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韓国人児童生徒の日韓2言語による学び : 小学生新聞指導を通して

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韓国人児童生徒の日韓 2 言語による学び

―小学生新聞指導を通して―

柳シンヒョン

キーワード

韓国人児童生徒,母語話者支援者(1),NIE,メディア・リテラシー,社会性       

はじめに 

日本における外国人住民数は,近年の景気低迷や2011年の東日本大震災の影響により減少 に転じたものの,過去最高を記録した2009年まで増加の一途をたどってきた。これに伴い,日 本の学校に在籍する外国人児童生徒数も年々増えており,その児童生徒の多くは,日本語指導 を必要としている。公立学校では児童生徒への初期指導として,取り出し授業,入り込み授業 などを行っているが,在籍学級の教科内容を理解するまでには至らない。筆者も現在日本語サ ポート指導員として公立学校に派遣されているが,外国人児童が初期指導だけでは,生活日本 語の習得もままならない現状に直面している。また,学校はもとより家庭内でも日本語指導に 重きを置く場合が多く,母語がまだ確立されていない小学校低学年の児童の場合,母語を失い かねない状況さえある。「母語の喪失は認知面での発達を中断させるなど様々な面で不利な影 響をもたらしている」(穆2008:28)という指摘もあり,母語能力が認知発達に大きく影響する ということ,さらに,第2言語の習得にも少なからず影響することは多くの研究で検証されて きた。 母国で8年以上放課後補習塾を運営し年少者教育に携わっていた筆者は,自身の経験を日本 語教育にも生かせると考え,日本において韓国人児童生徒を対象に,母語を活用した日本語・ 教科指導を試みた。児童生徒が「在籍学級の授業に積極的に参加できる」ことを目標に,教科 学習を中心とした日本語指導を2010年5月から3 ヶ月間にわたって行った。しかし,それぞれ 異なる背景を持つ児童生徒に対し一律に日本の学校教科を指導するのは,長期的な対策になら ないと気づき,方向転換を考えざるを得なくなった。たとえば,指導対象の1人である公立小 学校2年のKF2Y(2)は2年後の帰国を予定しており,「現在と2年後の言語・学習環境」を考え ると日本語・韓国語・日本と韓国の教科学習が必要となってくる。しかし,筆者がこれらのす べての支援に当たるのはほぼ不可能である。そこで,支援の目標を次の2点とした。(1)2言 語能力の発達をサポートする(2)学校での授業に積極的な参加を果たすための道筋をつける。 特に学校教科においては,教科の内容を教えるのではなく,授業に積極的に参加し自ら学んで いくために必要な「総合的な力」の育成を図らなければならない。筆者定義では,「総合的な 力」とは,児童が現在持つ言語能力・知識・経験を活用し,自ら課題を発見し解決する能力で ある。また,この「総合的な力」は,学校教科はもとより社会の一成員として生きていくため

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に必要な力の土台となるものでなければならない。 そこで,今日のような変化の激しい社会を移動しながら生きる子どもたちが,両言語能力を 伸ばしつつ,社会について学び,課題を見つけ解決していく能力を身につけるための教材とし て考えたのが,小学生新聞である。以下,新聞活用の教育的効果を考えてみたい。

1.小学生新聞を活用した 1 人 2 言語指導の背景

本研究における指導では,日本と韓国の両国の新聞を用いて,それぞれの言語で指導を行う。 主に小学生新聞を用いるが,児童生徒の希望やレベルに応じて,中学生新聞や一般紙を用いる こともある。以下に,小学生新聞を主教材とした筆者自身による1人2言語指導の背景を示す。 1.1 小学生新聞を主教材とした理由 (1) 両国の新聞を用いることで,両言語の年齢相応の能力が育成できる可能性がある (2) 小学生新聞とはいえ,成人向けの一般紙と同じく,「政治・経済・国際・地域・環境・ 福祉」などの諸問題に関する内容が充実している。その問題について話し合うことによ り,両言語能力はもちろん,問題意識・批判的思考力を深めることができる。 (3) (2)の内容は,生涯を通して必要な知識であることが多く,生涯学習につながる。 (4) 日本においても韓国においても,小学生新聞は基本的に児童の学力向上を念頭に置いて 構成されているため,教科学習につながる。 (5) 小学校低学年にも理解できる記事があり,日本語新聞においては漢字に振り仮名が振ら れているため,外国人児童生徒の漢字学習の負担を減らすことができる。 (6) 両国を跨いで生活し,両国の習慣や文化を熟知している筆者にとって,実社会で起こっ ている現実を扱う新聞は教材として取り扱いやすい。 1.2 1 人 2 言語指導 これまでの母語話者支援者による年少者日本語教育に関する研究は,主に児童生徒の母語を 日本語能力の獲得のために利用したものである。それらの研究での母語使用は,「日本語の発 達を支え,母語の保持や育成にもつながる」という役割を持っていた。しかし,母語の育成と いう点に関してはいくつか疑問点が浮かび上がる。 (1)日本の教科内容を理解するために使われる母語が必ずしも児童にとって高度のレベルと は言えない。 (2)単語・句単位の文脈を伴わない,単なる翻訳語を与えるだけの母語使用は積極的な母語 の育成にはつながらない。 (3)日本語が上達し,母語による教科内容の理解や媒介語としての母語使用の必要がなくな った後の母語学習が必要である。 以上の疑問点を踏まえた上で,両国の新聞を使い,どちらかの言語における自然な文脈で, ふさわしい言語による指導を行っていくことにした。この場合,一般的に理想とされるのは, それぞれの母語話者支援者による支援である。しかし,もう一方の言語の協力者を見つけるこ とが困難な上に,長期的な連携体制を維持することが難しい。さらに,共通言語を持つことは,

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児童の学習・習得の状況がより正確に把握できる利点があるため,より効率的な指導のための 道筋につながることも考えられる。以上の理由により,筆者が両言語による指導にあたること にした。

2.先行研究

2.1 NIE 新聞教育の最も代表的な例としてNIE【Newspaper In Education】があげられる。NIEは, 「教育に新聞を」「教育における新聞活用」などと訳され,新聞を活用した教育活動を進めるこ とを意味する。김(キム)他(2008)は,NIEの効果として,総合的思考力及び学習能力の向上・ 創意性増進・問題解決力及び意思決定能力の育成などを挙げた上で,NIEは多方面にわたり教 育的効果を上げることができ,教育現場を改善するための対案の一つであるとしている。一方, 浅野は,教材の公正中立性の面で疑問な記事が見られる・教師に教材化する時間的ゆとりがな い・小学生の学習に適した内容の記事が少ないなど,新聞の教材としてのデメリットについて も述べている。  近年,日本と韓国の教育は,一方向的な講義式教育から生徒主導へと変換を図っている。教 育現場では,教科書中心の教育から脱却するために様々な試みが行われているが,その一つが NIEだといえる。이(イ)(2008)によれば,新聞は,社会現象を直ちに反映し,多 様 な 視 点 か ら の アプローチを可能にし,どこでも容易に手に取ることができる利点を持っているので,幅広 い思考力育成のために学校現場で活用されているという。 しかし,NIEは母語話者を対象とした学校での教育が前提となっており,その教育活動が外 国人児童生徒に対する日本語教育で継続的に行われた記録は見当たらない。 2.2 メディア教育 新聞は,テレビ,インターネットとともにメディアを代表するものである。情報が氾濫して いる今日は,そのようなメディアからの情報を有効に活用し,クリティカルに分析・評価・発 信できる能力が求められている。様々な教育現場でメディアを活用した教育が取り入れられて いる中,日本語教育においてもその重要性が高まっており,「メディア・リテラシー」を扱った 研究も数多く出されている。 門倉(2003)は,メディアが私たちの生きる世界の中にあまねく深く浸透してきているため, メディア表現の「読解」がことばの教育/学習の中で取り組まれなければならないほど重要に なってきていると述べたうえで,「ことばを教え/学ぶ意味が,この時代を生きる者として,他 者とコミュニケーションし,自己を表現していく力を養うことにあるとするならば,現代社会 に浸透しているメディア表現との〈つきあい方〉を習得することは,ことばを教え/学ぶ〈土 台〉として必要な事柄とも言える(p.38)」としている。これは年少者日本語教育においても言 えることであるが,研究は進んでいないのが現状である。このような状況の中,「メディア」を 取り入れた年少者日本語教育を試みたのが,別府(2009)である。別府は,「メディア・リテラ シー教育と言語教育の共通する箇所は,現実世界を意識すること,また解釈やコミュニケーシ

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ョンの多様性を認め増進していくことである(p.17)」と述べたうえで,メディア・リテラシー 教育を援用することによって,「視聴覚情報によることばの学び」「多様な自己表現」「コミュニ ケーションの活性化」の3つの「ことばの学び」が期待されるとしている。さらに,「ことばの 学び」と「メディア」を統合した実践を通して,これらの3つの「ことばの学び」のすべてに効 果があったと述べている。これは年少者日本語教育における「メディア・リテラシー教育」の 議論があまりなされていない現状で,「ことばの学び」と「メディア」の統合の可能性を示した 点で非常に意義あるものだと言えよう。 しかし,別府によるメディアの定義は「メッセージを人物間で伝達するための媒体」であり, あらゆるものがメディア教育のテキストとしてあり得ることになる。そして,実践では「しお り・ガイドブック・写真・招待状」を盛り込んだ一連の活動が行われているが,これらは,こ れまでの年少者日本語教育においてよく扱われているものであり,新たな試みとは言えない。 また,そのような視覚情報などを用いた活動が年齢相応の認知能力を生かした活動であるのか も疑問である。言語能力・認知能力ともに発達段階である外国人児童生徒の教育には,彼らの 「思考を支える,年齢に応じた知的内容」を盛り込んだ言語活動・言語教育が必要である。

3.研究および実践の概要

3.1 分析方法及び研究目的 韓国語を母語とする韓国人児童生徒4人に日韓両国の新聞を用いた学習指導を行い,2010年 12月から2011年8月までに行われた授業内容を録音し文字化したデータを本稿の主な分析デ ータとする。 本研究では,日本語と韓国語の両言語と認知能力がバランスよく育つことを目標に,両言語 による授業を行う。そのため,日本語だけではなく,韓国語で行われた授業も分析対象とする。 さらに,日本語・韓国語といった「個別言語」からの観点ではなく,児童生徒が現在必要とし ていて,実際に使用している「ことば」の観点から分析する。 本稿では,(1)「小学生新聞を中心としたメディア」を取り入れた2言語指導を通して,外国 人児童生徒にどのような「学び」が起きるのか(2)児童生徒の言語・認知能力の向上における 母語話者支援者による指導の有効性は何かの一端を明らかにする。 3.2 指導対象者 以下に指導対象児童生徒の簡単なプロフィールを示す。 (表 3.2 児童生徒のプロフィール) 対象者 A B C D 年齢(1)・性別 13歳・男 13歳・男 13歳・男 12歳・男 在籍学校 公立中学校 公立中学校 カナダ系国際学校 カナダ系国際学校 来日時期 2006年3月 2006年1月 2007年12月 2007年12月 居住型 長期滞在 中期滞在(6年) 中期滞在(5年) 中期滞在(5年) (1)指導開始時の年齢

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3.4 指導内容 授業は,概ね週1回,1回約2時間で行われ,隔週で日本語と韓国語を切り替える。生徒が利 用する新聞は,日本の小学生新聞に関しては紙媒体の新聞を用いるが,韓国の新聞に関しては 新聞社のウェブサイトを利用する。 授業の主な流れは以下の通りであるが,変更の場合もある。 (1) 漢字の確認:記事の中から漢字の問題を作成(前の授業で全員で話し合い決定) (2) 発表1(筆者も含む全員):各自がその週の記事のいくつか紹介し話し合う。 (3) 発表2(1名):発表主担当者が,その週読んだ記事で最も気になった記事を1つ選んで 発表する。必要であれば,本・インターネットなどで詳しい情報を調べ,その内容を発 表し,発表内容について全員で話し合う。 (4) 作文:話し合いの後,その日扱われた内容からテーマを一つ選び,自由に作文をする。

4.分析及び考察

分析の結果,本指導でも,別府(2009)の実践で述べられた3つの「ことばの学び」が見られ た。本稿では,指導期間中観察された「学び」と「母語話者支援者による2言語支援の有効性」 を中心に分析と考察を行う。 4.1 聞き手を意識・配慮した表現の学び AとBの指導開始から約1か月後にCとDが加わった。CとDは,国際学校に在籍しており, 公立学校に通っているA,Bとは日本語能力の面である程度の差がある。12月25日の授業の発 表主担当者は A であったが,それまでの発表ではあまり見られなかった表現が多く観察され た。それは,聞き手であるメンバーの日本語能力に配慮した言い方であった。以下の例2は,語 彙についての説明や韓国語の使用がみられた場面である。 (例 4.1 聞き手を意識・配慮した表現)  クニマスは70年前に絶滅されたと言われています。えーと,この世からなくなったと。それで, あのう,… 中略 …,魚に詳しい研究員に調べてみたところ,70年前に,あのう,絶滅し,遺 伝子,遺伝子,유전(遺伝),유전자(遺伝子)が,あのう,遺伝子が一致したということによって 大発見になっています。 例4.1から,Aが自身の知識や視点だけでことばを選ぶのではなく,聞き手の立場に立ってこ とばを選んでいることが分かる。Aは,「絶滅」を「この世からなくなった」と言い換えてもう 一度説明し,「遺伝子」は韓国語に訳し,繰り返し言っている。また,この他に数字などを板書 する様子も見られた。授業後,その理由を聞くと,C,Dがわからないかもしれないと思った から」と答えた。この日の授業の冒頭に,Bの裁判員制度についての簡単な説明があったが,C, Dにはその説明が理解できないようであった。そのため,筆者がBに韓国語による説明を求め たが,これがAの表現に影響を与えたと思われる。コミュニケーション場面では,このような 聞き手を意識・配慮した表現が非常に重要であり,これはAの「ことばの力」とも言える。尾 関(2007)は,「ことばの力」とは,単に文法や語彙などの言語にとどまらないとし,目指すべ

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き「ことばの力」は,自らがおかれた環境の中で,主体的に発言し,自己実現をしていく力と している。自らが主体的に環境に参加するためには,聞き手,読み手を意識・配慮した表現も 重要な力となるに違いない。メディアを用いたプレゼンテーションとディスカッションを重ね ることによって,その「ことばの力」となる学びが育成されると考えられる。 4.2 コミュニケーションの活性化 本指導における授業は,主に「プレゼンテーション・ディスカッション」によって行われる が,このような授業にまだ慣れていないためなのか,最初は生徒からの自発的な発話はあまり 見られなかった。そのため,「○○くんは,これについてどう思う」「今の発表について何か質 問はありませんか」などのように,支援者である筆者による生徒への発話の促しが多かった。 しかし,授業の回数を重ねるうちに,生徒自ら質問あるいは意見を述べることが多くなってき た。例4.2は,1月15日の授業での発話内容である。 (例 4.2 発話順) 【T:支援者である筆者,他のアルファベット:児童生徒,(  ):説明文】           (Aの発表後) D:眼鏡がないのに,どうして3Dに見えますか。 A:(眼鏡が必要ない理由を説明) D:あああ。 T:あ,そうなんだ。いい情報ありがとう。 A: ちょっと,ここで質問したいんですが,任天堂では,どうしてこの3Dゲーム機を作ることを 考えたんでしょうか。 D:分からない。 C:最近,DSの人気があまりないから。 A: 理由は,あのう,子どもたちが長い時間ゲームをすると目が悪くなります。 中略。目にい い,視力にいいゲーム機を作ろうと思ったからです。 中略 T:3Dは,どうして目にいいですか。 A:(目にいい理由を黒板に絵を描きながら説明)他に質問ありませんか。 D:なんか,最近,DS,あまり面白くない。 (その後,参加者全員によるDSとPSPの違いなどの話などが行われる) ※韓国語による授業であり,発話内容は筆者が日本語に翻訳したものである。和訳の文体は韓国語の 文体をできる限り忠実に反映したものである。また,Aは「発表」という形を意識した話し方をしてい る。 上記の発話例から,コミュニケーションが双方向的・多方向的に行われていることが分かる。 A→D→A→D→T→A→D→Cというふうに発話のターンが移っており,言語教育の教室活 動でよくみられるT→A,T→C,T→Dのようなパターンにはなっていない。本授業は,テキ ストに載っている内容に沿って話し合うものではないので,各参加者が発表する内容について 事前知識がない。さらに,その内容においても初めて接する情報が多いため,疑問点も多くな る。授業の回数を重ねていくうちに質問しやすい,意見を述べやすい環境が整い,このような 場面が出現したと思われる。本研究でも,別府(2009)の実践の結果と同じく,「メディアをき っかけとして,互いに理解を深めながらコミュニケーションがより深まっていく様子が見られ

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た」と言える。 また,このようなコミュニケーションの活性化のためには,支援者の役割も重要である。例 からも分かるように,支援者はディスカッションに参加する一人のメンバーであることを意識 しなければならない。 4.3 視覚情報によることばの学び 新聞の大きな特徴の一つは,文字だけではなく,絵,写真,グラフなどの視覚資料で情報を 伝えるという点である。8月23日のCの発表内容は,「英検(実用英語技能検定)を受験する小 学生が増え続けている」というものであった。一面のメイン記事であるこの記事には,「英検受 験者の推移」を見出しに,2つのグラフが載っていた。筆者は,Cの発表後,全員にグラフ(3) だけを渡して,発表内容を参考にしグラフを読み取ることを提案した。以下の例4.3は,児童 生徒がグラフからの情報を言語化していく場面である。 (例 4.3 視覚的情報の読み取り)  【数字:発話順,・・・・・・・・・・:沈黙】 A1:ううむ,ううむ,一般は減っている。 T2:何が減ってるの?一般って何? C3:一般人。 A4:ああああ,一般人で英検を受ける人が減っている。 T5:そう。それを上に書いてあるタイトルを使って言ってごらん。 A6:タイトル? C7:英検受験者数の推移。推移? T8:추이,流れ,ううむ,ええと,変化。英検受ける人がどう変わってきたかということ。 A9:ああ。ええと,一般,一般人の英検受験者数は減っています。 T10:そうそうそう。でも,どう減ってるの? A11:どうって? D12:ずっと,あ,あ,毎年。 T13:そうそう。毎年もいいけど,毎年をほかのことばで何んていう?    ・・・・・・・・・・ T14:おととし下がりました。去年下がりました。今年下がりました。うんうん,下がります。    ・・・・・・・・・・ T15:年々,下がります。(年々をノートに書いて見せる) A,D16:あああ。 T17:じゃあ,A,もう一度言ってごらん。 A18:一般人の英検受験者は年々減っています。 T19:OK,次。 D20:小学生の英検受験者数は年々増えています。へっへ(簡単に言ったことを喜ぶ)。 T21:じゃあ,そしたら,ええと,今の2つのグラフ,ううむ,2つの文をつなげてごらん。 A・C・Dは,学校でグラフや表などを学んだが,読み取ったものを言語化し,文章にした り,聞き手に分かりやすく伝えたりしたことはなかったと言っていた。Cの発表後ということ もあって,内容は理解しているが,読み取った情報を整理し,言語化することは難しいようで あった。発表者であるCさえも戸惑いを見せていた。しかし,いくつかの文を作ってからは,

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次々とグラフの情報を文にしていく様子が見られた。例4.3のやりとりは,グラフという視覚 情報と少ない文字情報から読み取った内容を言語化していく過程である。この過程を通して, 児童生徒に「ことばの学び」が起ったと言えるが,それは,D20の発話と喜びの表現でよくわ かる。 4.4 自律的学びと対話による知識の広がり 本研究での学びは,支援者主導によるものではない。児童生徒は,興味のある記事を自ら選 び自らの視点で発表をするが,その発表にあたって,新聞以外の情報源(主にインターネット での検索)から情報を収集していた。 2回目の授業までは,主に新聞の内容と,自分の既存知識だけを利用し発表をする傾向がみ られた。2回目の授業で扱われた記事は,裁判員裁判に関する内容だったが,そこには,裁判 員制度に関する具体的な言及はなかった。そこで,重要なキーワードと判断した筆者は,意図 的にAとBに裁判員制度の意味を尋ねた。Bからは分からないという答えが返ってきた。Aは, 自分の理解の範囲内で裁判員制度について話したが,明らかに逸脱した概念を述べた。そこで, 筆者は生徒らに分からない内容や疑問に感じていることがある場合は,インターネットや本, 辞書など,他のメディアを参考にすることを勧めたが,児童生徒は次の授業から早速実践して いた。その例として,以下にDの発表時の発話を示す。 (例 4.4 自律的学び) T:次は 橫 城。 A:え? T:今橫城でどういう問題が起きているのか知ってる? D:(手を挙げながら)僕,僕,ああ,ああ,牛,牛が。 T:そうだね。Dが橫城について説明してくれるって。じゃ,C。 C: 口蹄疫は,あのう,牛,豚,羊,ヤギ,鹿のように,蹄に,蹄が割れている動物に発生する病 気だが。 T:あ,ちょっとごめん。もう一度言ってくれる? C: 口蹄疫は,牛,豚,羊,ヤギ,鹿などのように蹄が割れている有蹄類動物に現れる病気で,体 温が急激に上昇し,舌,蹄,口などに水袋ができ,食欲が急激に低下する病気ですが,口蹄疫 が速いスピードで広がって,速く処理しないと全国に広がる可能性が高くなって,今回,23 日に,江 原 道 橫 城郡カコクリで,1つ,かかった牛を発見して,農家から500メートル内の 牛と豚を全部屠殺処分したんですけど。 ※ 韓国語による授業であり,発話内容は筆者が日本語に翻訳したものである。Cは,メモを見ながら 発話している。 Cは,発表の冒頭,インターネットで調べてきた口蹄疫の定義について語っている。口蹄疫 の拡散は,その週の重要ニュースであり,紙面の多くを占めているが,「口蹄疫」の定義につい ては書かれていなかった。新聞の特徴として,新たな情報は掲載されても,基本的な説明は事 柄が発生した時にしか行われない。そのため,毎日新聞を継続して読まなければ,断片的な情 報(知識)しか得ることができなくなることがある。Cが読んだ記事も同じで,「口蹄疫」の定

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義に関しては「読者が知っている」という前提の上で,新しい情報を中心に書かれていたので ある。そこで,Cはインターネットという手段を通して,必要な情報を得て問題を解決してい たのである。記事を読んで,課題を見つけ,それを自ら解決する。このような過程を通して新 たな知識が獲得されることになる。これは,他の児童生徒からも観察されたことである。「分か らないことについては調べてくるように」という筆者の指導はあったものの,例4.4ではCが 必要とする知識・情報を自らの力で得ていたことが分かる。ひいて,このように獲得した知識 の広がりは,当事者だけではなく,筆者を含む参加者全員の中でも行われることになる。新聞 に掲載される膨大な情報からそれぞれが選びとった情報を発表し合ったり,質疑応答したりす ることによって,自身の知識(情報)を聞き手に伝え,また送り手の知識(情報)を自身のもの にしながら,知識の範囲を広げていくのである。 鈴木(2004)は,学びの場を効果的に展開していくための不可欠な要素の一つとして対話に よる学習をあげ,「情報を共有することにより,互いの洞察力をさらに深め,新しい知識をつく りだしていく(p.28)」と述べている。本授業で行われるコミュニケーションのすべては,参加 者全員にとって「学びのリソース」となっている。この「学びのリソース」を通して,これから 「新しい知識」を作り出していくことが期待できる。このような自ら課題を見つけ,知識・情報 を共有し,学びの範囲を広げていく活動は,「自律的学び」であると言える。 4.5 母語話者支援者による 2 言語支援の有効性  本稿で提示した例のうち,例4.1と4.3は日本語で,例4.2,4.4は母語である韓国語による発 話である。両言語に分けて比較してみると,韓国語による発話の方が言語・認知面で明らかに 高度であることが分かる。来日した児童生徒は,とりあえず日本語ができることを目標に,や さしい内容で書かれている文型中心の教材で学習をし,日常会話ができるようになってから も,しばらくは自身の日本語能力に合う会話・テキストだけを求めることになる。しかし,そ の間に用いられるテキストや会話の内容は,彼らの年齢相応の認知能力を要するものではない 場合が多い。日本語習得を迫られる社会・学校文化の中で,母語学習は中断されがちであり, その故,認知発達段階である児童生徒の認知的成長も中断されてしまいかねない。また,これ は,日本語習得や日本語による認知活動にも大きく影響を及ぼすことになる。このような事態 を防ぐためにも,継続的な母語学習は必要不可欠である。本指導で行われる新聞を用いた指導 は,児童生徒の母語能力はもとより認知能力と社会性までも伸長させるのに有効であると考え る。また,このような指導のためには,筆者のような2言語話者である母語話者支援者の役割 が非常に重要ではないだろうか。

5.まとめ

以上,次の2点について分析と考察を行った。すなわち,年少者日本語教育に新聞を用いた 2言語指導を取り入れることで獲得できる「学び」と,「母語話者支援者の指導による有効性」 である。その結果,本指導が外国人児童生徒の言語能力はもとより,総合的な力の育成に有効 であると考える。様々な背景を持つ児童生徒に対し,一定のパターン化された指導を行うこと

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は,彼らの将来を見据えた指導にはならない。彼らに共通するものは何かを考えてみると,彼 らが外国人児童生徒である以前に,社会を生きる一成員であることがわかる。その社会の一成 員として生きていくための力を育成する指導が必要なのである。 井上他(2003)は,「生きる力と情報教育の関わりは,情報活用能力の育成を通じて子どもた ちが生涯を通して社会の様々な変化に主体的に対応できるための基礎・基本の習得をめざすこ とにあるとされている(p.206)」と述べた上で,「生きる力とは,社会の変化に主体的に対応で きる力であり,情報活用能力はその基盤となる能力である(p.206)」としている。新聞は情報 活用能力を育成するのに非常に有効なテキストであり,その新聞の内容を日本語と韓国語で語 り合い学習していく中で両言語の育成を目指すことができれば,年少者日本語教育の有効な指 導手段の一つとなるのではないだろうか。

おわりに

本研究では,指導の実践を通して起きる「学び」の実証を試みた。しかし,本稿で扱った指 導は,「新聞の内容理解・解釈」に留まっており,「メディアのクリティカルな分析・評価」ま でには至っていない。指導は継続中であり,現在,生徒らのクリティカルな分析・評価と,そ れに基づいた多様なコミュニケーション及びメディアの創造のための指導を試みており,実際 に新聞・広告作り,ゲストを招いたプレゼンテーションなどの活動も行っている。今後,この ような活動についての分析と考察も行っていきたい。

(1) 児童生徒と共通母語を持つ支援者 (2) 本研究における分析対象児童ではない。 (3) 筆者が発表しようとした内容でもあり,事前に用意してあった。

引用文献

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김기태외(2008)「NIE프로그램의 내용분석 및 효과검증」신문발전위원회. (キムギテ他(2008)「NIEプログラムの内容分析及び効果検証」新聞発展委員会). 이소정(2008)『사회과 신문 활용 교육(NIE)과 비판적 사고력 및 학습만족도에 관한 연구』 국민대학교육대학원 석사학위논문. (イソジョン(2008)『社会科新聞活用教育(NIE)と批判的思考力及び学習満足度に関する研究』 国民大学教育大学院 修士学位論文).

参考 URL

浅野盛夫「児童の表現力の育成を目指した学校づくりの挑戦―NIE活動(教育に新聞を活用した活動) の実践をとおして―」 (http://www.city.tome.miyagi.jp/hotnews/kyoiku/documents/jido.pdf)(2011/09/25アクセ ス)

参照

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