Image region
図
3.5:
取得されるフレームデータの構成。左下が読み出し口3.1.3 CCD
におけるノイズCCD
には様々なノイズがあり、その影響でピクセルに蓄積された電荷量に不定性が付く。X
線CCD
においては電荷量が入射X
線のエネルギーそのものを表すので、ノイズによるX
線エネル ギーの情報の劣化はスペクトルのエネルギー分解能の劣化と等価である。したがって、それを防 ぐ、または軽減するための様々な工夫と処理を施す必要がある。ここでは、
CCD
に関連するノイズとその発生要因、さらにノイズを軽減する方法について述 べる。3.1.3.1
暗電流光子が入射していない時も、逆バイアスをかけた
CCD
内には微弱な電流が流れる。この電流 のことを暗電流と呼ぶ。これは主にSi
中の格子欠陥や不純物が半導体の禁制帯中にエネルギー 準位をつくり、そのエネルギー準位を経由して電子自身が持つ熱エネルギーによってSi
バンド ギャップを越え、電導帯へと励起していくことによるものであると考えられている。またこの他 に、SiO 2
との界面に存在する格子欠陥を介在した暗電流もかなり寄与してくる。暗電流のゆらぎ はノイズとしてCCD
のエネルギー分解能を劣化させるため、CCD
を冷却して低温駆動させる ことで暗電流を軽減させるようにする。3.1.3.2
電荷転送損失(CTI)
あるピクセルに蓄積された電荷は読み出し口まで転送される間に格子欠陥等のトラップによっ て電荷の一部が失われることがある。
1
つのピクセルに含まれる全電荷量Q
をN
回転送する際 に損失する電荷量Q lost
は電荷転送損失(CTI = Charge Transfer Inefficiency)
を用いて以下のよ うに表される。Q lost = Q × CTI × N (3.2)
上式から、読み出し口に至るまでにかかる転送回数の多いピクセルほど電荷の損失量が大きいこ とになる。ただし、これは単一の
CCD
チップ内のピクセル同士を比較した場合に言える事であ り、電荷の損失量に直接関わっているのは読み出し口に至るまでの転送距離である。3.1.3.3
読み出しノイズCCD
から信号を読み出す時に生じるノイズである。読みだしノイズは内部信号読み出し時の ノイズと、増幅回路などの読み出し回路によるノイズに大きく分けられる。読みだし時のノイズ としてはリセットパルスによる揺らぎなどが、電子回路におけるノイズとしては読み出し口の初 段FET
による熱雑音や1/f
ノイズ、グランドレベルの揺らぎ、電源ノイズなどが挙げられる。3.1.3.4
電荷残像(echo)
電荷残像とは、あるピクセルの電荷の一部がそのピクセル以降に読み出されるピクセルに見かけ上 加算されることを指す。これは遅延回路を用いた読み出しを行なっている
AE(Analog Electronics)
に特有の現象である。3.1.3.5
光洩れ光子計測モードで動作をする
X
線CCD
においては、可視光などのX
線より低いエネルギー の光子がノイズ源となり得る。通常は可視光遮蔽膜を用いて遮断しているが、望遠鏡の視野付近 に強い光源(
例えば地球の昼側)
があるとCCD
に光が照射してしまうことがある。これを光洩れ と呼ぶ。また、太陽光が衛星内を乱反射して通常とは異なる経路から洩れ込むこともある。通常 は、光洩れの成分も含めたゼロレベルを差し引くことで光洩れの影響をキャンセルさせるが、そ の光洩れ量が激しく変動した場合はその値を評価するためのデータの更新が追い付かず、ゼロレ ベルがずれたり洩れ込んだ光量の揺らぎ自体がノイズとなる。3.1.4
ノイズの見積りHOC region
やVOC region
は、以上のようなノイズを評価するのに有効なデータ領域である。ここでは、
Frame Transfer
型CCD
におけるノイズの評価法を述べる。3.1.4.1
フレームデータの各領域まず、図
.3.5
の各領域のピクセルPH
の生データにどのようなノイズがのるか、PH
のヒスト グラムがどのような分布をするかを説明する。Image
領域のPH
Image region
はX
線を実際に受けるCCD
チップのピクセルデータを反映している。そのPH
データにserial shift register
に転送されるまでに生じるノイズと読み出しノイズが加算される。Frame Transfer
型CCD
の場合、serial shift register
に転送されるまでに生じるノイズとは、Frame Store
領域に転送されるまでにImaging
領域で生じるノイズと、Frame Store
領域に滞在 している間にFrame Store
領域で発生するノイズである。Imaging
領域におけるピクセルの垂直 方向のアドレス(V-address)
によって、Frame Store
領域に滞在する時間が違うため、加算され る暗電流量も異なってくる。図.3.6
にピクセルのV-address
とそのピクセルに加算される暗電流 の関係を示す。また、転送時におけるノイズはピクセルのアドレスによって異なる。光子計測モードにおいては、パイルアップの割合を最小限にとどめるために
1
フレームの露光 時間をできるだけ短くしている。そのため、Image region
におけるピクセルのほとんどはイベン3.1. X
線用CCD
におけるデータ取得・処理37
Image VOC
V-address
I
1dark current
I
0I
0図
3.6:
ピクセルのV-address
と暗電流の関係図。I0:imaging
領域での暗電流、I1:読み出し時
間中にframe-store
領域で発生する暗電流。トの検出されていないピクセルであり、それらがヒストグラムで最も大きなピークをつくること になる。暗電流の項で述べたように、光子が入射していなくてもピクセルには暗電流による電荷 が生じるので、
Image region
のPH
ヒストグラムのピークPH
は、暗電流による電荷に転送・読 み出しノイズが加算されたPH
の平均値に対応する。HOC
領域のPH
HOC region
のピクセルはCCD
のチップ上には存在しない仮想的なピクセルであるため、撮像中に生じる暗電流の影響はなく、
serial shift register
における転送ノイズに読み出しノイズが加 算されたPH
を示す。PH
のヒストグラムもその平均値をピークとしたものになる。このピーク をHOC
領域のゼロピークPH 0 (HOC)
とする。VOC
領域のPH
VOC region
のピクセルはHOC region
のピクセルと同様に仮想ピクセルであるため、露光中のImaging region
において発生する暗電流ノイズの影響はないが、図.3.6
に示したように、1
フ レームの撮像時間にFrame Store
領域で生じる暗電流がPH
に反映される。VOC
領域のPH
は その暗電流に縦転送ノイズと読み出しノイズが加算されたものである。ヒストグラムもこの
PH
の平均値をピークとしたものである。このピークをVOC
領域のゼロ ピークPH 0 (VOC)
とする。また、Image
領域と同様に転送ノイズはピクセルのアドレス毎で異 なる。3.1.4.2
各種ノイズの算出ここでは、
VOC
領域とHOC
領域のピクセルPH
を用いて評価できるノイズの算出法につい て述べる。Frame Store
領域における暗電流HOC
領域とVOC
領域の違いは、露光時間中にFrame Store
領域で発生した暗電流が加算され ているかどうかの違いなので、これらを用いてFrame Store
領域における単位時間あたりの暗電流量
N FS dark
を評価することができる。その評価式は
N FS dark = (PH 0 (VOC) − PH 0 (HOC))
t exp × (gain)
3 . 65 eV (3.3)
図
3.7: X
線用CCD
に55Fe
線源を照射して得られたフレームデータの一部。色が濃いピク セルほどPH
が高い。である。
ここで、
3.65 eV
はSi
の電子の平均解離エネルギー、t exp
は露光時間、gain
は1 channel
に相当 するeV
での換算値。読みだしノイズ
(readout noise)
読み出しノイズ
N read
はP 0 (HOC)
の標準偏差σ HOC
0 として評価される。評価式は
N read = σ HOC
0× (gain)
3 . 65 eV (3.4)
である。
3.1.5 X
線CCD
のデータ処理光子計測モードではパイルアップの割合を減らすように露光させるため、
1
フレーム内のほと んどのピクセルはX
線に起因する信号電荷を含まない暗電流のみの電荷量を蓄積したピクセルで ある。限られたテレメトリーデータ量の範囲内でより多くの有益な情報を衛星から地上に送るた めには、フレーム中に含まれる入射X
線による電荷(X
線イベント)
を蓄積したピクセルのみを 抽出する必要がある。さらに、複数のピクセルに跨ったX
線イベントに対して、隣りのピクセル に洩れ出した電荷量を適切に足し合わせることでデータ量をさらに節約させることができる。この節では、以上のような要求を満たすために行なわれる、
X
線CCD
のデータ処理の手法に ついて述べる。前章で述べたように、
X
線によって作られCCD
に蓄積される電荷(X
線イベント)
は複数個のピ クセルに跨ることがある。その様子を図.3.7
に示す。図.3.7
はX
線撮像用の背面照射型CCD
の 受光面側に55 Fe
線源を置いて一定時間露光した時に得られたフレームデータの一部である。図の 黒くなっている部分がPH
の高いピクセルであり、PH
の高いピクセルのいくつかが2
個以上隣 接しているのが分かる。このような、入射X
線によって作られた電子雲の全電荷、もしくは大半3.1. X
線用CCD
におけるデータ取得・処理39
の電荷を蓄積したピクセルをイベントピクセル、イベントピクセルに隣接し
X
線起源の電子の一 部が洩れ込んだ結果として生じるピクセルをスプリットピクセルと呼ぶことにする。こうしたス プリットピクセルのPH
をイベントピクセルのPH
と適切に足し合わせることができれば、そのPH
から入射X
線のエネルギーを推定することができる。しかし、高いPH
を示すピクセルの中 でも宇宙線等の入射X
線起源ではないものに起因したピクセルもある。従って、フレームデータ からX
線起源のイベントピクセルを抽出(
イベント抽出)
し、さらに複数ピクセルに跨った電荷 量についても正確に数えあげる様なデータ処理をすることで、データ量を大幅に縮小し且つエネ ルギー分解能の良いスペクトルを得ることができるようになる。現在のところ主流となっているグレード法と、開発途上の
fitting
方式という2
つのイベント抽 出・PH
加算処理について以下に述べる。3.1.5.1
グレード方式グレード方式は「あすか」衛星で考案された方式で、「グレード」とはその中で定義されたスプ リットパターンを類型化したものである。この方式では、
event threshold
とsplit threshold
と いう値をそれぞれ適当に設けている。PH
がevent threshold
を越え、さらにそのピクセルを中心 とする3×3
ピクセルでlocal maximum
となっているピクセル(
これをイベントピクセルと定義 する)
を選び出し、その外周8
ピクセルでsplit threshold
を越えるピクセルのパターンを調べる。そして、それがある特定のパターン
(
スプリットパターン)
を示している中心ピクセルをX
線イ ベントとして抽出し、スプリットパターンにしたがって適切なPH
の加算を施す。グレード方式 では、このようなイベント抽出・PH
加算が行なわれる。「あすか」グレードとして定義されたスプリットパターンを図
.3.8
に示す。図.3.8
と比較して 図.3.7
を見てみると、グレード0
、2
、3(4)
、6
のスプリットパターンがあるのが分かる。CCD
チップに一様にX
線 を照射した時、1 frame
の中で各グレードのイベントが全体のイベント数 に対してどの程度の割合で検出されているかを表したものをグレード分岐比と呼ぶ。グレード分 岐比はチップの性質によって異なり、また入射X
線のエネルギーによっても変わってくる。なぜ なら、図.2.7
に示したようにX
線が吸収される深さが異なることと、転送電極までに移動する 距離によって電荷のスプリットの仕方が違うからである。前面照射型CCD
であるXIS
のチップ と、米国のX
線衛星に搭載されている背面照射型CCD
のACIS-S3
のグレード分岐比の違いを 表.3.1
に示す。これらのイベントの中で、通常のデータ解析で用いられるのはgrade 0
、2
、3
、4
grade0 grade1 grade2 grade3 grade4 grade5 grade6 grade7 XIS S0 0.429 0.004 0.172 0.065 0.067 0.005 0.193 0.065 ACIS S3 0.235 0.004 0.286 0.069 0.071 0.014 0.274 0.047
表
3.1: Mn K α 5.898 keV
における全面照射型CCD (XIS-S0)
と 背面照射型CCD(ACIS S3)
のグレード分岐比。である。しかし、表
.3.1
に示した通り、grade 6
は前面・背面ともにX
線イベント全体のかなり の割合を占めており、また加算するピクセル数が多いことによる不定性がgrade 2
、3
、4
に比べ てやや大きいものの、十分なエネルギー分解能を示すスペクトルを得ることができる。したがっ て、grade 6
は地上に下ろすべきデータの優先順位としては、grade 0
、2
、3
、4
に次ぐものとな る。後述するように、明るいX
線源の観測においては、イベント数が多いため、データの中から グレードを任意に選択して加算されたPH
を地上に下ろすことがなされている。この処理方法は経験的に決めた最も単純化されたイベント処理法であり、データ処理に時間をそ れほど要せず、比較的良いエネルギー分解能をもつスペクトルを取得することができる点で優れ