基礎統計学(第
9
回)
4.4
確率の算出
[確認課題12] 「標本空間と標本点(再掲)」
サイコロ1個を2回投げ、出た目を(1回目,2回目)と表す。このとき、
(a) 標本空間Sを表せ。
(b) サイコロの出目の和が7になる確率を求めよ。
(c) 1回だけ3の目が出る確率を求めよ。
(a) 標本空間Sを表せ。
S = {(1, 1), (1,2), (1, 3), (1, 4), (1, 5), (1, 6),
(2, 1), (2, 2), · · · ·, · · · ·, (6, 5),(6, 6)}
であるから、出目の組合せは36通りある。
(b) サイコロの出目の和が7になる確率を求めよ。
サイコロの出目の和が7となる事象をAとすると、
A = {(1,6), (2, 5), (3, 4), (4, 3), (5, 2), (6, 1)}
となるから、確率P(A) は、P(A) =
6 36 =
1
6 となる。
(c) 1回だけ3の目が出る確率を求めよ。1回だけ3の目が出る事象をBとすると、
B = {(1, 3), (2, 3), (3, 1), (3, 2), (3, 4), (3, 5),
(3, 6), (4, 3), (5, 3), (6, 3)}
となるから、確率P(B)は、P(B) =
10 36 =
5
18 となる。
確率の算出においては、様々なタイプの事象を考えることができる。次に、その主なタイプについて説明する。
(1)余事象 · · · ある事象Aが起こらない事象であり、Aまたは A C
で表す。
P
A
= 1−P(A) (50)
つまり、標本空間Sにおいて、全ての標本点はAか Aのいずれかに属する。
(例) 3枚の硬貨を投げたとき、少なくとも1枚表が出る確率を求めよ。
少なくとも1枚表が出る確率をAとすると、Aの余事象Aは、「1枚も表が出ない」という事象であ
る。この確率P
A
は、P
A
=
1 2
3
= 1
8 であるから、
PA = 1−PA= 7 8
となる。
(2)積事象 · · · 複数の事象A1, A2, ,· · · , Anについて、それら全てが同時に起こる事象であり、A1∩A2∩· · ·∩An
で表す。積事象の確率は同時確率という。
(例) [確認課題12]において、「サイコロの出目の和が7」かつ「1回だけ3の目」が出る確率を求めよ。
「サイコロの出目の和が7」という事象をA1、「1回だけ3の目が出る」という事象をA2 とすると、
この積事象A1∩A2 は、
A1∩A2 ={(3,4), (4, 3)}
であるから、この積事象の確率P(A1∩A2)は、P(A1∩A2) =
2 36 =
1
18 である。
(3)和事象 · · · 複数の事象A1, A2, ,· · ·, Anについて、そのいずれかが起こる事象であり、A1∪A2∪ · · · ∪An
で表す。和事象については、次の加法定理が成り立つ。
[加法定理] 2つの事象A, B について、和事象A∪Bの起こる確率P(A∪B)は、以下の式で求められる。
P(A∪B) =P(A) +P(B)−P(A∩B) (51)
図4.2: 2つの事象における加法定理のイメージ
また、3つの事象の場合は以下の式で求められる。
P(A∪B∪C) = P(A) +P(B) +P(C)−P(A∩B)−P(B∩C)
−P(A∩C) +P(A∩B∩C) (52)
(例) [確認課題12]において、「サイコロの出目の和が7」または「1回だけ3の目」が出る確率を求め
よ。
それぞれの確率はP(A1) =
1
6 、P(A2) = 5
18 であるから、この和事象の確率P(A1∪A2)は、
P(A1∪A2) =P(A1) +P(A2)−P(A1∩A2) =
7 18
である。
[確認課題13] 「加法定理」
1から20までのそれぞれの数字を記した20枚のカードがある。このカードを1枚引いたとき、
(a) 引いたカードの数字が2で割り切れる確率を求めよ。
(b) 引いたカードの数字が3で割り切れる確率を求めよ。
(c) 引いたカードの数字が2または3で割り切れる確率を求めよ。
2つの事象が共通の標本点を持たない場合がある。このとき、AとBは互いに排反であるという。このこと
は、「一方が起こるとき、他方が起こらないこと」を意味していて、この積事象の確率は、
P(A∩B) = 0
となる。
加法定理より、和事象の確率を計算するためには、積事象の確率を計算する必要があることが分かる。この計
算を行うために、乗法定理という規則がある。この説明に入る前に、条件付き確率という考え方について示す。
[確認課題12]と同様にサイコロ1個を2回投げるという試行を例に、2つの事象A1「サイコロの1回目の出目
が3」、A2「出目の和が7以上」について考える。これまで、それぞれの確率P(A1)やP(A2)、積事象A1∩A2、
和事象A1∪A2 の確率を求めることを学んだ。先に述べたように、積事象の確率は同時確率と呼ばれていて、
複数の事象が同時に起こる ことを前提としている。ここで、サイコロを投げる前の時点ではなく、サイコロを
1回投げ終えた時点を考えると、事象A2の起こる確率は変わる。つまり、サイコロを投げる前の時点では、標
本空間Sとして、
S = {(1, 1), (1, 2), (1, 3), (1, 4), (1, 5), (1, 6),
(2, 1), (2, 2), · · · , · · · , (6, 5),(6, 6)}
が考えられたが、サイコロを1回投げ終えた時点では1回目の出目が判明している。仮に、事象A1が起こって
いるとすれば、その後の標本空間S′は、
S′={(3, 1), (3, 2), (3, 3), (3, 4), (3, 5), (3, 6)
となり、標本空間がSからS′に限定されていることが分かる。サイコロ1個を2回投げるという試行では、標
本空間が変わることにより、サイコロを投げる前の時点と事象A1が起こったときとで、事象A2が起こる確率
は異なる。このように、ある事象Aが起こったときに、別の事象B(A=B)が起こる確率を条件付き確率とい
う。事象Aについての条件付き確率P(B|A) は、以下の式で求められる。
P(B|A) = P(A∩B)
P(A) (53)
ただし、P(A)= 0である。なお、条件付き確率を周辺確率と呼ぶことがある。
[確認課題14] 「条件付き確率」
[確認課題12] において、事象A1「サイコロの1回目の出目が3」が起こったときに、A2「出目の和が7
以上」が起こる確率 P(A2|A1)を求めよ。また、事象A1′「サイコロの1回目の出目が5」の場合の条件 付き確率P(A2|A1′) を求めよ。
以上の条件付き確率の式(53)から、次の乗法定理が得られる。
[乗法定理] 2つの事象A, B について、積事象A∩Bの起こる確率P(A∩B)は、条件付き確率 P(B|A)を用
いて、以下の式で求められる。
P(A∩B) =P(A)P(B|A) (54)
これまでの説明において、「ある事象Aが起こったときに、別の事象Bの起こる確率が変わる」という場合
を示したが、「事象Aの起こる起こらないに関わらず、事象Bの確率が変わらない」という場合も考えられる。
このとき、事象Aと事象Bは独立であるという。事象AとBが独立であるとき、
P(B|A) =P(B) (55)
という式が成り立つ。また、(55)から、乗法定理の式(54)は、
P(A∩B) =P(A)P(B) (56)
と書き換えることができる。
(例) 袋に赤球3個、白球5個が入っている。この袋の中から1個の球を取り出して何色であるかと調べた後、
調べた球を元の袋に戻して、もう1度、1個の球を取り出す。このとき、1回目が白い球で、2回目が赤い
球である確率を求めよ。
「1回目の球が白」という事象をA1、「2回目の球が赤」という事象をA2 とする。この積事象A1∩A2 を
計算するにあたっては、事象A2が起こる確率に、事象A1の起こる起こらないは影響しないため、事象
A1とA2は独立であるとみなせる。したがって、この積事象の確率 P(A1∩A2)は、
P(A1∩A2) =P(A1)P(A2) =
5 8 ×
3 8 =
15 64
である。
(例) 袋に赤球3個、白球5個が入っている。この袋の中から1個の球を取り出して何色であるかと調べた後、
調べた球を 元の袋に戻さずに、さらに1個の球を取り出す。1回目が白い球で、2回目が赤い球である確
率を求めよ。
「1回目の球が白」という事象をA1、「2回目の球が赤」という事象をA2 とする。この積事象A1∩A2 を
計算するにあたっては、事象A1の起こる起こらないによって、事象A2の確率は変わることから、事象
A1とA2は独立でないとみなせる。したがって、この積事象の確率 P(A1∩A2)は、
P(A1∩A2) =P(A1)P(A2|A1) =
5 8 ×
3 7 =
15 56
である。
次の例(「ベイズの定理」への導入)について考える。
(例) ある製品Zにおける3社のシェアがA社40%、B社35%、C社25%であり、過去の各社製品の不良率
がA社20%、B社10%、C社30%であった。どの会社のものかが不明な製品Zを1個購入し、それが不
良品であった場合、この製品がA社製、B社製、C社製である確率を求めよ。ただし、製品Zの状態と
して、「良品」か「不良品」しかない存在しないものとする。
購入した製品Zがそれぞれの会社の製品である確率をP(A), P(B), P(C) とする。また、「その製品Z が不良品である」という事象をFで表し、各社の製品の不良率をP(F|A), P(F|B), P(F|C) とする。
不良品がそれぞれの会社の製品である確率P(A|F), P(B|F), P(C|F)は、条件付き確率の式(53)より、
P(A|F) = P(A∩F)
P(F) (57)
P(B|F) = P(B∩F)
P(F) (58)
P(C|F) = P(C∩F)
P(F) (59)
で求められる。ここで、事象Fの確率P(F)は、
P(F) =P(A)P(F|A) +P(B)P(F|B) +P(C)P(F|C) (60)
となる。(57)、(58)、(59)、(60)より、確率P(A|F), P(B|F), P(C|F) は、
P(A|F) = P(A∩F)
P(F) =
0.40×0.20
0.40×0.20 + 0.35×0.10 + 0.25×0.30 = 8 19
P(B|F) = P(B∩F)
P(F) =
0.35×0.10
0.40×0.20 + 0.35×0.10 + 0.25×0.30 = 7 38
P(C|F) = P(C∩F)
P(F) =
0.25×0.30
0.40×0.20 + 0.35×0.10 + 0.25×0.30 = 15 38
である。