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uroda 黒田一雄 サブサハラアフリカにおけるインクルーシブ教育の可能性に関する予備的考察

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サブサハラアフリカにおけるインクルーシブ教育の

可能性に関する予備的考察

黒田一雄

(早稲田大学大学院アジア太平洋研究科)

1

EFA

・教育

MDGs

におけるインクルーシブ教育

世界には7200万人の不就学児童がおり、その内3200万人がサブサハラアフリカに いるとされている(UNESCO 2010)。統計の未整備・不統一から、この不就学児童の うち、どのくらいが障害児であるかを正確に把握することは困難であるが、全世界の 不就学児のうち3分の1ほどではないかとの推計がある(UNESCO 2009)。また、ア フリカにおいては就学している学齢の障害児は、全体の10%に満たない、という報告 もある(Balescut & Eklindh 2006)。つまりは、今後サブサハラアフリカにおける教育 MDGsの達成、初等教育の完全修了を実現するためには、障害児を含む様々な困難な 状況にある児童への就学機会の確保することが重大な課題となる。本稿の目的は、こ のような課題解決の方策として、国際社会が近年唱道しているインクルーシブ教育・ 教育におけるインクルージョンに関し、その政策的応用可能性を、サブサハラアフリ カの状況を念頭におきながら、考察・検討することにある。

インクルーシブ教育は、1994年にスペインのサラマンカで開催された「特別なニー ズ教育に関する世界会議」において提唱され、国際社会に広く認知されるようになっ た概念である。この会議は、世界の障害児教育の主流を、特殊教育から、通常学校・ 通常学級における特別支援教育に移行させるための大きな原動力となった。しかし、 発展途上国におけるEFA・教育MDGs達成のためにインクルーシブ教育の考え方が 議論され、頻繁に用いられるようになったのは21世紀を迎えてからのことであった。 2004年 に は 世 界 銀 行 か ら『Inclusive Education: An EFA Strategy for All Children』 が 出 版 さ れ(Peters, 2004)、2005年 に は ユ ネ ス コ か ら『Guidelines for Inclusion: Ensuring Access to Education for All.』(以下、インクルージョンガイドライン)が発 表された(UNESCO 2005)。2008年には、ユネスコ国際教育局が数年に1度開催す る第48回国際教育会議(International Conference on Education)の総括テーマとして、 インクルーシブ教育が取り上げられ、その結果として、ユネスコにおいて、EFAを強 く意識した『Policy Guidelines on Inclusion in Education』(以下、政策ガイドライン) が策定された(UNESCO 2009)。2010年の「疎外された人々へ届く教育へ」と副題 されたEFAグローバルモニタリングレポートでも、「インクルーシブ教育」「インク ルーシブな教育政策」がキーワードになる等、EFA・教育MDGsを目指す国際社会の 諸アクターは、近年、インクルーシブ教育に熱い視線を注いでいると言える(UNESCO 2010)。日本も、2010年9月にニューヨークで開催されたMDGsサミットにおいて、 菅直人総理大臣がMDGsのための「菅イニシアチブ」を発表し、その一環として新 教育協力政策も策定され、その中で日本が提唱する「School for All」モデルの5つの

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柱の1つとしてインクルーシブ教育がとり入れられた。

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.インクルーシブ教育の概念的定義

それでは、インクルーシブ教育とは何なのか。サラマンカ会議で採択された「特別 なニーズ教育における原則、政策、実践に関するサラマンカ声明ならびに行動の枠組 み(Salamanca Statement on Principles, Policy and Practice in Special Needs Education and a Framework for Action )」(以下、サラマンカ宣言)には、以下のように述べられ ている。

特別な教育的ニーズをもつ子どもたちは、彼らのニーズに合致できる児童中心 の教育学の枠内で調整する、通常の学校にアクセスしなければならず、このイン クルーシブ志向をもつ通常の学校こそ、差別的態度と戦い、すべての人を喜んで 受け入れる地域社会をつくり上げ、インクルーシブ社会を築き上げ、万人のため の教育を達成する最も効果的な手段であり、さらにそれらは、大多数の子どもた ちに効果的な教育を提供し、全教育システムの効率を高め、ついには費用対効果 の高いものとする。

 (国立特殊教育総合研究所訳「サラマンカ声明/サラマンカ宣言」より)

つまり、サラマンカ宣言からは、インクルーシブ教育は通常の学校に特別な教育的 ニーズのある子どもを受け入れることを指す、と類推される。しかし、インクルーシ ブ教育の定義には様々なバージョンが存在する(詳しくは、黒田2008)。最も代表的 な定義として、ユネスコは、インクルージョンを「全ての学習者の学習、文化、地域 社会への参加を促進し、教育の中でも、教育そのものからも排斥されないような状況 をつくることによって、彼らの多様なニーズを明確にし、応えていこうとする過程」 とし、インクルーシブ教育を「正規・非正規の教育環境における広範囲にわたる学習 ニーズに適切な対応を提供していくこと」であり、かつこれを「(特別のニーズを有 する)学習者の一部がいかにして主流の教育に統合していくか、という周辺的な課題 のことではなく、教育システム全体をいかにして学習者の多様性に対応するように変 容させていくかを模索する方向性である」としている。そして、その上で、インクルー シブ教育の目的は「教師と学習者が多様性を積極的に評価し、問題(problem)とし てではなく、挑戦(challenge)や豊かさ(enrichment)と捉えることができるような 状況を意図する」としている(筆者訳、UNESCO 2003)。このような考え方は、その 後のユネスコの発表した政策文書のほとんどで継承されており、英連邦事務局が作成 したインクルーシブ教育に関するガイドラインにも踏襲される等、国際社会の一般的 な認知を得ている(Rieser 2008)。

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.インクルーシブ教育の政策的明文化

それでは、ここからサブサハラアフリカにおけるインクルーシブ教育の実施上の課 題について、考察したい。まず、各国政府がインクルーシブ教育の考え方を政策実施 に役立てるためには、各国政府がこの概念を正確に理解し、表明することが前提と なる。例えば、2009年にケニア政府により制定された『The National Special Needs

Education Policy Framework』では、インクルーシブ教育は「障害や特別のニーズ

を有する学習者が、歳や障害の程度に関係なく、通常の学級において適切な教育を 受けることのできるアプローチ」と定義されている(筆者訳 Ministry of Education, Republic of Kenya 2009)。 ま た、 同 年 に 制 定 さ れ た マ ラ ウ ィ の『Implementation Guidelines for the National Policy on Special Needs Education』では、インクルーシブ 教育を、より単純に「全ての学習者に就学機会を提供し、内包し、支援する学習環境」 とのみ定義されている(筆者訳 Ministry of Education, Malawi Government 2009)。ど ちらも、国際的に議論されているインクルーシブ教育と異なっているわけではないが、 特に重要な生徒の多様性を積極的に評価する視点に欠けている。ケニアの政策文書で は、インクルーシブ教育の定義だけではなく、その背景、課題、目的、11の戦略といっ た具体的な記述がなされているが、そのほとんどは、特別ニーズ教育もしくは従来型 の特殊教育の在り方についての記述であり、インクルーシブ教育という言葉は含まれ ていても、国際的に議論されているその内容、つまりは多様性を積極的に評価し、教 育関係者の態度変容を含む、政策全体の構造的改革を主導する考え方が、これらの政 策文書の実質に影響を与えているとは言い難い。

一方、南アフリカ共和国の『Education White Paper 6 on Special Needs Education: Building an Inclusive Education and Training System』では、インクルーシブ教育が、「全 ての学習者が何らかの意味で異なり、異なった学習ニーズを有するということ、そし てそれは、全て等しく価値があり、我々人類の経験の通常の一部であることを、受入れ、 敬意を表すること」であり、「教育の構造、システム、学習方法が全ての学習者のニー ズに適合することを可能とすること」だと定義し、サラマンカ宣言の意図を十全に組 み込んだものとなっている(筆者訳 Department of Education, Republic of South Africa 2001)。この文書が、2000年代に国際社会でインクルーシブ教育の意義が再認識され る以前の2001年に作成されたものを考え合わせると、南アフリカ共和国においては、 アパルトヘイトからの脱却・社会改革の過程でインクルーシブ教育に関する政策的理 解も進んだのではないかと推測される(Naicker 2006)。

サブサハラアフリカ全体の政策的議論に目をやると、前述のインクルーシブ教育を 総括テーマとした第48回国際教育会議のために、カメルーンのヤウンデで開催され たアフリカ地域の準備会合「インクルーシブ教育:アフリカにおける主要な課題と優 先事項」では、そのコンセプトペーパーに上述のユネスコによるインクルーシブ教育 に関する定義が詳述されている。しかし、やはりそこで示されている戦略案にも、準 備会合の成果として書かれた「Final Document」にも、多様性を積極的に評価し、教 育全体の構造改革を指向するような政策に関する記述はない(UNESCO International

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Bureau of Education 2008a, 2008b)。まさに、インクルーシブ教育が、多くの政策文 書において、単なる掛け声、もしくはEFAを達成するための魔法の呪文のようになっ ており、その中核的な方向性である社会改革的・総合的な観点から教育政策全体を見 直すことには、正確な言及がないのである。

こうした問題は、アフリカだけではなく、他の多くの途上国でも同様に見られるこ とだと推測される。その意味で、ユネスコが2009年に策定した「政策ガイドライン」 は、加盟国に対し(特に途上国を意識しながら)インクルーシブ教育を政策的に応用 するための具体策を提案した文書として、大きな意義があった。依然、概念的な記述 も散見されるが、教育政策全体に対して、インクルーシブ教育の観点から、変容を迫り、 そのための道程を、わかりやすく示したということでは、評価できる。

インクルーシブ教育はサラマンカ宣言によると、それ自体が「差別的態度と戦い、 すべての人を喜んで受け入れる地域社会をつくり上げる」ための有効な方策であると される。しかし、一方で社会の差別こそが、インクルーシブな教育環境を整えるため の障害ともなりうる。Abosi & Koay(2008)は、アフリカ社会がいかに障害者に対し て差別的であるかを、様々な例を挙げて、説明している。曰く、多くのアフリカ社会で、 障害は天罰を意味し、これが障害児への差別・偏見や無視につながっている、とする。 インクルーシブ教育は、畢竟、教育に関係する人々の態度と価値の変容である。伝統 社会に存在する差別・偏見に立ち向かい、多様性を是とし、教育において寛容と理解 を推進することこそが、インクルーシブ教育の根幹といえる。そのためには、政策決定 者がインクルーシブ教育の正確な意味を理解し、その精神をそれぞれ国別に異なる政 策的コンテキストの中で明文化することが、インクルーシブ教育導入の基礎となろう。

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.インクルーシブなカリキュラムの作成

カリキュラム策定は、サブサハラアフリカ諸国政府にとって、教育水準を守るだけ ではなく、国民統合のための重要な方策の一つである。したがって、その内容も、中 央集権的で、柔軟性の乏しいものになりやすい。しかし、インクルーシブ教育の推進 には、教育システム全体や、学級・学校レベルでの多様性に処すことのできる柔軟性 のあるカリキュラムが求められる。特に障害や少数言語使用、貧困、就労等の様々な 困難な状況にある児童のニーズに対して、教育の質を保ちながらも、教育の妥当性を 高めるためのカリキュラムの柔軟性を高めることができるかどうかは、未就学児童を、 通常の学校システムに就学させようとする場合に、大きな要因となりうる。ユネス コの初期のインクルーシブ教育に関するコンセプトペーパー『Overcoming Exclusion through Inclusive Approaches in Education』も、この点を強調し、ウガンダにおける 半遊牧民の児童に対する、その生活に沿った柔軟なカリキュラムの運用が、正規教育 に対する彼らの反発を和らげ、就学促進に効果があった事例を紹介している(UNESCO 2003)。上記のユネスコ「インクルージョンガイドライン」や「政策ガイドライン」では、 カリキュラムにおける学習内容の柔軟性だけではなく、個別の学習者のニーズに沿っ て、特定の科目習得に関する生徒の学習時間や教科書・教具の選定、教育方法に関す

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る教師の現場での判断の自由度を高めることが、インクルーシブ教育を実現するため に必要である、としている。そして、そのような柔軟なカリキュラムこそが、多様性 を内包する学級・学校において、理想的なだけでなく、現実的なカリキュラムのあり 方であると述べている。さらに、ウガンダの事例にも見られるように、途上国におい ては、児童の生活ニーズ、特に職業的経済的ニーズにいかにカリキュラムが対応して いるかが、重要との指摘もある。そして、このような多様性に対して柔軟なカリキュ ラムは学生の学習達成度の評価においても、単に知識や認知的能力の評価に偏ること なく、個々の学生の状況と能力・特性に合わせた評価を行うべきであることが示唆さ れている(UNESCO 2005; UNESCO 2009)。

ただ、インクルーシブなカリキュラムにおいて、重要なことは、柔軟性だけではない。 上記のガイドラインのいずれもが強調していることは、そのカリキュラムの内容が、 非差別の原則、多様性と寛容の尊重、人権と責任等の理念を含んでいるか、そしてカ リキュラム全体の内容が、そうした価値と抵触しないか、ということである(UNESCO 2003; UNESCO 2005; UNESCO 2009)。南アフリカにおいては、アパルトヘイト後の 1996年憲法の理念が、教育政策の形成にも大きな影響を持ったため、このような概念 が整合性をもったインクルーシブなカリキュラム作成が行われたという報告もあった

(Naicker 2006)。しかし、多くのサブサハラアフリカ諸国では、紛争や人権の侵害に

おいて厳しい状況にある国も多く、カリキュラムに上記のような理念が明確に示され ることが難しい国も多いのではないか。

インクルーシブなカリキュラム作成において、さらに興味深い指摘は、成果物とし てのカリキュラム自体ではなく、カリキュラム作成の過程こそ重要との指摘である。 これは、ユネスコのガイドライン文書には明示されているわけではなく、2008年の 国際教育会議に向けて、ルワンダのキガリで開催されたワークショップに提出された 報 告 書『Inclusive Education-Within the Reform Process of 9 Year Basic Education in

Africa』において、強調された考え方である。この文書では、様々な関係者との協議

を十分に行い、合意を形成していく過程こそが、インクルーシブなカリキュラム作成 のために不可欠だとしている(UNESCO International Bureau of Education 2007)。サ ブサハラアフリカの国々において、カリキュラムの作成が、外国・国際機関からの援 助に伴う、国際的なスタンダードにのみ沿ったものになっていないか、あるいは中央 集権的な上意下達の過程になっていないか、教育に関係する様々な関係者、特に特別 な教育ニーズを有する人々との協議を経て作成されているか、をインクルーシブ教育 の観点から確実にすることが求められている。

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.インクルーシブ教育のための教員養成・現職教員の訓練

インクルーシブ教育を実現するためには、この理念を理解し、この理念に沿った態 度で生徒・地域社会と向き合い、十分な技能・キャパシティを有する教員の存在が欠 かせない。また、こうした教師を支援する環境の整備も重要な課題である。ユネスコ

「政策ガイドライン」では、児童中心型の教授法を教師が習得しているか、多年齢の

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クラスに対応できるような教授法がとられているか、初等教育低学年での母語での授 業に教師が対応できているか、教師が親や市民社会との協力できる環境にあるか等の 様々なチェックリストを設けて、インクルーシブ教育を実現するための一般的なスタ ンダードを示そうとしている(UNESCO 2009)。

また、学級レベルでの現実的なインクルーシブ教育の実現を目指して、ユネスコア ジア太平洋地域教育事務局は、2006年から2009年にかけてツールキット『Embracing Diversity: Toolkit for Creating Inclusive, Learning-Friendly Environments』を開発・提 示している(UNESCO Asia and Paci¿ c Regional Bureau for Education 2006a, 2006b, 2009)。このツールキットは、学校における規則や罰則の運営方法、学生数の多いク ラスにどう対処するか、通常学級における障害児の教育法等、具体的な方策を挙げて、 インクルーシブ教育の実現を教員へのマニュアルの提示を通じて、現実的な形で支援 しようとしており、アジア太平洋域外からも、高い評価を受けている(Rieser 2008)。

しかし、サブサハラアフリカの公立学校の初等教育、特に教師のおかれた環境、賃 金や研修の状況を考えると、このようなチェックリストやマニュアルは、ないものね だりのウィッシュリストの観があることは否めない。

Agbenyega (2007) は、ガーナにおける教師100名を対象とした、特に障害者を対象

としたインクルーシブ教育に関する質問紙調査において、政策として進展しているイ ンクルージョンの方向性に対して、現場の教師が様々な懸念をもっていることを示し ている。そこに示された懸念は、「障害児が通常学級に入ると授業時間が十分に確保 できなくなり、シラバスを完全に終われない状況が生まれる」「障害のない学生の学 業成績を下げる可能性がある」「自分たちは障害児を教える十分な技能を有していな い」「教室は車椅子の使用者が入れるようになっておらず、点字の機材や大きな字で 書かれた教材等、学校に存在しない」「障害児教育の専門家の指導を受けられる可能 性も少ない」等と、大変に厳しい(p.52)。インクルーシブ教育を押しつける政府に対 しても、反発する結果が示されている。つまりは、教育全体のインプットの改善なく して、単にインクルーシブ教育を現場に強制しても、結果的に意味をなさない、と所 期の目的を達することはできないのである。

つまり、インクルーシブ教育の推進のためには、教員養成や教員研修を通じて、教 員一人ひとりのインクルーシブ教育に対する理解を進め、態度の変容を促すことが必 要になるということであろう。ただ、それだけでは十分ではない。多様性を教育の質 を高める要素として積極的に評価し、特別な教育ニーズを有する児童の学習環境だけ ではなく、教育システム全体にインクルーシブな方向への変容を迫る、そのような高 いレベルでの政治的決意と実行がなければ、教師はインクルーシブ教育を表面的に受 け入れても、実態を伴ったものにするのは難しく、インクルーシブな教育環境は成立 しない。

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.結語に代えて

1990年代から続くEFA運動の中、サブサハラアフリカにおいても初等教育の就学

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率はこの20年の間に相当に向上した。このような状況の中で、インクルーシブ教育 は理想ではなく、最後に残った障害児をはじめとする極端に困難な状況にある児童の 就学を促すために必要不可欠な現実的な施策であろう。しかし、インクルーシブ教育 のそうした機能的な側面を強調するあまり、インクルーシブ教育が本来有している多 様性を尊重し、差別や紛争のない寛容な社会をつくるという理念的・政治的な側面を 曖昧にしたり、軽視することは、結局はそのEFAへの機能的役割をも減じてしまう ことになろう。

EFAや貧困削減ではなく、サブサハラアフリカ諸国において危急の課題である民主 化や平和構築において、インクルーシブ教育は一定の役割を果たすことができるので ある。国際社会も、そうしたインクルーシブ教育の政治的役割にも十分に留意しなが ら、サブサハラアフリカのインクルーシブ教育の推進に関わっていくべきであろう。 謝辞

本稿の論考は、科学研究費基盤研究A「東・南部アフリカ諸国におけるコミュニ ティの変容と学校教育の役割に関する比較研究」(研究代表者:澤村信英大阪大学教授) によるマラウイ・ケニア現地調査での考察がもとになっている。関係者に深く感謝し たい。

参考文献

黒田一雄(2008)「障害児とEFA−インクルーシブ教育の課題と可能性」小川啓一・西村幹子・ 北村友人編『国際教育開発の再検討−途上国の基礎教育普及に向けて』東信堂、214-130 頁.

国立特殊教育総合研究所 「サラマンカ声明」

http://gauguin.nise.go.jp/db1/html/h06_06.html、2010年12月26日.

Abosi, O. & Koay, T. L. (2008) Attaining Development Goals of Children with Disabilities: Implications for Inclusive Education. International Journal of Special Education, 23 (3), 1-10. Agbenyega, J. (2007) Examining Teachers Concerns and Attitudes to Inclusive Education in

Ghana. International Journal of Whole Schooling, 3 (1), 41-56.

Balescut, J. & Eklindh, K. (2006) Historical perspective on education for persons with disabilities. Background paper for EFA Global Monitoring Report 2006.

Department of Education, Republic of South Africa (2001). Education White Paper on Special Needs Education: Building an Inclusive Education and Training System. Pretoria: Government Printers.

Ministry of Education, Republic of Kenya (2009) The National Special Needs Education Policy Framework. Nairobi: Ministry of Education.

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Naicker, S. (2006) From Policy to Practice: A South-African Perspective on Implementing Inclusive Education Policy. International Journal of Whole Schooling, 3(1), 1-6.

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Peters, S. J. (2004) Inclusive Education: An EFA Strategy for All Children. Washington, D.C.: The World Bank.

Rieser, R. (2008) Implementing Inclusive Education A Commonwealth Guide to Implementing Article 24 of the UN Convention on the Rights of People with Disabilities. London: Commonwealth Secretariat.

UNESCO (2003) Overcoming Exclusion through Inclusive Approaches in Education - A Challenge and a Vision. Paris: UNESCO.

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UNESCO (2010) EFA Global Monitoring Report 2010 Reaching the Marginalized. Paris: UNESCO UNESCO Asia and Pacific Regional Bureau for Education (2006a) Positive Discipline in the

Inclusive, Learning-Friendly Classroom A Guide for Teachers and Teacher Educators, Embracing Diversity: Toolkit for Creating Inclusive, Learning-Friendly Environments Specialized Booklet 1. Bangkok: UNESCO.

UNESCO Asia and Paci¿ c Regional Bureau for Education (2006b) Practical Tips for Teaching Large Classes A Teacher’s Guide, Embracing Diversity: Toolkit for Creating Inclusive, Learning- Friendly Environments Specialized Booklet 2. Bangkok: UNESCO.

UNESCO Asia and Pacific Regional Bureau for Education (2009) Teaching Children with Disabilities in Inclusive Settings, Embracing Diversity: Toolkit for Creating Inclusive, Learning- Friendly Environments Specialized Booklet 3. Bangkok: UNESCO.

UNESCO International Bureau of Education (2007) IBE-UNESCO Preparatory Report for the 48th ICE on Inclusive Education within the Reform Process of 9-Year Basic Education in Africa.

UNESCO International Bureau of Education (2008a) Preparatory Conference of the African region for the 48th session of the International Conference on Education (ICE) Inclusive Education: Major Issues and Priorities in Africa Concept Paper.

UNESCO International Bureau of Education (2008b) Preparatory Conference of the African region for the 48th session of the International Conference on Education (ICE) Inclusive Education: Major Issues and Priorities in Africa Final Document.

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参照

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