距離、横軸が時間を示している。 Fig. 5-10. 異なるキャビテーションモードを線形 SIM 適用前後で比較した逆伝搬画像 Fig. 5-10 より、低音圧である 0.3 [MPa]では照射超音波に対する高次高調波と分数次調波の干 渉により時間的に一定間隔の信号パターンが観測されているが、これはStable cavitation の特徴と してこれまでにも確認されている。一方で、高音圧である 1.0[MPa]では実空間方向に延びたパタ ーンとなるだけでなく、時間的・空間的に複雑な信号パターンが観測されている。これは Inertial cavitation の特徴として確認されている。また Original と線形 SIM 適用後で比較すると、Stable Cavitation が起っているとき両者で空間方向の分布に大きな違いが見られないが、一方で Inertial Cavitation が起っているときは、線形 SIM 適用時に空間方向の分布に違いが見られた。
Fig. 5-11. 異なるキャビテーションモードを線形 SIM 前後で比較した 空間周波数スペクトラム (a)線形 SIM 適用前, (b)線形 SIM 適用後
Fig. 5-11 に示した𝑘0が仮想的に挿入する周期信号の空間周波数である。線形SIM 適用前は、𝑘0
前後の成分が含まれていないが、線形SIM 適用後は、Inertial cavitation 時に𝑘0前後の成分が強
調されていることがわかった。この強調された𝑘0前後の成分が実空間上での画像の高分解能化に
反映されていると考えられる。次にFig. 5-11 で示した線形 SIM 前の空間周波数スペクトラムのゲイ ンを高い値に設定し、再度画像化を行った。画像をFig. 5-12 に示す。
Fig. 5-12. ゲインを高い値に設定したときの線形 SIM 適用前の空間周波数スペクトラム
Fig. 5-12 より、ゲインの値を高くすることで、Inertial cavitation 時にのみ𝑘0付近の空間周波数を有
数付近の成分を含んでいることが必要で、𝑘0前後の空間周波数の成分と干渉させた結果、超解像 が実現できたと考えられる。 5-3-2. デジタルフィルタを用いた気泡破壊/非線形振動分離観測への適用 個数濃度1.2 × 106 [個/ml] のソナゾイド懸濁液に対して強力超音波 ( 4-1 節、Table 4-1 ) を 照射した。気泡破壊 / 非線形振動分離観測を行うため、観測信号に 4-1 節 Fig.4-6 に示すデジタ ルフィルタを適用し分離した結果をFig. 5-13 に(a)NL 信号 (b)破壊信号として示す。 Fig. 5-13. デジタルフィルタを適用し映像化した結果 (a)NL 信号, (b)破壊信号 非線形振動信号抽出用フィルタ適用時、信号が周期的に表れるという非線形振動が起きていると きの特有のパターンが見られた。気泡破壊信号抽出用フィルタ適用時において強い信号がランダ ムに表れるという気泡破壊が起きているときの特有のパターンが見られた。それぞれのある時刻の 空間分布を取り出し、空間周波数スペクトラム解析した結果の典型例2例をFig. 5-14 に示す。
Fig. 5-14. NL 信号/破壊信号の空間周波数スペクトラム解析の結果
線形SIM では挿入した仮想的な周期信号の空間周波数が 2250[cyc/m]、非線形 SIM では挿入し た仮想的な周期信号の空間周波数が2250, 4500[cyc/m]で強い信号があり、それにより Original と 比較して前後の周波数帯域でも信号が強調されていることが分かった。Fig. 5-14 で用いた 2 ライン を含む、10 ラインで有意差検定を行った結果を Fig. 5-15 に示す。比較した周波数は挿入した仮想 的 な周期 信号の空間周波数 よ り帯域の中心 が 500,1500[cyc/m] それぞれ小さく、そこから ±250[cyc/m] の範囲で検討を行った。 Fig. 5-15. Original と NL 信号/破壊信号の差を比較した結果 Fig. 5-15 より NL 信号と破壊信号を比較した結果、空間周波数が 512-1024[cyc/m] のとき、NL 信 号のほうが Original との差が大きかった。一方で空間周波数が 1536-2048, 2764-3277,
3788-4300[cyc/m] のとき、破壊信号のほうが Original との差が大きかった。これより空間周波数 1000[cyc/m] 以下では NL 信号、1500[cyc/m] 以上では破壊信号で超解像の効果が大きいと考 えられる。次に線形SIM と非線形 SIM の比較では、空間周波数が 512-1024[cyc/m] のとき有意 な差が見られなかった。一方で空間周波数が 1536-2048, 2764-3277, 3788-4300[cyc/m] のとき、 非線形SIM のほうが Original との差が大きく、線形 SIM との間で有意な差が見られた。これより空 間周波数1500[cyc/m] 以上において非線形 SIM の超解像の効果が大きいと考えられる。
5-4. 異なる気泡種類に対する超解像技術の適用結果
個数濃度1.2 × 107 [個/ml] の Sonazoid 懸濁液、個数濃度9.4 × 109 [個/ml] の UFB 水に対
して強力超音波 ( Table 4-1 ) を照射した。非線形 SIM の適用前後の結果と画像中の 1 ラインの 空間分布を抜き出し空間周波数スペクトラム解析した結果を、Sonazoid, UFB それぞれ Fig. 5-16, 5-17 に示す。
Fig. 5-16. Sonazoid の Original と非線形 SIM 適用時の画像と空間周波数スペクトラム
Fig. 5-17. UFB の Original と非線形 SIM 適用時の画像と空間周波数スペクトラムの差分
Original と非線形 SIM を Sonazoid と UFB でそれぞれ比較すると、UFB のほうが非線形 SIM でよ り高解像度化していることが分かった。これは線形SIM で干渉させている空間周波数 2250[cyc/m] と 、 非 線 形 SIM で 干 渉 さ せ て い る 空 間 周 波 数 4500[cyc/m] の 影 響 に よ り、 空 間 周 波 数 3000[cyc/m] 以降で UFB の成分強調が大きいからであると考えられる。
ラムを基準としたUFB の空間周波数スペクトラムの差分を Fig. 5-19 に示す。
Fig. 5-18. 超解像前の実空間分布の比較
Fig. 5-19. Sonazoid を基準とした UFB の空間周波数スペクトラム (超解像前)
Fig. 5-18 の Original の実空間分布と Fig. 5-19 の空間周波数スペクトラムの比較より、UFB は Sonazoid よりも実空間での分布が広く、空間周波数 3000-4000[cyc/m] での成分が相対的に大き いことが分かった。また、Sonazoid と UFB への照射で想定される到達深度の模式図を Fig. 5-20 に 示す。
Fig. 5-20. 想定される強力超音波の到達深度の模式図
Fig. 5-20 のように Sonazoid は UFB と比べて径が大きく強力超音波の遮蔽効果が大きいが、UFB は微小気泡の径が小さく遮蔽効果が小さいため実空間上では強力超音波照射方向に広範囲で 強度分布が得られると考えられる。
5-5. 考察
① PSF の広帯域化について
Fig. 5-21. 超解像後の PSF スペクトラムの比較 線形SIM の干渉させる空間周波数を 2 倍の2𝑘0にして比較したところ、空間周波数2𝑘0付近の成 分は強調されるが、空間周波数𝑘0以下では変化が見られなかった。これにより𝑘0を選択する際、𝑘𝑐 から離れすぎると基本成分との干渉が起こらないため超解像に作用しないと考えられる。また Original に着目すると、特定の周波数で信号が非常に小さくなるという不連続な周波数特性を持っ ていることが分かった。これらの結果を踏まえ、Original の PSF の不連続な周波数特性を補う𝑘0と 帯域拡大のために非線形効果を利用することで、𝑘𝑐以降も一様な周波数特性で帯域拡大を実現 できると考えられる。 ② 超解像が有効なケースについて 気泡観測に適用した際の超解像が有効であると考えらる周波数帯域をFig. 5-22 に示す。 Fig. 5-22. 超解像が有効であると考えらる周波数帯域 結果Ⅲより空間周波数が1000[cyc/m] 以下では NL 信号、空間周波数が 1500[cyc/m] 以上では 破壊信号の超解像による成分強調が顕著であることがわかった。また結果Ⅳより、Sonazoid に比べ
てUFB の破壊信号は空間周波数 3000-4000[cyc/m]の超解像による成分強調が顕著であることが わかった。これは𝑘0 , 2𝑘0両方の効果によるものであると考えられる。また、実空間における分布は
NL 信号よりも破壊信号のほうが広く分布することが観測された。同様に、Sonazoid よりも UFB のほ うが広範囲の分布であることが観測された。以上を踏まえ本手法は、特に広範囲に分布する気泡 破壊信号の超解像化に有効であると考えられる。
第
6 章 まとめ
6-1. 結論
超音波アレイプローブのPSF 帯域拡大を行うため、構造化照明法の原理を気泡キャビテーション 観測法に適用した。この適用により、 空間分解能 0.28 [mm] となる線形超解像技術 空間分解能 0.15 [mm] となる非線形超解像技術 を実現した。 これにより以下の結果が得られた。 ①キャビテーションモード・気泡種類によって超解像強調される帯域が異なる。 ②特に気泡破壊・UFB の超解像において、非線形効果を用いた超解像化が有効。 以上の結果から、一定の条件下で従来観測できなかった信号を観測することが可能となり、キャビ テーションの現象理解の一助となることが示唆された。6-2. 今後の課題
提案手法においてノイズ成分まで強調し信号観測の妨げになることがある。そのため今後の課 題として、ノイズ成分の低減等を行い、より正確な観測が行えるようにする。参考文献
[1] S. Mehier-Humbert, T. bettinger, F. Yan and R. H. Guy, J. Controlled Release, Vol. 104, pp.213-222, (2005)
[2] S. Qin, C.F Caskey, K.W Ferrara, Phys Med Biol, Vol. 54, R27–R57, (2009)
[3] R. Koda, Y. Izumi, H. Nagai, Y. Yamakoshi, Jpn. J. Appl. Phys., Vol. 56, pp.047201.1-047201.7, (2017)
[4] R. Koda, T. Origasa, T. Nakajima and Y. Yamakoshi, IEEE Trans Ultrason Ferroelectr Freq Control, Vol. 66, pp.823-833, (2019)
[5] M. Ben-Ezra, A. Zomet, S.K Nayar, IEEE Trans. Pattern Anal. Mach. Intell, Vol. 27, pp.977-987, (2005)
[6] S. Hayashi, Y. Okada, Molecular Biology of the Cell, Vol. 26, pp.1743-1751, (2015) [7] M.G.L Gustafsson, PNAS, Vol. 102, pp. 13081-13086, (2005)
[8] E.H Rego, L. Shao, J.J Macklin, L. Winoto, G.A Johansson, N. Kamps-Hughes, M.W Davidson, M.G.L Gustafsson, PNAS, Vol. 109, E135-E143, (2012)
[9] S. Hilgenfeldt, M. P. Brenner, S. Grossmann, D. Lohse, Journal of Fluid Mechanics, Vol. 365, pp.171-204, (1998)
[10] T. G. Leighton, A. J. Walton, M. J. W. Pickworth, European Journal of Physics, Vol. 11, pp. 47-50, (1991)
[11] R. Mettin, I. Akhatov, U. Parlitz, C. D. Ohl, W. Lauterborn, Phys. Rev, E56, pp.2924-2931, (1997) [12] Lars Hoff, Ultrasound Contrast Bubble Simulation. Bubblesim, (2004)
[13] E. Huynh, J. F. Lovell, B. L. Helfield, M. Jeon, C. Kim, D. E. Goertz, B. C. Wilson, G. Zheng, Journal of the American chemical society, Vol. 134, pp. 16464-16467, (2012)
[14] L. Hoff, Acoustic Characterization of Contrast Agents for Medical Ultrasound Imaging, Springer Netherlands, chapter6, (2001)
[15] 吉澤 晋, 松本 洋一郎, 日本流体力学会誌, ながれ Vol. 24, pp.405-412, (2005)
[16] W. T Shi, F. Forsberg, P. Vaidyanathan, A. Tornes, J. Østensen, Physics in Medicine and Biology, Vol. 51, pp. 4031-4045, (2006)
謝辞
本研究を行うにあたり、細部にわたり熱心なご指導を頂いた群馬大学理工学府理工学専攻電子 情報・数理教育プログラム、江田廉助教に深く感謝申し上げます。