203 NonMonetary Punishmentに対する互恵性の存在とその影響-繰り返し一方的最後通牒ゲーム実験による検証-

Free

0
0
17
1 year ago
Preview
Full text
(1)特集論文 Non-Monetary Punishment に対する互恵性の存在とその影響 -繰り返し一方的最後通牒ゲーム実験による検証- 鈴木 明宏 伊藤 健宏 楊 培魯 (山形大学) (岩手県立大学) (中節能建築エネル ギー管理有限公司) 小川 一仁 高橋 広雅 竹本 亨 (関西大学) (広島市立大学) (帝塚山大学) 【要旨】 本稿は,一方的最後通牒ゲームを同じ二人の被験者間で繰り返し行う条件と,毎回異なる相手 と繰り返し行う条件を比較することで,提案者が金銭を分配するときに non-monetary punishment に対する互恵性が存在するかどうかを検討した.実験の結果,一つ目の条件では応答者が提案を 承諾すると拒否した場合よりも提案者は次のラウンドで高い分配額を提案するが,二つ目の条件 では そう な らな いこ と がわ かっ た .こ の結 果 は, 金銭 を 分配 する 人 々の 行動が non-monetary punishment に影響を受け,さらに互恵的に振る舞うことを示唆している. キーワード:一方的最後通牒ゲーム,経済実験,互恵性 1 はじめに 本稿は,一方的最後通牒ゲームにおける提案者の意思決定が互恵的であるかどうかを経済 実験によって確かめる.ここで互恵的であるとは,意思決定者が正の互恵性と負の互恵性の 両方を戦略に取り入れるということである.そして,正の互恵性とは「相手が自分に良い行 為をしてくれたので,自分も相手にお返しをする(川越 2010)」という戦略で,負の互恵性 とは「相手が自分に良くない行為をしたので,自分も相手に仕返しをする(同上)」という戦 略である.互恵性には,後述するように monetary punishment に対するものと non-monetary punishment に対するものがあるが,本稿では後者に焦点をあてたい. 具体的には,本稿では一方的最後通牒ゲームを同じ二人の被験者間で繰り返し行う条件と, 毎回異なる相手と繰り返し行う条件を比較する.この比較を通じて,応答者による提案者の 心理的負担を軽減してくれる行動に対して,提案者が正および負の互恵性に基づいて振る舞 うか否かを分析する. 一方的最後通牒ゲームは最後通牒ゲームから派生したゲームである.まず,最後通牒ゲー ムは,実験者から渡された初期保有額を,応答者といくらずつ分配するかの提案を提案者が 応答者に対して行い,応答者がそれを承諾すればその提案通りに分配され,拒否すれば提案 理論と方法(Sociological Theory and Methods) 2013, Vol.28, No.2: 203219 203

(2) 理論と方法 者と応答者の両方の分配額がゼロになるというゲームである.それに対して,一方的最後通 牒ゲームは,応答者が拒否しても応答者への分配額のみがゼロとなり,提案者への分配額は 提案した金額となるという点のみが最後通牒ゲームと異なる. 最後通牒ゲームでは,自分の金銭的利益のみを追求する利己的個人を仮定すると,応答者 は提案額がいくら少額であってもすべて承諾するはずである.しかし,経済実験を行うと, そのような極端に不公平な提案に対して高い割合で拒否が行われる.例えば,Camerer (2003) によると 1 回限りの最後通牒ゲームでは応答者への分配が初期保有額の 20%以下となる提案 は約半分が拒否される.このように拒否が行われる理由として,互恵性(Rabin (1993); Bolton and Ockenfels (2000))や不平等回避(Fehr and Schmidt (1999); Dufwenberg and Kirchsteiger (2004))が挙げられる.ただし,これは拒否によって提案者の分配(提案)額もゼロになる という monetary punishment を応答者が行使できるからで,それができない一方的最後通牒ゲ ームにおいては,応答者はいくら少額の提案でも拒否することはあり得ないはずである.し かし,一方的最後通牒ゲームの経済実験を行うと,応答者はゼロより大きい提案をしばしば 拒否する(Güth and Huck (1997)).Xiao and Houser (2005)の実験では,最後通牒ゲームの応答 者が不公平な提案に対し批判的なメッセージを送ることが出来る場合には,メッセージを送 ることが出来ない場合と比べて拒否する割合が有意に低下した.このことは,負の感情を伝 えるということの代替手段として拒否が行われており,それが応答者の拒否する理由の一つ であることを示している.他方,福野・大渕 

(3) や堀田・山岸 

(4) は,一方的最後通牒 ゲーム実験から「自分は不公平を甘受しない人間である(堀田・山岸 

(5) )」という自己イ メージの維持といった自らの心理的な要因を拒否の理由として挙げている.いずれにしろ, monetary punishment として機能しない拒否が提案者の意思決定に影響を与えるかどうかは別 問題である. そこで,次に提案者の行動について考える.最後通牒ゲームでは提案者は理論的には最低 額の提案を行うはずである.しかし,経済実験からは,最低額よりも多い金額を提案する被 験者が観察される.このような提案を行う理由として,上述のような経済実験での応答者の 行動を予測しているため,あまり低い額を提案して応答者に拒否され,自らの分配額がゼロ となる事を回避したいということが考えられる.しかし,提案者が応答者からの罰を回避し たいと考えるのは,そのような monetary punishment の場合だけではない.Xiao and Houser (2009)は,独裁者ゲーム 1) において受取人が分配後に独裁者にメッセージを送る場合は送ら ない場合と比較して有意に分配額が高いことを示した.この結果は,悪く書かれたメッセー ジは monetary punishment とはみなせないにも関わらず,それを回避するために提案額を上げ ることを示している.つまり応答者が負の感情を伝えてくることを避けるために提案額を引 き上げており,punishment と言える.よって,Xiao and Houser (2009)では,最後通牒ゲーム における拒否を monetary punishment,独裁者ゲームにおける受取人が分配後に独裁者に送る メッセージを non-monetary punishment と分類している. 本稿では,non-monetary punishment が存在する場合に,提案者が互恵的に行動するか否か を分析する.つまり,応答者による提案者の心理的負担を軽減してくれる行動に対して,提 案者が正および負の互恵性に基づいて金銭を分配するか否かを分析する.具体的には,同じ 204

(6) Non-Monetary Punishment に対する互恵性の存在とその影響 提案者と応答者の組み合わせでゲームを繰り返し行う場合(ペア固定条件)と,ランダムに 組み合わせを変更してゲームを繰り返し行う場合(ランダムマッチ条件)を比較する.もし 提案者が non-monetary punishment に対して互恵的に行動しているのであれば,ペア固定条件 で は non-monetary punishment が 行 使 さ れ た 場 合 に は 次 の ゲ ー ム で 低 い 金 額 を 提 案 し , non-monetary punishment が行使されなかった場合には高い金額を提案するというように互恵 的に行動するはずである.一方,ランダムマッチ条件では前のゲームでの non-monetary punishment の行使の有無が提案額に影響しないはずである. 本稿では Xiao and Houser (2009)のメッセージ付き独裁者ゲームではなく,一方的最後通牒 ゲームで分析を行う.上述した Xiao and Houser (2005)から,一方的最後通牒ゲームにおける 拒否も負の感情を伝えるためと考えられる.そして,提案者が応答者の拒否を負の感情の表 明と認識し,それを心理的負担と感じる可能性がある.つまり,Xiao and Houser(2009)におけ るメッセージよりも心理的負担は弱いとしても,一方的最後通牒ゲームにおける拒否も non-monetary punishment となり得るだろう.ただし,一方的最後通牒ゲームにおける拒否は Xiao and Houser (2009)のメッセージによる non-monetary punishment とは次の点で異なること に注意されたい.Xiao and Houser (2009)における応答者の拒否は自分で金銭的費用を支払う ことがないのに対し,一方的最後通牒ゲームでは自分の分け前を失うという金銭的費用が発 生している.そのため,本稿で分析する一方的最後通牒ゲームにおける拒否のように,自ら 金 銭 的 費 用 を 支 払 っ て 他 者 に 非 金 銭 的 罰 を 与 え る こ と を 本 稿 で は costly non-monetary punishment と呼び,Xiao and Houser (2009)のように自らは金銭的費用を支払うことなく他者 に非金銭的罰を与える free non-monetary punishment とは区別する.なお,monetary punishment についても同様に,自ら金銭的費用を支払う costly monetary punishment と自らは金銭的費用 を支払うことのない free monetary punishment に分類できる. 本稿の構成は以下の通りである.2 節では関連する先行研究について述べる.3 節では本稿 の仮説を,4 節では実験計画および実験の概要について説明し,5 節でその実験結果について 詳述する.最後に 6 節で本稿の結論を述べる. 2 先行研究 一方的最後通牒ゲーム実験に関する先行研究としては,Bolton and Zwick (1995)や Güth and Huck (1997)がある.Bolton and Zwick (1995)は最後通牒ゲームと一方的最後通牒ゲームを比較 することで,拒否が monetary punishment になる場合は提案額が高くなるとの実験結果を得た. さらに,Güth and Huck (1997)ではその 2 つのゲームに加え,最後通牒ゲームの拒否を free monetary punishment となるように変更したゲーム,つまり応答者が拒否を行うことで提案者 の利得のみがゼロとなるゲームと,拒否が行えない通常の独裁者ゲームの 2 つを合わせて比 較を行っている.ここでも Bolton and Zwick (1995)と同様に最後通牒ゲームは一方的最後通牒 ゲームよりも提案額は高く,応答者が拒否を行うことで提案者の利得のみがゼロとなるゲー ムではさらに提案額が高いという結果となった. non-monetary punishment を分析した先行研究としては,Xiao and Houser (2005)や Xiao and 205

(7) 理論と方法 Houser (2009)がある.Xiao and Houser (2005)では,提案者が分配を提案し,応答者が拒否す るかどうかを意思決定した後で,応答者から提案者に対して自由なメッセージを送るという non-monetary punishment が最後通牒ゲームに付け加えられている.その結果,通常の最後通 牒ゲームと比べて(分配の)提案に対する応答者の拒否率が有意に低下した.自由なメッセ ージを送ることが拒否の代替手段となっていることがわかる.ただし,二つの条件の間で提 案額に有意な差はなかった.一方,Xiao and Houser (2009)では,分配された後に受取人から 独裁者にメッセージを送るという non-monetary punishment が独裁者ゲームに付け加えられて いる.その結果,独裁者の分配額は通常の独裁者と比べて有意に高くなった.これは独裁者 が non-monetary punishment を回避するために分配額を上げていることを示している.我々の 分類に従うと,Xiao and Houser(2005)は,costly monetary punishment と free non-monetary punishment の比較を行ったことになる.つまり,この比較では応答者の金銭的な損失の有無 と提案者の金銭的な損失の有無という 2 つの点で条件が異なっていることに注意する必要が ある. 上記以外に non-monetary punishment を扱った研究としては,公共財供給ゲーム実験の Masclet, Noussair, Tucker, and Villeval (2003)や Barr (2001)がある.Masclet et al. (2003)は,利得 に関係しない disapproval points をお互いに付けることで,それがない通常の公共財供給ゲー ムと比べて協力率が有意に高まる事を示した.ここでは,disapproval points が non-monetary punishment として機能している.次に,Barr (2001)はジンバブエで実験を行い,意思決定後 にお互いに言いたい事を言わせた.その結果,少なすぎて非難された被験者は後のラウンド で貢献が高くなった.さらに,貢献が低かったにもかかわらず非難されなかった被験者も, 他の人が非難されるのを見て後のラウンドでの貢献が高くなった. 互恵性に関する実験を行ったものとしては,Fehr, Gächter, and Kirchsteiger (1997)や Kiyonari, Tanida, and Yamagishi (2000)がある.Fehr et al. (1997)では,雇用主が賃金と労働目標を提示し, 労働者はそれを受諾するか拒否するかを決め,受諾した場合には実際の労働量を決める.実 験の結果,理論的な均衡である最も安い賃金の提示とそれを受諾し最も少ない労働量を選択 することはほとんど観察されなかった.多くの場合,雇用主も労働者も双方とも互恵的な意 思決定を行っていた.Kiyonari et al. (2000)では,囚人のジレンマの利得を用いて,1 人のプ レイヤーが先に意思決定をしてその結果を見た上でもう 1 人のプレイヤーが意思決定をする という実験を行い,先手が協力を選択する場合に後手の協力率が通常の囚人のジレンマにお ける協力率よりも高いという結果となった.これは,後手が互恵的に振る舞っていることを 示していると言える. これらの先行研究に対して,本稿は一方的最後通牒ゲームを繰り返し行う実験を実施する ことで,non-monetary punishment に関して,プレイヤーが互恵的に行動するか否かを分析す る. 206

(8) Non-Monetary Punishment に対する互恵性の存在とその影響 3 仮説 本稿では, 『提案者は繰り返し状況において互恵的に分配する』という仮説を検討する.多 くの研究では一方的最後通牒ゲーム実験は一回限りのゲームで,繰り返しが考慮されていな い.繰り返しを考慮するならば,同じ相手と繰り返す提案者は,互恵的に振る舞う可能性が ある.一方で,相手が毎回ランダムに変わる場合には,提案者が互恵的に振る舞ったりはし ないはずである. ここでの互恵的な振る舞いとは以下のようなものである.一方的最後通牒ゲームにおける 応答者の拒否は costly non-monetary punishment であるので,提案者にとってそれ自体が「自 分に良くない行為」といえる.そこで,前ラウンドで拒否された提案者は低い金額を提案す ることで「仕返しをする」ことになる.逆に,応答者が提案を承諾するということは,提案 者にとっては「自分に良い行為」といえ,これに対しては高い金額を提案することで「お返 しをする」ことになる.前者が負の互恵性で後者が正の互恵性であるが,両方を合わせると, 応答者が承諾した場合には拒否した場合と比べて高い金額を提案することになる. 仮説:繰り返し一方的最後通牒ゲーム実験において提案者と応答者の組が固定されているな らば,前のラウンドで応答者が提案額を承諾した場合には,提案者は拒否された場合 と比べてより高い金額を提案する. 一方,提案者と応答者の組が毎回ランダムに変化するならば,前ラウンドの行動は今ラウ ンドの相手とは別人なので互恵性を発揮する機会がなく,このような結果は検証されないだ ろう.つまり,そのようなトリートメントでは前のラウンドで応答者が提案額を承諾した場 合でも,提案者は拒否された場合と同じような金額を提案することになるだろう. 繰り返し状況では提案者と応答者の間に何らかの戦略的駆け引きの余地が生まれる.もし 提案者が上述の意味で互恵的に振る舞うならば,応答者は提案者の互恵性を利用して利得を 大きくすることが出来る.この可能性についても検討する. 4 実験 4.1 実験計画 本研究では 2 つの条件を設定して実験を行った.一つ目はランダムマッチ条件である.こ の条件の下では一方的最後通牒ゲーム実験で,ペアがラウンド毎にランダムに決められる. 二つ目はペア固定条件で,同じく一方的最後通牒ゲーム実験でペアを固定して行う.いずれ の条件の下でも実験は 8 ラウンドのゲームから構成される.なお,8 ラウンド繰り返すこと は事前に被験者に対して知らせている. ペア固定条件における提案者の行動とランダムマッチ条件におけるそれを比較することで, ペア固定条件の提案者が互恵的に行動するか否かを判断することが出来る.本研究での主た る検討対象はこの 2 つの条件での提案者の行動の違いである. 207

(9) 理論と方法 表 1 観測できる相手情報 提案者 (意思決定時) 提案者 (ラウンド終了後) 応答者 (意思決定時) 応答者 (ラウンド終了後) (提案者の) 提案額 ̿̿̿ ̿̿̿ 知らない 知っている (応答者の) 最大拒否額 知らない 知らない ̿̿̿ ̿̿̿ 提案承諾 or 提案拒否 知らない 知っている 知らない 知っている 4.2 実験の概要 一方的最後通牒ゲーム実験は 2010 年 12 月 9 日に石巻専修大学での実験室で実施された. 参加者は石巻専修大学の経営学部・理工学部の大学生 40 名(男性 28 名,女性 12 名)で,参 加者を集める際には,報酬が実験終了後すぐに現金で与えられることを明示して募集を行っ た.ランダムマッチ条件とペア固定条件は共に 1 セッションずつ実施され,各セッションに 20 名が参加した.参加者はランダムマッチ条件とペア固定条件のどちらか 1 つだけに参加し た.実験に参加することで無条件に獲得できる報酬を 800 円とした. 実験では参加者が 2 つの役割に分けられた.提案者と応答者である.これらの役割は事前 にランダムに与えられ,実験の間中変わらなかった.また,提案者と応答者は別々の部屋に 入室した.具体的には提案者役の参加者と応答者役の参加者が出会うことのないように別々 の場所に集合させ,実験者がそれぞれを別の部屋に誘導した. 各部屋の席には事前に 1~10 までの番号が割り当てられ,参加者は決められた番号の席に 案内された.事前に配られた説明書や領収書,コンピュータには,合図があるまで一切手を 触れないように注意した.実験では,以下の作業を参加者に行ってもらうよう実験者が説明 書を朗読して説明した. 提案者と応答者は 2 人 1 組のペアを組んだ.ランダムマッチ条件の場合は毎回ペアがラン ダムに組み替えられ 2) ,ペア固定条件の場合は実験の間中ペアの組み合わせは変更されなか った.また,ゲームは 8 ラウンド実施された.以上は実験説明の際に参加者に伝えられた. 以下,一方的最後通牒ゲーム実験の手続きを述べる.各ラウンド,提案者は 200 円の初期 保有額を与えられる.この保有額を元に提案者は応答者に分配する金額を決定する.同時に 別室では,応答者が相手から提示される前に,分配額がいくら以下の場合に提案を拒否する か(最大拒否額 3) )を決める 4) .提案者の分配額は応答者に伝えられる.伝えられた分配額 が最大拒否額より多ければ提案を受け入れ,提案者の提示した分配案が実現する.一方,提 案された分配額が最大拒否額以下であれば,提案を拒否する.この場合,提案者は提案通り の分配額を獲得できるが,応答者は 1 円も獲得できない.なお,提案者と応答者が観測でき る相手情報については,表 1 にまとめている. 通常の一方的最後通牒ゲームでは,応答者は提案に対し拒否するかどうかのみを選択する. 本稿では応答者がどの程度の提案なら拒否しても構わないと考えているかを知るため,上記 208

(10) Non-Monetary Punishment に対する互恵性の存在とその影響 表 2 ラウンドごとの平均提案額 ラウンド 条件 ランダム マッチ ペア固定 1 2 3 4 5 6 7 8 Total 19.0 18.5 19.3 26.4 10.4 18.5 15.0 18.0 18.1 (29.6) (31.5) (37.7) (43.3) (24.8) (35.9) (25.1) (34.3) (32) 64.7 55.6 43.4 43.2 79.0 57.9 72.2 95.0 63.9 (51.6) (48.9) (44.3) (42.4) (65.3) (44.5) (61.8) (74.9) (55.4) 表の 

(11) 内の数字は標準偏差を表す. 図 1 平均提案額の推移 のように応答者は事前に最大拒否額を決定する設計とした 5) .また,提案者が知るはずの情 報を通常の一方的最後通牒ゲームと揃えておくため,提案者に伝える情報は自分の提案が受 け入れられたかどうかのみを伝えることとしている. なお,この種の実験では,提案者が『応答者も提案者と同じ事をしている』と勘違いしや すい 6).そのため,実験内容の補足として, 「ペアの受け手は提案者にお金を分配することは ありません.ペアの受け手が提案を拒否しても提案者の金額が変わらない.実験後提案者と 受け手との立場を変えて,実験をすることはありません」と提案者に対して強調した.応答 者に与えられる指示は以下の通りである. 「 別室にいるペアが実験者から 200 円が渡されてお り,そのうちいくら彼(彼女)に渡すかを決定している.相手からの分配額が提案される前 に,あなたは分配額を受け入れる最低金額を決定し,入力しなさい.相手からの分配額をあ なたが受け入れたかどうかは,ラウンドの最後に相手に伝えられる.受け入れた場合,提案 額がそのまま実現するが,拒否した場合,あなたは 1 円も受け取れない.相手はあなたの選 択に関らず,200 円からあなたに提示して残った分を獲得する.」 実験は各参加者がコンピュータに金額を入力する形式で進められた.実験で使用したプロ グラムは全て z-Tree(Fischbacher, (2007))で作成された.実験終了後,アンケート調査を行 った.その間に,実験者が謝金計算をした.アンケートの回答が終わった人から,謝金を確 209

(12) 理論と方法 認した上で領収書を書き,実験室から退出した. 表 3 前のラウンドでの拒否・承諾ごとの平均提案額 前のラウンドで提案が 前のラウンドで提案が 拒否された場合 承諾された場合 ランダムマッチ条件 38.6 30.9 ペア固定条件 34.2 83.5 表 4 提案額の推定結果(パネル・トービット回帰分析) 条件 説明変数 ランダムマッチ条件 ペア固定条件 Model 1 Model 2 Model 1 Model 2 -10.663 -8.338 39.739** 28.628* (8.089) (8.306) (16.329) (17.387) 1.430*** 1.424*** 0.382 0.404 (0.307) (0.305) (0.265) (0.280) Preaccept Fstoffer -1.927 5.312 (1.782) (3.449) Round -27.441** -18.522 7.046 -14.218 (11.787) (13.932) (23.091) (28.011) 23.465*** 23.240*** 33.856*** 36.772*** (7.604) (7.538) (12.509) (12.999) 21.914*** 21.822*** 52.369*** 50.668*** (3.032) (3.018) (5.454) (5.301) 70 70 70 70 -161.920 -161.920 -314.019 -161.920 χ²(2)=21.95 χ²(2)=23.14 χ²(2)=8.96 χ²(2)=21.95 Prob > χ² Prob > χ² Prob > χ² Prob > χ² =0.000 =0.000 =0.0114 =0.000 Constant σ_u σ_e N Log-likelihood χ² ***, **, * はそれぞれ 1%水準,5%水準,10%水準で有意であることを示す. ( )内の数値は standard error である. χ² の行は Wald 検定の結果を示している 7) . 210

(13) Non-Monetary Punishment に対する互恵性の存在とその影響 表 5 提案額の推定結果(パネル分析) 条件 説明変数 ランダムマッチ条件 ペア固定条件 Model 1 Model 2 Model 1 Model 2 -7.860 -7.510 35.844*** 27.668** (9.283) (9.352) (10.397) (11.503) 0.921*** 0.919*** 0.243 0.257 (0.256) (0.258) (0.208) (0.219) Preaccept Fstoffer -0.455 4.728 (0.553) (3.801) Round 2.319 4.551 26.506 6.913 (2.649) (3.534) (16.997) (22.381) 70 70 70 70 χ²(3)=22.82 χ²(4)=24.24 χ²(4)=16.94 χ²(4)=17.43 Prob > χ² Prob > χ² Prob > χ² Prob > χ² =0.0000 =0.0000 =0.0002 =0.0006 Constant N χ² ***, ** はそれぞれ 1%水準,5%水準で有意であることを示す. ( )内の数値は heteroskedasticity-robust standard error である. χ²の行は Wald 検定の結果を示している. 5 結果 5.1 提案者の行動 表 2 は一方的最後通牒ゲームの結果で,ランダムマッチ条件,ペア固定条件の各ラウンド の平均提案額と標準偏差を示したものである.図 1 は平均提案額をグラフにしたものである. ランダムマッチ条件とペア固定条件を比較する.ラウンドごとのマン・ホイットニー検定 は,3 ラウンド,4 ラウンド以外でペア固定条件の被験者の方がランダムマッチ条件の被験者 より多くの額を提案することを示した 8)(5 ラウンドが 1%水準,6 ラウンドが 10%水準,そ れ以外では 5%水準). 応答者の行動が次のラウンドでの提案者の行動に与える影響について分析する.まず,表 3 は前のラウンドで応答者に提案が拒否された場合と承諾された場合の平均提案額を,ラン ダムマッチ条件,ペア固定条件別に表したものである.これによると,ペア固定条件におい て前のラウンドで提案が承諾された場合の平均提案額が 83.5 で,他の 3 つの場合の 30.9~38.6 と比べて高い値となっている. 次に,提案者が応答者の行動に対して互恵的に振る舞っているかどうかを確認するために, データをランダムマッチ条件とペア固定条件に分けて,2 ラウンド目以降の提案額を被説明 変数とするパネル・トービット分析を行った 9).表 4 はその推定結果を示している.Preaccept は前のラウンドで応答者に提案が承諾された場合は 1,拒否された場合は 0 をとるダミー変 数である.Fstoffer は第 1 ラウンドでの提案額を表す 10).もともと寛大な人は高い提案を行 211

(14) 理論と方法 表 6 ラウンドごとの最大拒否額の平均 ラウンド 条件 ランダム マッチ ペア固定 表の( 1 2 3 4 5 6 7 8 Total 92.0 59.5 39.1 19.0 69.0 55.4 23.9 40.4 49.8 (55.3) (45.4) (55.6) (26.9) (80.9) (85.1) (41.2) (49.8) (59.9) 89.6 68.8 39.1 71.1 49.2 45.7 58.5 18.0 55.0 (30.0) (43.2) (42.1) (62.2) (46.5) (42.1) (65.1) (34.2) (49.5) )内の数字は標準偏差を表す. う傾向があると考えられるため, 「 もともと寛大な」程度を表す変数として入れている.また, Round はラウンド数を表す変数,Constant は定数項である.注目すべきは,Preaccept の係数 である.表 4 に示されているように,ランダムマッチ条件での Preaccept の係数が有意でな い一方,ペア固定条件での Preaccept の係数が正で有意であった.このことは,ランダムマ ッチ条件では提案者は応答者の行動に反応しないが,ペア固定条件では反応することを示し ている.さらに Model 2 ではラウンド数をコントロールしていて同様の傾向が示されている. すなわち,ペア固定条件の提案者は,応答者が提案を承諾した場合には,拒否した場合に比 べて次のラウンドで高い金額を提案するのである. なお,Fstoffer はランダムマッチ条件の場合のみ正で有意であった.これも,ランダムマッ チ条件では第 1 ラウンドで示された提案者それぞれの意思決定を維持しており,応答者の行 動に影響されていないことを示唆している. さらに,データをランダムマッチ条件とペア固定条件に分けて,2 ラウンド目以降の提案 額を被説明変数とするランダム効果モデルでのパネル分析を行った.表 5 はその推定結果を 示している 11).分析の結果,上述のパネル・トービット分析と同様にペア固定条件の場合の み Preaccept の係数が正で有意であった.また,Fstoffer はランダムマッチ条件の場合のみ正 で有意であった.ラウンド数をコントロールした Model 2 についても同様の傾向が示されて いる. 5.2 応答者の行動 表 6 はランダムマッチ条件,ペア固定条件の各ラウンドの最大拒否額の平均と標準偏差を 示したものである.ラウンドごとにマン・ホイットニー検定を行った結果,4 ラウンド以外 ではこれらの間に統計的に有意な差は検出されなかった(4 ラウンドでは 5%水準で有意差が あった). 表 7 は最大拒否額を被説明変数とするパネル・トービット分析の推計結果を示している. 説明変数の Round は表 4 の Round と同じである.Fix はペア固定条件のとき 1,ランダムマ ッチ条件のとき 0 をとるダミー変数である.Model 1 と Model 2 の結果が示すように,Round の係数が負で有意であった.さらに Model 2 において Round と Fix の交差項は有意ではなか った.つまり,ランダムマッチ条件かペア固定条件かに関係なく応答者は最大拒否額を下げ ていく傾向があることが分かる.通常のパネル分析(ランダム効果モデル)でも同様の結果 212

(15) Non-Monetary Punishment に対する互恵性の存在とその影響 が得られた(表 8 の Model 1 と Model 2) 12). 表 7 最大拒否額の推定結果(パネル・トービット分析) 説明変数 Model 1 Model 2 14.505 20.317 (16.593) (23.157) -8.865*** -7.977** (2.413) (3.445) Fix Round -1.727 Fix*Round (4.800) 72.159*** 68.297*** (15.804) (19.104) 27.661*** 27.606*** (8.257) (8.247) 65.976*** 65.957*** (4.959) (4.958) 160 160 -672.434 -672.369 χ²(2)=14.199 χ²(3)=14.341 Prob >χ² = 0.001 Prob >χ² = 0.003 Constant σ_u σ_e N Log-likelihood χ² ***, ** はそれぞれ 1%水準,5%水準で有意であることを示す. )内の数値は standard error である. ( χ²の行は Wald 検定の結果を示している. 表 8 最大拒否額の推定結果(パネル回帰分析) 説明変数 Model 1 Model 2 5.213 9.983 11.663 (13.694) -5.923*** -5.242** (1.588) (2.412) Fix Round -1.363 Fix*Round (3.171) 76.442*** 73.375*** (8.216) (9.012) 160 160 χ²(2) =14.79 χ²(3)= 12.139 Prob >χ² = 0.001 Prob>χ² = 0.007 Constant N χ² ***, ** はそれぞれ 1%水準,5%水準で有意であることを示す. ( )内の数値は heteroskedasticity-robust standard error である. χ²の行は Wald 検定の結果を示している. 213

(16) 理論と方法 以上の結果は,応答者は提案者の行動に関係なくラウンドが進むにつれて低い提案額でも 承諾するようになっていったことを示唆している 13). 6 議論 前節の結果を解釈することで,提案者と応答者という立場の違いが互恵性に関する非対称 性を生み出すことがわかる.提案者は互恵的に振る舞う一方で応答者は互恵的ではない可能 性を我々の実験結果は示唆している. 6.1 提案者の行動の解釈 前節の分析結果によると,ペア固定条件における提案者は,応答者が前のラウンドにおい て提案を承諾した場合には前のラウンドで拒否した場合に比べて高い金額を提案することが 分かった.その一方,ランダムマッチ条件ではそのような行動は観察されない.このことか ら,ペア固定条件における提案者の行動メカニズムは,以下のようなものであると考えられ る. Xiao and Houser (2005, 2009)から,提案者は応答者の拒否を負の感情の表明と認識し,それ を心理的負担と感じる,と考えられる.そのため,応答者が提案を拒否することは提案者に 負の効用をもたらし,承諾することは提案者に正の効用をもたらす.つまり,一方的最後通 牒での拒否は,non-monetary punishment になっている.そして,提案者は拒否が行われなか った場合,その応答者の良い行為に対して(拒否される場合と比較して)高い提案額で報い る.さらに,その高い提案額という自らの(相手に対して)良い行為によって,その次のラ ウンドで応答者がその行為に報いるために拒否を行わないと提案者は期待する.逆に,拒否 に対しては低い提案額という形で仕返しをする. 一方,ランダムマッチ条件では提案額は前ラウンドで応答者が提案を拒否したかどうかに 影響されているとは言えない.これは,ランダムマッチ条件では相手が変わるため,提案額 を増やすことはフィードバックにならず,また相手のフィードバックも期待できないため影 響されないからだと考えられる. ペア固定条件で拒否された場合に,承諾された場合と比べて提案者が次のラウンドで低い 金額を提案することについて別の解釈の可能性を考えてみよう.あるラウンドで応答者が提 案を拒否したとき,提案者がこれに心理的負担を感じず,単に応答者はこの程度の額は必要 としないと判断して,拒否された次のラウンドでは低い金額を提案するとする.このような 提案者には,応答者の拒否が non-monetary punishment としては機能しない.もしそうである ならば,その低い提案額を応答者が承諾した場合には,前ラウンドで拒否された提案の次に 望ましいと提案者が考える案が承諾されていることになる.そのため,その次のラウンドで 高い金額を提案する必要はないはずである.しかし,5.1 節の分析結果によると承諾は拒否 と比較して高い金額を提案する効果を持つから,拒否された次のラウンドよりも提案額は高 くないといけない.つまり,一度拒否されて低い金額を提案して承諾された提案者も,その 次のラウンドではまた高い金額を提案しているということである.よって,この別解釈は本 214

(17) Non-Monetary Punishment に対する互恵性の存在とその影響 稿の実験結果と整合的ではない. まとめると,実験結果は次のことを示唆していると考えられる.応答者の拒否が提案者に とって non-monetary punishment になっており,提案者は応答者のそのような行動に対して互 恵的に行動するということである. また,ランダムマッチ条件では,第 1 ラウンドでの提案額が高い場合にはそれ以降のラウ ンドでも提案額が高いという結果が得られている.さらに,上の分析ではラウンド数をコン トロールしており,そういった要因は繰り返すことで減衰していない.このことは互恵性以 外の個人的特性,例えば利他性,による説明が自然と考えられる. 6.2 応答者の行動の解釈 応答者の行動については提案者のそれとは異なり,ランダムマッチ条件とペア固定条件の 間で違いは観察されず,ラウンドが進むにつれて低い提案額でも承諾するようになっていっ た. 異なるゲーム的状況であるにもかかわらず行動に違いが見られないことは,応答者を金銭 的利得を最大化するプレイヤーと仮定すると,応答者が提案者の反応を予測できないか,予 測していても「提案者の反応を利用しない」という戦略をとっているか,のいずれかが考え られる 14).例えば,応答者が提案者は拒否という non-monetary punishment に対して互恵的に 行動する事を予測し,それを戦略的に利用したとすると,ランダムマッチ条件では拒否を行 うような提案額に対してもペア固定条件では敢えて拒否を行わないということが起こるかも しれない.他には,評判効果を考慮するなら,最初のラウンドでは拒否額を上げておく可能 性も考えられる.いずれにしろ,ペア固定条件とランダムマッチ条件に違いが観察されない ことは,このような応答者の戦略的行動が観察されなかったということである.ただし,本 実験では応答者の考えそのものを観察することは出来ていないため,応答者が提案者の反応 を予測していないのか,それを戦略的に利用していないのかを区別できない. 福野・大渕 

(18) らによると,一方的最後通牒ゲームにおける応答者の拒否動機は公平性 の観点からの報復とともに自己の社会的地位の維持という側面があるという.我々の実験で は戦略的に行動できる余地の大きい状況であるペア固定条件とそうでないランダムマッチ条 件で応答者の行動の違いは観察されなかった.この結果は福野・大渕 

(19) のいう自己の社 会的地位の維持と整合的ともとれる.ただし,ラウンドが進むにつれて低い提案額でも承諾 するようになることから,これらの要因の影響は繰り返すことで少なくなっていくことにな る 15). 7 結論 本稿は,ランダムマッチ条件とペア固定条件の繰り返し一方的最後通牒ゲーム実験の比較 から提案者の non-monetary punishment に対する互恵性について分析を行った.ここで提案者 の non-monetary punishment に対する互恵性とは,応答者によって提案が承諾された場合には, 拒否された場合に比べて次のラウンドで高い金額を提案することである.またこのことは同 215

(20) 理論と方法 時に提案者にとって応答者の拒否と承諾は(金銭的な利得に差がないにもかかわらず)無差 別ではなく,承諾をより選好することを意味している. 分析の結果,ペア固定条件では 1 ラウンド前に応答者が承諾した場合の提案額は,拒否し た場合のそれに比べて有意に高いことが分かった.それに対してランダムマッチ条件ではそ のような効果は確認できなかった.これらのことから提案者は互恵的に行動していると結論 できる. 一方,応答者については,ランダムマッチ条件とペア固定条件のいずれにおいても最大拒 否額は徐々に低下していき,またそれらの間で有意な違いは確認できなかった.もし,応答 者が提案者の互恵的な行動を認識していて利得を最大化しようとするならば,ランダムマッ チ条件よりペア固定条件の方が最大拒否額は低くなるはずである.これらのことから応答者 は提案者の互恵的な行動を認識していないか,あるいは利得最大化以外の目的で行動してい る可能性がある. 本稿で残された課題には以下が考えられる.第一に,サンプル数に起因すると思われる問 題についてである.提案者の行動について,ランダムマッチ条件では第 1 ラウンドの提案額 が高い提案者は,それ以降も高い提案額を維持する傾向が観察された.これは利他性等の理 由によると考えられるが,ペア固定条件では有意ではなかった.また,応答者の行動につい てはランダムマッチ条件とペア固定条件の間で特に有意な違いは観察されなかった.これら は単にデータ数が少なかったためである可能性がある.第二に,応答者の行動原理について 本稿の実験結果からは,応答者は通常考えられる意味での戦略的行動を行っているとは考え にくい.先行研究では応答者の拒否の理由として自己イメージの維持が指摘されている.本 稿の結果はそれを否定するものではなかったが,ラウンドが進むにつれて低い提案額でも応 答者は承諾するようになった.拒否の理由が自己イメージの維持であったとしても,この結 果からはラウンドが進むにつれてそれを維持することをしなくなる,と解釈できる.しかし, 一方でラウンドが進んでも応答者が提案者の互恵的行動に対して戦略的に対応するようには ならなかった.つまり,応答者が複数ラウンドに渡って戦略的に行動しないという行動原理 の理由としては自己イメージの維持では不十分かもしれない.これらの点を明らかにする事 は今後の課題としたい. 【付記】 本稿の作成においては,七條達弘教授(大阪府立大学)と蟹雅代准教授(帝塚山大学)から貴重な アドバイスをいただいた.また,二人の本誌匿名レフリーから有益なコメントを頂いた.記して感謝 したい.なお,本稿は科学研究費補助金(基盤(C)22530315)による研究成果の一部である. 【注】 1) 独裁者ゲームは,最後通牒ゲームにおける応答者の拒否をなくし,提案者の提案を受け入れるこ としかできないようにしたゲームである.独裁者ゲーム実験に関する先行研究としては,Forsythe, Horowitz, Savin, and Sefton (1994)や Hoffman, McCabe, and Smith (1996)がある. 2) 組み替え方は文字通りランダムである.そのため,確率的には過去にペアになった参加者と再び 216

(21) Non-Monetary Punishment に対する互恵性の存在とその影響 ペアになる可能性がある. 3) 最低提案受入額と考えてもよい. 4) ランダムマッチ条件の応答者用インストラクションに誤りがあり,「画面にあなたのペアからの 金額が提示されます(図 1)」という不要な一文が意思決定の説明の前に入っていた.しかし,そ の直後で正しい意思決定の説明があり,インストラクションの図 1 も実際に稼働させたプログラ ムの画面と同じであり,直後の正しい説明とも整合的である.よって,参加者は正しい情報をも とに意思決定したと考えられる. 5) 全てのパターンに対して意思決定を行わせる方法は「戦略法」と呼ばれている(堀田・山岸 

(22) 参照)が,本稿の設定では応答者の行う意思決定の数が非常に多くなってしまう.我々の方法は 戦略法を簡略化したものと考えられる.ただし,簡略化の代償として応答者にある種の合理性を 課していることに注意すべきである. 6) Ogawa, Takemoto, Takahashi, and Suzuki (2012)では実験説明を丁寧にしても 10%弱の提案者がこ のように勘違いしていた.勘違いしていた提案者のデータは分析から除外している. 7) これは,全ての係数がゼロという帰無仮説の検定である. 8) 分析には Stata13 を用いた.以下の分析も同様である. 9) トービットモデルは非負制約などの理由により被説明変数が切断されているときに用いられる. 我々の実験において提案者は 0 までしか提案額を下げられないが,この制約がなければ提案者は 負の提案を行う可能性がある.そのため,本稿の分析においては通常の回帰モデルよりもトービ ット・モデルを使用するべきである.なお,全ての分析において境界値は 0 と 200 である. 10) この他に,例えば前ラウンドでの提案額を説明変数として用いることも考えられるが,我々の分 析したい Preaccept との相関が高く同時に入れることには問題があると考えられるため採用して いない. 11) Fstoffer のような時間に関して一定の値をとる説明変数を分析に用いる都合上,本稿ではランダ ム効果モデルに分析を限定している. 12) 注 10 と同様,説明変数の Fix は時間に関して一定であるため,本稿ではランダム効果モデルに分 析を限定している. 13) 前のラウンドでの相手の提案者の提案額を説明変数に追加してみたが,最大拒否額に影響を与え るとはいえなかった.つまり提案者の行動が次のラウンドで応答者の行動に影響するとはいえな かった.前のラウンドでの相手の提案者の提案額と自分の最大拒否額の差を説明変数に追加して みたが,最大拒否額に影響を与えるとはいえなかった.これは相手の提案者の提案額と自分の最 大拒否額の差が正であるか負であるかに単純化したモデルでも,同様の結果であった.つまり, 応答者が提案者の提案額と自分の拒否額の差を考えてその後のラウンドで最大拒否額を調整す るという行動は確認できなかった. 14) プレイヤーが限定合理的で,提案者の反応を故意に予測しないこともあり得るが,提案者が拒否 に影響を受ける可能性を予測するのに高度な計算能力が必要とはいえず,この可能性は考えにく い.また,単にデータ数が足りないため有意差が出なかった可能性があるが,ここではその可能 性は無視している. 15) この結果は資源分配の交渉において自己の社会的地位の維持という点があまり重要でないと解 釈できるかもしれない.しかし,我々の結果をそこまで解釈することは拡大解釈に過ぎるかもし れない.というのは,すべての資源分配の交渉が連続的とは限らずそれぞれ 1 回限りの交渉と考 えた方が良い場面も多いだろうからである.それ故,資源分配の交渉において自己の社会的地位 といった要因を殊更に軽視する必要はない. 【文献】 Bolton, G. E., and A. Ockenfels. 2000. “ERC: a theory of equity, reciprocity, and competition.” The American Economic Review 90(1): 166-193. 217

(23) 理論と方法 Bolton, G. E., and R. Zwick. 1995. “Anonimity versus Punishment in Ultimatum Bargaining” Games and Economic Behavior 10:95-121 Camerer, Colin F. 2003. Behavioral Game Theory: Experiments in Strategic Interaction. New York: Princeton University Press. Dufwenberg, M., and G. Kirchsteiger. 2004. “A Theory of Sequential Reciprocity.” Games and Economic Behavior 47 (2): 268-298. Fehr, E., and K. M. Schmidt. 1999. “A theory of fairness, competition, and cooperation.” Quarterly Journal of Economics 114 (3): 817-868. Fischbacher, U. 2007. “z-Tree: Zurich Toolbox for Ready-made Economic experiments.” Experimental Economics 10 (2): 171-178. Forsythe, R., J. L. Horowitz., N. E. Savin., and M. Sefton. 1994. “Fairness in simple bargaining experiments.” Games and Economic Behavior 6 (3): 347-369. 福野光輝・大渕憲一. 2001. 「最終提案交渉における受け手の拒否動機の分析  同一性保護の観点か ら」『社会心理学研究』16 (3): 184-192. Güth, W., and S. Huck. 1997. “From Ultimatum Bargaining to Dictatorship-an Experimental Study of Four Games Varying in Veto Power.” Metroeconomica 48 (3): 262-299. Hoffman, E., K. McCabe., and V. L. Smith. 1996. “Social Distance and Other-Regarding Behavior in Dictator Games.” The American Economic Review 86 (3): 653-660. 堀田結孝・山岸俊男. 2007. 「互酬性と同一性保護  最後通告ゲームにおける拒否の理由」『心理学 研究』78 (4): 446-451. Kahneman, D., J. L. Knetsch., and R. Thaler. 1986. “Fairness as a constraint on profit seeking: entitlements in the market.” The American Economic Review 76 (4): 728-741. 川越敏司. 2010. 『行動ゲーム理論入門』エヌ・ティ・ティ出版. Kiyonari, T., S. Tanida., and T. Yamagishi. 2000. “Social exchange and reciprocity: confusion or a heuristic?.” Evolution and Human Behavior 21 (6): 411-427. Masclet, D., C. Noussair., S. Tucker., and M. C. Villeval. 2003. “Monetary and nonmonetary punishment in the voluntary contributions mechanism.” The American Economic Review 93 (1): 366-380. Ogawa, K., T. Takemoto., H. Takahashi., and A. Suzuki. 2012. “Income earning opportunity and work performance affect donating behavior: evidence from dictator game experiments.” Journal of Socio-Economics 41: 816-826. Rabin, M. 1993. “Incorporating fairness into game-theory and economics.” The American Economic Review 83(5): 1281-1302. Xiao, E., and D. Houser. 2005. “Emotion expression in human punishment behavior.” Proceedings of the National Academy of Sciences 102 (20): 7398-7401. Xiao, E., and D. Houser. 2009. “Avoiding sharp tongue: Anticipated written messages promote fair economic exchange.” Journal of Economic Psychology 30: 393-404. (受稿 2012 年 12 月 3 日/掲載決定 2013 年 9 月 3 日) 218

(24) Non-Monetary Punishment に対する互恵性の存在とその影響 The Existence and Effect of Reciprocity under Non-Monetary Punishment: Experimental Evidence from Impunity Games Akihiro SUZUKI Takehiro ITO Faculty of Literature and Social Sciences Faculty of Policy Studies Yamagata University Iwate Prefectural University 1-4-12 Kojirakawa-machi, Yamagata 152-52 Sugo, Takizawa, Takizawa-mura, Iwate 990-8560, JAPAN 020-0193, JAPAN Peilu YANG Kazuhito OGAWA CECEP Building Energy Management Co.Ltd Faculty of Sociology 14F, A Building Tiangong Mansion, Kansai University 30 Xueyuan Road, Haidian District,Beijing 3-3-35 Yamate-cho, Suita, Osaka 100083, CHINA 564-8680, JAPAN Hiromasa TAKAHASHI Toru TAKEMOTO Faculty of International Studies Faculty of Economics Hiroshima City University Tezukayama University 3-4-1 Ozuka-Higashi, Asa-Minami, Hiroshima 7-1-1 Tezukayama, Nara 731-3194, JAPAN 631-8501, JAPAN Comparing the results obtained in an experiment on the fixed matching impunity game with multiple rounds and those obtained in an experiment on the random matching impunity game with multiple rounds, we examine whether reciprocity under the condition of non-monetary punishment exists when proposers distribute money. The experimental results indicate that, in the fixed matching treatment, proposer participants offered more money to receiver participants when the receiver participants had accepted the offer in the last round than when the last offer was rejected, but in the random matching treatment, proposer participants did not. This result suggests that proposers can be affected by non-monetary punishment and act on a reciprocal basis. Keywords & phrases: Impunity game, economic experiment, reciprocity (Received December 3, 2012 / Accepted September 3, 2013) 219

(25)

Tags