05
指数
(
対数
)
関数
以下では、
log
x
の底は
e
とする。
1.
√
2
の近似値として、
x0
= 2
から出発すると、漸化式
x
n+1=
12(
x
n+
x2n
)
によって、
x1
=
3 2,
x2
=
17 12
を得る。バビロニアの記数法
(60
進法
)
で
x
n= 1
,
24
,
51
,
10
, . . .
となるのは
n
がいくつのときか。
(Solution)
計算してみると
x1
=
1
2
(
2 +
2
2
)
=
3
2
= 1
,
30
x2
=
1
2
(
3
2
+
4
3
)
=
3
2
+ 2
×
2
22
×
2
×
3
=
17
12
= 1
,
25
x3
=
1
2
(
17
12
+
24
17
)
=
17
2
+ 2
×
12
22
×
12
×
17
=
289 + 288
408
=
577
408
= 1
,
24
,
51
,
10
,
35
,
17
, . . .
x4
=
1
2
(
577
408
+
816
577
)
=
577
2
+ 2
×
408
22
×
408
×
577
=
332929 + 332928
470832
= 1
,
24
,
51
,
10
,
07
,
46
, . . .
となるので、n
= 3
のとき、
60
進法で小数点以下
3
桁まで正しい。
2.
log
ax
は、
1
分間に
a
倍の割合で増えつづけるバクテリアがもとの人口の
x
倍になるのは何分後かを表
している。この解釈を使って、オイラーの「黄金律」
log
ax
=
log
bx
log
ba
が成り立つ理由を説明しなさい。
(Solution)
多くの人の解答は、解答から「バクテリア」ということばを消しても理解できるものでした。つまり、
対数の定義、式変形に頼った解答でした。
この問題では、「この解釈を使って」と指定されていることに注意しましょう。そうでないと、問と答
とがかみ合わないという結果となります。
問題文に含まれている「分」という単位には意味がないことを見破るべきです。数学は単位系の取り方
に依らずに成立する真理を探究する学問なので、地球の自転から割り出した「分」という時間の単位を
どうしたら相対化できるかを考えることから数学的思考が始まります。
つまり、問題文を数学的に解釈すると、「バクテリアの数が
a
倍になるまでの時間を
1
とすると、x
倍
になるまでの時間は
log
ax
である」と言っているに過ぎないのです。これで、「分」ということばの意
味を相対化することができましたね。
さて、ここまで来れば、後は簡単です。
(1)
b
倍になるまでの時間を
1
とすると、a
倍になるまでの時間は
log
ba
であり、x
倍になるまでの時
(2)
よって、x
倍になるには、a
倍になるまでの
log
bx
log
ba
倍の時間がかかります。
(3)
これは、a
倍になるまでの時間を
1
とすると、x
倍になるまでの時間は
log
bx
log
ba
であると言っても同
じことです。
(4)
ところが、a
倍になるまでの時間を
1
とすると、x
倍になるまでの時間は
log
ax
なのですから、
log
ax
=
log
bx
log
ba
が成り立つというわけです。
3.
a
b= (
e
loga)
b=
e
blogaである。このことを使って、e
xと
log
x
の微分公式から、x
aと
a
xの微分公式
を導け。
(Solution)
y
=
x
a=
e
alogxとすると、合成関数の微分規則によって、
y
′=
e
alogx×
(
a
log
x
)
′=
e
alogx×
a
x
=
x
a×
a
x
=
a x
a−1となる。また、y
=
a
x=
e
xlogaとすると、合成関数の微分規則によって、
y
′=
e
xloga×
(
x
log
a
)
′=
e
alogx×
log
a
=
a
xlog
a
となる。
4.
公式
log
1 +
x
1
−
x
= 2
(
x
+
x
3
3
+
x
55
+
. . .
)
を用いて
log 2
を求めたい。x
に何を代入すればよいか。ま
た、
log 2 = 0
.
6931
. . .
まで得るには
x
の何乗の項まで計算すればよいか。
(Solution)
1 +
x
1
−
x
=
a
とおくと、x
=
a
−
1
a
+ 1
となる。ただし、a
̸
=
−
1
とする。
よって、a
= 2
のとき、x
=
1
3
となる。
実際に計算してみると、次のようになった。
x
=
13
としたとき、
s1
= 2
x
= 0
.
6
s3
= 2 (
x
+
x
3/
3) = 0
.
69
s5
= 2 (
x
+
x
3/
3 +
x
5/
5) = 0
.
693
s7
= 2 (
x
+
x
3/
3 +
x
5/
5 +
x
7/
7) = 0
.
6931
よって、x
7の項まで計算すると、
log 2 = 0
.
6931
となる。
x
2=
1(
コメント
)
問
1
では、x1, x2
の段階ではあまり
√
2
に近づいているように見えないが、x3
まで進んだとたんに俄然
√
2
に近づくことを見て欲しかった。
古代バビロニアでは
60
進法が使われていた。
1
から
59
までの数は
10
進法で表し、
60
になると次の桁に移
行する。言語はシュメール語とアッカド語が用いられ、右から左へ書き進む横書きであったが、数字は左から
右へ書いた。書いたといっても、実際は粘土板にヘラのようなもので溝を切り付けた喫形文字(くさびがたも
じ)が使われた。粘土板は焼けば瓦(かわら)のような瀬戸物となり、長期保存が可能であった。数字は
1
か
ら
9
までは縦棒で表し、上から下に向かって楔が突き刺さるような形で書いた。それで、
1, 2, 3
は
↓
,
↓↓
,
↓↓↓
のような形になった。
4
以上の数は
3
本の楔の束を使って表した。例えば、
9
は
3
つの楔が並んだ列が
3
列上
下に並んだ形の数字
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
で表した。
次に、
10
は楔を
1
本横にした図形で表した。以下同様であるが、
60
進法であるため、
10
の倍数を表す文字
は
50
まであれば足りた。粘土板を発掘して調べると、
10
進法と
60
進法が併用されていたことに起因する計
算ミスが見つかるという。
バビロニアの数学について、信頼できる参考書は、室井和男著「バビロニアの数学」東京大学出版会
(2000)
である。著者は、シュメール語、アッカド語の原典資料を実際に読みこんで、バビロニアの数学の実態を伝え
ている。これまで日本で出版されたバビロニアの数学に関する解説書はすべて西洋語資料からの孫引きで、そ
の中では推測に基づく説が通説として紹介されているものが多い。本書は、原点に当たることによってそれら
の誤りを正しているので、バビロニアの数学の本当の姿に触れることができる。楔形文字やシュメール語と
アッカド語に関する知識がなくとも、高校程度の数学がわかれば本書を読む進めることができる。
問
4
は、
log 2
の値の近似値を無限級数を用いて求める話である。テイラー展開として知られている公式
log(1 +
x
) =
x
−
x
22
+
x
33
−
x
44
+
x
55
−
+
· · ·
では、右辺が収束する
x
の範囲は
−
1
< x
≤
1
である。x
= 1
はこの収束域の限界であり、x
がこれより少し
でも
(1
億分の
1
でも
)
大きければ収束しないのであるから当然とも言えるが、とても収束が遅い。
(
☆ その様
子は、近似多項式のグラフをパソコンで描かせてみればさらによく理解できるだろう。
)
この問題の公式に
x
=
13