I. V 一貫作業システム
なお、伐採を積雪期に実施した場合、直後の再造林はできないため、融雪後できるだけ速やかに作 業を行うこととしました。今回は同年5月中旬に、クラッシャによる地拵えと低密度植栽による低コ スト化の試験を実施しました。
写真 I.V.1 下川町有林で実施した全機械化システムによる帯状伐採
1.2 第2回実証試験
プロジェクト2年目の全体試験として、CTL システムによる伐木集材(帯状皆伐)と、クラッシャ 地拵・カラマツ低密度植栽(1,500 本/ha)という一連のシステムについて実証調査を実施しました。
時期は、平成 26 年9月第4週、1年目の実証地に近い下川町渓和のトドマツ町有林(傾斜 10~15°)
で行いました。
この作業では、ハーベスタによるトドマツ伐採→フォワーダによる集材→クラッシャ地拵→カラマ ツコンテナ苗の低密度植栽が、連続して一連の工程として実施されました。伐採と造林の工程の重な り合い(同時進行)はほとんどなく、ほぼ集材が終了した段階で、クラッシャによる地拵作業が開始 されました。このことは工程間の独立性を保つことでもあり、「手待ち」をなくす上でも望ましいこと と考えています。
ハーベスタは Komatsu PC138US-10+ヘッド 350.1、フォワーダは IHI F801 であり、国内で利用数が 徐々に増加している新鋭機械です。また、クラッシャは、イタリア Seppi 社製のエクスカベータマル チャ Mini-BMS125 に、枝条整理や植栽スポットの耕耘が可能になるように2本爪レーキを加えたもの でした。このクラッシャは切削刃が強化されており、石礫にあたっても破損することがほとんどなく、
また、レーキによる枝条の片付けができることから、オペレーターには比較的高評価でした。
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写真 I.V.2 新しい造林システムの実証試験
1.3 第3回実証試験
3回目の実証試験は2回目と同じ一連のシステムについて、約 20°の中傾斜の林分において実行し ました。場所はこれまでと同様に下川町渓和のトドマツ町有林で、時期は平成 27 年7月第1週です。
この試験期間は雨天が続いたため、特にフォワーダ集材による林地攪乱が懸念されました。今回設定 した車両走行にはやや厳しい 20°程度の傾斜条件になると、CTL システムは天候に影響を受けやすい ことが改めて明らかになりました。車両系機械の林内走行性能向上が図られ、軟弱地盤でも林地を痛 めずに走行できる能力の必要性が強く感じられる試験となりました。
クラッシャの試験については、胆振管内厚真町でも実施しました。クラッシャ地拵えでは、伐採後 の枝条等を破砕して地拵することで、省力化が期待されているばかりでなく、破砕されて地面に散乱 したチップのマルチング効果によって下層植生の成長が抑えられ、下刈り作業を一部省略できる効果 も期待されています。それらのことについては、今後もデータを取り続けて、明らかにしていきたい と考えています。
写真 I.V.3 2回目、3回目実証試験で利用した伐採システム
Komatsu 350.1 ハーベスタ作業
上り傾斜勾配 20°程度まで安定し た作業が可能である。
IHI F801 による集材作業 国産の専用フォワーダとして、比較的 リーチの長い積込みグラップルを装備 しており、下り方向の集材作業では高 効率な作業が可能である。
帯状皆伐作業後のクラッシャ作業 皆伐直ぐに、クラッシャ作業に取りか かった。下の作業では、まだフォワー ダ作業が続いている。
I. V 一貫作業システム
1.4 プロジェクトによる一貫作業システムの生産性とコスト 1) 伐採システム
試験を通じて 20°までの傾斜地で、ハーベスタ・フォワーダ各1台を使用する CTL システムの 適用可能性が実証できました。このシステムは全て機械化された伐出システムであり、安全快適 で、高い生産性が期待できます。帯状皆伐による伐採試験からは、林内集材距離を 100~500m 程 度とした場合、目標とした生産性は 18 ㎥/人日を大幅にしのぐ数値を得ることができ、このこと はとくに作業道の開設効果が大きいと考えられました(図 I.V.2)。
図 I.V.2 CTL による帯状伐採の生産性
付帯作業を含めても、CTL システムは旧システムの4倍の生産性となっています(図 I.V.3)。 また、機械作業が可能であれば、20°近い中傾斜地でも生産性はあまり変わりません。なお、付 帯作業とは、グラップルによる林内走行路の整理や冬期の根堀などです。
図 I.V.3 CTL による帯状伐採のコスト
旧システム(チェーンソーシステム)と比較して、CTL システムでは 1,700~2,200 円/m3安くな っています。この結果を1ha 当りに換算すると 63~89 万円/ha の削減となります。
0 10 20 30 40
旧システム 緩傾斜地 カラマツ…
緩傾斜地 トドマツ…
中傾斜地 トドマツ…
労 働 生産性 (
m3/人 日)
目標 18m3/人日
0 1,000 2,000 3,000 4,000 5,000
旧システム 緩傾斜地 カラマツ
H.25緩傾斜地 トドマツ
H.26中傾斜地 トドマツ
H.27伐 採 コスト (円
/m3)
管理費等 付帯
集材・巻立て 伐木造材
2. クラッシャ地拵えと造林システム
地拵えの生産性は機械化によって向上します。刈り払い機を利用しての地拵え生産性は 0.06ha/人 日であるのに対し、油圧ショベルベースのクラッシャでは 0.3ha/人日、平地用のハイパワークラッシ ャを利用できれば2ha/人日のデータが得られています(図 I.V.4)。なお、実証で使用したクラッシ ャは、林業の現場で最も一般的な 0.5m2クラス油圧ショベルをベースマシンとしていますが、ややパ ワー不足が見られました。そのため枝条量が多いところでは、クラッシャ地拵え作業能率は低下しま した。このことはベースマシンのハイパワー化により、例えば 0.80m3クラスを利用できれば、生産性 は改善できると期待できます。現状では、クラッシャの減価償却費の掛り増しが発生し、大幅な低コ ストとはなりません(表 I.V.1)。しかし、下刈りの省略も含め造林・保育作業の革新的な手法と考え られます。
図 I.V.4 クラッシャ地拵え作業効率
表 I.V.1 地拵え作業のコスト
クラッシャ地拵えを実施すると、地表に枝条等の破断チップ層が形成されます。このチップ層は、
地表条件によっては下層植生の再生抑制効果があり(図 I.V.5)、結果、下刈り作業の省力化につなが ることが期待できます。現状では、このことがクラッシャ地拵えの最大のメリットとも考えられます。
さらに、クラッシャ地拵実施後に低密度植栽試験を行った結果、F1およびカラマツ大苗が、植栽初 年度から雑草高を十分に上回ることが明らかとなりました。これにより下刈りコスト削減が見込まれ
作業時間
時間/ha クラッシャのみ クラッシャ+レーキ 造林単価表
地拵え 21 21
根切り 0 4
補正刈り 0 0
コスト円/ha (固定費・変動費込み)
地拵え 188,497 188,497 177,607
根切り 0 37,516
-補正刈り 0 0 14,512
計
1 8 8 , 4 9 7 2 2 6 , 0 1 3 1 9 2 , 1 1 9I. V 一貫作業システム
図 I.V.5 クラッシャ及びバケット地拵え 1 年後の雑草木再生量