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北村友人(東京大学) 特集にあたって アフリカ教育研究第5号(2014年) aerf1960 Africa vol5 itamura

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Academic year: 2018

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特集にあたって:「ポスト 2015 年の教育開発」

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特集にあたって:「ポスト2015年の教育開発」

 2015年は、アフリカの教育に関わる人々にとって、また途上国の教育開発に携わ るすべての人にとって、非常に重要な年となることが予想される。1990年にジョム ティエン(タイ)で「万人のための教育(Education for All: EFA)」の国際目標が合 意された後、2000年のダカール(セネガル)での議論を経つつ、1990年代と2000年 代を通じて途上国における基礎教育の普及が国際社会にとっての優先課題として掲 げられてきた。加えて、2000年代に入ると「持続可能な開発のための教育(Education for Sustainable Development: ESD)」が提唱され、教育のあり方をより多面的・多層 的に捉える試みが積み重ねられている。また、教育分野での取り組みと並行して、 2000年に国連「ミレニアム開発目標(Millennium Development Goals: MDGs)」が採 択され、教育を含む開発の諸分野において、途上国の状況を改善するための努力が 積み重ねられてきた。そして、いよいよそれらの目標年である2015年を迎えること になった。

 この20年以上にわたる国際社会の取り組みを通して、世界の各地で基礎教育が普 及してきたことは確かであろう。しかしながら、とくに途上国の教育をめぐる課題は、 いまだ山積している。なかでもサハラ以南アフリカにおいては、教育の普及や質の 向上をはじめとするさまざまな課題が広くみられる。もちろん、アフリカという多 様性をもった地域を一括りで表現することは慎むべきであるし、アフリカのさまざ まな場所で豊かな教育実践が営まれていることも認識している。そうしたことを踏 まえたうえでなお、アフリカの多くの社会が教育開発における困難と直面している 現実から目を逸らすべきではない。

 それでは、そもそも2015年という節目の年を迎えるいま、アフリカにおける教育 開発の現状はどうなっているのであろうか。そして、いかなる課題がそこにはある のか。そして、2015年以降の教育開発はどこへ向かっていくのか。そういった問題 意識にもとづき、本特集を企画した。今日の国際社会では、国連を中心とした「持 続可能な開発目標(Sustainable Development Goals: SDGs)」の具体的な目標設定の検 討をはじめとして、ポスト2015年を見据えた議論が活発に交わされている。そうし た議論の積み重ねに対して、本特集に収録した諸論考を通して、ささやかではある が一石を投じることができればと願っている。

 こうした趣旨の本特集であるため、最初の論考(北村ほか)はアフリカに地域を 限定せず、国際的に EFA や教育 MDGs の進捗がどのような状況にあり、そのなか でいかなる課題に世界は直面しているのかについて概観した。そのうえで、ポスト 2015年開発アジェンダとして教育分野では何を優先課題として設定すべきであるの かということについて提案を行っている。この俯瞰的な論考を踏まえたうえで、ア フリカにおけるいくつかの重要課題に焦点をあてた諸論文を掲載している。

 まず、西村論文では、教育や学習の質向上のために、異なる主体のパートナー シップ(これを「協治」と西村は呼んでいる)にもとづくガバナンスを構築する ことの重要性を指摘している。とくにケニアにおけるNGO(UWEZO)の世帯調査

アフリカ教育研究 第5号(2014) 1 - 3 頁

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北村友人

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を基盤にした学力調査とそこから派生したプログラム「オポチュニティ・スクール (OPS) 」の取り組みを事例に、「協治」の過程におけるアカウンタビリティ・メカニ ズムのあり方を検証している。

 次に、興津論文では、公正で公平な学習環境を実現するために「真正な(genuine)」 住民参加が欠かせないという観点から、アフリカ諸国について行われてきた多くの 先行研究をレビューしている。それらの結果にもとづき、学校のみを学習の場とし て捉えるのではなく、保護者の十分な関与や必要な資源とサポートがあれば、家庭 も適切な学習の場となり得ることを指摘している。

 また、ポスト2015年のアフリカにおける教育開発を考えるうえで重要な課題であ るインクルーシブ教育と、そのための教員養成改革の現状と課題について、理論的な レビューと事例研究の結果に基づく独自の考察を行った論考が、川口論文である。 本論文では、アフリカにおいて国際機関や政策上のかけ声によって推進される傾向 にある「インクルーシブ教育」と教員養成に関して、実際の学校現場の状況と教員 の知見や意見を踏まえたボトムアップ型の改革を提案している。

 最後に、山 論文は、ガーナにおける社会科のカリキュラムを分析することで、 国家の「開発」を進めていくにあたりどのような社会のあり方を生徒たちに伝え ようとしているのかについて検証している。とくに ESD や市民性教育(citizenship education)の観点から分析を行い、ガーナでは社会科教育において生徒たちには「持 続可能性」や「シティズンシップ」の概念を理解することが目指されていることを 明らかにした。しかしながら、実際のカリキュラムは、いまだ独立後の「国民統合」 を主たる目的とした構成になっていることから、それらの概念は国家の発展に関連 する内容にとどまっていることを指摘している。

 もちろん、すでに述べたようにアフリカは多様であり、さまざまな社会で豊かな 教育実践が積み重ねられている。そのため、本特集で取り上げた諸テーマは、あく まで今日のアフリカにおける教育の一面を示しているに過ぎない。とはいえ、さま ざまな課題に直面し、それらの解決を模索するなかで、これからの教育のあり方に ついて重層的な議論や研究が積み重ねられている様子を、本特集の各論考から読み 取ることができるのではないだろうか。

 私たち研究者はあくまでも外部者に過ぎないが、それでも外部者だからこその立 場から一つひとつの研究を真摯に積み上げていくことが大切であると考える。その うえで、日本のアフリカ教育研究が充実していくなかで、これからどのようにアフ リカの人々へそれらの成果を伝えていくべきかということが、今後はさらに問われ ていくであろう。なぜなら、あくまでも個人的な見解ではあるが、先輩研究者の方々 が切り拓いて来られたアフリカ教育研究の萌芽期を経て、徐々に発展期へと入りつ つあるのではないかと考えるからである。今後、日本のみならず国際的にもアフリ カ教育研究がさらに豊かな成果を積み上げていくことを期待しつつ、本特集の趣旨 説明ならびに各論考への誘いとしたい。

編集委員:北村友人(東京大学)

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特集にあたって:「ポスト 2015 年の教育開発」

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注: 本特集の諸論考は、特集の企画者である北村がテーマリーダーを務める環境省環境研究 総合推進費S-11「持続可能な開発目標とガバナンスに関する総合的研究」(2013∼2015年度) の研究プロジェクトの助成を得て、執筆したものである。

参照

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