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ミクロ経済学講義資料

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ミクロ経済学講義ノート

平成25716 日改訂 渡辺隆裕(TMU2013ミクロ経済学1)

1 ミクロ経済学とは

1.1 ミクロ経済学の主題

ミクロ経済学(microenocomics)はマクロ経済学と並び,経済学の基礎となる理論である.ミ クロ経済学では,消費者(consumer)と企業(firm)の2つの主体を考える.(3つ目の主体として

政府(government)を考えることがある.ミクロ経済学1では考えない.

消費者は財の需要(demand)を決定し,企業(firm)は財の供給を決定する.市場において財の 価格がいかに決定されるかを考えることが,ミクロ経済学の中心の課題である.以前(30年くらい 前)はミクロ経済学は「価格理論」と呼ばれた.他には,消費者や企業を含んだ社会全体が,市場 のどのような仕組みによって豊かになるか(これを消費者や企業や社会の厚生(welfare)と呼ぶ) を考えたりする.

ミクロ経済学と対比すると,マクロ経済学は個々の企業や消費者の行動を考えずに,国全体で集 計された消費,生産,投資などの量を扱う理論である.個々の企業と消費者を扱うか,集計された 数値を扱うか,そもそものマクロとミクロの方法の違いであった.またミクロ経済学の対象が,主

に市場(market)であるのに対して,マクロ経済学の対象は国の経済であるとも言える.

現在では,マクロ経済学においても個々の企業や消費者の行動をもとにして,国全体の投資や消 費が表現できるようになっており(これを「マクロ経済学のミクロ基礎理論」や「マクロとミクロ の統合」などと呼ぶ),大学初級で習うマクロ経済学はミクロ経済学と異なるように見えるが,上 級レベルのマクロ経済学はミクロ経済学と方法論的に差異はない.したがって,マクロ経済学とミ クロ経済学の違いは,その取り扱う「対象」が市場か経済かであると考えて良いだろう.

1.2 市場構造と価格の決定

価格の決定と市場構造 ミクロ経済学では,財の価格は,消費者の需要と企業の供給によって決ま ると考える.需要と供給によって,財の価格がいかに決まるかは,企業の競争状態がどうなってい るかに依存する:(1)独占市場(企業の数が1つ)(2)寡占市場(企業の数が2つ以上で少数)(3)完 全競争市場(企業の数がたくさん)

完全競争市場 完全競争市場(competitive market)は,簡便で伝統的な理論で,この30年ばか りミクロ経済学で中心的に教えられてきた理論である.完全競争市場では,消費者や企業は多く存 在するので「自分で価格に影響を及ぼすことができない」と捉えられる.このような場合,消費者 や企業は価格受容者(price taker)であると呼ばれる.

(2)

現実の経済では,ほとんどの場合に企業は価格受容者ではない.企業は価格に影響をおよぼす価

格決定者(price maker)である.独占や寡占を中心にした不完全競争市場の理論では,企業を価格

決定者として考察する(不完全競争市場の理論では,消費者が価格受容者ではない場合を考察する 場合もあるが,多くの場合に消費者は価格受容者と考える).不完全競争市場における理論は1980 年代以降にゲーム理論と共に大きく発展した.

現在のミクロ経済学は,不完全競争市場を中心にしていると考えて良い(例えば大学院のテキス トとして,世界各国で用いられているMas-Colell, Whinston and Greenなどもそのような構成と なっている).しかしながら,現在の日本の多くの大学では完全競争市場を中心に講義を行なって いる.この講義もその例外ではない.その理由は,第1に不完全競争市場の理論は複雑だ.初めは 完全競争市場から勉強しないと,めげてしまうので,学部生は完全競争市場から勉強を始めたほう が良いこと,第2にゲーム理論を中心とした学部のミクロ経済学の良いテキストがないこと,第3 に,公務員試験や資格試験のミクロ経済学分野では,未だに完全競争市場に関する問題が多いため, 完全競争市場に関する理解が必要なこと,などである

(3)

2 完全競争市場における価格決定(部分均衡分析)

2回は完全競争市場における価格の決定について考える.完全競争市場では,消費者も企業も 価格受容者と考え,消費者は価格に応じて需要量を決定し,企業は価格に応じて生産量を決定する.

消費者と需要 価格が上昇すると消費者の需要は減少する.これを需要の法則(the law of the demand)と呼ぶ.価格と需要の関係は需要関数(demand function)で表される.

生産者と供給 一方,企業は価格が上昇すると供給量を増加させる.このような価格と供給量の関 係は,供給関数(supply function)で表される.需要の法則とは異なり,これは私達の感覚から考 えて当たり前とは言えないかもしれない.この理由は後に詳しく分析するが,価格が上昇すると供 給量が増える理由は,完全競争市場の分析では,企業は生産量が増加すると,1単位生産を増やす ための費用(限界費用)が増加する企業を考えるからである.企業は,限界費用と価格が一致する ように生産量を選び,その結果として,価格が増えると供給量を増やす.

図による表現 図で表す時は,価格を縦軸に取り,需要量や供給量を横軸で表す.(需要関数や供給 関数は,価格が決まると需要量・供給量が決まると考えられるので,普通の数学では価格を横軸に とるが,価格は需要量と供給量が一致する点で決定されるため価格と需要量・供給量のどちらが先 に決まると言えないので,このような表記になっていると考えられる).需要関数は,価格が上昇 すると需要量が減少することから,右下がりの曲線で表される.これを需要曲線(demand curve) と呼ぶ.(1次関数の時は直線だが,直線は曲線に含まれるので需要曲線と呼んでおくほうが良い) 例 2.1 先の例,需要関数がx = −1

2p + 50である場合を図で書いてみる.

STEP.1 縦軸と横軸が通常と逆になっているので,まず関数をpについて解いたほうが見やすい.

需要関数をpについて解くとp = −2x + 100となる(これを逆需要関数(inverse demand function)と呼ぶ)

STEP.2 傾きと切片に気をつけて図を書く.

図は図1となる.

一方,供給関数は価格が上昇すると供給量が増加することから,右上がりの曲線で表される.こ れを供給曲線(supply curve)と呼ぶ.供給関数もまた価格pについて解いた方が書きやすいかも しれない.これを逆供給関数(inverse supply curve)と呼ぶ.

市場の価格 市場の価格は需要と供給が一致する所で決まる.これを均衡価格(equilibrium price) と呼ぶ.このときの財の需要量(=供給量)と,均衡価格の組合せを均衡(equilibrium)と呼ぶ.2.2 需要関数を,需要をx,価格をpとしx = −1

2p + 50とする.供給関数を,供給をx,価 格 をpと し てx = 2pと す る .こ の と き 均 衡 価 格 は ,消 費 量 と 供 給 量 が 一 致 す る 点 で 決 ま る の で

12p + 50 = 2pよりp = 20となり,その時の需要量(=供給量)はx = 40である.p = 20,x = 40

(4)

100

50 ౯᱁ p

㟂せ㔞x 0

1: 需要関数 ౯᱁ p

㟂せ㔞x 0

100

20 50 40

2: 市場の価格と均衡価格

という価格と需要量の組合せが均衡.(p, x) = (20, 40)のようにカッコに並べて(ベクトルで)書く こともある.

図で表すと,需要関数がx = −1

2p + 50(逆需要関数p = −2x + 100を考えると良い),供給関数x = 2p(逆供給関数p = 1

2xを考えると良い).その需要関数と需要曲線の交点は,市場で決定 される価格と需要量(=均衡)となる(図3).

需要の変化と均衡価格 このように1つの財だけを考え他の状況は一定とし,需要と供給が一致す る点で決まる均衡価格を部分均衡(partial equilibrium)と呼び,これによって経済を分析する方 法を部分均衡分析(partial equilibrium analysis)と呼ぶ.需要や供給の変化により,どのよう に価格が変化するかを分析することが,部分均衡分析の目的である.

需要は以下のような要因で変化する (1) 自財の価格

(5)

౯᱁ p

㟂せ㔞x 0

100

20 50 40

3: 均衡と均衡価格

(2) 他財の価格

(3) 消費者の嗜好(選好,効用)の変化 (4) 消費者の所得の変化

(5) 人口の増減

自財の価格の変化に対する変化は,既に見たように需要曲線に沿って表される.これに対して(2) から(5)までの変化は需要曲線の移動(シフト)によって表され,それにより均衡価格は変化する. 需要曲線の移動によって価格の変化を分析することが,重要なポイントである(4)

౯᱁ p

㟂せ㔞x 0

p1

x1 p2

x2

4: 需要曲線の移動と均衡価格の変化

2.3 先の例を考える.ある財の需要関数がx = −1

2p + 50,供給関数がx = 2pであるとき,その

財のCMがヒットして,財が多くの人に以前より好まれたとする.これは(3)の消費者の嗜好の変 化と考えられる.需要の変化は需要関数の右方向への移動で表される.均衡価格は上昇する.

(6)

具体的な数量を当てはめて,計算をすることができる.需要関数がx = −1

2p + 50では,価格が

10のとき需要量は40であった.(例えば10円で40万個需要がある)CMによって同じ価格で10 単位多く売れたならば,需要関数はx = −1

2p + 50 + 10に変化する(すなわちx = −12p + 60.均 衡価格はp = 20からp = 24に変化する(5).

౯᱁ p

㟂せ㔞x 0

100

20 24

5:2.3

演習 2.1 次の需要の変化は,(2)から(5)までのどの変化にあたるか.またそれにより需要曲線は 右にシフトするか,左にシフトするか答えよ.

a.  吉野家の牛丼が値上がりした時の,松屋の牛丼の需要変化 b.  松屋の牛丼が値上がりした時の,松屋の野菜サラダの需要の変化 c.  アジアブームの到来による,フォー(ベトナムの麺料理)の需要の変化 d.  景気がよくなったときの,発泡酒とビールの需要の変化

供給の変化と均衡価格 同様にして財の供給は,以下のような要因で変化する, (1) 自財の価格

(2) 生産費用の変化.これはさらに細かく以下のような変化に分けられるだろう.

(2.1) 生産要素価格(原材料費・賃金・資本価格)の変化

(2.2) 生産技術の変化(安く生産する技術開発に成功したなど)

(2.3) 税や補助金の変化

やはり自財の価格に対する変化は供給曲線に沿って表され,(2)の変化は供給曲線の移動(シフト) によって表される.

(7)

2.4 ある財の需要関数がx = −2p + 50,供給関数がx = 12pであるとき,財1単位あたり,価格 10単位の物品税がかかったとしよう.価格pにおける企業の収入は10減少することを考えると供 給関数はx = 1

2(p − 10)に変化することになる.供給関数は左に移動し,均衡価格はp = 20から上 昇する.

均衡価格の変化と価格弾力性 供給の変化による価格の上昇は財によって異なる.例えば,同じ消 費税をかけても,大きく値上がりする財と,あまり値上がりしない財がある.これはなぜだろうか.

ここで需要関数がx = −ap + b (a > 0, b > 0)であるとする.逆需要関数はp = −1

ax + a

b となる.

ここで(消費税などにより)供給曲線が右に移動した場合の均衡価格の変化を観察してみる.図よ り分かることは

逆需要曲線の傾き1aの値が小さければ(需要曲線が寝ていれば),均衡価格の上昇は小さい. すなわち需要曲線の傾きの絶対値であるaの値が大きければ,均衡価格の上昇は小さい.

1aの値が大きければ(需要関数が立っていれば)価格の上昇は大きい.すなわち需要曲線の傾 きの絶対値であるaの値が小さければ,均衡価格の上昇は大きい.

ということである.aの値は,価格の変化に対する需要の変化の割合を示していると考えられる(後 に,生活必需品などはaの値が小さく,ぜいたく品などはaの値が大きいと議論される).

一般には需要関数はx = −ap + bのような単純な一次式ではないし,需要関数自身を推定するこ とも容易ではない.現在の価格を大きく離れて,需要関数がどのような形をしているかを推定する ことは難しいといえる.しかし,現在の価格付近で,価格が変化した時に,どのくらいの割合で需 要が変化するかということは推定しやすく,経営や経済政策を考える上で重要である.価格が1% 変化した時に,需要が何%変化するかを表した値を需要の価格弾力性(price elasticity)という. 例えば価格が2%上昇した時,需要が1%減少したならば,需要の価格弾力性は0.5である.価格p で需要がxのとき,価格の変化が∆p,需要の変化が∆xならば,需要の価格弾力性edは,以下の 式で表される.

ed= −

∆x x

∆p p

= −∆x∆pxp

ここで式にマイナスがついているのは,∆p > 0のとき需要が∆x > 0となる(価格が上昇すると 需要は減少する,需要の法則)ので∆p∆xの符号が逆になり,マイナスをつけないとedが負の 数となるためである.価格弾力性は指標なので正の数にしたほうが良いため,こうしている.(本に よっては価格弾力性の定義にマイナスを付けないものもある.このため公務員試験等で正負を明確 にする場合に「価格弾力性は正とする」とか「絶対値で」と書いてあったりする).

価格弾力性の微分による表現 需要関数と価格弾力性の関係について考えてみる.ここで需要関数 はx = 1

p としてみよう.逆需要関数はp = 1

xp = 1のときx = 1である.p = 1x = 1における

価格弾力性はどうなるだろう.

• p = 3の と きx = 13 で あ る .つ ま り 価 格 が2上 昇 す る と(∆p = 2),需 要 は 2

3 減 少 す る

(∆x = −23).これで需要の価格弾力性を考えると ed= −

∆x

∆p p x = −

−2/3 2

1 1 =

1 3

(8)

ed= 1

3 となる.

• p = 2の と きx = 12 と な る .つ ま り 価 格 が1上 昇 す る と(∆p = 1),需 要 は 1

2 減 少 す る

(∆x = −12).これで需要の価格弾力性を考えると

ed= −∆x

∆p p x = −

−1/2 1

1 1 =

1 2 でed= 1

2 となる.

ഴ䛝 = -

ഴ䛝 = -

6: ∆x

∆p∆pの大きさにより異なる

これから分かるように,価格弾力性は価格の増分(∆pの大きさ)により異なる値になってしま う.∆pの大きさにより,∆x

∆p が異なる値を取ることがその原因である.ある価格での価格弾力性は

∆pが小さければ誤差が少なくなる.∆pを限りなく0に近づけたときの∆x

∆pの値は,微分係数 dx dp

なるので,理論的には需要関数x(p)から価格弾力性を求める時は微分を用いる.需要の価格弾力性 を微分により定義すると以下の式になる.

ed= −dx dp p x

価格弾力性と均衡価格の変化 先に提起した「消費税などによる均衡価格の変化」と価格弾力性の関 係について,考えてみよう.需要曲線の傾きは

dx

dpである(需要関数がx = −ap+bのときはdxdp = a

ここで需要曲線の傾きの絶対値の値が大きいほど,均衡価格の上昇は小さかったので,これは

dx dp

大きいほど,価格上昇は小さい.端的に言えば,価格弾力性が大きいほど価格上昇は小さいと言える これは価格弾力性が大きい財(例えばぜいたく品など)は,価格を上昇させると,需要が大きく 減ってしまうので,税の上昇分を大きく価格に転嫁すると需要が大きく減り,それにより利益の減 少も激しくなるので,需要の減少を抑えるために,あまり価格は上昇できない,ということを表し ている.一方,価格弾力性が小さい生活必需品などの財は,価格を上昇させても需要はそれほど減 少しない.この場合は,価格は上昇する.一般的に消費税の影響が生活必需品などに大きく出ると いわれるのは,このような理由による.

(9)

演習 2.2 1. ある財の価格が5%上昇すると,需要が2%減少した.価格弾力性はいくらとなるか. 2. MMハンバーガーは120円で1200個売れていた.100円に値下げしたところ,1240個売

れるようになった.このデータを使って,ハンバーガーが120円の時の価格弾力性を求めよ. また100円における価格弾力性を考えると,どうなるか.

演習 2.3 需要量をxpを価格とし,需要曲線がx = 100 − 40pである場合において,p = 2とした とき,価格の需要弾力性(絶対値)を求めよ.このとき価格が2%上昇すると,需要量の変化は何

%になるか(国家II種平成19年度問題)

演習 2.4 xを需要量,pを価格とし,需要曲線がx = 3a − bpa, bは正の定数)で与えられたとき, 需要の価格弾力性が0.4となるxの値はいくらか.(国家I種平成16年度問題)

供給の弾力性 需要の弾力性と同様に,完全競争市場では供給の弾力性も考えることができる.供 給関数は∆p > 0のとき,供給量の変化が∆x >となるのでマイナスを付けない.供給関数がx(p) で与えられるとき,供給の価格弾力性は以下のように定義される.

es= dx dp p x

現代のミクロ経済学では,完全競争市場の企業行動の比重は低くなっているため,完全競争市場 での供給の弾力性はあまり重視されない.

(10)

3 消費者行動の理論

3.1 効用と効用関数

財を消費することで,消費者にもたらされる満足度(うれしさの度合)を効用と呼ぶ.また財を xだけ消費した時の,消費者の効用を関数u(x)で表すときu(x)を効用関数と呼ぶ.ミクロ経済学 では,消費者は効用を最大にするよう消費量(=需要)を決定すると考える.

限界効用と限界効用の逓減 消費量を1単位増加させた時の効用の増分を限界効用(marginal util- ity)と呼び,M Uで表す.限界効用は,需要の決定において重要な概念である.財の増加分を∆x, 効用の増分を∆uと表現すると限界効用はM U = ∆u

∆xで表される.

いま,ある財をx単位消費したときの効用がu(x) = −x2+ 12xで与えられているとする.ただし 財を6単位以上消費しても効用は増えず,ずっと72であるとする.式で表すと

u(x) =

{ −x2+ 12x 0 ≤ x ≤ 6 72 x > 72

であるとする.

7: 効用関数と限界効用

グラフに書くと図7のようになる.財の消費量がx = 2のとき限界効用がいくらになるか考えて みよう.x = 2のとき,効用はu(2) = 20である.財をそこから1単位追加して消費する(x = 3 となる)と効用はu(3) = 27となるから,∆x = 1のとき∆u = 27 − 20 = 7である.したがって 消費を1単位増加させて限界効用を計算するとM U = ∆u

∆x = 7となる.しかし価格弾力性の時と 同じように,この定義では限界効用が財をいくら増加させるかに依存して値が変わってしまう.例 えば財を2単位追加して消費する(x = 4となる)と効用はu(4) = 32となるから,∆x = 2のと き∆u = 32 − 20 = 12M U = ∆u∆x = 6である.また∆x = 0.1では∆u = 0.79で限界効用は M U = ∆u∆x = 7.9である.限界効用は∆xが小さくなるほど大きくなる.ここで限界効用の値を正 確に表すには(価格弾力性の時と同じように)∆xをできる限り小さくするほど誤差が少なくなる. 理論的には∆xを限りなく0に近づけた時の ∆u

∆xの値を限界効用と考える.これは効用関数ux

(11)

における微分係数(du/dxまたはu(x))である.今回の例の場合u(x) = du/dx = −2x + 12であ るから,u(2) = 8となり,x = 2における限界効用はM U = 8となる.

限界効用を微分により定義すると以下の式になる. M U (x) = u(x) = du

dx

限界効用の逓減 経済学における重要な仮定は限界効用逓減である.財の消費量が大きくなるほど, 限界効用は減少すると考える.先の例の場合M U (x) = u(x) = du/dx = −2x + 12となり,限界効 用がxについて減少していることが分かる.

3.2 1財と貨幣による需要決定

財が1種類で,効用1単位が1円と同じ満足を与える状況を考えよう.端的に言えば,効用の値が お金で測れているとする.財の価格がp円のとき,消費者は財をどのように消費するだろうか.こ こで限界効用M U (x)が「財を1単位消費した時の効用の増分」であることに注意しよう.財を1単 位追加するためのお金はp円なので,財をxだけ購入するとしたときに,

• p < MUであれば,財を買うことで失うお金より得る満足のほうが高いので,もっと財を購

入した方が満足を高くでき,

• p > MUであれば,財を買うことで失うお金のほうが,得る満足より大きいので財を購入し

ないほうが(むしろ購入を減らしたほうが)満足を高くできる.

したがって,満足をもっとも高くできるのはp = M Uの時,すなわち,価格と限界効用が等しくな るように財を購入した消費したである.

1財と貨幣だけを考え,消費者の効用が貨幣と同じ単位で測れる場合に消費者が効用を最大にす るには,価格と限界効用が等しくなるように財を消費した場合である.

3.1 いま,ある財をx単位消費したときの効用がu(x) = −x2+ 12xで与えられているとしよう. ただし財を10単位以上消費しても効用は増えず,ずっと36であるとする.効用1単位は貨幣1単 位と同じ満足度を与えるとしよう.このときM U = u(x) = −2x + 12であったことに注意すれば,

財の価格が2のとき,消費者の効用を最大にする消費は2 = −2x + 12であるから,消費者の 需要はx = 5となる.

財の価格がpのとき,消費者の効用を最大にする消費はp = −2x + 12であるから,消費者の 需要はx = −1

2p + 6となる.

上記の例において,価格がpのときの消費者の需要はx = −1

2p + 6となった.これが消費者の需 要関数である.すなわち需要関数は,消費者の限界効用から導くことができる.需要関数が右下が りになる(価格が上昇すると需要が減少する)のは,限界効用が逓減することに対応していること が分かる.

(12)

演習 3.1 財が1つで効用が貨幣と同じ単位で測れるとする.効用関数がu(x) =

√ax(a > 0)で与 えられる時,価格をp,消費量をxとして,消費者の需要関数を導け.

演習 3.2 財が1つで効用が貨幣と同じ単位で測れるとする.効用関数がu(x) = −ax2+ bx + cで 与えられたとき(ただしa, b, c > 0とし,x > ab では効用は増加しないものとする),価格をp,消 費量をxとして,消費者の需要関数を導け.

演習 3.3 ある個人の効用関数がu = x(12 − L)で与えられているとする.ここでuは効用水準,xX財の消費量,Lは労働供給量を表す.X財の価格は10で,労働1単位あたりの賃金率は20と する.この個人が効用を最大化するときの労働供給量はいくらか.

なおこの個人は労働によって得た所得の全てをX財の消費に使うものとする.(国家II種,平成 19年度)

(13)

3.3 2財モデル

ここまでは1財と貨幣が存在するモデルについて考えてきたが,消費者行動を分析する上では,2 つ以上の財が存在する時に,消費者が予算制約(所得制約とも言う)のもとで,どのように財の購 入量を決定するかを考えることが重要となる.ここからは2財の消費者行動ついて考える. 効用関数と無差別曲線 財1と財2の消費量をxyとしたときの効用をu(x, y)で表すことにす る.2財が存在するときの消費者の効用関数は,人の好みによりさまざま形状が考えられが,問題 を出して計算できるような関数が少ない.ミクロ経済学のテキスト,講義や試験では,以下の2つ がよく使われる.

コブ・ダクラス型効用関数  u(x, y) = xα+ y1−α 0 < α < 1 レオンチェフ型 u(x, y) = min{αx, βy}

2財の効用関数の形状を図で表すには無差別曲線(indifference curve)を使う.「無差別」はも ともとは経済学でしか使われない変な用語である.「2つの消費の組合せが同じ効用を与える」時に, その2つの消費の組合せは「無差別」であると言う.無差別曲線は,同じ効用を与える消費の組合 せを曲線で結んだもので,地図における等高線(同じ高さを線で結んだ)や天気図における等圧線

(同じ気圧の場所を線で結んだ)と同じようなものと考えて良い. 例 3.2 α = 1

2 のコブダグラス型効用関数u(x, y) = x12y12 = √xyを考えてみよう.財1の消費量x を横軸に,財2の消費量yを縦軸にして,効用の大きさを書き込むと図8のようになる.

1. 1. 1.41 1.41 1.73 1.73 2. 2. 2.24 2.24

1.41 1.41 2. 2. 2.45 2.45 2.83 2.83 3.16 3.16

1.73 1.73 2.45 2.45 3. 3. 3.46 3.46 3.87 3.87

2. 2. 2.83 2.83 3.46 3.46 4. 4. 4.47 4.47

2.24 2.24 3.16 3.16 3.87 3.87 4.47 4.47 5. 5.

0 1 2 3 4 5

0 1 2 3 4 5

8: 効用関数u(x, y) = x12y12 の値

8に効用が,それぞれ123になるような線を書き入れると,図9となる.これが無差別曲 線である.

なお図10は,実際に効用の高さを3次元の局面に表した図である.

(14)

1. 1. 1.41 1.41 1.73 1.73 2. 2. 2.24 2.24

1.41 1.41 2. 2. 2.45 2.45 2.83 2.83 3.16 3.16

1.73 1.73 2.45 2.45 3. 3. 3.46 3.46 3.87 3.87

2. 2. 2.83 2.83 3.46 3.46 4. 4. 4.47 4.47

2.24 2.24 3.16 3.16 3.87 3.87 4.47 4.47 5. 5.

0 1 2 3 4 5

0 1 2 3 4 5

9: 効用関数u(x, y) = x12y12 の無差別曲線

0

2

4 0

2 4 0

2 4

10: 効用関数u(x, y) = x12y12 の高さを立体的に表す

予算制約上での効用最大化 財1と財2の価格をpx,pyとし,消費者の所得がMであるとき,消費 者が所得の範囲内で(予算制約のもとで),効用を最大にするためはいくら財の消費をすれば良い か,という問題について考えてみよう.この問題は,消費者の効用関数から需要関数を導く理論で, おそらく前半のミクロ経済学(消費者行動理論)の中ではもっとも重要な問題である.

1と財2の消費量をx,yとする.消費者の予算制約は以下のような式で表される. pxx + pyy ≤ M

この式は予算制約条件と呼ばれ,この式を満たすxyの組合せは図11で表される.

この領域を消費者の消費可能集合と呼ぶ.この制約条件において効用関数u(x, y)を最大にする にはどうすればよいだろうか.そこで図11の中に無差別曲線を書き入れてみる.3本の無差別曲線

1,2,3の中で1に注目してみよう.このように無差別曲線が予算制約と(2点で)交わる時,曲線の

「内側」の消費は,その曲線上の消費よりも高い効用を与える.無差別曲線1よりは2の方が,2よ りは3のほうが効用が高くなる.予算制約の中で効用が最も高くなるのは,無差別曲線が予算制約

(15)

x y

0

11: 消費可能集合

式と接する点Aであることが分かる.すなわち消費者が効用を最大化する時,予算制約式は無差別 曲線の接線となるのである.

x y

0

↓ᕪู᭤⥺䠍

↓ᕪู᭤⥺2

↓ᕪู᭤⥺3 A

12: 効用最大化

効用を最大にする消費量を求める 効用を最大にする消費量を計算で求めてみよう.予算制約式は pxx + pyy ≤ Mと不等式で表されるが,効用を最大化する点は,消費可能集合の予算制約式の内部

pxx + pyy < M)ではなく,予算制約式上の点(pxx + pyy = M)となることが分かる.効用を 最大にするには,予算を全部使わなければならない(さもなければ,余っている予算で消費量を増 やし,もっと効用を高くすることができる).そこで問題は,pxx + pyy = Mという条件のもとで

(16)

u(x, y)を最大にするという問題であり,式で

pxx+pmaxyy=Mu(x, y)

となるx,yを求めると書く.

この問題は制約条件付き最大化問題と呼ばれ,高校では習わないが,経済学を学ぶには避けるこ とはできない数学である(皆さんは基礎数学で勉強するはず).関数f (x, y)g(x, y)が偏微分可能 であれば,制約条件g(x, y) = cのもとで関数f (x, y)を最大にするx,yを求めるには,以下のラグ ランジュ未定乗数法(Lagrange multiplier)と呼ぶ方法を使う.

STEP.1 変数λを用いて,以下のラグランジュ関数L(x, y, λ)を作る. L(x, y, λ) = f (x, y) + λ(c − g(x, y))

STEP.2 Lを各変数x,y,λで偏微分をし,それが0になる条件を求め,それを連立方程式で解く.

つまり

∂L

∂x = 0,

∂L

∂y = 0,

∂L

∂λ = 0を解く

なお

∂L

∂λ = 0は制約条件g(x, y) = cと同じになるので,STEP.2∂L∂x = 0,∂L∂y = 0g(x, y) = c 連立方程式で解く,と言い換えても良い.

今回の問題に置き換えると,ラグランジュ関数L(x, y, λ)は,

L(x, y, λ) = u(x, y) + λ{M − (pxx − pyy)} = u(x, y) − λ(pxx + pyy − M) となる.この関数を作り

∂L

∂x = 0,

∂L

∂y = 0と,pxx + pyy = M

∂L

∂λ = 0と同じ)とを連立方程式で解 けば良い.

3.3 消費者の効用関数がu(x, y) = √xyで,財1の価格が3,2の価格が5,消費者の所得が60 であるときに,効用を最大にする消費量を求めてみよう.

予算制約は3x + 5y ≤ 60であるから,ラグランジュ関数は

L(x, y, λ) = u(x, y) − λ(pxx + pyy − M) =xy − λ(3x + 5y − 60) となる.ここで

√xxで微分すると 21x であることに注意すると,

∂L

∂x =

√y 2x − 3λ

∂L

∂y =

x 2√y − 5λ

であるから,

∂L

∂x = 0,

∂L

∂y = 0より

y

2x = 3λ (1)

√x

2√y = 5λ (2)

となる.(1)の両辺を(2)の両辺で割ることより,

y

x = 35を得る.これよりy = 35xである.これを

3x + 5y = 60に代入して,

3x + 5 ×35x = 60 となり,6x = 60からx = 10となる.y = 3

5xにこれを代入しy = 6である.

(17)

3.4 消費者の効用関数がu(x, y) = xαyβで,財1と財2の価格がp1,p2,消費者の所得がMであ るときに,効用を最大にする消費量を求めてみる.

予算制約はpxx + pyy ≤ M であるから,ラグランジュ関数は

L(x, y, λ) = u(x, y) − λ(pxx + pyy − M) = xα+ yβ− λ(pxx + pyy − M)

となる.ここで

∂L

∂x = αxα−1y β− λp

x ∂L∂y = (1 − α)xαyβ−1− λpy

であるから,

∂L

∂x = 0,

∂L

∂y = 0より

αxα−1yβ = λpx (3)

(1 − α)xαyβ−1= λpy (4)

となる.(3)の両辺を(4)の両辺で割ることより,

αxα−1yβ (1−α)xαyβ−1 =

px

py となり,これより

αy βx =

px

py とな

る.したがってy =

βpx

αpyx

となり,これを制約条件pxx + pyy = M に代入して, pxx + βpx

α x = M となり,x =

α

(α+β)pxMとなる.

またy =

βpx

αpyxにこれを代入しy =

β

(α+β)pyMである.

この例はかなり一般的な例なので,よく学ぶことで多くの問題を解くことができる.例えば,例は α = β = 12,px = 3,py = 5, M = 60の場合に相当するので,これを代入するとx = 10,y = 6を得る. また効用関数がコブ・ダクラス型u(x, y) = xαy1−αのときは,β = 1−αとすればx = pα

yM y =

1−αpy M

となる.

このようにして予算制約のもとで効用を最大にする消費量の組合せを求めることができる. 演習 3.41,2の効用関数がu = x

1

14x 3

24,所得が80,財12財の価格がそれぞれ23であると

き,効用を最大にする消費量はそれぞれいくらか. 演習 3.5 ある家計の効用関数がu = x

1

13x 2

23 で表されるとする.所得が120X1財の価格が1X2 財の価格が4であるとき,効用最大化をもたらす最適消費量はそれぞれいくらか.(平成16年度国税 専門官)

効用最大化と需要関数 効用を最大化する消費量を求めることで,消費者の需要関数を求めること ができたことに注意しておく.例えば,消費者の効用関数がu(x, y) = xαyβの場合を考える.例3.4 で,求めたように,財1と財2の価格がp1,p2,消費者の所得がMであるとき,効用を最大にする財1 の消費量はx =

α

(α+β)pxMとなった.これは,財1の需要関数である.例えば,α = 1

3,β = 23,M = 3

ならばx = 1

p1 という需要関数が得られる.所得がM = 2に増加すると,需要が増加し,右にシフ トすることが分かる.

(18)

3.4 限界代替率,限界効用と最適消費の関係

限界代替率  2財での消費者の行動を決定する重要な概念が限界代替率(marginal substitute) である.財1に対する限界代替率とは,財1をわずかに変化させたとき,同じ効用を得るために財 2を何倍減少させれば良いかを表したものだ.財1と財2の消費量をxyとし,財1と財2の消 費量をu(x, y) = u(∆x, y + ∆y)となるように∆x∆yだけ変化させたとき,財1の財2に対する 限界代替率は

∆y

∆x であり,M RS12と表す(図13).ここでマイナスがついているのは∆x > 0と すると,同じ効用を得るためには∆y < 0(となり

∆y

∆x < 0となる)ため,限界代替率を正として 表すための符号である(価格弾力性と同じ).

x y

↓ᕪู᭤⥺ A

䛣䛾┤⥺䛾ഴ䛝䠄䛾⤯ ᑐ್䠅䛜㝈⏺௦᭰⋡

㈈1䛾ᾘ㈝㔞

㈈2䛾ᾘ㈝㔞

A䛸B䛾ຠ⏝್䛿ྠ䛨

B

13: 限界代替率

ここで価格弾力性や限界効用と同様に,限界代替率は∆xの値によってその大きさが異なるため, 正確にその点の限界代替率を考えるときには∆x ⇒ 0とする.このときの限界代替率はx,yにおけ る無差別曲線の接線の傾きにマイナスをつけた値であり,M RS12= −

dy

dxとなる(図14

x

y AⅬ䛾᥋⥺䛾ഴ䛝䠄䛾⤯ᑐ್䠅

䛜AⅬ䛾㝈⏺௦᭰⋡

㈈1

㈈2

↓ᕪู᭤⥺ A

14: 限界代替率は無差別曲線の接線の傾き

限界代替率を微分で表現すると限界効用との関係も分かる.限界効用は,効用関数を微分したも のに等しいのであった.ここでは財が2つあるので,財1と財2の限界効用をM U1M U2とする と,偏微分を用いてM U1 = ∂u

∂xM U2 =

∂u

∂y と表せる.

(19)

ここで効用を同じに保ったまま,財1と財2∆x,∆yだけ変化させたととする.このとき財1が 変化したことによる効用の変化は限界効用を使ってM U1∆xと表せる.同様に財2による効用の変 化はM U2∆yと表せる.効用の変化がないならば

M U1∆x = −MU2∆y

が成り立ち,

∆y

∆x = − M U1 M U2

(5) となる,したがって

M RS12= −∆y

∆x = M U1

M U2 (6)

となる.財1と財2の限界効用の比は,財1の財2に対する限界代替率に等しい.端的に言えば「限 界代替率は限界効用の比に等しい」ということが導かれる.

3.5 消費者の効用関数がu(x, y) = √xyの時に,x = 16,y = 4における限界効用と限界代替率を 求めてみよう.

1の限界効用は

∂u

∂xで与えられる.ここで

√xxで微分すると21xであることを使うと∂u∂x = 2√yx であるから,x = 16,y = 4における財1の限界効用M U1

M U1=

√4 216 =

1 2

である.同様に

∂u

∂y =

x

2√y であるから,x = 16,y = 4における財2の限界効用M U2 M U2=

√16 24 = 1 である.

限界効用の比が限界代替率に等しいことから,財1の財2に対する限界代替率M RS12は, M RS12= M U1

M U2 = 1 2 である.

効用最大化と限界代替率 消費者が効用を最大化するとき,その消費量での無差別曲線の接線は予 算制約式と一致する.無差別曲線の接線の傾きは(その消費量での)限界代替率に等しいので,消 費者が効用を最大化する時は,予算制約式の傾き(にマイナスをつけたもの)は限界代替率に等しく なる.予算制約式はy = −

px

pyx +

M

py で,傾きは

py

px であるので,効用を最大化する消費量では M RS12= px

py

となる.予算制約式の比が財の価格の比に等しいことに注意すると,財1の財2に対する限界代替 率は,財1の財2に対する価格の比に等しくなることが分かる.

(20)

さらに限界効用の比は(どんな消費でも)限界代替率に等しくなることをみたので,これを使う と効用を最大化する消費量では,限界効用の比と価格の比が等しくなることが分かる.すなわち式 6より,

ことから,財1の財2に対する限界代替率M RS12は, M U1

M U2 = M RS12= px

py

となる.

これを変形すると

M U1 px =

M U2

py (7)

となる.これは財12の価格に対する限界効用の比が等しいことを示している.すなわち効用を 最大にする消費では,価格1単位あたりの限界効用が等しくなるのである.

効用を最大にする消費では「価格1単位あたりの限界効用が等しくなる」「限界代替率と価格の比 が等しくなる」ということを用いれば,ラグランジュ乗数法を用いずに効用を最大にする消費量を 求めることができる.ラグランジュ乗数法に比べ易しく感じられ,さらに意味を理解しながら解け るため,公務員試験や大学院入試などでは,この方法を使って教えるテキストも多い.

3.6 「価格1単位あたりの限界効用が等しくなる」ということから,例3.4の問題(効用関数が u(x, y) = √xyで,財1の価格が3,2の価格が5,消費者の所得が60であるときの効用を最大に する消費量を求める問題)を解いてみよう.

1の限界効用は ∂u

∂xで与えられる.

∂u

∂x =

√y 2x

∂u

∂y =

x

2√y であるから,消費量x,yにおける財

1,2の限界効用M U1,M U2

M U1= 2√yx M U2 = 2√yx である.価格1単位あたりの限界効用が等しくなることから,

√y 2x

3 =

x 2√y

5 となり,これを整理して

y x =

3 5 を得る.これよりy = 3

5xとなる.

効用を最大にする消費量では,予算制約は等号で成立しているはずなので3x + 5y = 60が成り立 つ.よってこれに代入して,

3x + 5 ×35x = 60 となり,6x = 60からx = 10となる.y = 3

5xにこれを代入しy = 6である.

3.7 上記の例において,限界効用の比が限界代替率に等しいことから,消費量x,yにおける財1 の財2に対する限界代替率M RS12は,

M RS12= M U1 M U2 =

√y 2x

x 2√y

= y x

(21)

である.「限界代替率と価格の比が等しくなる」ことから, y

x = 3 5

を得るので,これを用いても同じ結果が得られることが分かる.

演習 3.63.4(効用関数u(x, y) = xαyβ,財1と財2の価格がそれぞれp1p2,所得がM)に おいて,効用を最大にする消費量を「価格1単位あたりの限界効用が等しくなる」ということから 導いてみよ.

(22)

4 価格と所得の変化による消費者行動

前章では,消費者が予算制約のもとで効用を最大にする消費量の組合せを求めることができた.こ れは消費者の需要関数でもある.所得変化や他財の価格変化によって,需要関数がどのように変化 し,需要曲線がどちらに移動するのかを見ることがが,経済分析には重要であった.そこで,ここ では価格変化や所得変化による消費量の変化を学ぶ.

4.1 所得変化による消費の変化

所得変化を図で表す 所得変化による消費量の変化は,予算制約上で無差別曲線を用いて効用最大 化を表した図ではどのように説明できるのであろうか.財1と財2の価格をpx,py,消費量をx,yと し,消費者の所得をM とすると,予算制約はpxx + pyy = M である.このとき財の価格はそのま まで消費者の所得がMに変化すると,予算制約式はpxx + pyy = Mに変わる.

15は,この変化を表している.予算制約式をyの式として表し変化を見るとy = −

px

pyx +

M py

から,y = −

px

pyx +

M

py になることが分かる.予算制約式は,傾きは変わらずに切片だけが変化する ので,平行移動することになるのである(Mが増加すると上に,減少すれば下に平行移動).図15 では,所得M が増加することにより,財1と財2の消費量はx,yからx,yに増加している.

x

y A

㈈1

㈈2

A’

x' y’

15: 所得変化による消費量の変化

上級財と下級財 図15のように所得が増加すると,消費量は増加するのであろうか.確かに多く の財は,所得が増加すると消費は増大するが,中には消費が減少する財が存在する.それは,所得 が低いため他財がその財で代用されているような財である.所得が増加した時に消費が増加する財 を上級財(superior goods)(または正常財(normal goods))と呼び,消費が減少する財を下級 財(inferior goods)(または劣等財(normal goods))と呼ぶ.昔のテキストにはマーガリンが下 級財の代表として書かれていた.マーガリンはバターの安い代用品として使われていたからである. 学生に下級財の例を聞いてみると,カップ麺(所得が上がれば本当のラーメンを食う),ファース

(23)

トフードの牛丼(所得が上がれば高い飯を食う),ユニクロの服(所得が上がれば高い服を買う), ホルモン(所得が上がれば普通の焼肉を食う),などを挙げる.なお,このようなことはテキスト に安易に書き出版されると,「うちの商品を貧乏な人が買うとの学生の食い物ではない!」とクレー ムが来るので,ここだけの話ではあるが.

16は,上級財と下級財の消費量の変化を表している.消費者のがM からMに増加すること により,予算制約式は上方に平行移動し,消費量はA点からAへ変化する.このとき財1の消費量 はxからxに減少し,財2の消費量はyからyに増加している.財1が下級財であり,財2は上級 財である.

x y

㈈1

㈈2

A A’

x y

㈈1

㈈2

A A’

x' y’

16: 上級財と下級財

所得弾力性 所得の変化に対する需要量の変化を表すには,所得弾力性(income elasticity)を用 いる.これは価格弾力性と同様の概念で,所得が1%変化した時に,需要が何%変化するかを表し たものである.ある財の消費量がxであるとき,消費者の所得がMからM + ∆Mに変化すると消 費量がx + ∆xに変化するならば,その財の所得弾力性eI は,

eI =

∆x x

∆M M

= ∆x

∆M M

x で表される.理論での微分による表現は

eI = dx dM

M x

である.所得弾力性が,正のとき(eI > 0)は上級財,負のとき(eI < 0)は下級財となる.

上級財では所得弾力性が小さいと,所得の増減に対し需要の増減が小さい財ということになる. このような財は非弾力的と呼ばれる.上級財で所得弾力性が1より小さい財(eI < 1)となる財はは 非弾力的と呼ばれる.生活のために必要な財(必需品)であれば,所得が少なくても購入しなけれ ばならないし,逆に所得が増えたからといってそれほど購入量が増えるわけではない.主食(パン, 米),生活用水(風呂や食器洗うのに使う),洗剤や歯磨き粉などが相当する.

(24)

これに対し上級財で所得弾力性が1より大きいは,所得弾力性が大きいと考えられて弾力的と呼 ばれる.所得の増減に対し需要の増減が大きく,生活のために必ずしも必要ではない.このような 財(ぜいたく品)は,専門用語で奢侈品(しゃしひん)と呼ばれる.

所得弾力性は,その変化が短期か長期かによっても異なり,地域や年齢に対しても異なる.所得 弾力性においては,具体的な数値を盛り込みたかったが,今回は時間がなくサーベイできなかった. ネットで検索してみるだけでも,いろいろと面白い意見が現れる.例えば,自動車は昔は奢侈品と 呼ばれ,確かに短期では所得弾力性は高く(5を超えると書いてある論文もある)弾力的ではある が,長期的には非弾力的(1.1と書いてある論文もある)で,生活に必要なものであるとされている. 高級車は奢侈品であると予想される.

医療については,いくつかの文献は所得弾力性が負で下級財であるという結果を出している(特 に若い年齢層).所得が低いと病院に行くのをケチるというわけであろうか.

平成18年の生活白書(消費者庁)によると,教育費の所得弾力性は1.3である.消費者庁は「教 育費が所得の伸び以上に増えることが分かる」と書いてある.なるほど,所得弾力性はそういうふ うに読むのか(俺が感心してどうする).この資料によれば授業料等,補習教育,教科書・学習参 考教材については,それぞれ1.11.71.3であるようだ.

4.2 価格変化による消費の変化

価格変化を図で表す 所得変化に対する消費量の変化について学んだので,次は価格の変化による 消費量の変化について考えよう.財1と財2の価格をpxpy,消費量をxyとし,消費者の所得 をM とする.所得と財の価格はそのままで,財1の価格がpxに変化すると,消費量はどのように 変化するだろうか.図17は,この変化を表している.

x

A

㈈1

㈈2

x’

A’

17:1の価格変化による消費量の変化

予算制約式をyの式に変形すると,価格の変化により予算制約式はy = −

px

pyx +

M

py から,y =

ppxyx +

M

py に変化している.予算制約式の切片は

M

py のまま変わらず,傾き

px

py から

px

py に変わる.

価格pxが低下すると傾きが緩やかになり,消費可能集合が大きくなる.すなわち価格が安くなると,

参照

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