円高・円安と貿易収支
新聞やニュースで経済見通しや株価、為替レートの動きの説 明をよくみていると、
「これ以上の円高は輸出企業の収益を圧迫する」
「最近の円安のため、海外の高級ブランド品の販売価格に値 上げ改訂の模様」
というフレーズに出会うことがあるだろう。
ここでは、為替レートの変動と貿易収支について見てみよう。
日本で生産された商品が海外に輸出されると、現地の通貨で 販売される。
日本製の自動車がアメリカに輸出された場合は、アメリカ市 場では、たとえば、3000ドルという値段で販売される。
ものの価格と円高・円安
10万円のパソコンをアメリカに輸出することを考える。 為替レートを1ドル=100円とする。
輸出にかかるさまざまなコストが0とする
日本の価格をそのまま反映させると、1000ドルである。 もし、為替レートが1ドル=120円になると、アメリカでの 販売価格は約833ドルになる。
日本からアメリカに輸出する場合、円安(円高)になるほ ど、アメリカでの販売価格は安く(高く)なる。
海外の消費者の立場になってみよう。
これまでとまったく同じ機能とデザインのパソコンが、為替 レートの変動(円高)によって、1台833ドルから1000ドル に値上がりしてしまったら、買うのをやめようと思うかもし れない。
日本の輸出企業にとって、円高は海外での商品価格の値上げ の要因となる。
ものの価格と円高・円安
一般に、輸出企業にとって、
自国通貨の増価は海外での販売価格上昇の一因となる。 自国通貨の減価は海外での販売価格下落の一因となる。 一般に、輸入企業にとって、
自国通貨の減価は国内での販売価格上昇の一因となる。 自国通貨の増価は国内での販売価格下落の一因となる。
貿易収支は、簡単には、輸出額と輸入額の差(純輸出)とし て表される。
貿易収支=輸出額−輸入額
輸出・輸入額と為替レートの変動
さらに、輸出額は
輸出額=輸出価格×輸出数量 である。
輸入額は
輸入額=輸入価格×輸入数量
輸出の代金は自国通貨(円)で受け取り、輸入の代金は外国 通貨(ドル)で支払うとしよう。
したがって、
貿易収支=輸出価格×輸出数量−e ×輸入価格×輸入数量
輸出・輸入額と為替レートの変動
自国通貨が増価するケースを考える。
輸出額の変化を考えると、自国通貨の増価によって、海外で の輸出品価格が上昇し、輸出数量が減少する。
輸出品価格の上昇に対して、輸出数量の減り方が大きいと、 輸出額が大きく減少する。
輸出品価格の上昇に対して、輸出数量の減り方が小さいと、 輸出額がほとんど減少しない。
一方で、自国通貨の増価は輸入品の国内価格の下落をもた らす。
輸入品の国内価格の下落によって、輸入数量は増加する。 輸入品価格の下落に対して、輸入数量の増え方が大きいと、 輸入額は増加する。
輸入品価格の下落に対して、輸入数量の増え方が小さいと、 輸入額は減少する。
輸出・輸入額と為替レートの変動
貿易収支全体は、自国通貨の増価による輸出数量の減少や輸 入数量の増加が非常に大きければ、輸出額が大きく減少し輸 入額が増加するので、貿易収支は減少する。
逆に、輸出数量や輸入数量が為替レートの変動の影響を大き く受けなければ、貿易収支はそれほど大きく変化しない場合 もある。
議論が成り立つ。
自国通貨の減価により輸出数量が大きく増加すれば、輸出額 は増える。
自国通貨の減価により輸入数量が大きく減少すれば、輸入額 は減る。
この場合は、貿易収支全体では、黒字が増える(赤字が 減る)。
輸入数量、輸出数量が変化しない場合、輸入品価格の上昇や 輸出品価格の下落の効果が大きく影響し、貿易黒字が減少す
輸出・輸入の価格弾力性
為替レートが変動したときに、輸出数量や輸入数量がどの程 度変化するかを表すものとして、輸出の価格弾力性と輸入の 価格弾力性がある。
価格弾力性が大きいという場合は、価格の変化に対する輸出 数量や輸入数量の変化が大きいことを示す。
価格弾力性が小さいという場合は、価格の変化に対する輸出 数量や輸入数量の変化が大きいことを示す。
自国通貨が増価すると考える。
自国通貨建て為替レート e は減少する。
輸出価格が自国通貨(円)の価格とすると、外国通貨(ドル) での価格は、
輸出価格 e となり、自動的に上昇する。
この場合、海外(アメリカ)の消費者にとって価格が上昇す るので、輸出数量は減少すると考えられる。
輸出・輸入の価格弾力性
この場合、どれだけ輸出数量が減少するかを表すのが、輸出 の価格弾力性である。
価格弾力性は、価格が1%上昇したときに、数量が何%変化 するかを表す値である。
輸出の価格弾力性が 0 である場合、価格が 1%上昇しても、輸 出数量はまったく変化しない。
輸出の価格弾力性が 1 である場合、価格が 1%上昇すると、輸 出数量は 1%減少する。
輸出の価格弾力性が ∞ である場合、価格が 1%上昇すると、
輸出の価格弾力性が1より大きい場合、価格が1%上昇する と、1%以上の輸出数量の減少を引き起こすことになる。
たとえば、為替レートが 1%増価して輸出価格が 1%上昇した 場合、輸出数量は 1%より多く減少する。
したがって、輸出額は大幅に減少する。
輸出の価格弾力性が1より小さい場合、価格が1%上昇する と、1%以下の輸出数量の減少を引き起こすことになる。
たとえば、為替レートが 1%増価して輸出価格が 1%上昇した 場合、輸出数量は 1%より少ない減少となる。
輸出・輸入の価格弾力性
したがって、
輸出の価格弾力性が 1 より大きい場合、為替レートの増価は、 輸出額を大幅に減少させる。
輸出の価格弾力性が 1 に等しい場合は、為替レートの増加は、 輸出額を変化させない。
輸出の価格弾力性が 1 より小さい場合、為替レートの増価は、 輸出額を減少させるが、減少幅は小さい。
この関係は、輸入の価格弾力性と輸入量についても、同様で ある。
したがって、
輸入の価格弾力性が 1 より大きい場合、為替レートの増価は、 輸入額を増加させる。
輸入の価格弾力性が 1 に等しい場合は、為替レートの増加は、 輸入額を変化させない。
輸入の価格弾力性が 1 より小さい場合、為替レートの増価は、 輸入額を減少させる。
マーシャル・ラーナー条件
通常、為替レートの減価は貿易収支を黒字化をもたらし、為 替レートの増加は貿易収支の赤字化をもたらす。
しかし、理論的には、輸出と輸入の価格弾力性の大きさに依 存して、為替レートの減価・増価の貿易収支への影響は変化 する。
為替レートの減価が貿易収支の黒字化、為替レートの増価が 貿易収支の赤字化をもたらす条件を、「マーシャル・ラー ナー条件」と呼ぶ。
マーシャル・ラーナー条件では、実質為替レートの変化を考 える。
短期的な状況を念頭におくために、物価水準の大きな変化は ないと考える。
為替レートが減価すると(eの数値が上昇)、輸出価格の下落 によって輸出数量が伸びるので、輸出の価格弾力性はプラス の値をとる。
とくに、輸出の価格弾力性が1より大きい場合には、輸出額
マーシャル・ラーナー条件
一方、輸入は、為替レートが減価すると、輸入価格の上昇に よって輸入数量が減るので、輸入の価格弾力性はマイナスの 値をとる。
とくに、輸入の価格弾力性が1より大きい場合には、輸入額 が減少する。
価格弾力性は、絶対値をとるので、絶対値をとる前は −1よ り小さい値であることに注意すること。
このように、輸出の価格弾力性と輸入の価格弾力性がそれぞ れ、十分に大きい(両方共1より大きい)と、為替レートが 1%減価したときに、輸出額は増え、輸入額は減るので、貿易 収支はプラス(黒字化)になる。
また、このような場合に、為替レートが1%増価すると、輸 出額は減り、輸入額は増えるので、貿易収支はマイナス(赤 字化)になる。
マーシャル・ラーナー条件
輸出と輸入の価格弾力性の和がちょうど1のとき、為替レー トの下落は貿易収支を悪化させず、改善もしない。
輸出と輸入の価格弾力性の和が1を越えている場合に、為替 レートが下落すると、貿易収支を改善する。
したがって、マーシャル・ラーナー条件は、 輸出の価格弾力性+輸入の価格弾力性>1 である。
さて、現実に為替レートの減価は貿易収支を改善するだろ うか?
現実のデータによる分析によると、為替レートの減価は、長 期的には貿易収支を改善する。
しかし、短期的には、為替レートの減価は貿易収支を悪化さ せる効果があることがわかっている。
この理由は、国際的な貿易の契約は、事前に決定されており、 短期的な為替レートの変動が発生しても、すぐには変更でき ないためとされる。
J カーブ効果
Jカーブ効果とは、為替レートが変動したとき、その効果が 現れるまでタイムラグがあるため、短期的には予想される方 向とは逆の減少が起こることをいう。
たとえば、円安になると、理論的には日本からの輸出価格が 低下し、輸出額が伸び、貿易黒字は大きくなるはずである。 しかし、短期的には、逆に貿易赤字が増えることがある。
(図2-6参照)
為替レートが円高になる場合でも、長期的には貿易赤字が増