労働経済学 2 (第 1 回)
広島大学国際協力研究科
川田恵介
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講義の目的
• 企業の内部組織(人事システム)は、企業のパフォーマ ンスや労働者の効用、さらに経済全体のパフォーマン スに大きな影響を与えていると考えられ、広く社会的な 関心を集めてきた。
• 本講義では、80年代から大きく進展してきた組織の経 済学や人事の経済学の知見をもとに、企業組織につい
事例(日本マクドナルド) 毎日新聞より
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•2012年一月から、一度廃止した定年制度を復活するこ とを決定した。
•ベテラン労働者に蓄積したノンハウを抱え込み、業績を 上げ続けることで、自らのポジションを長く守りたいとの意 識が生じたとみられる。
•経理や法務の案件処理、店舗運営のノウハウなどの引 き継ぎがうまくいかないケースがでた
事例)成果報酬
• ボーナスの支給額に、企業の業績や勤務評定に応じ て変化をつけることは、多くの日本企業において古くか ら行われてきた。
• 営業職やプロスポーツ選手等では、業績指標(新規契 約数、ヒット数等)に報酬が強く依存する契約が見られ る。
事例)元寇
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講義の進め方
• 基本的には、講義スライドを用いた講義を行ってい く。(教科書は使用しない。)
• 講義スライドは毎回配布する。
• 講義スライドの一部は空白になっているので、授業 を聞きながら各自で埋める。
成績の評価
• によって、成績の評価を行う。
• 定期的に練習問題の配布を行うがあるが、成績評 価の対象とはしない。
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参考文献
• ミルグロム&ロバーツ 組織の経済学(NTT出版)
• 江口匡太 キャリアリスクの経済学(生産性出版)
• 伊藤秀志 契約の経済理論(有斐閣)
組織と制度の経済学
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• 経済学者たちが組織や制度の問題が重要ではない、 と考えていたわけではない。
•
• 経営学や社会学、人的管理論等では、企業組織につ いて、昔から多くの分析がなされてきた。
• (主流派)経済学に対する批判として、これら制度の問 題を扱えない、というものが存在した。
(主流派)経済学の世界観
• 社会はさまざまな経済主体(労働者、企業等)によって 構成されている。
• 各主体は、さまざまな選択を行っており、個々の選択 は他の主体に影響を与えている。
• 各主体は、 を目指して、最善の選択を行っている。
労働経済学1の世界観
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投入物
生産物
労働市場を主たる分析の対象とした。 企業:投入物を生産物に変換する装置
労働経済学1の世界観
企業という経済主体に関する仮定
ある目的関数(例:利潤関数)を最大にするように達成で きるように、以下を選択する。
• 何をどれだけ投入するか
• 何をどれだけ生産するか
•
現実の組織
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• ある組織には多くの主体が関わっている(経営者、株 主、従業員等)
• 主体は、それぞれの目的を持ち、意思決定を行ってい る。
• 通常、主体は それぞれ と考えられる。
現実の組織
例)それぞれの目的
株主:自身の保有する株の価値を高めたい。(=企業利 潤を高めたい)
経営者:自社のシェア(≠企業利潤)を大きくしたい。
従業員:自身の効用を高めたい。このためには、極端な
ブレークスルー
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• 60年代以前の経済学は、価格理論を中心に発展して きた。
• 多数の経済主体からなる市場については、価格理論 は非常に強力な分析道具である。
• 少数の経済主体が相互に影響を与え合う状況を分析 することは、困難であった。
•
Open the Black Box
• 企業とは、目的が異なる経済主体の集合体であり、各 主体はそれぞれの目的達成を目指し意思決定を行う。
• 企業全体の生産性や意思は、各個人の意思決定の帰 結として決定される。
• 組織は、企業内部の各経済主体の意思決定に影響を 与え、ひいては企業のパフォーマンスや意思決定に重
事例研究
• 新聞や書籍、インターネット等では日々、成功している/ 失敗している企業組織について、盛んに報道がされて いる。
• 個々の企業組織について学問的に調査した、事例研 究についても膨大な蓄積がある。
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理論の役割
• 通常、さまざまな制度が組み合わさって、企業組織は 構築されている。⇒どの制度が組織を成功に導いてい るのか、一見したところではわからない。
• 状況が変われば、制度の効能は変化する可能性があ る。
標本整理の効能
(例)営業職の賃金体系はどのようなものか?事務職の 場合は?グローバル化が進展したときに、企業組織をど のように変化させるべきか?
• 無意識にでも標本整理を行わないことには、予測を行 うことは不可能
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理論研究と実証(事例)研究
理論研究
新しい分類方法の提案 標本整理 実証研究
仮説の実証 新しい標本の提示
経済学的アプローチ
• 企業組織は、経営学の主たる分析対象である。
• 標本整理には、さまざまな有力な方法がある(心理学 的アプローチ、法学的アプローチ等)。
• 経済学的アプローチの特徴はなにか?
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• 個人は動機をもって行動している
( )、という視点から標本整理を行 う。
経済学的アプローチ
• 現在、北米のビジネススクールの大部分が、組織(人 事)の経済学についての講義を開講している。
• 現在経済学的アプローチは、企業組織を分析するうえ で、有力な方法の一つであると考えられている。
まとめと予告
• 本講義では、労働経済学1とは異なり、複数の意思決 定を行う複数の経済主体の集合体と見なす。
• インセンティブの視点から、企業組織を分析していく。
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• 次回の講義では、今後の講義の中核をなす、プリンシ パルーエージェントモデルを紹介する。