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加藤涼氏によるDynare入門 Link Masataka Eguchi's Website

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(1)

2008 年 12 月

線形 SG 使い方

1

未定稿

現代マク 経済学講義 補足章、Dynare による運用例

. めに

テキスト本文では、モデルを解く手順のうち、対数線形化以降の数式展開や数 値計算は、MATLAB に任せることを前提に、主にミクロ的基礎付け部分を重視 した書きぶりとした。筆者がドラフトしたシンボリック・マス・ツールを活用し たコードを用いることで、読者は経済学的には意味のない線形対数変換を特段意 識することなくモデルを解くことができる。テキスト本文の解説や数式展開は、 モデルの経済学的な意味づけや解釈を、対数線形化のような機械的な計算過程の 中で見失うことなく、目で追いながら確認することを優先しているため、議論の 大きな流れを捉えたい読者に適している。一方、時間をかけても一本一本数式を なぞりたい研究者志望の読者には、対数線形化の計算も含めた、さらに数式展開 を重視したマニュアル形式の解説が好ましいかもしれない。実際、DSGE モデル を自分で構築したり、運用したい読者には、対数線形化の計算作業も、手計算で 行ってみることが有益である。そうした手計算作業に対する慣れは、モデルを扱 う「技術者(エンジニア)」としてのスキル形成に不可欠である上に、一見、経 済学的に意味がない計算プロセスにも、エコノミストとしての直感を生むヒント が隠されている場合もある。

そこで、この補論では、実際にモデルを使いたい読者向けに、標準的なモデル の扱いについて、よりステップバイステップで解説を行う。この際、特にモデル の対数線形化も紙面上で行い、シンボリック・マス・ツールを持っていない読者 にも配慮する。さらに、読者自身による将来の弾力的な利用を促進するため、筆 者が独自にドラフトしたコードではなく、MATLAB 上で利用可能な無料汎用パ ッケージソフト『Dynare』を用いた運用例を紹介する2Dynare は、筆者による

「1ページコード」とは異なり、大型アルゴリズムを包括する汎用型パッケージ である。コードの大部分がブラックボックスであり、モデルの解がどのように求 められているのか、通常、ユーザーには分からない。この点、コンピュテーショ ナルな面に興味がある読者にはマイナスではあるが、その汎用性の高さから、は るかに弾力的な運用が可能であるため、モデルの利用を第一の目的とする読者―

―たとえば実務家――には、より適しているといえる。次節から4節まで、基本 RBCモデルから始まり、ステップバイステップで線形システムを拡張し、資本

1 未定稿。コメントは、[email protected]まで。

2 Dynare 自体は、非線形モデルもとり扱うことができるため、Dynare を用いる限りは、線形モデ ルに拘る必要はない。しかし、Dynare の非線形モデルの解法アルゴリズムは、ブラックボックス の性質が強く、検算が困難であることから、筆者は個人的にはこれを用いることは推奨しない。 Dynare を用いる場合、手計算で対数線形化を行い、Dynare のコード内で、線形モデルであるこ とを宣言するコマンド「linear」を用いるのがよい。

(2)

ストック、資産価格を含む拡張型New ISLM モデル(Q-ISLM モデル)まで、モ デルの全容を俯瞰する。ミクロ的基礎付けの詳細や経済学的な解釈より、メカニ カルな線形展開に焦点を絞っているため、テキスト本文を読了済みの読者は、ご く短時間で、いわゆる中型マクロ計量モデル並みの汎用性を備えた線形DSGE モデルの扱いを習得できる。第5節では、Dynare の使用例をマニュアル形式で 紹介する。

.線形基本RBC と線形Q

テキスト第2章で解説したように、基本RBCモデルは、消費、労働時間、資 本の3つの内生変数に、外生ショックとしての技術ショックを加えた4変数シス テムである。まず、基本RBCモデルを簡単におさらいしよう。ここで唯一気を つける点は、労働市場の均衡条件を用いて労働時間をあらかじめ消去し、見た目 上はラムゼイモデル同様の労働時間が現れないシステムとして記述することのみ である。なお、以下、大文字は各変数の水準を表し、各変数の小文字は、均衡か らの乖離、すなわち元の変数の対数表示となっている。

まず、家計の時点tでの効用を、

( )

λ θ

λ θ

− +

= −

+

1 , 1

1 1

t t

t t

vH H C

C U

とすると、労働供給(H)に関する最適化条件は次式のとおりであるから、企業 サイドの限界原理条件と連立させて、賃金(W)を消去することができる。

λ θ

t t

t vC H

W =

( ) ( )

t t t

t t

t H

Y H

Z K

W α α

α

 =

 

− 

= 1 1

(

α

)

tθ tλ

t

t vC H

H Y =

− 1

この時点で対数線形化を行う。なお、σ=1/θである。

( )

t t

t h c

y λ σ

1+ + 1

=

同じく対数線形表示したコブダグラス型生産関数と連立させることで、労働時間 を消去し、生産量(GDP)を消費(C)と資本(K)の線形関数として書き換 えることができる。

( )

t

( )( ) (

t t

)

t c z k

y

α

λ

α

α

λ

σ

λ

α

α

+

+

− + +

= −

1 1 1

(3)

次にマクロの財市場の均衡を対数線形表示することを考える。閉鎖経済における マクロ的な財市場の均衡は、通常、水準表示で、

t t t

t C I G

Y = + +

であるから、これを均衡近傍で対数表示する。均衡近傍で消費が1パーセント変 化した場合、GDP総額も均衡消費総額の1パーセント分変化するから、これを GDPの変化率に対応させるためには、均衡のGDP総額で変化分を除してやれ ばよい。つまり、

t t

t

t g

Y i G Y c I Y

y C *

*

*

*

*

*

+ +

=

となる。なお、各変数の均衡水準値は、*をつけて表している。要するに、足し 算の式を均衡近傍で対数近似する場合、このように均衡におけるシェアでウェイ トすれば掛け算の式に変換したことになる。

以上の準備が済んだところで、基本RBCモデルを以下のようにまとめてあら わす。外生変数は、政府支出(G)と技術ショック(Z)の2つ、内生変数は、 消費(C)、設備投資(I)、GDP(Y)、資本ストック(K)の4つである。 基本RBCモデルでは、設備投資は生産から消費を引いた事実上の残差に過ぎな いが、本稿後段の目的のために、設備投資を独立した内生変数として財市場の均 衡条件を用いて表しておく。

( ) ( )( ) ( )

( )

t t t

t g t c i t

t

t t t

t

k y r r

g c y i

i

k z c

y y

=

=

+ +

− + +

= −

: : 1

1 1 : 1

ω ω ω

λ α α α

λ σ

λ α

α

これら3式を、メインのダイナミクスを生み出す下記の2式に代入する。

( )

t t

t

t t t

i k k

k

c r c c

δ δ σ

+

= +

=

+

+ +

1 :

:

1

1 1

消費は実質金利(r)に依存する基本的なオイラー方程式で決定している。さら に、外生変数のプロセスをAR(1)と仮定し、モデルが閉じる。

1 1 1

1 1

: :

+

+

+

+

=

+

=

t t t

t t g t

z z z

g g

g

η φ

ε φ

次に、この基本RBCモデルに投資の調整コストを追加的に導入し

3

、一般均 衡版のトービンのQモデルを構築する。この拡張は、モデルの見た目上は、ごく

3 テキスト本文風にいえば、ピザの具をひとつトッピングすることになる。

(4)

単純な修正に過ぎない。経済学的な解釈に若干触れると、投資に調整コストがあ る場合、企業の利潤最大化は、単に限界生産性を金利に一致させるのではなく、 動学的最適化を行わなければならない。これは、今日、投資を行うと将来にわた って生産力を上げることができる一方、一時的に多くの投資を行うと調整コスト が嵩むため、コストとベネフィットを異時点間でバランスさせる必要が生まれる ためである。以下では、主にモデルの数式展開に着目する。投資・資本ストック 比率に関する2次形式の調整コスト関数を仮定する場合、企業の利潤関数を簡単 に記すと以下のとおりとなる。まず、ある1 時点の企業利潤は、

t t t t t

t t t

t WH

K I I

H K

Z





=

Φ

2 1

2

α µ

α

となる。この企業は将来にわたって利潤を最大化することから、動学的ラグラン ジアンは下記のとおりに書くことができる。

( )

{ }

[ ]

∑∏

= =  Φ + + +

= Λ

0 0

1 1

1

t t

s

s s s s

s s

t Q K I K

R δ

この最適化条件は、

( )

( )

t t t

t t t

t

t t t

t t t

Q R K Q

I K

K Y

K I Q

I

H W H Y

1 1 2

1

1 1

: 2 1 :

1 :

+ + +

+ + =



 + +

=

=

µ δ α

µ α

の3式となる。労働時間に関する条件は、基本RBCの場合と変化はない。家計 サイドの行動も変わらないため、以下、労働市場まわりの議論は特に意識する必 要はない。資本と設備投資のみに注目しよう。2番目と3番目の最適化条件を対 数線形化する際、3本目の式の第2項は、均衡近傍ではごく小さい値になるため 無視してしまって差し支えない。これら2式は、前出の「レベルの足し算はウェ イト付けした掛け算に直せる」という公式を用いて、以下のような対数表示で表 される。

( )

( )(

t t

)

t t

t

t t t

q q k

y r

k i q

− +

=

=

+ +

+

+1 1 ϕ 1 1 ϕ 1

µ

設備投資に調整費用が存在する場合の修正RBCモデルを仮に「Q-RBC モデ ル」と名づけよう

4

。Q-RBC モデルは下記のとおり完全に定義される。

『Q-RBC モデル』

4 Q-RBC モデルの原典は、Abel and Blanchard(1983)。

(5)

( ) ( )( ) ( )

( )

( )

( )(

t t

)

t t

t

t t t

t g t c i t

t

t t t

t

q q k

y r

r

k i q q

g c

y i

i

k z c

y y

− +

=

=

=

+ +

− + +

= −

+ +

+

+1 1 1 1 1

: : : 1

1 1 : 1

ϕ ϕ

µ ω ω ω

λ α α α

λ σ

λ α

α

( )

t t

t

t t t

i k k

k

c r c c

δ δ σ

+

= +

=

+

+ +

1 :

:

1

1 1

1 1 1

1 1

: :

+

+

+

+

=

+

=

t t t

t t g t

z z z

g g

g

η φ

ε φ

Q-RBC モデルは、前出の基本 RBC モデルに株価(q)の式を加え、金利の式の 右辺を静学的な限界生産性を表す項から、株価のダイナミクスに依存する差分式 に置き換えただけであることが分かる。なお、株価qや設備投資はジャンプ変数 であるため、このモデルも基本RBC モデルと同じく、状態変数は資本ストック のみであることに注意しよう。

.名目価格 硬直性 導入:資本ス ックを考慮 た ew IS

テキスト第3章で詳しく解説したとおり、New-ISLM モデルでは、財市場にお ける独占的競争構造を取り入れている。このため、製品価格を所与とする通常の 企業の利潤最大化条件は用いることができない。しかし、独占的競争市場におい て、各企業がある程度価格設定力をもっている場合でも、ある一定の生産量の下 での費用最小化条件は常に成り立っているはずである。コブ・ダグラス型の場合、 通常、費用最小化の最適条件は、よく知られているように次式で表される。

α α ρt t =1−

t t

K H W

ここから、限界費用が、

α α

α ρ α



 

 

 

= −t t

t

MC W

1

1

として求められる。上記は単純な静学的なケースの場合であるが、ここでは投資 の調整コストを仮定しているため、資本の(限界)コスト(ρ)を単純に表すこ とはできない。ここでは、下記のような動学的な費用最小化問題を考える必要が ある。

(6)

( ) { ( ) }

= + +  + +Θ + + +

= Λ

0

1

1 1

1 : 1

min

t

t t t t

t t t t t t t t t t

t

t WH Y ZK H Q K I K

K I I

r µ δ

α α

上記式では、表現の煩雑化をさけるため、割引ファクターである実質金利(r) を一定として記述したが、実際には時間の経過にしたがって変化する。上記のラ グランジュアンは、所与の生産量と要素価格の下で、費用を最小化する生産要素 の投入量を決定する条件を導出してくれる。ひとつめのラグランジュ乗数(Θ) は、生産量が限界的に1単位変化することの費用単位で図った価値であるから、 これは(総)限界費用に他ならない。完全競争の下では、限界生産性はニュメレ ールである製品価格でデフレートされた要素価格に等しい一方、不完全競争の下 では、限界生産性は限界費用でデフレートされた要素価格に等しくならなければ ならない。限界費用と製品価格は、当然のことながら、マークアップ分だけ乖離 している。このため、最適化条件は前節のものから若干修正される。まず、労働 に関する条件からみてみよう。

( )

t

t t

t W

H H:Θ ×1−α Y =

Θは限界費用に等しいことから、この解釈を明確にするため、以下、MC の記号Θを置き換える。労働供給サイドの最適条件と合わせて、需給が一致するとの 条件の下で賃金を消去すると、次式を得る。

(

α

)

tθ tλ

t t

t vC H

H MC × 1− Y =

これを対数線形化すると、

( )

t t

t

t y h c

mc λ σ

1+ + 1

= +

となる。次に設備投資と資本ストックについての条件を調べる。

( )

t t t

t t t

t t

t t t

Q R K Q

I K

K Y

K I Q

I

1 1 2

1 1

1 1

: 2 1 :

+ + +

+

+ + =



 Θ +

+

=

µ δ α

µ

完全競争ではニュメレール(すなわち1)として明示的に現れてこなかった価格 に代わり、限界費用が第一項に入っている。この点以外は特に変更はない。これ らの条件式に、一般物価インフレ率(π)のダイナミクスをあらわすNKPC と、 なんらかの金融政策ルールを追加してやればモデルが閉じる。NKPC の導出過程 は、テキスト第3章で既に複数のミクロ的基礎付けからこれを解説しているため、 ここでは割愛する。金融政策ルールは単純なテイラールールを仮定する。以下、 対数線形化したモデルの全容を記す。

Q-ISLM モデル』

(7)

( ) ( )( )

[ ]

( )

( )

( )(

t t t

)

t t

t

t t t

t g t c i t

t

t t t

t t

q q k

y mc r

r

k i q q

g c y i

i

k z y

c mc mc

− +

− +

=

=

=

+ − +

− + +

=

+ +

+ +

+1 1 1 1 1 1

: : : 1

1 1 1

: 1

ϕ ϕ

µ ω ω ω

α α λ λ

σ α

t t y t t

t ni y

r

y: +π+1 ≡ =φ +φππ

( )

t t

t

t t t

t t t

mc i k k

k

c r c c

κ βπ π π

δ δ σ

+

=

+

= +

=

+ +

+ +

1 1

1 1

:

1 :

:

外生変数の自己回帰過程は前述のモデルと同じであるため省略した。なお、テイ ラールールは、GDPを決定する式として表記したが、これはあくまで便宜的な 記述であり、もちろん名目金利(ni)の決定式として解釈することもできる。た とえば消費のオイラー方程式は、消費を決定する式として部分均衡モデル的に解 釈するのが一般的だが、一般均衡モデルとしては、実質金利(r)の決定式であ ると読み替えても構わない。部分均衡的、あるいは、分権的に行動方程式と解釈 すれば、各家計は金利を所与として、消費のオイラー方程式を満たすように消費 のパスを決定するわけであるが、一般均衡分析であるDSGE モデルの観点から は、そうした各家計の行動が結果的に均衡での金利水準を決定しているとも読め る。つまり、どの式がどの変数を決定しているとは一概には言えない。発散しな いという条件のもと、モデルのすべての式を異時点間で満たす内生変数のベクト ルがモデルの解となる。

各式の経済学的な解釈はともかく、外生変数である二つのショック変数を別と して、モデル内には8つの内生変数があり、計8本の式で成り立っている。うち 7つはジャンプ変数(ないしは静学的変数、定義式)であり、状態変数は資本ス トックひとつのみである。モデルは、消費、設備投資、物価、株価を内包し、か つインプリシットに労働時間や賃金の動きも調べることもできる。モデルの動学 特性をさらに現実のデータに近づけるため、以下の2点の修正が有益だろう。こ のモデルには状態変数が少なすぎるため、ボラティリティが高くなり過ぎる傾向 がある。このため、金融政策ルールに慣性の項を追加し、さらにNKPC をハイ ブリッド型にする。これらのマイナーな修正を加えれば、おおむね実務的なニー ズにも耐えうる汎用型中型DSGE モデルといえるだろう。

.線形フ ナンシ クセラ タ

前節のQ-ISLM モデルにさらに資本市場の不完全性を追加し、バーナンキ・ガ ートラー・ギルクライスト型のフィナンシャル・アクセラレータ・モデルに拡張

(8)

することは、実はごく容易である

5

。不完全資本市場のミクロ的基礎付けや最適 条件の導出に興味がある読者は、原典をあたってもらうとして、線形DSGE モ デルの全体像としては、前節のQ-ISLM モデルに2式――企業債務に対するリス クプレミアムと企業部門の純資産の式――を追加するだけであるので、参考とし て、Q-ISLM モデルからの変更部分を明示する形でフィナンシャル・アクセラレ ータ・モデルの全容を記す。

まず、実質金利と株価の関係を表す前出の式における実質金利(r)を企業部 門の利潤を割り引く際に用いるリスクプレミアムを加味した実質割引率(r

k

)で 置き換える。これは、企業部門は限界的には外部資金に依存しており、情報の非 対称があるもとでは、外部資金に正のプレミアムが発生するためである(MM定 理からの乖離)。

( )(

t t t

)

t t

k t

k r mc y k q q

r : +1= 1−ϕ +1+ +1+1+1− 次に、リスクプレミアムの決定式として、

( )

{

1 1

}

1

:rt+k1rt+ =−v nt+qt +kt+ r

を追加する。外部資金に乗せられるプレミアムは企業の純資産(n)が大きいほ ど小さくなる関係が組み込まれていることが分かる。なお、上記式は、モデルの 表記上は、リスクプレミアムを含まない安全資産の実質金利(r)を決定する条 件式として扱うことに注意しよう。最後に、追加された状態変数である純資産

(n)の遷移式を定義してモデルが閉じる。

(

t

) (

t t

)

k t

t r r Rr n

N n RK

n − + +

 

=

+ γ

γ : 1

なお、R(=1/β)、K、N は、実質金利、資本ストック、純資産、それぞれの定 常均衡での値(水準)を表す。このように、フィナンシャル・アクセラレータ・ モデルは、Qモデルのうち、実質金利の式一本を置き換え、2 本の式を追加する のみで成立していることから、本稿で扱った全てのモデルを入れ子している。そ の意味で、RBCモデルからフィナンシャル・アクセラレータ・モデルに至る一 連の流れは、テキスト第1章で概観したピザの具を追加することで自由に拡張さ れてゆくDSGEモデル体系のうち、ひとつの典型的な拡張経路ということがで きる。

Dynareによる線形 運用

Dynare は、DSGE モデルを扱うための汎用性の高いプログラムパッケージで、 パラメータの値とモデルの差分方程式体系のみ記述すれば、ほぼ自動でシミュレ

5 Bernanke at el(1999)。本稿でコード化したバージョンは、基本的に Gilchrist and Leahy

(2002)による。同モデルを用いて分析を行った邦語文献として、斉藤・福永(2008)がある。

(9)

ーションを行うことができる。具体的な手続きとしては、Dynare 本体のダウン ロードも含め、以下の6 ステップを踏むだけで、シミュレーションが実行できる。

① http://www.cepremap.cnrs.fr/juillard/mambo/index.phpの「donwload」ページか らDynare 本体を入手6。本稿で使用したDynare は、Dynare version 3.065。

「Version 4」もリリースされているが、上記以外のバージョンでの動作確認 はしていない。

② ダウンロードしたファイルを解凍後、C:ドライブの直下に『dynare_v3』の 名前のままフォルダーを作成。

③ Matlab の「file」コマンドから→「パスの設定」を選び、『dynare_v3』を

「サブフォルダーも追加」コマンドで指定する。

④ Matlab が作業を行う「カンレント・ディレクトリー」は、

「C:/dynare_v3/examples」を使用(これは任意に変更可能)。このカンレント ディレクトリーに各モデルの本体コードとなる「FILENAME.mod」ファイル を保存する。なお、用いる拡張子は「.m」ではなく、「.mod」であることに 注意。「FILENAME」は任意に設定。

⑤ m-file エディタで、モデル本体に関するコード(mod ファイル)を具体的に 記述し、カレントディレクトリに保存。

⑥ Matlab のコマンドウィンドで、『dynare FILENAME』とタイプし、リター ンキーでシミュレーションが実行される。「FILENAME」部分には、自分で 任意に保存したファイル名を入れる。拡張子は必要ない。

もっとも、上記プロセスは初心者向けの入り口の紹介に過ぎず、Dynare は、 幅広いシミュレーションニーズに対応する非常に奥深いコード群である。現在も 数値解析を行う多くのマクロ経済学者の協力によって、日々進化を続けている。 Dynare の様々な特長のうち、最大の強みは、おそらくマルコフチェーン・モン テカルロ推計(MCMC 推計:ベイズ推計の一種)を用いて、DSGE モデルの推 計とカリブレーションを一気に実行することが可能な点であろう。本稿では推計 手法については触れないが、推計方法の解説を含む公式マニュアルが前出の Dynare サイトで入手可能な他、邦語文献も含め多種多様な「使い方ガイド」が ウェブ上で公開されているため、読者は適宜こうした資料を参考にすることがで きる7。Dynare のモデルファイル(mod ファイル)は、便宜的に区分けすれば、

①変数の定義、②パラメータの設定、③モデルの記述、④シミュレーションの詳 細設定の4ブロックから成り立っているが、実質的にはモデルの式を記述する③ 部分がメインであり、その他の部分に関してはブロックというほどでもないほど、 ごくシンプルな記述に過ぎない。以下、3節で扱った Q-ISLM モデルを具体例に、 mod ファイルの記述例を紹介する。

6 直接リンクはこちら。

http://www.cepremap.cnrs.fr/juillard/mambo/index.php?option=com_docman&task=cat_view&gid=84&Ite mid=70

7 邦語文献では、矢野(2008)が最も包括的で初心者にも配慮した内容となっている。矢野

(2008)では、関連文献のサーベイも行っているので、参照されたい。

(10)

まず、①ブロックでは、変数を内生変数と外生変数に分けて記述する。技術進 歩や政府支出は意味的には外生変数であるが、数式上は自己回帰過程を仮定して いるため、これらは全て内生変数として扱い、各式の撹乱項部分のみを外生変数 とする。

①変数定義ブロック

//Endogenous variables

var is q y r k c g z dp mc h m ni; // Exogenous variables

varexo eG eZ eM;

「//」は、コメントアウトを表し、dynare は、右に続く文字列を無視する。ここ で用いているコマンドは「var」と「varexo」のみで、ぞれぞれ、内生変数、外生 変数を宣言するために用いる。文字変数の定義は、本文と概ね同じだが、is が設 備投資、dp がインフレ率を表す。便宜上、名目金利(ni)と金融政策ルールに対 するショック(m)の 2 変数を追加したが、いずれもモデルの解やダイナミクス に影響する修正ではない。外生変数は、財政支出、技術進歩、金融政策ルール、 の3つの自己回帰過程に対する確率的撹乱項で、それぞれ、eG,eZ,eM とした。 続くパラメータ設定ブロックは、コマンド「parameters」の後にパラメータ文字 列を宣言するだけであるので、ほとんど説明を要しないと思われる。3節で用い なかった追加的なパラメータとして、各ショックのサイズ(標準偏差)をパラメ ータとして、ここで与える。このサイズは、ベイズ推計によって得ることも可能 だが、ここでは任意に設定する。ほかに3節で触れたとおり、ハイブリッド NKPC のラグ項のパラメータ(rho)、名目金利の慣性を表すパラメータ(f0) を追加している。

②パラメータ設定ブロック

parameters sigma alpha beta delta phi lamda sdG sdZ sdM omega1 omega2 omega3 theta psi kappa f1 f2 f0 rho;

sigma = 1.5; // CRRA

alpha = 0.3; // capital intensity in production function beta = 0.99;

delta = 0.025;

phi = 0.8; // shock AR(1) lamda = 2; // labor supply omega1 = 0.7;

omega2 = 0.2; omega3 = 0.1;

theta = 0.97; // =(1-delta)/( alpha*Ystar/kstar + 1-delta ) psi = 0.75; // Capital adjustment cost

kappa = 0.1; // NKPC slope f0 = 0.1;

f1 = 0.5; f2 = 1.5;

rho = 0.01; // Hybrid adjustment sdG = 0.25;

sdZ = 0.05;

(11)

sdM = 0.02;

次に、mod ファイルのコア部分であるモデルの記述ブロックに移る。メインのコ マンドは、「model」であり、以下、モデルの差分方程式一覧を記述することを 示す。「model」コマンドの直後の( )内に、モデルが線形であることを示すオ プション(linear)を指定しており、このオプションを用いることで計算の負担 が大幅に低減し、正確性も向上する。なお、線形モデルであるため、定常状態の 算出は不要となり、この点も運用上の大きなメリットと言える

8

。モデルの各式 は3節で記述したとおり、そのまま書き写せばよい。ただし、Dynare でモデル を表記する際の注意点として、状態変数の表記タイミングを意図的に1期下げて 記述する必要があるケースがある。Dynare は、自らモデルを診断し、状態変数 とジャンプ変数を選別し、ブランシャー・カーンの条件が満たされているかどう かを判定する。条件が満たされていない場合は、エラーメッセージを表示する。 この選別を手助けするために、たとえば資本ストックなど、状態変数になりやす い変数を含む式を、1 期前時点での表記にずらしてやることで、Dynare は、当該 変数が先決変数であることを理解しやすくなる場合がある

9

。 Q-ISLM モデルのケースでは、資本ストックの式を、

k(+1) = (1-delta)*k + delta*is; ではなく、

k = (1-delta)*k(-1) + delta*is(-1);

と記述する10。逆に、実質金利の式は、

r(+1) =(1-theta)*(mc(+1) +y(+1) -k(+1)) + theta*q(+1) -q ;

と1期先のリード変数を含む形式とし、ラグ変数を登場させない。必ずしもこの ように記述しないとDynare が計算出来ないというわけではないが、時々、明ら かにブランシャー・カーン条件に問題ないように見受けられるモデルでも、エラ ーメッセージが表示される場合がある。そうした場合には、いくつかの式につい て0期からプラス・マイナス1期表記タイミングをずらすことを試すと計算がプ ロセスされることがある。

③モデル記述ブロック

model(linear); q = psi*(is-k) ;

r(+1) =(1-theta)*(mc(+1) +y(+1) -k(+1)) + theta*q(+1) -q ;

8 Dynare には、非線形モデルのケースにおいて、定常均衡の値を自動的に算出するコマンドが用意されてい るが、実際の運用上は、定常均衡の計算は容易ではないことが多い。

9 線形モデルで情報構造が問題ではない Q-ISLM モデルのようなケースでは、差分表記に起因する記述タイ ミングの問題は発生せず、どのようなタイミングで記述しても動学特性には影響はない。

10 この記述では、Dynare は設備投資を状態変数(先決変数)と解釈してしまう場合がある。これを避ける ためには、k=(1-delta)k(-1) + delta*i と設備投資のタイミングを 1 期先に修正と問題は解決する。もっとも、 設備投資のタイミングに関わらず、ブランシャー・カーン条件は満たされており、また、インパルス応答関 数でみる動学特性にも、ほとんど違いは生じない。

(12)

ni = r+ dp(+1);

ni = f0*r(-1)+ f1*y + f2*dp(+1) +m ; mc+y = (1+lamda)*h+(1/sigma)*c;

y = z+(1-alpha)*h+alpha*k;

is = (y-(omega1*c+omega3*g))/omega2; c = c(+1) - sigma*r(+1) ;

k = (1-delta)*k(-1)+delta*is(-1);

dp = (beta-rho)*dp(+1)+kappa*mc +(1-beta+rho)*dp(-1) ; // NKPC z = phi*z(-1) +eZ ;

g = phi*g(-1) +eG ; m = phi*m(-1) +eM ; end;

以下、シミュレーションの詳細設定を行う。ショックの大きさを「shocks」コマ ンドを用いて指定する。ショックのサイズは分散単位で指定するため、先にパラ メータブロックで定義した標準偏差を用い、この二乗に等しくなるようにそれぞ れ設定する。最後に、確率的シミュレーションを行うコマンドである

「stoch_simul」を記し、インパルス・レスポンスの表示期間をオプションで指定 する。ここでは40 期間(=40 四半期)とした。同じ行の右側に、グラフ画面に 出力したい変数を任意に選んで記述することができる。

shocks;

var eG= sdG^2; var eZ = sdZ^2; var eM = sdM^2; end;

// Simulation

stoch_simul(irf=40) y is c k q dp ni r ;

以上を記述したmod ファイルに「qislm.mod」と名前を付け、カレントディレク トリに保存する。その後、コマンドウィンドウで「dynare qislm」とタイプし、 リターンキーを押すと、システムの固有値とポリシーファンクション、誘導型シ ステムの係数に基づく分散分解が算出され、続いて確率的ショックを用いてシミ ュレートされた変数系列の分散・共分散行列、自己共分散が表示される。最後に 別ウィンドウで各ショックに対するインパルス応答関数がグラフ化されれば、シ ミュレーションは成功である。

.結語

本稿では、あらかじめ、その主旨を明らかにしたように、対数線形化の計算方 法や、モデルをコンピュータに読ませるためのコード化、またその具体的な運用 プロセスをマニュアル形式で解説した。逆に、経済学的な意味づけや解釈につい ては、ほとんど触れていない。読者は、参考文献リストで挙げた原典論文や教科 書を参照しつつ、シミュレーション結果と照らし合わせてミクロ的基礎付けなど、 経済学的側面について独習することが望ましい。原典論文をあたれば分かること であるが、本稿で解説したような計算プロセスや、コンピュータ上でのシミュレ ーション方法については、通常、論文の紙面では、全くといっていいほど言及さ

(13)

れない。このため、初学者にとっては、論文内のシミュレーション結果を実際に 再現したり、モデルの拡張性について考えたりすることに大変コストがかかる。 Dynare の上手な活用と本稿によるガイドが、こうした参入障壁を下げることが できれば望ましい。

参考文献

Abel, A. B. and O. Blanchard, 1983, “An Intertemporal Model of Saving and Investment,” Econometrica 51, pp. 675-92.

Bernanke, Gertler and Gilchrsit, 1999, “The financial accelerator in a quantitative business cycle framework,” in: Taylor,J.,Woodford , M. (Eds.), Handbook of Macroeconomics. North-Holland,Amsterdam.

Gilchrist, S. and J. V. Leahy, 2002, “Monetary policy and asset prices,” Journal of Monetary Economics 49, pp. 75-97.

Mancini Griffoli, Tommaso, 2007, “DYNARE USER GUIDE,”

http://www.cepremap.cnrs.fr/juillard/mambo/index.php?option=com_content&task=v iew&id=51&Itemid=84

斉藤雅士・福永一郎(2007)「資産価格と金融政策:動学的一般均衡モデルによ る分析と展望」日本銀行金融研究所ディスカッション・ペーパー・シリーズ 2007-J-21.

矢野浩一(2008)「DYNARE による動学的確率的一般均衡シミュレーション: 新ケインズ派マクロ経済モデルへの応用」ESRI ディスカッション・ペーパ ー・シリーズ No. 203.

参照

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