「1996年度 九
州 地 区 地域研 究 会 :量 子重力と量子 宇宙論」 一 D79 一
数 値 的 量 子 重 力
湯川 哲之 (総研大 )
・津 田 憲 次 ( KEK )
Abstract
重 力場の量 子 化 は 素 粒子 論に残さ れ た最も基 本 的 な問題の一つ である。 大げ さに
言 えば そ れは宇宙の 始まりや、 自然界のすべ ての力の統一に本 質 的な関わりを持つ と 考 えられ る か らである。 こ の問題の困難さは、本質的に非摂 動 的な ところ にある。 最
近、 時 空を格子状に分割することにより
、 非 摂 動的 な 量 子 化 を 数 値 的に実行す る研 究 が盛ん に行わ れている。 その現状と問題 点 を紹介 する
。
1 重 力場 を量 子 化 す る 必要性
時空 と物 質の相互作 用を記 述 する
Einstein
方程式は局 所 的に時 空の曲率テ ン ソ ル と物 質のエ ネルギー ・運動量テン ソ ル とが 比 例関係にあ ること を表している。 た だそ の比例 係 数があま りに も小 さ く、 重力が素粒 子現象に影響を及ぼ してい ると して も、そ れ を観 測 するこ とは現在 ある実 験 装 置では と うてい 不可能である。 重力の影響は小 さい とはいえ
、 こ の方程 式は ミ クロ な世 界 でも成り立つ はずであ る。 当然、 物 質場と 同 じ く重力場 も量子化さ れ る の が自然で あろ う。 しか し標準的 な 摂動 論による重力 場
の 量子 化に は繰 り込み の不 可能性が大 きな 障 害 となっ ている
。
そこで非 摂 動 論 的に量 子 化を試み る わ }ナだが 、その方 法 と して標 鮒 な
Fey
anの経 路 積分 法で は積分領 域を指定 す る必要が ある
。 そのた めに は時 空の トポロ ジーが
判ら な ければ ならない が、経 路積分の精神か ら すれば 全て の 可能なト ポロ ジーを考え るべ きである。 その場合、 開い た空間で は積 分の自明な発 散を避ける た めに有限の空
間に積 分領 域を限 り、 境界条件を与える必 要がある。 こ こで は境 界条件とい う不定性 が 理論に入って くる こ と は避 けたいとの立 場にたち、 閉 じた トポ ロジーだ け を考える。
も ちろ ん高エ ネルギー物 理学 者に とっ て も、 重力 場の量子 化を真 面目に考 える機 運 も 出てき た。 それ は 、標 準 摸 型の成 功 と、大統一模 型の可能性へ の期待か ら来る。 強 ・弱 ・電 磁の三つ の相互作 用は、エ ネルギーが 10i6GeV 程度で一つ の 力に統一さ れ る と理論 的に予想さ れてい る。 さ らにエ ネルギ ー をほ んの
2
桁程上げると重力も他 の3
つ の力と 同 じ程度の強 さになる。 これは、力の大 統一が重力 も関わ っ た形で成立
する可能性を示唆してい る。
重力を含む
4
つ の相 互作用 を 統一する量子 力 学 的模 型とし て の超 弦模 型は魅 力 的 で はあるが、理論と して無矛 盾 な時 空の次元が10
とい う非現実さ を無くするた めの コ ンパ ク ト化の問題に は、 不 定 な 要 素 が多 く、今の ところ理論の正し さ は示さ れてい
ない 。 し か し、こ の模 型 自体、発散の困難は無く量子 力 学 的に は明確に定 義さ れ てい
ること か ら、 コ ン パ ク ト化の 問題も原理的に は新しい 仮 定 をつ け加 えること な く解 決 出来 る もの と期 待される。 即 ち、 次元のコ ン パ ク ト化のヒ ン トはこ の模 型の力 学 的 な
性 質の中にあると考え られ てい る。
Einstein重力に しろ超弦模 型に し ろ、 量子 化の
困 難さの直 接 的 な 原因は問 題の非摂動性にある。 現在 、この ような問題に対 する唯一 の実 践 的 な 研 究 手 段は計算 機に よ る数 値 シミュ レーシ ョン である。 本日の話はこれ ら
一 D80 一 地 域ス クール報 告
の問題を どのような方法で数値 的に解こうと してい るのか、ま た、 その問 題 点はなに か を、 主に我々 (川合、 津田、 羽倉、 江 川、小 田、湯 川)の
Einstein
重力、 及び弦模 型の数値シ ミュ レーシ ョ ンをもとに紹 介 す る。2 数値 的量 子 重 力
古 典 電磁 気 学の場 合と同じ ように量 子論におい て も場 を具 体的に構 築 することは
非摂 動 的な要 素が本 質 的な場合には必 須の こ と であ る。重力 場の量子化で も
QCD
と 同じ ように時空を格 子化 することにより理論 を正 規化 する方法が適用できる。 す な わ ち、Einstein
重力で は4
次元時 空を、 弦 模 型で は2
次元 世界面 を そ れ ぞ れ格 子 化し、自由度を有 限に し て場を具体的に構 築 する。 ただし、
QCD
では 空 間の分割に正則 格 子を用い たの に対し、 重力 場の場 合は単体 分割 (例えば2
次元では三角 形 分割 )に よ り格子 化する。 単体 分 割 した 時 空で古 典重力 場の研 究をす すめる ことはすで に 1961 年Regge
に よ り提案 さ れてい る。 重力理論は時 空の 幾何を定め る理論だか ら先 験 的 に座標を導 入すること なく定 式化で きるとい うのがRegge
の考えであっ た。 こ の 方法 は 、Einstein
方程 式が非 線形で ある ことよ り、 古 典的 な 重力場が強い 場 合、 例え ばブラッ ク ホール近 傍 、の解の 数 値計算にその威力を発揮 する。 しか し
、 こ の理 論が 重力
の量子化に も有用である ことが再 認識 され たの はずい ぶ ん後の
1984
年頃 である。
まず 空 間の格 子 化の 方 法 を簡単に説 明し よう。 次元が
d
の閉じ た空間を考 え 、こ れ をd
単体 (d
=O
,1
,2
,3
は各々頂 点、 辺、 三角 形、 四面 体とも呼ばれ る)で分割す る。d
単体は (d
+ 1)個の頂 点で指 定さ れる。 分 割は (d − 1)単体で出来た面 を境に し た2
つ のd
単 体の全て の組み を指 定 する ことで完 全に 決 まる。1
つ のd
単体は(d
+1
)個の
d
単体 と繋 がっ てい る。 単体 分割され た 空間が 正 しい 多 様 体を なす 条 件は、一
つ の頂 点を 共有す る
4
単体 が (d
−1
)次 元球を形成 してい る ことである。 各 単体は平
坦 な 空間の要 素 と考えられてい るので 、空間の ゆがみすな わち 曲率は単 体の結節 部 分
(ヒ ン ジ)に集 中 してい る。
d
次 元空間の ヒ ンジは (d
− 2)単 体で ある。 例えば2
次元 面の ヒ ンジ は頂 点、3
、4
次元で はそれぞれ辺、三角形である。 曲 率 は各ヒ ンジでの欠損 角に比 例 する。 単 体 分割され た空間の幾 何は、どの頂点の組が 互 い に 辺 で結ばれ てい る か (も し くは、 どの単 体が 隣 り合っ てい る か )をあらわす連結行列と
、 各辺の
長さ を与 えること によ り決ま る。
つ ぎに量子 化につ い て考え よう。 構 成 的場の理論で は
Feynman
の経 路 積分法による量子 化 が よ く使わ
れ
る。 ある状態か ら別の状 態へ の遷 移確 率はそれ ら二つ の状態を結ぶ可能な すべ て の経 路につ い て適 当 な重みをつ けて足しあげること によ り求め ら れ
る。 通 常、 保 存系では カ ノニ カル座標で書か れ た作用 関数の時 間座標を
Wick
回 転し た Boltzma の重みが用い ら れる。 量 子重力で は時 空のすべ ての可能な状態につ い ての和 をとる必 要があるが、 境界条件の不 定 性を避 ける た め に は閉 じ た 空 間 に 限 らざ る を得ない。単 体分割した空 間の状態は連結 行 列と辺の長さ を指定 する ことで完 全に決め られる が、多様体の条件を満たす連結行列と辺の長さの全て の可能な組み合わ せ を 足 し上 げる と十分す ぎると考えられてい る。 現在
一般に採 用されて い る方法と して は、辺の 長さ を
固定して異 なる連 結 状 態を足しあ げる力学的単体分割法(
dynamical
triangulation=DT
)と、 連 結状態を一つ に限 り辺の長 さにつ いて積 分するRegge
計算 法 (Regge
calculUS)が ある。 後 者の 場 合、積分の測度を与え る 必要が あるが一般 座標 変換に対 し て不変な測度は知られてい ない 。 最 近の計算ではス ケール不変な測度を採 用した今 まで の計算で作 られ た 面は単純な
2
次元 面であ り理論 的に知ら れ た 正しい フラ ク タ ル を持つ 面を作 らない と報 告されてい る。 これ はHausdorff
次 元やiSing
スピンを乗せ た ときの臨 界指 数が2
次元 平 坦 面 と同 じであ るこ とか ら結論さ れてい る。 こ れか らの「1996 年 度九 州地区地域 研 究会:量 子重力と量 子宇 宙 論」 一 D81 一
議論は
2
次元では解析 的に求め た解と一致 する ことが知られ て い るDT 法で進める 。話を簡 明にするため
2
次元面 (2
次元重力 ま た は弦模 型)を 例に と り、計算の過 程 を描写する。 求め るべ きは分配関数 (真 空一真 空 遷 移確 率 )Z
(A
)==Xg
ΣX exp (−Sg
一SX
一λA
)である。 こ こ で g、 及び x につ い ての和は各々ある決まった トポロジーと面積
A
の もとで許 され る 三角分割 、及び物質場の配 位につ い て と る。 ま た
Sg
及び5x
は 空間と 物 質の作用 関 数、λは宇宙 定 数 を表す。 一般には トポロ ジーにつ い ての 和も とる必要 があるが、異なる位相の空 間は各々独立である として トポロ ジーは決めて計 算した後 トポロ ジーにつ い て和をとる。 (実は 、3
、4
次元で これをどの よ うに実行 するの か は誰 も知ら ない 。 今は主 に 最 も単 純 なd
次 元球で計 算されてい る。)DT
法では 通常 すべ て の辺の 長 さ を一定に し、面 を 正多角 形で分割する。 空間の作 用関数は連 続理論で は Einstein−Hilbert竹三用
s
・,一
fd2ξvYR
だが 、 これ を単体 分割され た面で 表わすと
2
κΣ】hδゐと書ける (κ= 重力定数の逆数 )。 た だ しδhはヒ ンジ
h
での欠 損角である。2
次元DT
法で は qhを頂 点
h
を共 有する 三角 形の数 (coordination ・number )とする と正 三角 形 の内角はπ13
だ か らδh =2
π 一詈 qt
い こ こ で頂 点h
につ い て の和 を実 行 すると1 4π晒 一
SN
・)と なる。 た だし N ,は 三角分割された面の
i
単体の 数で ある。 さらに Eulerの 関係式(
N2
−Nl
+No
・2
)と三角 分 割の関係 式 (2N2
=31V3
)を使え ばSg
= 4πrc)c
と書 き換え られ、 作用は 三角形の数 と面の ト ポロ ジーに よ る
EUIer
指標Xに比例した定数と なる。
物 質場の作 用関数と し て
d
個の 自 由ス カ ラー場の作用s
・ 一 ・・1d2
ξ・9
・”・
a
・
x
(・’
a
・
xl
・)を考える。 スカ ラー場
X
(a)(α= 1,
2
,..,d
)を各三角 形の 中心に乗せ た場 合の 格 子化し た作 用 関数は・・ −
1
£ a・・ゆ 【・辞L 檸 112
で与 え られ る。 こ こ での和く ¢,ゴ〉は 隣接する単体の組につ い て とる。
さて これ か らが計 算機シ ミュ レーシ ョ ンである。 決まっ た トポロ ジーを持つ 面の、 可能な単 体 分 割の配位の数はその面を構 成 する単体の数と共に指数 的に増 えてゆ く。
(これ が
2
次 元だけでなく3
お よ び4
次元で も正 しそうなことは最近数値的に確認され た。 )この ような系のシ ミェ レーシ ョ ンでは、重み関 数に比 例 した 確率で互い に十 分 異 なる代 表 的な 配位をラン ダム に選び 出 すモ ンテ カル ロ 法 (important
samplingMonte
CaJrlo
・method )が標準的である。 系を 十 分 に 撹 拌 し熱 平 衡 状 態 にす れ ばエ ル ゴ ード 的 な系では配 位を 正しい 重み で選び出せ る。一 D82一 地域ス クール報 告
図
1
:重心細分( 1
−3
、3
−1mOve
)。図
2
: フ リッ プ (2
−2move
)。具 体 的な処 方 を
2
次元の場 合につ い て考えて み る。 まず 初め に4
つ の 正 三角 形で 構 成され た正四面体を作る。 三角形の数 を増や し、よ り大 きい面 を作るには 図 工で示さ れ た重心 細分 (
1
−3mQve
とも呼ぶ )によ り三角 形の数を2
個つ つ 増 や す。 目的とす る大 きさの面 が得られたな ら図2
の フリップ (2
−2move
とも呼ぶ)に よ り面の 攪拌をおこなう。 フ リップは 三角形の数 を変 え ない 。 同 じ面 積の どの よ うな
2
つ の状態もフリップ を重 ねる ことで 互 いに移りあうことがで きる (エ ル ゴ ード性)。 これ は 三角分 割の デュ アル 図
3
で見ればす ぐに わか る。 こ の 図 (漁 網に似て い るためfishnet
図 とも呼ぶ 〉で フ リッ プは結び目の 入 れ替えになっ ている。 どの ような結び方 をし た漁網
も
2
次 元 的である限り結び 目の入 れ替 えだ けで作れる。 ま たこれ らの ムーブ は
EUIer
指標 x を変えない か ら面の ト ポロ ジーは変 わ ら ない 。
これとは別に、 分 配関数を直 接求め る方法とし て は 三角形の数 を変え る グラン ド・
カ ノニ カル法が便 利である。 図
4
の ように三角 形の放 数 を2
枚増 や すア ップ と逆に2
枚 減らすダ ウン の
2
つ の move をランダ ム に組み 合 わ せるとエ ル ゴ ード性 を持つ こと は デュ ア ル 図で見 れ ば明らかで ある。 シ ミュ レーシ ョ ンで一番 手 間取る の は move に よ り出 来 た新しい 配位が 正 しい多様 体を作っ てい る こ と を確 か める部 分である。 また
通常デュ アル 図で セルフ ・エ ネル ギ ーやタドポール は計算 速度を早め るた め に許さ な い こ とに す る。 以 上の ような方法で独 立 と考え られ る配位 を
1
−1
万 個作りい ろい ろな観測 量の測 定結果 を平均する。