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金属 Vol.86 (2016) No.4฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀77 (355)

齋藤 文良・矢野 雅文 

改ざんを含む究極の二重投稿論文と

その指摘に対する組織の不適切な対応

論 説

はじめに

 匿名投書が発端ではあったが2007 年末に,井 上明久氏(当時:東北大学総長)を著者とする論文 に不正疑惑が持ち上がった.東北大学による対応・ 調査報告書の公表,担当理事あるいは共著者によ る記者会見等が行われたが,すっきりとした解決 に至っているとは言い難い.その簡単・明瞭な理 由は,「疑惑を指摘された論文の実験結果について, 科学的裏付けを付した説明がなく,再現実験によ る立証もなされていない」からである.

  一 方, 例 え ば,2011 年 6 月 26 日,朝日新 聞

(社会面)で報じられたように,井上氏の学士院賞 審査要旨の業績リストの論文22 に挙げられてい るAmerican Institute of Physics(AIP)が発行する Applied Physics Letters Vo.76, No.8(2000), 967-969 に掲載の論文が二重投稿にあたるとして,公式に 撤回公告された.当該学士院審査要旨に掲載され ている他の複数の論文についても,適切な引用が なされていない二重投稿状態が認められること, 撤回手続きがなされた以外の約10 編の論文でも 二重投稿状態が認められている.二重投稿は立派 な研究不正である.また,匿名投書で指摘された 以外の複数の論文に研究不正疑惑が浮上してい る.これらは材料分野の研究者・学生,技術者にとっ て誠に残念なことである.

 本稿は,改ざん疑惑を含む極めて特異な二重投 稿論文の例を紹介する.また,この不可思議な内 容について筆者らが日本金属学会に対して行った 指摘に対する学会の対応についても紹介する.な

ぜなら,日本金属学会の対応は事実上の組織的な 不正隠蔽であり,我が国の学術の危機を強く感じる からである.もちろん,筆者らの間違い・勘違い等 については,遠慮なくご指摘いただければ幸いであ る.研究不正疑惑の解消に向け,読者からのご協 力を仰ぎたいと考え,本稿を寄稿した.

改ざんを含む究極の二重投稿論文と

掲載誌を発行する日本金属学会の対応

 井上氏を著者とする論文にはいくつもの二重投 稿論文が確認されている.その数が多く,かつ論 文誌を発行する学協会から「取り下げ・取り消し」 公告が続いたので,さすがに東北大学でも「研究 者の公正な研究活動の確保に関する調査検討委員 会(委員長:有馬朗人元東大総長)」を設けて審議 が行われ,2012 年 1 月 24 日付で井上氏に猛省を 求めている.ただし,この委員会も,付託された 事項は二重投稿問題のみに限定し,研究不正疑惑 に立ち入ることはなく,結局は井上氏の反省を示 す文書が大学を通じて出され,幕引されている. しかし,井上氏の論文には,詳細に見ると論文に 含まれるデータが巧妙に改ざんされており,単純 に,「うっかりミスで引用を忘れて同じデータを 別論文にも投稿してしまった(二重投稿論文)」と いう説明では疑惑が解消されないものが多い.そ の中でも,2000 年に日本金属学会欧文誌に掲載の

「疑惑対象論文」は,使用されている図表の全てが, 先行公表されたオリジナル元論文と“ほぼ”同一と いう,驚く内容である.“ほぼ”とは完全に同一だ と認定できない,改ざん疑惑を含む図もあること

(2)

78฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀金属 Vol.86 (2016) No.4

(356) から,このような表現にした.もちろん,文章も容

易に“コピぺ”と判定できる,酷似した内容である.

疑惑対象論文(以下,MT-JIM 論文と称する)= 本 誌3 月号での MT00 年 B 論文)

Enhancement of Strength and Ductility in Zr-based Bulk Amorphous Alloys by Precipitation of Quasi- crystalline Phase

A. Inoue, T. Zhang, J. Saida and M. Matsushita Materials Transactions JIM, Vol.41, No.11 (2000), 1511-1520.

(Received June 5, 2000; accepted September 4, 2000)

オリジナルと考えられる元論文(以下,JMR 論文 と称する)

Formation and properties of Zr-based bulk quasicrys- talline alloys with high strength and good ductility A. Inoue, T. Zhang, M. W. Chen, T. Sakurai, J. Saida and M. Matsushita

Journal of Materials Research, Vol.15, No.10 (2000), 2195-2208.

(Received February 7, 2000; accepted June 30, 2000)

 読者の方々に疑惑対象のMT-JIM 論文が「究極 の二重投稿」であると呼称するにふさわしいこと を理解いただくために,その内容を表1 にまとめ て示す.実は,疑惑対象論文のオリジナルだとす るJMR 論文の図にも疑惑が散見されるが,問題 点の指摘・説明があまりに複雑化するので,本稿 ではJMR 論文に認められる不自然な点は,原則と して触れないこととする.また,疑惑対象のMT- JIM 論文では,なぜか先行公表の JMR 論文の 22 の図のうちFig.9,1 枚のみが含まれていない.  この表1 にまとめられた結果だけでも,疑惑対 象のMT-JIM 論文は間違いなく JMR 論文の著作権 を侵害する二重投稿論文であり,「取り下げ」ある いは「取り消し」措置がなされて当然の内容である と思われる.また,科学論文として理解できない 不思議なことは,1)MT-JIM 論文の Table4 に“本 実験(This work)”と記された内容の一部(3 行)

が,Table5 のデータと同一であること,また,2) Table2 も Pd を 5%含む合金系のデータが含まれ ている違いがあるが,他の2 つの合金のデータは Table4,Table5 と同じであることである.1 つの 論文に同じ情報が3 ヶ所,表にまとめられている ことは通常はあり得ない.

 この疑惑対象論文が掲載されている日本金属学 会欧文誌(MT-JIM 論文)の Vol.41, No.11 は,通常 号ではなく「アモルファス金属に関する特集号」で ある.このMT-JIM 論文(Vol.41, No.11)の全ての 内容は,例えば各原稿の査読を含めて責任編集者

(井上明久氏)の下で行われている.すなわち,疑 惑対象論文の筆頭著者でもある井上氏の説明責任 は,責任編集者としても明確だと言わざるを得ない.  筆者らは,このMT-JIM 論文の理解し難い内容 について,2010 年 10 月に日本金属学会会長に伝 えた.しかし,当時の会長三島良直氏(現 東工大 学長)は,告発・要望・問い合わせに対してほとん ど沈黙に等しいものであった.その一方で,通知 してから1 年 2 ヶ月後の 2012 年 2 月に,突然,日 本金属学会欧文誌上に編集委員会アナウンスメン トが掲載された.その内容の主文は,以下のとお り驚くべきものであった.

Editor’s Announcement (Materials Transactions Vol.53 (2012), No.2 p.458)

Mater. Trans. JIM 41 (2000) 1511-1520

Enhancement of Strength and Ductility in Zr-based Bulk Amorphous Alloys by Precipitation of Quasi- crystalline Phase

A. Inoue, T. Zhang, J. Saida and M. Matsushita This article has been acknowledged as the secondary publication from the following previously published paper,

Formation and properties of Zr-based bulk quasicrystalline alloys with high strength and good ductility.

J. Mater. Res. 15 (2000) 2195-2208.

And thus, it shall not be regarded as an original paper

(3)

金属 Vol.86 (2016) No.4฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀79 (357)  この日本金属学会の編集委員会アナウンスメン

トは,「疑惑対象論文の(外形的)二重投稿状態を 確認し,オリジナル論文ではないと認定した」こと は明示されているが,その後には,例えば,「著者

が同じ内容をMT-JIM 論文として再投稿する許可 を,先のJMR 論文(J. Mater. Res.)の出版元に提出 を怠ったミスだ」と言い訳等が書かれているだけ で,取り下げもしない決定内容であった.もし再 MT-JIM, 41 (2000), 1511.

(疑惑対象論文) 受理日:June 5, 2000

JMR, 15 (2000), 2195.

(オリジナル論文) 受理日:February 7, 2000

各図表の元となっている図表データが認めら れる論文と,それらの相関

Fig.1 =Fig.1 =Fig.1 in MT-JIM, 40 (1999), 1137

Fig.2 =Fig.2 =Fig.2 in MT-JIM, 40 (1999), 1137

Fig.3 annealed at 705K for 60s Fig.3a(上下逆)

 Fig.3 annealed at 725K for 18s

Fig.3a(上下逆) Fig.5b annealed at Tx (720K) for 18s and Fig.4 a-c; annealed at Tx (720K) for 30s in MT-JIM, 41 (2000), 1505

Fig.4 annealed at 705K for 60s Fig.4 c-e: 特定できず

 Fig.4 annealed at 705K for 30s

Fig.4 c-e: 特定できず Fig.5f annealed at Tx (705K) for 30s in MT-JIM, 41 (2000), 1505.

Fig.5 =Fig.5 =Fig.5 in MT-JIM, 40 (1999), 1137

Fig.6  直 線 の 傾 き の 数 値 が 1.08,

1.73 のように微妙に異なる =Fig.6 直線の傾きの数値が 1.08,

1.73 のように微妙に異なる =Fig.6 in MT-JIM, 41 (2000), 1505;

Fig.3 in PML, 80 (2000), 737

直線の傾きの数値は,1.1, 1.7

Fig.7 =Fig.7 特定できず

Fig.8 横軸の単位,Ta−1/10−3K−1

変更 =Fig.8 横軸の単位,Ta−1/×10−3K−1特定できず

Fig.9

Fig.9 =Fig.10 特定できず

Fig.10 横軸の単位,2θ へ変更 =Fig.11 横軸の単位は,2θ/deg 特定できず

Fig.11 annealed at 705K for 60s =Fig.12 annealed at 705K for 60s =Fig.2 annealed at 670K for 7.2ks in APL, 75 (1999), 3497

Fig.12 =Fig.13 特定できず

Fig.13 =Fig.14 Fig.4 MSF, 360/362 (2001), 73

Fig.14 annealing at temperatures between 660 and 690K,横軸単位が 10−3K−1へ変更

=Fig.15 annealing at temperatures between 655 and 700K,横軸単位は

×10−3K−1

特定できず

Fig.15 =Fig.16 特定できず

Fig.16 横軸単位が 10−3K−1へ変更 =Fig.17 横軸単位は ×10−3K−1 =Fig.3 in PML, 80 (2000), 737

Fig.17 縦軸の歪が,εf/%へ変更 =Fig.8 縦軸の歪は,ε(%)f =Fig.11 in MT-JIM, 40 (1999), 1382

縦軸の歪は,ε(%)f

Fig.18 =Fig.19 =Fig.12 in MT-JIM, 40 (1999), 1382

Fig.19 =Fig.20 =Fig.6 in MT-JIM, 40 (1999), 1137 and Fig.4 in

APL, 76 (2000), 96

Fig.20 =Fig.21 =Fig.6 in MT-JIM, 40 (1999), 1137 and Fig.5(a)

and 5(b) in APL, 76 (2000), 967

Fig.21 =Fig.22 =Fig.5(c) in APL, 76 (2000), 967

Table 1 =Table I 特定できず

Table 2 =Table II =Table 1 in MT-JIM, 41 (2000), 1505

Table 3 =Table III 特定できず,しかしFig.3 in PML, 80 (2000),

79 と一部に重複が認められる

Table 4 =Table IV =Table 1, 2,3 in PML 80 (2000) 737

Table 5 なぜか Table 4 と同じ

Table 2 とも重複あり =Table V =Table 1 in MT-JIM, 41 (2000), 1505

Table 6 1,2,3,… =Table VI A,B,C,… =Table 2 in STAM, 1 (2000), 73

1 疑惑対象のMT-JIM 論文とオリジナルと考えられる JMR 論文に使用されている図表の比較,およびそれらの図

表のさらに元となっているデータとの相関に関するコメント

MT-JIM=Mater. Trans. JIM; JMR=Journal of Materials Research; APL=Appl. Phy. Letters; PML=Phil. Mag. Letters; STAM=Sci. Tech. Adv. Mater; MSF=Mater. Sci. Forum.

(4)

80฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀金属 Vol.86 (2016) No.4

(358) 投稿の許可を怠ったミスであるならば,むしろ全

く同じ内容の原稿が印刷・公表されてしかるべき である.しかし,MT-JIM 論文と JMR 論文とを比 較すると,①表題が異なる,②著者が異なる,③ 本文のところどころが変更されているので,MT- JIM 論文は JMR 論文の secondary publication とは 言えない.とくに著者が異なることはオーサシッ プの視点で極めて重要な倫理問題であるし,この 点だけも,JMR 論文の内容を secondary publication として日本金属学会欧文誌に再投稿したのではな いことを示す証拠である.また,日本金属学会の アナンスメントでは,先行して公表されたJMR 論 文の表題だけで著者名が与えられていない.この 公示だけでは,2 つの論文で著者が異なることを 読者が把握できない.学会が姑息な手段を取って いるとさえ感じる.

 編集委員会(委員長:宮崎修一)よりの通知では,

「疑惑対象論文が公表された10 年以上前は,出版・ 編集上の諸条件が現在とは相当異なっている」と も付されているが,この内容も全く理解できない. いかにも疑惑対象論文が公表された2000 年当時 は,例えば原稿を提出する際の著作権の扱いなど が整備されていなかったと読者に印象づけようと いう意図が透けて見える.しかし,日本金属学会

では,すでに1997 年 1 月以降,原稿を提出する 際には「著作権を学会に委譲する」旨の文書を署名 入りで提出することを義務づけており,井上氏が そのような署名入りの文書を1999 年の論文投稿時 に提出していることが確認されている.と言うこ とは,井上氏は2000 年の疑惑対象論文の原稿を提 出する際にも「著作権を学会に委譲する」旨の文書 を署名入りで提出したはずである.井上氏が同じ 内容を再投稿する許可を怠ったミスだという編集 委員会の説明は,説得力ゼロと言わざるを得ない. 日本を代表する金属材料の学会の取るべき態度と は思えない.

 上記編集委員会アナウンスメントの不可解な取 り扱い以上に,日本金属学会が説明責任を全く果 たしていない点は,MT-JIM 論文の複数の図が改 ざんされているという,筆者らが行った「不正疑 惑の指摘」を,全く無視して真摯に適切な対応を 取らないことである.例えば,疑惑対象論文には, 以下の4 つの研究不正疑惑が容易に確認できる.

 疑惑1:図1 のとおり,Pd を 5%含む Zr 基合 金の実験データを示すMT-JIM 論文の Fig.3 は, JMR 論文の Fig.3 とほぼ同じにも拘わらず,図の 説明文に示されている熱処理条件はMT-JIM 論文

1 (B)

(A)

1 (B)

(A)

図1 Pd を 5%含む Zr 基合金に関する(A)MT-JIM 論文の Fig.3(705K, 60s)と(B)JMR 論文の Fig.3(725K, 18s)との比較

なお,MT-JIM 誌の TEM 写真 (a) を上下逆にすると JMR 雑誌の TEM 写真 (a) に一致

(5)

金属 Vol.86 (2016) No.4฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀81 (359) は705K,60s,一方 JMR 論文は 725K,18s と異なっ

ている.さらに出典元だと考えられる別の2 つの 論文に記載されている熱処理条件(720K,18s あ るいは720K,30s)とも異なっている(表 1 参照). 新しいデータを装ったのではとの疑惑が指摘でき る.なお,(a)とマークされた明視野 TEM 像に ついて,MT-JIM 論文と JMR 論文とを比べると, 上下逆になっていることが確認できる.

 疑惑2:図2 のとおり,Pd を 10%含む Zr 基合 金の実験データを示すMT-JIM 論文の Fig.4 は, JMR 論文の Fig.4 と,例えば(a)の明視野 TEM 像は同じにも拘わらず,(c)∼(e)の 3 枚のナノ ビーム電子回折パターンは全く異なっている.ま た図の説明文に示されている熱処理条件はMT- JIM 論文は 705K,60s,一方 JMR 論文は 705K, 30s と焼鈍時間が異なっている.同一と認められ る(a)の明視野 TEM 像は,出典元だと考えられ る別の論文(MT-JIM, 41 (2000), 1505 Fig.5(f))に 記載されている熱処理条件は705K, 30s であり, MT-JIM 論文の記述とは異なっている(表 1 参照). 新しいデータを装ったのではとの疑惑が指摘でき る.

 なお,MT-JIM 論文の Fig.4 の図において(c)∼(e) の3 枚のナノビーム電子回折パターンの出典元は,

筆者らの知る範囲では不明である.ただし,MT- JIM 論文 Fig.4 の(c)∼(e)の 3 枚のナノビーム電 子回折パターンは,さらに別の論文(Scripta Mater. Vol.44 (2001), 1615-1919)の Fig.1 の(c)∼(e)の 3 枚に別の実験データ(Pd を 5%含む Zr 基合金の熱 処理725K, 18s)として使われていることが確認で きている(本誌3 月号参照).

 疑惑3:また,Ag を 10%含む Zr 基合金の実験 データを示すMT-JIM 論文の Fig.14 の説明文には 熱処理条件として660∼690K と示されているが, オリジナルと考えられるJMR 論文の Fig.15 の熱処 理条件は655∼700K であり,不自然に異なってい る.同じ図面に対するこの熱処理温度の差は有意 なのか疑問である.また,MT-JIM 論文の Fig.6 は, 例えばオリジナルと考えられる論文(Mater. Trans. JIM, 41 (2000) 1505)の Fig.6 から Zr2Ni 相に関する データを省いただけと考えられるが,図中にある 直線の傾きの数値が,表記単位が変更されている のみでなく,数値そのものが微妙に異なる点も不 自然である.もし再解析した結果ならば,本文中 にその旨が記載されてしかるべきである.なお, 本文中でFig.6 に該当する記述では,「Pd を含まな いZr2Ni 結晶相のデータも一緒に示す」と書かれて いる点も不可解である.また,Fig.11(=JMR 論文

図2 Pd を 10%含む Zr 基合金に関する(A)MT-JIM 論文の Fig.4(705K, 60s)と(B)JMR 論文の Fig.4(705K, 30s)との比較

1 (B)

(A)

1 (B)

(A)

(6)

82฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀金属 Vol.86 (2016) No.4

(360) のFig.12)は,熱処理条件(670K, 60s)の実験デー タだと説明されているが,この図は出典元と考え られる別の論文(Applied Physics Letters, 75 (1999), 3497-3499)の Fig.2 と同一とみなせるのに,この Fig.2 に示されている 670K,7.2ks(=120min)とい う熱処理条件と異なっていることも不自然である ことを付記しておく.

 疑惑4:さらに,JMR 論文 の Fig.8 の横軸の単 位,Ta−1/×10−3K−1は,MT-JIM 論文では,Ta−1/ 10−3K−1と微妙に変更(改ざん)されているし,同 様のことは,表1 に示すように,MT-JIM 論文の 3 枚の図(Fig.10, Fig.14, Fig.16)でも認められる.そ して,MT-JIM 論文の Fig.17 の縦軸の歪の表記, εf/ %は,オリジナル論文のJMR 論文の ε( % )とf 微妙に異なっている.このことから,MT-JIM 論 文はJMR 論文の secondary publication ではないし, うっかりミスで同じ図を使用してしまったのでは なく,図の使い回しに故意性が認められる.  筆者らは,これらの改ざんが濃厚な内容につい ても,2010 年 10 月に日本金属学会に伝えたが, 当時の日本金属学会(三島良直会長:現 東工大 学長)は,全く検証することなく,前述のとおり secondary publication で original paper ではないこと を認定するだけでお茶を濁している.これは,日 本金属学会が研究不正を隠蔽していると言われて も仕方がない対応である.

不正疑惑の告発等に対する

東北大学の対応

 研究不正に関する説明責任は,著者である井上 氏が負うべきものである.一方,研究論文に関す る不正疑惑を,うやむやに扱い何としても葬り去 ろうと動いたと考えられる人たちの責任も重大で ある.筆者らの告発のみでなく他のグループの告 発に対しても,東北大学執行部は自ら定めたガイ ドラインに反して,被告発者(井上氏ら)のみの事 情聴取を行い,十分な調査・再現実験も実施する ことなく,告発による指摘箇所は誤植,単純ミス 等に帰結させて,「記述が不十分・不適切であるが,

不正とは言えない」と回答し続けている.もちろ ん,東北大学の回答には科学的根拠が示されてい ない.井上氏らの論文には,複数の論文に既報の 実験データを組み合わせているケースも多く,結 果的にどのデータが正しいのかさえ不明になって いる.このような状況にも拘わらず,東北大学の 対応は,誰もが納得するような科学的根拠を示さ ず,単に「不正とは言えない」と断じている.これ では東北大学は,不正を組織的に隠蔽していると いう指摘を受けても仕方ないであろう.一般社会 においては,不祥事に対してある種の擁護措置が 取られることはある.しかし,研究中心大学を標 榜する東北大学においては,なおのこと学術論文 の不正疑惑に関する不公正な擁護は大きな誤りで ある.不正を見過ごすことは次の不正の芽を育む からである.学術研究における不正の事実を直視 することから,目をそらしてはいけないことは当 然である.しかし,井上氏が総長時代に設けられ た総長論文の不正を調査するために設置された委 員会については,例えば,以下の事実が確認され ている(肩書きは当時のもの).

1)対応調査委員会(H21 年 11 月 18 日:通称,庄 子委員会)

委員長:庄子哲雄(理事(研究・国際交流担当))=  井上総長より任命

委員:野家啓一(副学長)=井上総長より任命 委員:渡邊 誠(副学長)=井上総長より任命 委員:中嶋一雄(金研所長)

学外委員:近藤健一(東工大応セラ研所長)=井上 氏の金研所長時代に研究所連携プログラムを結 んでいる研究所の責任者

報告書レビュー依頼外部学識経験者委員

委員:弘津禎彦(阪大産研教授)=井上氏の共同研 究者

委員:大橋英寿(放送大学宮城学習センター長)

2)対応委員会(H21 年 11 月 19 日:通称,飯島委 員会)

委員長:飯島敏夫(理事(研究・法務コンプライア

(7)

金属 Vol.86 (2016) No.4฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀83 (361)

ンス担当))= 井上総長より任命

委員:野家啓一(理事(広報・校友会・学術情報担 当))= 井上総長より任命

委員:中嶋一雄(金研所長) 学外委員

委員長: 竹内 伸(東京理科大学長)= 井上氏の共 同研究者

委員:林 主税( ㈱アルバック名誉フェロー) 委員:新宮秀夫(京都大学名誉教授)=井上氏の共

同研究者

委員:小野寺秀博(物質材料研究機構グループリー ダー)=井上氏の共同研究者

委員:青山紘一(帝京大学教授)(元特許庁審判長)

 井上氏の論文不正疑惑を扱う委員会に,井上氏 の共同研究者,井上氏の被任命者等を加えること は,委員会の公平性維持の視点から許されないし, 普通は考えられないことである.これでは,「不正 とは言えない」との結論ありきではなかったのかと いわれても仕方ない.事実,東北大学の報告書には,

「井上氏を共著者とする論文の本質・学術的価値に 対しては,最大限の敬意を表するものであります」 と関連分野への貢献を考慮したり,「論文の本質的 な価値を損なうことのない単純ミスや,記述の不 備,無作為になされた誤謬などは,意図的になさ れる捏造,改ざん,盗用等の不正行為とは区別す るものであることを強調したい」等と,いかにも指 摘された疑惑は,論文の本質的な価値を損なうこ とのない単純ミス,記述の不備などに当たること を誘導するかのような文言を並べている.また,「論 文執筆時の手法は他の方法によって取って代わる など,より進んだ手法へと発展してきており,当 事者に対して当時の手法で再現性を求めることは 不可能である」などと,最初から再現実験を疑惑 解明手段から外すことは,全く筋違いである.繰 り返すが,不正であるか否かは,論文に書かれて いる事実に基づいて判断すべきである.

 このような措置により疑惑の解消が達成されな いまま,2012 年 3 月,井上氏は東北大学の総長職 を任期満了で退任した.その後を継いだのが現在

の里見進総長である.そして,2013 年 4 月,よう やく公平性が担保されていると考えられる第三者 で構成されたメンバーによる調査委員会が設置さ れた(ただし,東北大学はノーコメントとしている ようである).これを機会に,東北大学が研究不正 に対して公平で公正な判断をすることで,社会か らの信頼回復を得てもらいたいものである.ただ し,すでにこの委員会が設置されて1 年 8 ヶ月が 経過するが,何の報告もなされていない事実があ ることを申し添えておく.

おわりに

 井上明久氏を著者とする論文に不正疑惑がある ことが表面化して以来,約8 年もの長い間未解決 で,しかも疑惑の解消を要望した教員ら4 名が井 上氏から名誉毀損で裁判を起こされている.大学・ 研究機関等の研究不正行為への対応では,「不正 でないことの証明は被告発者に求められる」であ る.しかし,名誉毀損裁判では全く逆で,告発者 側に不正であることの証明を求めている.東北大 学や日本金属学会が公正で適切な措置をせずに,

「不十分な記述である;不適切であるが不正とは言 えない」等という不明瞭な態度を取り続けている ことなどの影響もあるのか,名誉棄損裁判では疑 惑の解消を要望した教員らが敗訴するという,理 不尽だと感じる結果さえ生じている.しかし,研 究論文に関する疑問には,科学分野の常識に従っ て解決すべきことは至極当然である.また,そう でなければ,日本の学術の信頼性は維持できない. 2015 年 12 月,2 人の日本人にノーべル賞が授与さ れたことは大いに喜ぶべきことであるが,一方で は,これだけ明白な研究不正疑惑が長期間放置さ れ続く状況は決して良いはずはない.

 STAP 細胞論文の場合も,再現性がキーポイン トであった.加えて実験にはノウハウも関係する 可能性も否定できないとの理由で,主たる著者も 再現実験に参加が求められて検証実験がなされた ことは記憶に新しいことである.多くの研究者と 長い時間をかけてSTAP 細胞論文の再現実験が試

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(362) みられ,その結果を踏まえて再現性が確認できな かったのでSTAP 細胞論文は取り下げられ,かつ 不正であったことも再認定された.

 例えば,ウイリアム・ブロ−ドおよびニコラス・ ウエイドは,著書『背信の科学者たち』(牧野賢治 訳; 講談社:2014.6.19)の中で,「科学自体が備え ている自己規制機構のうちの主要ポイントの一つ が「追試」である」と指摘している.とくに,この 著書の翻訳版92 頁には,「科学はある科学者の主 張が別の科学者によって客観的に検証されうると 言う点で,非科学分野とは異なる.科学者には, 自分の研究を論文にまとめる際,実験経過や方法 を正確に記述することが要求されている.それに よって,別の科学者が実験を再現でき,結果の確 認や誤りの発見が可能になるのである.追試は理 論や実験が評価される決定的な試験である.どん な詐欺的実験もこの段階で概ね暴かれる」と明示 している.このブロ−ドおよびウエイドらの指摘 事項は,理系の研究者が実験に基づく論文に関す る共通理解のはずである.東北大学の研究者の作 法にも「他者が科学的事実であると信頼し,価値 を確信できるように書かれているか,注意深く検 証しましょう」.また,「研究結果が「真理」として

認められるためには「追試可能」であることが必要 です」とも書かれている.これに対して,井上氏 自身は,これまで疑惑に対して一度も自ら説明を 試みていない.周囲の人に「データを取り違えた 可能性がある,記述ミスの可能性がある,記述が 不十分であることは認められるが不正ではない」 等と繰り返し言わせているだけである.これでは 疑惑解消ができるわけがなく,誠に残念である. 我が国を代表する金属材料の学会だと主張してい る日本金属学会は,研究不正で告発を受けている 他の論文とともに,本稿で示した論文についても 放置せずに.公的学会の責任として,公平・公正で, 迅速な対応を取ってもらいたいものである.読者 のご判断・ご意見はいかがであろうか.

さいとう・ふみお SAITO Fumio

1972 山形大学大学院修士課程修了,山形大学工学部助手,横浜 国立大学講師・助教授などを経て,1991 東北大学教授(選研, 多元研),2005-2010 多元研所長,2012 退職,同年 東北大学 名誉教授.工学博士.専門:粉砕とメカノケミストリー,粉体 精製工学.

やの・まさふみ YANO Masafumi

1974 九州大学大学院理学研究科博士課程単位取得退学,日本学 術振興会奨励研究員,東京大学薬学部助手・講師・助教授を経て, 1992 東北大学電気通信研究所教授,2007.4-2010.3 電気通信研 究所所長,2010 退職,東北大学名誉教授.薬学博士.専門:生 体システム情報学.

参照

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