ゲーム理論
Lecture 4:ゲームを後ろから解く
イントロダクション
テキスト
天谷研一『図解で学ぶゲーム理論』
第一回:戦略的状況とゲーム理論
テキスト1~2章
第二回:ナッシュ均衡
テキスト2~3章
第三回:より複雑なゲーム
テキスト3章
第四回:ゲームを後ろから解く
動学的なゲーム:参入ゲーム
プレーヤーは2種類の企業
既存企業と(潜在的な)参入企業
まずはじめに参入企業がこの独占市場に「参入する」か
「しない」かを決定する
後者の場合ゲームはただちに終了
参入企業は0、既存企業は4の利得を得る
前者の場合、既存企業が次の意思決定を行う
参入が起こった場合に既存企業は「価格競争」するか
「しない」かを決定する
前者の場合、両企業はそれぞれ-1の損失を被る
後者の場合、両企業はそれぞれ1の利得を得る
「ゲームの木」による描写
参入ゲームは以下のような「木」として表現できる
(0,4)
(-1,-1)
(1,1)
参入企業
参入企業 参入企業
参入企業
独占企業
独占企業
独占企業
独占企業
しない
しない しない
しない
参入
参入 参入
参入する する する する
価格
価格 価格
価格競争 競争 競争 競争
しない しない
しない しない
利得表を書いて分析すると…
ふたつのナッシュ均衡が存在する
独占企業 独占企業 独占企業
独占企業
参入企業 参入企業 参入企業
参入企業
価格競争 価格競争
価格競争 価格競争 しない しない しない しない
参入する
参入する 参入する
参入する
-1-1
1 1
しない
しない しない
しない
40
4 0
動学ゲーム分析で気を付けること
時間を通じた動学ゲームにはナッシュ均衡が複数存在
する場合が多い⇒これ自体は問題ではないが…
一部の均衡が信憑性のない「から脅し」「から脅し」「から脅し」に依存している「から脅し」
ゲームを「後ろから解く」ことによって、信憑性のない均
衡をきちんと排除することができる!
「バックワード・インダクション(後方帰納法)」「バックワード・インダクション(後方帰納法)」と呼ぶ「バックワード・インダクション(後方帰納法)」「バックワード・インダクション(後方帰納法)」
この考えを解概念としてフォーマルに一般化すると
「部分ゲーム完全均衡」「部分ゲーム完全均衡」となる(本講義では省略)「部分ゲーム完全均衡」「部分ゲーム完全均衡」
バックワード・インダクション解
( ,4)
(-1, )
( , )
参入企業 参入企業 参入企業
参入企業
独占企業 独占企業
独占企業 独占企業
しない しない
しない しない
参入 参入
参入 参入
価格競争
価格競争
価格競争
価格競争
しない しない
しない しない
逐次手番による男女の争い
妻(プレイヤー1)と夫(プレイヤー2)が休みの日にどこに
遊びに行くかをそれぞれ決定
もしも妻が先に戦略を決めて、夫が妻の選択を見た後で戦略 を決める場合には何が起こるだろうか?
夫 夫
夫 夫
妻 妻
妻 妻
遊園地 遊園地
遊園地 遊園地 野球 野球 野球 野球
遊園地
遊園地
遊園地
遊園地
13
0 0
野球
野球
野球
野球
0 3逐次版男女の争い:利得表による分析
このゲームには3つのナッシュ均衡が存在
(遊、遊遊), (遊、遊野), (野、野野)⇒もっともらしいのは?
バックワード・インダクションは (遊、遊野) を選ぶ!
夫 夫
夫 夫
妻
妻
妻
妻
遊 遊
遊 遊, 遊 遊 遊 遊 遊 遊 遊 遊, 野 野 野 野 野, 遊 野 野 野 遊 遊 遊 野 野, 野 野 野 野 野 野
遊園地
遊園地
遊園地
遊園地 1
3
1
3
0
0
0
0
野球
野球
野球
野球 0
0
3
1
0
0
3
1
逐次手番ゲームの例:Not 21
2 人のプレーヤーが交互に数字を数え上げていく
各プレーヤーは1~3個の連続した数字を数える
最後に21の数字を数えたプレーヤーが負け
「Not XX」は一昔前に結構流行ったゲーム(のハズ)
先手もしくは後手に必勝戦略(必勝法)はあるだろうか?
あるとしたらそれはいったいどんな戦略か?
ネタバレになってしまうので必勝法は講義で…
もしも数字が他の数だったらどのように必勝法は変わる?
ツェルメロの定理と“必勝法”
どのような(有限の)動学的な2人ゲームにおいても
1. プレイヤーの利害が完全に対立していて
2. プレイヤーが交互に行動を選択し
3. 偶然の要素による影響が全くなく
4. 引き分けが存在しない
のであれば、どちらかのプレイヤーに必ず必勝戦略がある
【必勝戦略】 相手がどんなプレーをしてきても、必ず自分が 最終的に勝利できるような(動学的な)戦略
どんなに複雑なゲームでも、上の条件を満たせば必勝
法は必ず存在する!
クールノーの数量競争ゲーム(復習)
【プレイヤー】 2 社の製品メーカー:AとB
【戦略】 製品の生産量:0以上の数字
【利得】 利益:(市場価格-限界費用) ×需要量
クールノー・モデルの仮定
線形の需要関数: P = a – Q
共通の限界費用: c
各企業は独立に価格を設定できない
企業の総供給が市場需要に一致する水準で価格が決まる
シュタッケルベルグ・モデル
クールノー・モデルの逐次手番バージョン
企業1(リーダー)が先に生産量を決定
それを見た後に企業2(フォロワー)が生産量を決定
ゲームを後ろから解くと…
企業1の生産量と利潤が増えて、企業2のそれらは減る
「コミットメント」「コミットメント」「コミットメント」「コミットメント」による利益
企業1は少なくともクールノー・モデルの利潤は獲得できる
なぜか自分で理由を考えてみよう!
企業2は情報をたくさん得ているが、むしろ利得は低下
戦略的な状況では情報が多いほど有利とは限らない!
参入ゲーム:再考
いったん参入が起これば価格競争は起こらない
もし独占企業が事前に「価格競争」にコミットできたら…
(0,4)
(-1,-1)
(1,1)
参入企業 参入企業
参入企業 参入企業
独占企業
独占企業
独占企業
独占企業
しない
しない
しない
しない
参入
参入
参入
参入
価格競争
価格競争
価格競争
価格競争
しない しない
しない しない
参入ゲームとコミットメント
事後的には(いったん参入が起こったら)最適な価格競
争「しない」をとらないことにコミットすると…
(0,4)
(-1,-1)
(1,1)
参入企業
参入企業
参入企業
参入企業
独占企業 独占企業 独占企業
独占企業
しない
しない
しない
しない
参入
参入
参入
参入
価格競争
価格競争
価格競争
価格競争
しない しない
しない しない
国際貿易競争
このゲームには2つの(非対称)ナッシュ均衡が存在
企業Aにもしもコミットメント・パワーがあるとどうなるか?
もちろん、投資するにコミットするのが最適!
現実にはどのようなコミットメント装置が考えられるか?
B ╲ ╲ A ╲ ╲ 投資する 投資する 投資する 投資する しない しない しない しない
投資する 投資する
投資する 投資する -5 -5 100 0
しない しない
しない しない 0 100 0 0
戦略的貿易政策
もしも政府が企業Aへの補助金にコミットできたら?
企業Aが投資を行ったら(結果によらず)10の補助金を出す
このような戦略的通商政策は結果を改善し得る
(投資する、しない)はもはやナッシュ均衡ではない!
B ╲ ╲ A ╲ ╲ 投資する 投資する 投資する 投資する しない しない しない しない
投資する 投資する
投資する 投資する -5 5 100 0
しない しない
しない しない 0 110 0 0
交渉問題:最後通牒ゲーム
1 万円を二人のプレーヤーで分ける
1がまず分け前を決めて2に提案する
2はそれを受け入れるか断ることができる
受け入れた場合は1の提案が実現
断った場合は両者とも0円
最後通牒ゲームは最も単純な動学的な交渉ゲーム
ゲームを後ろから解きたいが…
このゲームにはたくさんの“後ろ”が存在する
最後通牒ゲームの分析
2 つ(本質的には1つ)のナッシュ均衡が存在
1が(1万円、0円)を提案して、2がすべての提案を受け入れる
1が(9999円、1円)を提案して、2が(1万円、0円)を除くすべて の提案を受け入れる
提案者は(ほぼ)すべての余剰を吸い取ることができる
取り分を提案すること自体に巨大な交渉力が宿る
均衡結果による予測は非常に不平等な配分
経済実験によるとしばしばこの結果は覆される
現実の交渉はもちろんもっと複雑なのだが…
最後通牒ゲームの拡張
様々な形でこの交渉モデルは拡張できる
相手の提案を断った後に、自分からも(再)提案できるように ゲームの(潜在的な)ラウンド数を延ばす
交渉成立が(1期間)遅れるごとに利得が割引かれる
ラウンド数が伸びるにつれて2人の取り分が均一化されていく
ラウンド数が無限回⇒「ルービンシュタイン・モデル」と呼ぶ
ゲームへの参加者を増やす
合意形成の仕方を設定、たとえば全員一致や多数決など
外部オファーや不確実性を導入する