第3章 結果
3.4. 転写制御領域の機能多型候補とターゲット遺伝⼦
3.4.2. プロモーター領域の機能多型候補
3.4.2.1. rs6906175 ( MICA ), rs3132089 ( HCP5 ), rs3130923 ( MICB ) 新たに同定したプロモーター領域における 6 個の機能多型候補の内,rs6906175 ,
rs3132089およびrs3130923の3個は第6染⾊体短腕に存在するHLA領域に位置してい
た(図16).
図16:HLA領域におけるプロモーター領域の機能多型候補
6番染⾊体の乾癬感受性SNPs・機能多型候補の座位およびヨーロッパ⼈集団における
r-squared value.⻘縦線は乾癬感受性SNPs,⾚縦線は機能多型候補の座位を⽰す.
機能多型候補rs6906175は,MICA遺伝⼦(NM_001177519.2)のプロモーター領域に 位置しており,乾癬感受性SNP rs13437088と完全連鎖の関係にあった(r2 = 1.0000)(図 16).この機能多型候補は転写因⼦RESTの結合モチーフ内に位置しており(図17a),
rs3134792 rs13437088 rs6906175 rs3132089 rs3130923
0.031 0.031
0.925 0.876
1.0 0.039
0.032
0.039 0.032
0.899
Window Position Scale chr6:
Human Feb. 2009 (GRCh37/hg19) chr6:31,290,001-31,494,000 (204,000 bp)
100 kb hg19
31,350,000 31,400,000 31,450,000
HLA-B
MIR6891 MICA
MICA MICAMICA
LINC01149 HCP5
HCG26 MICB
MICB MICB Layered H3K4Me3150
-0 _ Layered H3K4Me150 -0 _ Layered H3K27Ac100 -0 _ 100 Vert. Cons
1 -0 _
(P = 1.39e-06)(図15;補⾜図3).CAGEデータに基づくと,転写産物NM_001177519.2
(CAGE_peak_1_at_MICA_5end)はbronchial smooth muscle cellや様々なepithelial cellに おいて⾼発現していた(図17b).
図17:MICA遺伝⼦プロモーター領域の機能多型候補rs6906175 a. 機能多型候補rs6906175の周辺配列と転写因⼦RESTの結合モチーフ.
b. CAGEによって測定された転写産物NM_001177519.2(CAGE_peak_1_at_MICA_5end)
の発現量.縦軸に⾼発現する細胞10種を,横軸に“Percentage of Expression”を⽰す.
各細胞種における“Percentage of Expression”とは,解析したすべての細胞において測 定された全発現量(normalized CAGE counts from all cells)に対する発現量の⽐を表し ている.グラフ中の数値はそれぞれの細胞種におけるTPM(Tags Per Million)を⽰
す.
次に,機能多型候補rs3132089はHCP5遺伝⼦(NR040662.1)のプロモーター領域に 位置しており,乾癬感受性SNP rs3134792と強い連鎖不平衡の関係にあった(r2 = 0.9253)
(図16).この機能多型候補は転写因⼦ARNTとBHLHE40の結合モチーフ内に位置
しており(図18a),実際にARNTはK562細胞株において,BHLHE40はK562および
HepG2細胞株において結合が認められた(表13).この多型は,MICA遺伝⼦のプロモ
ーター領域に位置する機能多型候補rs6906175とは異なり,転写因⼦の結合に対する強 い影響が⽰唆された.ARNTおよびBHLHE40の結合モチーフに基づくと,rs3134792座 位は G がその結合に対して優位であるが,この多型の乾癬に対するメジャーアリルと マイナーアリルはそれぞれGとAであるため,マイナーアリルrs3132089-AではARNT
と BHLHE40 の結合が著しく阻害されることが予想された.GTEx eQTLデータを参照
すると,rs3132089-A の本数は thyroid および sun exposed skin of lower leg において,
HCP5の発現量と負の相関を⽰していた(それぞれP = 5.10e-09,4.05e-08)(図15;補
WebLogo 3.7.1
CT A
G
ATCGTA C
CA TG
GT
C T
CG
ACAGT
TC
TC
CTGACGTACTG
ACG
CAT
TACGTC
GGCT
ACTG
ATCGA
GTCArs6906175 (G>C)
...GGCCCTGGCCGTGCTTATGAA...
REST (MA0138.2)
111.571 98.329 73.292 69.817 64.290 61.008 60.033 58.407 57.367 55.443
a b
⾜図3).CAGEデータに基づくと,転写産物NR040662.1(CAGE_peak_1_at_HCP5_5end)
はnatural killer cellやT cellなど様々なリンパ球において⾼発現していた(図18b).
図18:HCP5遺伝⼦プロモーター領域の機能多型候補rs3132089
a. 機能多型候補rs3132089の周辺配列と転写因⼦ARNTとBHLHE40の結合モチーフ.
b. CAGEによって測定された転写産物NR_040662.1(CAGE_peak_1_at_HCP5_5end)の 発現量.縦軸に⾼発現する細胞10種を,横軸に“Percentage of Expression”を⽰す.各 細胞種における“Percentage of Expression”とは,解析したすべての細胞において測定 された全発現量(normalized CAGE counts from all cells)に対する発現量の⽐を表して いる.グラフ中の数値はそれぞれの細胞種におけるTPM(Tags Per Million)を⽰す.
最後に,機能多型候補rs3130923はMICB遺伝⼦(NM_001289160.1)のプロモーター 領域に位置しており,乾癬感受性 SNP rs3134792 と連鎖不平衡の関係にあった(r2 =
0.8762)(図16).この機能多型候補は転写因⼦TCF3の結合モチーフ内に位置してお
り(図19a),実際にGM12878細胞株において結合が認められた(表13).機能多型
候補rs3130923のメジャーアリル(⾮リスクアリル)はG,マイナーアリル(リスクア
リル)はAであり,TCF3の結合モチーフと⽐較すると,選択性は低いものの,この座 位はT またはAが優位であるため,マイナーアリルでは TCF3の結合が増強すること が予想された.実際に,GTEx eQTLデータを参照すると,マイナーアリル(リスクアリ
...CACTCACGTGACCATC...
rs3132089 (G>A)
WebLogo 3.7.1
G C
ACGTA
C
CA C G
ACT G
TCAGATCBHLHE40 (MA0464.2)
WebLogo 3.7.1
A
C
GA CG T G
Arnt (MA0004.1)
129.964 91.963 71.215 56.409 52.451 46.595 35.329
12.410 9.526 7.961
a b
図19:MICB遺伝⼦プロモーター領域の機能多型候補rs3130923 a. 機能多型候補rs3130923の周辺配列と転写因⼦TCF3の結合モチーフ.
b. CAGEによって測定された転写産物NM_001289160.1(CAGE_peak_2_at_MICB_5end)
の発現量.縦軸に⾼発現する細胞10種を,横軸に“Percentage of Expression”を⽰す.
各細胞種における“Percentage of Expression”とは,解析したすべての細胞において測 定された全発現量(normalized CAGE counts from all cells)に対する発現量の⽐を表し ている.グラフ中の数値はそれぞれの細胞種におけるTPM(Tags Per Million)を⽰
す.
...CGGCAGGTGTG...WebLogo 3.7.1
G A CGTA
CA
G C A
CG
AGC T G
CGTATCGArs3130923 (G>A) Tcf3
(MA0522.1)
8.472 6.812 5.815 5.467 5.117 4.186 4.115 4.094 3.305 3.234
a b
5.467 5.815
6.812 8.472