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現代社会へのとびら❖2017年度3学期号はじめに
2014年に増田寛也氏を座長とする日本創成会議 は,日本の将来像について世間に大きなインパク トを与える発表を行った。この報告書(以下,増 田レポートと称す)によると,地域人口の指標な どから予測すると,近い将来には日本の過半数と なる896の地方自治体では消滅の可能性が高いと する地方消滅の未来像を提示した。
増田レポートは,地方の人口減少について過去 に報告があった同種のレポートと比較して圧倒的 な影響力があった。これはその将来像を「地方消 滅」とインパクトの強いネーミングで紹介したこ とによって,多くの人々に危機感をもたせた。す なわち,現状の延長線上で考えられる「人口減少」 より劇的な消滅という表現を使うことで,人々に この問題は待ったなしだと訴えることに成功した。 地方消滅が取りあげられると同時に東京一極集 中にも目が向けられるようになった。この東京大 都市圏への過度な集中は1980年代後半から何度も 取りあげられているが,増田レポートの発表後は, 東京大都市圏は地方の若者人口を呼び寄せながら も,出生率が低く人口再生産率が著しく低い,人 口の再生産をはばむブラックホール的存在として 語られるようになった。つまり,地方消滅と東京 一極集中はセットで考える社会現象だと設定され
たのである。
その後,地方消滅の議論から,日本の地方の将 来像をつくりあげる活動として「地方創生」とい う言葉が広く用いられるようになった。これはそ れぞれの地域が地域の独自性を生かして地域の魅 力を発信していくという,地域の活性化への取り 組みとして注目を集めている。
以上が近年の日本の地域像に関する議論の大き な流れとなるが,引き続いて本稿では,このこと に関係する基礎データを読み解き,日本社会が直 面する問題について理解を深めていく。
国勢調査からみる日本の人口
日本の国勢調査は1920年に始まるが,この調査 にもとづく総人口の変化を記録したものが図1で ある。これを見ると今までの日本は第二次世界大 戦の影響を受けた1940年代に一時的な人口減少を 記録しているが,一貫して人口増加を記録してい たことがわかる。戦後のみに注目すると,日本は 今まで急激な人口増加の局面にいたことがわかる。 1945年の日本の総人口は約7200万人を数えるにす ぎなかったが,2010年には約1億2806万の人口を 記録するという40%以上の人口増加をわずか65年 で経験したのである。しかし,現在は人口減少の 局面を迎えている。最新の2015年の国勢調査では,
戦時を除いて初めて人口減少を記 録したことが報じられた。 年齢別の人口構成がどのように 変化してきたのかについても着目 してみよう。年少人口(0 〜 14歳), 生産年齢人口(15 〜 64歳),高齢 者人口(65歳以上)の構成比の変 化をみると,日本の人口構成の変 化 が 理 解 し や す い。 す な わ ち, 1950年の人口構成でみると,生産 年齢人口の割合は59.7%であり,
現代日本の地方消滅と地方創生にまつわる背景について
慶應義塾大学教授 長田 進
デ ー タ で
み る
現 代 社 会
65歳以上人口
15~64歳人口
0~14歳人口
実績値推計値値
1945年 戦争による 減少
1967年 初めて 1億人台へ
2008年 人口のピーク
2048年 1億人を 下まわる 2010年 1億2806万人 高齢化率23.0%
2060年 高齢化率 39.9% 万人
14,000 12,000
10,000 8,000
6,000 4,000
2,000 0
1920 40 60 80 2000 10 20 40 60年
図1 日本の人口変化と年代別人口の割合の変化
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現代社会へのとびら❖2017年度3学期号 この値は,2010年では63.8%と微増したにすぎない。しかしながら,高齢者人口と年少人口の割合 は大きく変化している。年少人口は同じ期間に 35.4%から13.2%へとその値を大きく減少させた。 その一方で,高齢者人口の割合は,4.9%から23.0 %へと大きく上昇した。
人口動態統計からみる日本
人口動態統計は人口変化の自然要因,すなわち 出生率と死亡率についての関係を知るために重要 である。
図2は日本の出生数と合計特殊出生率の変化を 示したものである。この図は二つの側面から考え る必要がある。まず,出生数でみると,実は長期 間にわたって出生数は減少傾向にあることがわか る。出生数のピークを記録した1940年代後半の第 一次ベビーブームには年間270万人を数えたが, 2013年には約103万人と半数を割っている。また, 1970年代前半に第一次ベビーブーム世代の子供世 代に当たる第二次ベビーブームが訪れ,出生数は もち直した。しかし,その子供世代として期待さ れた1990年代後半から2000年代前半の第三次ベビ ーブームは到来しなかった。このことが日本の出 生数の低下に大きな影響を与えている。
もう一つの指標は一人の女性が子供を何人出産 するかの目安となる合計特殊出生率である。この 指標の変化をみると,1966年の丙午の例外的な低 い値を除外しても,1947年の4.32をピークとして 低下傾向にあり,2013年には1.43を記録している にすぎない。
つまり,この二つの指標を合わ せてみると,近年の議論では合計 特殊出生率のみが取りあげられや すいが,日本の少子化は戦後一貫 して進行している現象であり近年 はその速度が加速しているようす が読み取れる。この状況では,少 子化の解消は大変困難であるとい わざるをえない。
また,地域別の数値についても みてみよう。都道府県別の出生数と合計特殊出生 率を比較することで,次のことが明確になる。 2013年のデータによると,東京都と神奈川県とい う東京大都市圏を構成する都県が出生数の上位を 占めている。一方,この年の都道府県別の合計特 殊出生率を調べてみると,全国平均は1.43だが, 東京都は1.18と全国最低値であり,神奈川県は 1.34と低い値を示している。このことからも東京 大都市圏では人口の再生産率が低いことが裏づけ られている。
住民基本台帳人口移動報告からみる日本
人口移動が地域差に与える影響を確認すること は人口問題を考えるときの基本となる。図3は, 住民基本台帳人口移動報告による三大都市圏への 人口移動の変化を示したものである。この図を見 ると,大都市一極集中から東京一極集中への変化 を読み取ることが容易である。
1970年代初頭までの高度経済成長期には,三大 都市圏はそれぞれ地方からの大量の人口流入を経 験していた。1961年は,一年で三大都市圏の人口 は70万人以上の流入を記録した。しかしながら, 1970年中盤にオイルショックとともに高度経済成 長が終わりを告げたあとは,三大都市圏の足なみ はそろわなくなった。すなわち,三大都市圏の人 口流入量のほとんどは,東京大都市圏によるもの へと変化したのである。東京一極集中は政治経済 的な面でも言及されるものであるが,人口移動の パターンからも変化を容易に読み取れる。
万人 300 250 200 150 100 50 0
出
生
数
合
計
特
殊
出
生
率
6.0 5.0 4.0 3.0 2.0 1.0 0
〈厚生労働省 人口動態調査〉
1947 50 55 60 65 70 75 80 85 90 95 2000 05 10 14年 ※1972年以前は沖縄県を含まない
合計特殊出生率 出生数
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現代社会へのとびら❖2017年度3学期号増田レポートで追加された指標
増田レポートは人口問題について,単純だが説 得力のある人口指標で日本の地域変化を表現した。 それは,各地方自治体における人口再生産に大き な影響を与える20歳から39歳までの女性の人口に 着目した。この指標を用いることで,日本の地方 では,高齢者人口が占める割合が高く,また,女 性の占める割合が低く,さらに年少人口が占める 割合が低い状況が強調されることになった。この 傾向が多くみられる地方部では消滅する危機を示 されることとなった。
また,増田レポートで用いた指標は,地方だけ でなく,大都市の自治体であっても,消滅可能性 が存在することを示した。つまり,一見人口が増 加している自治体であっても地方消滅とは無関係 ではないことを示した。この事例としては,東京 都豊島区が消滅可能性の高い自治体として取りあ げられた点がある。豊島区はひとり暮らしの住居 が多く,若い家族向けの物件が少ないことなどか らそのような評価を受けた。
人口構成に着目したうえで,増田レポートは日 本の地域別人口構造を以下のとおりに記述する。 すなわち,日本の多くの地方では急激に高齢化が 進展しており,年少人口数も貧弱である。そして,
その地方の年少人口は大都 市圏,とくに東京大都市圏 に向かう傾向がある。若者 を吸収する東京大都市圏で は,多くの若者が移住する が,住宅スペースやコミュ ニティの点で子育てしやす い環境ではなく,人口再生 産率が低い。つまり,東京 大都市圏は日本の人口のブ ラックホール的な存在とし て取りあげられることとな る。
さらに2025年ごろからは 東京大都市圏の人口高齢化 が深刻な局面に突入するこ とを指摘している。すなわち,75歳以上の後期高 齢者の占める人口の割合が東京大都市圏でひじょ うに高い水準に達する一方,都市インフラが医療 サービスを維持することができず,東京も介護破 綻などの深刻な状況に突入するというものである。 このことをふまえて,地域社会をデザインする必 要があるというのが,増田レポートの主張である。
地方消滅論に関係する議論
地方消滅関連の議論で問題なのは,論点がかみ 合っていない点である。例えば,増田レポートの 発表後,山下(2014)は,地方の多様性とコミュ ニティの重要性を重視する立場から増田レポート の主張は地方切り捨ての論理であると主張した。 一方,増田レポートは地方の自治体経営の困難さ に関する報告の意味が強い。したがって,増田の 主張は必ずしも地方コミュニティを軽視したもの ではない。自治体が提供する行政サービスにコス トを考慮する必要があることは重要である(東北 地方や北陸地方のコンパクトシティの研究活動は 雪かきなどの行政サービスの効率化などの視点も 含んでいる)。
むしろ筆者は増田レポートの提案に対して疑問 をもっている。増田レポートでは状況を打開する 70
60
50
40
30
20
10
0
-10 (万人)
1980 1985 1970 1975
1960 1965
1955 1990 1995 2000 2005 2010 2015 (年)
転
入
超
過
数
(
-
は
転
出
超
過
数
)
総 数
東 京 圏……東京都,神奈川県,埼玉県,千葉県 名古屋圏……愛知県,岐阜県,三重県
大 阪 圏……大阪府,兵庫県,京都府,奈良県
図3 三大都市圏の転入・転出超過数の推移
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現代社会へのとびら❖2017年度3学期号 ために「選択と集中」を提案している。これは,地方にダム都市というべき中核となる都市をもつ ことで,東京への集中を緩和し,地方の人口流出 を防ぐ策だとしている。しかし,この提案は決し て新しいものではない。
日本では,戦後の復興期に国家レベルの経済成 長を優先して,大都市中心に経済政策がとられて いた(傾斜生産方式)。一方で,そのままでは地 域格差が拡大する可能性がある。この経済成長優 先の政策と地域間の均衡という二つの立場の問題 に取り組むために,1960年代から現在にいたるま で,五つの全国総合開発計画と二つの国土形成計 画(全国計画,広域地方計画)が閣議決定されて きた。そして,増田レポートはこれらの計画で提 案されている事がらから新しいものを提案できて いない。この問題が,全国総合開発計画から50年 以上を経過した今も解消していないこともあり, 増田レポートの提案が達成される可能性は高いと は考えにくい。
また,増田レポートの議論で注意する必要があ るのは,なぜ人々が東京などの大都市に集まる傾 向にあるのか,という点について十分な検証がな されているとは思われないことにある。つまり, 東京大都市圏は人口のブラックホール的存在とし ているが,東京が多くの人を引きつけるその魅力 を考察し,東京とは異なる地方の魅力とは何か, について掘り下げる必要がある。そのことは,地 方ならではの独自の魅力を活用することにつなが るのである。
地域の活性化に向けてわれわれが早急に取り組 むべきことは,自分たちの地域がどのような状況 にあるのかを詳しく知ることである。地域を活性 化させることは簡単ではなく,いわゆる成功の方 程式という便利な手本は存在しない。しかし,参 考にされる地域の活性化に対する取り組み方には, ある程度の共通性があるように思われる。それは, 自分たちができることは何かを見定め,決して非 現実的な目標を設定しない。そして,自分たちで 取り組むために,地域の人材を掘り起こす。さら に,「よそもの,わかもの,ばかもの」と表現さ
れる他者の視点を意識して行動する(決してよそ 向きの行動をとることではない)ことである。 現在は,インターネットの普及によって,多く の統計資料に容易にアクセス可能となっているた め,データから地域を読み解くことのハードルは 下がっている。そして,少々の手間はかかるが高 度な分析を可能にするツールを無料で入手できる ようになった。例えば,内閣府が公表している 「RESAS(地域経済分析システム)」や,総務省 統計局のe-Stat内で整備されている「統計GIS」 は機能も取り扱うデータも整備が進んでいる。こ れらを用いて自分たちの地域の状況を分析してみ よう。今までの地域に対する考えを裏づける場合 もあれば,見落としていた新事実を発見する場合 もあるだろう。これらの理解をもとに議論し,行 動していくことがこれからは求められる。
おわりに
以上,日本の人口構造について基礎的なデータ をみたうえで,日本社会の諸問題について取りあ げてきた。これらのデータは一般に公開されてお り,学生諸君で意見交換をするなど,社会問題に 対して学生の興味を向けさせるきっかけとなれば 幸いである。
〈参考文献・ウェブサイト〉
・増田寛也編著『地方消滅 東京一極集中が招く人口急減』 中公新書 2014年
・山下祐介著『地方消滅の罠—「増田レポート」と人口減 少社会の正体』ちくま新書 2014年
・総務省統計局『国勢調査』
・総務省統計局『住民基本台帳人口移動報告』 ・内閣府『少子化社会対策白書』
・厚生労働省『人口動態調査』
・RESAS( 地 域 経 済 分 析 シ ス テ ム ) <https://resas. go.jp/>