財政健全化法を勉強する
はじ
めに
平成 13 年から「日野市健全財政を考える会」(以下考える会)で活動を行っている著者のブログ「市民
財政白書ナビ」で平成 21 年 4 月 16 日から 5 月 4 日にかけて連載したコラムをまとめたものです。
夕張市の財政破綻を契機に、財政健全化法(正式名称 地方公共団体の財政の健全化に関する法
律)が平成19年6月に制定され、平成19年度決算から新しい指標による財政状況の公表が義務付
けられました。
各市の決算状況を報告する広報などで指標が発表されているのを目にしているかと思います。
その一方でこの指標の公表について唐突な印象を持ったり、よくわからないという印象を持っている
人も多いかと思いのではないかという問題意識の元に、「日本一わかりやすい財政健全化法の指標
の説明」を目指して連載を始めたものです。
が、内容が難しく、正直理解できなかったあるいは細かすぎて説明し切れなかった部分も多かったと
は思っています。単に財政の話ばかりではなく、民間の倒産との比較など、やや広めに見ているとこ
ろもあり、その点少しでも参考になればと思っています。
基本的には、書かれた文章のまま掲載していますが、わかりにくいと思った部分などは一部表現を変
えたりしています。
平成 21 年 7 月 27 日 著者記す
第一回
市の財政破綻と
は
∼
民間と
違う
考え方
財政健全化法が制定されたきっかけは夕張市の財政破綻といわれています。
ところで市が財政破綻するとはどういうことでしょう。実は調べてみると、市の財政破綻と言っている
ものは、民間企業や個人の財政破綻(倒産や破産など)とはかなり異なるものであることがわかりまし
た。
民間企業や個人の財政破綻についてごく簡単にまとめると
○ どういうときに財政破綻というか
・支払いができないとき
例えば会社の場合、手形が 2 回決済できない(支払期日に銀行の残高が足りない)と銀行取引停
止になり、倒産します。個人でも払いきれない借金がある場合は破産の手続をすることがありま
す。
・債務(借金など)が多すぎるとき(会社の場合)
資産(財産)よりも債務(借金)が多いとき ∼債務超過といいます。
○ それでどうするか
・財産を換金して借金を返す。
→ その上で返せない部分は免除。(破産の場合)
又は
となります。
それでは、市や町の場合はどうかというと、例えば借金の支払いができないという状況になった市
や町はいまのところありません。(海外では国や地方自治体が借金を払えなくなったことはあります
が。)
それは「最終的には国が面倒を見てくれる」という思いから、銀行などから貸し渋りにあうこともなく、
資金が供給されるからと考えられます。
日本の市や町の場合には、財政の悪化度合いを示す数値がある程度以上悪くなったら、国が支援
することになりますが、その条件として、県や国が承認できる財政再建のための計画を作成し、県や
国の監視の下財政再建を図ることになります。
個人の場合でいえば、大金持ちの放蕩息子が借金を背負った場合(金貸しは親が金持ちなのでいく
らでも貸す)、息子に自由に金を使わせる権限を奪い(カードを取り上げて小遣い制にするとか)、監
視をつけて働かせるなど、自分の管理下におくことにより、借金を返済させるようなものと考えてもら
えればよいかと思います。
(財政破綻した市が放蕩息子だといっているわけではありませんので念のため)
夕張市の財政破綻により地方自治体の財政健全化に関する法律が変わったのですが、
「借金を免除してもらうのではなく、財政再建のための計画を立てて健全化を図る」
という基本的な考え方は変わっていません。
それでは新しい法律により、どう変わったのでしょうか。
第二回
財政健全化法前の法律
∼
市が財政破綻したらどうなるか
新しい財政健全化法以前は「地方財政再建促進特別措置法」(以下「再建法」と略します。)
という法律がありました。
「民事再生法に基づく再生手続開始の申立て」することを一般的に「倒産する」というよう
に、「再建法に基づく財政再建団体の申請」をすることを、「市が財政破綻する」と言ってい
ました。夕張市も2006年に再建法に基づく申請することで、財政再建団体となっていま
す。
財政再建団体になるとどうなるのか。前回の大金持ちの息子の話の話と対比しながらごく
簡単にまとめてみました。わかりやすさのため、たとえ話の方は青色の文字で記載していま
す。また市町村が財政破綻した場合ということでまとめています。
(以下黒字の部分については Wi ki pedi a の記事を参考として書かせて頂きました。)
○ どういうときに財政再建団体になるか?
実質収支比率*1(その年の赤字の標準財政規模*2 に対する割合)の赤字が 20%を超えた
場合。このような状態になると借金が自由にできなくなるため、財政再建団体の申請をせ
ざるを得なくなります。
たとえて言えば、大金持ちの息子の家計が非常に悪化した状態。親が定期的に銀行の残
高などをチェックしているので、ある程度悪化すると銀行に手を回してお金を息子が借り
用語解説
*1 実質収支比率:実質収支の標準財政規模に対する割合のこと。
実質収支とはその年度の歳入と歳出の差から翌年に繰り越すべき財源を差し引いた額
のこと。個人にたとえるならば、その年の赤字の基本給に対する割合とでもいいましょ
うか。「翌年に繰り越すべき財源」とは例えば、子どもの学費に充てるために親からお
金をもらったけど学費は翌年に払った場合の「学費に充てるためのお金」のようなもの。
*2 標準財政規模:
自治体が通常水準の行政活動を行ううえで必要な一般財源の量。(通常の状態で収入さ
れるであろう一般財源という説明もあり。)
個人に例えるならば、家族手当や住宅手当などを含んだ正社員の経常的な給与にあたる
でしょう。
○ どうやって財政再建をするのか
財政再建団体に指定されたら、県の指導に基づき「財政再建計画」を作成します。それ
により借金ができるようになります。
親に泣きついた息子は、「今後はこのようにすることで家計を立て直します」ということ
を親に約束することを条件に、お金を借りられることになります。
○ 財政再建団体になるとどうなるか
財政再建団体になると、財政運営を県の管理の下、進めていくことになります。実質的
に自治権を取り上げられたような状態になります。財政の再建が優先されるため、税率や
手数料などの負担は最大に、市民サービスは法の許す限り最小になり、市民生活への影響
は多大なものになります。財政破綻をした夕張市が大変な状態になっていることはニュー
スなどでみなさんもお聞きだろうと思います。
金持ちの息子の例でいえば、お金の使途についていちいち親の目が入ることになり「外
食禁止」「11 時消灯」「自動車売却」「残業推奨」など非常に厳しい条件をつけられたなかで
生活をすることとなります。
このような「再建法」による財政再建の仕組みですが、夕張市の財政破綻をきっかけに見
直されることとなりました。
第三回
再建法の問題点
再建法は夕張市の財政破綻により見直され、財政健全化法が制定されたわけですが、実はそ
れ以前から問題点は指摘されていました。
ひとつは、普通会計以外の第三セクターや土地開発公社などの赤字が見えないこと。
夕張の前に財政再建団体*1 であった赤池町は土地開発公社の赤字を取り込んだため、財政再
建団体となりました。逆にそのような三セクや公社のようなものの膿(うみ)を出す決意をし
なければ、膿がたまったままどんどん財政が悪化することとなります。例の大金持ちの息子の
例えを使えば、「自分が設立している会社の連帯保証」を含めず、家計の状況を評価しているよ
うなものでしょうか。
*1正確には「準用財政再建団体」、再建法は本来「昭和29年度のみ」の臨時の法律であり、この
規定を昭和29年度以外に準用(似たような場合に適用するという意味)するため、”準用”財政
再建団体という名称になりますが、簡便のため「財政再建団体」といっておきます。
もうひとつは、財政再建団体となるかどうかの判断の指標となる「実質収支比率」が操作可
能なことです。
第三セクターや土地開発公社の赤字を処理するかしないかの判断もありますが、例えば「借
金をすると実質収支がよくなる」ので、財政再建団体となることをさけるために借金をすると
いうわけのわからないことがおこります。夕張の場合には一時借入金を他の会計と行ったり来
たりさせることで、この数値をごまかしていたようです。
総務省の決算カードをみると平成 13 年から 16 年まで実質収支比率は0.0%でした。
ところが、平成 17 年には突如 37. 8%の赤字、平成 18 年は 791. 1%(!)、平成 19 年は 730%
という巨額の実質収支での赤字を計上しています。これは既に財政破綻していたものをごまか
していたものを平成 17 年度以降に一気に吐き出したことにより生じたものです。
大金持ちの息子でいえば、銀行の残高を保つためにサラ金から借金をして、家計が赤字でな
いように見せかけていたようなものです。平成 16 年は夕張市の歳入の約半分(100 億円弱)が
諸収入*2 というものでした。収入 500 万の家計に例えれば、一年に 1000 万円サラ金を借り
て収支を均衡させていたようなものです。後からみれば誰の目にも破綻しているといえそうで
すが、「再建法」の判断基準の下では財政は破綻していないとされていたのです。
*2諸収入は、「それ以外の収入」として、延滞金、預金や貸付の利子、受託料収入など雑多なも
のです。一時借入金も含まれます。
もう一つの再建法の問題点として、早期に是正を促していく機能がないことが指摘されまし
た。再建法により現在財政再建団体に指定されているのは夕張市ただひとつです。ということ
は1800以上ある自治体で最も財政が悪化した自治体にしか適用されていないということで
もあり、そこに至るまでなんら是正がなされないということになります。そのため事態が非常
に深刻化してからの再建となり、市民生活に与える影響も甚大なものになってしまうことにな
このような問題に対し、新しい法律「地方財政の健全化に関する法律」では
①公営企業を含めた財政情報の開示
②フロー(実質収支)以外にストック(借金の負担など)を含めた評価指標の開示
③イエローカードの基準を定めることで早期発見、早期健全化を図る
ことを定めました。
(
参考U
R
L
http://www.soumu.go.jp/iken/zaisei/kenzenka/index.html
)
次回は、新しい法律による指標について紹介します。第四回
新しい財政健全化法について
今回は財政健全化法(正式名称 地方公共団体の財政の健全化に関する法律)についてです。
新しい財政健全化法は古い財政再建法が抱えていた課題の反省に基づき、次の点を定めました。
1.公営企業を含めた財政情報の開示
2.フロー(実質収支)以外にストック(借金の負担など)を含めた評価指標の開示
3.イエローカードの基準を定めることで早期発見、早期健全化を図る
今回は、新しい法律による評価指標について説明します。
評価指標自体の算定方法は、実務上はかなり細かいので厳密に知りたい方は次のHPの「健
全化法関係資料」の「基本資料」から「財政指標(pdf)」を見ていただければと思います。 http://www.soumu.go.jp/iken/zaisei/kenzenka/index.html
このコラムではそれぞれの指標の趣旨とイメージ、そのほかコメントを記しました。
財政指標は4つ+α 。①実質赤字比率 ②連結実質赤字比率 ③実質公債費比率 ④将来負
担比率と公営事業の資金不足比率。です。
①実質赤字比率
・実質収支比率と同じもの。
・家計でいえばその年の赤字のその年の給与対する割合と考えればよいでしょう。
②連結実質赤字比率
・特別会計を含めた実質赤字比率。
・家計でいえば、自分が経営して債務保証をしている会社の赤字を含んだものというイメ
ージでしょうか。
・「連結」というと関係するところが全て含まれるというイメージがありますが、含まれる
のは各種特別会計と公営企業までで、一部事務組合や第三セクターなどは含まれません。
・日野市でいうと、一般会計と特別会計(国民健康保険、区画整理、下水道、介護保険、
後期高齢者医療、受託水道)及び公益企業である日野市立病院が含まれます。
*1 一部事務組合
複数の市町村がまとまって一部の行政サービス(例えば病院や火葬場、ゴミ処理場)を
行うために組織する組合。日野市の場合は競輪、競艇、斎場、後期高齢者医療など7つ
の一部事務組合に加盟しています。一部事務組合で建物を建てる場合、事務組合で借金
をしますが、利用者負担でまかなえない分は基本的には組合に加盟する市からの繰入金
などでまかなうことになるため、将来の市の負担として上記③④の指標に反映されるこ
ととなります。
③実質公債費比率
・普通会計が負担する借金の返済(利子と元本)の標準財政規模に対する割合。
・家計で言えばローンの支払額(主宰する会社の借金等含む)の、その年の給与に対する
割合と考えればよいでしょう。
・実質公債費比率の算定では、②で計算の対象となった特別会計と公営企業に加え、一部
事務組合分も対象となっています。
④将来負担比率
・一般会計が将来負担すべき実質的な負債の標準財政規模に対する割合。
将来負担すべき実質的な債務には、③で計算の対象となった特別会計や公営企業、一部
事務組合の借り入れに加え、債務負担行為*2 による支出予定額、第三セクターの損失補
償額なども含まれます。
*2 債務負担行為
債務負担行為とは、区画整理など事業に長期間を要するものの事業費の確保のために、
翌年以降の支出の予定額と期間をあらかじめ定めておくものです。これは将来とはい
えお金が出て行くことを予告するものになるので、議会の承認が必要です。家計でい
えば、自動車の買換や住宅の購入、子どもの将来の学費を予定しておくようなもので
しょうか。
一言で債務負担行為といっても、割賦払いのようなもの(クレジットカードの30 回
払いのようなもの)や債務保証(子供の借金の保証のようなもの)、単に将来の事業
の予定(子供の学費の予定)などいろいろな性質のものがあります。
・家計で言えば、ローンの残高の年収に対する割合といえるでしょう。(貯金がある場合に
は相殺)ただし主宰する会社の借金や友人との共同事業による借金負担分、連帯保証の
保証債務なども含むようなイメージです。
・①∼③がフロー指標であったのに対し、この指標だけが唯一ストック指標です。
・そもそも公会計についてはフローの情報しかなく、ストック情報の整備がなされていな
いこと(企業でいえばバランスシートを作る基準が国際的に定められていますが、地方
自治体についてはいろいろ試行されている段階)、将来負担の中には確実に払うべきも
のと、未確定のもの、債務保証のような偶発的なものが混じっていること。
+α 資金不足比率
・地方公営企業(下水道や病院など)の実質赤字比率(①と基本的には同じ)。
これは、個別の公営企業ごとに求める(合計しない)もののようです。
第五回
指標の判断基準
評価指標は次の5つ
①実質赤字比率
②連結財政赤字比率
③実質公債費比率
④将来負担比率
+α 公益事業の資金不足比率 でした。
この①∼④のうちひとつでも財政健全化基準(いわゆるイエローカードの基準)を超えると、
自主的な改善努力による財政健全化を求められます。このように早期に財政悪化状態を見つけ
出し、是正を図ろうというのが新しい財政健全化法の一つのポイントです。それでは、その指
標はどれぐらいかということですが、市町村の財政規模によって幅があります。
(イエローカードの基準)
①は 11. 25∼15%
②は 16. 25∼25%
③は 25%
④は 350%
+α は 20% となっています。
また①∼③については財政再生基準を超えると国などの関与による確実な再生が行われる段
階となります。
(レッドカードの基準)
①は 20%(旧財政再建法どおり)
②は 30%
③は 35%
④はありません。(この指標がいくら高くても財政再建団体にはならない)
+α についても同様。
ところで、新しい財政再建法は夕張市の財政破綻を踏まえたものであるということですが、こ
の指標があれば夕張の財政状況を見抜くことはできたのでしょうか?
財政破綻前の平成 15 年の夕張の決算カードを見ても、残念ながら普通会計以外の指標が不明な
ので、チェックできたかどうかは判断できません。この点のチェックが指標や基準などの作成
第六回
財政健全化法の課題
財政健全化法による地方自治体の財政再建の試みは始まったばかりであり、行政活動への影響
は未知数です。都下の自治体ではイエローカードにかかりそうなところはなさそうなので、直
接的にどうというより、議会や市民によるチェックの一助となることが期待されます。(といい
つつ、個々の健全化指標自体のチェックは正直しづらいと感じます。)
財政健全化法に関する課題として、類書を斜め読みすると以下のことが指摘されているようで
す。
○ 公共サービス低下の懸念
・公営企業ごとに資金不足をチェックすると、公共が事業から撤退してしまい、サービスの
供給者がいなくなるのではないか。
→これに対しては、事業の性質上計画的に出てくる赤字でやむをえないものを、「解消可能資
金不足額」として資金不足額に算入しないことにするという配慮がなされています。が、
この配慮に対して「『解消可能資金不足額』に恣意性が入る余地があり、無用な延命になる
のではないか」という懸念も表明されています。 うーん、難しい。
○ 公会計制度との関連
・フローだけではなくストック情報もというが、公会計自体がストック情報を扱うように整
備されていない。
→将来負担比率にはいろいろな性質の債務が一緒くたになっているという問題があります。
実は偶発的な債務や資産の評価損は企業会計基準においても議論があるところであり、も
ともと難しい分野です。だからといってそんな指標は意味がないというのではなく、さら
によい指標になるようブラッシュアップしていくべきなのだろうと思います。(総務省の都
合でしょっちゅう変わるようでは問題ですが。)
○ そもそも論
・財政悪化の原因は国の政策に負うところが多いのになぜ地方が責任を取るのか。
・国で画一的な基準を決め、国が監視・管理をするのは地方自治の原則に反する。
ところで、前回紹介したイエローカードの判断基準ですが、「スラスラわかる! 自治体健全
化法のしくみ」では、その出版段階ではその判断基準となる数字が公表されておらず、どこら
へんに基準が設定されるかという推察にある程度のページが割かれています。
そこには、「イエローカード状態になると「各自治体が策定した財政健全化計画を監視」する
必要が生じるため、あまりに多くの市町村がこれに該当すると監視するのは大変になるため、
ある程度の数に収まるように設定されるであろう」旨のことが書いてあります。
つまりかなり財政状況が悪化している自治体のみがエローカード(財政健全化団体)となる
と思われます。しかしそのような背景を知らない市民から見れば「基準値を超えていない=財
政は健全」と思ってしまわないか。そのために、行政健全化の努力がそがれてしまわないかと
新たな財政健全化法ができましたが、財政健全化の基準というのは絶対的なものではなく、
あくまで相対的なものであり、総務省や県が監視できる範囲で財政の悪いほうからある程度の
自治体が指定される。程度のものであることを理解し、つまり財政健全化の指標が基準を超え
ないということは、必ずしも財政が健全であることを意味しないということであり、市の財政
状況については市民が常に注視していなければならないことを忘れてはいけません。
追記:ちなみに平成 19 年度で健全化判断基準がレッドカードとなる基準を超えたのは3市村
(夕張市、赤平市、王滝村)、イエローカードとなる基準を超えたのは 19 市町村(レッドカー
ド除く)で、概ね財政状況の悪い方から 1%程度の自治体が引っかかっているといえるでしょ
う。
最後に(さらなる課題)
なお総務省の研究会では破綻法制(債務の減免)などについても議論されたようですが、財
政健全化法では債務の減免が行われることは前提としていません。
話は民間の倒産に戻りますが、倒産(破産)制度が存在している意義としては以下のことが
あげられています。
1.個人の再生:事業の失敗など一度の失敗により一生を棒に振るのではなく、債務を軽く
して再チャレンジできるようにすること。
2.事業価値の保全:債権者が借金のかたに、その会社の資産を個別に換金してしまうと、
土地や建物、機械、社員が一体となって経済的な価値を有していたものが、価値が毀損
してしまい、社会的な損失が生じることから、それを防止するため。
3.不適切な経営者の退場:倒産により社会の資源を有効に使えない経営者の退場を促し、
社会全体としての経営資源の有効活用に役立てるため。
夕張市のケースを個人に当てはめると、一生かかっても返しきれない借金を背負って食べる
ものも減らして、寝る時間も減らして働かされている状態に例えられるでしょう。個人であれ
ば破産をして、債務の免除を図ることでしょう。自治体財政は家計と似ている*1 ということ
を考えると、いったん破産して再出発をするのがよいように思います。(とはいえ、先進国では
アメリカ以外に自治体の破産を想定している国はありませんが。)
制度上想定されていないという理由以外の、夕張市が債務の減免が許されなかった理由を私
なりに考えてみました。(あくまで個人的な見解にすぎません。)
債務の減免を行う場合にはその最終的な負担者に応じ2つの方向があると思われます。ひと
つは貸し手責任ということで、金融機関に債務の減免を求めること。もうひとつは国が面倒を
見ること。前者(金融機関が負担)を仮に実施したとすると、「次はあの町か」ということにな
り、財政状態の悪い町が資金繰りができない、又は金利がやたらに高くなってしまう。という
ようなことが起こると想定されます。おそらく大都市の地方債や国債の信頼にまで波及するこ
とが予想されます。そうなると債券の価格が下がって破綻する銀行が出るかもしれません。GDP
破綻することもありえるでしょう。
おそらくそのようなリスクは国としては取れないと思われます。それでは国が負担する場合
はどうでしょうか。これはモラルハザードを引き起こす恐れがあります。最後には国が面倒を
見てくれると思えば、苦しい思いをして財政をよくしようという試みは萎えてしまいます。ま
た自主的な再建をあきらめて国になきつく町も相当出てくるのではと思われ、最終的に国が肩
代わりすべき額が大幅に膨らむ恐れがあります。ということでこれも国としてはやりにくいと
いうことになります。
という状態の中、夕張市は金融機関にも国にも助けてもらえず、体力を失いながらも返せな
い借金を返そうとしているというような状態に陥っているように見えます。あるいはこのよう
な状況が全国に報道されることで「財政が悪くなるとこうなるんだぞ」と国が脅しをかけてい
るのかもしれませんが。
今回で一応最終回です。最後は明るい展望の話でなく申し訳ありません。財政健全化法の本
格的な運用は平成 21 年度からです。関連する動きについては、目先のセンセーショナルな情報
に惑わされず、じっくり注視していきたいと思います。
*1 自治体の財政は家計に似ている。: 営利企業は利益の最大化を主な目的としています。
一方個人(家計)は家族の幸福の最大化を目的としています。
それでは自治体はどうか?となると考え方としては家計の方に近いのではないでしょう
か。つまり自治体の構成員(企業を含む)の効用(平たく言えば幸せ度合い)を最大化
することを主な目的としているといえるのではないか。という意味です。
ところで、利益の最大化にしても、幸福の最大化にしても、長期的な視点と短期的な視
点があります。企業の四半期ごとの利益の最大化が長期的な利益の最大化に直接結びつ
かないように、家族や自治体の短期的な幸福の最大化と長期的な幸福の最大化は違いま
す。
家計ではできる長期的な幸福の考え方が、多人数多様な利害関係者から成り立つ自治体
(国全体がそうだともいえよう)においては、目の前の幸福のために将来を食いつぶし
ているのではないかと懸念しています。市の財政を自分の家計のように思って考える人
が少しでも増えればよいなと思います。
参考図書等
「自治体財政健全化のしくみ(ぎょうせい)」