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宮城教育大学機関リポジトリ 村上由則 特別支援教育専攻学生

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(1)

宮城教育大学機関リポジトリ

特別支援教育専攻学生を対象とした障害理解のため

の教材開発( 5) ―てんかんの理解を中心にした教材

著者

村上 由則, 大江 啓賢, 菊池 紀彦, 八島 猛

雑誌名

宮城教育大学特別支援教育総合研究センター研究紀

11

ページ

23- 33

発行年

2016- 06- 01

U

RL

ht t p: / / i d. ni i . ac . j p/ 1138/ 00000722/

(2)

< 研 究 報 告 >

特 別 支 援 教 育 専 攻 学 生 を 対 象 と し た 障 害 理 解 の た め の

教 材 開 発

(

5 )

一てんかんの理解を中心にした教材一

村 上 由則 ( 宮城教育大学)

大 江 啓 賢 ( 山形大学)

菊 池 紀 彦 ( 三重大学)

八島 猛 ( 上 越 教 育 大 学 )

要約

特別支援教育専攻学生の指導では、対象とする障害児・者が活用する機器・道具を提示し、

その使用法解説とともに「困難」の理解を促している。しかし病弱教育領域では、困難理解

につながる「病気体験」は、健常学生にはできない。そこで担当教員は療養生活の映像資料

等を活用し、病気の影響や困難をイメージさせる方法をとることが多い。本研究では、てん

かん発作の発生メカニズムを擬似的に示した「事物教材J と、発作による「意識レベルの低

下 」 と そ れ が も た ら す 「 情 報 の 欠 落 状 況 の 体 験 ・ 体 感 型 教 材j を取り扱った。「事物教材」 の作製過程を通じて神経活動のバランスとその乱れとしての「てんかん発作J の理解が、一

方、「状況体験教材」では適応上の困難の理解が促されることが示唆された。これに加えて、

てんかん発作による「感覚障害の体験」についても報告した。

1. はじめに

特別支援教育における病弱教育・肢体不自由教育領域は、慢性疾患・難病・運動障害の児

童生徒への教育的支援を取り扱う。その基盤知識として、「心理・生理・病理」の授業が設 定されている。

一般に「心理・生理・病理J として一括して取り扱われるが、病弱児・肢体不自由児の「心

理J は、「生理・病理J 的側面と深い関連をもちつつも独立した様相を示す( 村上 1997) 0

病理的困難を解消するための治療・管理が、子どもの生活・行動に影響を与えると共に、逆

に生活・行動が治療・管理に関与し結果として病状に作用すると考えられる。これらの揮然

一体となった蓄積が、教育現場で教師が直面する子どもの「心理J 特性として現れると推測

される( 村上2006,2011 ,2015) 。

例えば、「てんかんは、脳のニューロンの過剰放電による反復性の発作を主な症状とする

慢 性 の 脳 疾 患 で あ る 。 て ん か ん 発 作 は , 全 般 発 作 と 部 分 発 作 に 区 分 さ れ る 。 て ん か ん 症 候

群は,原因となる脳の障害の有無により症候性と特発性に別れ、発作焦点との関連で局在か

全般かに区分される」。授業で取り扱う情報としては、 I J ( 括弧) 内記述で十分である。

3

q

(3)

しかし、てんかん発作のある子どもは、発作による情報の欠落により学習・日常生活上の困

難をかかえており、生命の危機に直結するような事態に直面する可能性もある。教育現場で

教師の前に現れるのは、不安定な病状とその心理的状態を抱えた子ども、生活上の困難( 教

育的ニーズ) をもっ子どもである。将来教師となる特別支援教育専攻の学生にとっては、そ

の 困 難 の 一 部 で あ っ て も 体 験 す る こ と は 、 子 ど も の 困 難 と 教 育 的 ニ ー ズ を 認 識 し 、 指 導 内

容・方法を考える上で重要である。

II. 問題と目的

特別支援教育専攻学生の指導に際しては、従来、支援対象である障害児・者の困難を理解

しそれに応じた対応・支援をすることが基本である。障害の特性上、感覚・情報系障害にお

いては、キャップハンディ体験や対象障害児・者が活用するさまざまな機器や道具を提示し、

困難理解の促進と共に実際的使用法の解説がなされてきており、指導上大きな意義がある。 運動障害系領域においても、可動域制限体験グッズにおいて「困難」の一部で、あっても体験

するとともに、生活補助具などを活用することで、支援の視点の理解を促すなどの指導効果

をあげている。

一方知的障害を含む発達障害領域においては、障害当事者との協力のもとに「文字の見え」

など C G画 面 に 再 現 す る な ど に よ り 、 そ の 認 知 的 困 難 を 再 現 し よ う と す る 試 み が な さ れ て

いる。また、対象障害児・者への直接的働きかけにより、その行動変容等を促す難しさを直

接体験することにより、認知・理解の困難や情緒的な安定性の維持の難しさを、学生は間接

的にではあるが理解することができる。

しかし病弱教育領域では、病気の児童生徒の困難理解につながる「病気体験J は、健常学

生にはできない。そこで病弱教育領域担当教員の多くは、病院等の見学、身体機能や病気療

養 生 活 を 取 り 扱 っ た 資 料 等 を 活 用 し 、 学 生 に 病 気 の 児 童 生 徒 の 困 難 を イ メ ー ジ さ せ る 方 法

を中心として授業を展開している。とはいえ病弱児の体験するであろう困難、時息発作によ

る「呼吸困難」や糖尿病児の自己注射の際の「不安j 等の体験は単に治療上の嫌な体験に留 まることなく、その子どもたちの心理状態に大きな影響が及ぶことは容易に想像できる。

そこで、擬似的で、あっても病気の児童生徒の困難理解を体験・論理的推論を可能にするこ

とをめざして、われわれは「体験・体感」でき、しかも学生が「作製J 可能な教材開発と、

それを活用した授業例を提示してきた( 村上ほか,2012,2013,2014,2015) 0

本研究では、「てんかん発作」をテーマとして設定し、その状況と認知障害や適応行動の

困難、その抑制・改善のための支援にかかわる授業内容を取り上げ、専攻学生が「てんかん J

の基本的メカニズムと、てんかんをかかえた子どもの生活・行動上の困難( ニーズ) を深く 理解するための教材開発と授業形態を取り扱った。

4

.

司,

(4)

III. 方 法

1. 対 象 疾 患 ・ 困 難 状 況

脳 ニ ュ ー ロ ン の 過 剰 発 射 活 動 と さ れ る 「 て ん か ん 発 作J を対象児・者の生活行動上におい

ては「意識レベルの低下j として捉え、適応上必要な「情報の欠落」が生じる状況( 村上

2001)

と理解する。このニューロン過剰発射と「情報の欠落j の メ カ ニ ズ ム を 可 視 化 及 び 体 験 ・ 体 感できる教材を検討対象とする。

ここでは「情報の欠落j 体験を主たる目的としたプロトタイプ・モテ、ルを提示するが、そ れを受けての試作モデ、ルには、「てんかん発作の発生」メカニズムの可視化や「情報の欠落J

により生じる「違和感・混乱・不安感」の体験・体感モデ、ノレも提示するD

2. 手続き

村 上

( 1998

2001)

に よ る て ん か ん 発 作 発 生 時 に 対 象 児 が 示 す 「 意 識 レ ベ ル の 低 下J と

それがもたらす「情報の欠落」に関する検討、および日本てんかん協会作成の解説用V T R

「てんかん発作の介助と観察J

( 1987)

の 映 像 資 料 を 参 考 に し て 、 プ ロ ト タ イ プ ・ モ デ ル を 作製・提示する。プロトタイフ0 ・モデ、ルに基づ、き、共同研究者および指導・授業において学

生が試作モデルを作製するとともに活用し、評価を行う。評価内容は、病弱「心理・生理・

病理」の授業等の目的との関連、メカニズムと「困難」の生じる原理的側面の理解、「困難J

の体験・体感にとっての有効性である。なお、評価方法は学生の口頭報告の記録とする。

N. プロトタイフ0 ・モデル

1. 資 料 等 の 分 析

て ん か ん は 、 脳 の ニ ュ ー ロ ン の 過 剰 放 電 に よ る 反 復 性 の 発 作 ( て ん か ん 発 作 ) を 主 な 症 状

とする慢性の脳疾患である。臨床観察上、発作がなければ、てんかんとは診断されない。て

んかん発作の分類とてんかん症候群の分類とは区別して考えられ、てんかん発作は、大きく

全 般 発 作 、 部 分 発 作 に 区 分 さ れ る 。 部 分 発 作 は 意 識 の 有 無 に よ り 単 純 部 分 発 作 と 複 雑 部 分 発

作 に 分 け ら れ る 。 一 方 、 全 般 発 作 は 、 欠 神 発 作 や 強 直 ・ 間 代 発 作 、 脱 力 発 作 、 ミ オ ク ロ ニ 一

発 作 な ど に 区 分 さ れ る 。 て ん か ん 症 候 群 は 、 原 因 と な る 脳 の 障 害 が あ る か ど う か に よ り 症 候

性と特発性に別れ、さらにその発作焦点との関連で局在か全般かに区分される。

て ん か ん 発 作 時 の 一 般 的 イ メ ー ジ で あ る 強 直 ・ 間 代 発 作 「 て ん か ん 発 作 の 介 助 と 観 察 」

( 1987)

は、けいれんと明確な意識の障害を示すので、「意識レベルの低下j とそれがもた

らす「情報の欠落j に つ い て 容 易 に 想 定 で き る 。 一 方 、 短 時 間 の 欠 神 発 作 は 、 詳 細 な 観 察 が な け れ ば 気 づ か れ な い こ と も あ るD し か し 短 時 間 で あ っ て も 一 過 性 の 認 知 障 害 を 伴 う こ と

があり、日常生活に影響を及ぼす可能性がある( 平林,

1995)

そこで、本研究における教材のフ。ロトタイプ・モデ、ノレは、てんかん発作すなわち「意識レ

ベ ル の 低 下J に よる 一過性の 認知障害 がもたらす日常生活上の 「情報 の欠落J を対象とする。

(5)

-2. プロトタイプ・モデルの作製( 担当: 村上)

( 1) プロトタイフ0 ・モデ、ルの概要

認知レベルにおける「情報の欠落」を擬似的に再現するともに、「情報の欠落j が引き起 こす生活行動上の困難を「体験J I体感」するモデルである。ブpロトタイプの「情報の欠落」

を擬似的に再現できる教材の素材は、 I C T 機 器 の 導 入 時 に 活 用 に つ い て ガ イ ダ ン ス す る

チュートリアル・ビデオ( 著作権期限切れ) である。手近でしかも「情報の欠落j を再現す るための編集が容易であることが選択理由である。

(2 ) プロトタイプ・モデ、ルの作製手順と活用

①原版となるチュートリアル・ビデオ ( 3分間) をコピーし、同一内容ファイルを 2本 準 備

する。一方を「現実情報」ファイルとし編集を加えない。他方には「情報欠落の状況J を再

現する編集を加え「情報の欠落」ファイルとする。

②「情報欠落の状況」は、本来のチュートリアル・ビデオにある I C T 機 器 の 操 作 等 の 情 報

が提示されている一部を動画編集ソフトで「カット」し、後続する部分と結合させる。これ

を複数回繰り返し、 1 本のビデオファイル( 約1 分 5 0 秒) として保存する。 Fi g. l お よ び

Fi g. 2 は、動画として再現される「情報の欠落j の状況とそれに対応する「現実情報」を示 している。

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鵠 鐙 酷 ・ 一 本λ曜 轟 韓 関

Fi g. l 情報欠落の状況

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苦言

お足ぷ品ぷ以忌l l J l 品

Fi g. 2 欠落した「現実情報」

③授業等では最初に「情報の欠落」ビデオを提示し、視聴する学生等に違和感をいだかせる。

次いで「現実情報j ビデオを提示し、「連続性が保たれ、切れ目なく進行すると仮定する現 実世界」は「認識している情報の連続体j であることを理解させる。

④「現実情報」と「情報の欠落」を図示し、欠落した情報部分を提示する。この理解に基づ

き、脳機能のなんらかの障害といった医療的側面が、適応に必要な「情報の欠落」を引き起

こすことを体験・体感させる。

v.

試作モデ、ルの作製と授業展開

て ん か ん 発 作 に よ る 生 活 行 動 上 の 困 難 と 想 定 さ れ る 「 情 報 の 欠 落J に関わるプロトタイ プ・モデ、ルに基づき、てんかん発作のメカニズ、ムの理解、てんかん発作と「情報の欠落J に

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(6)

関する医療的および患者に対する医療・対人的・教育的支援に関する知識情報とを総合し、

患者・患児のかかえる「困難」を学生が「理解J I体 験J I体感J す る こ と を め ざ し た 試 作 モ

デ、ルの作製を病弱「心理・生理・病理J に関わる授業、及びその周辺領域の授業において実

施した。

1. 試作モデ、ル- 1 - 1 ( 担当: 大江)

( 1) 授業構成の視点

「てんかん」に関する医療的知識情報を提示する中で、興奮性ニューロンと抑制ニューロ

ンのバランスの崩れにより、興奮性ニューロンの過剰な活性が生じ、通常の脳機能が維持で

きなくなるメカニズムを示す。そのうえで、「てんかん発作のメカニズムJ に関する教材作

製を行い、メカニズムの可視化と、メカニズムの理解を促す。これにより微細な細胞群であ

るニューロンにおける機能低下が、脳全体・他の身体部位の機能に影響を及ぼすこと、対象

疾 患 の 子 ど も の 認 知 機 能 や 生 活 状 況 に 対 す る 影 響 も 含 め て , 広 い 視 野 か ら 支 援 の 必 要 性 を

考える機会とすることを目的としている。

(2 ) 試作モデ、ル- 1の概要

Fi g. 3に示すように、 4 組の双子( イラスト) を興奮性ニューロン( 赤し1服) と抑制ニユ

ーロン( 青し1服) と想定し、「基本的にこの4 組 の 双 子 は 仲 良 しJ I けんかすると赤い服を着

た 方 が い つ も 勝 つJ Iけ ん か の 後 は 仲 直 り ま で ち ょ っ と 時 聞 が か か るJ ことを前提とした。

Fi g. 4は興奮性ニューロンと抑制ニューロンのバランスが保たれている「双子が全員仲良し」

の状態である。何らかの原因により興奮性ニューロンの過剰活性化が生じ、一部に異常電流

が発生した状態がFi g. 5であり、部分発作の状況を可視化している。 Fi g. 6は、部分発作が

全 般 化 す る 状 況 を 可 視 化 し た も の で あ る 。 メ カ ニ ズ ム 理 解 と 困 難 の 理 解 は 別 個 の も の で あ

るが、この作図の作業による前者の理解が、後者につながることが想定される。

くイラスト: YUKA. H>

畳場人物

双 子A 双 子B 双 子C 双子D

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A1ちゃんA2ちゃん 81ちゃん82ちゃん C1<ん C2<ん 01<ん 02<ん

Fi g. 3 双 子 ニ ュ ー ロ ン モ デ ル Fi g.4 安 定 状 態

Fi g. 5 部 分 発 作 の 状 態 Fi g. 6 全 般 発 作 の 状 態

I

今,

(7)

2. 試作モデ、ル- 2 ( 担当: 八島)

(1) 授業構成の視点

授業の前半部では、てんかん発作について発生メカニズム、発作の誘発因子の多様さとそ

の複合的作用について、さらに複雑さゆえの「発作予測」の困難と患者の抱える不安感につ

いて概説する。後半部では、「発作予測の困難さとその不安の体感」する教材作製を実施す る。体感する内容として、①不確定な誘因による発作の生起,②単一の誘因による発作の生

起,③複合した誘因による発作の生起,④各誘因の組み合わせの違いによる発作の生起,⑤

発作の生起が予測できないことに対する不安、等を想定している。

(2) 試作モデ、ル- 2の概要

てんかん発作発生にかかわる誘発因子の多様性・複合性、それに起因する予測困難と不安

感を体験・体感するモデ、ノレで、るO 材料は、ポリ容器・大、ポリ容器・小、画鋲、ダブルクリ

ップ、水風船、乾電池各種であり、 100 円ショップで購入可能である。

ホ。リ容器・大を脳内に見立て、ポリ容器・小( ニューロン群の小集団と仮定) と画鋲の組

み合わせを「ニューロン群の興奮」と恕定する ( Fi g. 7) 0 ポリ容器・大の内部でポリ容器・

小を保持するダブルクリッフ。を抑制性介在ニューロン群 ( Fi g. 8) と考え、水風船の破裂を

発作の生起とする。

Fi g. 7 ニューロン群の興奮 Fi g. 8 抑制性介在ニューロン群

乾電池各種の組み合わせで構成された誘因( ストレス・疲労・発熱・服薬の中断・成長・

その他の不確定要因) により、抑制性介在ニューロン群( ダブルクリップ) により保持され ていた興奮・抑制バランス「ニューロン群の適度な興奮( ポリ容器・小と画鋲) J が維持で

きず、落下し発作( 水風船の破裂) に至る ( Fi g. 9) 。

Fi g. 9 興奮・抑制バランスの崩れと発作( 風船の破裂)

(8)

脳 内 の ニ ュ ー ロ ン 活 動 の バ ラ ン ス を 視 覚 化 す る と と も に 、 誘 因 と 仮 定 す る 乾 電 池 の 種 類

や組み合わせにより、ポリ容器・小( ニューロン群の小集団) がし、つ落下するか予測できな

い状況が不安感の体験となる。

V

I.

プロトタイプを拡張した体験・体感型の授業構成

てんかん発作により生じる生活行動上の困難は、意識あるいは認識レベルの困難で、あり、

われわれがこれまで報告してきた( 村上ほか,

2012

2013

2014

2015)

身体性・身体感覚をも

っ体験・体感とは異なる。この困難を擬似的に体験・体感することは「情報の欠落」を経験

することであり、「現実世界J と対象児・者が認識する l'情報世界」の甑酷であり、適応上

の困難である。以下では、プロトタイプを拡張した教材を用いた体験・体感型の授業構成に

ついて報告する。なおここでいう教材とは「事物J 1物体」のみを示すものではなく、授業

構成のために意図的に準備された「状況」も含めることとし、「状況」モデルと呼ぶ。

1. 試 作 「 状 況 」 モ デ ル - 1 ( 担当: 菊池)

( 1) 授業構成の視点

て ん か ん の あ る 子 ど も の 学 校 生 活 を 中 心 に し た 日 常 生 活 に お い て 遭 遇 す る 困 難 「 て ん か

ん発作の発生とその後の対人関係上の難しさJ を題材にした、福祉関係ビデオの視聴と、そ

のビデオに基づき教員と討論を行う形式である。素材としたビデオは、 l'情報の欠落」が起

きるように意図的に編集されている。

(2 ) 試 作 「 状 況 」 モ デ ル- 1の概要

① て ん か ん の あ る 子 ど も の 日 常 生 活 の 様 子 と 、 そ こ で 遭 遇 す る て ん か ん 発 作 に 起 因 す る 対

人 関 係 上 の 困 難 、 そ の 状 況 に 対 す る 家 族 や 周 囲 の 人 た ち の 支 援 と 対 象 児 の 変 容 を 取 り 扱 っ たビデオを素材とする。

②上記ビデオから「周囲の人の支援」に関する部分をカットして編集したビデオを受講学生

に提示する。その後に、「周囲の人の支援」についての内容が視聴ビデオに含まれているか のような前提で、グループ。ワーク・ディスカッションを行うように指示する。

③この指示により生じる担当教員に対する「違和感J 1怪訪な感' 情J を体験・体感した後に

「ネタばらし」を行い、意図的編集と「違和感」についての意味を解説するD

④意図的編集を告げる前、学生は「菊池先生( 担当教員) は何を言っているのか?J とし、、っ た表情を浮かべ、学生同士でヒソヒソ声で話した後に、「周囲の人の支援J に関する内容は、

ビデオに含まれていなかったので、グループ。ワーク・ディスカッションはできない、と発言す

る場面が観察された。ネタばらしの後、「菊池先生が言っていることがおかしいのか、自分

自身が間違っていたのか不安に思ったJ との発言も見られた。

⑤ こ の よ う に 、 て ん か ん の あ る 人 た ち は 意 識 レ ベ ル が 低 下 す る こ と が あ り 「 連 続 し た 情 報

( 線) が、断線した情報( 点) として認識される可能性がある」ことを知る。言い換えれば、

学生たちは「てんかん」の理解を促すビデオを活用して、「てんかん発作」の生活行動上の

困難を体験したことになる。

司,

(9)

2. 試作「状況」モデルー 2 ( 担当: 大江)

(1) 授業構成の視点

仮想的にスライド内で展開する「実習の振り返り」において、てんかん発作により童話の

ストーリーの一部が欠落することで、てんかんのある子どもと周囲の子どもたちの聞に、童

話 に 登 場 す る 人 物 の キ ャ ラ ク タ 一 理 解 が 相 反 す る 状 況 を 提 示 す るO てんかんのある子ども の「情報の欠落J に関与する病理的メカニズムの理解と討論を通じ、登場人物に関する「相 反するキャラクター理解」の発生要因を理解する構成である。

(2) 試 作 「 状 況 」 モ デ ル- 2 の概要

①有名な童話の紙芝居を素材に、ストーリーの一部が欠落すると、登場人物のキャラクタ一

理解が相反する状況を示すビデオを作製する。

② 幼 稚 園 実 習 の 振 り 返 り の 場 面 を 学 生 に イ メ ー ジ さ せ 、 実 習 場 面 で 起 き た 、 あ る 子 ど も の

「登場人物のキャラクタ一理解」がほかの子どもたちと相反した場面を、スライド、を使って

展開するO

③ さ ら に ス ラ イ ド で は 、 こ の キ ャ ラ ク タ 一 理 解 の 困 難 の 背 景 を 理 解 す る た め の 病 理 的 メ カ

ニズムの情報収集を経てその後のデ、イスカッションへと続き、てんかん発作( 欠神発作) に

よる「情報の欠落j と適応上の困難について知る内容となっている( Fi g. 10 参照) 。

うん!これですっきりまとまったね! でも. . 実際lこCちゃんはどんな紙芝居を見

ていたんだろう. . . シミュレーションして確かめてみよう!

E

11 回

Fi g. 10 I情報の欠落」が生じる病理的情報と対象児の行動に関する理解

VII. 発作による感覚障害の疑似体験教材

1. 発 作 に 起 因 す る 感 覚 障 害 の 体 感 - 1 ( 担当: 八島)

(1) 聞き取り対象と内容

対象は小学 4 年生・女児で、早朝および睡眠導入時に発作が頻発する。対象児によると「発

作が朝にあった日は、学校で思うように体が動かない。両手の感覚がとても鈍く、まるで軍

手をはめているようだ。J としている。

( 2 ) 体験・体感教材

材料は軍手 3 組で、この軍手を 3 重にしてはめ折り紙を実施する。複数枚が一部重ねて置

いである中から、 1枚を取り出すことが難しい口また、角を合わせた直線を折ることや、い

っ た ん 折 っ た と こ ろ を 見 開 き に す る こ と が 難 し い 。 日 頃 は 困 難 を 感 じ る こ と な く で き る こ とが「発作のあった日には難しくなること」の対象児の報告に基づいた体験・体験教材であ

る ( Fi g. 11 参照)。

υ

(10)

Fi g. 11 指先の細やかな感覚が障害された状況の体験

2. 発 作 に 起 因 す る 感 覚 障 害 の 体 感 - 2 ( 担当: 菊池) (1) 対象と内容

てんかん発作の発生前・最中・終息後における身体的変調、特に感覚・知覚の特異な体験

はさまざま報告がある。視覚発作により生じる特異な視覚体験もそのひとつであり、点や星

型、線や円形など、いろいろな形が見える、それも白黒であったり、色付きであったりする

( てんかんi nf o,2016. 4. 10 最終閲覧) 口

(2 ) 体験・体感教材

患者の報告にある「多様な物が入り交じって見えるj 状況の体験・体感には、プリズムが 利用される。また、「物がゆがんで見えるJ 1視野の欠損が生じるJ 状況は、眼鏡に歪みをつ けるシールを貼ることや、左右のいずれかの視野を覆う、ンールを貼ることにより体験・体感

可能である。これらの材料は 100 円均一ショップで入手可能である ( Fi g. 12 参照) 。

Fi g. 12 視覚発作による特異な視覚体験を擬似体験する教材

VIII. 考 察

本研究では、てんかん発作による「意識レベルの低下J とそれがもたらす l' 情報の欠落J

に関するプロトタイプ・モデルを提示し、その作製・改善とそれを使用した授業の一部を報

告した。内容は、てんかん発作の発生メカニズムを擬似的に示した「事物教材J と、「情報

の欠落状況の体験・体感型教材J、てんかん発作による「感覚障害の体験」の三つに区分さ

れる。てんかん発作による「感覚障害の体験」は、患者それぞれにより異なると想定される

ので、「事物教材」と「状況体験・体感型教材J について検討する。

1. 事物教材とてんかん発作のメカニズムの理解について

「事物教材」の作製により、てんかん発作発生メカニズムの理解を促す教材は、 2種 類 提

案された。ひとつは、これまでの一連の研究では取り扱われてこなかったイラストを活用し

たメカニズム理解教材で、ある。市販の日用品等を素材として教材を作製とは異なり、 P C内

のアプリケーションを活用し、アプリ標準装備の素材に多少の変更を加え、その組み合わせ

(11)

に よ り ス ト ー リ ー 展 開 す る こ と で 、 神 経 活 動 の バ ラ ン ス と そ の 混 乱 を 学 生 自 ら が 描 く こ と

で理解する仕組みとなっている。

ふたつ目は「発作の予測」の困難および発作の誘発要因の複合性・複雑性に着目したもの

である。誘発要因を構成する物体の重さやその組み合わせにより、バランスゲームにも似た

状況が突然崩壊する状況は、作製とともにその活用場面でも、予測の難しさのみならず、発

作が「し、つ起きるかも知れなし¥J 患者の不安感を体験・体験することができる。

い ず れ も 学 生 に よ る 作 製 と 実 施 の 体 験 を 重 視 し た も の で あ り 、 特 に 前 者 は 学 生 た ち 自 身

により考案されたものであり、てんかんに限らず適用範囲は広いと想定される。 2. 状 況 モ デ ル と 「 情 報 の 欠 落 」 の 理 解 に つ い て

プロトタイプを拡張した「情報の欠落」を扱った試作モデルは、 2 種類である。ひとつは、

「てんかん」のある子どもを主人公として、発作による対人関係上の困難とその解消・克服

のための支援、対象児の行動変容を取り上げた福祉関係ビデオを素材としている。本来は内

容に含まれている「支援部分」を意図的にカットしたものを視聴させ、「支援部分」に関す るグループ。ワーク・ディスカッションを求めた教員( 教材作製者) に対する違和感を引き起

こしている。その後に、仕組みを公表することで「情報の欠落」の引き起こす適応上の困難

を体験・体感させている。

ふたつ目は、誰もが知っている童話を素材に、ストーリーの一部を意図的にカットするこ

とで内容が逆転する状況を生み出し、「情報の欠落」の引き起こす適応上の困難を体験・体

感させている。ただし、このふたつ目の教材は、イラストを活用して受講学生が作製する過

程が組み込まれており、体験・体感のみならず作製過程における学生の論理的推論と作製作

業が含まれることになる。

い ず れ も 学 生 に よ る 実 際 の ワ ー ク シ ョ ッ プ や デ ィ ス カ ッ シ ョ ン 、 さ ら に は 作 製 過 程 に お

け る 違 和 感 の 共 有 を 重 視 し た も の で あ り 、 プ ロ ト タ イ プ に お け る 単 な る 認 知 的 体 験 の 範 囲

を拡張・拡大している。これに加えふたつ目は、「事物教材」としてのイラストの活用も取

り 入 れ ら れ て お り 、 上 述 の よ う に 取 り 扱 い が 容 易 で 教 材 と し て の 適 用 範 囲 は 広 い と 思 わ れ

る。

文 献

1.

平林伸一( 1

995)

: てんかんと認知障害,小児内科,

27( 8)

124- 127.

2.

村 井 憲 男 ・ 村 上 由 則 ・ 足 立 智 昭

( 2001)

: 気になる子どもの保育と育児,福村出版.

3.

村上由則( 1

997)

: 慢性疾患の病状変動と自己管理に関する研究,風間書房.

4 . 村 上 由 則

( 1998)

: てんかん児の行動観察システムの開発に関する研究,科学研究費補助

金成果報告書,宮城教育大学.

5.

村 上 由 則

( 2001)

: てんかん発作と学校生活,発達障害研究,

23

22四

3

1.

6.

村上由則

( 2006)

: 小・中・高等学校における慢性疾患児への教育的支援,特殊教育学研

今,

h

(12)

究, 4 4, 144・15 1.

7. 村上由則( 2011) : 慢性疾患をもっ児の課題,小児慢性疾患のサポート( 五十嵐隆総編集・

楠田聡専門編集) ,小児科臨床ピクシス 2 6,6・8 ,中山書庖.

8. 村上由則( 2015) : 病 弱 ・ 身 体 虚 弱 , 特 別 支 援 児 の 心 理 学 ( 梅 谷 忠 勇 ・ 生 川 善 雄 ・ 堅 田

明義・編) 119・130,北大路書房刊.

9. 村上由則・八島猛・大江啓賢・菊池紀彦 ( 2012) : 特別支援教育専攻学生を対象とした

障害理解のための教材開発 ( 1 ) - I晴息発作J による「苦しさ」理解のための教材

宮城教育大学附属特別支援教育総合研究センタ一紀要,第7 号, 11・2 1.

10. 村上由則・大江啓賢・菊池紀彦・八島 猛 ( 2013) : 特別支援教育専攻学生を対象とし

た障害理解のための教材開発 ( 2 ) - 糖尿病・血友病等の「自己注射」場面を中心にし

た教材 ,宮城教育大学附属特別支援教育総合研究センタ一紀要,第8 号, 33- 46.

11 . 村上由則・八島 猛・大江啓賢・菊池紀彦 ( 2014) : 特別支援教育専攻学生を対象とし

た障害理解のための教材開発 (3 ) - 血友病性関節症等による「痛みJ 場面を中心にし

た 教 材 宮 城 教 育 大 学 附 属 特 別 支 援 教 育 総 合 研 究 セ ン タ 一 紀 要 , 第9 号, 17・26.

12. 村上由則・八島 猛・大江啓賢・菊池紀彦 ( 2015) : 特別支援教育専攻学生を対象とし

た障害理解のための教材開発 ( 4) 一人工透析メカニズムおよび腎臓疾患を中心にした

教 材 宮 城 教 育 大 学 附 属 特 別 支 援 教 育 総 合 研 究 セ ン タ ー 紀 要 , 第 10 号, 4 9・61.

13. 村上由員I j I 特 別 支 援 教 育 ユ ビ キ タ ス ・ 教 材 ラ イ ブ ラ リ J,ht t p: // kvozai - l i b. mi vakvo-1l . ac. i p/ i ndex. php?mr・k m= l

14. メルクマニュアル第18 版・日本語版, ht t p: / / mer c k manual. i p/ mmpei / i ndex. ht ml ( 最

終閲覧,2016.4. 17)

15. メルクマニュアル医学百科・家庭版, ht t p: / / www. mer c kmanual s . j p/ homel i ndex. ht ml ( 最終閲覧2016. 4. 17)

16. 日本てんかん協会 ( 1987) : V T R I てんかん発作の介助と観察J ( 八木和一監修) •

17. てんかんi nf o HP. ht t p: / / www. t enkani.nf o/. I発作についてJ (4. てんかんが起こる前兆

はどんなものがありますか? ) , ( 最終閲覧,2016. 4. 10)

く付記1 > 本研究は、 J S P S 科 研 費 : 26381304 の助成を受けたものである。

< 付記2 > 本研究の一部は、日本特殊教育学会第 53 回大会( 東北大学, 2015. 9) 自主シン

ポジウムで発表・議論した。

司、

d

参照

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