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スマートツーリズム実現のための地域データプラットフォーム

Regional Data Platform for Realizing Smart Tourism

笠原秀一

飯山将晃 美濃導彦

Hidekazu Kasahara Masaaki Iiyama Michihiko Minoh

京都大学学術情報メディアセンター

Academic Center for Computing and Media Studies, Kyoto University

Abstract: 近年の知的情報処理やIoT技術の急速な進展の結果,地域データを用いたスマートツー リズムサービス(STS)の開発が進んでいる.地域データとは,ユーザーである観光客が行動する地 域で測定され,短時間のうちに利用されるデータを指す.STSは,地域データを知的情報処理技術で 処理し,リアルタイムかつパーソナライズされた情報を提示するサービスである.多くの場合,地域 でSTSを提供する事業者は地域データを大量に収集する能力が欠けているので,地域データを効率 的に収集して地域としてSTSを戦略的に整備するためには,STSを地域での必要性に応じて優先付 けし,優先度順に必要なデータを収集し,実装を進めることが望ましい.優先付けされたSTSのリ ストを,本研究ではツーリズムサービスポートフォリオ(TSP)と呼ぶ.地域データを収集・分析・ 分配する地域データプラットフォーム(RDP)を実装し,TSPに沿ってSTSを実装していくことに より,スマートツーリズムが実現できる.TSPRDPを備えた観光地のことを,本研究ではスマー トディスティネーションと呼ぶ.

1 背景と目的

旅行者向けサービスは情報技術の進歩とともに変化 してきた.1950年代にメインフレームが誕生すると, 航空機のチケット予約システムがオンライン化された. 2000年代初頭には,Web技術の進歩に伴ってeツー リズムサービスが登場し,旅行ガイドや地図がWebサ イトで世界中どこからでも見られるようになり,Web ベースの宿泊予約サービスがユーザーに提供されるよ うになった.eツーリズムサービスは,主に旅行前の計 画・準備のために使われている.現在,センサ,スマー トフォン,ビッグデータ処理,知的情報処理,IoTと いった技術の進歩により,訪問スポット推薦や避難支 援,交通混雑回避といった,旅行中に利用できるリア ルタイムかつパーソナライズされた旅行者支援サービ スの研究が進んでいる.こうしたサービスは,スマー トツーリズムサービスと呼ばれている[1].図1は,情 報技術の進歩に伴う旅行者向けサービスの変化を示し ている.

スマートツーリズムを実現させるには,Gretzel[1] が指摘しているように,観光地全域からデータを集め, 分析することが重要である.Gretzelらのスマートツー リズムの定義は,スマートツーリズムのコンセプトを 示しているが,実現のための具体的な視点に欠けてい

連絡先:京都大学学術情報メディアセンター南館

京都市左京区吉田二本松町

E-mail: hidekazu.kasahara@mm.media.kyoto-u.ac.jp

1: 情報処理技術と旅行者向けサービスの関係

る.また,交通機関の混雑といった,観光客の行動が観 光地の住民に与える悪影響についても考慮していない. 言い換えれば,スマートツーリズムにおいては,旅行 者と住民双方にとって必要なサービスが何かを考慮す る必要がある.サービスの観点がなければ,どのよう な技術が必要で,どのようにデータを収集するかにつ いて議論できない.それゆえ,スマートツーリズムの 定義にはデータ,技術,サービスの関係を含める必要 がある.

本 研 究 で は ,Gretzelら の 定 義 に 代 え て ,ス マ ー ト ツーリズムを「旅行者と住民が共存しつつ旅行者の現 地での体験の質を向上させるため,観光地で収集され た地域データ(RD)と知的情報処理技術を用いて,観 光地が必要とするサービスのリストに基づいて実装さ

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2: 地域データの分類

れたリアルタイムかつパーソナライズされた旅行者向 けサービスによって支援された観光」と定義する.地 域データとは,旅行者が行動する地域で測定・収集さ れ,その地域ですぐに利用されるデータである.リア ルタイムかつパーソナライズされた旅行者向けサービ スをスマートツーリズムサービス(STS),地域で必要 とされているSTSのリストをツーリズムサービスポー トフォリオ(TSP)と呼ぶ.

地域データは,動的データ,静的データ,統計データ の3つに分類できる(図2).動的データは比較的短期 間で変化するデータ(例:GPS軌跡),静的データは 比較的長期間変化しないデータ(例:列車の時刻表), 統計データは統計的に処理した動的データ(例:観光 統計)と定義する.利用できる地理的範囲という観点 からは,グローバルに利用できるかという属性を付与 することもできる.これをグローバル属性と呼ぶ.多 くの場合,統計データはグローバル属性を持つ.

地域データの利用可能期間は短いので,地域外主体 が効率的にデータを収集・利用するのは難しく,その地 域を主な活動範囲とする地方自治体や企業団体といっ た地域内主体の方が収集コスト上有利である.しかし, 多くの場合,STSを提供する地域内主体は,十分な量 の必要な地域データを独力で収集するほど体力が無い ことが,地方自治体やベンチャー企業,ベンチャー支 援団体等に対する我々の調査によって判明している[3]. それゆえ,地域として必要なSTSを整備していくため には,地域データを収集・分析・分配する能力を持った 主体が不可欠となる.しかし,地域データには様々な種 類があるので,全ての地域データを網羅するのは規模 の大きな主体にとっても困難であり,収集するデータ はできるだけ絞り込んだ方が効率的である.収集する 地域データを絞り込むためには,地域に必要なSTSを 定め,そのSTSの開発に必要なデータを対象とするこ とが考えられる.優先順位付けされたSTSのリストを, 本研究ではツーリズムサービスポートフォリオ(TSP) と呼ぶ.優先順位は,旅行者と住民の満足度を向上さ せるかどうかを基準に,地域のステークホルダの合意 の元に決定されることが望ましい.

観光地でスマートツーリズムを実現するには,まず TSPを準備し,TSPに従ってSTSを提供するため,地

域データの収集分析分配を行うRDPを設計実装する 必要がある.本研究では,TSPRDPを整備してス マートツーリズムを実現した観光地をスマートディス ティネーションと呼ぶ.

2 関連研究

データ収集フレームワークとしては,オープンデー タが広く利用されている[2].オープンデータの大部分 は,図2でグローバル属性を持つデータに該当してい る.オープンデータの範囲は徐々に動的データに拡張 する傾向にあり,ロンドンに代表されるように,公共 交通機関のリアルタイム位置情報や災害情報がオープ ンデータとして提供されている都市もある.

Verhulstらは,オープンデータの拡張として,Data Collaboratives (GovLab)を提案している.これは,公 衆衛生水準の向上などの課題を解決するため,公共セ クタと民間セクタが健康管理情報などを共有する枠組 である.本研究で扱う地域データも,民間と公共の両 セクタが収集しており,両者のデータを利用する必要 があるため,公共セクタと民間セクタの協調という点 でGovLabと共通する部分がある.しかし,GovLab は主に人道支援などの分野を対象としており,ある分 野における情報サービスを地域として整備することを 直接の目的とはしていない.

民間セクタの保有する地域データには個人特定情報 や機密が含まれる場合も多く,データ保有者はこうし たデータを保有していること自体を明らかにせず,内 部にデータを囲い込む傾向がある.こうした地域デー タをSTS事業者が利用するためには,データに対する 需要を明らかにし,交換の対象である事を明示する事 で,データ保有者を取引の場に誘引する方法が考えら れる.データに対する需要を明示する手段として,本 研究ではTSPの利用を提案している.

3 スマートツーリズムサービスに求

められる地域データ

3.1 地域データ

地域データは地域における人や物体,イベント等の 状況を示しているので,その地域に居住あるいは滞在 している人々にとって利用価値がある.地域データは, その利用可能期間と統計処理の有無によって,動的デー タ,静的データ,統計データの3つに分けられる(図 2.動的データは,比較的短期間に状態が変化する物 体の状態を観測したリアルタイムの個別データで,利 用可能期間は多くの場合2-3時間以下である.静的デー

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3: 地域データとオープンデータ

タは,比較的長期間変化しない物体の状態を観測した 個別データで,観測対象は主に環境に存在する物体で ある(例:道路ネットワーク).統計データは,統計的 に処理した動的データ(例:観光統計)である.

地域データのどの部分がオープンデータに該当する かについて,図3で示す.地域データの分類のうち,統 計データと静的データの大部分はオープンデータとし て伝統的に公開されていたものに該当する.動的デー タのうち,公共交通機関の位置情報や接近情報のよう な,公的主体によって収集されたデータの一部は,近 年オープンデータとして公開されるようになっている. しかし,オープンデータはその定義から,公的資金に よって収集されたデータに限定されているので,民間 主体によって収集された動的データは含まれない.そ して,民間主体にとっては地域データを公開する積極 的な理由は無い.

3.2 データの所有権

データ所有権は地域データ収集に大きな影響を与え る要因である.まず,データ保有者の数が増えるほど, 地域データ収集のコストは上昇する(複数データ保有 者問題).また,地域データに個人特定情報や機密な どが含まれている場合,地域データを非公開に留めた いという動機が大きくなる(秘密データ問題).

複数データ保有者問題に対応した例としては,人の 移動軌跡から機械学習で移動手段を推定する手法を提 案しているStennethらの研究[5]がある.彼等は3

類の地域データ(人の移動軌跡,公共交通機関の移動 軌跡,道路ネットワークデータ)を用いておいる.人の 移動軌跡の利用には本人の使用許諾が必要なので,彼 等は全ての対象者から許諾を得ている.実験対象地域 としては,自治体が公共交通機関の移動軌跡や道路ネッ トワーク情報を公開している都市を選んでいる.しか し,対象者からの使用許諾取得の負担は大きく,社会 実装に必要な量のデータについて使用許諾を得るのは 難しい.また,公共交通機関の移動軌跡や位置情報を 公開している都市もまだ少ない.

秘密データを利用する場合には,データ保有者との 交渉が不可欠になるが,そもそも大部分の民間セクタ のデータ保有者は地域データを開示する動機がないの で,使用の許諾を得るのは難しく,許諾を得られたと しても厳しい制限が課される事も多い.

所有権という視点からは,静的データの多くは公的 主体が,動的データの多くは民間主体が保有している. 例えば,小売や鉄道事業者は多数の防犯カメラを運用 しており,通信事業者はGPSや基地局によって契約者 の位置を測位している.地方自治体は雨量計などで気 象情報を観測している.

3.3 パ ブ リック プ ラ イ ベ ー ト デ ー タ コ ラ ボ

レーション

データ所有権に起因するデータ収集問題を解決する ために,本研究は「パブリックデータコラボレーショ ン」というコンセプトを提案する.これは,ある地域に おいて民間主体と公的主体が地域データを協調して収 集するため,図4で示すようなデータ流通体制とTSP を地域を単位として整備するというコンセプトである.

データ流通体制は,オープンデータやSNS投稿のよ うな万人がアクセスできるデータを扱う,オープンアク セスな部分と,機密情報は個人特定情報を含んだデー タを扱う,限定されたメンバーのみがアクセスできる クローズドアクセスな部分に分けられる.後者の扱う データの多くは動的データでもある.秘密データ問題 があるので,秘密保持に同意したメンバーしかデータ にアクセスできないクローズドな体制が必要となる. 地域データを地域を単位として収集するメリットは 以下の通りである.まず,個々のデータ利用者にとっ て,地域データの収集コストが下がることがあげられ る.次に,近年の知的情報処理技術の進歩により,地域 データの重要性は上昇しており,地域データは観光産 業を含めた地域社会の競争力となる可能性がある.最 後に,地域データは地方自治体にとって新しい統治手 法となる可能性がある.例えば,交通混雑時において, 混雑情報と回避ルートを合わせて提示することで,交 通の一部をコントロールできる.

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4: プライベートパブリックデータコラボレーション

5: ツーリズムサービスポートフォリオ(TSP)

3.3.1 民間セクタデータをどうやって収集するか

公的主体と異なり,保有データを公開する動機を持 たない民間主体が,自らの資金で収集した地域データ を自発的に無償でRDPに提供するとは期待しづらい. 無償提供以外に民間主体から地域データを収集する手 法としては,本研究はデータ購入,データ間交換,処 理・データ交換の3つを想定している.詳細は5.2節 で述べる.

4 ツーリズムサービスポートフォリ

(TSP)

4.1 TSP の定義とメリット

TSPは地域で必要とされているSTSのリストであ り,リストアップされたSTSとそれに用いる地域デー タ,技術の関係に関する情報と,地域における優先度 を含んでいる.図5TSPの例を示す.含まれるSTS の優先度が,全てのステークホルダの合意に基づいて 決定されていれば.TSPは地域における地域が達成す

べき観光サービスの戦略を示していると言う事ができ る.TSPを整備する事で,ステークホルダは地域とし ての戦略目標を共有し,地域データ収集とサービス整 備に協力できる.混雑など観光客の増加による不利益 を被っているので,住民もステークホルダに含まれる.

また,現在オープンデータとして提供されている公 的セクタのデータも,TSPの優先度に従って公開すれ ば,利用されない,あるいはそのままではサービスに 利用できないといったオープンデータの欠点をある程 度緩和できると期待される.

4.2 設定者

TSPを誰が設定するのかも問題となる.現在,日本 では自治体や観光協会が,観光に関する情報サービスを 決定し,提供している場合が多い.しかし,情報技術に 親和性を持つ人材を地域の自治体や団体が確保するこ とは難しく,技術トレンドを把握できていないケースも 見られる.例えば,観光地での無料WiFiの整備は進ん でいるが,インターネットへの常時接続ができないこと を前提としたオフライン地図のようなサービスを提供 している国内観光地は少なく,前提条件との整合性が取 れていない.サービスとしても観光ガイド,交通ナビ, 災害情報など静的コンテンツ型観光情報サービスが殆ど を占めている.広域観光の担い手として期待されている 地域DMO(Destination Management Organization) も,情報の分析までを管轄としており,産業としてサー ビスを整備していくところまでは期待されていない.

本研究では,自治体や公的団体,データ保有者,サー ビス事業者,住民といった地域のステークホルダが協 議する場を新たに設け,その合意の元,TSPを設定す る事を提案する.情報技術を持つ人材が不足している 点については,地域の大学や研究機関といった専門知 識を有するステークホルダに協力して貰う事で補う事 ができると考えられる.

5 地域データプラットフォーム (RDP)

5.1 アーキテクチャ

RDPは地域の複数のデータ保有者から地域データを 収集し,知的情報処理を用いて主にセンサデータから なる地域データをセマンティック情報を含んだシンボ ルデータに変換し,シンボルデータをSTS事業者に流 通させるシステムである.RDPの運用者としては,自 治体や地域の公的主体が候補となる.

6にデータフロー,図7RDPの概念図と地域 におけるステークホルダを示す.

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6: 地域データとオープンデータのデータフロー

7: 地域データプラットフォーム概念図

5.1.1 データ処理

地域データは,機械学習を含めた知的情報処理技術 によって,STSに用いるシンボルデータに変換される. 地域データが個人を特定できる情報や機密情報を含ん でいる場合,こうした情報も除去する.

5.1.2 STS事業者

公平性を求められる公的主体は特定の観光スポット に焦点を当てることが難しく,サービスが総花的にな りがちであるので,民間企業や団体主体でSTSを提供 するのが,地域経済の観点からも望ましい.現在,地 図サービスやSNSは大手事業者により寡占されている が,地域でしか知られていない,あるいは地域外主体に とって収集コストが高すぎるコンテンツやセンサデー タを活用することで,地域主体がこうしたサービスに 参入する余地はあると考えられる.しかし,こうした コンテンツやセンサデータ利用の枠組はあまり整備さ れていない.地域の企業や自治体は写真や動画,GPS 移動軌跡を保有しているが,個人情報保護などの理由 があり,あまり公開されていない.例えば鉄道会社は 運行や乗客の安全確保のために監視カメラを設置して

おり,画像分析によって混雑具合などの情報が得られ るが,カメラ映像は一般に公開されていない.

5.1.3 STSの分類

本研究では,住民をスマートツーリズムにおけるス テークホルダと見なしているので,STSは旅行者向け と,住民や自治体,DMOや自治体といった地域社会 向けの二つに分類する.

旅行者向けSTSは主に旅行者の滞在中に利用される. 例えば,旅行者の興味とリアルタイム情報(混雑や天 候,突発的な事故など)に基づいてスポットを推薦する サービス[4]や,緊急災害警報と避難所情報を用いた避 難支援サービス[3]などがこれに該当する.一方,地域 社会向けサービスは,旅行者と住民を含めた地域社会 全体として利益を最大化するために用ちいられる.京 都のような有名観光地では,繁忙期には旅行者で溢れ, 公共交通機関が麻痺することが多くなっている.旅行 者を誘導して混雑を緩和させる混雑回避や,協調ナビ [6]などのサービスは地域にとって重要である.

5.2 ビジネスモデル

本節ではRDPを維持するためのビジネスモデルに ついて述べる.RDPのビジネスモデルはRDPシステ ムを対象としており,STS事業者のビジネスモデルで はない.RDPのビジネスモデルとしては,政府自治体 予算に依存する政府予算型モデルと,サービスとデー タを販売する企業型モデル,両者を組み合わせた混合 型モデルの3つが考えられる.オープンデータは政府 自治体の予算で作成される公的サービスであり,無料 サービスとして提供されることが期待されている.こ の意味で,オープンデータのビジネスモデルは政府予算 型モデルである.RDPが公的主体が提供する地域デー タのみを用いるのなら,RDPのビジネスモデルも政府 予算型モデルとなるべきである.しかし,RDPは公的 主体及び民間主体の保有するデータを用いることが前 提となっているので,RDPのビジネスモデルは企業型 あるいは混合型モデルとなる.

企業型モデルの収益としては,データ販売とデータ 処理の二つが考えられる.データ販売とは,企業ユー ザー向けに地域データを販売する収益形態である.デー タ処理とは,RDPのデータ処理能力を企業ユーザー向 けに提供する収益形態である.データ処理は,金銭を 対価とする場合と相手側企業が保有するデータとバー ターにする場合の二つが想定される.情報処理を本業 としていないが,防犯カメラや赤外線センサなどのセ ンサを運用している流通や鉄道といった業種の企業は, こうしたセンサデータを知的情報処理する能力を持っ

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ていないことも多い.特に中小企業ではこの傾向が顕著 である.こうした企業のデータ処理と引き替えに,デー タの利用権を得るのがバーターである.この他,RDP を利用するSTS事業者からの利用料徴収も考えられる.

6 まとめ

本研究では,IoTと機械学習などの知的情報処理技 術の進展により,観光客が求める観光向け情報サービ スが多様化する状況下において,スマートツーリズム サービスポートフォリオ(STP)の概念を導入すると ともに,観光地が地域として十分な観光情報サービス を提供するためのアーキテクチャである地域データプ ラットフォーム(RDP)を提案した.

自治体が観光ガイドサービスを作成し,その他のサー ビスは自由に任せるような従来の観光サービス提供の 枠組では,スマートサービスを含めた観光情報サービ スを地域として戦略的に整備していくのは難しい.そ こで,目標となるサービスポートフォリオを一般に提 示し,STS事業者にデータを提供するアーキテクチャ を提案した.なお,STS事業者への公的支援としては, 資金面よりもデータ共有の枠組整備がインセンティブ として有効と考える.データには,例に挙げた鉄道会 社のカメラのような民間データだけではなく,行政が 作成したデータも対象に含まれる.公開が難しい民間 データについてはデータ保有者とSTS事業者が参加す るある程度クローズドな情報利用の場を整備して利用 を促進し,自治体は出口であるサービスに見合った行 政データを公開すべきである.

個々のSTSのビジネスモデルはモバイルアプリケー ションで一般に利用されている広告モデルや課金モデ ルを想定しており,本研究では扱っていない. 従来通 り自治体が自ら提供するモデルもあり得る.地域経済 の循環という観点からはその観光地が所在する地域の 企業がサービスを提供するのが望ましいが,そもそも 情報産業に従事する企業が少ない地域も多いので,海 外も含めた他地域からの参入も否定すべきではない. 本 提 案 は オ ー プ ン デ ー タ に 類 似 す る 部 分 が あ る が , オープンデータは行政情報公開の文脈のもとで進めら れており,利用先をあまり想定していない.本提案は, 出口としてTSPを示し,優先度の高いSTSに必要な データを整備提供するという観点を持っている点で異 なっている.

謝辞

本研究は京都未来交通イノベーション研究機構の研 究助成を受けたものである.

参考文献

[1] U. Gretzel, M. Sigala, Z. Xiang, and C. Koo. Smart tourism: foundations and developments. Electronic Markets, 25(3):179–188, 2015.

[2] M. Janssen, Y. Charalabidis, and A. Zuiderwijk. Benefits, adoption barriers and myths of open data and open government. Information Systems Management, 29(4):258–268, 2012.

[3] H. Kasahara, K. Kurumatani, M. Mori, M. Mukunoki, and M. Minoh. Evacuation support and safety confirmation sharing in disaster situations for school trips by mobile information system. Information Technology & Tourism, 14(3):197–217, 2014.

[4] T. Nakamura, K. Kogo, J. Fujimura, K. Tsudaka, T. Wada, K. Ohtsuki, and H. Okada. Develop- ment of emergency rescue evacuation support sys- tem (eress) in panic-type disasters: disaster detec- tion by positioning area of terminals. In Parallel Processing (ICPP), 2013 42nd International Con- ference on, pages 931–936. IEEE, 2013.

[5] L. Stenneth, O. Wolfson, P. S. Yu, and B. Xu. Transportation mode detection using mobile phones and gis information. In Proceedings of the 19th ACM SIGSPATIAL International Con- ference on Advances in Geographic Information Systems, pages 54–63. ACM, 2011.

[6] 山下倫央,車谷浩一,中島秀之, et al. 交通流の円滑 化に向けた協調カーナビの提案. 情報処理学会論文 誌, 49(1):177–188, 2008.

図 2: 地域データの分類 れたリアルタイムかつパーソナライズされた旅行者向 けサービスによって支援された観光」と定義する.地 域データとは,旅行者が行動する地域で測定・収集さ れ,その地域ですぐに利用されるデータである.リア ルタイムかつパーソナライズされた旅行者向けサービ スをスマートツーリズムサービス( STS) ,地域で必要 とされている STS のリストをツーリズムサービスポー トフォリオ( TSP) と呼ぶ. 地域データは,動的データ ,静的データ ,統計データ の 3 つに分類できる(図 2
図 3: 地域データとオープンデータ タは,比較的長期間変化しない物体の状態を観測した 個別データで,観測対象は主に環境に存在する物体で ある(例:道路ネットワーク) .統計データは,統計的 に処理した動的データ(例:観光統計)である. 地域データのどの部分がオープンデータに該当する かについて,図 3 で示す.地域データの分類のうち,統 計データと静的データの大部分はオープンデータとし て伝統的に公開されていたものに該当する.動的デー タのうち,公共交通機関の位置情報や接近情報のよう な,公的主体によって
図 4: プライベートパブリックデータコラボレーション 図 5: ツーリズムサービスポートフォリオ (TSP) 3.3.1 民間セクタデータをどうやって収集するか 公的主体と異なり,保有データを公開する動機を持 たない民間主体が,自らの資金で収集した地域データ を自発的に無償で RDP に提供するとは期待しづらい. 無償提供以外に民間主体から地域データを収集する手 法としては,本研究はデータ購入,データ間交換,処 理・データ交換の 3 つを想定している.詳細は 5.2 節 で述べる
図 6: 地域データとオープンデータのデータフロー 図 7: 地域データプラットフォーム概念図 5.1.1 データ処理 地域データは,機械学習を含めた知的情報処理技術 によって, STS に用いるシンボルデータに変換される. 地域データが個人を特定できる情報や機密情報を含ん でいる場合,こうした情報も除去する. 5.1.2 STS 事業者 公平性を求められる公的主体は特定の観光スポット に焦点を当てることが難しく,サービスが総花的にな りがちであるので,民間企業や団体主体で STS を提供 するのが,地域経

参照

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