トマス・アクィナス『定期討論集 霊的被造物につ
いて』第十項 試訳
著者
石田 隆太
雑誌名
古典古代学
巻
10
ページ
1- 54
発行年
2018- 03- 31
ト マ ス ・ ア ク ィ ナ ス
『 定 期 討 論 集
霊 的 被 造 物 に つ い て 』 第 十 項
試 訳
石 田
隆 太
は じ め に
本 稿 は ,
ト マ ス
・
ア ク ィ ナ ス に よ る
『 定 期 討 論 集
霊 的 被 造 物 に つ い て 』
(
Quæstio
disputata de spiritualibus creaturis
)の 全 訳 を 目 指 す 試 み の 一 環 で あ り ,以 下 の 拙 稿
の 続 編 で あ る .
石 田 隆 太 「 ト マ ス ・ ア ク ィ ナ ス 『 定 期 討 論 集
霊 的 被 造 物 に つ い て 』 第 一 項
試 訳 」
,
『 宗 教 学 ・ 比 較 思 想 学 論 集 』
, 第
15
号 ,
pp.33-57
,
2014
年 .
[ 石 田
2014a
と 略 記 ]
同
「 ト マ ス
・
ア ク ィ ナ ス
『 定 期 討 論 集
霊 的 被 造 物 に つ い て 』
第 二 項
試 訳 」
,
『 筑 波 哲 学 』
, 第
22
号 ,
pp.129-53
,
2014
年 .
[ 石 田
2014b
と 略 記 ]
同
「 ト マ ス
・
ア ク ィ ナ ス
『 定 期 討 論 集
霊 的 被 造 物 に つ い て 』
第 三 項
試 訳 」
,
『 宗 教 学 ・ 比 較 思 想 学 論 集 』
, 第
16
号 ,
pp.57-91
,
2015
年 .
[ 石 田
2015
と
略 記 ]
同
「 ト マ ス
・
ア ク ィ ナ ス
『 定 期 討 論 集
霊 的 被 造 物 に つ い て 』
第 四 項
試 訳 」
,
『 古 典 古 代 学 』
, 第
8
号 ,
pp.31-56
,
2016
年 .
[ 石 田
2016a
と 略 記 ]
同
「 ト マ ス
・
ア ク ィ ナ ス
『 定 期 討 論 集
霊 的 被 造 物 に つ い て 』
第 五 項
試 訳 」
,
『 宗 教 学 ・ 比 較 思 想 学 論 集 』
, 第
17
号 ,
pp.105-27
,
2016
年 .
[ 石 田
2016b
と 略 記 ]
同
「 ト マ ス
・
ア ク ィ ナ ス
『 定 期 討 論 集
霊 的 被 造 物 に つ い て 』
第 六 項
試 訳 」
,
『 筑 波 哲 学 』
, 第
24
号 ,
pp.39-63
,
2016
年 .
[ 石 田
2016c
と 略 記 ]
同
「 ト マ ス
・
ア ク ィ ナ ス
『 定 期 討 論 集
霊 的 被 造 物 に つ い て 』
第 七 項
試 訳 」
,
『 古 典 古 代 学 』
, 第
9
号 ,
pp.47-63
,
2017
年 .
[ 石 田
2017a
と 略 記 ]
同
「 ト マ ス
・
ア ク ィ ナ ス
『 定 期 討 論 集
霊 的 被 造 物 に つ い て 』
第 八 項
試 訳 」
,
『 宗 教 学 ・ 比 較 思 想 学 論 集 』
, 第
18
号 ,
pp.77-111
,
2017
年 .
[ 石 田
2017b
と 略 記 ]
こ の 試 訳 の 主 要 な 意 図 に 関 し て は こ れ ま で の 稿 を 参 照 さ れ た い . 以 下 で は , こ
れ ま で の 稿 と 度 々 重 複 す る と こ ろ で は あ る が , 便 宜 の た め に 凡 例 を 載 せ る こ と と
す る .
凡 例
・ 訳 出 に あ た っ て は 次 の レ オ 版 を 底 本 と し た .
C
OS, J. ed.
Sancti Thomæ de Aquino Opera omnia iussu Leonis XIII P. M. edita
, t.24.2:
Quæstio disputata de spiritualibus creaturis
. Roma - Paris: Commissio Leonina -
Les Éditions du Cerf, 2000.
・ 他 の 版 と し て は 次 の 批 判 的 校 訂 版 も 参 照 し た .
K
EELER, L. W. ed.
Sancti Thomæ Aquinatis
Tractatus de spiritualibus creaturis
.
Roma: Apud ædes Universitatis Gregorianæ, 1946.
[
Keeler
と 略 記 ]
・ た だ し , レ オ 版 の テ ク ス ト に は い く つ か 読 解 に 難 の あ る 箇 所 が あ る た め , 場 合
に よ っ て 次 の も の が 提 案 す る 読 み に 従 っ た .
G
ULDENTOPS, G. & S
TEEL, C. ”Critical Study: The Leonine Edition of
De
spiritualibus creaturis
.”
Recherches de théologie et philosophie médiévales
, 68 (1),
2001, pp.180-203.
[
G&S
と 略 記 ]
・ 今 回 参 照 し た 『 定 期 討 論 集
霊 的 被 造 物 に つ い て 』 の 近 代 語 訳 は 次 の 通 り で あ
る .
B
RENET, J.-B.
Les créatures spirituelles
. Paris: Librairie philosophique J.Vrin, 2010.
[ 仏 訳 ]
F
ITZP
ATRICK, M. C. & W
ELLMUTH, J. J.
On Spiritual Creatures
. Milwaukee:
Marquette University Press, 1949.
[ 英 訳 ]
G
OODWIN, C. R. “A Translation of the
Quæstio disputata de spiritualibus creaturis
of St Thomas Aquinas, with Accompanying Notes.” M. A. thesis, Australian
Catholic University, 2002.
[ 英 訳 ]
M
ALLEA, A.
Cuestion disputada sobre las creaturas espirituales
. Buenos Aires:
Ediciones del Rey, 1995.
[ 西 訳 ]
S
AVAGNONE, G. “Le creature spirituali.” In S. Tommaso d’Aquino,
Le questioni
disputate
, vol.4, pp.522-809. Bologna: Edizioni Studio Domenicano, 2001.
[ 伊
訳 ]
・ 訳 語 の 選 定 に あ た っ て は ト マ ス ・ ア ク ィ ナ ス に よ る 著 作 の 既 存 の 日 本 語 訳 等 を
主 に 参 照 し た が , 参 照 し た も の の 一 例 と し て 次 の も の を 挙 げ て お く .
長 倉 久 子 , 蒔 苗 暢 夫 , 大 森 正 樹 ( 編 )
,
『 ト マ ス ・ ア ク ィ ナ ス 「 神 学 大 全 」 語 彙
集 ( 羅 和 ) ― 創 文 社 版 , 中 央 公 論 版 に よ る ― 』
, 新 世 社 ,
1988
年
.
・註 に て 使 用 し た 略 号 の 一 覧 は 次 の 通 り で あ る( 上 で 示 し た も の は 除 く ).な お
慣 例 に 従 い , ア リ ス ト テ レ ス の 著 作 に は ベ ッ カ ー 版 の 頁 数 と 行 数 を 付 し た .
Crawford
C
RAWFORD, F. S. ed.
Averrois Cordubensis
,
Commentarium magnum in
Aristotelis de anima libros
. Cambridge, Massachusetts: The Mediaeval
Academy of America, 1953.
EM
C
ATHALA, M.-R. & S
PIAZZI, R. M. ed.
S. Thomæ Aquinatis Doctoris Angelici
,
In
duocedim libros metaphysicorum Aristotelis expositio
. Torino: Marietti, 1977
3.
Gauthier
G
AUTHIER, R.-A. “Notes sur les débuts (1225-1240) du premier
“averroïsme”,”
Revue des sciences philosophiques et théologiques
, 66 (3), 1982,
pp.321-73.
Glossa
Biblia latina cum glossa ordinaria
.
Facsimile Reprint of the Editio Princeps
.
Adolph
Rusch of Strassburg 1480/81
. Brepols: Turnhout, 1992.
Hamesse
H
AMESSE, J. ed.
Les Auctoritates Aristotelis
.
Un florilège médiéval
.
Étude
historique et édition critique
. Louvain - Paris: Publications Universitaires -
Béatrice-Nauwelaerts, 1974.
Juncta
Aristotelis Opera cum Averrois commentariis.
Venezia: Apud Junctas, 1562-74.
L.
Sancti Thomæ de Aquino Opera omnia iussu Leonis XIII P. M. edita.
Roma, 1882-.
Muckle
M
UCKLE, J. T. “Isaac Israeli Liber de Definicionibus,”
Archives d’histoire
doctrinale et littéraire du Moyen Âge
, 11, 1937-8, pp.299-340.
Pattin1
philosophie médiévale
, 16-7, 1974-5, pp.100-13.
Pattin2
P
ATTIN, A.
Pour l’histoire du sens agent
.
La controverse entre Barthélemy de
Bruges et Jean de Jandun
.
Ses antécédents et son évolution
.
Étude et textes
inédits
. Leuven: Leuven University Press, 1988.
PL
M
IGNE, J.-P. ed.
Patrologiæ cursus completus omnium SS. Patrum, doctorum
scriptorumque ecclesiasticorum sive Latinorum, sive Græcorum.
Series Latina.
Paris, 1841-65.
SS
M
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S. Thomæ Aquinatis Doctoris Communis
Ecclesiæ
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Scriptum super libros Sententiarum magistri Petri Lombardi.
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P. Lethielleux, 1929-47.
Théry
T
HÉRY, G.
Alexandre d’aphrodise
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Aperçu sur l’influence de sa noétique
, Kain: Le
Saulchoir, 1926.
Van Riet
V
ANR
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Avicenna Latinus
.
Liber de philosophia prima sive scientia divina
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Louvain - Leiden: E. Peeters - E. J. Brill, 1977-83.
Verbeke
V
ERBEKE, G. ed.
Thémistius
.
Commentaire sur Traité de l’a
me d’Aristote
.
Traduction de Guillaume de Moerbeke
.
Édition critique et étude sur l’utilisation
du Commentaire dans l’œuvre de saint Thomas
. Leiden: E. J. Brill, 1973.
Verbeke&Moncho
V
ERBEKE, G. & M
ONCHO, J. R. ed.
Némésius d’Émèse
.
De natura hominis
.
Traduction de Burgundio de Pise
.
Édition critique avec une introduction sur
l’anthropologie de Némésius
. Leiden: E. J. Brill, 1975.
ア ウ グ ス テ ィ ヌ ス 著 作 集
『 ア ウ グ ス テ ィ ヌ ス 著 作 集 』 , 教 文 館 ,
1979
年 ~ .
ア リ ス ト テ レ ス 全 集 旧
出 隆 ( 監 修 ) , 『 ア リ ス ト テ レ ス 全 集 』 , 岩 波 書 店 ,
1968-73
年 .
ア リ ス ト テ レ ス 全 集 新
2013
年 ~ .
井 上
井 上 淳 ,
「「 能 動 知 性 を 措 定 す る こ と は 必 要 で あ る か 」― ト マ ス・ア ク ィ ナ
ス『 定 期 討 論 集
魂 に つ い て 』第
4
問 題 に つ い て ― 」,『 南 山 神 学 』,第
40
号 ,
129-52
頁 ,
2017
年 .
加 藤
加 藤 雅 人( 監 訳 ・ 訳 ),松 根 伸 治( 編 集 ・ 訳 ),大 月 栄 光 ,島 田 佳 代 子 ,周
藤 多 紀 , 関 沢 和 泉 ( 訳 ) , 「 ト マ ス ・ ア ク ィ ナ ス 『 「 デ ・ ア ニ マ 」 注 解 』
Sententia libri de anima, Sancti Thomæ de Aquino OPERA OMNIA XLV,
Iussu Leonis XIII P. M. ed., Roma/Paris, 1984. I, c.1; c.2; II, c.1
」 ,
Kansai
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No.6
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1997
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川 田
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第
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木 下
イ ブ ン
・
シ ー ナ ー ,
『 魂 に つ い て
治 癒 の 書
自 然 学 第 六 篇 』
,
木 下 雄 介
( 訳 )
,
知 泉 書 館 ,
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酒 井
聖 ト ー マ ス ・ ア ク ィ ナ ス ,『 神 在 す( 異 敎 徒 に 與 ふ る 大 要 、第 一 卷 )』,酒
井 瞭 吉 ( 譯 ) , ル ー ペ ル ト ・ エ ン デ ル レ 書 店 , 中 央 出 版 社 ,
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神 学 大 全
高 田 三 郎 ほ か ( 訳 ) , 『 神 学 大 全 』 , 創 文 社 ,
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中 世 思 想 原 典 集 成
上 智 大 学 中 世 思 想 研 究 所 ( 監 修 ) , 『 中 世 思 想 原 典 集 成 』 , 平 凡 社 ,
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プ リ オ ッ ト ― 大 鹿
ヴ ェ ン サ ン・マ リ ー・プ リ オ ッ ト ,大 鹿 一 正( 共 訳 ),
『 原 因 論
聖 ト マ ス・
デ ・ ア ク イ ノ
原 因 論 註 解 』 , 聖 ト マ ス 学 院 ,
1967
年 .
三 上
『 ア カ デ ミ ア
人 文 ・ 社 会 科 学 編 』 , 第
65
号 ,
25-61
頁 ,
1997
年 .
山 本
a
ト マ ス ・ ア ク ィ ナ ス , 「 精 神 に つ い て ( 真 理 論
第
10
問 題 ) 」 , 山 本 耕 平
( 訳 ),聖 カ タ リ ナ 女 子 大 学 ,『 人 間 文 化 研 究 所 紀 要 』,第
7
号 ,
65-136
頁 ,
2002
年 .
山 本
b
ト マ ス ・ ア ク ィ ナ ス , 「 善 き も の に つ い て ( 真 理 論
第
21
問 題 ) 」 , 山 本
耕 平( 訳 ),聖 カ タ リ ナ 女 子 大 学 ,
『 人 間 文 化 研 究 所 紀 要 』,第
8
号 ,
71-102
頁 ,
2003
年 .
渡 辺
『 世 界 古 典 文 学 全 集
26
ア ウ グ ス テ ィ ヌ ス
ボ エ テ ィ ウ ス 』 , 渡 辺 義 雄
( 訳 ) , 筑 摩 書 房 ,
1966
年 .
・
本 稿 で は 註 に て 他 の 文 献 か ら の 引 用 を 大 量 に 行 っ て い る が ,
そ の 中 で 特 に 引 用
元 を 明 記 し て い な い 日 本 語 訳 は す べ て 拙 訳 で あ る こ と を 断 っ て お く .
試 訳
霊 的 被 造 物 に つ い て
第 十 項
1
第 十 に 問 題 と さ れ る の は , 能 動 知 性 は あ ら ゆ る 人 間 の 内 で 一 つ で あ る の か 否 か
で あ る .
【 異 論 】
そ し て そ う だ と 思 わ れ る . そ の 理 由 は 以 下 の 通 り で あ る .
一 . 人 間 た ち を 照 明 す る こ と は 神 に 固 有 な こ と で あ り , そ れ は 『 ヨ ハ ネ に よ る
福 音 書 』
第
1
章 に 即 し て は
「 照 明 す る 真 な る 光 が あ っ た 」
云 々 と あ る 通 り で あ る
2
.
し か る に 、 こ う し た こ と は 能 動 知 性 に 属 し て お り 、 そ れ は [ ア リ ス ト テ レ ス の ]
『 魂 に つ い て 』
第
3
巻 で 明 ら か な 通 り で あ る
3
。
そ れ ゆ え 、
能 動 知 性 は 神 で あ る 。
と こ ろ で 、 神 は 一 な る も の で あ る 。 そ れ ゆ え 、 能 動 知 性 は た だ 一 つ で あ る
4。
に 即 し て も 多 数 化 さ れ な い
6.
三 .
さ ら に は ,
常 に 知 解 す る 何 も の も わ れ わ れ の 魂 に お い て は な い .
し か る に ,
こ う し た こ と [ す な わ ち 常 に 知 解 す る こ と ] は 能 動 知 性 に は あ り う る . と い う の
も ,
「 た し か に 或 る 時 に は 知 解 す る 一 方 で ,
或 る 時 に は 知 解 し な い と い う こ と で は
な い 」と[ ア リ ス ト テ レ ス の ]
『 魂 に つ い て 』第
3
巻 で 言 わ れ る か ら で あ る
7
.そ
れ ゆ え , 能 動 知 性 は , 魂 の 内 の 或 る も の で は な い の で あ る か ら し て , 諸 々 の 魂 お
よ び 人 間 の 多 数 化 に 即 し て 多 数 化 さ れ な い
8
.
四 .
さ ら に は ,
何 も の も 自 分 を 可 能 態 か ら 現 実 態 へ と 還 元 し な い
9.
し か る に ,
可 能 知 性 は 能 動 知 性 に よ っ て 現 実 態 へ と 還 元 さ れ る の で あ り , そ れ は [ ア リ ス ト
テ レ ス の ]
『 魂 に つ い て 』 第
3
巻 で 明 ら か な 通 り で あ る
1 0. そ れ ゆ え , 能 動 知 性
は , 可 能 知 性 が そ れ に お い て 根 づ い て い る と こ ろ の 魂 の 本 質 に お い て 根 づ い て い
な い . か く し て , 先 述 と 同 じ で あ る
1 1
.
五 .さ ら に は ,あ ら ゆ る 多 数 化 は 或 る 区 別 を 随 伴 す る
1 2.し か る に ,能 動 知 性
は , 分 離 さ れ て い る が ゆ え に 質 料 に よ っ て は 区 別 さ れ え な い し , か く し て [ そ れ
ぞ れ の 能 動 知 性 が ] 種 に お い て 異 な る で あ ろ う が ゆ え に 形 相 に よ っ て も 区 別 さ れ
え な い . そ れ ゆ え , 能 動 知 性 は 人 間 た ち に お い て 多 数 化 さ れ な い .
六 . さ ら に は , 分 離 の 原 因 で あ る も の は 最 大 限 に 分 離 さ れ て い る . し か る に ,
能 動 知 性 は 分 離 の 原 因 で あ る . と い う の も , 能 動 知 性 は 諸 形 象 を 質 料 か ら 抽 象 す
る か ら で あ る . そ れ ゆ え , 能 動 知 性 は 分 離 さ れ て い る . か く し て , 能 動 知 性 は 人
間 た ち の 多 数 化 に 即 し て 多 数 化 さ れ な い .
七 . さ ら に は , 作 用 す る だ け 作 用 す る こ と が で き る い か な る 力 も , 自 分 の 作 用
の 限 界 を 持 た な い . し か る に , 能 動 知 性 は こ う し た 類 の も の で あ る . な ぜ な ら ,
「 わ れ わ れ が 或 る 可 知 的 な 大 き い も の を 知 解 す る 際 , わ れ わ れ は よ り 小 さ い 仕 方
で は な く て よ り 大 き い 仕 方 で 知 解 す る こ と が で き る 」 か ら で あ り , そ れ は [ ア リ
ス ト テ レ ス の ]
『 魂 に つ い て 』 第
3
巻 で 言 わ れ る 通 り で あ る
1 3. そ れ ゆ え , 能 動
知 性 は 自 分 の 作 用 の 何 ら の 限 界 も 持 た な い . と こ ろ で , 被 造 的 な あ る こ と 〔
esse
creatum
〕
は 自 分 の 作 用 の 限 界 を 持 つ .
と い う の も ,
そ れ は 有 限 な 力 に 属 す る か ら
で あ る .
そ れ ゆ え ,
能 動 知 性 は ,
何 ら の 被 造 的 な も の で も な い の で あ る か ら し て ,
た だ 一 つ で あ る .
る 点 を 持 た な い 何 も の も 可 感 的 で あ る の で は な く , そ の 結 果 と し て , そ の 可 感 的
な も の は [ 偽 と は ] 識 別 さ れ え な い . と こ ろ で , 偽 か ら 判 別 さ れ な い 何 も の も 知
覚 さ れ え な い . し た が っ て , 諸 感 覚 に お い て 真 理 の 構 成 さ れ た 判 断 は な い 」
1 5
.
そ の よ う な わ け で , 可 感 的 な も の ど も が 変 化 し う る も の で あ る と い う こ と の ゆ え
に も ,
ま た 可 感 的 な も の ど も が 偽 と 類 似 す る 或 る 点 を 持 つ と い う こ と の ゆ え に も ,
わ れ わ れ は 可 感 的 な も の ど も に よ っ て 真 理 に つ い て 判 断 す る こ と が で き な い と い
う こ と を ア ウ グ ス テ ィ ヌ ス は 証 明 し て い る . し か る に , こ う し た こ と は ど ん な 被
造 物 に も あ り う る . そ れ ゆ え , 何 ら の 被 造 的 な も の に 即 し て も わ れ わ れ は 真 理 に
つ い て 判 断 す る こ と が で き な い . し か る に , 能 動 知 性 に 即 し て わ れ わ れ は 真 理 に
つ い て 判 断 す る . そ れ ゆ え , 能 動 知 性 は 或 る 被 造 的 な も の で は な い . か く し て ,
先 述 と 同 じ で あ る .
九 . さ ら に は , ア ウ グ ス テ ィ ヌ ス が 『 三 位 一 体 に つ い て 』 第
14
巻
1 6で 言 う こ
と に は
「 不 敬 虔 な 人 々 は
1 7人 間 た ち の 習 俗 に お い て 多 数 の こ と を 正 し く 非 難 し ,
ま た 多 数 の こ と を 正 し く 賞 賛 す る . そ の 人 々 は , た と え 同 じ 仕 方 で 生 き て は い な
い と し て も , 各 々 が ど の よ う に し て 生 き る べ き で あ る の か と い う こ と を そ れ ら に
お い て 見 る 諸 規 則 に よ っ て で な け れ ば , 果 た し て そ の 多 数 の こ と を 何 に よ っ て 判
断 す る の か . ど こ に お い て 不 敬 虔 な 人 々 は そ の 諸 規 則 を 見 る の か . ま ず 自 分 の 本
性 に お い て で は な い . と い う の も , 不 敬 虔 な 人 々 の 精 神 は 変 化 し う る も の で あ る
こ と は 確 か で あ る の に 対 し て ,
そ の 諸 規 則 は 変 化 し え な い も の で あ る か ら で あ る .
[ 次 に ]自 分 の 精 神 の 習 態〔
habitus
〕に お い て で も な い .と い う の も ,そ の 諸 規
則 は 正 義 で あ る の に 対 し て , 不 敬 虔 な 人 々 の 精 神 は 不 正 で あ る こ と は 確 か で あ る
か ら で あ る . そ れ ゆ え , 真 理 と 言 わ れ る 光 と い う 書 物 に お い て で な け れ ば そ の 諸
規 則 は ど こ に 書 か れ て い る の か 」
1 8.以 上 か ら 窺 え る こ と に は ,正 し い も の お よ
び 不 正 な も の に つ い て 判 断 す る こ と は , わ れ わ れ の 諸 精 神 の 上 に あ る 光 に 即 し て
わ れ わ れ に 適 し て い る . と こ ろ で , 実 践 的 な 諸 事 物 だ け で は な く て 観 照 的 な 諸 事
物 に お い て も 判 断 は 能 動 知 性 に 即 し て わ れ わ れ に 適 合 し て い る . そ れ ゆ え , 能 動
知 性 は わ れ わ れ の 精 神 の 上 に あ る 或 る 光 で あ る . そ れ ゆ え , 能 動 知 性 は 諸 々 の 魂
お よ び 人 間 の 多 数 化 に 即 し て 多 数 化 さ れ な い .
そ れ ゆ え , こ の 判 断 は 両 者 よ り も 善 で あ る 或 る も の ― そ れ は 神 に ほ か な ら な い
― に よ っ て 生 じ る の で な け れ ば な ら な い . そ れ ゆ え , 能 動 知 性 に よ っ て わ れ わ
れ は 判 断 す る の だ か ら , 能 動 知 性 は 神 で あ る と 思 わ れ る . か く し て , 先 述 と 同 じ
で あ る .
十 一 . さ ら に は , 哲 学 者 [ ア リ ス ト テ レ ス ] が 『 魂 に つ い て 』 第
3
巻 で 言 う こ
と に は ,
「 技 術 が 質 料 に 対 す る よ う に し て 」 能 動 知 性 は 可 能 知 性 と 関 わ る
2 0. し
か る に , 人 工 物 の い か な る 類 に お い て も 技 術 と 質 料 は 同 じ も の に 合 致 せ ず , ま た
普 遍 的 に は 能 動 者 と 質 料 は 数 に お い て 同 じ も の に 入 り 込 ま な い の で あ り , そ れ は
[ ア リ ス ト テ レ ス の ]
『 自 然 学 』 第
2
巻 で 言 わ れ る 通 り で あ る
2 1
. そ れ ゆ え , 能
動 知 性 は , 可 能 知 性 が そ れ に お い て あ る と こ ろ の 魂 の 本 質 の 内 に あ る 或 る も の で
は な い の で あ る か ら し て , 諸 々 の 魂 お よ び 人 間 の 多 数 化 に 即 し て 多 数 化 さ れ な
い
2 2.
十 二 . さ ら に は , ア ウ グ ス テ ィ ヌ ス が 『 自 由 裁 量 に つ い て 』 第
3
巻 [ 正 し く は
第
2
巻 ] で 言 う こ と に は 「 数 の 理 拠 〔
ratio
〕 お よ び 真 理 は あ ら ゆ る 推 論 す る も の
に 先 ん じ て い る 」
2 3. し か る に , 数 の 理 拠 お よ び 真 理 は 一 つ で あ る . そ れ ゆ え ,
あ ら ゆ る も の に 先 ん じ て い る と い う こ と に 即 し て は , 或 る も の は 一 つ で あ る の で
な け れ ば な ら な い . と こ ろ で , そ れ の 力 に よ っ て わ れ わ れ が 普 遍 的 な 諸 理 拠 を 諸
事 物 か ら 抽 象 す る も の こ そ 能 動 知 性 で あ る . そ れ ゆ え , 能 動 知 性 は あ ら ゆ る も の
に お い て 一 つ で あ る .
十 三 . さ ら に は , 同 書 で 言 わ れ る こ と に は 「 も し 最 高 善 が あ ら ゆ る も の に と っ
て 一 つ で あ る な ら , 最 高 善 が そ れ に お い て 見 分 け ら れ 保 持 さ れ る 真 理 , す な わ ち
知 恵 も あ ら ゆ る も の に と っ て 一 つ の 共 通 な も の で あ る の で な け れ ば な ら な
い 」
2 4. し か る に , 最 高 善 は 知 性 に よ っ て , し か も と り わ け 能 動 知 性 に よ っ て
わ れ わ れ か ら 見 分 け ら れ 保 持 さ れ る . そ れ ゆ え , 能 動 知 性 は あ ら ゆ る も の に お い
て 一 つ で あ る .
十 四 .
さ ら に は ,
同 じ も の を も た ら す よ う 同 じ も の が 本 性 づ け ら れ て い る
2 5.
し か る に , 普 遍 は あ ら ゆ る も の に お い て 一 つ で あ る . そ れ ゆ え , 能 動 知 性 に は 普
遍 を 造 る こ と が 属 す る の だ か ら , 能 動 知 性 も あ ら ゆ る も の に お い て 一 つ で あ る と
思 わ れ る
2 6.
だ ろ う . あ る い は , 能 動 知 性 は 諸 形 象 を 纏 わ ず に 欠 い た 被 造 的 な も の で [ あ る の
で な け れ ば な ら な い の で ] あ り , そ し て そ の 場 合 , 能 動 知 性 は 諸 表 象 像 か ら 諸 形
象 を 抽 象 す る こ と に 対 し て 効 力 が な い こ と に な る . な ぜ な ら , 前 も っ て 或 る 理 拠
を 持 っ て い た と い う こ と で な け れ ば , 形 象 を 抽 象 し た 後 で ど の 形 象 を 追 い 求 め て
い る の か を 能 動 知 性 は 認 識 し な い だ ろ う か ら で あ る . そ れ は , 逃 げ る 奴 隷 を 追 い
求 め る 者 は , 前 も っ て そ の 者 に つ い て の 或 る 知 識 を 持 っ て い た の で な け れ ば , 見
出 し た 時 に そ の 者 の こ と を 認 識 し な い の と 同 様 で あ る
2 7
.
そ れ ゆ え ,
能 動 知 性 は
魂 の 内 の 或 る も の で は な い の で あ る か ら し て , 諸 々 の 魂 お よ び 人 間 に 即 し て 多 数
化 さ れ な い .
十 六 . さ ら に は , 充 足 的 な 原 因 が 措 定 さ れ る 場 合 , 同 じ 結 果 の た め に 別 の 原 因
を 措 定 す る こ と は 余 計 な こ と で あ る
2 8.
し か る に ,
人 間 た ち の 照 明 の た め に は 或
る 外 在 的 で 充 足 的 な 原 因 ― す な わ ち 神 ― が あ る . そ れ ゆ え , 自 ら の 義 務 が 照
明 す る こ と で あ る 能 動 知 性 は , 人 間 の 魂 に お け る 或 る も の で な く て も よ い の で あ
る か ら し て , 諸 々 の 魂 お よ び 人 間 に 即 し て 多 数 化 さ れ な い .
十 七 . さ ら に は , も し 能 動 知 性 が 人 間 の 魂 の 内 の 或 る も の と し て 措 定 さ れ る な
ら ,
能 動 知 性 は 或 る こ と に 対 し て 人 間 に 便 宜 を 図 ら な け れ ば な ら な い .
な ぜ な ら ,
神 か ら 創 造 さ れ た 諸 事 物 に お い て は 何 も 無 用 で は な く 無 駄 に あ る の で は な い か ら
で あ る
2 9
.し か る に ,能 動 知 性 は ,可 能 知 性 を 照 明 す る と い う よ う な
3 0限 り で
は 認 識 す る こ と に 対 し て 人 間 に 便 宜 を 図 ら な い . な ぜ な ら , 可 能 知 性 は , 可 知 的
形 象 に よ っ て 現 実 態 に お い て あ ら し め ら れ て い た が ゆ え に , 作 用 す る こ と に 対 し
て 自 体 的 に 充 足 的 で あ る か ら で あ り , そ れ は 形 相 を 持 つ 任 意 の 別 の も の も 同 様 で
あ る . 同 様 に し て 能 動 知 性 は , 諸 表 象 像 か ら 諸 々 の 可 知 的 形 象 を 抽 象 す る 際 に 諸
表 象 像 を 照 ら す と い う よ う な 限 り で は [ 人 間 に ] 便 宜 を 図 ら な い . な ぜ な ら , 感
覚 に お い て 受 容 さ れ た 形 象 が 自 分 の 類 似 性 を 想 像 力 に お い て 刻 印 す る の と 同 様 に
し て ,想 像 力 に お い て あ る 形 相 は ,
[ 感 覚 に お い て 受 容 さ れ た 形 象 よ り も ]よ り 霊
的 で あ り し た が っ て よ り 力 の あ る も の で あ る が ゆ え に , 自 分 の 類 似 性 を よ り 高 位
の 能 力 , す な わ ち 可 能 知 性 へ と 刻 印 す る こ と が で き る と 思 わ れ る か ら で あ る . そ
れ ゆ え , 能 動 知 性 は , 魂 の 内 の 或 る も の で は な い の で あ る か ら し て , 人 間 た ち に
お い て 多 数 化 さ れ な い .
【 反 対 異 論 】
し か し , 以 上 に 反 対 す る .
知 性 は 魂 の 内 の 或 る も の で あ る
3 1.
そ れ ゆ え ,
能 動 知 性 は 諸 々 の 魂 の 多 数 化 に 即
し て 多 数 化 さ れ る .
二 . さ ら に は , ア ウ グ ス テ ィ ヌ ス が 『 三 位 一 体 に つ い て 』 第
4
巻 で 言 う こ と に
は 「 他 の 誰 よ り も 善 な る 哲 学 者 た ち は 」 彼 ら が 歴 史 的 な 仕 方 で 言 明 し た こ と ご と
を 「 か の 最 高 で 永 遠 な る 諸 々 の 理 拠 に お い て 知 性 に よ っ て 観 想 し て い な か っ
た 」
3 2. か く し て , 或 る 光 に お い て は そ う し た こ と ご と を 観 想 す る こ と が そ の
哲 学 者 た ち に は 共 本 性 的〔
connaturalis
〕で あ る と 思 わ れ る .と こ ろ で ,わ れ わ れ
が そ れ に お い て 真 理 を 観 想 す る 光 は 能 動 知 性 で あ る . そ れ ゆ え , 能 動 知 性 は 魂 の
内 の 或 る も の で あ る . か く し て , 先 述 と 同 じ で あ る .
三 .さ ら に は ,ア ウ グ ス テ ィ ヌ ス が『 三 位 一 体 に つ い て 』第
12
巻 で 言 う こ と に
は 「 次 の こ と が 信 じ ら れ る べ き で あ る . 知 性 的 精 神 の 本 性 は , こ の 物 体 的 な 光 に
お い て 周 囲 に 置 か れ て い る も の を 肉 の 眼 が 見 る よ う に , 何 ら か の 独 自 の 非 物 体 的
な 光 に お い て か の 従 属 的 な も の ど も を 見 る と い う よ う に し て 創 設 さ れ て い
る 」
3 3
. と こ ろ で , わ れ わ れ の 精 神 が そ れ に よ っ て 知 解 す る 光 は 能 動 知 性 で あ
る . そ れ ゆ え , 能 動 知 性 は , 魂 の 類 に 属 す る 或 る も の で あ る の で あ る か ら し て ,
諸 々 の 魂 と 人 間 の 多 数 化 に よ っ て 多 数 化 さ れ る .
【 主 文 】
解 答 . 以 下 の こ と が 言 わ れ る べ き で あ る . 前 も っ て 言 わ れ て い た よ う に , ア リ
ス ト テ レ ス に と っ て 能 動 知 性 を 措 定 す る こ と は 必 然 で あ る . な ぜ な ら , 可 感 的 な
諸 事 物 の 諸 本 性 は , 現 実 態 に お い て 可 知 的 で あ る た め に 質 料 を ぬ き に し て 自 体 的
に 自 存 す る と 彼 は 措 定 し て い な か っ た か ら で あ る . そ し て そ れ ゆ え , 個 的 な 質 料
か ら 抽 象 す る こ と で そ の 諸 本 性 を 現 実 態 に お い て 可 知 的 な も の た ら し め る よ う な
或 る 力 が あ る の で な け れ ば な ら な か っ た . そ し て こ の 力 が 能 動 知 性 と 呼 ば れ て お
り
3 4, そ れ を 何 ら か の 人 々 は 人 間 た ち の 多 数 性 に 即 し て 多 数 化 さ れ て い な い 分
離 さ れ た 何 ら か の 実 体 だ と 措 定 し た の に 対 し て
3 5
,
[ 別 の ]何 ら か の 人 々 は 能 動
知 性 が 魂 の 内 の 何 ら か の 力 で あ り 多 数 の 人 間 に お い て 多 数 化 さ れ る と 措 定 し た
3 6
.
た し か に 或 る 仕 方 で は こ の 両 者 は 真 で あ る
3 7諸 事 物 に お い て あ る の で な け れ ば な ら な い
3 8.
と こ ろ で ,
人 間 の 魂 は 分 有 に よ っ
て 知 解 す る も の で あ る . と い う の も , 自 分 の い か な る 部 分 に 即 し て も と い う わ け
で は な く て 最 上 位 の 部 分 に 即 し て の み 人 間 の 魂 は 知 解 す る か ら で あ る . し た が っ
て , 自 分 の 全 本 性 に 即 し て 知 性 で あ り , 魂 の 知 性 性 が そ れ に 由 来 し 魂 の 知 解 す る
こ と が そ れ に 依 存 す る よ う な , 魂 よ り も 上 位 の 或 る も の が あ る の で な け れ ば な ら
な い . 第 二 に は 次 の 通 り だ か ら で あ る . あ ら ゆ る 可 動 的 な も の の 前 に そ の 運 動 に
即 し て 或 る 不 可 動 な も の が 見 出 さ れ る こ と が 必 然 で あ る .
例 え ば ,
天 体 の よ う に ,
変 容 し う る も の ど も の 上 に は 或 る 変 容 し え な い も の が あ る . と い う の も , あ ら ゆ
る 運 動 は 或 る 不 可 動 の も の に よ っ て 原 因 さ れ る か ら で あ る
3 9
.
と こ ろ で ,
人 間 の
魂 の 知 解 す る こ と そ の も の は 運 動 の あ り 方 に よ っ て あ る . と い う の も , 諸 結 果 か
ら 諸 原 因 へ , 諸 原 因 か ら 諸 結 果 へ , 類 似 す る も の ど も か ら 類 似 す る も の ど も へ ,
相 反 す る も の ど も か ら 相 反 す る も の ど も へ と 漸 進 す る こ と で [ 人 間 の ] 魂 は 知 解
す る か ら で あ る
4 0.
し た が っ て ,
魂 の 上 に は ,
そ れ の 知 解 す る こ と が こ う し た 類
の 漸 進 を ぬ き に し て 確 固 と し て 静 止 し て い る よ う な 或 る 知 性 が あ る の で な け れ ば
な ら な い . 第 三 に は 次 の 通 り だ か ら で あ る . 同 一 の も の に お い て 可 能 態 は 現 実 態
よ り も 先 な る も の で は あ る が , や は り 端 的 に は , 別 の も の に お い て 現 実 態 は 可 能
態 に 先 行 す る と い う こ と は 必 然 で あ る . そ し て 同 様 に , あ ら ゆ る 不 完 全 な も の の
前 に 或 る 完 全 な も の が あ る こ と は 必 然 で あ る . と こ ろ で , 人 間 の 魂 は 始 め に は ,
可 知 的 な も の ど も に 対 す る 可 能 態 に お い て 見 出 さ れ , 知 解 す る こ と に お い て 不 完
全 な も の と し て 見 出 さ れ る . な ぜ な ら , 人 間 の 魂 は 決 し て こ の [ 現 世 で の ] 生 に
お い て 可 知 的 な も の ど も の あ ら ゆ る 真 理 を 随 伴 す る わ け で は な い か ら で あ る . し
た が っ て , 魂 の 上 に は , 常 に 現 実 態 に お い て 存 在 し 真 理 の 知 解 に お い て 全 体 的 に
完 全 な 或 る 知 性 が あ る の で な け れ ば な ら な い .
も の で あ る .
そ れ ゆ え ,
よ り 上 位 の 知 性 の 普 遍 的 な 力 以 外 に 人 間 の 魂 に お い て は ,
し か じ か の 規 定 さ れ た 結 果 に 対 す る 或 る い わ ば 個 別 的 な 力 が 分 有 さ れ な け れ ば な
ら ず , つ ま り は そ の 結 果 と し て 可 知 的 な も の ど も は 現 実 態 に あ る も の に な る . そ
し て こ の こ と が 真 で あ る と い う こ と は 経 験 に よ っ て 窺 え る
4 1.
実 際 ,
ソ ク ラ テ ス
や プ ラ ト ン の よ う に 一 人 の 個 別 的 な 人 間 は , 要 す る に 普 遍 を 個 別 的 な も の ど も か
ら 把 捉 す る こ と で ,
[ 自 ら が ]意 志 す る 時 に
4 2可 知 的 な も の ど も を 現 実 態 に お い
て あ ら し め る の で あ り ,
そ れ は ,
人 間 た ち の あ ら ゆ る 個 人 に 共 通 で あ る も の を 個 々
人 に 固 有 で あ る も の ど も か ら 取 り の け る 限 り で の こ と で あ る .
そ の よ う な わ け で ,
能 動 知 性 の 活 動 ― そ れ は 普 遍 を 抽 象 す る こ と で あ る ― は こ の [ 個 別 的 な ] 人
間 の 活 動 で あ り , 共 通 本 性 に つ い て 考 察 す る こ と な い し 判 断 す る こ と ― そ れ は
可 能 知 性 の 活 動 で あ る ― も 同 様 で あ る . と こ ろ で , 何 で あ れ 活 動 を 行 う あ ら ゆ
る 者 は ,
そ の よ う な 活 動 の 原 理 で あ る 力 を 自 分 自 身 に お い て 形 相 的 に 持 つ
4 3.
そ
れ ゆ え , 前 も っ て わ れ わ れ が 示 し た よ う に , 可 能 知 性 が 人 間 に 形 相 的 に 内 属 す る
或 る も の で あ る と い う こ と が 必 要 で あ る の と 同 様 に し て
4 4
, 能 動 知 性 が 人 間 に
形 相 的 に 内 属 す る 或 る も の で あ る と い う こ と が 必 要 で あ る
4 5. そ し て こ う し た
こ と の た め に は ,
上 で 可 能 知 性 に つ い て も 示 さ れ た よ う に
4 6
,
ア ヴ ェ ロ エ ス が 捏
造 す る よ う な
4 7諸 表 象 像 に よ る 連 続 は 充 足 的 で は な い
4 8.そ し て そ う だ と い う
こ と を ,
「 魂 に お い て は こ れ ら の 差 異 」
, す な わ ち 可 能 知 性 と 能 動 知 性 「 が あ る こ
と が 必 然 で あ る 」
と 言 い
4 9,
ま た さ ら に ,
能 動 知 性 は 分 有 さ れ た 光 で あ る も の と
し て
「 光 明 の よ う 」
で あ る と 言 う
5 0
際 に ア リ ス ト テ レ ス は 明 白 に 考 え て い た と 思
わ れ る . そ れ に 対 し て , プ ラ ト ン は , テ ミ ス テ ィ オ ス が 『 ア リ ス ト テ レ ス 「 魂 に
つ い て 」 註 解 』 で 言 う よ う に , 魂 の 内 の 分 有 さ れ た 力 で は な く て 分 離 さ れ た 知 性
の こ と を 念 頭 に 置 き な が ら , 能 動 知 性 を 太 陽 に 比 較 し た
5 1.
さ て , こ の [ 能 動 知 性 と い う ] 分 離 さ れ た 知 性 ― 人 間 の 魂 の 知 解 す る こ と が
そ れ に 依 存 し て い る ― が 何 者 で あ る の か が 考 察 さ れ る べ き で あ る . 実 際 , こ の
知 性 は 分 離 さ れ た 諸 実 体 の 内 の 最 下 位 の 実 体 で あ り , そ れ は 自 分 の 光 明 に よ っ て
わ れ わ れ の 諸 々 の 魂 と 連 続 し て い る も の で あ る と 何 ら か の 人 々 は 言 っ た
5 2. し
か し ,
こ れ は 多 数 の 仕 方 で 信 仰 の 真 理 に 抵 触 す る
5 3
に お い て ,
[ 神 以 外 の ]
他 の 或 る 分 離 さ れ た 実 体 か ら 原 因 さ れ る の で は な く て 神 か
ら 無 媒 介 に 原 因 さ れ る と い う こ と が 残 さ れ て い る . 第 二 に は 次 の 通 り だ か ら で あ
る . 各 々 の 能 動 者 の 最 後 の 完 全 性 と は そ れ が 自 分 の 原 理 に 及 ぶ こ と が で き る と い
う こ と で あ る
5 5.
と こ ろ で ,
人 間 の 最 後 の 完 全 性 な い し 至 福 は 知 性 的 な 作 用 に 即
し て お り , そ れ は 哲 学 者 [ ア リ ス ト テ レ ス ] も 『 倫 理 学 』 第
10
巻
5 6
で 言 う 通 り
で あ る
5 7.
し た が っ て ,
も し 人 間 た ち の 知 性 性 の 原 理 お よ び 原 因 が
[ 神 以 外 の ]
他 の 或 る 分 離 さ れ た 実 体 で あ る と し た な ら , 人 間 の 最 後 の 至 福 は そ の [ 神 以 外 の
分 離 さ れ た 実 体 で あ る ] 被 造 的 な 実 体 に お い て 構 成 さ れ て い る と い う こ と で な け
れ ば な ら な か っ た で あ ろ う . そ し て こ う し た 立 場 を 措 定 す る 人 々 は 次 の こ と を 明
白 に 措 定 し て い る . す な わ ち , 人 間 の 最 後 の 幸 福 と は 能 動 知 性 体 〔
intelligentia
agens
〕と 連 続 し て い る こ と で あ る と そ の 人 々 は 措 定 し て い る
5 8.他 方 で ,正 し
い 信 仰 が 措 定 し て い る こ と に は ,
『 ヨ ハ ネ に よ る 福 音 書 』 第
17
章 の 「 唯 一 の 真 な
る 神 で あ る あ な た を 認 識 す る と い う こ と が 永 遠 の 生 で あ る 」 に 即 せ ば , 人 間 の 最
後 の 至 福 は 神 の み に お い て あ り
5 9
,ま た 『 ル カ に よ る 福 音 書 』 第
20
章 で 認 め ら
れ る よ う に , こ う し た 類 の 至 福 の 分 有 に お い て 人 間 た ち は 「 天 使 た ち と 同 等 」 で
あ る
6 0
.
第 三 に は 次 の 通 り だ か ら で あ る .
も し 人 間 が 天 使 か ら 可 知 的 な 光 明 を 分
有 す る と す る な ら , 人 間 は 精 神 に 即 し て は 神 自 身 の 像 で は な く て 天 使 た ち の 像 に
対 し て い る と い う こ と が 帰 結 す る こ と に な っ て し ま う で あ ろ う が ,
こ れ は ,
「 人 間
を わ れ わ れ の 像 お よ び 類 似 性 に 似 せ て 」
, す な わ ち 天 使 た ち の 像 で は な く て 三 位
一 体 に 共 通 の 像 に 似 せ て 「 造 る こ と に し よ う 」 と 『 創 世 記 』 第
1
章 で 言 わ れ る こ
と と 反 対 で あ る
6 1.
と に な る と い う こ と を 理 性 は 自 分 に 約 束 し て い る . と い う の は , 精 神 の い わ ば 両
眼 は 魂 の 感 覚 だ か ら で あ る . さ て , 諸 学 問 の 内 の 最 も 確 実 な 各 々 の 学 問 は , 見 ら
れ る こ と が で き る よ う に な る た め に 太 陽 に よ っ て 照 ら さ れ る ご と き も の で あ る .
と こ ろ で ,神 こ そ 照 ら す 者 で あ る 」
6 4.さ て ,わ れ わ れ の 認 識 の こ う し た 或 る 一
つ の 分 離 さ れ た 原 理 は ,
そ れ に つ い て 哲 学 者
[ ア リ ス ト テ レ ス ]
が 語 っ て い る
6 5
能 動 知 性 に よ っ て は 知 解 さ れ え な い の で あ り , そ れ は テ ミ ス テ ィ オ ス が 言 う 通 り
で あ る
6 6
.
な ぜ な ら ,
神 は 魂 の 本 性 に お い て あ る の で は な い か ら で あ る .
し か る
に , 能 動 知 性 は ア リ ス ト テ レ ス に よ っ て , 神 か ら わ れ わ れ の 魂 に お い て 受 容 さ れ
た 光 明 だ と 名 づ け ら れ て い る
6 7
.
そ し て こ う し た こ と に 即 せ ば ,
能 動 知 性 は あ ら
ゆ る 人 々 に お い て 一 つ で あ る の で は な い と 端 的 に 言 わ れ る べ き だ と い う こ と が 残
さ れ て い る .
【 異 論 解 答 】
そ れ ゆ え ,
一 . 第 一 に 対 し て は 以 下 の こ と が 言 わ れ る べ き で あ る . 能 動 知 性 の 本 性 的 な 光
明 と , こ の 光 明 に 加 え て 恩 寵 お よ び 栄 光 の 光 明 を 人 間 た ち に 刻 印 す る こ と で 人 間
た ち を 照 明 す る こ と は 神 に 固 有 な こ と で あ る が , 能 動 知 性 は 神 か ら 刻 印 さ れ た 光
明 と し て 諸 表 象 像 を 照 ら す .
二 . 第 二 に 対 し て は 以 下 の こ と が 言 わ れ る べ き で あ る . 能 動 知 性 が ア リ ス ト テ
レ ス に よ っ て 分 離 さ れ た も の だ と 言 わ れ る の は
6 8
, そ れ が 身 体 の 外 に あ る こ と
〔
esse
〕
を 持 つ 何 ら か の 実 体 で あ る よ う に し て で は な く て 次 の 通 り だ か ら で あ る .
す な わ ち , 能 動 知 性 は , そ れ の 作 用 が 或 る 身 体 器 官 に よ る も の で あ る と い う よ う
に し て は 身 体 の 何 ら の 部 分 の 現 実 態 で も な い の で あ る か ら で あ り , そ れ は 可 能 知
性 に つ い て も 既 述 の 通 り で あ る
6 9
.
三 .
第 三 に 対 し て は 以 下 の こ と が 言 わ れ る べ き で あ る .
そ う し た 言 葉
7 0を ア リ
ス ト テ レ ス が 言 う の は , 能 動 知 性 に つ い て で は な く て 現 実 態 に お け る 知 性 に つ い
て で あ る . す な わ ち , 第 一 に 可 能 知 性 に つ い て 語 ら れ , そ の 後 で 能 動 知 性 に つ い
て 語 ら れ ,そ し て 最 後 に「 他 方 で ,現 実 態 に 即 し た 知 は 事 物 と 同 じ で あ る 」
ぐ っ て も , 可 能 態 に お け る 感 覚 と 可 能 態 に お い て 可 感 的 な も の は 相 異 す る も の で
あ る と 言 っ て い た
7 4.
第 二 に は ,
ア リ ス ト テ レ ス は 現 実 態 に お け る 知 性 を 可 能 態
に お け る 知 性 と 比 較 し て い る . そ の 理 由 は 次 の 通 り で あ る : 可 能 態 に お け る 知 性
は 現 実 態 に お け る 知 性 よ り も 同 一 の も の に お い て は 時 間 に お い て よ り 先 で あ る .
と い う の も , 現 実 態 に お け る よ り も 可 能 態 に お け る 或 る 知 性 の 方 が 時 間 に お い て
よ り 先 に あ る か ら で あ る . し か し , 本 性 的 に は 可 能 態 よ り も 現 実 態 の 方 が よ り 先
で あ り , 端 的 に 言 う な ら , 現 実 態 に お け る 或 る 知 性 に よ っ て 現 実 態 へ と 還 元 さ れ
る と こ ろ の 可 能 態 に お け る 知 性 よ り も 現 実 態 に お け る 或 る 知 性 を 時 間 に お い て も
よ り 先 に 措 定 し な け れ ば な ら な い . そ し て こ れ こ そ ア リ ス ト テ レ ス が 「 そ れ に 対
し て , 可 能 態 に 即 し た 知 は 或 る 一 つ の も の に お い て は 時 間 に お い て よ り 先 で あ る
一 方 で ,全 体 と し て は 時 間 に お い て も そ う で は な い 」
7 5と 続 け て 言 っ て い る こ と
で あ り , 可 能 態 と 現 実 態 の 間 に お け る こ う し た 対 照 を ア リ ス ト テ レ ス は 『 形 而 上
学 』 第
9
巻 で も
7 6他 の 複 数 の 箇 所 で も
7 7使 っ て い る
7 8. 第 三 に は , 可 能 態 に
お け る 知 性 な い し 可 能 知 性 が 或 る 時 は 知 解 す る も の と し て 或 る 時 は 知 解 し な い も
の と し て 見 出 さ れ る 限 り で , ア リ ス ト テ レ ス は 差 異 を 示 し て い る . し か し , こ の
こ と は 現 実 態 に お け る 知 性 に つ い て は 言 わ れ え な い
7 9
.
そ れ は ,
視 覚 能 力 も 或 る
時 に は 見 て 或 る 時 に は 見 な い が , 現 実 態 に お け る 視 覚 は 現 実 態 に お い て 見 る こ と
そ の も の に お い て あ る の と 同 様 で あ る .
そ し て こ れ こ そ ア リ ス ト テ レ ス が
「 だ が ,
た し か に 或 る 時 に は 知 解 す る 一 方 で ,
或 る 時 に は 知 解 し な い と い う こ と で は な い 」
8 0
と 言 い ,ま た そ の 後 で「 他 方 で ,真 に あ る こ れ だ け が 分 離 さ れ て い る 」
8 1と
続 け て 言 っ て い る こ と で あ る . こ う し た こ と は 能 動 知 性 に つ い て も 可 能 知 性 に つ
い て も 言 わ れ え な い こ と で あ る . と い う の も , 両 方 と も 上 で は 分 離 さ れ て い る と
ア リ ス ト テ レ ス は 言 っ て い た か ら で あ る . そ う で は な く て , そ う し た こ と は 現 実
態 に お い て 知 解 さ れ る も の に と っ て 必 要 と さ れ る あ ら ゆ る こ と , す な わ ち 知 性 的
な 部 分 全 体 に つ い て 知 解 さ れ る の で な け れ ば な ら な い
8 2.
そ れ ゆ え ,
ま た ア リ ス
ト テ レ ス は「 そ し て こ れ だ け が 不 死 で 永 続 的 な も の で あ る 」
8 3
と 続 け て 言 っ て お
り , こ れ が も し 能 動 知 性 に つ い て 解 説 さ れ て い る と す る な ら , ア レ ク サ ン ド ロ ス
が 知 解 し た よ う に , 可 能 知 性 は 可 滅 的 で あ る と い う こ と が 帰 結 す る こ と に な
る
8 4. し か し , こ れ は ア リ ス ト テ レ ス が 可 能 知 性 に つ い て 上 で 言 っ て い た こ と
ご と
8 5
と 反 対 で あ る .
そ こ で ,
或 る 者 に と っ て 誤 る こ と の 機 会 で あ る こ と の な い
よ う に , ア リ ス ト テ レ ス の 以 上 の 言 葉
8 6を こ こ で 解 説 す る 必 要 が あ っ た .
し て も あ る と い う 仕 方 で 互 い に 対 照 さ れ て い る と い う こ と を 何 も 妨 げ な い . 例 え
ば , 火 は 可 能 態 に お い て は 冷 た く 現 実 態 に お い て は 熱 い も の で あ る の に 対 し て ,
水 は そ の 逆 で あ る . そ し て こ う し た こ と の ゆ え に , 自 然 の 能 動 者 た ち も 同 時 に 受
動 し か つ 能 動 す る . し た が っ て , も し 知 性 的 な 部 分 が , 諸 表 象 像 と 対 照 さ れ る と
し た な ら , 諸 表 象 像 か ら 見 て 或 る も の に 関 し て は 可 能 態 に お い て 存 し , 或 る も の
に 関 し て は 現 実 態 に お い て 存 す る こ と に な る . た し か に 諸 表 象 像 は 規 定 さ れ た 本
性 の 類 似 性 を 現 実 態 に お い て 持 つ が , し か し 規 定 さ れ た 種 の 類 似 性 は 表 象 像 に お
い て , 質 料 的 な 諸 条 件 か ら 抽 象 さ れ う る も の と し て 可 能 態 に お い て あ る . そ れ に
対 し て , 知 性 的 な 部 分 に お い て は そ の 逆 で あ る . と い う の は , 知 性 的 な 部 分 は ,
区 別 さ れ た 諸 事 物 の 類 似 性 を 現 実 態 に お い て 持 た な い が , し か し な が ら , 可 能 態
に お い て 抽 象 さ れ う る も の で あ る も の ど も を 抽 象 す る 力 を 持 つ 非 質 料 的 な 光 明 を
現 実 態 に お い て 持 つ か ら で あ る . か く し て , 諸 表 象 像 か ら 抽 象 さ れ る 諸 形 象 か ら
見 て 可 能 態 に お い て あ る 可 能 知 性 と , 形 象 を 諸 表 象 像 か ら 抽 象 す る 能 動 知 性 が 魂
の 同 じ 本 質 に お い て 見 出 さ れ る こ と を 何 も 妨 げ な い
8 7
.
そ し て も し ,
あ ら ゆ る 色
に 対 す る 可 能 態 に お い て 存 在 し な が ら 透 明 で あ る よ う な 或 る 同 一 の 物 体 が あ っ て ,
猫 の 眼 に お い て 明 ら か な よ う に , そ れ に よ っ て 諸 々 の 色 を 照 明 す る こ と が で き る
よ う な 光 を そ の 物 体 が 自 ら に 備 え て い る と し た な ら ,
類 似 が あ っ た で あ ろ う
8 8.
五 . 第 五 に 対 し て は 以 下 の こ と が 言 わ れ る べ き で あ る . 能 動 知 性 の 光 明 は , 能
動 知 性 の 光 明 そ の も の を 分 有 す る 諸 々 の 魂 の 多 数 化 に よ っ て 無 媒 介 に 多 数 化 さ れ
る . 他 方 で , 上 述 の 通 り , 諸 々 の 魂 は 諸 身 体 に 即 し て 多 数 化 さ れ る
8 9
.
六 . 第 六 に 対 し て は 以 下 の こ と が 言 わ れ る べ き で あ る . 能 動 知 性 の 光 明 は , そ
れ に よ っ て 能 動 知 性 が 作 用 す る よ う な 何 ら の 身 体 器 官 の 現 実 態 で あ る の で も な い
と い う こ と そ の も の が , 諸 々 の 可 知 的 形 象 を 諸 表 象 像 か ら 分 離 す る こ と が で き る
と い う こ と に と っ て 充 足 的 で あ る .
と い う の も ,
可 能 知 性 に お い て 受 容 さ れ る 諸 々
の 可 知 的 形 象 の 分 離 は 能 動 知 性 の 分 離 よ り も 大 き い も の で あ る わ け で は な い か ら
で あ る .
ば 無 限 で あ る と い う こ と で あ る . と い う の も , そ れ 自 体 に お い て は 有 限 で あ る 或
る 力 が 或 る 規 定 さ れ た 類 に お い て は 限 界 を 持 た な い と い う こ と を 何 も 妨 げ な い が ,
し か し な が ら , よ り 上 位 の 類 に は 及 び え な い 限 り に お い て は そ の 力 は 限 界 を 持 つ
か ら で あ る . 例 え ば , 視 覚 は 色 の 類 に お い て は 限 界 を 持 た な い . な ぜ な ら , も し
諸 々 の 色 が 無 限 に 多 数 化 さ れ る と し て も , あ ら ゆ る 色 は 視 覚 に よ っ て 認 識 さ れ う
る で あ ろ う が , し か し な が ら , 諸 々 の 普 遍 の よ う に よ り 上 位 の 類 に 属 す る も の ど
も を 視 覚 は 認 識 で き な い か ら で あ る . 同 様 に し て わ れ わ れ の 知 性 は , 可 感 的 な も
の ど も か ら 抽 象 さ れ る と こ ろ の 自 身 に と っ て 共 本 性 的 で 可 知 的 な も の ど も か ら 見
れ ば 限 界 を 持 た な い が , 分 離 さ れ た 諸 実 体 で あ る よ り 上 位 の 可 知 的 な も の ど も を
め ぐ っ て は 不 充 分 で あ る が ゆ え に ,や は り 限 界 を 持 つ .と い う の も ,
[ ア リ ス ト テ
レ ス の ]
『 形 而 上 学 』 第
2
巻 で 言 わ れ る よ う に ,
「 梟 〔
noctua
〕 の 眼 が 太 陽 の 光 に
対 す る よ う に し て 」 わ れ わ れ の 知 性 は , 諸 事 物 の 内 の 最 も 明 白 な も の ど も と 関 わ
る か ら で あ る
9 1.
八 .第 八 に 対 し て は 以 下 の こ と が 言 わ れ る べ き で あ る .
[ 第
8
異 論 に お け る ]そ
う し た 理 拠 は 提 起 さ れ た こ と に 対 す る も の で は な い .
そ の 理 由 は 次 の 通 り で あ る
:
真 理 に つ い て 或 る も の に よ っ て 判 断 す る こ と は 二 通 り に 言 わ れ る . 一 方 の 仕 方 で
は , 中 間 の も の に よ っ て と い う 仕 方 で あ る . 例 え ば , わ れ わ れ は , 諸 々 の 結 論 に
つ い て は 諸 原 理 に よ っ て 判 断 し , 規 則 づ け ら れ た こ と ご と に つ い て は 規 則 に よ っ
て 判 断 す る . そ し て そ の よ う に し て , ア ウ グ ス テ ィ ヌ ス の 諸 理 拠 は 進 行 し て い る
と 思 わ れ る
9 2
.
と い う の も ,
可 変 的 で あ る も の ,
あ る い は 偽 と 類 似 性 を 持 つ も の
は 真 理 の 不 可 謬 な 規 則 で は あ り え な い か ら で あ る . 他 方 の 仕 方 で は , 真 理 に つ い
て 或 る も の に よ っ て 或 る も の ど も を 判 断 す る と い う こ と が 言 わ れ る の は , 判 断 す
る 力 に よ っ て と い う 仕 方 で あ る . そ し て わ れ わ れ が 能 動 知 性 に よ っ て 真 理 に つ い
て 判 断 す る の は こ う し た 仕 方 に よ っ て で あ る . し か し や は り , ア ウ グ ス テ ィ ヌ ス
の 意 図
9 3や , ど の よ う に し て こ の こ と を め ぐ る 真 理 が 存 し て い る の か を わ れ わ
れ が よ り 深 遠 に 吟 味 す る た め に は , 次 の こ と が 知 ら れ る べ き で あ る . 古 代 の 何 ら
か の 哲 学 者 た ち は , 感 覚 と は 別 に 他 の 認 識 す る 力 を 措 定 し た り 可 感 的 な も の ど も
と は 別 に 或 る 諸 有 を 措 定 し た り す る こ と な く
9 4
別 々 の 仕 方 に よ っ て あ り ,
脆 弱 な 者 と 健 康 な 者 は 別 々 の 仕 方 に よ っ て あ る .
ま た ,
こ れ ら の 内 の 誰 が よ り 真 な る 仕 方 で 考 え て い る か が そ れ に よ っ て 判 別 さ れ る よ う
な 或 る こ と は 受 け 取 ら れ え な い . と い う の も , 誰 で あ れ 真 理 の 或 る 類 似 性 を 持 つ
か ら で あ る
9 6.
そ し て こ う し た 諸 理 拠 こ そ ア ウ グ ス テ ィ ヌ ス が 言 及 す る
9 7二 つ
の 理 拠 で あ り , こ の 諸 理 拠 の ゆ え に 古 代 の 人 々 は 真 理 が わ れ わ れ に よ っ て 認 識 さ
れ え な い と 言 っ た . そ れ ゆ え , ソ ク ラ テ ス も , 諸 事 物 の 真 理 を 捉 え る こ と に つ い
て 絶 望 し な が ら ,
道 徳 哲 学 へ と 全 く も っ て 赴 い た
9 8
.
そ れ に 対 し て ,
ソ ク ラ テ ス
の 弟 子 で あ る プ ラ ト ン は ,
可 感 的 な も の ど も は 常 に 流 れ の 中 に あ る と い う こ と
9 9,
そ し て 感 覚 す る 力 は , 知 の 確 実 性 を 安 定 化 さ せ る た め の 諸 事 物 に 関 す る 確 実 な 判
断 を 持 た な い と い う こ と
1 0 0に 関 し て 古 代 の 哲 学 者 た ち と 同 意 見 で あ り な が ら ,
ま ず 一 方 の 側 面 で は , 諸 事 物 の 諸 形 象 ― そ れ ら に つ い て 諸 々 の 知 が あ る と プ ラ
ト ン は 言 っ た ― は 可 感 的 な も の ど も か ら 分 離 さ れ て い て 不 可 動 だ と 措 定 し た
1 0 1
. 他 方 の 側 面 で は , 感 覚 よ り 上 の 認 識 す る 力 , す な わ ち 精 神 あ る い は 知 性 は
人 間 に お い て
1 0 2
,視 覚 が 可 視 的 な 太 陽 に よ っ て 照 ら さ れ る よ う に ,何 ら か の よ
り 上 位 の 可 知 的 な 太 陽 に よ っ て 照 ら さ れ る も の だ と 措 定 し た
1 0 3.他 方 で ,カ ト
リ ッ ク 信 仰 が 受 け 入 れ て い た 限 り で プ ラ ト ン の 追 従 者 で あ る ア ウ グ ス テ ィ ヌ ス は
1 0 4
, 諸 事 物 の 諸 形 象 が 自 体 的 に 自 存 す る も の だ と は 措 定 せ ず , む し ろ そ の 諸 形
象 の 代 わ り に 諸 事 物 の 諸 理 拠 を 神 の 精 神 に お い て 措 定 し た
1 0 5
.そ し て ,そ の 諸
理 拠 に よ っ て は 神 の 光 に よ っ て 照 ら さ れ た 知 性 に 即 し て あ ら ゆ る こ と に つ い て わ
れ わ れ は 判 断 す る の で あ る が , そ れ は ま ず 諸 理 拠 そ の も の を わ れ わ れ が 見 る ―
と い う の も , こ う し た こ と は , 神 の 本 質 を 見 る と い う こ と で な い 限 り 不 可 能 で あ
る で あ ろ う か ら で あ る ― と い う よ う な 仕 方 に よ っ て で は な く て , か の 最 上 位 の
諸 理 拠 が わ れ わ れ の 諸 精 神 に 刻 印 す る と い う 仕 方 に よ っ て で あ る
1 0 6.
と い う の
も , プ ラ ト ン が 分 離 さ れ た 諸 形 象 に 関 す る 諸 々 の 知 が あ る と 措 定 し た の は , そ の
諸 形 象 が 見 ら れ る で あ ろ う と い う よ う な 仕 方 に よ っ て で は な く て , わ れ わ れ の 精
神 が そ の 諸 形 象 を 分 有 し て い る と い う こ と に 即 し て 諸 事 物 に 関 す る 知 を 持 っ て い
る と い う よ う な 仕 方 に よ っ て で あ る か ら で あ る
1 0 7. そ れ ゆ え ,
「 人 間 の 子 た ち
に よ っ て 諸 真 理 が 減 じ ら れ て い る 」
に 対 す る 何 ら か の
[ 聖 書 ]
註 釈 に お い て も
る が , 共 通 の 可 感 的 な も の ど も を め ぐ っ て , ま し て や 附 帯 的 な 仕 方 で 可 感 的 な も
の ど も を め ぐ っ て 感 覚 は 欺 か れ る と い う こ と を 示 す
1 1 1.
第 三 に ,
存 在 す る も の
ど も の 外 に あ る 或 る 可 知 的 な も の ど も に よ っ て で は な く て , 可 知 的 な も の ど も を
[ 現 実 態 に ] あ ら し め る 能 動 知 性 の 光 明 に よ っ て , 真 理 に つ い て 判 断 す る 知 性 的
な 力 が 感 覚 の 上 に あ る と い う こ と を 示 す
1 1 2
.他 方 で ,可 知 的 な も の ど も そ の も
の が 神 に よ っ て 分 有 さ れ る と い う こ と ,
あ る い は 可 知 的 な も の ど も を
[ 現 実 態 に ]
あ ら し め る 光 明 が そ う で あ る と い う こ と を 言 う こ と は そ れ ほ ど 重 要 で は な い .
九 . 第 九 に 対 し て は 以 下 の こ と が 言 わ れ る べ き で あ る . 不 敬 虔 な 人 々 が 目 を 向
け て い る 諸 規 則 は 能 動 す る こ と に お け る 諸 々 の 第 一 原 理 で あ り , そ の 諸 原 理 は 神
か ら 分 有 さ れ た 能 動 知 性 の 光 明 に よ っ て 目 を 向 け ら れ る も の で あ っ て , そ れ は
諸 々 の 観 照 的 な 知 の 諸 々 の 第 一 原 理 も 同 様 で あ る .
十 . 第 十 に 対 し て は 以 下 の こ と が 言 わ れ る べ き で あ る . 二 つ の も の に つ い て 何
が よ り 善 で あ る の か が そ れ に よ っ て 判 断 さ れ る と こ ろ の も の は , も し そ れ に よ っ
て 判 断 さ れ る の が 規 則 お よ び 尺 度 に よ っ て で あ る よ う に し て で あ る と す る な ら ,
そ の 二 つ の 両 方 よ り も 善 で あ る の で な け れ ば な ら な い . 実 際 そ の よ う に し て , 白
い も の は 他 の あ ら ゆ る 色 の 規 則 お よ び 尺 度 で あ り , 神 も あ ら ゆ る 有 の 規 則 お よ び
尺 度 で あ る . な ぜ な ら , 各 々 の も の は 最 善 の も の に 接 近 す る だ け よ り 善 で あ る か
ら で あ る . 他 方 で , 或 る も の が 別 の も の よ り も 善 で あ る と い う こ と を , 例 え ば 認
識 す る 力 に よ っ て で あ る よ う に そ れ に よ っ て わ れ わ れ が 判 断 す る と こ ろ の も の は ,
そ の 両 方 よ り 善 で な く て も よ い . と こ ろ で , そ の よ う に し て わ れ わ れ は 天 使 が 魂
よ り も 善 で あ る と 判 断 す る .
十 一 . 第 十 一 に 対 し て は 以 下 の こ と が 言 わ れ る べ き で あ る . 既 述 の こ と ご と か
ら 解 決 は 明 ら か で あ る . そ の 理 由 は 次 の 通 り で あ る : 能 動 者 お よ び 動 者 が 質 料 に
対 す る よ う に し て 能 動 知 性 が 可 能 知 性 と 対 照 さ れ る の は , 可 能 知 性 が そ れ に 対 し
て 可 能 態 に お い て あ る 可 知 的 な も の ど も を 能 動 知 性 が 現 実 態 に お い て あ ら し め る
限 り に お い て で あ る . 他 方 で , こ の 二 つ [ す な わ ち 能 動 知 性 と 可 能 知 性 ] が ど の
よ う に し て 魂 の 一 な る 実 体 に お い て 基 礎 づ け ら れ う る の か は 既 述 の こ と で あ る
1 1 3