看護ケアの効果とメカニズムを可視化する
大学院保健科学研究院・大学院保健科学院 准教授
矢野
や の
理
り
香
か
(医学部保健学科)
専門分野 : 基礎看護学,看護教育学
研究のキーワード : 看護ケア,可視化, 自然言語処理, 看護, リハビリテーション HP アドレス : http://www.hs.hokudai.ac.jp/
何を目指しているのですか?
看護師が患者へ提供する看護ケアには、どのような効果があるのか、またどのようなメ カニズムが働いているのか、質の高いケアとは何かを、誰もが理解できるように可視化す ることを目指しています。臨床におけるケア場面で、看護師は、病を抱えている患者の深 い思いを聴くと同時に、患者の身体と心のダイナミックな変化に気づくことがあります。 特に、患者に触れるケアでは、言葉だけではないメッセージが互いに伝わり、患者との関 係性が近づくのを感じます。しかし、間違いなく看護師が関わることで患者が変化したと 感じても、それをどう他者に客観的に変化したことを説明できるのか。これまでも多くの 看護研究がなされてきてはいますが、人間関係を基盤とする看護ケアの臨床効果を説明す るエビデンスは十分ではありません。効果が高い看護技術を普及すること、質の高い看護 ケアを継承するためにも、私は看護技術の臨床効果とそのメカニズムを実証的なデータに 基づいて検証したいと考えています。
どんなことが実現されているのですか?
現在は、脳梗塞や脳出血などの脳血管障害患者への「手浴」ケアに焦点をあて、「手浴」 が患者の身体と心にどのような変化を与えているのかを研究しています。脳血管障害患者 への「手浴」とは、一日15分、患者の手をあたたかい湯の中に入れ、清潔にするだけでな く、湯による温熱効果を生かしたマッサージ・運動を行う看護技術です。手の麻痺を抱え ている患者にとって、手は、「動かない現実に向き合うつらいもの」でもあります。「手浴」 を通して、手を触れあいながら、患者と看護師が会話をすることは、温熱効果による身体 への気持ちよい反応だけでなく、患者の心を揺れ動かすケアともなります。手浴ケアを受 ける中で、手の動きや感覚の変化を患者自身が認識し、患者の語りは少しずつネガティブ な内容からポジティブなものへ変化し、それと共に行動が変容して いきます。これまでの研究成果から、このような患者のダイナミッ クな変化は、ケア中の患者の語りを分析する自然言語処理の手法や 統計により可視化できることがわかってきました。
また、手浴効果が生じるメカニズムを明らかにするために、ケア による気持ちよさにも関連する、温熱刺激による皮膚温の変化と自 律神経系の動きなどを解析する研究をしています。皮膚温変化は サーモグラフィなどを使用し、自律神経系の働きの測定には心拍変
出身高校:北海道札幌開成高校 最終学歴:聖路加看護大学大学院
看護学研究科
医療
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動解析などを活用した生理学的なデータの収集・分析を行っています。これらの研究を通 して、看護ケアによってどのように身体と心が影響を受けるのか、さらに効果がある看護 ケアとは何かを解明できるのではないかと考えています。
手浴中の皮膚温の経時的変化をサーモグラフィにより観測
また、「手浴」以外にも、院内感染の防止に向け、病院における環境管理の研究として、 環境微生物と人の流れや動きの関連性に関する実態調査を開始しています。病院環境の清 浄度の測定として、3MクリーントレースATP(アデノシン三リン酸)モニタリングシス テムとスタンプ培地を使用し、看護学の研究者と他分野の研究者が協働し、ディスカッショ ンしながら、データ分析を深めています。この研究により、感染拡散防止対策をより優先 的に実施すべき汚染場所の特定につなげたいと考えています。
次に何を目指しますか?
看護ケアの効果とメカニズムを可視化する研究は、看護技術を看護師の個人的な能力の 問題にせず、だれもが利用可能な「技」として探究することにつながります。また、短時 間および短期間の看護ケアの成果のみならず、長期的成果にも視点を広げ、研究を蓄積し たいと考えます。このような研究は他分野の研究者との協働も必要です。そして、その広 がりは看護学の発展に大きく貢献できると考えています。今後も、研究の成果による看護 の質の向上を目指し、少しでも医療を受ける人々へ還元できるように挑戦していきたいと 考えています。
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