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継続的業務改革につなげる内部統制評価組織設計

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(1)

継続的業務改革につなげる

内部統制評価組織設計

CONTENTS

Ⅰ 文書化・可視化と同等以上に負荷のかかる評価

Ⅱ 評価体制の検討に当たって重要な点

Ⅲ 評価体制検討におけるヒント

Ⅳ 単なる評価から業務改善へ

Ⅴ 日本企業はいかに評価体制の設計を行うべきか

1

多くの企業は、金融商品取引法で求められる内部統制対応で、2007年度下期か ら、整備状況評価および一部運用状況評価に取り組もうとしている。

2

整備状況および運用状況の評価作業は、文書化・可視化と同じく作業負荷がか かるが、そのことはあまり理解されていない。

3

内部統制対応(米国企業改革法、いわゆるSOX法対応)で先行する米国企業 を見ると、内部統制評価作業を効率的に進めるためには、評価アウトソーシン グの活用や、IT(情報技術)ツールの活用などが参考となる。

4

さらに、毎年継続する内部統制対応を企業価値につなげるためには、継続的業 務改革をにらんだ内部統制評価組織の設計を行う必要がある。GE(ゼネラル・ エレクトリック)では、かねてから、GEバリューという内部統制的な価値観・ 行動規範を企業の仕組みにまで落とし込み、先行している。

5

内部統制評価組織設計をする際、同時にプロセス管理の仕組みづくりを行うこ とが重要である。

特集 リスクとチャンスをマネジメントするERM経営

要約

能勢幸嗣

(2)

Ⅰ 文書化・可視化と同等以上に

負荷のかかる評価

すべての上場企業が、金融商品取引法で求 められる財務報告にかかわる内部統制報告書 提出に向け、内部統制の文書化・可視化に取 り組んでいる。3月決算の企業は、2008年4 月から始まる会計年度が報告の初年度に当た る。そのため、多くの3月決算の企業が、こ の2007年度上期に文書化・可視化を終え、下 期には整備状況ならびに運用状況の評価に取 り組もうとしている。

多くの文献やセミナーを通じて、文書化・ 可視化に時間や人的な負荷がかかることは、 多くの企業に理解されている。しかし一方 で、その後に待ち構える評価が、どの程度大 変であるかについては、いまだに理解が浸透 していない感がある。

図1は、米国企業改革法(いわゆるSOX 法)対応を行った米国のある企業へのヒアリ ングを図示したものである。これを見るかぎ り、内部統制の有効性評価には、文書化と同

等の負荷が、本番年以降、継続してかかって いることがわかる。

2007年7月11日付の日本経済新聞朝刊によ ると、米国企業改革法対応が必要なSEC(米 国証券取引委員会)登録の日本企業の監査法 人への支払いは、2006年3月期と07年3月期 とを比較すると1年間で47%増加している。 金額に換算すると、平均して10億6000万円増 加している(SEC登録の日本企業10社平均)。

1 企業の企業改 対 の 業継

2003 Y0 100

300

150 200 250

100

0 50

2002 03 Y0

04 Y1

05 Y2

06 Y3

文書化 30 90 130 70 45

評価 0 10 130 150 150

ト 評価

2007

に 当 2008に 当 2009に 当 2010に 当 日本企業の

いう

ると

2 SEC 緪日本企業の監査

2007 3

44.9 21.8 94

UFJ 33.3 5.3 19

29.1 10.0 52

28.7 10.6 59

27.0 15.8 140

26.6 12.5 89

NTT 23.9 8.8 58

NEC 22.2 11.6 110

22.0 0.4 2

18.5 9.7 110

2006 3

2006 制に 3

企業

制に い

ての

SEC

に る

評価を

い て の

(3)

この増加は、前ページの図2に示すよう に、①監査法人が「経営者の内部統制評価を 監査するコスト」、②直接監査(ダイレクト レポーティング)に要するコスト──が主た るものであると考えられる。仮に①と②が同 額かかるとし、さらに監査法人の人件費が1 人当たり3000万円とすると、ダイレクトレポ ーティングに18人が必要であると推定され る。日本企業においては、企業側が内部統制 報告書をしっかりと作成する必要があり、そ の負荷が米国におけるダイレクトレポーティ ングと同じであると仮定すると、SEC登録企 業と同規模の日本企業では、平均18人が、内 部統制有効性評価およびその報告書作成にか かるものと推定される。

この作業にはいったいどのような知識・ス キルを持った人材が必要なのであろうか。ま た、その作業を合理化することはできないの だろうか。標準的な内部統制の評価業務をイ メージしながら検討したい。

Ⅱ 評価体制の検討に当たって

重要な点

1 業務プロセス統制の

評価にかかる時間

財務報告にかかわる内部統制について、実 施基準を参考に標準的な進め方を示してみる と、①上期中に全社レベル統制の評価を行 い、②全社レベル統制が良好であれば、対象 範囲(子会社・業務プロセス)の検討を行 い、③下期に対象範囲についての評価を行っ ていくことになる。

そのなかで、③の評価、特に業務プロセス のマニュアル統制(人手によって行われてい

る統制)の評価に多大な時間がかかる。ある SEC登録の日本企業によると、業務プロセス 統制の評価に、評価作業の80%以上の時間が 割かれているという話であった。

2 評価作業における調整・連絡の

負荷と証憑・証跡探索の負荷

財務報告にかかわる内部統制対応の詳細な 作業内容については、経営者にあまり理解さ れていないのが現状である。それでも文書化 の作業に関しては、文献やセミナーのおかげ で、経営者の理解が進みつつある。しかし、 評価作業については、通常の業務監査との違 いを理解していない経営者の方が多い。

業務プロセス統制の評価の詳細な作業内容 について分解を行うと、図3(左部分)のよ うな流れとなる。整備状況評価を除いた、

②〜⑥の作業の工数を実際に経験した、複数 のSEC登録企業にヒアリングを行った。

その結果、業務プロセス統制の運用評価

(②〜⑥)に要する負荷の80%以上が、③お よび⑤に集中していることがわかった。しか も、その作業時間の半分以上は、証憑・証跡 を収集しコピーすることに要している。つま り、業務プロセス統制の評価に要する時間の 40%は証憑・証跡探しなのである(図3右部 分)。加えて、この作業は下期に集中してお り、ここに1つ目の大きな課題がある。

もう1つの課題は、調整・連絡作業の負荷 である。図3の作業を見ると、②から③の作 業へ移るとき、同様に③から④、④から⑤、

⑤から⑥へと移るときに、事務局はテストを してもらう多くの人へ連絡し、テスト結果を 収集、進捗を確認するなどの調整・連絡作業 を行う必要がある。SEC登録の日本企業の場

(4)

合、100人以上の人員がテストを行ってお り、その調整・連絡作業は複雑かつ煩雑なも のであった。

企業の内部統制担当者が、いったん財務報 告にかかわる内部統制の評価体制について真 剣に検討開始すると、上記のような課題に直 面することとなる。このような課題につい て、日本企業はどう取り組むべきなのだろう か。内部統制対応で先行する米国企業の取り 組みに、その解決のヒントがいくつかある。

Ⅲ 評価体制検討におけるヒント

1 評価アウトソーシングの活用

下期に偏重するテスト作業のためだけに、 内部統制部署もしくは内部監査部署へ多くの 人員を異動させることは、業績好調で、営 業・生産現場により多くの人材を配置したい 企業にとって、現実的ではないと考える。内 部統制部署もしくは内部監査部署に異動させ ないとすると、現場の社員にセルフアセスメ ント(内部統制の運営者および運営部署が自 らの活動を主観的に評価すること)を行って もらうことが考えられる。セルフアセスメン

トといっても、自らの業務(ここでは統制作 業を意味する)をテストしないように、独立 性の観点に注意してテスト者およびテストす るキーコントロール(主要な統制活動)を選 択する必要がある。

ただし、セルフアセスメントの場合、○× をつけて理由を記述するのではなく、より煩 雑で細かい作業が必要である。セルフアセス メントを円滑に進めるためには、教育研修 や、そのセルフアセスメントを業務として認 識・評価するための業績評価等の見直しなど が必要であると考える。

こうしたなか、米国において、特に注目す べきは、経理・会計の専門家を派遣し、運用 テスト作業などを代行する内部統制評価支援

(アウトソーシング)サービスが急速に立ち 上がりつつあることである。大手の評価支援 サービス企業では、米国企業改革法を契機 に、この数年で数百億円規模の伸びを示して いる。

外部の専門家を活用して内部統制報告書を 作成することによって、従業員によるセルフ アセスメントよりも評価の独立性が高まり、 品質も高くなる。その結果、監査法人が内部 3 評価 業の内紆

評価・ 評価 ト計

評価

スト 業の

SEC

ト計 評価 評価・ 20

80

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統制報告書に依拠しやすくなり、監査法人の 直接的な監査作業も軽減し、結果として監査 コストを低く抑えることも可能となる。

さらに進んだ企業では、日常の統制をアウ トソーシングする企業もある。年に1度の内 部統制評価、もしくはそのテストのためにコ ストをかけて外部化するのならば、日常の統 制業務自体を外部化し、しかもその統制業務 の実行状況を、内部統制報告書作成のための テストに耐えうる形式で報告してもらおう、 というのである。

特に、各企業ともIT(情報技術)にかか わる内部統制面での評価を行える人材は少な く、IT部分の評価アウトソーシングのニー ズは高いものと考えられる。

加えて、システム開発を複数のITベンダ ーに依存していたり、M&A(企業合併・買 収)などで、ITインフラ自体がばらばらで ある企業の場合、IT全般統制を適切に管理 できずに困っていることが多い。そのような 場合、日ごろ業務を委託しているITベンダ ーとは独立した「IT関連統制アウトソーシ ング企業」を起用し、彼らに日常のIT全般 統制業務を委託することで、開発と運用の分 離 な ど が 実 現 で き る。 野 村 総 合 研 究 所

(NRI)においても、そうした問い合わせが 多く、すでにそのようなサービスを提供して いる顧客も存在する。

2 ITツールの活用による効率化

上述のような社内におけるセルフアセスメ ントや内部統制評価支援サービスの活用だけ でなく、ITツールの活用による評価の効率 化も進み始めている。

米国企業の業務プロセス評価、特に運用評

価に要する時間を分析すると、前ページの 図3のように、2割の事務局作業と8割のテ スト作業に分解できる。2割の事務局作業の ほとんどは、テスト担当者にテストを依頼 し、テスト結果を収集・評価し、経営に対し てレポートを作成する作業である。一方、8 割を占めるテスト作業の半分以上の時間は、 証憑・証跡など帳票を収集・ファイリングす ることに費やされている。

ITツールとしては、まず、この事務局の 調整・連絡作業を効率化するための内部統制 評価用ワークフローツールの導入が進んでい る。マイクロソフト・エクセルなどのような 表形式のリスクコントロール・マトリクスを データベースへ移行し、事務局ならびにテス ト担当者の業務の順番や、それぞれの作業を ワークフローツールに設定する。これによっ て、内部統制および内部監査部署は、各テス ト担当者への連絡の負荷やテスト結果を集約 する負荷が削減される。

また、進捗状況やテストで不備のあった項 目などをリアルタイムで把握できるため、集 計の手間も省けることとなる。テスト担当者 も、自らがどのような作業を行うべきである か、画面上に常に最新の状態で提示されるの で、作業忘れや作業もれ、さらにはテスト結 果調書作成、送付の手間も省けることとな る。このような評価支援ツールが、米国大企 業の20%以上で導入されているそうである。 一方、テスト作業における帳票のハンドリ ングを効率化するために、紙帳票やシステム のログなどの保管方法の見直しや統合も進ん できている。また、紙帳票をe文書化した り、システム承認画面などの画面コピーを保 存するフォレンジックツールなども導入され

(6)

つつある。ITのカテゴリーでいう、文書や 画像などのデジタルデータを一元的に収集、 登録、管理するコンテンツマネジメント関連 のツールの導入が進んでいる。

さらには、手作業による紙帳票の業務自体 を自動化・システム化することで、統制作業 を削減しようとしている企業もある。単に評 価作業を削減するだけでなく、システム化に よって、ログを解析し、異常な業務をリアル タイムで補足することも可能になっている。

Ⅳ 単なる評価から業務改善へ

1 評価効率化は企業価値向上には

直接結びつかない

多くの日本企業は、まだ、評価について具 体的な検討を始めていないために、前述の米 国の事例を見ても、実感がわかないかもしれ ない。実際、さまざまな日本企業の内部統制 担当者にヒアリングをしても、評価作業負荷 削減のために、セルフアセスメントの活用し か視野に入っていない企業が多いと感じる。 第Ⅲ章で述べたアイデアは、評価コストを 低減し、評価を効率的に行うために貢献する アイデアである。いかに評価コストを削減し ようとも、この評価コストが毎年かかること が、数年後、次の問題として生じてくる。内 部統制の評価に億単位のコストを投じても、 企業価値は向上しない。この点について、監 査法人に助言を求めても応えてはくれない。 企業が独力で検討する必要がある。

2 企業価値向上のため、評価と業務

改革を密接にリンクさせる必要性

企業価値向上への方策を検討するために、

今回の金融商品取引法で求められている財務 報告にかかわる内部統制が、企業経営のどこ に位置づけられるかを整理してみる(図4)。

財務報告にかかわる内部統制は、コンプラ イアンス(法令遵守)の一部にすぎない。ま た、コンプライアンスも全社リスクの一つに すぎない。その観点から見ると、現在、企業 はさまざまな法令やリスクマネジメントに対 して個別に対応しているが、それらの評価作 業を統合することで相当の評価コストを削減 することが一つの方法として考えられる。

また、評価結果は経営者に報告され、数多 くの課題のなかから経営者が改善を指示し、 実行していく。どの企業も、経営層にいかに して報告を上げるかに苦心しているが、その 評価結果を業務改善につなげていくことが十 分に検討できているとは言い難い。

4 バナンス リスクマネジメントと 紪

IR

ント     

評価・改善

評価・

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改善・改 の

 

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への IR

業務 への

法  

企業

(7)

それは第一に、経営者が現場から報告され るリスクを俯瞰し、そのなかから優先度の高 い課題を選定するような意思決定プロセスが とられていないことである。

第二に、評価から業務改革へとスムーズに 結びついていないことも挙げられる。評価と 改革・改善をスムーズに結びつけるために は、その接点となる人やタイミングの問題と ともに、改善を実施する人を動議づけるよう な仕組みが必要であると考える。

3 米国でも日ごろのモニタリング

強化へ移行

金融商品取引法の元祖ともいうべき米国企 業改革法施行から、米国は2007年で4年目に 入っており、さまざまな高度化・効率化の動 きが出てきている。

過去3年間、米国企業経営者および監査法 人は、両者とも、PCAOB(公開会社会計監 視委員会)が定めた監査基準第2号をよりど ころとして評価を行っていた。ただし、その 監査基準第2号は「監査法人用」の基準であ るため、今まで経営者は、業務執行とは距離 のある「第三者的・客観的すぎる監査」に終 始していたといわれている。

米国でも経営側および監査法人側に負荷が かかりすぎているという反省から監査基準第 2号の見直しが行われ、2007年春に新しい監 査基準第5号が承認された。この新しい監査 基準第5号によって、監査法人は経営者によ る内部統制評価に意見表明をする必要はなく なり、ダイレクトレポーティングと呼ばれる 監査法人による「内部統制についての直接的 監査」に注力すればよいことに変更された。 つまり、監査法人の負荷が軽減され、企業か

ら監査法人への支払い金額も減る可能性があ る。

また、同時期にSECも、経営者向けのガイ ドラインを発表している。これによって、経 営者は、今までのような「客観的すぎる監 査」から、日ごろの「On-Going Monitoring

(日常的な業務モニタリング)を重視した評 価」へと移行しようとしている。監査法人や 株主と異なり、経営者は常に業務・統制活動 に関する情報に接することが可能な立場にい る。ゆえに、その立場を活用したモニタリン グを強化すれば、重点的に評価すべき領域を 絞り込み、独立的な監査作業負荷の削減や、 虚偽記載、不正の発生を未然に防ぐことに注 力できる方向になる。

評価のために作業を行うのではなく、改 革・業務改善のために日常的に評価を行い、 結果として内部統制報告書作成にも日ごろの モニタリング結果を活用するという方向へ進 んでいくものと理解できる。

4 先進的なGEの事例

評価と業務改革を見事に融合させている企 業の事例としてGE(ゼネラル・エレクトリ ック)が挙げられる。GEの内部統制につい て、GEキャピタルリーシングの代表取締役 社長兼CEO(最高経営責任者)奥田高志氏 に話を聞いた。奥田氏の話のなかで、

①「GEバリュー」の確立

②市場との対話による期待の把握

③業務プロセス管理の仕組みをベースとし た内部統制評価

──の3点が、評価を業務改革と融合させ るポイントであると感じた。

以下に、GEキャピタルリーシングの内部

(8)

統制が有効に機能するための仕組みを、筆者 なりの解釈を交えて紹介したい。

(1) 「GEバリュー」の確立

①「GEバリュー」が仕組みまで浸透 奥田氏にまずうかがったのが、GEバリ ューという価値観・行動規範についてであ る。

GEでは、価値観・行動規範の最優先事 項として、インテグリティ(誠実さ)とい う考え方を全員が理解し行動している。

このインテグリティには、もとより「コ ンプライアンス」「財務会計報告」「業務プ ロセス管理」「文書・情報管理」など、コ ントローラーシップの概念が含まれてお り、これは現在でいう内部統制の考え方に 酷似する。そのためGEでは、SOX法の制 定以前から、「内部統制的な価値観・行動 規範」はコントローラーシップの一要素と して見なされ、すでに社内では徹底されて いたという。

コントローラーシップの概念を包含する GEのインテグリティは、このあとに紹介 す る ② 人 事 評 価、 ③The Spirit & The Letter(「スピリット&レター」)、④セッ ションDに、単に標語としてではなく、実 際の仕組みとしてGEの隅々にまで組み入 れられている。

②人事評価

単に業績を上げるだけでなく、GEバリ ューに従って行動し、そのうえで業績を達 成したかが問われている。前述のように、 GEバリューには、コンプライアンスや財 務報告にかかわる内部統制遵守が明確に謳 われているため、それに則り行動しなけれ

ば、いくら業績を上げても社内で評価され ないことになる。

また、企業向け金融事業部門では、ある 一定レベル以上の管理職は「Goal & Objec- tives(ゴール・アンド・オブジェクティ ブス)」と呼ばれる年間の目標設定におい ても、コンプライアンスに関連する項目を 1つ以上設定することが必須となっている。

③The Spirit & The Letter

GEの全従業員が遵守することを義務づ けられている行動規範を、写真や絵などを 多用して具体的に説明した冊子を作成し、 全社員、ならびにある一定レベル以上のパ ートナー企業にも配布している(図5)。

しかも、配布するだけでなく、社員につ いては全員に、それを読み理解した証拠と して、毎年署名させている。ただし、毎年 同じ冊子を読み、署名するだけでは、実際 は読まれないことが多い。そこで、毎年重 点テーマを設定し周知徹底を行うなど、社 員が真剣に取り組むための工夫を凝らして いる。

④セッションD

GEにおいても、通常の企業と同じよう

5 The Spirit and The Letter(「ス リ ト& ー」)

GE

ている の   

への

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1. 2. ント

a. b.

c. 3.

4.

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(9)

に、予算や業績について、年3回、グルー プを挙げた大がかりなすり合わせが行われ ている。それらの予算や業績管理に加え て、年に1回、コンプライアンスについ て、「セッションD」という仕組みが運営 されている(図6)。

そのセッションDは、CEOおよびその 部下である経営職によるコンプライアンス に関する課題の「棚卸し」がスタートとな る。その議論が、経営職から管理職へ、管 理職から従業員へと伝達される。さらに、 現場から提起された種々の質問・アイデア に対して、上位のマネジャーは、必ず回 答・対応していくことになっている。 ここで取り上げた①〜④の仕組みについて は、形だけを比較すると、日本企業のなかで も似たような取り組みをしている企業は存在 する。しかし、その多くは、経営職はあまり 関与せず、スタッフ部門が現場の中間管理職 へコンプライアンスに関する課題を伝達し、 検討を指示するだけに終わっている。もしく は、スタッフ部門が現場から意見を吸い上 げ、経営に報告するだけに終わっている。つ まり、経営職は掛け声だけは勇ましいが、経

営職自身が考え、自分の声で従業員に語りか けることはしていないのである。

GEが素晴らしいのは、仕組みではなく、 多忙な経営トップ自らが、このテーマについ て、真摯に、一定の時間を割くことからセッ ションがスタートしている点や、ボトムアッ プで吸い上げられた質問・アイデアを、経営 職や管理職が自ら判断している点にある。

(2) 市場との対話による期待の把握 業務レベルの統制評価の話の前に、ガバナ ンスについても触れておきたい。

GEの取締役会・委員会の規定などは、ニ ューヨーク証券取引委員会が定める規定より も厳格なものとなっている。そのこと自体は 特段驚くに値しない。驚くのはアナリスト・ 投資家向けミーティングの頻度である。

GEは、アナリスト・投資家向けミーティ ングを年間350回以上実施している。企業規 模が大きく事業が多角化しているので、回数 が多いのは当然であるが、営業日は毎日どこ かで投資家と直接対話していることになる。 決算が終わると綺麗なブローシャー(ダイレ クトメールのなかに入れる商品パンフレッ ト)をつくり、IR(投資家向け広報)ミー ティングを開く「形だけの企業」とは違うと 強く感じた。

投資家と毎日、対話しているということ は、日々話す内容に齟齬があってはいけない ので、財務情報の開示には必然的に厳密にな らざるをえない。また、日々話すことで、経 営者は投資家が何を求めているかを正確に吸 収することができるはずである。結果とし て、取るべき戦略や意思決定の判断基準も、 投資家が望む方向へと、良い意味で変化して

6 GEの 営メ とセ D

5 6 9 10

ンD

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12 11 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1

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業計

(10)

いくものと考えられる。

(3) 業務プロセス管理の仕組みをベースと した内部統制評価

①プロセス管理の徹底

GEには、そもそも企業のなかに、内部 統制とともにプロセス管理という考え方が しっかりと根づいている。もともとが製造 業であるためか、あらゆる工程を可視化、 もしくはあらゆる工程のアウトプットを定 義し、管理している。

日本企業の場合、製造プロセスの可視化 やアウトプットの定義は得意であっても、 一方で、ホワイトカラーの業務領域、なか でも今回、金融商品取引法で内部統制が求 められている領域では、それほど可視化が 進んでいなかったとも考えられる。

ところがGEにおいては、可視化もしく はアウトプットが定義されないということ は、管理職が部下の業務を管理できていな いと見なされる。ゆえに、米国企業改革法 が制定される以前から、GEは関連の業務 プロセスについては、ある程度可視化され

ていたという。

②プロセスオーナーを支援する  クオリティ部

クオリティ部とは、業務の可視化ならび に改革・改善を支援する専門部隊である。 彼らは、業務を可視化するフレームワーク やフォーマットなどの様式を作成すること で、プロセスオーナーの業務改革や業務フ ロー図、リスクコントロール・マトリクス のメンテナンスを支援している(図7)。

全従業員600人規模のGEキャピタルリー シングにおいても、クオリティ活動に5% 程度の社員がかかわっている。クオリティ 専任スタッフの体制も、企業の成熟度に応 じてその形態は変化している。現場に改善 の考え方が浸透してきた段階においては、 クオリティ部のスタッフが、各現場のプロ セスオーナーなどが推進するプロジェクト ベースで業務改革を支援している。

米国企業改革法対応では、クオリティ部 のメンバーと各部門のテスト担当者(自ら の業務をテストしないように選定されてい

7 GE リー ン のクオリ 部の

BB BB BB BB BB BB BB BB BB

MBB MBB MBB MBB MBB

BB IT MBB

GE

業務 IT

(11)

る)によってテストを行い、子会社単位の 業務プロセス統制の内部統制評価を行って いる。

上記の役割を日本企業に置き換えると、 クオリティ部は、グループ各子会社の経営 企画機能と監査機能を統合させたような組 織である。

③社内監査集団CAS

GEに は、 全 世 界 に 約500名 の「CAS

(Corporate Audit Staf)」と呼ばれる内部 監査チームが存在する。彼らは、GE本社 のCFO(最高財務責任者)の配下に位置 づけられ、トリプルAという財務格付を維 持するため、財務の視点から各事業を監査 し、それだけでなく、さらに改善点を各事 業のコントローラーと共に検討する。当初 は監査としての色合いが濃かったが、最近 は社内コンサルタントとしての色合いが強 まっているようである。

CASのメンバーは、各自が年3回の子 会社監査ならびにその協議により実地経験 を積んでいる。実地経験だけでなく、年間 24日間、幅広い領域にわたってスキル研修 を受講し、さらにその業績は年6回評価さ れている。いわば若手のエリート社内コン サルタント集団である。内部統制状況につ いても彼らが報告書をとりまとめ、CFO に報告している。

GEの場合、日本企業でいう経営企画部 という部署は存在しない。そのため、この 組織を日本企業に置き換えると、財務スキ ルに長けたグループ本社の経営企画機能と 監査機能が統合したような組織と考えると 理解しやすい。

日本企業のグループ本社の経営企画部門

と比較した場合、GEのCASの方が、各事 業の中身に積極的に関与していると考えら れる。GEキャピタルリーシングのコント ローラーの一人である久下宗彦氏も、

「CASが監査に来てくれると助かる」と述 べていた。日本企業の各子会社が監査部門 を迎えるときとは大きく異なる印象を持っ た。こうした関与の仕方は、多くの子会社 や事業を抱えるグループ本社経営企画部門 の理想的な姿の一つであると考えられる。 このように、GEには業務プロセス管理 という考え方がしっかり根づいており、そ のうえで内部統制評価という作業が、クオ リティ部やCASという、社内の優秀な人 材によって評価され、必要に応じて業務の 改革・改善方法が検討されている。

取り組みの目的を、「業務プロセス改 革」に置いて組織を設計するか、「内部統 制評価」に置いて組織を設計するかで、こ こまで組織のあり方が異なってきている。

Ⅴ 日本企業はいかに評価体制の

設計を行うべきか

1 金融商品取引法が求めるものを

再確認

GEの事例などから、日本企業は何を学ぶ べきなのであろうか。まず、その法律が、経 営者に何を求めているかを再確認することが 必要である。

金融商品取引法が制定され、財務報告にか かわる内部統制評価に向けて進めてはいるも のの、明確な基準がないため、日本企業は暗 中模索、もしくは米国企業改革法対応をまね ながらの取り組みをしているところである。

(12)

結果として、目先ばかりにとらわれ、本来法 律が企業経営に何を求めているのかを忘れて いるきらいもある。「文書化が終了したから 評価体制を検討する」ではなく、投資家・資 本市場が考えていることに応えるために将来 何をすべきかを志向すべきである。

これを機に、業務改革を目指して組織を検 討すべきだというつもりはない。すでにしっ かりとした継続的な業務改革の仕組みが存在 しているかもしれない。また、金融商品取引 法対応を機に、業務改革ではなく、他の取り 組みへと発展させることの方を考えるかもし れない。いずれにせよ、評価を行うことがゴ ールではなく、評価結果をどのように活用す るかについて、今一度、検討すべきである。

2 プロセス管理の徹底

仮に評価結果を業務改革へ発展させると決 めたなら、GEの事例などから、日本企業は 何を学ぶべきであろうか。1つ目は、業務プ ロセス管理の徹底であると考える。

日本企業では製造プロセスについて、現時 点でも、可視化やそれに基づいた管理が進ん でいる。その考え方を、今回の財務報告にか かわる内部統制を契機に、ホワイトカラーの 業務にもしっかりと浸透させることであると 考える。そのためには、以下の3つの点が重 要である。

(1)業務体系の統一

今まで多くの日本企業では、製造部門以外 の業務改革について、必要性を感じた部署が 主体となって臨機応変に変更を行ってきたよ うに感じられる。その結果として、会社のな かにはさまざまな業務フローが存在し、全社

的な業務の体系は整備されてこなかったので はないだろうか。

今回、特定の勘定科目に関連する部分では あるが、財務報告にかかわる内部統制整備 で、業務の体系が整備された。これをもとに 文書化・可視化の対象外であった業務プロセ スについても整備を続けていくことが重要だ と考える。

さらに、今後、業務改革や改善が起こった 場合においても、業務改革用に業務フローや マニュアルを別途に新しく作成するのではな く、できるかぎり、今回整備した業務プロセ ス体系をもとに、内容面を拡充していくこと を考えるべきである。

前述のGEでも、まずは業務プロセスを定 義すること、そのアウトプットを明確にする ことからスタートしている。

(2)プロセスオーナーの導入

2点目は、業務プロセスの設計・変更に責 任を持つプロセスオーナーを明確にすること である。加えて、理想的にはシステムの設 計・変更に責任を持つシステムオーナーを明 確にすることである。

多くの企業では、業務の運営に責任がある 人、つまりその業務上でミスをした場合に処 分を受ける人はそれなりに決まっている。し かし、その業務を改革・改善する責任を持つ 人については不明確である。いくら業務体系 を整理しても、今までのようにさまざまな人 が、ある意味で勝手に業務を変更していて は、整理した業務体系もすぐにばらばらにな ってしまう。

体系がばらばらになるだけならまだ救われ る。勝手に業務を変更すると、せっかく抑え

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られていた各種のリスク統制が効かなくな り、また、効率化優先で業務を変更してしま うと、大きなリスクが放置されたままになる 可能性も考えられる。

一方、システムは業務プロセスの一部であ り、手作業で行っていた業務を自動化したに すぎない。その意味では、業務プロセス同様 に、システムの改変などについても、誰かが 責任を持つべきだと考える。

米国企業改革法対応のリスクコントロー ル・マトリクスを見たときに、その帳票に

「プロセスオーナー」という、見慣れない言 葉が記載されていたのを思い出す方も多いの ではないだろうか。文書化・可視化の段階で はあまり気にも留めなかったその言葉が、評 価体制を検討するときに、非常に重たい意味 を持ってくる。

ある企業では、誰をプロセスオーナーにす るかの検討で1カ月以上を要している。その 企業では、企業内での業務変更のニーズの発 生について、実際にさまざまなパターンを想 定し、プロセスオーナーの役割や適任者の検 討を行っている。その結果として、プロセス にプロセスオーナーを、プロセスより一段階 細かなサブプロセスにはサブプロセスオーナ ーを設置するなどの工夫を凝らしていたりす る。ちなみに、GEにおいても業務プロセス は3つのレベルに分けられ、それぞれのレベ ルにプロセスオーナーが存在するという。

(3) 当面は経営に近いところで 監査と業務改善を一元管理

プロセスオーナーという仕組みを導入した としても、当面は期待どおりの機能を望むこ とは難しい。担当する業務プロセスにおける

虚偽記載リスクをいきなり検討しろといわれ ても、それは一朝一夕では不可能である。し ばらくは、内部統制に精通した現在の内部統 制プロジェクトメンバーや、内部監査部署が 支援する必要がある。また、プロセスオーナ ーを管理職レベル(ミドル)に置くと、今ま でと同じように経営職がその改革の判断を行 わず、現場任せになってしまう。

それらを補う意味でも、当面は、内部監 査・業務監査によって判明したすべての課題 を吸い上げ、経営の視点で優先順位づけを行 っていくことで、会社として取り組むべき改 善テーマを経営主導で推進していくことが必 要だと考える。

多くの日本企業は、内部統制の評価だから といって、独立的な監査にあまりにこだわ り、その枠からはみ出ないように守備範囲を 限定しすぎていると感じる。企業経営者とし ては内部統制報告書を提出するわけであるか ら、監査はその代理として独立的に行いつつ も、改善については積極的に考えるべきであ る。株主の代表でもあり、かつ執行の代表で もある──代表取締役社長とはそういう立場 であるはずであり、それをサポートする内部 統制チームも同じような考えに立ってよいと 考える。

ちなみに、業務プロセス管理の考え方が現 場に浸透したGEでさえ、5%の人材をクオ リティ部に配置し、プロセスオーナーを支援 している。

このことから、内部統制評価を企業価値向 上につなげようと考えるのであれば、GEで いうCASやクオリティ部のような機能を持 った組織を設計し、人を惜しまず、優秀な人 材を投入するべきであると考える。

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3 組織体制だけでなく、必要な要素

すべてを同じベクトル上に位置づ

ける

新しく設計した組織を、いかにして機能さ せるかが重要である。財務報告にかかわる内 部統制の評価体制検討を機に、業務プロセス 管理まで徹底したとしても、他の仕組みや経 営が関与しなければ、今までと何も変わらな いことになる。機能しない新しい業務サイク ルが産み落とされるだけである。組織や業務 サイクルを設計しても、継続的に機能しなか った例は身の回りにもいくつもある。

以前、BPR(ビジネスプロセス・リエンジ ニアリング)という考え方がはやったのを覚 えておられるだろうか。そのねらいは、顧客 志向のもと、抜本的な業務の改善であった。 多くの人はそのねらいや目的について理解し ていた。しかし、実際は、失敗事例が多かっ たのも事実である。また、一時的な業務の見 直し、システムの再導入に終わり、その考え 方が根づいていなかったのも事実である。

BPRを提唱した元MIT(マサチューセッ ツ工科大学)教授のマイケル・ハマー氏は、 ビジネスプロセスの継続的改善が高業績維持 のための考え方であるとして、「PEMM(Proc- ess and Enterprise Maturity Model:ビジネ スプロセスと企業の成熟度モデル)」という 考え方を提唱している。そのなかでは、単に 業務を設計するだけでなく、「業務を運用す る人」「プロセスオーナー」「業績評価基準」 などを、併せて検討すべきであるとしている。 GEで は、GEバ リ ュ ー を 人 事 評 価、The Spirit & The Letter、セッションDなど、さ まざまな仕組みに落とし込み、それらを経営 職が率先して真摯に実行していた。日本企業

においても、業務体系を統一したり、新たな 組織をつくるだけでなく、業績管理、人事制 度、さらには経営者がいかに関与していくか について検討を行うべきである。

そもそも、金融商品取引法や米国企業改革 法が制定されたのは、トップの不祥事やトッ プのガバナンス(企業統治)に対する考えの 甘さから生じた事件がきっかけとなってい る。にもかかわらず、経営が今回の活動に積 極的に関与せず、単に内部統制報告書を作成 する業務や組織だけを構築していては本末転 倒である。これを機に、ガバナンスとリスク マネジメントのサイクルがつながり、その要 として経営が機能することが、内部統制評価 体制の検討において最も望まれるポイントで あると確信している。

金融商品取引法に最低限対応するという狭 い視点で評価体制を検討すると、その対応コ ストを説明できず、いずれ行き詰まる。

内部統制、コンプライアンス、リスクマネ ジメントというテーマでの企業内の既存の取 り組みを棚卸し、今までの垢を落とし、先行 事例などを参考に新しい全社リスク管理評価 体制について検討を行う絶好のタイミングが 到来している。その取り組みがなければ、経 営者は、今回の内部統制対応コストを企業価 値につなげることはできないし、株主への真 の説明責任を果たしたとはいえないのではな いだろうか。

著 者

能勢幸嗣(のせこうじ)

ERMプロジェクト室上級コンサルタント

専門はリスクマネジメント、チェンジマネジメント

(戦略立案、経営管理システム設計、実行支援)、企 業再生

参照

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