右と左の世界を見分ける
大学院先端生命科学研究院・大学院生命科学院 教授
門出
もんで
健次
けんじ
(理学部生物科学科(高分子機能学専修分野))
専門分野 : 生物有機化学
研究のキーワード : キラリティ,円偏光,分子,合成化学
HP アドレス : http://www.lfsci.hokudai.ac.jp/labs/infchb/
どのような研究をしているのですか?
ヒラメとカレイの見分けはつきますか?どちらも似たような平べったい魚ですが、よく みると目の位置が違い、鏡に映ったような関係にあります。右手と左手も同じで、鏡に映っ たような関係の1対の似たものが世の中には沢山あります。こういった関係は、目に見え ない分子の世界にもあります。炭素は4本の手を持っているのですが、その形が正四面体 構造にあるため、立体的な性質が生まれてきます。この性質を「キラリティ」といって分 子の性格を決める大事な要因となっています。例えば、調味料に使われるL-グルタミン酸 を人はうまいと感じますが、鏡に映った関係にあるD-グルタミン酸にはうまみを感じませ ん。医薬品も有機分子で作られるため、キラリティの性質があり、片方だけが有効である ということが多くみられます。中には、サリドマイドのように片方が深刻な副作用を示す 例もあります。このようにキラリティは、分子にとって、重要な性質ですが、意外にも、 これを区別する方法はあまり多く知られていません。私たちの研究室では生き物の体を構 成する有機分子や医薬品などの人工有機分子の右、左を見分ける方法の研究をしています。
図1 左ヒラメに右カレイ?ヒラメとカレイは鏡に映した様な関係。 図2 うまみの成分の化学構造式。
どんな装置を使って、どんな実験をしているのですか?
普通の光はいろんな方向に振動している光が混ざっていますが、その中の円偏光という 光を利用します。この円偏光には、右回りのものと左回りのものがあり、キラリティをも つ物質を透過する際に、左右の光の吸収の違いが生じ、その差から円二色性と言われるス ペクトルを得ることができます。キラリティをもつ物質により、そのスペクトルが変化し ますので、分子の左右を見極めるのに重要な情報をこのスペクトルから得ることができま す。人間の目は、この円偏光を認識することはできませんが、昆虫の一種には、円偏光を 識別できる能力があることが分かってきました。また、身近なところではこの円偏光が映 画館やテレビの三次元映像に利用されています。私たちは、円偏光の中で、特に赤外領域 に注目しています。赤外線は、すべての有機化合物が吸収する光ですので、応用範囲が非
出身高校:愛媛県立松山南高校 最終学歴:北海道大学大学院理学研究科
ミクロの世界/生体工学/マテリアル
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常に広がる可能性を秘めています。
図3 円二色性スペクトルの原理。左と右の円偏光の吸収の差から分子の情報が分かる。
高等生物を構成するアミノ酸は、すべてがL体です。と、我々が大学生のころは、そう 習いました。しかし、分析法の進歩とともに、人間にもD-アミノ酸が存在することが分か り、また、D-アミノ酸への変化が病気に関係していることも示唆されています。アミノ酸 以外の生体成分はどうでしょうか?実は、左右を区別する方法は、意外に難しく詳しく調 べられていません。私たちの研究室では、生体にとって重要な成分を合成化学の手法を 使って人工的に作りだし、そこから、右と左を分けて、両方のサンプルを得ます。信頼で きる人工サンプルを基に、円二色性スペクトルを解析することにより、左右を簡単に区別 できる新しい方法を開発しています。
写真1 赤外円二色性スペクトル装置 図4 人工的に合成された右と左の生理活性脂質
研究者になったきっかけは何ですか?
もともと化学はあまり得意な分野ではなかったのですが、学部2年の時に有機化学の講 義で落第点をとり、これが契機となり、逆に猛勉強することになりました。学部4年の研 究室配属では、天然物有機化学の研究室へ。学問好きな先生と、いい同級生に恵まれ、実 験に没頭する日々でした。教員として採用された後にアメリカで研究する機会にも恵まれ ました。そこで超一流の研究者を目の当たりにして、学問の厳しさと楽しさを教えてもら いました。私の場合、最初から大学の研究者をめざしたわけではなく、研究を通して出会っ たよい先生とよい友人に刺激され、目の前にある選択肢を選ぶことで、結果的に研究者に なったと感じています。人間万事塞翁が馬。
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