菅 史彦
内閣府 経済社会総合研究所
競争市場において、生産者は価格受容者(プライステイカー) と仮定されていた。
これは無数に企業が存在し、市場の相場から大きく逸脱した 価格設定はできないという仮定に読みかえられる。
現実には、それほどたくさんの企業が生産しているわけでは ない市場もたくさん存在している。
そこで、まずは企業が一社しか存在しないケース(=独占) を考えた。
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独占市場では、企業が生産量を決めたら、その生産量が売り 切れる最高の価格を設定すると仮定できる。
一方、利潤最大化の条件は相変わらず、MR =MCで与えら れる。
ただし、MRはp(y)yをyについて微分したもの。
MR =MCの条件で生産量が決まり、その生産量を売り切れ る最高の価格を需要曲線を使って見つける。
図で見ると…
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図で見ると…
図で見ると…
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図で見ると…
図で見ると…
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図で見ると…
競争的な市場よりも供給量は少なく、 消費者が直面する価格は高くなっている。 そのため、
競争的な市場よりも高い価格を払わされている人
競争市場では買えていたのに、独占市場では高くて欲しい物が 買えない人
が存在している。
さらに、死荷重が生じ、経済全体の厚生が損なわれる。 なので、原則独占は禁止されるべきとされており、自然独 占が生じるケースには、政府が介入して価格規制を行うこと が正当化されうる。
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現実は、ほとんどの場合、独占市場と競争市場の間にある。 たとえば、車のメーカーは複数存在するが、プライステイ カーと仮定できるほどとも思えない。
例えば、トヨタのメーカーの意思決定はホンダの意思決定に 依存して決まる。
このような状況を戦略的状況と呼ぶ。
戦略的状況を分析するためには、ゲーム理論が必要となる。
ゲーム理論は以下のような分野でよく使われる: 不完全競争(寡占)の分析(産業組織論) 企業内部の活動の分析(組織と契約の経済学) 政府や公共部門の分析(政治経済学)
情報の非対称性の分析 制度設計の分析
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ゲームを以下のように定義する:
✓ ゲーム ✏
1 プレイヤーi = 1, . . . ,N
2 プレイヤーiの戦略a
iとaiの集合Ai
3 プレイヤーiの利得g
i(a1,a2, . . . ,aN)
✒ ✑
プレイヤーiの利得が、i以外のプレイヤーの戦略にも依存してい る=戦略的状況であることに注意!
いまa∗ =(a1∗,a2∗, . . . ,aN∗) をある戦略の組とする。
このとき、プレイヤーiだけが戦略をai∗からaiに変えた状態 を(a−∗i,ai) と書くこととする。
この記号を使って、ナッシュ均衡は次のように定義される: ナッシュ均衡
✓ ✏
戦略の組a∗が、全てのプレイヤーiと全ての戦略aiにつ いて、
gi(a∗) ≥gi(a−∗i,ai) を満たすとき、a∗をナッシュ均衡という。
✒ ✑
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二人の容疑者がそれぞれ別の部屋で尋問を受けている。 二人が犯罪に関わったことはわかっているが、証拠が不十分 である。
二人の容疑者の戦略は、黙秘するか自白するか。
二人とも黙秘すれば、証拠不十分なため、二人とも禁錮1ヶ 月で済む。
二人とも自白すれば、犯罪が立証されて、二人とも禁錮3ヶ 月になる。
片方が自白して片方が黙秘すれば、自白した方は無罪放免、 黙秘した方は禁錮5ヶ月
これを利得表にすると、以下のようになる:
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どちらの囚人にもそこから逸脱する誘因がない所がナッシュ均衡。
どちらの囚人にもそこから逸脱する誘因がない所がナッシュ均衡。
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どちらの囚人にもそこから逸脱する誘因がない所がナッシュ均衡。
どちらの囚人にもそこから逸脱する誘因がない所がナッシュ均衡。
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どちらの囚人にもそこから逸脱する誘因がない所がナッシュ均衡。
どちらの囚人にもそこから逸脱する誘因がない所がナッシュ均衡。
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どちらの囚人にもそこから逸脱する誘因がない所がナッシュ均衡。
どちらの囚人にもそこから逸脱する誘因がない所がナッシュ均衡。
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どちらの囚人にもそこから逸脱する誘因がない所がナッシュ均衡。
どちらの囚人にもそこから逸脱する誘因がない所がナッシュ均衡。
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どちらの囚人にもそこから逸脱する誘因がない所がナッシュ均衡。
どちらの囚人にもそこから逸脱する誘因がない所がナッシュ均衡。
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どちらの囚人にもそこから逸脱する誘因がない所がナッシュ均衡。
どちらの囚人にもそこから逸脱する誘因がない所がナッシュ均衡。
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どちらの囚人にもそこから逸脱する誘因がない所がナッシュ均衡。
どちらの囚人にもそこから逸脱する誘因がない所がナッシュ均衡。
菅 史彦 (ESRI) 経済学基礎 12 / 39
どちらの囚人にもそこから逸脱する誘因がない所がナッシュ 均衡。
もしくは、
相手の戦略に対する最適な戦略を 全てのプレイヤーがとっている
という状況のことをナッシュ均衡と呼ぶ。
ナッシュ均衡は混合戦略まで含めれば必ず存在することを示 したのがナッシュ。
ちなみにこの例では、相手がどちらを選ぼうと、自白のほう がいい、すなわち「自白」が支配戦略になっているため、囚 人たちが合理的に行動すれば必然的にナッシュ均衡に至る。
多くの先進国では、競争を制限して価格を釣り上げる行為
(談合・カルテルなど)は違法になっている。
談合・カルテルをすれば罰金が課せられるが、企業には自白 するインセンティブがないので、なかなか摘発できない。 どうすれば談合やカルテルを摘発することができるか? 先に自首した企業だけ、課徴金を減免する制度(リニエン シー制度)が導入された。
公正取引委員会の調査前に自白すれば、 最初に自白した企業への課徴金は免除 次に自白した企業への課徴金は50%免除 3番めに自白した企業への課徴金は30%免除
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2社のケースで、課徴金をx、自然にバレる確率をpとおくと、
2社のケースで、課徴金をx、自然にバレる確率をpとおくと、
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囚人のジレンマは、相手の行動が予測できないために、二人 にとって望ましい結果が実現できない状況を表している。 実際には、全てのプレイヤーに支配戦略があって、結果が自 明なケースは稀である。
しかし制度・政策の設計に活かすことができることはあるか もしれない。
企業同士を、囚人のジレンマ的な状況に置くことで、談合を 摘発しようというのがリニエンシー制度のアイデア。
ただ、囚人のジレンマのように、全てのプレイヤーに支配戦 略があって、予測可能な結果が一意に決まるケースは稀。
二人の学生が、共同作業をするために Mac か Windows のど ちらかのパソコンを買おうとしている。
共同作業をするためには、合わせたほうが便利。
合わせるのであれば、今やろうとしている作業については Macのほうが少し便利。
と仮定する。
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このとき、利得表は以下で与えられるとする:
このとき、利得表は以下で与えられるとする:
菅 史彦 (ESRI) 経済学基礎 18 / 39
二人とも Mac がお互いにとって一番いいが、
何らかの理由でどちらかが先に Windows を買ってしまった ら、もう片方も Windows を買うほうがいい。
ベータ V.S. VHS のシェア争いや、ブルーレイ V.S. HD DVD の争いに置き換えることができる。
この例からわかることは、
ナッシュ均衡は1つとは限らない。
片方がもう片方より、全てのプレイヤーにとって望ましいとい うこともあり得る。
一度悪い方の均衡にハマってしまうと、一人の努力ではどうし ようもないことがある。
選択肢が連続変数なケースとして、立地選択のゲームを考える。 学園祭で、焼きそばの屋台を出す2つのサークルが、銀杏並木の どこに出店するかを同時に決定する。
客はより近い方の屋台に行くと仮定。
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この時、各屋台の間にスペースがあると、より相手に近いところ を選ぶインセンティブがある。
なのでナッシュ均衡ではない。
これはどうか。
これも、逸脱するインセンティブがある。
菅 史彦 (ESRI) 経済学基礎 22 / 39
結局、両方が真ん中に寄るのが Nash 均衡
この例からわかることは、
選択肢が連続変数であっても、ナッシュ均衡を考えることは できる。
客にとっては適度に間隔があったほうが望ましいのに、お店 同士が客を奪い合う結果、真ん中に集中してしまう。
立地選択を政党のマニフェスト、客を投票者に置き換えれば、 政治学の中位投票者の定理が説明される。
A市から B 市に行く車が 150 台あり、3つのルートから道を選ぶ:
菅 史彦 (ESRI) 経済学基礎 24 / 39
ルートが短いほど早くつくが、混雑していると到着時間は遅 くなるとし、以下の関係式が成立していると仮定する:
所要時間 = ルートの長さ + 通行する車の台数/ 10 すなわち、早く着こうとして一番短いルートを皆が使うと、 混んで余計に時間がかかるようになっている。
このとき、以下のような状態はナッシュ均衡になっている: ルート1の交通量は50台
ルート2の交通量は100台 ルート3は誰も使わない
所要時間と距離・交通量の関係は、実際のデータから推計する:
出典:神取道宏『ミクロ経済学の力』
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コンピュータを使ってナッシュ均衡を計算:
出典:神取道宏『ミクロ経済学の力』
ナッシュ均衡による予測は、現実のばらつきの約 85 %を説明:
出典:神取道宏『ミクロ経済学の力』
菅 史彦 (ESRI) 経済学基礎 28 / 39
ナッシュ均衡ならば必ず実現するとは決して限らないが、実現し ている状態がナッシュ均衡になっている事例は結構多い。その理 由として、
1 合理的推論の結果、ナッシュ均衡に行き着く。
2 試行錯誤の末、ナッシュ均衡に行き着く。
3 話し合いの結果、ナッシュ均衡に行き着く。 が考えられる。
これは囚人のジレンマを考えればわかりやすい。
しかし相手の行動が予測できるケースに限られてしまう。 例えば技術の選択のようなケースだと、相手の行動が予測で きない限り、ナッシュ均衡には至らない。
すなわち、現実にナッシュ均衡の実現に必要な条件は、
1 合理性
2 相手の出方に関する正しい予想 の2つ。
菅 史彦 (ESRI) 経済学基礎 30 / 39
現実には、人間はそこまで合理的でないし、相手の出方が予 想できることも稀である。
しかし、同じ状況に繰り返し直面していれば、いずれ相手の 出方も読めてきて、自分にとって何が得かもわかってくる。 一度ハマってしまえば、そこから逸脱するインセンティブは ない。
交通量の予測の例のように、車のルート選択がナッシュ均衡 に近い状態になっていることは、これで説明できる。
あるいは、地域によってエスカレーターで右側に立つ/左側 に立つがパターン化しているのも、これで説明できる。
事前に話し合っておけば、ナッシュ均衡は実現可能。
これは、ナッシュ均衡が誰もそこから逸脱するインセンティ ブがない均衡だからこそ実現できる。
すなわち、誰か一人でも裏切ることができるような均衡は ナッシュ均衡ではない。
すなわち、ナッシュ均衡は口約束だけで実現できる行動と見 なせる。
逆に、誰か一人でも裏切ることによって利益が得られて、罰 則もないような状態は、ナッシュ均衡ではないので長続きし ない。
菅 史彦 (ESRI) 経済学基礎 32 / 39
市場メカニズムがうまく機能しないケースの分析に使われる。 ナッシュ均衡は、必然的に実現する均衡というわけでもなけ れば、結果の予測に使えるとも限らない。
しかし、社会に定着した行動パターンや頻繁に見られる慣習 について、それがなぜ安定的な均衡として実現するのかを説 明することができる。
それを知ることで、社会的に望ましい状態が実現されるよう、 人々に正しいインセンティブを与えるような制度・政策をデ ザインすることができるかもしれない。
それまで「市場を通じた自由競争の促進」一辺倒だった経済 学の関心を「適切なインセンティブを与える制度設計」にシ フトさせた。
企業が2社のみのケース。
市場の需要曲線はp = φ(yd)で与えられているとする。 どちらの企業も同じ技術を持ち、企業iの費用関数はC(yi)で 与えられる。
2つの企業が、お互いの出方を見つつも独立に意思決定を行 い、同時のタイミングで生産量を決定するとき、均衡の生産 量と価格はどうなるか。
菅 史彦 (ESRI) 経済学基礎 34 / 39
企業1と企業2の利潤は以下で与えられる: π1(y1) = φ(y1+y2)y1−C(y1) π2(y2) = φ(y1+y2)y2−C(y2) 一階の条件は
φ′(y1+y2)y1+ φ(y1+y2) −C′(y1) = 0 φ′(y1+y2)y2+ φ(y1+y2) −C′(y2) = 0 となり、これを解けば解が得られる。
こうして得られた均衡をクールノー・ナッシュ均衡と呼ぶ。
市場の需要曲線がp =a−byd、企業iの費用関数がC =cyi2
(cは共通で定数)で与えられるとする。 このとき、企業iの利潤は以下で与えられる:
πi = (a−b(y1+y2))yi−cyi2 一階の条件は以下で与えられる:
a−2byi−byj−2cyi = 0
これをyiについて解けば、以下のような最適反応関数を得る: yi = a−byj
2(b +c)
菅 史彦 (ESRI) 経済学基礎 36 / 39
これを図に書くと…
これを図に書くと…
菅 史彦 (ESRI) 経済学基礎 37 / 39
これを図に書くと…
クールノー・ナッシュ均衡における生産量は、 y1∗ =y2∗ = a
3b+ 2c
p∗= a(b+ 2c) 3b+ 2c
ちなみに、独占市場における生産量は以下で与えられる。 y˜ = a
2b+ 2c
さらにちなみに、競争市場における生産量は以下の通り: y¯ = a
b
菅 史彦 (ESRI) 経済学基礎 38 / 39
すなわち、市場に供給される財の生産量は、 独占市場 < 寡占市場 < 競争市場 であり、
価格は、
独占市場 > 寡占市場 > 競争市場 となっている。
すなわち、市場がより独占的になるほど、消費者はほしいも のにより多くのお金を払わされ、その財を買うことを諦める 人も増えるということ。